世界を作り直した後の碇シンジの妹で姉で叔母な綾波レイと、婚約者マリ   作:明月卿

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第2話も書いてないのに最終話です。
シンジの死と、その後のマリの行動についてのものすごく頭の悪い与太話です。
暇つぶしに楽しんでいただけたらそれに勝る喜びはありません。
この間を埋める話を、今後投稿していきます。
また、アイディアを使わせてくださった磯谷むつき@six_zero様と槙島@anata1006様に心から感謝いたします。

なお、pixivにも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15837202


最終話:悪魔とユダとハルマゲドン

『ディスカバリー01喪失事件捜査資料 BM-03(特定秘密)』

 

3月8日、京都大学医学部付属病院第3病棟204号室にて盗聴した記録

 

ああ、もう苦しくはない。

 

君と過ごしたこの半世紀、本当に幸せだったよ。

 

子供たちももう巣立った。長男と次男が仲悪かったのには参ったね。二人とも僕の両親に似たのか農学部に進んだのに。専門は羊と小麦で。

 

アスカも、綾波も、カヲル君も、皆もう先に逝ってしまった。残されたのは、僕らだけか。

 

あの時一人きりで消えていくはずだった僕を助けてくれた恩を返せないまま、君を一人きりにしてしまうのが本当に辛いよ。

 

「すぐに後を追う」なんて、嘘言わなくていいから。

 

 

 

だって君、若返ってるじゃないか。

 

 

 

慌てないでいいよ。君がそうだって、薄々分かってはいたんだ。ごめんね、今まで無理をさせて。

 

でも嬉しいよ。

 

君はその姿で、僕を繰り返される運命から解放してくれた。何年も土の中に閉じ込められた幼虫から、自由にはばたける蝉に。ほんの数日だとしても。

 

…逆の状況で「そんな顔しないで」っていわれたことあったな。うん、それは無理だよね。

 

僕の事なんか忘れて、また自由に生きてくれよ。

 

嫌だって?

 

そうだね、僕も君が他の男と付き合うのなんて死んでも、いや死んでからもいやだな。

 

最後に、またその胸で僕を抱いてくれ。初対面の時のように、遠慮無く。

 

ああ、いい気分だ。

 

やっぱり…僕は日本人で仏教徒だから、死後の裁きなんかより、輪廻転生を信じたいな。

成仏なんてできない。僕がいなくなっても、僕の君への執着はなくなりそうにないからね。

 

だから、約束するよ。必ず君を…

 

『ディスカバリー01喪失事件捜査資料 E-8-9-10-11-12(特定秘密)』

 

同年7月21日、碇シンジの公的な葬儀を終えた晩に記されたと思われるノートの断片

 

 夫…いや、もう「ワンコ君」でいいだろう。彼の葬儀は葛城君や鈴原夫妻等多くの友人知人が集う盛大なものだった。ワンコ君が生前多くの人と関わり、愛されていたことは確かにありがたく思う。それでも、私は彼らへの自分の冷淡な思いに、自分で驚いていた。中には自分が産んだ子供や孫までいるというのに。

 

 ユイさん、冬月教授、ゲンドウ君

 

 リリンの知識がどこまで進んだか調べようと潜り込んだ研究室での彼らとの出会いの前のように、私は全てのリリンを平等に扱うようになっていた。誰をも愛するということは、誰も愛さないと同じ、退屈だ。

 

 「知識」と言えば、アステロイド・ベルトで建造されていた大型無人外宇宙探査船の2号機がようやく完成したという。1号機が事故で消滅したので一度は計画が頓挫しかかっていたが、めでたいと思う。知り合ってすぐの頃、コンパで酔っぱらったユイさんが、たった一人でもそういうのに乗り込んで人類が滅んだ後でも生き続けて旅をするのが夢だ、などと語っていたのを思い出す。

 

 また、そういう出会いもあるかもしれない。

 

 ワンコ君は死んだ後にも、必ず、と約束を残してくれた。そんなものが当てになるわけないと頭では分かっていても、気を抜くとどこかでその約束に私の感情はすがってしまっている。

 死んでからも約束を果たしたりできるのだろうか?

 そればかりは、死んだことがないから分からない。

 

 とにかく、日が昇りきる前にここを出て旅に出よう。

 そういえば、形見として持っていこうと思っていた、ずっと彼が大事に使っていたセーラーの万年筆はどこだろう。ゲンドウ君が、ワンコ君に就職祝として贈ったものだという。彼はこっちではいいパパで、私にも親切な義父だった。

 

 『勧誘』

 

 「中隊長がよく惚気ていたわ。貴女のその、矢鱈目立つ良く揺れる部分が大好きだって。なのに、なんで幼くなったのかしら?」

 

 「君の方こそ顔に似合わずに、ある筈のものが無い、ってのは有り過ぎるより目立つニャ」

 

 中隊長の万年筆を預かっている、とのメールに呼ばれて、なんの気まぐれか12歳程度の痩せた少女へと外見を調整したマリが赴いた池袋の中華料理屋に居たのは、遠い昔に数度見かけた覚えのある、全く見かけの変わっていない少女だった。

 数十年前からの名物という無暗に辛い汁なしタンタンメンの丼から顔を上げると、未成熟な少女はハンドバックからセーラーの万年筆を取り出し、マリに渡した。

 

 「盗んでしまって本当に御免なさい。これ、中隊長の家紋を刻んだ特注品なんでしょ?」

 

 「普通の既製品よ。…どうしてかしら。これを盗まれたよりも、それを食べている方が君に腹が立ってきたわ」

 

 「…あなた疲れてるんですよ」

 

 「疲れてるから帰る」

 

 席を立ち背を向けたマリに、ほむらはいった。

 

 「M78星雲」

 

 「…何故その名前を!?」

 

 「貴女も、遠くにいる誰かに、一つ言ってやりたいことがあるんでしょう。協力するわ」

 

 引き続き旨そうに汁無し担々麺をすするほむらを、マリは何故か彼女が夫を喰う泥棒猫のように思った。

 

『宣戦布告』

 

 定期便が就航してまだ10年にもならない木星航路は、片道3年もかかる。

 マリは当初は物珍しさにジュピトリスの至るところを探索していたが、すぐに飽きて地球で言うワンルームマンションほどの自室に引きこもり読書に没頭するようになった。それにも数ヵ月で飽き、コールドスリープに入った。

 

 衛星の中で現在のところ唯一地上基地が設置されているエウロパの上空に定期便が到着すると、マリはほむらが「私物」として確保しているという内航船に乗り換えた。大型バスほどの大きさがあるくせに定員は二人、それも別々に棺桶のように横たわっての搭乗を余儀なくされる代物だった。13時間ほど経ち、未だほぼ手付かずの衛星イオに接近すると、ほむらが声をかけた。

 

 「着いたわよ。さあ、あれが見える?」

 

 マリの目の前に突きつけられるように設置されているモニターには、どことなく白鳥の首を思わせるような銀色の流線型の人工物が拡大されている。

 

 「『ディスカバリー01』…!アステロイドベルトの事故で消滅したんじゃないの!?」

 

 「あれはフェイク。盗んでここまで回航したのよ。さあ、着艦するわよ」

 

 滑らかな鏡のような船体に急に青く光る継ぎ目が現れたかと思うと機械部品に満ちた内部構造が露出し、その中に内航船は吸い込まれていった。

 

 同じような内航船が大型客船の救命艇のように何隻も並んでいる薄暗いハンガーに乗って来た船を止めると、二人はガラス張りのエレベーターに乗った。船の中心まで何キロ進んだろうか、目を丸くしていたマリが絶叫した。

 巨大な、痩せた人間のような黄色い人形が数千も直立不動で隊列を組んで立っていたのだ。

 

 「あれはフーイン(『福音』の中国語読み)と読んでいるわ。あなたも開発に携わっていたのよね。重宝しているわ。あれが無かったら、木星の中心からダイヤモンド採掘して持ってこれなかったもの」

 

 「君は…一体何をやっているんだ!?」

 

 「さ、指揮室についたわ。詳しくはそこで」

 

 体育館ほどの広さの円筒形のホールの中心、ディスカバリー01の軸に当たるシャフトにエレベーターが止まり、扉が開いた。ホールの壁面は一面スクリーンとなっており、外部がそのまま映し出されているのだろうか、数百kmにも及ぶ何万層もの甲板の彼方にある木星系の中に浮かんでいるように、マリは錯覚した。

 直径数十m程の黒いシャフトの表面には、数十人の少女が思い思いの態勢で端末の前に腰を据えていた。

 

 「思ったより早かったな」と、倒した槍の横で寝そべっている少女がほむらによびかける。

 「その方が水先案内人というわけね」と、マリに匹敵する胸部が目立つ少女が紅茶のカップをソーサーにおきつつ言った。

 

 ほむらは口角を右側だけ持ち上げ目を見開き、幼い顔立ちに似合わぬ凶相を首を回して周囲に見せると、落ち着いた大声で語りだした。

 

 「祝福の悪霊諸君!老いさらばえた少女諸君!満願成就の刻が来たわ!」

 紅潮した顔でマリのほうに振り向くと、右こぶしを突き上げた。それを合図に壁面は一瞬にして大量の設計図で満たされる。

 

 「超硬化ダイヤモンド装甲二千層、ペタツァーリ・ボンバ級水爆5兆発、大陸制圧用人型兵器300億機、半径10光年をカバーする4億機のレーダー・ピケットと対応する全自動衛星焼灼級レーザー5京発分、そして超深度学習進化型制御システム”MAGI・Olympus”と修復改修用作業マシーンを、この艦は搭載しているわ。自己再生・自己増殖・自己進化を実現させた。これこそ私の理想とする

 

 人類が産み出す究極の軍事力、対外宇宙文明決戦機動部隊”パンデモニウム”

 

その種なのよ。明日には出航するわ。貴方を含めクルー全員にはコールドスリープに入ってもらう。アルファ・ケンタウリを皮切りに目につく惑星を手当たり次第に喰らい尽くし、目的地に着くまでに4那由多隻には増殖させる予定よ。土地勘のある貴方に、情報参謀をやってもらいたいの」

 

 「何を考えているのよ!一体何が目的でこんな、人類を滅ぼしかねないことをするの!」

 

 「失礼ね。テラフォーミング可能な惑星は放置するようプログラムしておいたわ。

 理由は…大したことではないわ。舐められたから殺す、それだけ」

 

 「訳が分からないわ!」

 

 マリは夫の形見の拳銃を構えてほむらを撃とうとした。…が、次の瞬間、ほむらはマリの背中側に立っていた。

 

 「嫌なセリフね。貴女が私の生涯唯一の上司、碇中隊長の奥様でなければ殺していたところだわ」

 

 「その動き、本当にリリンなの?」

 

 「とんでもねえ、あたしゃ悪魔だよ」

 

 「一体私をどうしようというのよ…」

 

 「中隊長は生前、形而上生物学のテーマとして『人の魂の行き場』、つまり死後の世界を研究していたのよ。でもその結果見つけたのは、彼自身の行き場だけだったわ」

 

 髪をかき上げながら、ほむらは手元に持ったリモコンを捜査した。次の瞬間、木星を移していた壁面が白銀の半透明な球体を移した。当初空の星の一つほどの大きさしかなかった球体は見る間に膨張し、壁面全体を占領するまでに至った。

 

 「これは『時球』の概念図よ。ビッグバンにより世界が開闢してから、全ての一瞬において無限に時は分岐している。時の流れが一直線に見えるとしたら、実態はこの通り膨張する球体なのよ。空間と同じくね。そして」

 

 画面上の球体は2つに割れた。膨張を続ける2つの半球の表面が一瞬黒くなったかと思うとまた銀に戻った。が、断面には名残の黒い円がそれぞれ一つ、年輪のように刻まれている。

 

 「ある一つの時間軸において、無限大のエネルギーが発生して他の全ての時間軸にさえ超高速で一瞬にして影響を与えたわ。『碇ユイ』、貴女とも因縁浅からぬ女性が永久の命を手にして宇宙空間を彷徨いだし、マイナス宇宙へと漂いだして…」

 

 再度半球の表面が黒くなり、銀色に戻って2つ目の年輪が断面に刻まれた。

 

 「またある時にそれを失い、消滅した。時球では稀に起こる現象だわ。細かいことは省くけど、彼女の遺伝子を濃厚に受け継いだ中隊長の精神は宇宙の特異点、M78星雲に引き寄せられている。向こうにいる誰かが尋問するつもりなのかしらね?」

 

 夫の死以来硬さがへばりついていたマリの顔が、少しずつ紅くなっていった。中学生ほどに顔立ちが大人びていく。胸も膨らみ前方へと尖り出した。

 

 「この船なら百年程度の誤差はありつつも現地で合流できる。とはいえ、位置関係から私の害虫退治の後になってしまうけど…来てくださるわよね」

 

 「一つ、条件があるわ。この艦の名前なんだけど…」

 

 「…『最終走者』という意味?不吉ね?あら違うの。そう、そうね。この艦がたどり着いた所が、いつでも人類の最前線ということだから」

 

 『旅立ちに当たり』

 同年8月13日に書かれたと思しき、イオで発見されたメモリーよりサルベージされた文書

 

 ワンコ君へ、君の約束を確かめに行くよ。私たちの名前をつけた、この艦で

 

 

 

 『宇宙戦艦”アンカー”出撃!』

 ぱんぱんに膨らんで今にも破れそうな制服の胸元にセーラー社製の碇のマークをあしらった万年筆を指した少女が、宇宙に獅子吼した。




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