第6世界転生記   作:ホリイ

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9話 ヨタカは今も歌う6

 そこはドヤ街の真ん中を横断する小さな水道だった。

 以前は用水路として使われていたのだろう、だが今は生活排水と工場排水の通り道となっている。

 例の下水臭が強く漂っていた。

 

「ん、マップは入手した。ドローンは戻らせる…これ以上進ませても壊されるだけ。」

 

 ARで下水が流れ込む地下の調査を行っていたロータスが言う、やはりイローナはジャンク屋を訪れていなかった。

 コムリンクにも応答しない、電源が切られていた。

 

『いやいや、この先は魔境だね。』

 

 そう報告するのはサザンカが召喚した大気の精霊だ。

 すでに時間はブドリの家を飛び出してから40分はたっている。

 彼らは即時突入を選ばなかった。

 あまりに危険すぎると判断したのだ。

 

『だがお探しのお嬢さんは見つけたよ、迷路の奥に建物があった。その中で倒れていたよ、周囲には君たちの大好きな武器を持った人間が、そうだね6,7人いたかな。』

「武器?つまり銃のこと?」

『そうそう、そこのお嬢さんが持っているのと似ているね。』

 

 精霊はロータスに風を送った。

 彼女のショートカットの黒髪が揺れる。

 ロータスはスリングで、アレス・アルファを吊るしていた。

 それは非常に厄介な話だった、恐らく相手はアサルトライフルを装備しているということだ。

 その銃種は戦場の花形で、制圧射撃とフルオートをされたなら回避に特化したサザンカでもかわし切る自信がなかった。

 しかしロータスは気にせず続けた。

 

「恐らくそれはレンラク・シティサービスのポンプ場。そして追加情報、レンラクの事業所にいたレンラク・サムライの部隊がいなくなっている。ここに向かっている可能性大。」

 

 サザンカたちの調査結果を聞いて、ブドリとマタが色めき立つ。

 彼らも同行していたのだ。

 

「おい、爺さん無茶すんな。彼女は俺たちが助け出す、ここで待っていろ。」

「何を言う、イローナは俺の娘だ!」

 

 ジェイムズの忠告にしかしブドリは首を振った。

 仕方ない、走って引き離すか、そうサザンカが思った時、予想だにしない声がかかった。

 

「……いたぞ!あいつらだ!」

「おや?」

 

 それはこのドヤ街の住民たちだった。

 手に手に簡単な即席武器を持ち、血気だっている。

 

「ブドリさん!そいつらだ!浮浪児のガキどもが、事件の日に見たと言ってたんだ!」

「な、何を言ってんだおめえら?」

 

 スミスが肩をすくめる。

 

「ふむ、アジテーターとしての技能も優秀なようだね。あの子供らは。」

「感心してる場合じゃないでしょ!?彼らと戦うわけにはいかないわよ?」

 

 スミスはまあ任せてくれと言うと、かなり改造されていると思しきSCKのモデル100サブマシンガンをロータスに預けて彼らの前に進み出た。

 

「私達が娼婦を殺した?とんでもない、私達は犯人を探しに今日はじめてこの街にきたのですよ。」

 

 彼は腕を広げて朗々と話しだした。

 口調、表情、手の動き、恐らく全てが計算されている。

 

「浮浪児が私達のことを触れ回っていたといいましたね、では聞きますがその浮浪児はいつからこの街にいました?」

「な、何を言ってる?」

 

 彼は構わず続けた。

 

「どこから来たのかご存知で?顔見知りですか?"よそもの"が紛れていないと、本当に言えるのですか?」

「………。」

「彼らこそが真の犯人です。彗星の影響を受けた、子供に紛れるのが得意なクリッター。それがその正体なのですよ。」

 

 サザンカは呆れた。

 20世紀のハレー彗星はただの天体現象だった。

 だがこの覚醒した21世紀で、それは世界に大きな影響を現した。

 子供に紛れるクリッターの出現もその一つだ、だがそれをこの場に使うとは。

 まあ、企業の工作員と言うよりもわかりやすく、後腐れないのも事実だ。

 

「昔からいたよな?」

「いや、でも顔ぶれなんて…。」

 

 人々はスミスに完全に惑わされていた。

 武器をおろし、口々に言い合う。

 

「ブドリさんにマタさん、彼らをまとめていただけますか?我々はその間にご息女の救助に向かいましょう。」

「そうですな、私とブドリ殿でなんとかしましょう。皆さんはイローナを…!頼みます。」

 

 マタはスミスの提案にうなずいた。

 ブドリも渋々了承する。

 実際彼らがこの場を収めねばサザンカたちは突入することができない。

 

「まったくひどいことをしますね、煽動家め。罪もない街の人々を操るとは。」

「あんたら、頼む。娘を…助けてくれ。"あれ"は、娘の体の中にある、助けてくれたら渡すのを約束する!」

 

 ブドリが言ったそれは、恐らくこのランの目的物だ。

 結局やはり、彼は知っていたのだ。

 

「ご心配なさらず、娘さんは必ず貴方の下に戻します。」

 

 スミスはブドリの肩に手を置くと、励ますように力強く言った。

 一見感動的な風景だが、サザンカは内心呆れていた。

 スミスは必要があれば眉一つ動かさず女子供を殺す男だ。

 まあ、必要がなければやらないだけマシなのかもしれないが。

 

「じゃあ行きましょう、レンラク・サムライの応援が来る前にイローナを取り戻すのよ!」

 

 サザンカの呼びかけに、チームの全員が頷く。

 訂正する、一人を除いて。

 

「ああ、僕は行かないよ。」

「はあ?貴方何いってんの?」

 

 それはスミスだった。

 今までの感動的な風景はなんだったのか。

 

「フェイスの僕が荒ごとをするわけがないだろう?バックアップをさせてもらうよ。」

「何を言って…バックアップ?」

 

 すると何かを察したロータスがスミスの前に進み出る。

 

「無茶はしないで。」

「僕は危険は嫌いだからね、安心してくれ。"危ないこと"はしない。」

 

 彼らはうなずきあい、そしてそれぞれの道に進みだした。

 

◎◎

 

 そこは打ちっぱなしのコンクリートと、機械類が並ぶ殺風景な場所だった。

 目的のポンプ場だ、汚染水を送るポンプの音がこだましている。

 

『ハチドリより各雛鳥へ、お客さんの来場だ。フチの流儀を教えてやろう、各員の健闘を祈る。』

 

 その通話を送ったのは浮浪児たちのリーダーと思われた整った顔の少年だった。

 無邪気そうな表情はすでになく、冷徹な視線が、監視カメラのARを見つめている。

 その映像には、サザンカたち3人がポンプ場に突入してくるのが写っていた。

 なお、ハチドリとは『よだかの星』において、よだかの弟だった。

 

「前方の遮蔽に子供姿が3名!装備はヤマハ・ライデン!」

 

 叫ぶサザンカ、彼らは隠密を捨てていた。

 どうせバレている。

 雛鳥たちが装備するのは日本製の高性能なアサルトライフルだ。

 彼らは完全にサザンカたちを待ち受けている。

 位置が悪い、サザンカが範囲魔法を放っても、遮蔽の影に隠れられてしまうだろう。

 

「俺が行く!」

 

 そう言ったのはジェイムズだった。

 アーマージャケットをまとった彼は3つの銃口に向けて突進した。

 まるで無策だが、そうではない。

 

「えっ!?」

 

 雛鳥の一人、少女の外見をした工作員が驚愕の声を上げる。

 ジェイムズはすさまじい速さだった、人の出せるそれを超えている。

 それはサザンカの精霊が彼に付与した『移動のパワー』だった。

 

「おらよっ!」

 

 遮蔽を飛び越したジェイムズのぶちかましがその少女に直撃した。

 あれで無事で済むはずがない、だが恐るべき光景がそこに現れた。

 身長130センチほどの少女が、3メートル近いトロールの体当たりを、受け止めたのだ。

 大きなダメージを負っているが、意識はあり、倒れてもいない。

 

「なんだと!?」

 

 ジェイムズが驚愕する番だった。

 彼は相手が人体改造の粋を尽くされた化け物であることを忘れていたわけではない、だが、それでも"かわいすぎてうてなかった"のだ。

 それは意志力の代わりに、防御に魅力を使う資質だ。

 ジェイムズは、無意識に手加減してしまったのだ。

 

「処理する。」

 

 すると両隣の少年二人がジェイムズに向けてアサルトライフルをフルオートする、ジェイムズはずたずたになって死ぬと彼らは思ったろう。

 だが。

 

「!?」

 

 ここには化け物しかいないのだ。

 ジェイムズはかすり傷しか負っていなかった。

 ダメージ抵抗にエッジを使ったのかもしれない。

 

「ふん、あの虫野郎のパンチに比べれば大したことはないな。」

 

 ジェイムズはタンクとして十二分に仕事をした。

 一番厄介なのは制圧射撃をされることだった。

 そうすれば進むだけで一苦労だったろう。

 

電撃(ライトニング・ボルト)!」

 

 サザンカがジェイムズを撃つために体を晒した少年に、単体遠距離攻撃魔法を放った。

 相手にメイジがいないのが幸いだった、彼はそれに抵抗できず、ボロボロになると倒れ伏す。

 

「あなた達は違う、私の、弟たちとは!」

 

 もう一人の少年はロータスが仕留めた。

 彼女は射撃の名手だ。

 そしてサザンカも知らない銃を扱う格闘技を習得していた。

 彼女の放ったAPDS弾(装甲貫通力の高い弾丸)は少年の頭部を貫通すると、さらにその向こうにいた少女を叩きのめした。

 『スルー・アンド・スルー・アンド・イントゥ』という技法だ。

 

「寝とけ…!」

 

 そして転倒した少女にジェイムズがトドメの膝打ちを行う。

 彼女は気絶した。

 この間わずか2秒。

 それが、ランナーたちの戦いだった。

 

「進みましょう!」

 

 サザンカの声にうなずき、彼らは通路の先の部屋に向かう。

 精霊の話では、そこにイローナがいるはずだった。

 残りの敵も。

 

「はあ、卒業テストのつもりが、これじゃボクのキャリアがやばいね。」

 

 室内にはリーダーの少年、ハチドリがいた。

 その周囲には、戦闘服に身を包んだ大人の体を持ったものが3人、そしてサザンカの瞳は、彼女に精霊が一体隠れているのを教えてくれた。

 

「気をつけて、メイジが…!?」

 

 だがそれ以上言うことが出来なかった。

 先頭で部屋に入った瞬間、彼女の背後で金属製のドアがすさまじい勢いで閉まり、ロックされたのだ。

 

「サザンカ!?」

 

 彼女は孤立した。

 敵は4人と1精霊。

 おそらくデッカーの仕業だろう、絶体絶命だ。

 

「まずはメイジから殺せ…君がメイジだろう?」

 

 ハチドリが笑う、しかし彼はすぐその笑みをかき消さざるをえなかった。

 信じられないものを見たからだ。

 

「お前…なんで笑っている。」

 

 サザンカは、答えた。

 

「なんでかしら?私もわからない。でも、顔が勝手にこうなるのよ。」

『サザンカ、導師精霊として言うけど、嘘を吐くのはよくないわ。』

 

 シロガネはとても邪悪な笑みを浮かべていた。

 

『そうね。ペナルティは?』

『勘弁してあげましょう。』

 

 彼女は、この状況をとても楽しんでいる。

 

『感謝するわ。』

 

 そしてサザンカの体から、他を圧倒する、膨大な魔力が吹き出した。




次話、多分ヨタカ編最終話
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