ホロライブファンタジー~因縁の騎士対海賊、悲しき戦い~   作:狛柳

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第二章:――海賊と騎士団の成長。フレアとの交友――

 

//7話(海賊と騎士団の成長)

 

 エルフの森を離れ、先行して港町に集合していた一味と合流し、全員が乗れるように中古の船を調達していた一味を労うマリン。

 立派とは言い難いながらも、一味全員で目標だった海へ出られた事を心から喜び、今日が宝鐘海賊団として本当の船出だと意気を上げる。

 

 海へ出た宝鐘海賊団は各地の海を旅し、港へ上がっては酒場で盛大に宴会を開いた。

 一味を率いるマリン船長の気質はそのまま宝鐘海賊団の気質として、各地を旅して楽しく酒を飲む、気ままで自由な生き方を体現していった。それが各地でくすぶっていた者を刺激し、老若男女問わず仲間に引き入れるスタンスも相まってどんどん大所帯になっていった。

 宴会ではその場にいる無関係な人々も巻き込んで、面白おかしく夜を明かす。それが恒例となり、海賊と名乗りながらも悪さもせず、とても気の良い集団だと話題になっていった。

 世界に七つあると言われていた大海原を全て制覇する頃には、もはや一国の軍隊とすら渡り合えるとも言われるほど成長し、その名を知らぬ者はない大海賊となっていた。

 

 一方で白銀騎士団は幻生の都を守る騎士団として順調に成長を遂げていた。

 容姿も美しく優しさに満ちた性格、包容力に溢れる性質は騎士団の中に収まらず、幻生の都周辺へも知れ渡っていく。

 

 都の元老院から近隣侵攻の命を受けても不要な争いを避け、可能な限り話し合いで領地を取り込む。争いになってしまう場合においても、兵士以外は相手取らず、兵士すらも出来る限り殺さずに生かす姿勢から、一部では慈愛の騎士とまで呼ばれるようになっていた。

 しかし、騎士団の仲間や領地の民を脅かす存在相手には先頭に立って戦い、その力を発揮する。

 幻生の都にノエル有りと言わしめる程の存在となる。

 

 幻生の都が領土を拡大する中で、フレアとぺこらのいるエルフの森もその勢力内に取り込まれるかと思われた。しかしエルフの森はその天然要塞と種族柄を以て庇護下に置かれる事を固辞し、中立を保つこととなった。

 結果エルフの森は、幻生の都が領土を囲むように展開したが、独立した勢力として特異な存在となっていた。

 

 

//8話(ノエルとフレアの尊い時間)

 

 ある日の早朝、幻生の都にある白銀騎士団宿舎ではノエルが愛馬を撫で、遠出の準備をしていた。

「今日もよろしくね。マスキュラー」

「おはようございます団長。そういえば今日は森へ視察の日でしたか」

「うん。月に一回の視察日」

 視察の日、ノエルの口調が普段よりも心持ち明るい事を、多くの団員が知っている。

 それだけエルフの森へ行き、フレアに会う事は大きな楽しみとなっていた。

 早朝から馬を飛ばし、途中休憩を挟みながらエルフの森近くの村へ向かう。そこに愛馬を預け、単身森へと入っていく。

 

「いらっしゃい、ノエル」

「フレア! 久しぶり」

 森へ入ってしばらくすると、フレアが笑顔で迎えてくれる。

「久しぶりって言っても一ヶ月しか経ってないけどね」

「フレアにとってはそうでも、私にとっては長かったの」

「そだねぇ。ノエル達に会う前は何も感じなかったけど、最近は私も一ヶ月を長く感じる感覚がわかるようになってきたよ」

「そうなの?」

「うん。ノエルやマリンが外の話を色々してくれるからさ。それが楽しみで、待ち遠しくなるんだよ」

「私もフレアに会うの楽しみだし、いくらでも話したいくらいだよ」

「うん。ありがと、ノエちゃん」

 笑顔で会話が出来る喜びを二人で噛み締めながら、近況を報告していく。

「そういえば、マリンがついに世界に七つあるって言われてる海を全部旅し終わったらしいって報告が最近入ってきたよ」

「ほんとに? ついに世界の海を制覇したんだ。マリン凄いなぁ」

「きっと近いうちにこれを話す為に会いに来るんじゃないかな」

「そうだね。楽しみだなぁ」

 フレアを通して宝鐘海賊団の情報を知り、マリンが楽しく海を旅している事をノエルも嬉しく思っていた。そんな折に入ってきた報告だから、フレアにも話したくなったのだ。

「あれからもう五年も経つんだなぁ。色々あったからあっという間だった気がしちゃうよ」

「あたしにとっては逆に長かったかも。ノエルやマリンが色々話に来てくれるから、それが待ち遠しかったし、それについて色々考えたりぺこらと話したりもしたからね。二人に会う前はもっと何もなくて、思い返す事が何もなかったから」

「フレアの中では思い返した時に何があったかの方が重視されてるのかな?」

「そうかも。寿命が関係してるのかもしれないけどね。

 人間は今を生きてるって感じがする。だから忙しかったり、未来を見ている時は時間が早く進んでる。あたし達みたいに停滞してる種族は、どうしても身近に変化が無い分、未来を見る時も遠い未来になりがちなんだ。ただ過ぎ去る今を短く感じがちだし、過ぎ去った時を思い返しても何も無かった。

 でも今は二人のおかげで思い出す事がいっぱいで凄く充実してる」

「私、難しい話はよくわかんないけど、フレアが喜んでくれてるなら私も嬉しいよ」

「うん。あたしが外の世界にある話を知れて、こんな風に思えるのはあの時ノエちゃんがそういう決断をしたおかげ。だから、ありがとう」

 あの時というのが、マリンを逃した時の事だというのをすぐに察したノエルは、大きく両手を左右に振って答える。

「いやいやいやいや、それこそ私のほうがありがとうだよ。私だってマリンを捕まえたくなかったし、もし自分の意思を殺して捕まえてたら、今みたいな環境は絶対作れてなかったもん」

 ノエルの言う今の環境とは、周辺の地を平和的に幻生の都の領地として拡大し、争いも無く平和で穏やかな世界を広げた都周辺の事だ。

 

 当時、フレアの提案を受け入れてマリンを逃した。それを報告する義務があるノエルは幻生の都にある最高議会である元老院で、「宝鐘海賊団始め、船長のマリンも取り逃がしてしまいましたが、彼女らは都から遠く離れた海へ逃亡、結果的に驚異を排除することには成功しました」という報告が、元老院で受け入れられていた。

 これが受け入れられた事で、元老院は経過ではなく結果を重視しているのだとはっきりと知る事ができ、この一件はノエルにとって大きな収穫となった。この結果があったからこそ、元老院の少し過激な勅令も柔らかく解釈し、周辺各地を統治するのに迷うこと無く武力ではなく言葉による説得を重視出来たのだ。

 騎士団長に就任した時から命令があれば戦争に赴く可能性も受け入れてはいたが、やはり可能な限り戦闘は避けて通りたい。それが防衛ではなく侵攻ならなおさらだ。

 ノエルの尽力により被害も無く領地を拡大していく幻生の都の勢いは凄まじく、五年前と比べると数倍にもなっていた。

 

「それに、フレアに出会ってから生活に張りが出たっていうか、前より頑張れるっていうか、花が咲いたっていうか……ゴニョゴニョ……」

「それはあたしも一緒だよ。ノエちゃんが毎月来てくれて嬉しいし、楽しい。ちゃんと生きてるって感じがする」

「フレア……」

 二人は暫し無言で見つめ合い、そして笑い合う。

 その後もこの一ヶ月であった出来事や他愛ない話を互いに語り合い、歓談を楽しんだ。

 種族も生きてきた時間も大きく違う二人だが、互いに誰より気心の知れた間柄となり、それが感じられるのが嬉しいというのがはたから見ても感じられる。

 ぺこらもそんな二人を少し距離を開けて見守り、肩をすくめて呆れつつも、フレアの嬉しそうな顔を見て自分も嬉しくなるのだった。

 

「お二人さん、そろそろ良い時間になってきたぺこよ」

「ほんとだ、これ以上はノエちゃんの帰りが心配になっちゃうからお開きだね」

「む~。時間すぎるの早いよぉ」

「わがまま言わないの。それじゃぺこら、森の出口までノエルを送ってくるね」

「は~い、いってらっしゃいぺこ~」

 これも恒例となっている、その日最後の時間。

 森から出るところまで二人きりで歩きながら、この一ヶ月平和であったことへの感謝と、次の一ヶ月も怪我なく平和に暮らせることをお互いに願いながら最後の時間を楽しむ。

 そして別れ際にはそれを惜しむように指を絡め、互いに触れ合うことで英気を養う。

「それじゃ、また一ヶ月後を楽しみにしてるよ」

「わかった、また来月ね」

「うん、待ってる」

 ゆっくりと指が解け、ノエルが歩き出す。

 フレアも森から離れていくノエルの姿が見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

//10話(マリンとフレアの交流。不穏の影)

 

 ノエルが訪れた日とはまた別の日。

 普段通りぺこらとフレアの二人が横たわった古木の幹に座って歓談していると、ぺこらの耳がピクリと動いた。

「Ahooooyy!!! マリン船長ですよー!」

「うわぁっ、出たぺこ!」

「アハハハ、ぺこちゃんは反応が良くて驚かしがいがありますね~」

「あんた、人驚かして喜んでんじゃねーぺこ」

「マリーン、久しぶりだねー」

「フレアも久しぶりー! 元気だった?」

「元気だよー。でもなんで? 今日は皆マリンの事何も言って無かったのに」

「あんた達、まさか裏切ったぺこ?!」

「野うさぎの皆は悪くありませんよ。会うのも久しぶりだしぺこらの事を喜ばせたいからって、船長がお願いしたんです」

「何まんまと騙されてんの! マリンが何もしない訳ないなんてちょっと考えればすぐわかるぺこじゃん!」

「ごめんってぺこちゃん。ちゃんとお土産も持ってきてるから許して~。協力してくれた野うさぎの皆さんにもちゃんとありますから、安心して下さいね」

 そう言うとマリンは持ってきたカバンの中から大量の野菜を取り出す。

「見たこと無い、野菜? が多いぺこね」

「ほんとだ、この辺りじゃ見ない野菜だね」

「二人はこの辺りのものしか知らないだろうから、海の向こうで手に入れた日持ちするタイプの野菜をいくつか持ってきたんです。ちょっとクセのあるものもあるけど、ちゃんと火を通せば食べれるのばっかり持ってきたから良かったら食べてね。あと気に入ったのあったらまた仕入れて来るから教えて下さい」

「わかった、ありがとマリン」

「ありがとぺこ~。今から食べるのが楽しみぺこ」

「後で何作るか考えようね~」

「それじゃあんた達、これいつもの場所に運んどいてくれるぺこか」

 ぺこらが声をかけると、野うさぎたちはぴっと顔を上げた後、すぐさま絨毯のようにぴっしり密集して、背中に野菜を乗せていく。

 野うさぎ達に頼んで野菜を村の冷暗所まで運んでもらうのだ。皆がマリンからのお土産を喜び、夕食が今から楽しみにする。

「相変わらず凄い連携ですね。海の向こうでもこんな子たちはいませんでしたよ。君たちは凄い!」

 マリンにとってはこの光景を見るのも恒例だが、何度見ても見事な連携だと関心する。

 そして荷物を乗せ終わった野うさぎたちは一糸乱れぬ動きで、不安定な足場の森をスイスイと進んでいくのだった。

 

「ところで、最近何か変わったことはあった? ここいら一帯が幻生の都の領地になって、後はこの森くらいになってるみたいだけど」

「特に変わったことは無いかなぁ。ノエルが間に立ってくれてるし、異変が無いか毎月様子を見に来てくれるしね」

「それは良かった。ノエルも元気にしてるみたいで何よりです。ここ以外にも視察とか行ってるだろうし、きっと忙しいんだろうなぁ」

「そうだねぇ。それでも毎月会いに来てくれるんだから、嬉しいよね」

「相変わらずラブラブみたいで羨ましいな~。船長にもそろそろいい人出来ないかなぁ~」

「マリンには一味の皆がいるでしょ」

「そう、聞いてよフレア! 私はこれでも海に出るにあたって覚悟の準備をしていた訳ですよ。広い広い海の上、一つの船、屋根の下で一人の女と多くの屈強な男たち。何も起こらない訳が……」

 少し溜めを作るマリンだが、オチが読めている二人。フレアは苦笑し、ぺこらは少し目をそらしながら呆れるようなため息をついている。

「……二人の察する通り、本当に何も無いんですよ~。私ってそんなに魅力無いですか~」

 情けない声を出しながら問いかけるマリンに、二人は笑って答える。

「ほんとに、マリンはいつまで経っても変わらないね」

「まったくぺこ。とても大海賊の船長には見えないぺこ」

「え、これって褒められてるの? けなされてるの?」

「褒めてるんだよ。いつまでもそのまま、元気で可愛いマリンでいて」

「今更ふんぞり返られても困るし、そのままで良いぺこ」

「よくわかりませんがわかりました! これまで通り、私は私らしく生きていきますよ」

「うん、それが良いよ」

「ところで七つの海を旅し終わったみたいな話をノエルから聞いたぺこだけど、最後の海はどうだったぺこ?」

「お、ぺこちゃんも気になってますね~。良いでしょう! 聞かせてあげようじゃあありませんか」

 

 世に語られる全ての海を制した事、最後の海であった出来事や、まだまだ世界は広く、旅は終わらない事など、面白おかしく二人に語って聞かせるマリン。

 まるでおとぎ話を聞く子供のように楽しむ二人。

 マリンがくれる土産話はどれも新鮮で、二人は人生を潤してくれるものだと本心から感じていた。マリンも二人がとても楽しみにしてくれているのをわかっているからこそ、森の外である出来事を二人に聞かせようとしっかりと覚えて持ち帰る。今ではそれが冒険をしようという意欲の源泉であり、七つの海を制した今も途絶えることは無かった。

 三人にとっての楽しい時間も一つの話が区切りを迎えた頃、徐々に夜の帳が下り始めているのに気づいた。

 

「そろそろ良い時間になってきたね」

「もうそんな時間ぺこか……」

「楽しい時間はあっという間ですね~。幻生の都との約束がある手前あんまり堂々とうろちょろ出来ないのがもどかしい所です」

「まったく、めんどうな奴らぺこ。都には近づかないんだからほっいてくれればいいのに。ノエルは好きだけどその上司? は好きになれんぺこな」

「言っても仕方ないさ。マリンはもう帰る?」

「はい。無事に帰らないと一味の皆が心配して今度から付いてくるとか言いかねないですからね。よいしょっと」

 言うとマリンは立ち上がり、二人と最後の語らいを楽しみながら森の出口へと向かって歩き出す。

「相変わらず過保護な連中ぺこな」

「それだけマリンの事が好きなんだよね。あたしたちだって心配するんだから、気をつけて帰ってね」

「わかってますよ。それじゃまた新しい話を仕入れて来るから、二人も元気でね!」

「うん。またね」

「そっちこそ元気でいるぺこよ」

 森の出口まで付いてしまえば、後は別れるだけだ。互いに元気でまた会おうと語り合い、帰路につくマリンと見送る二人。今度会うのは何ヶ月後になるかはわからないが、きっと次も楽しい時間になると楽しみにしながら、明日を見る三人であった。

 

 これまで幾度となく繰り返されたやり取り。

「みんなが楽しそうで本当に嬉しい。でも、試練はすぐそこまで来てるから……気をつけてね、みんな」

 三人の様子を密かに見守る少女の目は優しいものだが、同時に憂いも帯びている。

 試練の火が近づいている。これを乗り越えられるかはまだ不透明で、見守るしか出来ない自分を不甲斐なく思い、もどかしい気持ちでいっぱいだった。

 そして、彼女の憂慮を現実とするように、事態は動き出していくのである……。

 

 

//11話(動き出す悪意、利用される新兵)

 

 夕暮れ時、エルフの森を幻生の都首都から見て逆方向に出てすぐの辺り、まっすぐ海へ向かうルートをマリンは馬に乗って駆けていく。この時、哨戒任務でエルフの森付近を担当していた白銀騎士団の新兵が赤いマントをなびかせて走り去るマリンを見かける。

「あれは……? 戻ったら隊長に報告してみるか」

 ……

 …………

 ……………………

「あぁ、それなら恐らく宝鐘マリンだろう。エルフの森にいる友人に会いに行ってるだけだから気にしなくて大丈夫だぞ」

「宝鐘マリンってあの?」

「察しの通り宝鐘海賊団の船長だ。だが特に悪さをするでもないし、都に悪影響は無い。変に目をつけて敵対する方が恐ろしい相手だ」

「そうなんですね……」

 

「ってことがあったんですけど、本当に問題ないと思いますか?」

 新兵のルークは隊長に報告した話を親しい先輩に相談していた。普段から隊長より接点も多い為、より信頼出来る先輩ならまた違った意見があるかもしれないと思ってのことだった。

「懐かしいな。俺も昔お前と同じように確認に行った事があったよ。対応はお前と似たようなもんだったし、結果今まで何も起こってないから大丈夫だぞ」

「でも、今と昔じゃ宝鐘海賊団の規模が違うんじゃ……それに海賊団って犯罪者集団ってことですよね?」

「確かに規模は違うが、奴ら海賊団って名乗ってるだけで悪さをする様子は見せないっていうのが現状だからな。その気質が変わったって話も聞かないし、規模が大きくなればこそ、隊長の言うように敵対するのは怖いんじゃないか?」

「我々が負けるって言うんですか!?」

「勿論簡単に負けるつもりはないが、海戦だと勝ち目は無いだろうな。上手く陸戦に持ち込んだとしても、多大な被害が出ることは想像に難くないだろう」

「それは、そうかもしれませんが……」

「ま、こっちから手出ししなきゃ問題ないだろうし、気にする必要は無いさ」

「そう……ですね……」

 新兵ルークは今ひとつ腑に落ちない様子ではあったが、隊長も先輩も問題無いというならそうなのだろうと納得してこの件を切り上げた。

 

 ルークがマリンに関する話をした翌日、訓練後に酒場で酒を煽っていると訓練などでは見かけない人物が声をかけてきた。

「やぁ、ここ良いかな?」

「どうぞ」

「ありがとう。たまにはこうして飲まないとやってられないね」

 細いツリ目にとっつきやすそうな笑顔で気さくに話しかけてくるその男は、白銀騎士団の一員ではありそうだが、それにしては体つきが華奢に見える。ルークから見ると、口ぶりからしてもまだ入って間もないのかもしれないと思った。

「まぁ、でもここは居心地が良いから特に不満は無いな」

「違いない。君は騎士団に入って長いのかい?」

「僕もまだ一年と少しいるだけだよ」

「そうだったんだね。それにしては体つきがもう完成されてきてるように見えますね。私はあまり筋肉が付かない体質みたいで、羨ましい」

 ツリ目の男は自身の身体を見下ろしながら自虐気味に苦笑してみせる。

「訓練には人一倍気合を入れているつもりだからね。君も食生活に気をつけつつ密度の濃いトレーニングを重ねればもっと筋肉をつけることは出来るはずだよ。良ければ僕が見てあげようか」

 まだまだ新人として扱われるルークは、教える相手が出来るかもしれないと少し喜びながら話を進めていた。

「ありがとう、でももう少し自分で頑張ってみますよ。行き詰まったら話を聞きに来て良いかな」

「勿論だ。いつでも声をかけてくれ」

 

 一つ話の区切りが付いたところで、ここからが本題だと言うように別の話題が投げかけられた。

「ところで、君が先日海賊団の船長を見かけたって聞いたのだけど、それは本当なのかい?」

「ああ、エルフの森近くでね。単騎で特に旅人らしい荷物も無かったから隊長に報告したんだ。場所や服装の特徴からも恐らく宝鐘マリンだろうっていう話になった」

「単騎で……」

 一瞬真剣な目つきになるも、ルークはそれに気づかないまま話は進んでいく。

「それで、その話はどうなったんだい? 捕縛作戦でも検討されるのかな」

「いや、宝鐘海賊団には手を出さない方針みたいだ。奴らは悪事を働いている訳ではないってことが理由らしい」

「ふむ……しかし今はまだっていうだけじゃないのかい?」

「僕もそう思う。今悪事を働いていないと言っても、海賊を名乗ってる以上いつ問題を起こしても不思議は無いんじゃないかって」

「そうだよね。私も君の懸念は正しいと思いますよ」

「だよな! 問題を起こしてからじゃ遅いんだし、近隣に現れたなら警戒くらいするべきなんじゃないかと思うんだが、先輩も隊長も気楽なものだよ」

 ルークにとって初めて自分の意見に同意してくれた人物だ。自然と自分の思いを吐露していく。

 そしてツリ目の男はルークの気持ちを助長させるように相槌を打ち、その考えは正しいという気持ちを大きくさせる。その中にルークがこれまで知らなかった情報を織り交ぜていくが、酒を煽っている上に高揚しているルークにはその真偽もさほど重要な事ではなく、自分の気持ちを肯定する材料であれば受け入れてしまう状態だった。

「私も君の意見に賛成だ。今ならまだ鎮圧出来るかもしれないというのに、これ以上野放しにして本当に歯が立たなくなってからでは何もかも手遅れになってしまう」

「間違いない。それにさっき言っていた過去、白銀騎士団が奴らを都から追い出したというのが本当なら逆恨みして牙を向いてくる可能性さえあるんじゃないか?」

「今はおとなしくして方々の信頼を得て、力をつけた所で確実に我々を潰しに来る算段なのかもしれないと?」

「その通りだ! 仮にその可能性があるとして、どうすれば良いと思う?」

「そうだね……。宝鐘海賊団は船長のカリスマで成り立っているという側面があると聞いた事があるから、船長さえ捕らえてしまえば降伏させることが出来るんじゃないかと思いますね」

「それは良い。船長の無事と引き換えに投獄してしまえば都が脅かされることもない。船長命令も無く暴動を起こしたとあってはただの暴徒だ。鎮圧の大義名分も出来る」

「実にスマートだ。捕らえるにはやはり見かけたという森の近くで待ち伏せるのが良いと思うかい?」

「そうだな。目立たないように単騎で都の領地に来ているとしても、領地から出てしまうと海賊団と合流するだろうし、中立である森から出た所で、早いうちに捕縛してしまうのが良いと思う」

「私も同意見だよ。君は身体だけでなく頭もキレるようで羨ましい」

「そんなことはないさ。僕なんてまだまだ」

「謙虚な姿勢も好感が持てるよ。いやはや、楽しい時間だった。今日はこの辺りでお暇するけど、近いうちにまた会おうルークさん」

「ああ、また話そう」

 酔いも回った様子で顔も赤くなったルークをよそに、ツリ目の男は来た時と変わらず飄々とした様子のままその場を後にする。

 ルークはと言えば、その場で酔いつぶれて眠ってしまうのであった。

 

「昨日は飲みすぎてしまった……」

 軽い二日酔いになってしまったことを反省しながら訓練場に入ったルークに、隊長が声をかけてくる。

「おはよう。体調不良か?」

「いえ、少し気が緩んでしまっていただけです。申し訳ありません」

「いや、問題無いなら良いんだ。お前に呼び出しがかかっててな、今から言う所へ向かってもらえるか?」

「承知しました。すぐ向かいます」

 指定されたのは元老院管轄の兵士宿舎で、白銀騎士団とはあまり交流のない場所だった。

 到着して所属と名前を告げると、案内役の兵士がやってくるが、その顔には見覚えがあった。

「また会いましたね。ルークさん」

「あの時の。ここの所属だったのか」

「はい。あの日は楽しい話をありがとうございました。今日は君にとってもきっと良い話ですよ。こちらへどうぞ」

 通された場所では上官に当たる人物が待っており、礼と挨拶を済ませると早速本題を切り出した。

「貴君には一つ特別な任務を遂行してもらいたい」

 特別な任務と聞いてルークは身構えるが、同時に自分が期待されているのだと気分も高揚していく。

「先日宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンが目撃されたという報告があった。我らが領土には進入しないという制約があるにも関わらずそれを破ったとして身柄の拘束命令が出た。単騎で駆けているという所を目撃したという貴君には、今後同じことがあった際には拘束してもらう。可能か」

「ハ! エルフの森付近で目撃した際には単騎であり、早馬という訳でも無いように見受けられましたので、数名の共があれば容易かと思われます!」

「頼もしい回答だ。共とする兵士はこちらから手配しよう。さらに港からエルフの森にかけての道中、我が部隊から見張りを常駐させ、発見の際には貴君へ伝えるよう指令を出しておく。我が期待に応えてくれる事を願う」

「ハ! 必ずや完遂してご覧に入れます!」

「うむ。貴君の活躍に期待している。下がってよし」

 再度の敬礼をし、退出していくルーク。彼に続いて退出してきたツリ目の男が分かれる前にと話しかけてくる。

「どうでしたか、任務を与えられた感想は」

「まずはお礼を言いたい、ありがとう。君と話したからこそ与えられた任務だと思う。部隊の違う僕が指名されたのも君が推薦してくれたからだろう?」

「流石にバレバレでしたね」

「そこまで鈍くは無いさ。この恩に報いる為にも必ず成し遂げてみせる」

「そうしてくれると私としても助かります。恐らく協力する兵士に私も入るでしょうから、その時は一緒に手柄を上げましょう」

「そうであれば僕としても心強い。今から楽しみだ」

「えぇ、ノエル団長の為にも、必ず成功させましょう」

「ノエル団長がこの件に何か関係あるのかい?」

「おや、私の勘違いだったら申し訳ない。ノエル団長が思いを寄せる方のいるエルフの森に近づく宝鐘マリン。奴を捕らえれば団長の心象も良くなるかもしれないと、少しは考えていたりするんじゃないかと思っていたのですが」

「そ、そんな事は考えていない! 僕は純粋に宝鐘海賊団の危険性をだな……」

「ふふふ、そういう事にしておきましょう。それじゃ、また後日」

「ああ、また会おう!」

 話し終えるとまっすぐ白銀騎士団の訓練場へと向かうルーク。

 彼は初めて己自身に向けられた期待を嬉しく思い、必ず成し遂げてみせるという意気込みと、成功した際にはどのような評価が行われるのかという楽しみを胸に、来たる日の為により一層訓練に励むのだった。

 

 ルークと別れた後、ツリ目の男は謁見していた部屋へと戻り、先ほどとは違った様子で上官と話し始める。

「奴は使えるのか」

「えぇ、いい具合にテンションも上がってますし、疑われている様子も無い。望む働きはこなしてくれると思いますよ」

「微塵も疑わんとは、とんだ単細胞だな。逆に心配になる」

「周りの評価も話した感じもバカで真面目な熱血漢。私が補助に入れば宝鐘マリンを捕らえるのに問題は無いでしょう」

「たかだか数日でよくそこまで調べ上げるものだ」

「それが諜報部の仕事ですからね。必要とあらば上官殿の事も調べ上げてご覧に入れますが」

「戯言はよせ。今回の件、上手くやれよ」

「勿論ですよ。お任せあれ」

 利用されているとも知らないルークをよそに、事態は確実に動いていくのだった。

 

 

 

第二章:

――海賊と騎士団の成長。フレアとの交友――

 

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