第6世界転生記   作:ホリイ

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7話 ヨタカは今も歌う4

『ねえ、これ依頼終わったってこと?』

 

 ブドリの工房で、サイバーNに非常によく似た筐体を見たサザンカはサブボーカルマイクでそう言った。

 彼の年齢は50代後半、ナイトバードに一致している。

 

『それは早計だよサザンカ。』

 

 しかしスミスがそれを制する。

 彼は常に冷静だった。

 

『ナイトバードは工作員で、技師じゃない。盗んだのもデータだ、彼にサイバーデッキを自作する能力はないだろうね。』

 

 まあ無関係とは思えないけどね…、そう続けると、スミスは何事もないようにブドリに話しかける。

 

「我々はある方の依頼で犯人を捕まえたいと思っています。あなたは被害者の遺品を預かったとか。それを見せていただいても?」

「ああ、あと犯人の心当たりとかねえかい?」

 

 スミスとジェイムズが続けざまに質問する。

 彼はまずジェイムズの問いに不機嫌そうに答えた。

 

「心当たりなんてあったら街の連中がリンチにしてるよ。」

 

 彼は安そうなタバコをくわえて火を付ける。

 

「若い娘が、ひどい話さ。事件以来街のモンが怪しい輩に目を光らせてるが、兄さんたち以外にそんな連中は一人も見当たらねえ。」

「なるほど、内部犯の可能性もあるってことか?」

 

 ブドリはジェイムズのその一言に眉をしかめた。

 

「おい、あんたら。聞かなかったことにしてやるから、ここ以外では滅多なことは言うんじゃねえぞ。」

『ジェイムズ、彼は街の中に犯人はいない、と思っている。合わせてくれ。』

 

 スミスがジェイムズに指示を出す。

 ジェイムズはうなずいてブドリに謝罪した。

 

「すまねえ、言い過ぎた。忠告感謝するぜ。」

 

 そしてブドリはガレージの奥に向かうと、収納から丁寧に保管した遺品を取り出して、作業台に広げてくれた。

 それはハンドバックと護身用のホールドアウトピストル、安物のコムリンクに化粧道具など何の変哲もないものだった。

 安い香水の香りがまだ残っている。

 

「ん…。」

 

 その時、遺品を見ていたロータスがなにかに反応した。

 品物を手に取るとその匂いを嗅ぐような仕草をする。

 

「コムリンクに何か?」

 

 サザンカがロータスに聞いたが彼女は首を振った。

 

「違う、昔よく嗅いだ匂いがする…これは汚染排水。下水の匂い。」

 

 サザンカは意外に思った。

 ロータスは高額なサイバーとバイオウェアを体に入れ、サイバーデッキまで保有している。

 彼女の体にはとんでもない大金がかかっているのだ、元企業の実働部隊辺りではないかと思っていた。

 

「ふむ、遺留品を見せてもらいましょう。サザンカ、オーラリーディングを頼めるかい?」

「ええ、もちろんよ。」

 

 そしてスミスはまるで警察の鑑識のように遺留品を確認しだした。

 ライトを当て、細かいところまで観察している。

 そしてサザンカは霊視を行った。

 それは持ち主の、殺されたときの感情の発露を見出すこともできる。

 しかし。

 

「驚愕と、恐怖があるけど…すごい薄い。これは、多分一瞬で殺されたのね。」

 

 ついでに彼女はブドリを霊視していた。

 それによると彼はマンデイン(非覚醒者)で、データジャックを入れているようだが、他にウェアはない。

 スミスの言う通り、工作員かどうかは怪しいところだ。

 

「指紋や痕跡も何も残ってない。サザンカの観たところを合わせると、ホシはプロだろう。一瞬で綺麗に殺している。苦しみは、少なかっただろうね…。」

 

 スミスの言葉にブドリは渋い顔をした。

 

「……プロ…。」

 

 しかし彼は気を取り直してサザンカたちに説明する。

 

「遺留品はここにあるので全部だ、死体はすぐそばにある食堂の裏手で見つかった。浮浪児のガキどもが見つけたんだ。」

 

 ブドリはスミスのコムリンクにデータを送信した。

 恐らく発見した場所だろう。

 

「気になるなら行ってみな。」

 

 そうね、とサザンカは考えた。

 現実世界では現場100遍という言葉があった。

 そこには行くべきだろう。

 だが、ロータスが突然言い出した。

 我慢できなかったのだろう、いやよくここまで我慢したというべきか。

 

「ん、あれってサイバーN?」

 

 それは何の修飾もない直球だった。

 ロータスの言葉にブドリは面食らったような顔をする。

 

「ああ、あれか?あれは爺の自作機だ。ロクな性能もねえよ、あんなのよりシアワセのサイバー5でも買うんだな。」

「自作機にしては出来がよく見える。触らせて欲しい。」

 

 食い下がるロータスにブドリは機嫌を悪くしたようだ。

 

「話は終わりだ、とっとと行け、仕事のじゃまだ。」

 

 露骨に一行を追い出しにかかるブドリ。

 そこで意外にもスミスがロータスの言葉にのった。

 

「シアワセならツテがありますね。もしよければ紹介しますが。雇っていただけるかもしれませんよ?」

 

 ブドリはスミスの言葉にカッと目を見開くと大声を上げる。

 

「おめえらは殺しを調べに来たんだろうが!さっさと行け!塩まくぞ!」

 

 これはダメそうだ。

 サザンカは皆に出ていくことを提案する。

 そして彼らはカッカと興奮するブドリを置いてガレージを出た。

 サザンカはスミスに疑問をぶつけた。

 

「スミス、なんであんなことを言ったの?」

「ちょっと気になってね、カマをかけたんだが、あんなに反応するとは思わなかった。」

 

 彼は苦笑した。

 

「多分彼は、元企業人なんだろうね。そして企業に戻るつもりはないようだ。」

「ナイトバードでは?」

「本人ではないと思うけど、何か知っているかもね。重要人物だ、センサータグを置いてきたよ。見つからないといいが。」

 

 センサータグはいわゆる盗聴器的なものだ。

 サザンカは気づかなかった。

 彼のパーミング技能はかなり高いようだ。

 そしてガレージを出たサザンカは、大きな声に気づいた。

 

「だからねえ!この事件は私達で解決するべきでしょ!」

 

 ぎゃーぎゃー言っているのはイローナだった。

 マタがなだめているが、聞く様子はない。

 

「まだやってたのか。」

 

 ジェイムズが呆れたようにいうが、それにはサザンカも同意だった。

 その時、サザンカは視線を感じた。

 ブドリの家の路地の向こうだ、彼女が目の端で見ると、そこには小さな小汚い浮浪児がいた。

 サザンカたちをじっと見ている。

 

『スミス。』

『ああ、気づいてる。ふむ、第一発見者かな。話を聞いてみよう。』

 

 しかし一行が気づいたと見るや、その浮浪児は踵を返して路地の向こうに走り去った。

 

「あー、逃げたか。どうする?」

「追ってみよう。どうも気になる。」

 

 ジェイムズの問いにスミスが答えた。

 そして彼らはその浮浪児を追いかける。

 しかし素早い、撒きにかかっている。

 

「ガキのわりにえらく尾行なれしてないか!?」

 

 狭い場所に無理やり体を押し込むジェイムズが呆れたように言った。

 結局彼らは見失ってしまう。

 

「まいったね、見失ったよ。ふーむ探偵としての自信を失うな。」

「名前だけの探偵でしょうに…。」

 

 サザンカがツッコミをいれる。

 しかしロータスが目ざとく声をあげた。

 

「向こうの通り、子供の声がする。多分物乞いをしてる。」

 

 ロータスに導かれて向かったのは食堂の近くの通りだった。

 偶然にも、いや必然かもしれないがそれはメリッサが殺された現場だった。

 数人のストリートチルドレンが通行人に物乞いをしている。

 

「旦那ぁ!クレッドか食い物恵んでくれよ!」

 

 ほとんど無視されている。

 だが彼らの前で恐ろしいお人好しが少年たちにソイバーを配っていた。

 あれ、知った顔だ。

 

「キャロルじゃない…、何であの子が。」

 

 それはサザンカのコンタクトのナイトエラントの隊員だ。

 アデプトで、SWATに所属していたはずだが、巡回警察の制服を着ている。

 施しをする彼女にペアらしき警官が呆れた顔をしている。

 

「変わったナイトエラントだね?」

 

 スミスも呆れた表情をしている。

 サザンカはまあ、あの子の性格ならやりそうだけど…と思いながら彼女たちが立ち去るのを待った。

 そして、浮浪児に近づくと、さっき彼らを撒いた少年が肩で息をしていた。

 サザンカたちをみると嫌そうな顔をする。

 

「うわ、来たよ…。」

「つれないこというなよ、坊主。とって食おうってわけじゃない。」

 

 だがトロールに追いかけられれば逃げるのは当たり前かもしれない。

 

「まあまあ、そんなに怖がらなくてもいいよ。」

 

 スミスが笑顔で話しかける。

 

「嘘だあ!とって食いそうな図体してるぜ!」

 

 サザンカは少年のものいいに苦笑する。

 だがその時、ロータスがサブボーカルマイクで皆に話しかけた。

 

『この少年たち、あの匂いがする。別におかしくはないけど、下水の匂い。』

『ふむ、了解したよ。』

 

 そう言うと、スミスは少年たちの前に進み出て、懐からクレッドスティックを取り出す。

 

「君たちにとっていい話だよ、僕らがするのは。」

 

 少年たちはクレッドスティックを見ると目の色を変えた。

 

「おっさんいい人!?」

「君らの態度次第ではね。」

 

 彼はどうやらこういった場合に備えて少額の新円が入ったクレッドスティック(電子マネーの入れ物)を複数持っているようだった。

 

「これには1個100新円入ってる、いいかい100新円だ。」

 

 え、そんなに!?とサザンカは思った。

 なにしろ彼女がミルクに支払った情報料が100新円だ。

 まあ、もっとも忠誠値6のコンタクトなら、ゲームマスターによっては無条件で無料にしてもおかしくはないのだが。

 

「くれー!」

「くれくれー!」

 

 餌を欲しがる鯉のように子どもたちが群がる。

 スミスは彼らをあしらうと続けた。

 

「この辺りで人殺しがあったのは知っているね?女性が殺されたんだ。」

「うん、知ってる知ってる。」

「そこの路地で死んでたんだ!俺たちが見つけたんだぜ!」

 

 スミスはフェイスらしく彼らから死体を見つけたときの状況について聞き出している。

 そしてその匂いをどこで着けたのかも。

 

「匂い?」

 

 少年たちは自分たちの服をクンクンと嗅ぐ、だがどうやらわからないようだ。

 鼻が慣れてしまっているのだろう。

 そのとき、サザンカは、メリッサの残留思念を見るつもりで霊視を行った。

 

 そして気づいたのだ。

 

『楽しくなってきたわね。』

 

 シロガネが、口角を釣り上げる。

 それはサザンカのそれと全く一致していた。

 

「あん、どうしたサザンカ。」

 

 突然笑みを浮かべたサザンカにジェイムズが気味悪そうに聞く。

 

「大したことじゃないわ、後で話す。」

 

 サザンカは霊視で周囲をみた。

 

 ロータスからはほとんどエッセンスが感じられない、大量のウェアを入れている証拠だ。

 ジェイムズは覚醒者だ、魔力が6もある。

 スミスは置いておこう。

 

 そして、少年たちからは

 

 

 ロータスと同様、ほとんどエッセンスを感じなかった。




あと3話くらいかかりそうです
1セッションをSS化すると結構長くなるんですね
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