クラリスルート   作:鈴名ひまり

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選択

 問題:これまでほとんど接点がなかった女子の先輩からお茶会に招かれ、その席上で修学旅行の行き先を問われました。先輩の意図を読み取り、適切なリアクションを取りなさい。

 

 お茶とお菓子で緊張を解されて気が緩んだところで、いきなりこんな問題を出題された。

 

 え?話したいことってこれのことだったのか?

 でもなんでクラリス先輩が俺の修学旅行先なんて知りたがるんだ?

 

 もしかして俺と同じところに行きたがっている──とか?

 いやいや待て早まるな俺!単に世間話程度の質問かもしれない。変に深い意味を期待したら手痛いしっぺ返しを受けかねない。

 

 大体クラリス先輩と俺はこの間のエアバイクレース騒動で知り合ったばかりだぞ。

 たしかにクラリス先輩はその時酷く落ち込んでいて、見ていられなかったから俺なりにフォローはしたけど──それだけだ。

 

 でも、わざわざお茶会まで開いて呼びつけてまで世間話程度でこの質問って、それあり得るのか?

 

 そんな思考を一秒ほど経て、とりあえずストレートに答えることにした。

 

「カンナですけど」

 

 ゲーム内ではたしか南の方にある温暖な浮島で日本風な街並みと文化がある所だった。

 

「人気の高い所を選ぶわね。やっぱり夏祭り目当てかしら?」

 

 クラリス先輩は更に質問してきた。

 夏祭りとかやっていたのか?今二学期で秋、もうすぐ冬だよな?

 

「夏祭りって──夏はもう過ぎてますよね?」

「知らないで行こうとしていたの?季節が違うのよ。あっちは今が夏なの。ちなみに他の行き先も同じよ」

 

 こっちが秋で向こうは夏──北半球と南半球で季節が逆、みたいなやつか?

 この世界はよく分からない。気候とかどうなっているんだか。

 難しそうだから別に詳しく知りたいとは思わないけど。

 

「祭りですか──楽しそうですね」

 

 嘘である。

 実際には夏祭りとやらに興味はほとんどない。

 なのにその島に行きたがる本当の理由はステータスの成長率が劇的に向上するレアアイテムが手に入るからである。

 ゲームでは最も効率的にキャラクターを育成する方法がそのレアアイテムを使うことだったので、是非とも一年生のうちに手に入れておきたい。

 安全を第一に少ない労力で最大の利益──それが俺の理想だ。

 

 だがそんなことを言ったら確実に頭が変だと思われる。

 ついでに言うと抽選に漏れないように教師の買収を企てているなど──自分から見ても正直ちょっとドン引きする。

 

 クラリス先輩は気のない返事をした俺を少しの間見つめていたが──

 

「ねえリオン君、ウルクラムのビーチに興味はないかしら?」

 

 唐突に別の目的地を提示してきた。

 修学旅行の行き先の一つにそんな名前のリゾート地があるが、俺はさして気に留めていなかった。

 

「ビーチですか?まぁ、泳ぐのは嫌いじゃないですけど──」

「分かっていないわね。ウルクラムにはね、()()()()()()()のよ」

「地上に海、ですか?それってどういうことなんです?」

「浮島の半分以上が大きな湖で、そこの水は海と同じ塩水なの。珊瑚礁や瀑布もあって、すごく綺麗なのよ。それから海の家っていうのもあって、そこの料理がまた絶品なんですって──」

 

 クラリス先輩は目を輝かせて饒舌に語ってくる。

 

 その様子を見て、ふと既視感を覚えた。

 

 頭をよぎるのは、家に篭ってギャルゲーをやり込んでいた前世の休日の記憶。

 ルートの数が多くて、隠し要素があちこちにある、やり込み要素が強いやつをプレイしていたことがあった。全キャラ全ルート全隠し要素制覇を目指して、何周も回して、何度もヒロインとの会話をこなして、何度も同じ光景を見て、台詞どころかスチール画の背景とか小物まで覚えてしまうくらいやって──

 

 ──今のこの状況、そういうギャルゲーで見たパターンに似ていないか?

 二週目とかで新しい選択肢が出てきて、それを選んだ先でさらに分岐と好感度イベントが出てきて、そこから隠しキャラルートが始まって──

 

 ──って何を考えているんだ俺は!いくら乙女ゲー世界とはいっても二次元とリアルをごっちゃにするな!

 思い出せ。女性に優しいフワフワした設定の乙女ゲー世界が、現実になるとどれだけ酷かったかを。

 ゲームのような恋愛はできないと俺は知っていたはずだ。

 

 クラリス先輩みたいな美人で身分も高くて聡明で優しい素敵な女性に、ビーチでのデートに誘われるなんて展開、俺のようなモブには──

 

「それでね?リオン君さえよければだけど、一緒にウルクラムに行かない?」

 

 ──まさか本当にあったとは。

 

 ──どうしよう。

 断りたいが、どう言って断ればいい?

 まさかカンナでしか手に入らないレアアイテムが欲しいからなんて言うわけにもいかない。

 

「──少し考えさせてください」

 

 俺にはそう言うのが精一杯だった。

 

「そう。じゃ、待っているわね。返事は急がなくていいから」

 

 クラリス先輩はにっこり笑って言った。

 

 ──不味い。ものすごく断りづらくなったんだけど。

 

 

◇◇◇

 

 

 お茶会が終わって、俺は中庭のベンチで黄昏ていた。

 

「ままならないもんだよな──」

 

 呟く俺にルクシオンは言う。

 

『ままならなくしているのはマスターでは?』

「はぁ?どういうことだよ?」

『そのままの意味ですが?ジルクの代役としてエアバイクレースに出るまではともかく、クラリスとジルクとの間にあった確執の解消は明らかに過ぎた行いでした。本来であればそれは当人同士で解決するものだったはずです。そこに首を突っ込んだがために、マスターはクラリスから不本意な誘いを受けているのです』

 

 ルクシオンの説明に俺は思わず反論する。

 

「そうは言っても、あのまま放っておくわけにもいかないだろ。当人同士で解決なんてそれこそ何度もやろうとしてできなかったことなんだからさ」

『そう言って自分一人の考えで痛い目を見てまで他人を助ける。マスターはそれで問題を解決して終わりですが──助けられた方がその行動をどう思うか、考えているのですか?』

 

 ルクシオンの指摘に思わずぎくりとした。

 考えてみれば今まで自分の行動が相手やその周囲にどう受け取られるかなんて、いちいち考えてはいなかった。全くどうでもよかったというわけではない。ただ目の前の問題を解決するのに頭がいっぱいで頭から抜け落ちていた。

 

『──思い当たる節があるようですね。アンジェリカが起こした決闘に首を突っ込んだ時、それはマスターからしてみれば鬱憤晴らしと婚活に悩む学園生活からの逃走に利用したに過ぎないとしても、彼女や彼女の実家からすればまさに地獄で仏だったでしょう。結果、彼女の実家がマスターの行動に報いるべく行った宮廷工作はマスターを予想外の出世に導きました。空賊退治の時もそうですね。上げてもいない手柄を譲られ、大金を投じた工作によって廃嫡を取り消されたブラッドとグレッグ、及び多数の贈答品と息子への箔付けを得た二人の実家はマスターの行動に報いる必要性を少なからず感じたでしょう。真意がどうであれ、その破格の取り計らいには相応のお返しをしなければ彼らの矜持と品位が損なわれます。それがマスターの再びの出世へとつながりました。さて、この二つの事例を踏まえた上で考えてみましょうか。マスターがクラリスにしたことに対して、クラリスはどう感じ、何を思ったでしょうね』

「──めちゃくちゃ感謝してる、よな?それでお礼がしたい、と」

 

 俺の答えにルクシオンはなぜか一瞬固まった。

 そして一つ目を若干逸らして遠くを見るような感じで言った。

 

『そうです。ですが、一つ大きな見落としがあります』

「見落とし?」

『はい。ジルクとの間にあった確執の解消、及び傷心状態のクラリスへの慰藉。それによって──』

 

 ルクシオンは逸らしていた一つ目を戻してきて、思いがけない結果を告げた。

 

 

『現在クラリスはマスターに好意を抱いています』

 

 

 ──聞き間違いだよな?

 

「何だって?もう一度頼む」

『現在クラリスはマスターに好意を抱いています』

 

 全く同じ言葉が繰り返される。

 どうやら聞き間違いではなかったようだが、俄には信じ難い。というか、ルクシオンの勘違いではないだろうか。

 

「え?なんでそんなことに?」

『あらゆる呼びかけに応じずに逃げ続けたジルクと、自棄を起こし攻撃的になっていたクラリスの両者を引き合わせて、その確執を終わらせるという難事をやり遂げたのはマスターです。誰もができなかった──いいえ、やろうとしなかったことを見返りも求めずに、また自身が負傷してまでやってのけたのです。そして傷心状態のクラリスにかけた慰めの言葉──あれが決定的でしたね。他の人物が同じような言葉をかけたところで彼女の心には届かせられなかったでしょう。マスターは弱った女性に付け込むのがお上手ですね』

 

 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえたので思わず言い返した。

 

「ちょっと待て。訂正を求める!俺は付け込んでなんかいねーよ!」

 

 だがルクシオンは即座に反論してきた。

 

『客観的に見れば付け込んだとしか言いようがありませんが?それも今に始まったことではありません。オリヴィアもアンジェリカも今回と同様に落ち込んでいたところに手を差し伸べ、彼女たちが求めていた共感と慰めを与えました。その時の記録がこちらです。一度ご自身でご覧になってはいかがですか?』

 

 そう言ってルクシオンが周囲に投影するのはありし日の俺の姿のダイジェスト映像だった。

 

『ねぇ、そこの彼女!お茶していかない?』

『これだから損得で動く人間は嫌だな。もっと優しい心を持ったらどうだ?』

『大丈夫──代金は俺が持つから』

『分からないところがあるなら教えてあげようか?』

 

『はい、は〜い!俺が決闘の代理人に立候補しま〜す!』

『大丈夫です。俺、これでも強いですから』

『どうですか、お嬢様。見事に勝ってまいりましたよ』

『世の中、最高の復讐は自分が幸せになることですよ』

 

『同情を誘うような小芝居は止めてもらえますか。それに責任を追及しても面倒になるから嫌です』

『クラリス先輩もいい加減に立ち直ってくださいよ。男なんて星の数ほどいますよ』

『安心してください。良い女はその程度の汚れなんて気になりません』

『俺、正直者ですから嘘は吐かないです』

 

 映像が終わる。

 

『いかがでしたか?落ち込んでいたところに颯爽と現れて問題を解決し、決して否定や非難をせずに落ち込んだ心に寄り添い、励ましの言葉をかける。好意を持たれても不思議はないと思いませんか?』

「──くそ、反論できねえ」

 

 たしかにギャルゲーのプレイ動画でも見ているかのような好感度稼ぎの台詞とオンパレードだった。

 ──というか、あれ本当に俺なのか?見ててめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

 

『ご理解頂けたようですね。さて、今度はマスターに好意を抱いた彼女たちに対してマスターがしたことを振り返ってみましょうか。オリヴィアとアンジェリカとはしばらく友人として交際を深めた後、突然距離を置きました。マスターの言うゲーム上の都合から深入りを避けたいという事情を二人は知りません。そんな二人からすれば、マスターが自分たちの存在を負担に感じ、突き放した形です。クラリスに対してはその事情すらありませんね。お茶会の招待に応じ、デートの誘いに対してどこか期待を持たせる形で返事を濁しています。好意を抱かせておきながら、それに応じるでも断るでもなく中途半端な対応。この先どうされるおつもりですか?』

「──考えてなかったな」

『早めに結論を出すことをお勧めします。気持ちに応じられないのであれば早期に明確な線引きを示しておく必要があるでしょう。そうしなければ──ジルクの二の舞です』

 

 ズタボロになったジルクの姿を思い出して、寒気を覚える。

 

「──それは嫌だな。何とか穏便に断るか」

『それができれば、ですがね』

「え、それってどういう──」

 

 訊き返そうとした時にはルクシオンの姿は消えていた。

 

 そして直後に俺の前に人が現れる。

 

「バルトファルト男爵。少し、いいだろうか」

 

 声をかけられて顔を上げると、そこにいたのはエアバイクレースで鎬を削った首の太い三年生の先輩だった。

 

「貴方はこの前の──」

「【ダン・フィア・エルガー】だ。ダンでいい。少し、話せるだろうか?」

「──ええ、どうぞ」

 

 簡潔に自己紹介したダン先輩はそのままベンチの前に立っていたので、横にどいてスペースを作る。

 ダン先輩は「失礼する」と言ってから座った。

 

「クラリスお嬢様のことだ」

 

 ──やっぱりこの話題だったか。

 クラリス先輩に対する忠誠心が厚いこの人ならと予想はついていた。

 

「お茶会で言われたと思うが、クラリスお嬢様は修学旅行で男爵と行動を共にしたいと希望されている。どうかお嬢様の希望を叶えてあげて欲しいんだ」

「──それ、またクラリス先輩は関係ないってやつですか?」

「そうだ。迷惑をかけておいて厚かましいのは承知している。だが、どうかお願いだ。お嬢様と一緒にウルクラムに行って、良い思い出を作ってあげて欲しい」

 

 思い出作り──そのフレーズで思い出したのはミレーヌ様のことだ。

 学園生活というものを経験したことがなく、学園での思い出が欲しいと仰ったミレーヌ様に、毎日婚活に励む一学園男子として、プロポーズされるという一生残るであろう思い出を作って差し上げた。

 もちろん身分上絶対に結ばれることはないからプロポーズは本気ではない。本当にただの思い出作りだ。

 あれと同じことだと思えばいいのだろうか?

 

 考え込む俺だが、ダン先輩はここぞとばかりに畳み掛けてくる。

 

「頼む。この通りだ」

 

 そう言って頭を下げるダン先輩を突っぱねることは俺にはできなかった。

 

「──分かりました」

 

 あーあ。またやってしまった。こんな風に頼み込まれると面倒臭くて断れないんだよ。

 ルクシオンは俺のこういうところが中途半端だって言うんだろうな。

 

 

◇◇◇

 

 

 修学旅行の行き先が発表される日。

 

 廊下の壁に設けられた掲示板に貼り出されたグループ表の前には大勢の学生たちが集まっていた。

 

 お目当ての場所に行けると喜ぶ者、違うことに肩を落とす者、あるいは親しい者と一緒の場所かどうか気にする者、反応は様々だ。

 

 そして俺の行き先は──ウルクラムだった。

 

『どうやら献金(賄賂)は効いたようですね。その割には浮かない顔をしていますが』

 

 姿を隠したルクシオンが言ってくる。

 

「見間違いだ。自分で決めたことだし、未練とかねーよ」

 

 別にカンナに行ってレアアイテムを手に入れないと死ぬとか詰むとかいうほどでもない。ゲームの世界とはいえ、ステータスも経験値も見えない現実だ。レアアイテムの効果なんて本当にあるのかどうかも分からない。

 だから未練はない。ないと言ったらないのだ。

 

「あ、リオンさん」

 

 振り返るとリビアがこちらに向かって軽く手を振っていた。

 

「リオンさんは行き先どこでしたか?」

「ああ、ウルクラムだよ。リビアは?」

「私はカンナです」

 

 嬉しそうに言うリビアを見ると、気持ちが綻ぶ──はずだったが、どこかドキドキというかモヤモヤというか、変な気分になってしまう。

 先日ルクシオンが、クラリス先輩だけでなくリビアとアンジェも俺に好意を持っている、なんて言ったからだろう。

 

「へぇ、よかったじゃない。人気で倍率高かったって聞いたよ?」

「はい!独特な街並みがあって面白そうですし、浴衣にお祭りに花火もあって、すごく綺麗だって聞いて。昨夜は遅くまで当たるようにお祈りしちゃいました」

 

 笑顔が眩しい。それに部屋で抽選に当たりますようにと祈るリビアの姿を想像したら──可愛過ぎて鼓動が高まってしまう。

 

 だが直後にリビアは一転して少し悲しそうな顔をする。

 

「ただ──アンジェも一緒なんですけど、周りの方たちがいっぱいいて──その──」

「あぁ取り巻き連中か。そういえばアンジェも辟易していたな」

「はい。私もあんまりしつこく付き纏うのはやめるように言おうとしたんですけど──アンジェに目を付けられたら大変だから放っておくように言われて。──お祭り、アンジェと二人で行けたらいいなって思っていたんですけど」

「あいつら本当懲りないよな。今更媚びたって信用が回復するわけないのにさ」

「ッ!リオンさん!声が大きいですよ」

 

 つい漏れた言葉をリビアが小声で窘めてくる。

 周りの学生たちの中にアンジェの取り巻きがいて、今の発言を聞かれていたら面倒なことになる──そう思ったのだろう。

 

 別にそうなっても俺は困らないけどね。連中には俺と本気で喧嘩できる度胸も力もない。

 もしかしたら若気の至りで暴力に訴えてくるかもしれないが、その時は社会的に制裁してやるまでだ。

 だが、ここは素直に謝っておくか。

 

「ごめんごめん。まあ実際問題すぐにどうにかなるものでもないし、ほとぼりが冷めるのを待つしかないんじゃないかな。それにアンジェだってリビアと一緒にお祭り行きたいって思っているだろうし、きっと隙を見て逃げ出してくるよ。今までだってそうだったし。大丈夫。せっかくの修学旅行なんだから、楽しむことを考えなよ」

「──そう、ですね。何だかそんな気がしてきました」

 

 笑顔が戻ったリビアが「そうだ」と言って訊いてくる。

 

「リオンさん、お土産は何がいいですか?行き先が分かれたのならせっかくですし、交換したいです」

 

 リビアの提案に俺は思わず口角が上がった。これは好都合だ。

 あのお守りをお土産に頼めば一つか二つは手に入るかもしれない。

 

「そうだな──ご利益があるお守り、とかかな。リビアは?」

「私は特産の工芸品がいいです。あ、でもあまり高いものはやめてくださいね。受け取れませんから」

「分かった分かった。百ディアくらいで探しとくよ」

「百ディアでも充分高いですよ!?」

 

 驚き、ツッコミを入れてくるリビア。

 本当にピュアで可愛い。

 

『やはり未練タラタラでしたね』

 

 お守りが手に入る可能性とリビアの可愛さで、ルクシオンの指摘も今は聞き流せるくらい上機嫌になる俺だったが──

 

「どうして俺とマリエの行き先が違うんだ!?」

 

 不意に聞こえてきた声に浮かれ気分をぶち壊される。

 

 声がした方を見ると、攻略対象の五人がいた。

 さっきの声はユリウス殿下が発したようだ。──あんた、負けたらマリエと別れるって条件で決闘して負けたんだから、本来マリエに近づける立場じゃないってこと忘れていないか?

 

「お前たちは別グループか。だったら俺がマリエをエスコートしないとな」

「マリエのことは僕たちに任せて、三人とも楽しんできなよ」

 

 そう言って勝ち誇ったような顔をするのはブラッドとグレッグ。

 どうやらマリエと同じ目的地なのは五人の中でブラッドとグレッグだけらしい。

 

 浮かれ気分のブラッドとグレッグ、肩を落とすユリウス殿下、微笑みを浮かべているが目が笑っていないジルク、少し寂しげに黙っているクリス──お前らあんな生意気で面食いで守銭奴なちんちくりんのどこがそんなに良いんだよ。

 

 呆れていると、ルクシオンが聞きたくなかった情報を教えてくる。

 

『マスター。どうやらブラッド、グレッグ、マリエの行き先はウルクラムのようですよ。よかったですね』

(は?)

 

 思わずグループ表で彼らの名前を探すと──

 

「げっ!」

 

 思わず声が漏れた。

 よりにもよってあの三人と一緒──心なしか頭痛がしてきた。

 

「リオンさん?」

 

 リビアが怪訝な顔をする。

 その顔は明らかに俺を心配している。

 

 ──なんかものすごく罪悪感を感じる。

 マリエなんかに夢中になっているあいつらにこんな可愛くて良い子をくっつけるとか、可哀想じゃない?

 

「ああごめん。何でもないよ」

 

 内心でいずれ攻略対象の誰かとくっついてもらおうと急に突き放すような形で距離を取ったことを謝罪する。もっとちゃんとリビア本人の気持ちを考えるべきだったと思った。

 

 とは言っても──リビアの気持ちを考えて、それでこの先どうするのか、どうすればいいのかは分からない。

 とりあえずできることからやっていくほかないだろう。

 

 差し当たり修学旅行が終わったら、リビアにお土産として聖なる首飾りを渡して、その後腕輪を回収する。

 その後のことは──まだ考える時間はある。

 

 ──あるはずだ。

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