メジロマックイーンと俺   作:おれ

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6話

 ──負けた。完敗だった。おれはマックイーンに20枚もの差をつけられて負けてしまった。マックイーンを見ると勝ち誇った顔をしていた。

 

「.く」

 

「く?」

 

「くっそおぉぉぉぉ!!」

 

「お、お待ちをなさい!」

 

 あまりの悔しさに部屋を飛び出して脇目も振らずに走った。

 

 

 

 

「どこだここ?」

 

 

 走り続けた結果、ここがどこか分からずに迷ってしまった。階段は上り下りしてないからここはマックイーンの部屋と同じ階のはずだ。このまま帰るつもりだったおれは外に出るために階段を探すことにした。

 目の前から誰かが走ってくるのが見える。ものすごい速さだ。徐々に姿が大きくなっていき、少女の姿となる。頭の上についた耳、ゆらゆらと揺れる尻尾をみるにどうやら彼女はウマ娘のようだ。

 目の前で急停止すると、おれの手を握ってきた。

 

 

「君! ちょっと私と一緒に隠れてくれない!? 」

 

「うわぁっ!」

 

 まだ何も言っていないのにウマ娘の強い力で引っ張られる。近くの部屋に入ると、物置部屋のようでメジロ家なのかと思うほど、ここは狭かった。

 彼女の方が少しばかり背が高いため、両腕で抱きかかえるようにされる。額に吐息がかかり、ほのかに顔が熱くなるのを感じた。対して彼女は扉の方をずっと注視している。

 

 

「ねえ、誰から逃げてるの?」

 

 

 ふと、彼女に聞いてみる。

 

 

「静かに、来るよ」

 

 

 壁に耳を貼り付けた彼女は、誰かが来るのを感じたようでじっとしている。数分間じっとしていると、危機は通り過ぎたようで彼女がホッとため息をついた。気が抜けた瞬間おれを強く抱きかかえてことに気がついたのか顔がにわかに赤く染まる。

 

 

「えっと、ゴメンね、その、強くしすぎちゃったみたいで.」

 

 

 パッと抱き抱えていたのを離れて廊下へと出る。

 

 

「ところで君、どうしてこんなところにいるの?」

 

「ここって広いだろ、それで迷っちゃって」

 

「それならあっちに階段があるけど.」

 

 

 あちらの方を指さして彼女は言った。これでやっと家に帰れる。

 

 

「ありがとう! .えっと」

 

 

 お礼を言おうにも彼女の名前を知らずに戸惑っていると彼女の耳が何かに気づいたようにピクリと動く。

 

 

「パーマ。メジロパーマーだよ」

 

「ありがとう。パーマー。それじゃあ」

 

 もうどのくらい時間が経ったのかもわからない。あまりに家に帰るのが遅れるとまたお母さんに怒られるかもわからない。

 階段へと向かって急いで走ろうとすると、後ろから引っ張られて尻もちをつく。

 

 

「まだ私、君の名前教えて貰ってないんだけど」

 

 

 そういえばそうだった。早く家に帰ることに気を取られてパーマーに名前を教えるのを忘れていた。

 

 

「田中」

 

「え?」

 

「田中だって。俺の名前」

 

 

 きょとんした顔をしたパーマーに再度自分の名前を答える。

 

 

「それって苗字でしょ? 私が聞いてるのって下の名前の方なんだけど.」

 

 

 困ったような顔をして再度聞いて来たパーマーにバツの悪い顔をする。

 言いたく無いものは言いたくない。ライアンにだっておれの名前は教えてないのだ。

 

 

「いやだ。絶対に言わない」

 

「なんでそんなに頑なに言わないのさ」

 

「自分の名前が嫌いだから」

 

 

 その場で体育座りをして、うずくまる。

 

 ──ことの始まりは保育園に入った時だった。小さい頃のことはあまり覚えてない。けれど一つだけ覚えていることがある。友達に言われたのだ。

 小学校でもそうだ。名前のせいでみんなからはからかわれた。母さんは父さんがつけてくれた大事な名前だなんて言うけれど、おれにはそうは思えなかった。

 だから嫌いなんだ。

 

 パーマーが隣に座る。手遊びをしながら少し悩んで、決心したようで口を開いた。

 

 

「.私にもね自分の名前が嫌いだって言う妹がいるの。その娘はメジロドーベルって名前のウマ娘なんだけどね」

 

 残酷だよね、とパーマーは言う。

 

「この名前って別世界の魂が宿ってるんだって。だから私たちの名前にはお父さんやお母さんの想いはこもってない。たくさん愛されてるけどね」

 

 ──ーだから君の名前は大切にして欲しい。

 そうパーマーは俺の目を見て言った。そうか。君たちウマ娘にはそんな事情があったんだ。

 

 

「道真。俺の名前は田中道真って言うんだ」

 

 

 父さんがどんな想いでおれにこの名前をつけたのかはわからない。けれど。この名前を誇る気持ちにはなれた。

 

 

「ありがとうパーマー。おれ、自分の名前を誇れるようになる」

 

 

 どういたしましてと返すパーマー。少しばかりかすっきりとした気持ちになったところで、急に家に帰ることを思い出す。

 やばい早く帰らないと…! となっているところに、パーマーがもう遅いから家の車で送ってあげるよと言ってくれた。

 

 

 パーマーが執事を呼んで、来たのは怒り心頭を通り越して呆れている執事だった。そこは後でこってりと怒られることで決着はつき、その執事の人──大久保さんが車を運転してきてくれた。車に乗ってそのままお別れかと思いきや、パーマーも乗ってきて驚いた。

パーマー曰く、二人だと心配、だそうだ。

車から見る慣れない夜の景色に目を奪われながら、パーマーからメジロドーベルの話を聞いた。車が家につき、パーマーと別れる間際に彼女から明日、メジロドーベルと会ってみないかと提案をされた。

 

 

「わかった。明日行くよパーマー」

 

「待ってるよ道真」

 

 

 じゃあまた明日と約束をかわし、家の中に入った。

そうだ、お母さんに俺の名前の由来を教えてもらおう。




メジロパーマーのタグを追加しました。
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