ホロライブファンタジー~因縁の騎士対海賊、悲しき戦い~   作:狛柳

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はじめまして、狛柳と申します。
こうして書いた作品をサイトに投稿するというのは初めてですが、
本作はすでに完結しているので、その面では安心して読み進めていただければと思います。

つたない文章かとは思いますが、楽しんでいただけると幸いです。


第一章:――逃亡のマリン――

//0話(穏やかな森の中、二人は思う)

 

 高い木々が生い茂り、深い緑で覆われた森の中。その奥に、とあるエルフの集落があった。

 その集落より少し離れた場所で、見回りの為に森の外周をぐるっと散歩している二人の女性がいた。

「今日も平和だねぇ」

「そうぺこねぇ~」

 一人は美しい金髪をポニーテールに束ね、切れ長のキリッとした目に特徴的な長く尖った耳。エルフだ。

 エルフ女性は顔だけ見れば中性的ですらある美しくも凜々しい立ち姿だが、豊満な胸とスラッと伸びた健康的な太腿は見る者を魅了してやまないだろう。

 しかし普通のエルフとは少し違う点がある。エルフは通常、透き通るような白い肌をしているが、彼女の肌は褐色だ。というのも、他の種族と交わるのを好まないエルフの中では、非常に稀な存在であるハーフエルフだからだ。

 そんな彼女と共に歩くのは、人の姿にウサギの耳が生えており、バニーガールの衣装の上に白い上着をはおり、水色を基調とした白とのストライプ調の長い三つ編みを左右に二つ束ね、それに好物の人参を挿した不思議な格好をしている。

 そして、そのウサギ(?)女性の後ろには無数のウサギが付いてきている。

 不思議な光景ではあるが、平和な空気の流れる一行の姿はこの森が驚異の無い平穏な場所だという事を感じさせる。

「ねえフレア、今日の夕飯は何ぺこ?」

「木の実のスープに鳥肉のハーブ焼きかな?」

「ハーブ焼き! 楽しみぺこ~。でも、あんまり変わり映えはしないぺこね」

「いつも通りっちゃいつも通りだからね」

「ん~。たまにはちょっとした事件でも起こると面白いけど、そうあるもんじゃ無いぺこね」

「あたしは平和が一番だと思うから今のままでも良いけど、確かに退屈ではあるね」

 そんな、何度したかもわからないような会話をしながら今日も二人の一日は終えていく。

 とてもそうは見えないが、(よわい)100を越える二人。

 この森に生きる者達にとってはまだ若い部類だが、寿命の大きく違う人間とは時間の感覚が違ってくる。

 そんな二人にとって、激動とも言える出来事がすぐそばに迫っている事を、彼女達はまだ知らない。

 

 

//1話(宝鐘海賊団)

 

「Ahoy! きみたちぃ~! 今日の首尾はどうですか~?」

 屈強な男達に気さくに声をかける人物の名は宝鐘(ほうしょう)マリン。

 ワインレッドの髪をツインテールに束ね、小柄な身体に幼い顔立ち。それには不釣り合いにも見える豊満で魅力的なスタイルを持つ。

 海賊をイメージする帽子をかぶり、右目には眼帯をしている。その他の衣装も黒と赤を基調とした海賊をイメージするものだが、各所に身体的な魅力を際立たせる露出があり、その幼い顔立ちに見合わない色香を持っている。

 ここ、幻生の都東部にある山を拠点に活動する宝鐘海賊団の船長である。

 

「おう、マリン。良い感じだぜぇ」

「マリン船長だるぉぉおん!? 君からは聞きません。そっちの君ぃ、どうですか~?」

「バッチリですぜ船長!」

「お、流石ですね~。なら今夜はご馳走ですね♪ 呼び捨てにした君は今晩のご飯は抜きですよ」

「そりゃないぜマリン船長、軽い冗談ですよ」

「わかれば良いんです。言葉使いには気を付けるように!」

 冗談を交わしながら談笑する雰囲気は明るい。海賊団と言っても特に悪さをする訳ではなく、狩り等で自給自足をして生活している。あげく山に住んでいる自称海賊のコスプレ集団だ。

「船長、また入団希望者が来てんですがどうしますかい」

「はあん。また船長の魅力にやられちゃった男が増えてしまいましたね。勿論歓迎しますよ~」

「きっつ」「きっつ」「年考えて船長」

「ちょっときみたち酷くない?! でもなんだかんだ言って船長の事好きなの知ってるもんね」

「まあ、それはそう」「じゃなきゃここにはいねぇしな」

 マリンを中心に流れているアットホームな空気に、緊張していた入団希望者も安心してその輪に入って行く。

「入団希望の子は後でサブちゃんから話を聞いておいて下さいね。サブちゃんっていうのはうちの副船長みたいなものですから、何でも質問すると良いですよ」

「おう、宝鐘海賊団の心得ってやつをきっちり教えてやる」」

 近隣の村や集落からは、時折親しみも込めて山賊自警団というよくわからない呼称をされることもある宝鐘海賊団。

 山賊や海賊という荒くれ者の集団をイメージする名前だが、その本質は全く逆で、むしろ近隣の治安維持に貢献している。

 元荒くれ者やはみ出し者の割合も多いが、集まってくる者は皆マリンを慕って問題行動を起こさなくなる。問題を起こせばマリン船長が悲しむことを知っていて、皆がそういった行動を自重しているからだ。

 はみ出し者の集まった一味だが、マリン船長の事を思った行動のおかげで、今では周辺の皆に受け入れられて充実した毎日を送っている。

 自分達の為にしか行動出来ず、周りに馴染めなかったのがここまで変わったのもマリン船長のおかげだと、一味の皆が感謝している。

 宝鐘マリンへの感謝と敬愛。それを皆が共に持つ宝鐘の一味の結束は、強く確かな者だと皆が信じている。その確かなものを胸に、宝鐘海賊団は日々を楽しんでいる。

「キミたち今日もお疲れ様。夕食は皆で楽しく飲みましょ~」

「おぉー!」

 

 

//2話(幻生の都の白銀騎士団)

 

 コツ、コツ、コツ――

 ミディアムショートに整えられたホワイトアッシュの髪にライトグリーンの目が美しく、背筋を伸ばし、堂々とした歩みで石造りの廊下を進む一人の女性。

 黒に近い紺色と白を基調とした鎧に、豊満すぎる胸は隠しきれずに圧倒的な存在感を放っている。彼女は、この先の議場に呼び出されていた。

 荘厳な雰囲気のある扉の前まで来ると一度足を止め、大きく息をついた後、緊張した面持ちで扉を開く。

 一段高い位置にある半円状の列席には鋭い目つきの老人達が並び座っている。ここ幻生の都の最高意思決定機関である元老院の面々だ。

「白銀騎士団団長、白銀(しろがね)ノエル。召集に応じ参上致しました」

 緊張しつつも、堂々とした口調で宣言する。

「よく来た、白銀ノエル。此度の呼び出し、この幻生の都でも特に実力のある貴団に任務を与える為である」

「勿体ないお言葉、ありがたく存じます」

「うむ。本題だが、以前から時折話題に上る存在だった、宝鐘海賊団という集団があるのは知っているな。そやつらが勢力を拡大しており、このまま放っておくには危険だという判断が下った」

「騎士団を率いて東部山脈へ向かい、この脅威を排除せよ。やり方は白銀団長に一任する」

「は。その命、謹んでお受け致します」

「うむ。任せたぞ。本日の要件は以上である、下がりなさい」

 議場を出たノエルは緊張で溜まった息を大きく吐いて、団員達のいる修練場へと向かうのだった。

 

 修練場に戻ったノエルは、修練に励む団員を見て感心すると共に、広間へ集合するよう号令をかける。そして集まった団員達に向け、元老院からの勅命を伝える。

「元老院から直々に呼び出しがあり、命を受けました。内容は東部山脈を拠点として勢力を拡大している宝鐘海賊団の鎮圧です。

 街のならず者が中心となった組織がこれ以上拡大するのは今後都にとって驚異になる可能性があり、危険の芽を早めに摘んでおこうというものです。相手は訓練を受けた兵士では無いとは言え、戦闘になった際は負傷者が出る可能性は大いにあるので、油断しないようにして下さい。

 出発は明朝、装備など出陣の準備を怠らないように。話は以上ですが、質問はありますか?」

 数秒の間を置くも団員達から質問の声は上がらず、任務へ向けた気持ちの高揚がわずかに見えるのみだった。

「それでは明朝、東部山脈へ進軍します。以上、解散」

 ノエルが解散の号令を出すと、一糸乱れず敬礼がされる。そのままノエルが立ち去ると、各々が宝鐘海賊団鎮圧の為、山攻めの準備を始めるのだった。

 

 

//3話(団長と船長の初邂逅)

 

 初夏の緑が広がり、気持ちの良い風が流れる山の中腹。

 平和を絵にしたようなその場所に似つかわしくない軍靴(ぐんか)の音が響き、統一された鎧を身に(まと)って現れた一団は広場に整列している。

 一団の先頭に立つのは団長である白銀ノエル。

 その様子を少し離れた高台からうかがう宝鐘マリンと、警戒心をあらわにする海賊団の一味達。

 集落の長である一人の男がノエルに対して質問を繰り出す。

「騎士様の一団がこのような何も無い集落に一体何用でございましょう」

「驚かせてしまい、すみません」

 警戒と畏怖(いふ)をうかがわせる男に対し、丁寧な対応をするノエル。その言葉に少しの安堵を覚えた男の様子を確認し、本題を切り出す。

「この辺りを中心に活動している宝鐘海賊団と名乗る一団を鎮圧する命を受けて来ました。拠点となっている場所を知りませんか?」

 その宣言に男は戸惑いの様子を見せ、声を上げる。

「確かに宝鐘海賊団はこの辺りで活動していますが、若者の少ないこの集落で力仕事を手伝ってくれたりする気の良い連中です。他で何か悪さでもしていたのでしょうか……?」

「集落の仕事を手伝っている……? ならず者が徒党を組んでいるという話のはずですが、違うのですか?」

「確かに元々はならず者や町のはみ出し者達だったという事は聞いています。しかし今は船長を中心に悪さをせず暮らしているものと思うております」

 男の話を受けてノエルは少し思案する。

(話を聞く限り今は悪さもせず平和に暮らしている。であれば必要なのは鎮圧では無く解散。船長と話をして説得出来ればそれで済むかもしれない)

「わかりました。ではその船長と話をして、海賊団とやらを解散してくれるよう説得してみます。であれば若者もそのまま残る事になりますし、大きな変化も無しに暮らせますよね」

「……騎士様、お気遣いは本当にありがたく思います。しかし、恐らくそれは難しいかと……」

「どういうことですか?」

「彼らは船長を慕って集まっているので、船長が解散と言っても結果的に状況は変わらないと思います」

「……お話ありがとうございます。しかし何もしないまま帰る訳にもいきません。

 まずはその船長さんと話をしてみようと思います。どこにいるかわかりますか?」

 男は集落からさらに少し登った所に宝鐘海賊団の拠点となっている場所がある事を伝え、穏便に済ませて欲しいとお願いするのだった。

 

 宝鐘海賊団は騎士団が進んでくるのを確認すると、いつでも逃走出来るよう準備を進めつつ、何も悪い事はしていないのだからと堂々と迎えることにした。

 拠点を背に少し広い場所でマリンとサブが前に出て騎士団を迎える。

「騎士さん方ぁ、うちの連中があんたらにビビっちまってるんでそこで止まってくれますかい」

 サブが声を上げると、ノエルはそれを受け入れるように騎士団の進みを止め、一人前に歩み出る。

「私は白銀騎士団団長の白銀ノエルです。宝鐘海賊団船長の方と話をしに来ました」

「はい。私が宝鐘海賊団船長の、宝鐘マリンです」

 ハツラツとした挨拶に緊張の緩みを感じながら、ノエルは本題を切り出していく。

「はじめまして、マリン船長。私はここより西にある幻生の都から派遣されて来ました、白銀ノエルです」

 改めて丁寧に挨拶をするノエルに明確な敵意を感じ取る事は出来ない。だからといって武装した騎士団を無視する訳にはいかず、警戒心を持ったまま会話を進めていく。

「私たちに会いに来たみたいですけど、そんな大所帯で一体どんな御用なんでしょうか。あんまり物騒なのはイヤだなって思うんですけど」

「私も暴力は好きじゃ無いですし、穏便に済ませたいと思っています。なのでまずは落ち着いてお話がしたいです」

「わかりました。ちょっと外野が殺気立ってますけど、このまま話しましょうか。その方がお互いの部下も安心するでしょう」

「お気遣いありがとうございます。せめてものお返しとして、団員達にはすぐに動き辛いように座ってもらいますね」

「ならうちの一味も同じようにさせますね」

 二人がお互いに意思を伝えると、すぐにそれぞれの一団へこれを実行させる。

「みんな、武器を納めて座って待機してて下さい。くれぐれも相手を刺激するような事の無いように」

「君たちー、ひとまず話し合いをするから座って良い子に待ってて下さーい」

 騎士団はそのまま言われた通り着席。海賊団の一味は少し動揺する様子を見せるが、船長の言いつけならとその場に着席する。

「ありがとうございます。では、本題に入らせていただきます」

 マリンとサブは緊張の面持ちでノエルの言葉を待つ。

「今回私たちが派遣されたのは、宝鐘海賊団の鎮圧が目的です」

 その言葉を聞いた瞬間、サブが警戒の色を濃くする。マリンはこれを制し、まずは聞こうという態度を取る。

「これというのも、幻生の都にある元老院が宝鐘海賊団の勢力拡大に対して危機感を覚えたからです。何か企んでいたり、暴動が起きれば多大な被害が出る事が予測される為、鎮圧を指示されました。

 しかし、道中にあった集落の方から聞いた話や、マリン船長と話しても都が危険視するような集団では無い印象を持ったので、解散していただければ私の一存で任務の完遂として報告したいと思っています」

「危険視……解散……」

 その言葉に一味がざわつく。

 鎮圧から解散という差は非常に大きな譲歩だが、健全に生活してきた宝鐘海賊団側からすればそれでも不当な扱いという印象を持つだろう。

「ならず者やはみ出し者が集まった集団がどんどん大きくなっているというだけで怖がる人がいるんです。何も今後会ってはいけないという話では無く、組織、集団としての体を崩してくれるだけで良いんです」

 ノエルとしても罪も無い人達を捕らえたい訳でも無ければ、争いたい訳でも無い。まして感謝すらされている人達なら尚更だ。なんとか穏便に、平和的に解決しようと言葉を重ねるが、マリンとサブは思案する。

「サブちゃん、どう思いますか」

「残念ながら受け入れるのは難しいように思いますねぇ」

「どうしてですか? これなら誰も傷つかないし、自由に生きる事も出来ます」

「俺達は元々街や村で嫌われてきた人間です。それこそ、一人のままでいたら問題を起こして牢屋に入ってた可能性のある奴もいる。それをまとめ上げて、生きる意味を、力をくれたのが船長だ。離れるなんて考えられねぇんだ」

「そんなにまっすぐ言われたら恥ずかしいでしょ……」

「こういう時はビシッと言わなきゃですから。普段は絶対言いませんけどね! まぁ、これは俺じゃなくて一味の総意ってやつです」

 宝鐘海賊団の結束の固さを思い知らされるノエル。境遇は違えど、白銀騎士団にも自分を慕って集まってくれた団員が少なからずいることを知っているからこそ、余計に解散の難しさを感じ取れてしまう。

「でも、このままじゃ鎮圧しなきゃ……」

 

「…………」

 わずかに悲しみの表情を浮かべるノエルに、マリンは一つの考えを実行する決意をする。

「ノエル団長に質問です、宝鐘海賊団の中心は?」

「……マリン船長?」

「正解、解散をするのに一番大事なのは?」

「マリン船長の指示?」

「そうですね。それを忘れちゃダメですよ」

「一体何を言って……?」

 マリンはノエルの答えにニッと笑い、一味に向かって声を上げる。

「君たちー! このままじゃ船長、君たちと離ればなれにされちゃいます~。断れば都のお爺ちゃん達に捕まって言いたく無いこと言わされちゃいます~! どっちもイヤなので~、逃げますよー!!」

「乗ってくだせぇ、船長!」

「ハイヨー! サブちゃーん!!」

「アイサー!!! 逃げるぞお前らぁ!!」

「え? な? えぇ!?」

 突然の逃走宣言と一斉に動き出す一味に呆気にとられるノエル。だがそこは都でも有数の騎士団団長、すぐに気を取り直して団員達に指示を出す。

「みんな、急いで追いかけるよ! 目標は船長の宝鐘マリン一人に絞って、絶対に殺さない事、必ず無傷で捕まえて!!」

 先の問答の意図がここにあると察したノエルは、これを徹底させる。マリンが傷ついたり、まして死ぬような事があれば本当に宝鐘海賊団は暴走して都に襲いかかるだろう。そして宝鐘海賊団をむやみに傷つけるなら、マリンも黙ってはいられなくなる。

 それら全てを見越していたかは定かではないが、ノエルを誘導し、尚且つこの地を離れる事で鎮圧は出来ずとも脅威を退ける事には成功する形とする。

 結果的に元老院も妥協出来る落とし所として、ノエルにも大きなお咎めは無いだろう点を作り出したのだ。

 

 

//4話(逃げるマリンと森の番人)

 

 脱兎のごとく逃げに徹する海賊団の動きは素早かった。元々騎士団よりも軽装であり、さらに土地勘もあるのだから、騎士団との距離はみるみる開いていく。

「君たちー! 丁度良い機会だしこのまま海まで行っちゃいましょう!!」

「おぉぉ! ついに本物の海賊になるんですかい船長!」

「そうですよー。これも運命、今こそ宝鐘海賊団が海に出る時です!」

「おぉっしゃぁああ!!!! 行こうぜ船長! 大航海の始まりだぁ!!!」

「約束ですよ! 誰一人欠ける事無く合流しましょう。その為にも、船長は一旦別行動を取ります」

「!? 何言ってんですか船長!」

「騎士団が狙ってるのは船長です。なので別行動を取って森を抜けて海まで出ます。君たちは山側からぐるっと回って行って下さい! サブちゃん、皆の事頼みますよ」

「せめて誰か護衛に付けて下さい! ただでさえ体力無いんだから!」

「う……そこを突かれると弱い……。でもダメです。私一人じゃないといけない理由がちゃんとあるんです! だから今は君たちの船長を信じなさい」

「……わかりました船長。必ず来て下さいよ、信じてますからね」

「当然です! 海賊を名乗っているのに海に出ずして終われますか!!」

 渋々といった様子ながら、一味は一部を除いて言いつけ通り山側から海へ向かって逃走していく。一部は山中に潜み、マリンが捕らえられないよう森に入るまで見守る形だ。

 

 マリンが単独で向かうのは、この辺りでも有名なエルフが住んでいるとされる迷い森。森に入ってしばらく進むと磁器がうまく機能せず、いつの間にか森の外周のどこかに出るという。

 その実態は、エルフが外部勢力に侵略されないよう、領地とする集落の外周全域に張り巡らせた結界によるものである。幻生の都でも一部の者しか知らないその結界を突破する方法だが、地域に根ざして活動していたマリンはこの方法を聞いたことがあった。

「森には一人で入り、ひたすらまっすぐ進む事。だよね」

 今は誰から聞いたかも定かでは無いその情報を頼りに、騎士団の追跡を切り抜けるべく一人森の奥へと進むのだった。

 

 エルフの森にある集落では、森の外の情報までは知り得ない。基本的に興味も抱かない者が多いというのもあるが、木々や動物達からの情報を得られないというのが主な理由だ。

 この日、珍しく一人で迷い込んだ人間がいるようだという情報が入り、若手狩人の不知火フレアがこれの様子を見るよう指示を受けた。

「人間が一人で迷い込むなんて随分久しぶりだね」

「そうぺこね。最近は迷いの森とか言われて木陰で休むくらいの目的でしか入ってくる人間はいなかったぺこ」

「いつも通り、森の出方を教えてあげて終わりかな。たまにはちょっと話してみても良いと思うんだけどなぁ」

「村長への言い訳を考えるのが面倒ぺこ。お説教も長いのがいかにも頑固ジジイって感じで苦手ぺこ……」

「あはは。それはぺこらが怒られるようなことするからでしょう。ちょっと前までしょっちゅう日が暮れるまでお説教されてたもんね」

「お説教プラスにんじん抜きはきついぺこよ……」

「そうだね。いつも通り対応しますか~」

 今回の迷い人がいつもとは違い、非常に切羽詰まった状況にあることを知らない二人の会話は平和そのものだ。

 森の木々や動物達から迷い人の居場所を聞きながら迷わず進む二人。程なくして森の緑とは対照的な濃い赤の衣装を身にまとった女性を見つける。

「あれだよね」

「間違い無いぺこ」

「でも普段迷い込む人間とは様子が違うと思わない?」

「なんだか急いでるように見えるぺこ。普通は迷ったならもっと不安そうに進むと思う……ぺこ」

「うん。あたしもそう思う。しかも足取りに加えて一人だし、もしかしたら村を探してるのかもしれない……。このまま結界に近づくようなら警告しなきゃだね」

 マリンが持っていた情報は正しく、エルフの結界を突破して集落へ向かう方法だったのだ。

 先ほどまでとは打って変わり、緊張した空気が流れ始める。結界の中へ進入する条件が整っている相手を放っておく訳にはいかない。

「ぺこらもいざという時は村へ戻れるよう準備しておいて」

「わ、わかったぺこ」

 警戒しつつ様子を見ると、森を歩き慣れた様子は無く、装備も身一つに見える。銃など手頃な武器を携帯している可能性はあるものの、何より……。

(あれは……襲撃者にしては弱そう……だね……)

 いくら弱く見えるとは言え、最初に抱いたフレアの懸念はそのまま現実となり、赤い衣装の女性はまっすぐ結界に近づいていく。

(これ以上は見過ごせないね……)

 このまま無条件に進ませる訳にはいかず、フレアは持っている弓を構え、威嚇射撃からの警告を開始するのだった。

 

「うぅ~、歩きにくい……山より涼しいかと思ったらそこまで変わらないし、思った以上に大変……それに明かりもないし、絶対夜になる前に辿り付かないと。それにしても……もう汗だくだし、息は切れてるし、一味のみんながいたら襲われちゃいますね」

 ――ズボッ

「うわぁっ!! 変な事考えてたら足ハマっちゃった!」

 木々による影は途切れる事が無く、森は進むほど風が無くなり、湿度が高く、さらに足場も悪くなっていく。

「う~ん……この足場なら追いつかれる事は無いだろうけど、こんな森の中で野宿は……ちょっと怖いし、ヤダなぁ……」

 内心全くちょっとではないマリンは、足が汚れる事など気にせず進んでいく。そこへ――

 ――ビシュッ。

「ぬぉおお! なになになに!?」

 突然射かけられる矢に驚き尻餅をついてしまう。

「止まりなさい。貴方の目的は何」

「突然何なんですか!! びっくりしたじゃないですか」

「質問に答えて。じゃないと威嚇じゃ済まなくなるよ」

「ストップストップ! わかりました、答えますから撃たないで下さい」

 相手の声音が冗談では無い事を察して、急いで現状を説明するマリン。

 騎士団に追われている事、争いを避けて逃げを選び、自分だけで迷いの森にあるというエルフの集落を目指して来た事を説明する。

「そういう事……どうりでさっきから森が騒がしくなってきた訳だ……」

 マリンが説明を始めて少しした頃、騎士団も森に入って来た事で木々が騒ぎ始めているのだ。

「騎士団に追われてるって事は、貴方は罪人か何か?」

「いやいや、全然違いますよ。私達は平和に暮らしていたんです。それこそ近くの村にだって感謝されるくらいまっとうに!

 でもほら、私ってばとても魅力的ですから……どんどん人が集まってきちゃってぇ……都のお爺ちゃん達が私を手元に置きたがっちゃったんですね~」

 ――ギリリ。

「あぁぁ待って下さい!! 真面目に話します!」

 スッと弓を構え直すフレアに対し、急いで態度を改めるマリン。

「実際の所、海賊団やってますけどまだ海に出た事も無いし、悪い事も何もしてないんですよ。それは本当です。でも徒党を組んで悪さをするんじゃないかっていう、都にいるお爺さんたちの妄想のせいで捕まえられそうになってるって感じですね」

「本当にそんな言いがかりみたいな事で騎士団が動くの?」

「私もそう思いますけど、実際動いちゃってるんですよねぇ。困っちゃいます」

「はぁ……本当に困ってるって事で良いんだよね」

 性分なのだろう。最後には少しふざけた様子も入れてくるマリンだが、急いで森を進んでいたのを知っているフレアは、真剣に困っているのだと受け取ってくれる。

「それで、本当に悪い事はしてないんだね」

「してませんよ。私は一味のみんなと健全に面白おかしくやっていただけ。信じて下さい」

「わかった、信じるよ。あたしは不知火フレア。君は?」

「私は宝鐘海賊団船長の、宝鐘マリンです。よろしくお願いしますね、フレア」

 少し呆れた表情を浮かべながら、未だ尻餅をついたままのマリンに手を差し伸べるフレア。その手を取って、笑顔で立ち上がるマリン。

 

 状況を把握した所で、ここからどうするかを決めるべく、フレアが口を開く。

「追われてるのはわかった。あの人数を巻くのも簡単じゃないだろうし、一旦あたしの村に案内しようと思うけど、どうする?」

「それは助かります! 安全に森を抜けれるようになったらすぐに村を出るし、他言もしません」

 その言葉を期待していたかのように、食い気味にフレアの提案を受け入れ、その後の対応も述べるマリン。

「それは勿論そうしてもらうけど……もしかして、最初から期待してた……?」

「えぇと、それはぁ…………てへっ」

「はぁ……ついてきて」

 ペロリと舌を出すマリンにため息を付きつつ、観念したように森を歩き出すフレア。

 その様子を見て、一人離れていたぺこらが顔を出した。

「もう平気ぺこ?」

「ああ、大丈夫だよぺこら。このまま村まで連れて行く事にしたから」

「ええー、何この子可愛いですね。お名前なんていうんですか?」

 ぺこらを一目見るや声を上げ、一気に距離を詰めるマリンだったが、ぺこらは無言でフレアの後ろに隠れる。

「あぁん、隠れちゃった。恥ずかしがり屋さんなんですね」

「い、いきなり何ぺこ……なれなれしいぺこな……」

「この子は兎田ぺこら。人見知りだから距離感には気をつけてあげて」

「ぺこらって言うんですね。私は宝鐘マリン。これからよろしくね」

「兎田ぺこらぺこ。よ、よろしくぺこ」

 まだ返事をするのもたどたどしいが、屈託の無いマリンの笑顔に自己紹介を返すことの出来たぺこら。

 生きてきた年数から言えばぺこらの方が長いのだが、人慣れしていないぺこらと一味のリーダーをしているマリンとでは、コミュニケーションスキルは雲泥の差だった。

 そんな二人に挟まれる形で様子を見ていたフレアも穏やかな苦笑を浮かべつつ、先を促すように言葉をかける。

「さ、あんまりのんびりしている暇も無いし、先を急ぐよ。あの大所帯に捕まりたくは無いしね」

「よろしくお願いします。フレア」

 フレアとぺこらの案内で結界を通過し、まっすぐ村まで向かう。

 村に着くと、フレアはそのまま踵を返して騎士団の方へ向かうと言う。

「戦う訳じゃないでしょうけど、喧嘩は売らない方が良いと思いますよ」

「喧嘩を売ったりはしないよ。ただ、マリンの事を諦めて帰ってもらうように話しに行くだけ」

「よかった。団長のノエルは話のわかりそうな子だったので、話すならその子がいいと思いますよ」

「わかったよ、ありがとう。ぺこら、マリンの事よろしくね」

「こいつと二人ぺこか……気は進まないけどわかったぺこ」

 少し嫌そうな顔をするがしっかりと了解したぺこらに笑いかけて、来た道を戻っていくフレア。二人はそれを見送り、村の中にあるぺこらと野ウサギ達が暮らしている場所へと向かった。

 

 

//5話(ノエルとフレアの出会い)

 

 白銀騎士団を率いて山中からそのまま森へと進行してきたノエル。

 迷いの森を進む上で最も注意する必要があるのは、決してはぐれない事。はぐれてしまうと別々の場所へ出てしまう可能性が高く、森の外で時間をかけて合流するしかないからだ。

 エルフが住むという噂はあるが、それについての確かな情報をノエルは持っていなかった。その為、先に森を抜けて逃げられる可能性を考慮して森の外周を警戒するように部隊を分けて編制し、森の中でははぐれないように一団で進む、マリンを捕らえる為の行動を取った。

(これでなんとか捕えられたら良いんだけど……)

 自分でも本心からそう思っているのか怪しいと感じながら、今自分のやるべきことをやろうと、騎士団を率いて懸命に森を進む。

 すると、注意深く進んでいる騎士団の前に、褐色のエルフ女性が現れた。

「みんな止まって。そのまま待機して下さい」

 まだ距離はあるが、ノエルはその姿を確認するとすぐに、団員達が相手に対して無礼のないように指示を出す。

 一方フレアは騎士団の対応を見定めるようにまっすぐ視線を送り、指示を出すリーダーを見つける。

「貴方が団長で合ってる? 少し話があるんだけど、良いかな」

(迷いの森にはエルフがいる。人前にはあまり姿を現さないって聞いてたけど……。ここで機嫌を損ねるのは危ないだろうし、今は穏便に……)

「話をするのは良いのですが、私たちも先を急いでいるんです。そちらが終わってからではダメでしょうか」

「それって海賊の女の子を追いかけてる件かな?」

「……!」

「だよね。私もその件で聞きたいことがあるんだ。団長さんだけこっちに来てくれないかな?」

 もしエルフがマリンを匿ったのだとしたら、この森で見つける術は無いと言っても良いだろう。逆に共に捕縛する場合はまだしも、マリンを捕らえている場合は引き渡しにエルフの協力が必要となる。どちらの場合であっても話を聞く以外の選択肢は無いのだから、言う事を聞くのが賢明だ。

「わかりました。団長の白銀ノエルです。今そっちに行きます」

「ありがと。あたしは不知火フレア」

 

 普通に話す声音では会話内容まで聞こえない程度の距離まで騎士団から離れてフレアは歩みを止める。

「この辺りで良いかな。完全に隠れちゃうと彼らも変に動き出しちゃうかもしれないしね」

「私だけにしか話せないような内容なんですか?」

「そうだね。君を信用してみたいと思う」

 わずかに射す木漏れ日の中、美しい髪をなびかせて振り返るフレアは、さながら森に降り立った天使であるかのようだった。

「綺麗……」

「ん?」

「いえ、何でも無いです。ここで良いなら本題を始めましょう」

 ノエルは両手を左右に振って気を取り直しつつ、マリンの話を始めようとする。

「そうだね。なら早速始めようか」

 どういった話になるのか、少しの緊張を持ってフレアの言葉を待つノエル。

「宝鐘マリンは今、エルフの村で保護してる」

「……保護、ですか」

「そう、保護だよ。本人から話を聞く限り、悪い奴じゃない。それに女の子一人に対してこの人数で追い回すのを見て放置するのは流石に忍びないしね。ただ――」

 苦笑するフレアだが、すぐに視線をノエルに向けて見定めるように言葉を投げかける。

「マリン一人の言い分を全面的に信用する訳にもいかないからね。そっちの言い分もきちんと確認したいんだ」

「わかりました。騎士団が彼女を追う理由や、今受けている指令を説明します。その上で、引き渡していただければ助かります」

 ノエルは都の元老院から宝鐘海賊団が危険視されている事や、鎮圧を命じられて騎士団が動いている事をフレアに説明する。

「マリンから聞いた部分の話は概ね一致だね。だとするなら、今のところあたしはマリンの肩を持つかな。そこまで危険だとは思えない女の子を、こんな大人数で追い回すのは……ちょっと怖いよ」

「それは宝鐘海賊団の人数を考慮して、もし戦闘になった場合に被害を抑える為にであって、決して戦う事が目的じゃないんです」

「それなら最初は交渉という形で話し合う方が良かったんじゃない?」

「それは……その通りなんだけど……でも、情報だとならず者の集団だったし、それは実際そうだったから、間違っ行動ではなかったはず、です」

(元老院とやらが出した指令で動いたけど、実態を知ってこの子も今は迷ってる。って感じかな)

 少し口調が乱れたり言いよどむノエルを見たフレアは、マリンの言った通り、この団長は信用しても良さそうだと思った。

 そして、元老院を納得させる理由があれば引いてくれそうだとも。その為の考えを巡らせる。

「一つ確認なんだけどさ、その元老院ってのはマリンの海賊団を怖がってるんだよね?」

「都への脅威となる前に排除するというのは、要約するとそういう事だと思います」

「ならマリン達が都へ悪さをしないって約束させた上で、この辺りからも離れたなら、問題は無くなるんじゃないかな」

「そうかもしれませんが……」

「海賊って名乗ってるんだし、海に行くみたいだから元いた山に戻る事もそうそう無いと思うんだよね。それなら、ノエルがわざわざ複雑な思いをして追いかけなくても良いんじゃないかな」

「でも、私の気持ちは二の次なんです。都に仇なす可能性が少しでもあるからこその元老院の決定で、その驚異が存在しなくなるっていう確証が無いと引けないんです」

「……」

 揺れるノエルの心が表に出る程になり、フレアは一度目を閉じる。そしてゆっくりと目を開き、真剣な眼差しでノエルを見つめて言葉をかける。

「なら、私、不知火フレアの血と魂にかけて誓うよ。私がマリンから都へは手を出さない事を約束してもらう。それで追っ手が無くなるならマリンとしても悪い話じゃないはずだからね」

 名に誓うフレアのたたずまいは凜として美しく、ノエルにはこの世の誰より気高く見えた。

「……わかりました」

 気がつくと肯定の意を表していて、ノエル自身少し驚いたが、すぐに心が軽くなっている事に気が付いた。それ程までにこの追跡が心の負担になっていたのだと自覚する。

 そして、自覚してしまった後は彼女を信頼して託す他ない。それについても、不思議なくらい安心して任せる事が出来るのが驚きだった。いつの間にか、心から彼女を信頼している。普通ならあり得ない事だろう。しかし自分の中に違和感はわかず、代わりに初めての感覚に戸惑いを覚えるだけだった。

「約束の件、よろしくお願いします」

「うん、任された。こっちこそ無理言ってごめんね、ノエル」

 緊張がほどけ、はにかむフレアの顔は少年のようでもあり、それを見た瞬間にノエルの鼓動が跳ねた。

(なんだ……そういう事だったんだ)

 いつの間にかあった自分の感情を理解し、腑に落ちたノエル。様々な要素が重なった結果ではあるが、だからこそ必然だったのかもしれないと、この運命的な出会いを受け入れる。

「そうだ、さっき一瞬だけ素が出てたよね。今度からあたしにはそっちで話して欲しいな」

「え…………。うん、わかったよフレア。また会いに来るね」

「うん、待ってるよ。その時はいっぱい話そう」

 今度。また。

 出会い方は特殊だったが、他愛ないやりとりが出来る幸せをかみしめながら、お互いに手を振ってその場を後にする二人。

 ノエルは団員達へ事の顛末を簡単に説明し、都へ向けて撤収していく。

 フレアはそれを見届けた後、マリンとぺこらの待つ村へと戻るのだった。

 

 

//6話(マリンの旅立ち)

 

「フレア! ありがとう~」

「っおうふ。どうどうどうどう、急にどうしたの」

「あ、ごめんなさい。ぺこちゃんといる間に緊張もなくなっちゃって」

 顔を合わせるなり飛びついてきたマリンに驚くフレアだが、ぺこらとは仲良くやっていたようで安心した……のもつかの間。

「フレア!! マリンったらひどいぺこよ! 初対面なのに礼儀も何もあったもんじゃないぺこ」

「え?? 何があったの?」

「えぇー、仲良くお喋りしてただけじゃないですかぁ~」

 声を荒げてフレアに訴えかけるぺこらがいるかと思えば、かたやマリンは満面の笑みでぺこらの訴えを受け流している。

「はいはい、楽しそうなのは良いけど――」

「楽しくないぺこ!」

「!?」

「えぇ、ぺこちゃん、そんなにマリンの事嫌いですかぁ……?」

「う”……別に嫌いとは言ってないぺこ……」

「ですよね♪ 船長もぺこらの事大好きですよ」

 一瞬驚いたフレアとは対照的におどけて場を納めてしまうマリン。そのやりとりを見て、確かにこれはぺこらが怒ったりするのもわからないでもないと納得出来てしまう。そして、それがこれまでに無かった楽しさを持っている事も。

 ここまで感情を爆発させているぺこらを見るのは久しぶりだったフレアは、森に新しい風が入ってきた事を感じて嬉しくなるのだった。

 

「ぺこらもストップ。マリン、ちゃんとお話するよ」

 このやり取りをもう少し見ていたい気もしていたが、それよりも今は話すべき事があると本題を切り出していく。

「はい、わかりました。騎士団の事ですよね」

「うん。マリンの言う通りノエルは話のわかる子だったよ」

「ですよね。私と話してる時も根の良さがひしひしと伝わって来ましたからね」

「それでさ、ひとまずマリンを見逃してくれる事にはなったんだけど」

「さすがフレアですね!」

「喜ぶのは少し早いよ。それにも条件がついた」

「条件ですか。やっぱりタダで逃がす訳にはいかなかったって事ですね」

「多分そんなに難しくないから安心して」

 フレアはノエルと話した条件を説明していく。

 悪事を行わない事は前提として、マリンを含めて海賊団は都へ近づかない事が安全の条件と。

「故郷に帰り辛くなったのは少し残念ですが、仕方ありませんね。むしろその程度で済んだ事を喜ぶべき!」

「前向きぺこな。ぺこーらなら家に帰れないとかしばらくショックで動けなくなりそうぺこ」

「そうだね。あたしたちは森から出た生活ってちょっと想像出来ないかも」

 苦笑する二人に対して、なおも元気な笑顔を向けてマリンは言う。

「なら二人には船長が本物の海賊団船長になって旅した思い出を語って聞かせてあげましょう! お世話になったし、何より私が二人と仲良くなってもっと話したいですからね」

 にっこりと笑うその顔には悲しみも後悔もなく、希望に満ちた未来を楽しく共有したいという思いだけがあるようだった。

「マリンは凄いね。うん。楽しみにしてるよ」

「ウザ絡みだけなんとかして欲しいぺこだけど、楽しみに待ってるからとびっきりの土産話を持ってくるぺこ」

「わかりました! それじゃ、都には近づきませんがここへは定期的に立ち寄りますね」

「うん。元気でね、マリン」

「気をつけていってくるぺこ」

「はい、いってきます!」

 いってらっしゃいと言われた事で、故郷へは戻れなくても帰ってくるべき場所が出来た事を内心嬉しく思いながら、マリンは一味と合流すべく森を後にする。

 

 こうして、エルフの森を巻き込んだ一連の騒動は一旦の幕を下ろした。

 だが、この一部始終を影から観察していた一人の少女が、人知れずつぶやく。

「今回は無事に乗り越える事が出来たみたいだね。でも、まだ物語は始まったばかり。本当の試練はこれからだよ……」

 少女の言葉は風に消え、平和に解決したように見えたこの騒動の火が未だ消えていない事を示唆していた……。

 

 

第一章:

――逃亡のマリン――




投稿終了後は駄文となりますが、本日より4日かけて終章まで進みます。
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