ドラえもん のび太の仮面冒険記   作:Δデルタ

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どうも、最近オーレンジャーの虹色クリスタルスカイに嵌っているΔデルタです。ようやく、劇場版の話に入ることが出来ました。ここまで長かった…、主に自分の不定期更新の所為ですが…。それでは劇場版第2作目、真・のび太の宇宙開拓史をどうぞ!


映画ドラえもん 真・のび太の宇宙開拓史
エピソードⅠ


宇宙空間

 

地球から遥かに遠く離れた宇宙。

その広大な空間の中を飛行する巨大な宇宙船があった。

その大きさは地球ではまずお目にかかれないであろうというくらいのサイズだった。

その巨大な宇宙船の操縦室に少々年配と思われる男性の声が響く。

 

「これよりワープを開始する!」

 

すると、その宇宙船が光に包まれ始める。

そして、完全に光に包まれるとその宇宙船はワープしたことにより、その場所から姿を消していた。

そんな宇宙船のある一室、沢山の草木に覆われ、変わった動物達が数多くいる部屋。

その部屋で、藁の敷かれた地面の上で風船のように丸いパンダに似た動物の世話をしている少女がいた。

その少女は明るい赤色の髪に緑色の瞳、そして胸にはその瞳と同じ緑色のペンダントがぶら下がっていた。

その時、近くの茂みから少女よりも年下に見える緑色の髪を持つ幼い少年と空を飛ぶウサギのような丸っこい生き物が飛び出してきた。

どうやらアフロ頭を持つタツノオトシゴのような生物を追っかけて遊んでいるらしく、元気いっぱいな様子でウサギのような生き物と共に走り回っていた。

 

「ロップル、待ちなさい!」

 

それに気付いた少女は立ち上がるとその幼い少年、ロップルに声をかける。

しかし、ロップルは止まる様子はなく、なおも走り続ける。

それを見た少女は、ロップルを追いかける為に走りだした。

 

「走らないで、危ないわよ!」

 

自身の前を走るロップルにそう声をかけ続けるが、それでもロップルは止まることはなかった。

少女はそれで少し意地になったのか、周りの動物たちが驚くのも構わずに走り続ける。

しかしそれも最初のうちだけで、途中からは少女もだんだん楽しくなってきたのか表情は笑顔になり、その声も笑い声に変わっていった。

そうして追いかけっこを続けていると、ロップルが不意につまづいて転ぶ。

しかし、地面が柔らかい芝生だったためか特に怪我などもしていないようだった。

そこに少女とウサギのような生き物が近寄ってくる。

 

「ほら見なさい」

 

少女はロップルを気遣うように座り込む。

そして、ロップルの様子を見て怪我をしていないことが分かると安堵の息を吐く。

その時、部屋が…否、宇宙船全体が不自然に揺れ始める。

周りの動物たちが、驚いてあたりを見渡す。

 

「なに、なに?どうなってるの?」

「大丈夫よ、きっと…」

 

ロップルの頭にしがみついているウサギのような生き物が戸惑いの声を上げる。

ロップルも声には出していないがかなり戸惑っていた。

そんな2人を安心させようとするも、少女にも何が起こっているか分からず、その言葉は自信なさげだった。

ふと、部屋にある窓から外を見てみると、そこには自分の見慣れた宇宙の星空ではなく灰色の雲のようなものが渦巻き、時折稲妻が走っている空間だった。

その稲妻が走るたびに部屋の動物達が怯え、群れで固まってい縮こまっていた。

 

「何が起こってるの…?」

「私にも分からない、でも…」

 

すると、船中の警報機が赤く点滅し始め、耳をつんざくようなアラート音が鳴り始める。

それを聞いた少女は緊急事態であることを何となく理解し、ロップルを自分の背に背負う。

 

「行くわよ、ロップル」

「どこに?」

「お父さんのところよ」

 

ロップルを背負った少女はその部屋を飛び出すと、宇宙船の最前部にある操縦室に向かって走り出した。

途中、さまざまな人から好奇の視線を向けられるも、それらを気にせずにただひたすらに走り続ける。

そして、操縦室にたどり着くと同時に会話が聞こえてきた。

 

「バーンズ博士、まさかこの嵐の中に…⁈」

「誰かがやらなければならないんだ。ならば、私が行くしかない」

「無茶だ!」

「それでも私は行く」

 

少女には何を話しているのかは全くわからないが、何故だか嫌な予感がする。

そう思った少女はロップルを下ろすと、宇宙服をきたバーンズ博士と呼ばれた男性のもとへと駆けよっていく。

 

「お父さん!何があったの?」

「モリーナ、ここに来ちゃ駄目だと言っただろう」

 

バーンズ博士は少女、モリーナを咎めると宇宙服用のヘルメットを手に取ると外へと出るための出入口に向かう。

それを見たモリーナはこのまま行かせてはいけない、そうしなければ2度と会えなくなってしまうような気がした。

咄嗟に父を呼び止めるモリーナ。

 

「待ってよ、お父さん!どうする気なの!」

 

バーンズ博士はモリーナの不安そうな表情を見ると、微笑みを浮かべながら、優しく頬を撫でる。

そして、安心させるように優しい声音で話しかける。

 

「大丈夫。こう見えても宇宙船をいくつも作ってきたんだぞ?心配しなくてもいい」

 

それでも不安が残っているモリーナの表情は晴れない。

すると、ロップルがモリーナの横に来るとバーンズ博士に話しかける。

 

「気をつけてね、おじさん!」

「ああ、ありがとう」

 

ロップルのエールに頼もしげに頷くと、バーンズ博士は船内と出入口を繋ぐ扉のハッチを閉める。

そしてヘルメットを被り、自身の身体と宇宙船を1本のケーブルで繋くと、修理用具を持って外に出る。

嵐のあまりの激しさに何度も吹き飛ばされそうになるものの、何とか船にしがみつきながら破損している部位までたどり着く。

そこからの修理作業は順調だった。

何度も何度も身体を揺られても、手元は着々と作業を進めており、修理が終わるのも時間の問題であった。

少しすると、操縦室の乗組員の1人が声を上げる。

 

「ブースター動きました!」

「よし、ワープから抜け出すぞ。準備を急げ!」

「はい!」

 

バーンズ博士の作業を見守っていた少々年配の男性と太っている男性は自らの仕事を全うするため位置に着く。

モリーナはバーンズ博士の作業を心配そうに見守っていた。

その時…

 

「っ⁉︎う、うわぁっ!」

「お父さん!」

 

稲妻状となったエネルギー波が作業中のバーンズ博士を襲う。

その際に、船から手を離してしまい宙に投げ出されてしまう。

なんとかしようにも、もう自分の力ではどうしようもない。

 

「くっ!急げ、急ぐんだ‼︎」

 

モリーナの声でバーンズ博士の状態を察した男性は急いで準備を完了させて、この空間から抜け出すためにブースターを全開にする。

一方バーンズ博士の方は、エネルギー波に襲われながらも何とか耐えようとしていた。

だが次の瞬間、船と自身を繋いでいたケーブルが途中で千切れてしまった。

 

「お父さん⁉︎誰かお父さんを助けて‼︎」

「おじさん!」

 

モリーナの声で事態に気付いたが、時すでに遅し。

誰も助けに行けないまま、バーンズ博士は嵐の中に吸い込まれていってしまった。

船員たちはその光景を見ていることしかできなかった…。

 

 

のび太の部屋

 

「起きてよ、のび太くん」

「うん…?」

 

野比家ののび太の部屋では、昼寝しているのび太をドラえもんが起こそうとしていた。

その横では、幸がその様子をクスクスと笑いながら見ていた。

のび太はまだ寝ぼけてるようで、半目だけ開けながらもぼーっとしているようだった。

 

「のび太くん!」

「ん……あれ?」

 

ドラえもんが一際大きな声で名前を呼ぶと、のび太は完全に目を覚まして、身体を起こす。

のび太が目を覚ましたことでドラえもんは大きなため息を1つ吐いた。

 

「はぁ〜、やっと起きた〜」

「相変わらず眠りが深いね、のび太は」

「ん〜、あぁ。なんだ夢か…」

「何が?」

 

笑いながら幸がのび太にそう言う。

目を覚まして言ったのび太の言葉に反応したドラえもんが、のび太に聞き返す。

 

「おかしな夢を見たんだ。宇宙船がワープ中にエネルギー波の嵐に襲われて、それで…」

「随分と壮大な夢だね」

「でも、夢にしては妙にリアルだったような…」

 

のび太の説明を聞いて、幸がそう感想を述べる。

しかし、のび太にはあの夢がどうしても気になり、考え始める。

だが、それをドラえもんが中断させる。

 

「のび太くん、のび太くん。今はそれよりジャイアンだよ!」

「え?」

「そうだったね。剛田君がのび太のこと呼んでたんだってさ」

 

どうやらジャイアンがのび太のことを呼んでいるらしく、ドラえもんはそれを伝えるために起こしたそうだ。

それを聞いたのび太は面倒くさいなと考えつつも立ち上がって、部屋を出ようとする。

 

「幸ちゃんは来る?」

「いや、僕は源さんと一緒に宿題する約束してるから。悪いね、のび太」

「そうなんだ。でも、幸ちゃんがクラスのみんなと上手くやっていけてるみたいだし、安心したよ」

「僕からしたらそれくらいわけないよ。それよりも、早く行った方がいいんじゃない?」

「そうだよ、のび太くん」

 

幸とドラえもんにそう言われて、のび太は部屋を出て行く。

それに続いてドラえもんもそのあとを追っていった。

幸はそれを見届けると、静香の家に行く準備を始めた。

 

 

空き地

 

「大変だ。わがジャイアンズの球場が中学生に乗っ取られた」

 

ジャイアンはのび太が着いて早々そんなことを言う。

どうやらいつもの野球のメンバー達から話を聞くと、いつも野球をするのに使っている空き地が近所の中学生の集団に奪われて、追い出されてしまった。

そこで、空き地を取り戻す交渉をするためにのび太を呼んだようだ。

つまり、厄介ごとをのび太に全て押し付けようとしていたようだ。

 

「(こんな事だろうと思った…)」

 

全てを理解したのび太は心の中でため息を吐く。

そんなのび太の心中など知らず、ジャイアンは話を続ける。

 

「そういう訳で、お前を我がジャイアンズの代表に任命する!」

「中学生から球場を取り戻してこい!」

 

ジャイアンとスネ夫に背中を押されて無理やり行かされる。

周りから見えないように悪態を吐きながら、近くにいる中学生の1人に話しかける。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「ああん?」

 

その中学生がかなりの強面だったので、振り向いた瞬間ほかのメンバーは全員隠れる。

しかし、のび太は特にビビりもしてなかったので、どうしようかなと考えながら話を切り出す。

 

「僕たちもここで野球がしたいんですけど」

「何だと!」

 

強面の中学生がそう叫ぶと、他の中学生もぞろぞろと集まりはじめる。

のび太は心の中でまいったなぁと弱音を吐く。

どうやらあまり聞き分けの悪そうな中学生たちのようで、こういうタイプは特に年下から何か言われても言うことなど聞かないだろう。

 

「だって、空き地はみんなで使うものだし」

「なんだと、生意気な!」

「それに中学生なら学校で野球部があるんだから、それに入ればいいんじゃ」

 

のび太がそう言うと、周りの中学生の動きが固まる。

のび太がその反応に疑問を抱いていると、再び動き始めた中学生たちが反論をする。

 

「だ、だれが野球部なんかに入るかよ!」

「俺らは自由に野球を楽しみたいんだ!」

「そ、そうだ、そうだ」

「(…あっ、成る程)下手過ぎて入れてもらえなかったとか、野球やらせてもらえなかったとかか!…あ」

 

思わず考えてたことを口に出してしまい、全て言った後に気付く。

中学生たちはそれをまた固まって手に持ったバットやらグローブやらを落としてる辺り、図星のようだ。

のび太はそれを見て状況を把握すると、中学生たちが動き始める前に走り出す。

 

「えっと、用事を思い出したから…さようなら!」

 

次の瞬間、のび太は中学生たちに背を向けると一気に走り出す。

すると、フリーズしていた中学生たちも顔を真っ赤にして、怒りながら走り出した。

 

「よくも気にしてることを〜!追え、逃がすなぁ‼︎」

 

強面の中学生がそう言うと、他の中学生も怒りを露わにしながらのび太が走り去った後を追っていった。

それをジャイアンたちは呆然としながら見ているしかなかった。

 

 

裏山

 

中学生たちを難なく撒いたのび太は、太めの木の枝の上で幹に身体を預けながら寝っ転がっていた。

空を見上げながら、のび太はボソボソと呟く。

 

「どうしようかな〜。荒事にするのは論外だし、かと言って話が通じるようには見えなかったしなぁ。全く…皆して僕に押し付けるけど、僕にどうこうできると思ってるのかねぇ。押し付ける相手を間違ってるんじゃないかな〜。ふあぁぁ…、何だかまた眠くなっちゃった。一眠りしてから、また考えようっと」

 

そう言うとのび太は目を閉じると、そのまま1秒も掛からずに眠りにつく。

のび太が眠った後に残ったのは、穏やかな風に吹かれて揺れる木の音や小鳥の囀りのみであった。

 

 

宇宙

 

どこかのある宇宙で2機の宇宙船が飛んでいた。

1機の宇宙船は小型の白くて小さいカタツムリのような形で、もう1機は全体が濃い緑色で不気味な雰囲気を持つかなり大型の宇宙船だった。

どうやら小型の宇宙船の方が大型の宇宙船に追われているらしく、大型の宇宙船から放たれるレーザー攻撃をなんとかギリギリで回避しながら飛行していた。

しかし毎回ギリギリで回避しているため、その度に船内は大きく揺れ、操縦席に置いてある父親と母親と自分とまだ幼かった妹の映った写真が入った写真立ても右へ左へと揺れる。

 

「あいつら、まだ追いかけてくる!どうしよう、どうしようロップル君‼︎」

「ちょっと黙っててくれよ、チャミー!今それを考えてるんだから!」

 

丸い体のウサギのような生物、チャミーがのび太たちと同い年くらいの緑色の髪の少年、ロップルに大型の宇宙船が追いかけてきてることを慌てながら知らせる。

しかし、少年も気が立っているのか、それに対して声を荒げさせて応える。

チャミーはそれに構う余裕もなく、大きく揺れる船内でまるでボールのようにそこらじゅうにぶつかってバウンドする。

そして、チャミーがそのままロップルの顔に張り付く。

 

「はやく逃げて、逃げて〜!」

「そんなの僕だって分かってるさ!」

「なら、ワープして逃げよ?今すぐ!」

「なっ…⁉︎今はダメだったら。止せってチャミー‼︎」

 

ロップルは顔に張り付いたチャミーを鬱陶しそうに引き離す。

すると引き離されたチャミーが操縦席に飛び移ると、ワープ用の大きめで赤色のボタンのカバーを足で外す。

それを見たロップルが大慌てでその行動を止めようと手を伸ばす。

しかし、チャミーはロップルの手が伸びてくる前にその足で思いっきりワープ用ボタンを押す。

すると、ロップルたちの乗ってる小型の宇宙船が光に包まれて、その場から消える。

 

「馬鹿な奴らだぜ」

「あんなスピードのままワープしたらひとたまりもないだろうな」

「始末する手間が省けたな。じゃあ、帰るぞ」

 

船内でそのような会話がされると、大型の宇宙船はUターンすると帰投し始める。

一方、ロップルたちの宇宙船はワープした瞬間に大きな揺れに襲われ、操縦席から身を投げ出される。

ロップルは床をゴロゴロと床を転がると、壁に身体をぶつける。

その痛みに思わず顔を歪める。

 

「痛ってて…一体どうなったんだ?」

「寝てる場合じゃないわよ、ロップル君!見てよ、大変な事になってるわよ!」

「どうしたんだ…っ⁉︎何だ、これは‼︎」

 

チャミーが倒れてるロップルにまくしたてる。

それを聞きながらロップルは身体の痛みを我慢して近くに落ちている写真立てをポケットにしまって立ち上がり、操縦席から見える眼前の光景に目を見開く。

そこには宇宙空間とは違い光の1つもない暗闇でありながら、時折その闇がうねっているように見える奇妙な空間だった。

 

「どうしよう⁈船がおかしな空間で止まってる!」

「だから、言ったじゃないか。あんなスピードでワープに入るからだぞ」

「だって、はやく逃げたかったんだもん……」

「これはまいったな…。…駄目だ、何をやってもちっとも動かない」

 

焦るチャミーに、責めるような口調で言うロップル。

それにチャミーは言い訳みたいなことを言うが、本当は反省しているのかその台詞には元気がない。

そんなチャミーを見てロップルは責めるのを止めると、操縦席のボタンや計器を手当たり次第に触ってみる。

しかし、うんともすんとも言わないのを見ると手を止める。

そして操縦室を出て行き、梯子を下りた先にある扉の前に着く。

チャミーもすぐに追いつく。

 

「はやく修理しないと。皆が待ってるんだ」

「直せるかな…」

「とにかくやってみなくちゃ始まらないだろ?」

 

そう言って目の前の扉を開ける。

しかし、そこには彼らが予想だにしない光景が広がっていた。

 

「あれあれ?どうして、どういうこと⁉︎倉庫がなくなってる‼︎」

「おかしいな、そんなことあるはずが…」

 

予想外の事態にチャミーは慌てふためき、ロップルは呆然と呟くことしかできなかった。

 

 

裏山

 

「……ん?」

 

木の上で熟睡していたのび太の目が、ふと覚める。

そして、おおきなあくびを1つすると、身体を思いっきり伸ばす。

空の方を見るとまだ十分明るかった。

かなり眠っていたと思っていたが、自分が思ってたよりもあまり時間が経っていないようだった。

 

「まだそんなに時間は経ってないのか…。でも、完全に目が覚めちゃったし、そろそろ行こうかな」

 

そう言うと木の枝から飛び降りるのび太。

のび太が寝ていた木はそうめちゃくちゃ高い訳ではなかったが、それでもまあまあ高い部類の木だった。

しかし、そこから躊躇いもなく一気に飛び降りると、危なげなく着地する。

そして、何事もなかったかのように山を下り始める。

のび太をよく知るものが見たら唖然とすること間違いなかっただろうが、この場面は誰にも見られることはなかった。

 

「そう言えば、さっきの夢もなんか変だったな。前に見た夢と同じで、何故だか現実感があるような気がする。でも特に町とかでは何も起こってないみたいだし、何なんだろう」

 

先ほど見た夢について考えながら歩いてるのび太。

頭の中は今日で2度も見た不思議な夢の事で一杯であり、歩いているルートは無意識であった。

気がつくと静香の家の前を歩いていた。

 

「あれ?ここ静香ちゃんの家じゃないか。なんでここに来たんだろう…」

 

その時、静香の家の門からジャイアンとスネ夫が出てきた。

ジャイアンは見るからに不機嫌といった風で、スネ夫は顔に殴られた跡があった。

それを見て、恐らく野球ができずにムシャクシャしたジャイアンに憂さ晴らしに殴られたんだろうなとのび太が呑気に考えていると、2人がのび太に気付く。

 

「あ!のび太!」

「なに!やい、のび太‼︎空き地は返して貰えるんだろうな‼︎」

「さぁ?」

 

ジャイアンとスネ夫が怒り心頭といった様子でのび太に迫る。

ジャイアンは野球ができないことに、スネ夫は理不尽にジャイアンから殴られたからだろう。

そんな2人を見ながらのび太はあっけらかんと言い放つ。

それを見た2人は更に肩を震わせながら詰め寄る。

 

「さあだと⁉︎お前、俺様のこと舐めてんのか!」

「そうじゃないよ。ただ、あっちが話をまともに聞いてくれないんじゃどうしようもないじゃないか」

「それを考えるのがお前の役目だろ!のび太の癖に生意気だぞ!」

 

大声を出しながら胸倉をつかんでくるジャイアンに、のび太は今の自分の本音を話す。

それを聞いたスネ夫が理不尽なことをいいながら、ジャイアンの後ろから罵倒する。

のび太が2人に内心呆れていた時、救いの手が差し伸べられた。

 

「ちょっと、やめないよ2人とも!」

「だって、のび太が悪いんだよ。逃げてばっかで、ちっとも空き地を取り返してこないんだから」

 

見かねて飛び出してきた静香にスネ夫はボロボロの顔で振り向いて、これまた理不尽なことを言う。

それを聞いた静香は顔を顰めながら、言い返す。

 

「のび太さん1人に押し付けるなんて、おかしいじゃない!

これは皆の問題でしょう?」

「でもよ…そんなこと言ったってどうするんだよ」

「代わりの場所を皆で探すのよ」

「代わりの場所って言ったってなぁ…」

 

3人が腕を組んで頭を悩ませているのを見ながら、のび太はジャイアンに掴まれていた部分の皺を伸ばしていた。

すると、静香の家から幸が出てきて、のび太のところへと歩いてくる。

 

「どうしたんだい、のび太」

「ああ、幸ちゃん。実は…」

 

事情を聞いてきた幸に、のび太は今までの経緯を説明する。

そして、全てを聞き終えた幸は納得したようで大きく頷いた。

 

「成る程、そういうことか」

「うん。だから、それでどうしようか困っててさ」

 

のび太幸に全てを話した直後、スネ夫は何か思い付いたようで唐突に声を上げた。

それを聞いた他の全員の視線がスネ夫に集中する。

スネ夫はのび太たちに自分の考えを話す。

 

「それなら、ドラえもんに探してもらうのはどう?」

「そうか!その手があったか!」

「そうね!ドラちゃんなら何とかしてくれるわよ!」

 

スネ夫の提案にジャイアンと静香の表情が晴れる。

そして、3人は一斉にのび太の方を見る。

ドラえもんに頼むなら一緒に暮らしていて、1番仲が良いのび太に頼むのが最適だと思ったのだ。

一方のび太は一瞬3人からの視線に困惑したが、その意味を理解して納得する。

結局、のび太がドラえもんに頼むという事が決定し、その場はお開きとなった。

ジャイアンとスネ夫はスネ夫の家に遊びに行き、静香と幸は2人で勉強の続きに戻り、のび太はまっすぐ家に向かった。

 

のび太の部屋

 

家に帰るとドラえもんは床に肘を立てて寝っ転がりながら、漫画を読んでいた。

のび太はドラえもんに事情を説明して、頼み込む。

すると、ドラえもんは体勢を崩さずに四次元ポケットに片手を突っ込むとごそごそと中を探り出す。

暫くすると目的のものが見つかり、それを背中側にいるのび太にそのまま渡す。

 

「はいこれ」

「スモールライト?」

「皆が小さくなれば、どこでも野球場になるよ」

 

ドラえもんは簡単な説明を終えると、再び漫画を読みだす。

しかし、のび太としてはこれではおそらくジャイアンが納得しないだろうことは分かりきっていたうえに、小さくなるとまた別の危険が発生する可能性もあるので再び頼み込む。

 

「そういうことじゃなくてさ、今のサイズのままで野球ができる場所が欲しいんだよ」

「そんな広い土地があったら、もうとっくに誰かが使ってるって」

「まあ、確かにそうだろうけどさ。…そうだ!宇宙ならどう?宇宙なら、そんな星が1つくらいあるんじゃない?」

 

ドラえもんの言葉に納得してしまうのび太。

しかし、そのあと少し考えると1つのアイデアを閃き、ドラえもんに尋ねる。

それを聞いたドラえもんは溜息を1つ吐くと、渋々といった感じで起き上がる。

 

「あのねぇ、まずどうやって地球から移動するつもりだい?」

「どこでもドアじゃダメなの?」

「君は知らなかっただろうけど、どこでもドアは10光年の範囲でしか使えないんだ。その中に野球のできそうな星なんかないって、ちゃんと未来の調査で分かってるんだ」

「ドラえもんでも無理なのか…」

「ま、諦めるんだね」

 

のび太はドラえもんの話を聞き終えると、ため息をつきながらがっかりする。

ドラえもんはその後、また横になると漫画を読み始める。

それを見たのび太もドラえもんが無理といったのでこれ以上は自分ではどうしようもないと考え、自分も本棚から漫画を何冊か取ってくると寝っ転がりながら読み始めた。

そしてそれから暫く時は経ち、現在の時間帯は真夜中。

布団の中で眠っていたのび太は妙な違和感を感じて、目が醒める。

 

「何だろう、この感じ?なんか違和感があるような……布団?いや、畳からかな?」

 

布団の中で色々と考えていたのび太だったがやがて眠気の方が勝ったので、思考を停止すると目を瞑って睡眠に入ろうとした。

だが、その時…

 

「っ?…揺れてる?」

 

不意に感じた揺れに再び目を覚ました。

布団の下からなにかが何度も押し上げようとしているかのような感覚で、またも違和感を覚える。

のび太がすぐさま半身だけ起き上がる。

しかし、揺れは狙ったかのようなタイミングで収まる。

のび太が不審がっていると、隣から声をかけられた。

 

「のび太もさっきの揺れで起きたのかい?」

「幸ちゃんも気付いた?」

 

幸はまだ眠気が少し残っているのか片目を手で擦りながら、のび太に話しかける。

のび太が幸に先程の出来事について聞くと、幸はそれに首肯することで応える。

 

「あれだけ揺れれば流石にね。けど、地震でもなさそうだね。普通の揺れではなかったみたいだし」

「うん。それにこの部屋いつもと違って、変な感じがするんだ。特に部屋の真ん中あたり」

 

のび太と幸はドラえもんや両親を起こさないように声を抑えて話し合う。

のび太は布団をめくると、なんとなく違和感を感じるという部屋の真ん中あたりの畳を触る。

幸も、その畳を観察するようにジッと見つめる。

 

「うわっ⁉︎」

「きゃっ!」

 

するといきなり、その畳が勢いよくめくれる。

その瞬間、ピンク色の丸っこい物体が飛び出す。

のび太と幸は畳の上にいたために、思いっきり吹き飛ばされる。

のび太は本棚に、幸は押入れにぶつかる。

その衝撃と音にドラえもんが起きて、押入れの襖を開けて顔を覗かせる。

その目は、まだ眠いのか細められていた。

 

「どうしたの、こんな夜中に?」

「痛ったた…何かが畳の中から飛び出してきたんだ」

「そんな馬鹿な」

「いや、ほんとだよ。痛った〜…ほら、見てみなよ」

 

のび太の言ったことを信じてないドラえもんは呆れたような視線をのび太に向けるが、幸は痛がりながらもドラえもんに部屋の入り口を見てみるように言う。

ドラえもんが部屋の入り口を見てみると、ちょうどサッカーボールくらいの大きさの穴が開いていた。

そして、1階からガサゴソという物音が聞こえてきた。

 

「どうやら1階に降りていったみたいだね」

「でも、畳の下なんかから一体なにが?」

「ともかく、行ってみよう」

 

幸が謎の物体が向かった先を言うと、ドラえもんは押入れから出て畳と襖の穴を見ながら考える。

のび太は立ち上がると襖を開けて、下に向かうと2人も後を追う。

そして、2人は台所の入り口のところで中の様子を伺っているのび太を見つけた。

 

「2人とも、ここだよ」

「台所にいるのかい?」

「うん、冷蔵庫の中を漁ってるみたい」

「冷蔵庫の中を?お腹でも空いてるのかな?」

「分からない。けど、あのウサギ…」

 

台所の中を覗き込みながら話す3人。

だが、のび太は冷蔵庫を漁っている丸いウサギのような生物に見覚えがあった。

それは今日見ていた奇妙な夢の中に出てきたチャミーと呼ばれてた生き物だった。

3人はもう少し近付こうと忍び足で歩いて行く。

しかし、そこで突然チャミーが何かを察知したのか後ろを振り向いた。

 

「「「「………」」」」

 

お互いの目が合い、その瞬間に両者とも固まってしまう。

その状態が続くこと十数秒。

 

「キャアアアアッ‼︎」

「わあああああっ‼︎」

 

我に返ったドラえもんとチャミーが大声で叫びだし、それにのび太と幸が驚く。

チャミーはドラえもんに飛びかかると、その顔面を足蹴りにしながら宙に飛び上がる。

急に顔面を蹴られたドラえもんは蹴られた部分を赤くしながら、フラフラする。

 

「ちょっと待ってよ!」

「キャアッ!」

 

のび太はパニックになり台所中を跳ねまわるチャミーの動きを予測して、先回りする。

それにチャミーは驚いて、何とかのび太を避けようと進路を変える。

 

「よっと。はい、捕まえた」

 

しかしそこには既に幸が待っており、真っ直ぐ突っ込んできたチャミーをキャッチすることに成功する。

チャミーは抜け出そうとするも、意外に幸がガッチリと掴んでおり抜け出せそうになかった。

 

「もう駄目。空気は汚いし、体は重いし…。挙げ句の果てに、どこか分からない星の野蛮人に食べられるなんて…。さあ煮るなり、焼くなりすきにして!どこを食べても美味しくないわよ!」

「野蛮人とは失礼だね。君を食べるつもりはないよ」

「そうだよ。それより君、確か緑色の髪の男の子と一緒に宇宙船に居たよね?」

「っ!なんでロップル君のこと知ってるの⁈」

 

半ばヤケになっているチャミーの台詞に幸が呆れながら返す。

それに続くようにのび太は夢で見た内容を思い出しながら、チャミーに質問する。

それを聞いたチャミーは驚きながら、逆にのび太に質問し返す。

それを聞いたのび太は、自分の見た夢がただの夢ではないと確信する。

 

「やっぱりか」

「のび太、このウサギのこと知ってるの?」

「うん、今日の変な夢の中に出てきたんだ」

「でも、一体どういう事だ?現実のことを夢で見るなんて…」

 

幸の問いに、のび太は奇妙な夢で見たと答える。

それにやっとフラフラ状態から復帰したドラえもんが話に入ってくる。

のび太はここで考えていても埒があかないと思い、チャミーに気になっていたことを尋ねる。

 

「ねぇ、君はどこから来たの?」

「えっと、それは……」

 

チャミーの話を聞いていると、どうやら畳の下を通ってきたようだった。

3人は半信半疑になりながらものび太の部屋に戻り、件の畳の前に来る。

そしてその畳を捲ると、その下にあったのは3人が想像していた板張りの床ではなく…

 

「畳の下が!」

「宇宙船に繋がってる!」

「どうやら、さっきの話は本当みたいだね…」

 

宇宙船の倉庫の中だった。

 

 

続く




今回は変身も戦闘もない回でした。戦闘がない回が毎度のことながら1番難しく感じてしまいます…。この作品ののび太は原作とは色々とかけ離れていますのでアニメの映画とは結構違う感じになりましたが、どうでしょうか?皆様に受け入れてもらえたら幸いです。では、次回予告と行きましょう!

のび太の部屋の畳の下はなんと宇宙船と繋がっていた。そこで出会ったのは夢でみた少年。果たして、のび太たちはどうするのか…!
次回、ドラえもん 真・のび太の宇宙開拓史 エピソードⅡ
全てを破壊し、全てを守り抜け!

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