ドラえもん のび太の仮面冒険記   作:Δデルタ

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やっと完成しました!毎回謝ってばかりですが、今回もすいませんでした!不定期更新と言っても、やはり遅すぎますかね…。何とか早く書こうとはしているのですが、なかなか難しいです…。まあ、ここで時間を取るわけにもいきませんので、本編をどうぞ!


第九話

のび太の部屋

 

野比家の一室であるのび太の部屋では真ん中に布団が敷かれてあり、そこにはレイオルフェノクの毒に侵されたのび太が眠っていた。

そして、その周りには秘密道具の一つである“お医者さんカバン”でのび太の治療をしているドラえもんとのび太の様子を心配そうに見ている奈々がいた。

部屋の中には重苦しい雰囲気が漂っており、誰も言葉を発さない。

部屋の中には外の土砂降りの雨の音だけがうるさいほどに響いていた。

暫くすると、ドラえもんがお医者さんカバンからと繋がっている聴診器のようなものを外す。

それを見た奈々がドラえもんに少々、躊躇いながら問いかける。

 

「その…ドラちゃん。のび太くんはどうなの?」

「…分からない。いくら秘密道具っていったって、結局は遊び道具だからね。それに薬こそ出てはいるけど、完全に効くっていう保証はないみたいだし」

「そう…」

 

そう言うと、またお互いに口を閉ざしてしまう。

奈々も、落ち込んだ空気をなんとかしようと口を開きかけるも、目の前のドラえもんの表情を見て結局、やめてしまう。

そうしていると、話す様子のなかったドラえもんがぽつりと呟くように言葉を発した。

 

「ねぇ」

「なに?ドラちゃん」

「奈々ちゃんは…知ってたの?」

「のび太くんのこと?」

 

奈々の声に、ドラえもんはこくりと一つ頷く。

それに奈々は、少しの間をおいて答えた。

 

「…うん、まあね」

「そうなんだ…」

 

すると、ドラえもんは俯いてしまう。

その姿に心配になり、何か言葉の一つでもかけようとする奈々だが、目の前のドラえもんを慰めてやれるような言葉が自分にはないと分かると、何も言えなくなる。

そして、そんな不器用な自分が嫌になり、何だかいたたまれなくなってしまい、思わず立ち上がる。

 

「私、何か飲み物持ってくるね」

「うん…」

 

部屋を出た奈々は階段を降りながら、自己嫌悪に陥る。

何故、あの場から逃げてしまったのか。

本来なら何か言葉をかけ、そうでなくとも共にいるべきなのに。

それなのに、自分は何もできないことを恥じて、逃げてしまった。

弱い自分が何よりも恨めしい。

そんなことを考えながら階段を降りていると、玄関の扉が開いた。

 

「ただいま〜。あら?奈々ちゃん来てたのね」

「あ、玉子さん!お邪魔してます」

「ふふっ」

 

玉子は自分に気づき、お辞儀をする奈々に微笑む。

今まで、家にのび助、のび太、ドラえもんと男しかいなかったので、奈々や幸を娘のように可愛がり、それが嬉しかった。

そして、のび太とドラえもんのことを考えて、奈々に聞いてみた。

 

「ところで、のびちゃんとドラちゃんは?」

「あ…今、二階にいます」

「そうなの?なら、おやつがあるから呼ぼうかしら」

 

玉子がのび太たちを呼ぼうとしているのをみて焦る奈々。

今、のび太たちが下に降りてこれるわけないし、かといってそれを玉子に見られるわけにもいかない。

どうするかと咄嗟に考え、口を開く。

 

「え、えっと…の、のび太くんは、いま勉強中で…それで、ドラちゃんはその勉強を見てるので…」

「あら、そうなの?」

「は、はい!だから、その…」

 

言い淀む奈々を見て、玉子は思った。

きっと奈々は、勉強中ののび太の邪魔をしないでほしいと、そういうことを言いたいのだろう。

のび太が勉強しているのは驚きだが、それは玉子にとっては喜ばしい事である。

玉子としても、それを邪魔するのは本意ではない。

それに、奈々ともゆっくり話してみたいと思う。

 

「なら、2人で食べちゃいましょうか」

「2人って…私ですか?」

「そうだけど、もしかして嫌だった?」

 

玉子の言葉に奈々は手をブンブン振って、慌てて否定する。

 

「いえ!そんなことは決して!むしろ、是非!」

「ふふっ、分かったわ。じゃあ、少し待っててちょうだい。直ぐに用意するわ」

「何か手伝いましょうか?」

「大丈夫よ。奈々ちゃんは先に居間にいってて」

 

奈々の申し出をやんわりと断ると、玉子は台所へ向かう。

それを見た奈々は少し申し訳なく思いながらも、居間に入り座布団の上に座る。

そのまま待っていると、美味しそうなクッキーとお茶を乗せたお盆を持って、玉子が入ってくる。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

二つあるうちの片方のお茶を渡された奈々はそれを一口飲み、テーブルに置かれたクッキーに手を伸ばすと一番手前のを掴むと、いただきます、と言って口にする。

すると、奈々の表情が緩む。

 

「美味しい!」

「そう?口にあって良かったわ〜」

「とっても美味しいです!でも、こんな美味しいクッキー本当にいいんですか…?」

「いいのよ。貰い物なんだけど、のびちゃんは珍しく勉強にやる気になってるみたいだし。それに、奈々ちゃんと二人でお話してみたかったのよ」

 

玉子の言葉に不思議に思い、首を傾げる。

それを見た玉子は微笑みながら、話す。

 

「私とですか?」

「ええ。もしかして、嫌だった?」

「そんな事は無いです!私でよかったら」

「ふふっ、ありがとう」

 

奈々の言葉を聞いた玉子は、嬉しそうに笑いながらお礼を言う。

二枚目のクッキーに手を伸ばした奈々に、玉子は話しかける。

 

「奈々ちゃんは郎夜さんと暮らしてるのよね?」

「はい、そうです」

「郎夜さんから聞いてるわよ。すごくしっかりしてて、家事もできる良い子だって」

「そ、そんなことないですよ。私なんか…」

 

玉子から褒められた奈々は、顔を赤くして照れながら謙遜する。

それを見た玉子は、その可愛らしい仕草と様子に微笑ましく思い、さらに褒める。

 

「本当に偉いわね〜。ウチののびちゃんにも見習った欲しいくらいよ」

「大したことじゃないですよ。それに、私の方こそのび太くんに何時も助けてもらってばかりで…」

「へぇ〜、そうなの。あの、のびちゃんがねぇ〜」

 

奈々が言った言葉に玉子は驚いた表情を見せたが、すぐに嬉しそうな表情で頷いた。

それを見た奈々は、少し気になったことを聞いてみることにした。

 

「普段ののび太くんって、どんなふうなんですか?」

「気になる?」

「はい!あっ…」

「ふふっ、いいわよ。何から話そうかしらね〜」

 

玉子の問いに思わず勢いよく肯定してしまい、その後すぐに我に帰り恥ずかしそうに俯く。

それを見て微笑みながら、玉子は話し始めた。

それから時間にして数十分の間、玉子と奈々は話し続けていた。

途中から奈々も慣れてきて、2人はまるで本当の母娘のように親しくなっていた。

すると、お互いのお茶が無くなってしまったので、玉子がまたいれてこようと立ち上がろうとする。

その時に、誤ってテレビのリモコンのスイッチをいれる。

どうやら、たまたまニュースのチャンネルだったようで、画面の中では男性のキャスターが速報のニュースを読み上げていた。

 

「速報です。先程、東京都練馬区月見台で連続で一般人が襲われるという事件がありました。犯人は現在不明で捕まっておらず、またたまたま近くに居合わせた通行人は灰色の人影らしきものを見たと証言しています。被害者たちは皆重傷を負い、犠牲者も多数出ているとのことです。このことについて…」

「うちの近くじゃない⁉︎怖いわね〜、パパ大丈夫かしら…」

「…(これ、あの怪人たちの仕業だよね…)」

 

ニュースを見て夫の心配をしている玉子の横で、奈々はこの事件が先程のオルフェノクが起こしたものだと推測した。

少しの間考えて、そして決心をする。

 

「(私が戦う!今はのび太くんはとても戦える状態じゃないし、このまま放って置けない。それに…)」

 

戦う理由が、守りたいものが分かったと思った。

今までの奈々には自分自身の普通の暮らしを犠牲にしてまで、戦う理由が見つからなかった。

強いて言うならば、自分には力があるからという義務感や使命感にも似た、曖昧なものだった。

だが、今ならそれ以外の理由ができた。

先程までの2人での会話はとても楽しく、奈々からすれば新鮮で幸せな時間だった。

また、玉子ものび太のことを話している時は呆れたりしている場面もあったが、けれど最後には幸せそうな表情をしていた。

きっと、誰にでも大なり小なり自分なりの幸せ、というものがあるんだろうと思った。

しかし、それは時に少しの悪意で崩れ去ってしまう。

怪人などという超常の存在による悪意ならば、簡単に粉々に砕け散ってしまうだろう。

だから、自分が守りたいと感じた。

勿論、怪人だけではなく、悪意がなくとも病気や事故という仕方のない要因で、消えてしまうこともあるだろう。

全てを救えるわけではないが、だからと言って自分の手が届く所にまで手を伸ばさない理由にはならない。

人々の幸せを、それを脅かすものから守りたい。

それが、今の奈々が自分で見つけた戦う理由だった。

奈々はその目に力強い光を秘めながら、立ち上がる。

 

「あの、私用事があるので、これで失礼します」

「そうなの?でも、さっきのニュースの事もあるし、もうちょっとゆっくりしていったほうが…」

 

玉子は奈々を心配して、まだ家にいるように言うが、奈々は首を振る。

 

「ありがとうございます。でも、どうしても行かなくちゃいけないので」

「そう?なら仕方ないわね…」

 

奈々は玄関で靴を履くと、玄関の扉を開けようとする。

そこへ玉子が声をかける。

 

「そうだわ。今、雨が降ってるから、そこにある傘使って頂戴」

「でも…」

「いいのよ、別に。風邪を引いたら大変だし、傘は今度来た時にでも返してもらえればいいわ」

「玉子さん…はい!また来ます!」

「ええ!」

 

玉子の優しさに嬉しく思いながらそう言うと奈々は傘を一本持って外に出る。

すると、先ほどはまだ弱かった雨が強くなっていたので、傘をさす。

そして、今も襲われている町のある方に向かって駆け出した。

 

 

のび太の部屋

 

「う、うん…。ここは…?」

 

目を覚ましたのび太はまだ少し朦朧としながら、辺りを見渡す。

すると、視界に心配そうな表情のドラえもんの姿が映る。

目を覚ましたのび太に声をかけるドラえもん。

 

「大丈夫、のび太?」

「ドラえもん…?僕は何で…っ!」

 

意識が完全にはっきりしたのび太は今までの事を全て思い出し、布団から起き上がろうとする。

しかし、すぐにふらふらとして倒れてしまう。

そんなのび太を見たドラえもんは、心配のあまり少し大きな声をあげる。

 

「ちょ、ちょっとのび太くん⁉︎まだ完治してるわけじゃないんだよ!」

「で、でも…!僕がこうしてる間にも襲われてる人だっているんだ、だから!」

「…今までも、こうやって無茶してきたのかい?」

 

ドラえもんの制止を振り切って起き上がろうとするのび太だったが、ドラえもんの呟いた一言を聞いて固まってしまう。

ドラえもんの方を見れば、顔は俯いていて表情を伺うことは出来ないが、その言葉と雰囲気にのび太は動けなかった。

 

「どうなんだい、のび太くん?」

「…」

「そうなんだ」

 

その問いに沈黙で返したのび太を見て、ドラえもんは察する。

俯いているドラえもんだったが、何か感情を抑え込んでいるかの様に身体を震わせる。

その後、お互いに沈黙が続いたが、徐にドラえもんが口を開いた。

 

「どうして今まで何も言ってくれなかったんだい?」

「それは…」

「そんなにぼくが信用できなかったのかい?友達だと思ってたのはぼくだけだったのかい?」

「そんな事ないよ!」

「じゃあ、どうして‼︎」

 

ドラえもんの言葉に思わず声を荒げて返すと、ドラえもんはそれ以上に声を荒げて返した。

そこでのび太は、顔を上げたドラえもんの表情を見た。

それは怒っているような、悔しそうな、そして悲しそうな、そんな思いがごちゃまぜになっていた。

更に、目には涙が浮かんでおり、声も震えている。

 

「どうして何も言ってくれなかったんだい!どうしてぼくを頼ってくれなかったんだい!君のやってた事は新聞やテレビでやってたから、少しは知ってるよ。それがどれだけ危険なことかも!」

「巻き込みたくなかったんだ、皆を。これは僕がやるって決めた事だから。皆には平和に暮らしていて欲しかったんだ…」

「そんな…!ぼくだって、君に平和に暮らして欲しいと思ってるよ!いや、ぼくだけじゃない。ママやパパ、しずかちゃんやジャイアンにスネ夫だって、君にこんな危険な事をして欲しいなんて思ってないよ‼︎」

「…だけど」

 

自分の抱えていた思いを全て言ったドラえもんは、一度深呼吸して落ち着く。

のび太は、ドラえもんの言葉に何も言い返さない。

すると、ドラえもんは静かな口調で話し始める。

 

「もう、やめようよのび太くん。こんな危険なこと続けてたら、いずれ君は…」

「ごめん。でも、それは出来ないよ」

「のび太くん…。君がドジでバカで、だけど誰よりも優しくてお人好しなのは分かってる。けど、このままだと死ぬかもしれないんだよ⁉︎そんなの誰も望んでないよ!」

「死ぬつもりなんてないよ。僕は僕に出来る事をやるだけさ」

「のび太くん!」

「…ドラえもん、僕ね。この街と皆と、そしてこの世界が好きなんだ」

 

なお止めようとするドラえもんに向けて、のび太は話しだす。

自分の思いを、戦う理由を。

 

「この力を手に入れる時にいろいろあったんだけど。その時に分かったんだ。朝ママに叱られながら起きて、学校で先生に廊下に立たされて、ジャイアンやスネ夫にからかわれても、なんだかんだ皆と仲良くいられることが、優しい皆が周りにいることがどれだけ大切か。そして、その大切な事が当たり前のようにあるこの世界がどれだけ尊いか。だから、僕はそれを守る為に戦うんだ。どんな障害があっても、それを破壊しながらでも」

「のび太くん…」

 

全てを話すとのび太は部屋から出て行った。

ドラえもんは止めたいけれど、止められない。

のび太の思いを聞き、受け止めたから。

そんなドラえもんを置いて、のび太は下に降りていく。

時折、ふらつくが何とか降りきる。

そして、居間の前を通った時にあるニュースが耳に飛び込んできた。

それは先程、奈々が聞いたニュースと同じ内容だった。

それを聞いたのび太は家を飛び出し、一目散に駆けて行った。

 

 

スーパー

 

現在のび太の家から少し離れた場所にあるスーパーでは、阿鼻叫喚の嵐に包まれていた。

激しく雨が降るなか傘もささずに、大勢の人が悲鳴をあげながら我先にと逃げ惑う。

その後ろには、筋肉質の男性と肥満体のメガネの男性が立っていた。

そして、その周りには雨で水を多量に含んだ決して少なくない量の灰らしきものが見えた。

 

「すごい慌てようだね。こんな面白い光景そうそうないよ」

「そうか。俺としてはさっさと終わらせたいのだがな」

 

肥満体の男性の言葉に、筋肉質の男性は呆れながら言葉を返す。

周りが騒然としている中、この2人の態度は明らかに異常だった。

だが、そんな事を気にする余裕もなく逃げ回る人々を見ながら、会話は続く。

 

「まったく、あんたはもう少し楽しむ余裕を持ったらどうだよ?見ろよ!僕らたった2人相手に、あんな必死な表情で走り回ってさ!滑稽にも程があるよ〜」

 

肥満体の男性は心底面白いと感じているようで、目の前の光景を見ながらニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる。

しかし、筋肉質の男性はそれに何も言わず、無言で返す。

それを見た肥満体の男性は一転して冷めたような表情になる。

 

「まったく…分からない奴だな。まあ、いいや。そろそろ終わらせようか」

 

そう言うと、2人の姿が変異する。

筋肉質の男性はクロウオルフェノクとなり、肥満体の男性はレイオルフェノクとなる。

2体のオルフェノクは未だ逃げ回っている人々に向けてそれぞれクナイと蛇腹剣を持つと、クロウオルフェノクはクナイを投擲し、レイオルフェノクは蛇腹剣を振るう。

そのスピードはとても一般人が反応出来るものではなく、2つの凶刃は人々に向かって一直線に伸びていく。

 

「えいっ!」

 

しかし、それらは途中で間に入ってきた白い影、サイガによって弾かれる。

予想外の敵の出現に驚きながらも、2体は警戒しながら構える。

その間に人々は全員が逃げることが出来たようで、この場にはサイガと2体のオルフェノクしか残っていなかった。

 

「これ以上、あなたたちの好きにはさせない!」

「また邪魔者か…煩わしいことこの上ない」

「いいじゃん、いいじゃん。面白そうだし、暇潰しにはもってこいじゃない?」

 

クロウオルフェノクはまたしても邪魔が入ったことで苛つきサイガを睨みつける。

一方で、レイオルフェノクは軽く剣を振り回しながら、愉快そうに笑う。

そんな2体を相手にサイガは、いつでも動けるように油断なく構える。

 

「それに、1人でどうしようっていうのさ?2対1で勝てるとでも?」

「勝ってみせる!」

「威勢はいいな…だが!」

「それだけじゃどうにもならないよ!」

 

レイオルフェノクの言葉にも怯むことなく、逆に闘志を漲らせるサイガ。

対して2体のオルフェノクは瞬時に動き出し、地面を蹴って加速する。

そして、2体同時にサイガに迫ろうとした、次の瞬間!

 

「1人じゃないさ」

「ぐおっ⁉︎」

「ぎゃっ⁉︎」

「えっ、のび太くん⁉︎」

 

突如として2体の身体から火花が散り、思わず後ずさる。

サイガが振り向くと、そこにはびしょ濡れの状態でガンモードのライドブッカーを構えたのび太の姿があった。

それを見て、サイガは思わず驚きの声を上げる。

 

「のび太くん、なんでここに⁈」

「怪人が出たってニュースで見てさ。だったら、僕が来ないわけにはいかないでしょ」

「駄目だよ!今ののび太くんが万全じゃないことなんて、私でも分かるよ。それなのに戦わせることなんて出来ないよ!」

 

サイガは、まだ怪我が治りきっていないのび太が戦うことに反対の意を唱える。

実際に今ののび太が万全の状態ではないことなど明らかだった。

顔色も表情も優れず、足下もどこかおぼつかないようで危なっかしい。

だが、のび太の瞳には強い意志と覚悟の光が宿っていた。

 

「確かに怪我は完全に治ってないし、調子もかなり悪いよ。今にも倒れそうくらいだよ」

「だったら…!」

「でも、戦わないっていう選択肢はないかな。もう何も失いたくないし、戦わずに後悔なんてしたくないんだ。なにより…」

 

そこまで言うとのび太は敵意剥き出しでこちらを睨んでいるオルフェノク達の方に向き直るとディケイドライバーを腰に巻き、ライドブッカーからカードを取り出す。

そして、そのカードを前方に突き出しながら構える。

 

「僕が仮面ライダーだから!ライダーが逃げたら、誰が戦うのさ」

「のび太くん…」

「…変身!」

 

のび太がディケイドライバーにカードを装填すると周りに14の影が現れ、それが重なるとのび太は仮面ライダーディケイドへと姿を変えた。

ディケイドはライドブッカーをソードモードにすると、その刀身を撫でるような仕草をする。

すると、その横にサイガが並ぶ。

 

「のび太くん。死なないでね…」

「うん、分かってるよ。奈々ちゃんも気を付けてね。じゃあ、行くよ!」

 

そう言うと、ディケイドとサイガは同時に駆け出し、オルフェノク達の方へと向かう。

すると、レイオルフェノクはその行く手を阻むように2人に対して蛇腹剣を振るう。

しかし、ディケイドはライドブッカーでそれらを弾きながら、サイガは空中で回転したりなど郎夜直伝のアクロバティックな動きで回避しながら進む。

そして、蛇腹剣による刃の嵐を切り抜けると、今度はクロウオルフェノクがクナイを構えていた。

それを見たサイガはさらに加速し自身が出せるトップスピードまでだすと一気にクロウオルフェノクに接近し、今にもクナイを投げようとしていた腕を蹴り上げる。

そして、そのまま跳び上がり体を捻りながら、飛び回し蹴りを浴びせる。

クロウオルフェノクはそれを蹴り上げられた腕とは逆の腕で辛うじて防御するものの、途轍もない加速から繰り出された蹴りの威力に吹き飛ばされる。

 

「何っ!」

「お前の相手は僕だ!」

 

あっさりと吹き飛ばされたクロウオルフェノクの方に一瞬注意を向けたレイオルフェノクの目の前に、ライドブッカーを振りかざしたディケイドが飛び出してくる。

レイオルフェノクはそれに毒づきながらも、蛇腹剣を鞭のような状態から剣の状態に戻すと、ディケイドの斬撃を受け止める。

 

「あれれ〜、随分と弱ってるみたいだね?全然、力が籠ってないよ〜」

「うわっ!」

 

レイオルフェノクはライドブッカーをあっさりと受け止めると、それを弾く。

そして、ガラ空きになった胴を連続で斬りつける。

 

「ふんっ!」

「ぐあぁぁぁっ‼︎」

 

さらに、さんざん斬りつけたディケイドの身体を思いっきり蹴飛ばす。

ディケイドは先程までの攻撃のダメージもあり、かなり遠くまで吹き飛ばされる。

 

「あれあれ?軽く蹴ったつもりだったんだけど、結構飛んでっちゃったな〜」

「く、くそっ…」

 

レイオルフェノクのいちいち煽るような口調に苛つきながらも、ディケイドは身体に力が入らず立ち上がることが儘ならない。

レイオルフェノクは、そんなディケイドに向かってゆっくりと近づいていく。

それを見たサイガは、ディケイドの方へ向かおうとする。

 

「のび太くん!」

「お前の相手は俺だ!」

 

しかし、クロウオルフェノクは問答無用で攻撃を仕掛け、それを許さない。

サイガはそれを躱しながら攻撃をするものの、相手もそれらを的確に見切り、躱していく。

お互いに手数と速さで戦うことを得意とするためか、なかなか有効打を決めることが出来ない。

結果として、決着が長引くという状況になっていた。

 

「(どうしよう、早くのび太くんの方に行かないといけないのに…!)」

「この状況で仲間を気にするとは、余裕だな‼︎」

 

奈々は早くのび太の元へ行かなければという思いから、知らず知らずの内に焦りが生じる。

それを見抜いたクロウオルフェノクは両手のクナイを構えて、一気に接近する。

 

「しまっ…⁉︎きゃっ‼︎」

 

接近してくるクロウオルフェノクを見て迎撃しようと拳を放つが、焦りで単調になったそれを躱すとすれ違いざまにサイガを切り裂く。

さらにそこから反転し、隙だらけの体勢のサイガに凄まじい速度で連続で斬りつける。

そして、最後に十字を描くように切り裂くと、サイガはその衝撃で倒れる。

 

「う、ううっ…!」

「それだけの攻撃を受ければ、流石に厳しいだろう。戦闘の技術自体は中々だが、精神的に追いつけていないな」

 

倒れているサイガを見下しながらクロウオルフェノクはそう言うと、右手に持つクナイを振り上げる。

サイガはどうにかしようとするが、身体が言うことを聞かず動かない。

そして、クロウオルフェノクは無情にも、その右手を振り下ろす。

 

「終わりだ」

「っ‼︎」

 

振り下ろされるクナイの剣先を見つめながら、サイガの脳裏にある光景がよぎる。

師匠である郎夜、想いびとであるのび太、自分を娘のように思ってくれる玉子、そして…

 

(奈々……)

 

「何⁉︎」

 

クロウオルフェノクは目の前の光景に目を見開く。

そこには先程までは死に体だったサイガが、自身の振り下ろしたクナイを白刃取りで受け止めていた。

 

「くうぅぅぅっ!てえぇぇい‼︎」

「うおっ⁉︎」

 

驚いているクロウオルフェノクをよそに、サイガは更に力を入れてそのまま後方へと投げ飛ばす。

そして、すぐさま立ち上がり、クロウオルフェノクの方を向く。

 

「終われない‼︎あの人に生かしてもらったこの命、終わらせる訳にはいかない‼︎」

 

サイガはそう力の限り叫ぶと、背部のフライングアタッカーで空へと飛翔する。

そして、どんどんと加速しながら昇っていく。

それを見たクロウオルフェノクも負けじと飛び上がり、後を追う。

しかし、そのスピード差は歴然で全く追いつけない。

一方サイガはかなりの高度まで来ると、その場で反転すると今度は地面に向かって落ちるように飛ぶ。

その途中、サイガは自身のバックルのサイガフォンを開くと、Enterキーを押す。

 

《exceed charge》

 

すると、サイガフォンから全身のフォトンストリームVer.2を伝って、右手にフォトンブラッドが集中する。

サイガは青く光る右手を後ろに引きながら、視線は前を見据える。

そして、こちらに向かってくるクロウオルフェノクの姿を視認する。

こちらを見て驚くクロウオルフェノクに向かって、後ろに引いた右手を落下の速度と合わせて力一杯撃ち出した一撃“スカイインパクト”を放つ。

その威力はクロウオルフェノクに大きな風穴を開け、声を上げる暇もなくその身体をΨの文字と共に灰化させる。

サイガは空中でスピードを緩めながら地面へと着地する。

しかし、完全にスピードを殺しきれなかったのか地面が陥没する。

 

「のび太くんの所に行かなきゃ!」

 

本人はそれを気にする余裕もなく、ディケイドが戦っている方向へ向かった。

一方で、ディケイドとレイオルフェノクの戦いは完全にディケイドの劣勢だった。

本調子のディケイドならば特に苦戦もせずに勝てるのだろうが、今は治りかけとはいえレイオルフェノクの毒に侵されている状態だった。

いくらディケイドでも、かなり無理があった。

そんなディケイドを鞭状の蛇腹剣の猛攻が襲う。

 

「くっ、ううっ、駄目だ、力が…」

「ほらほらどうしたのさ?もっとちゃんとやらなきゃ死んじゃうんじゃない?」

 

余裕綽々なレイオルフェノクは軽口を叩きながら蛇腹剣を振り回す。

ディケイドはライドブッカーで何とかギリギリ防御しているが、それが長くは続かないだろうことは明らかだった。

その状況をどうにかしようと、一枚のカードを取り出す。

 

《ATACKRIDE SLASH》

「だあぁぁっ!」

 

ディケイドはライドブッカーの斬撃を強化すると、その威力で一気に蛇腹剣を斬り払おうとする。

しかし、その大ぶりな斬撃は空を切り、逆にライドブッカーを絡め取られてしまう。

 

「しまった⁉︎」

「ははっ!それそれそれぇ‼︎」

「があぁぁぁっ!」

 

そのままライドブッカーはディケイドの手を離れ、少し離れた場所に落下する。

無防備になったディケイドに向かって、蛇腹剣がうねりを上げて襲いかかる。

碌に防御も回避もする体力がないディケイドではどうすることもできず、なす術もなく喰らい続ける。

そして、ボロボロになったディケイドをその刃の鞭で縛り上げる。

 

「ぐあぁぁぁ…!」

「痛い?そりゃそうだよね〜。痛いに決まってるよね、僕だったら泣いちゃうかも〜」

 

痛みに苦しむディケイドを見ながら、相手をおちょくるような喋り方で話す。

そして、縛り上げる強さを強め更に苦しむ様を見ながら、ケラケラと笑う。

 

「ああ、面白かった〜。なかなか悪くない暇つぶしだったよ。じゃ、そろそろ死んでもらおうかな?」

「う、うあ…‼︎」

「このまま上半身と下半身を真っ二つにしてあげるよ」

 

ギリギリと音を立てながら更に強く縛られるなか、ディケイドの意識はもう既に限界に近かった。

視界は暗く霞んでいき、意識は朦朧とする。

そして、意識が完全に途切れようとした瞬間…

 

「ドカーン!」

「ぐはっ⁉︎」

「うっ、ゲホッ、ゲホッ!い、今の、まさか…」

 

突然、レイオルフェノクが何かに吹き飛ばされる。

それにより開放されたディケイドは咳き込みながら、自分が聞いた声の主を思い浮かべながら驚いて顔を上げる。

 

「大丈夫かい、のび太くん!」

「ドラえもん…なんで」

 

右手に銀色の筒“空気砲”をはめたドラえもんが大慌てでこちらに駆け寄ってくるのが見える。

それを見たディケイドは思わずそう口にする。

しかし、声が小さかったためか聞こえなかったようだった。

 

「傷だらけじゃないか!早く治さないと!」

「ま、まってよ!今はそれよりも先にあいつをなんとかしないと。じゃなきゃ、危ないよ」

「はっ、そうだった」

 

慌てているのか敵の目の前で治療を始めようとするドラえもんを止める。

その様子に慌てると相変わらずだな、と思いながら立ち上がる。

それを見てドラえもんは心配そうな表情になる。

 

「のび太くん、あまり無理は…!」

「あいつを倒さないことには、そうも言ってられないよ。だから、ドラえもんは危ないから離れて…」

「いや、ぼくも一緒に戦うよ」

「ド、ドラえもん⁉︎」

 

ドラえもんの申し出に驚き、慌てる。

いくら秘密道具を持っていてもドラえもんは戦うためのロボットではない以上、危険は大きいだろう。

そんなことをさせる訳にはいかないために止めようとするが、今のドラえもんには何を言っても聞かない。

それが一緒に暮らしてきたのび太にはわかった。

 

「ぼくはのび太くんみたいな物凄い力があるわけでもないし、戦いに慣れているわけでもない。でも、ぼくには友達を見捨てるなんてことはできない。それに…」

「ドラえもん?」

 

ドラえもんはディケイドに向かって微笑みかけながら、さも当然のように言い放つ。

 

「ぼくは君を助けるために未来から来たんだぞ。僕は何があっても君の味方さ」

「ドラえもん…!」

「さあ、さっさとあいつをやっつけちゃおう!」

「ああ!」

 

ディケイドは拳を構え、ドラえもんは右手の空気砲を向ける。

レイオルフェノクは急に現れたドラえもんに困惑していたが、殺してしまえば一緒かと考えて蛇腹剣を構える。

 

「さっさとやっつける、ね。随分と嘗めてくれるじゃないか、青ダヌキくん」

「ぼくはタヌキじゃない!猫型ロボットだ!」

「そうなの?まあ、どっちでも変わらないよ。死んだらね!」

 

そう言いながら、不規則な軌道で蛇腹剣が襲いかかる。

それを見たドラえもんはポケットに両手を入れると、空気砲の代わりに表が赤色、裏が青色のマントを取り出す。

 

「ひらりマント〜!」

「なっ⁉︎」

 

ドラえもんがそのマント“ひらりマント”を振ると、こちらに迫っていた蛇腹剣が無理やり跳ね返されたような軌道を描いてレイオルフェノクに向かう。

レイオルフェノクは目の前の光景に目を疑うが、そんなことをしてる間に返された蛇腹剣が自身を傷つける。

ドラえもんをそれを見て、力強く声を張り上げる。

 

「どうだ!参ったか!」

「(いや、まだだ。まだ倒れるほどのダメージじゃないはず)」

 

しかしディケイドの考えた通り、レイオルフェノクは多少ふらつくもののあっさりと立ち上がる。

そして、その様子からかなり怒っているということが嫌でもわかる。

 

「よくもやってくれたね…死に損ないとタヌキの分際でぇ‼︎」

「だから、ぼくはタヌキじゃないやい!」

 

怒り心頭の様子で叫びながら剣を振るうレイオルフェノクに負けじと声を張りながらひらりマントで返すドラえもん。

しかし、今度は自らの剣を返されても動揺を見せることはなく、さらに剣を振るう。

 

「わっ、おっと、あわわっ⁉︎」

「返されることさえ分かっていれば、返された後でまた軌道を修正すればいい。それに、そんな防御がいつまでもつかな」

 

先程とは違い剣を跳ね返されても、その後また軌道を修正するので、レイオルフェノクには剣は届かない。

また、ひらりマントが一方向にしか防御できないことを利用して上下左右から縦横無尽に振るうので、それら全てに対応せざるを得ないドラえもんはかなりのペースで体力を消耗させられる。

ディケイドは自身から少し離れた所にあるライドブッカーを拾いに行こうとする。

しかし、レイオルフェノクはそれを許さない。

 

「そんなことはさせないよ!」

「うわっ!」

「のび太くん!」

 

自分に向かってきた剣を半ば後ろに倒れるように回避する。

更にそこから、相手が畳み掛けてくるがそれはドラえもんがカバーに入り、全て捌ききる。

 

「のび太くん、大丈夫⁉︎」

「僕は大丈夫。だけど受けてばかりじゃ、ジリ貧になる。空気砲の威力じゃ、あいつを倒しきるには今ひとつ足りない。武器も拾えないし、ここから動かずにあいつに十分な威力で攻撃出来たら…」

「ここから動かずに…だったら、あれで!」

 

ドラえもんはディケイドの言葉を聞いて何か思いついたようで、ポケットにまた手を突っ込む。

そして数秒後、探していた目的の物を取り出すとディケイドに差し出す。

 

「はい。これ使ってあいつを思いっきり殴るんだ!」

「それってどういう…」

「いいから早く!」

「何をゴチャゴチャと‼︎」

 

差し出されたものに困惑するディケイドだったが、ドラえもんが急かしたことと今の状況を思い返し、それを両手に嵌めた。

そして、そのまま拳を繰り出すような動作をした。

すると、驚愕の光景が飛び込んできた。

 

「がっ!な、なんだ!」

「ほ、本当に当たった…!」

 

ディケイドが拳を突き出した次の瞬間、レイオルフェノクはまるで殴られたかのように後退した。

しかし、レイオルフェノクには何がどうなったいるのか理解できず、辺りをキョロキョロと慌ただしく見回す。

一方で驚いていたディケイドにドラえもんが得意げに説明する。

 

「それはマジックハンドと言って、それをつけると離れた所にある物を触ったり、動かしたり、掴んだりできるんだ。だから、それであの剣から離れて攻撃できるってわけ」

「なるほどね。こりゃ、すごいや」

 

ディケイドは両手に嵌めたどこか機械的な印象の手袋“マジックハンド”を見ながら呟く。

そして、未だに混乱の渦の中にいるレイオルフェノクに更に拳を振るう。

 

「はあぁぁぁ!」

「うがっ、ごふっ、ぐえっ⁈」

 

レイオルフェノクには謎の攻撃に晒されているとしか認識できず、どうにかしようと思うがその激しさに何もできない。

ディケイドは、更にスピードを上げながら連撃を叩き込み続ける。

もうほぼ限界と言ってもいいディケイドには、ここで決めに行く以外にもう手はなかった。

 

「だぁっ!」

「がはぁぁっ!」

 

そして、ディケイドが顔面めがけて振り抜いた一撃で、レイオルフェノクは吹き飛ばされる。

その様子はかなり弱々しく、もう剣を持つのもやっとのようだった。

 

「のび太くん、これを!」

「おっと。ありがとう、ドラえもん!」

 

ディケイドが攻撃してる間に、ピンク色の肩掛けチェーンのついた婦人用バッグの形のどんなに離れたものでも回収できる秘密道具“とりよせバッグ”でライドブッカーを回収したドラえもんはディケイドに投げ渡す。

受け取ったディケイドはお礼を言いながらライドブッカーをガンモードにして、更にカードをドライバーに装填する。

 

《FINALATACKRIDE DE・DE・DE・DECADE》

「く、くそ!」

 

ドライバーの音声がなると共にディケイドの前にカード型エネルギーが15枚並ぶ。

それらを見て危険を察したレイオルフェノクは逃げ出そうと、その場から背を向ける。

しかし、その前にディケイドの後ろにいたドラえもんが動いた。

 

「ロ!」

 

ドラえもんが大声で叫ぶ。

すると、ドラえもんの目の前に急にカタカナのロの文字をした物体が現れ、音速で飛んでいく。

そして、そのロの文字は逃げ出そうとしていたレイオルフェノクの身体にすっぽりと嵌り、動きを封じ込める。

 

「今だ!」

「う、うわあぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

その隙を見逃さなかったディケイドは、ガンモードのライドブッカーから撃ちだすエネルギー光弾“ディメンションブラスト”を放つ。

その光弾はカード型エネルギーを通るごとに巨大になっていき、全てのエネルギーを通過した光弾はレイオルフェノクの体を貫く。

それにより、レイオルフェノクは悲鳴にも似た叫び声を上げながら爆発を起こした。

それを見たディケイドは変身を解いて、のび太の姿に戻った。

 

「やったね、のび太くん!」

「うん、そうだね。あ…」

「のび太くん⁉︎」

 

戦いが終わったことを笑顔で喜ぶドラえもんにのび太も笑顔で返そうとするが、身体に力が入らなくなり倒れてしまう。

ドラえもんは慌てながらそれをなんとか受け止めて、心配そうにする。

 

「ちょっと、無理しすぎたかな…?」

「あんまり心配させないでよ…」

「うん、ごめんね。ドラえもん」

「のび太くん!」

 

弱々しい様子でのび太が謝ると、後ろからサイガが走ってきた。

そして、のび太の傍にいるドラえもんに気付くと驚く。

 

「なんでドラちゃんがここに⁉︎」

「え、ええっと…どちらさまですか?」

 

途轍もないスピードで走ってきたサイガを警戒していたドラえもんだったが、相手に戦おうとする意思がなさそうだと判断する。

どころか、自分のことを知ってるような口ぶりに、こんな知り合いいたっけかなと考え始める。

最初はわからなかったものの、その声である人物が1人思い浮かんだ。

ドラえもんは恐る恐る尋ねてみる。

 

「もしかして、奈々ちゃん?」

「う、うん…」

 

正体がばれたサイガは変身を解除する。

ドラえもんは自分の予想通りの人物だったことに、驚きを隠せないでいた。

 

「君も、のび太くんと同じように…?」

「まあ、そんなところかな。それより、のび太くんは!」

 

ドラえもんの質問に曖昧に答えると、奈々は横に来てのび太の顔を覗き込む。

その表情はドラえもんと同様に心の底から心配しているようだった。

のび太はそれを見ながら心配をかけて申し訳ないという思いと共にここまで自分のことを心配してくれて嬉しく思った。

だから、その2人の心配を少しでも和らげようと口を開く。

 

「大丈夫だよ、2人とも。確かに無理はしたけど、そこまで酷くはないよ。ちゃんと休めば治ると思うから」

「本当…?」

「うん、本当。だから、心配しないでよ。ね?」

 

2人にはまだ不安が残ってるようで、表情はなかなか晴れない。

それに対してのび太は本当に大丈夫だということをもう一度言って、微笑みかける。

 

「っ!あ、あう…。そ、それなら、良かった…」

「顔赤いけど、奈々ちゃんの方こそ大丈夫?」

「えっ⁉︎だ、大丈夫、大丈夫。何でもないから!本当だよ!」

 

のび太の微笑みを見て顔を赤くする奈々を見てのび太は逆に心配するが、本人が物凄い勢いで否定するので納得する。

そして、ドラえもんの方を向くと、ドラえもんの表情も先ほどよりかは晴れていた。

 

「ドラえもん」

「なんだい?」

「ありがとう、助けてくれて。正直、ドラえもんがいなきゃ危なかったよ。だから、ありがとう」

「のび太くん…」

 

のび太はドラえもんに感謝の言葉を伝える。

今、自分が抱いている偽りのない本心を。

ドラえもんに今まで大きな隠し事をして騙してきたというのに、ドラえもんはそんな自分の事を自分が危険に晒されることを承知で助けに来てくれた。

どれほど感謝しても感謝しきれないほどだった。

ドラえもんはのび太の言葉を聞くと、笑みを浮かべる。

 

「さっきも言ったけど、ぼくは君を助けるために22世紀の未来からやってきた猫型ロボットだぞ?だから、そんなの当たり前だよ」

「ドラえもん…!うん!これからもよろしくね!」

「こちらこそ!」

 

その言葉を聞くとのび太の心に温かいものが生まれた。

そして、それが分かるとのび太の意識は途切れた。

眠るように気を失ったのび太を見て、奈々が慌てて声をかける。

 

「のび太くん、のび太くん!」

「大丈夫。気を失っただけみたいだ」

 

慌てふためく奈々を宥めると、ドラえもんは気を失ったのび太を背中に背負うと立ち上がる。

それを見ると、傍にいた奈々も立ち上がる。

 

「じゃあ、ぼくはのび太くんを連れて家に帰るよ。奈々ちゃんは?」

「私もついて行きたいけど、帰らなくちゃいけないから。のび太くんのこと、お願いね?」

「任せてよ。じゃあ、気を付けてね!」

「うん、じゃあね!」

 

そう言うと、お互いに別々の道へと歩き出した。

いつの間にか雨は止んでいたようで雲の晴れた空に浮かぶ夕陽に照らされてできた影が、その姿を見守っていた。

ドラえもんは周囲がオレンジに染まるなか、自分の背にいるのび太に届くことはないと分かっていながら優しく呟く。

 

「何があってもぼくと君は親友だよ、のび太くん」

 




何だか今回はいつもよりも文字数が多くなってしまいましたかね?自分が書くと、いつもいつも長くなってしまうような…。そして、のび太とドラえもんメインの筈が、いつの間にか奈々の話みたいになってしまった気がしてならないです。どうしてこうなった…。戦闘もディケイドの方は最後がかなり味気ないものになってしまいました。秘密道具って、仮面ライダーが絡むとどれもチートみたいになってしまって…。あと、今回の2体のオルフェノクの解説を入れておきますね。

クロウオルフェノク
カラスの特徴を持ったオルフェノク。背中に翼を出して、飛行することも可能。武器は少し変わった形状のクナイ。戦闘ではこのクナイを投擲したり、逆手に持っての近接戦を得意とする。

レイオルフェノク
エイの特徴を持ったオルフェノク。鋭い針を持った長い尾を持っており、それを戦闘に使うことも可能。武器は蛇腹剣。鞭状にしたり、普通の剣にしたりすることで直ぐに射程を変えられる。戦闘では鞭状の蛇腹剣で距離をとって一方的に攻撃するのが得意。

さて、次はやっと劇場版に入ることができます!以前、大分前にやったアンケートで決まった新宇宙開拓史です。自分もこの映画はかなり好きな部類に入る映画なので、すごく楽しみな反面うまく出来るか非常に不安ですが、皆様の期待に応えられるよう頑張らせていただきます。では、次回予告といきましょう。

いつも通りの日常を過ごすのび太だったが、ある日不思議な夢を見る。謎の宇宙船の悲惨な事故の夢。それは夢と呼ぶにはどこかリアル過ぎて…。そんなある日の夜中、のび太の部屋の畳の裏にある変化が…!
次回、映画ドラえもん 真・のび太の宇宙開拓史
全てを破壊し、全てを守り抜け!

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