ホロライブファンタジー~因縁の騎士対海賊、悲しき戦い~   作:狛柳

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第三章:――新人団員の暴走。海賊団と騎士団の対立――

//12話(捕らわれるマリン。捜索する一味)

 

 ルークに任務が与えられ数ヶ月、未だマリンも現れず特に事件らしいものは無く、フレア、ぺこら、ノエル、マリンの関係性も変わらず平和そのものだった。

 しかし水面下では確実に動きがあり、それは行動を起こしている者たち以外は誰も気づいていない。

 そしてついに、潜伏者たちが待ちに待った日がおとずれる……。

 

「それじゃフレア、ぺこら、また来ますね」

「うん、またいつでもおいで」

「気をつけて行ってくるぺこ」

 この日はマリンがエルフの森を訪れて普段通り楽しく談笑し、一味の元へ帰ろうとしている所だった。

 森が終わる所に繋いでいる馬の元まで歩いた後は、港まで馬で駆けて行くいつも通りの行動。

 しかし森を背に駆け出してしばらくすると、いつもとは違う事態が発生した……。

「なんなんですか、あなた達は……」

 騎士甲冑に身を包んだ男数名に囲まれ、マリンも普段の軽口で済ませるには少し空気がヒリついている事を感じる。そんな中一人の男が声を上げる。

「我らは幻生の都に所属する騎士である。貴殿は宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンとお見受けするが、いかがか」

「都の騎士が私になんの用ですか……」

「拘束させていただく。おとなしくすれば乱暴はしない」

「拘束?! どうしてですか! 何も悪いことしてないでしょーが!」

「ここにいることがすでに罪だ!」

「知りませんよ!」

 言うや馬を走らせ、その場を切り抜けようとするが、後ろに控えていた騎士の一人が放つ投げナイフがマリンの馬を襲う。

「うわぁぁっ!!」

 かろうじて受け身をとって大事には至らなかったものの、馬から落ちては逃げる事はもはや不可能。すぐに取り囲まれ、これ以上の抵抗は無意味だと拘束を受け入れるしかなくなる。

「いたっ。どうせもう逃げれないんだからもっと優しくしてください」

「罪人に気遣う必要は無いだろう」

「私が何したって言うんですか……」

 罪人と言い切られるこの状況では何を言っても無駄だと悟り、おとなしくついていく事にする。手足を拘束されたまま馬に乗せられ、幻生の都へと連れて行かれる。

 故郷への帰還がこのような形になる事を悔しく思いながらも、為す術もなく馬に揺られるのだった。

 

「先程の見事なナイフさばき助かった。ありがとう」

「いえいえ、こういう時の為に派遣されましたからね。ルークさんのお役に立てて何より」

「ああ、おかげで無事任務を果たせる」

「都に着くまでに逃げられては問題です。最後まで気を引き締めていきましょう」

「無論だ。この任務、必ず成功させる」

 気負い気味のルークに対して程よく気が抜けているツリ目の男。明らかに経験の差を感じさせる組み合わせだが、ルークの方がリーダーである様子。そして拘束する時のやり取りにしても少々強引すぎる問答を見るに何か裏がありそうだと推察するマリン。

 しかし手足を縛られている今出来ることは無いので、おとなしくついて行きつつ道順を出来る限り覚えようと頑張るのだった……。

 

 マリンがルークら白銀騎士団に囚われた翌日の夕暮れ時。

 それまで待ち合わせ場所の宿屋で酒を飲んでマリンの帰りを待っていた一味だが、二日目の夕暮れになっても戻らないことを心配した一味はエルフの森へおもむき、森へ少し入った所でフレアへ向けて声をかける。

 時間はもう夜に差し掛かる頃だが、森の木々からの伝言を受けたフレアはすぐに一味の元へと向かった。

「みんなが来るなんて珍しいね。何かあった?」

「フレア姉さん、うちの船長知りませんかい?」

「マリンなら昨日の夕方にいつも通り帰ったけど、もしかして戻ってない?」

「ええ、一日泊まってくる事はこれまでにもたまにあったんで気にしませんでしたが、何も言わずに二日っていうのは今までに無かったもんで様子を見に来たんですが……」

 双方少し黙り込んでしまうが、一味の副長であるサブはフレアに心当たりが無いならと近辺の村や集落に聞き込みをしてみると言う。

「何度も通ってる道ですから迷うとも考えられませんし、俺らが待ってるのを知ってて長時間寄り道をするとも考えにくい。だから、何かあったと考えるのが妥当だと思うんですよ」

「そうだね……。あたしが全く知らなかったから少なくとも森の外で何かあったっていうのは確か。森の外だとあんまり力にはなれないけど、あたしも出来ることはやってみるよ」

「助かります。俺らだけで探すよりは絶対早いと思うんで、よろしくお願いします」

 強面な様相には不釣り合いなほど丁寧に頭を下げるサブの姿勢から、心からマリンを心配している事がうかがえる

「うん、あたしも心配だからね。何かわかったらすぐに連絡する」

「ありがとうございます。俺らも近くにあるルドの村に拠点を移しておきますんで、何かあればそこへお願いします」

「わかった。無事に見つかると良いね」

 改めて頭を下げると、他の一味も連れて森を後にした。

「お前らはそのまま聞き込みに回ってくれ。俺は一旦港へ行って他の奴らを連れて来て明日から聞き込みを始める」

「そんな悠長な事言うなんてサブちゃんらしくないな。船長が心配じゃないのか?」

「んな訳ねぇだろが! こっちに戻ってくるのが夜中になるってのもあるが、何よりこの辺りが幻生の都の勢力下にあるってのが問題なんだよ」

「あぁ~……そういやそうだったな。長いこと平気だったから忘れてたわ……」

「そういう事だ。お前らもあんまり目立ちすぎる動き方はするなよ」

「了解だ。そっちも人数増やすならどうしても目立つから気をつけてな」

「おう。それじゃよろしく頼む」

 サブは他の一味にその足で近隣の村々に聞き込みへ行くよう指示を出し、自身は港町まで戻って他の一味と合流した。

 そしてルドの村へ早馬を一頭と、聞き込みと戦闘が得意な者を引き連れて戻るのだった。

「無事でいて下さいよ船長……こんな所で終わりなんて絶対に嫌ですからね」

 最悪を想定しながら、それでも希望の火を消すこと無く、一味は全力で船長の行方を探して回る。

 それから数日が経った頃、定期連絡をしにノエルが都からエルフの森へ向かっていた。

 

 

//13話(都に流れる空気の変化)

 

 時は少し遡り、ルーク達は連行してきたマリンを元老院直轄の兵士へと引き渡していた。

「任務完遂ご苦労だった。ここからは我々が引き継ぐ」

「は。これからこの者はどうなるのかだけ教えていただいても?」

「貴様が知る必要は無いが、ここまで連れてきた褒美に教えよう。これから牢へ繋ぎ、しばらくは各都市にいる海賊団の情報を引き出す。その後は海賊団の出方次第だ」

「お教えいただきありがとうございます。私はこれからいかが致しましょう」

「追って連絡する。それまでは白銀騎士団員としての通常任務に戻るように」

「は。では失礼します」

 兵士はマリンを連れて都の中心部にほど近い牢へと向かっていった。

「お疲れ様でした、ルークさん」

「ああ、無事に完遂出来た事は嬉しい限りだ。これで都が大きな驚異から解放された」

「そうですね、同時にノエル団長殿の恋敵も引き離す事が出来たのですから、貴方の覚えも良くなるはず」

「そ、そんな事は二の次だ! 僕は都のためにだな……」

「そうでしたね。……あなたとご一緒出来て楽しかった。また一緒になることがあればよろしくお願いしますよ」

「こちらこそよろしく頼む。では、また」

「ええ、また」

 ツリ目の男とも別れ、ルークは再び白銀騎士団の通常業務へと戻っていった。

 

 マリンが捕らえられてから数日が経つが、白銀騎士団のノエルにこの報告は入ってこなかった。ノエルは過去に意図的にマリンを逃した経緯がある為、余計な事をする可能性があると見られているのだ。

 しかし諜報部を始め、元老院直轄部隊は宝鐘海賊団船長が投獄されたという重大な事実を知っている。勿論、宝鐘海賊団にこれが知られれば襲撃される可能性もあるだろう。

 その為、都を守る準備として戦闘準備が進められているというのが、都の現状である。

 ノエル自身に詳しい情報は無くとも、都が普段と違う動きを見せている事は理解できる。何やらきな臭いこの状況に不安を覚えながらも、定期視察を怠る理由にはならず、普段通りの業務をこなしていく。

 いつもなら楽しみなはずのエルフの森へと視察に出る日でさえ、若干の胸騒ぎを抱えつつ向かうのだった。

 

 

//14話(フレアからの情報)

 

 ノエルがエルフの森まで着くと、普段は必ず笑顔で迎えてくれるフレアの顔に少し影が見える事に気づく。

「フレア……? 何かあったの?」

「うん、ノエルには心当たりない?」

「え……無い、けど……え、私何かしちゃった?」

 自分が何かしてしまったのかと焦るノエルだが、慌てるノエルの様子を見て今度はフレアが慌ててノエルに謝る。

「ごめんノエちゃん、そういう事じゃなくてね――」

 宝鐘マリンが行方不明になり、一味が必至に近辺を探している事を伝える。

「この辺りを広く知ってるノエちゃんなら何か知らないかなと思って。で、もしかして都が捕まえたりしてないかちょっとカマかけた。ごめんね」

「ううん、いいの。でもマリンがいなくなったっていうのは結構問題かも……」

 申し訳なさそうな声音と共に両手を合わせ、いつもの空気に戻そうとするフレア。

 だがノエルは都にある領地の多くを管轄する立場上、フレアよりも見える部分は多い。マリンが行方不明となることで起こりうる問題に考えを巡らせる。

「一味の人たちがこの辺りで聞き込みしてるって言ったよね。それって、海賊団ってわかる形でやってるかわかる?」

「サブちゃんはあれでしっかりしてるし多分わからないようにやってると思う。ただ、探してるのが目立つマリンだから……察しのいい人は気づくかも」

「それが数日前からか……もう都に何らかの情報は入ってるかもしれない」

「え?」

「最近都の様子がちょっと変だなって思ってた所だから……。私の方でも調べてみる。少し時間くれるかな」

「助かるよノエちゃん! ごめんね、ノエちゃんの仕事考えたら無理なお願いなのに」

「そんな事無いよ。私もフレアの話を聞いてたら友達になれるかもって思ってたし、何より変な形で争いになって欲しくないから。何かわかったら連絡するね」

(マリンに何かあったら本当に戦争になりかねない……それくらい宝鐘海賊団は大きくなっちゃってるし……)

 フレアには笑顔で返すが内心不安を感じるノエルは、急ぎ都へ戻る事にして普段より早く森を後にした。

 

 フレアからの話だけでなく騎士団長としての情報も得ているノエルは、宝鐘海賊団の規模を具体的に知っている。それを鑑みれば迂闊に手を出すのは得策では無いと考えるが、温厚な気性で知られる彼らだからこそ侮られている節もある。しかし弱いから討伐するというのは道理に反する上に、温厚は弱さの裏付けにはならない。

 今回の件に限らず、正しく倫理的なノエルが道理を通してきたからこそ幻生の都はここまで成長出来たと言っても過言ではない。

 そのノエルの脳裏には、都へ近づく危機がひしひしと感じられていた。

 圧倒的なカリスマ性で一味を統率するマリンが危害を加えられたとしたら……危害が加えられていなくても、所在を調べる為の行動が安全という確証は無い。

 一国の軍とも渡り合えると言われている宝鐘海賊団が何をしでかすかわからないという、言葉では言い表せない不安がノエルを襲う。

 民の安全の為にも、詳しい状況を急いで把握しようと、馬を走らせるのだった。

 

 

//15話(ノエルの立場。都の目的)

 

 幻生の都まで戻って来たノエルは、その足で元老院へ謁見を求めた。

 しかし返答は思っていたものとは違い、元老院管轄の兵士宿舎へ向かうようにという指示だった。そこで知りたいことは知れるだろうといった事を言われるが、疑惑が良くない方向へ確信に変わっていく、嫌な感覚を覚えるのだった……。

 

「ようこそいらっしゃいました。白銀騎士団団長、白銀ノエル殿」

「あなたは……」

 通された宿舎の応接室で待っていたのは、ルークを勧誘した時の上官だった。ただしルークと面談した時とは違い、口元は穏やかな笑みを浮かべている。

「会議の場で何度か同席させていただいております、情報統括部のゲイルと申します」

「覚えてます。各地の情勢を細かく調べる部隊……私達もその情報を元にした調査をする事もありますから」

「覚えていただいていて光栄です。さ、どうぞお座りになって下さい」

 ノエルは促されるままソファに座り、正面からゲイルを見つめる。

 ゲイルは変わらず余裕な表情で目の前にあるカップの飲み物に口をつけつつ、事の本題を語り始める。

「ノエル団長殿がこちらに顔を出す日が来る事は、あの日からわかっておりました。宝鐘海賊団船長、宝鐘マリンを捕らえた日からね」

「やっぱり……」

「そう怖い顔をしないで下さい。何もノエル団長殿の不利益にはなっていないでしょう」

「どうしてそう思うんですか」

「なぜって、宝鐘海賊団は味方でもなければ何かに協力してくれている訳でもない。我々にとって利益と呼べる事は何一つしていない。であるならば、その首領を捕らえて不利益になる事など無いでしょう? それとも、白銀団長殿には何かあるのでしょうか」

 逆に問いかけてくるゲイルの表情は笑顔のままだが、その目はノエルを探る意図が見て取れる。

(ここで下手な事を言うのは良くなさそうかな……でも――)

「確かに、現状宝鐘マリンを捕らえる事に不利益は無いかもしれません。しかし捕らえなかったとしても不利益は無かったんじゃないですか?」

「それこそどうして、ですよ団長殿。奴らは海賊であり、素行の悪い者が集った集団です。それがここまで大きくなってしまった……これを憂慮せずにいられるのは、些か平和ボケがすぎるというものではないかと」

「平和ボケ……でも事実彼女たちは他国で問題行動は起こしていないじゃないですか。それを一方的に拘束するというのはやりすぎじゃないですか? それこそ敵対心を持たれても仕方ないと思います」

「しかし奴らは我らが領地へ侵入していた。賊が領地内をうろついていては領民も安心出来ますまい。民の安全と安心を確保する事が我らの責務だと思いませんか」

 不当性を説くノエルだが、ゲイルも確たる筋があっての行動であると主張し、話は平行線をたどる。

 だが話が宝鐘海賊団の驚異に言及するにつれ、ゲイルの言い放つ言葉がノエルが許容出来ないラインを超えていく……。

「仮に、もし今回の一件で奴らが襲ってくるならむしろ好都合。近隣諸国を脅かす賊を討伐する良い口実が出来たというものではありませんか?」

「なんてことを言うんですか! 既に簡単に制圧出来る規模の相手じゃありません。そんな相手を不用意に敵に回すのは凄く危険だって言ってるんです。すぐに彼女を釈放して溜飲を下げてもらうよう言葉を尽くすべきです!」

「我らが頭を下げるべきだと言うおつもりですか? それこそ逆でしょう。賊を名乗った時点でこれくらいは覚悟して然るべきというもの。何よりいくら巨大となったとは言え所詮は賊。正規の訓練を受けた白銀騎士団の敵では無いのでは? 安全を期すのなら陸まで引きずり出して戦えば良いのです」

「だからそれじゃ被害が……」

(ダメだ……全く聞く耳を持ってくれない……それにいつの間にか白銀騎士団が戦うような流れになってるし……)

 話が良くない方向へ進み、口論では相手の方が上でありどうしようも無いと悟ったノエルは、事態を好転させる方法が思い浮かばない。

 それから少し続いた口論も結局ノエルの望む結果に近づけるには至らず、失意のまま兵士宿舎を後にするのだった。

 

 

//16話(ノエルとマリンの邂逅。るしあの思いとは……)

 

 ノエルは兵士宿舎を後にしても、どうにかしてマリンを釈放出来ないかと考えを巡らせていた。しかし良い考えは浮かばないまま、その足は自然と牢の方へと向かっていた。

「宝鐘……マリン……」

「おやおや、どしたの~? 懐かしい顔の美少女がそんなに暗い顔してぇ。可愛い顔が台無しだよ」

 まるで友人に向けるような笑顔と口調。ここが牢屋などでなければ、本当に昔なじみだったのではと錯覚するほど自然な……。牢屋に捕らわれてなお、昔会った時よりも輝きを増したように見える彼女を見て、思わず涙が溢れそうになるのをぐっとこらえる。

「どうして、領地にいたの……?」

 気丈を装いつつも心根の優しさが滲むノエルの言葉に、マリンは一瞬あっけに取られるが、得心がいったように笑みをこぼす。

(良かった。ノエルはあの時から変わってないんだね)

「エルフの森にね、友達がいるんだ。あの辺が幻生の都の領地になる前からの、大事な友だちが」

「フレア……」

「ぺこらも忘れないであげて?! ……あの二人がいなきゃ今の私は無かったと思ってる。同じようにノエル、あんたとも友達になれると思ってたんだけどね……」

「っ…………私だって……」

 ついにこみ上げてくるものを抑えきれなくなったノエルは、そのまま牢に背を向けて立ち去っていった。

 ……これまで自分のやってきた事はなんだったのか……領地を増やすというのは相手が望んでいなければ侵略に等しい行為でもある。それを出来る限り平和的にやってくることで自分をごまかして来たが、本当にやりたかった訳でもない。

 命令だから……これで皆が豊かに平和にやっていけるならと従ってきた結果が、意見を聞いてもらえず、話すことすら受け入れてもらえていない今の状態だ。

 結局、マリン一人を牢屋から出すことも出来ない。ほんの少し状況が違えば親友になれたかもしれない相手なのに……。

「……人生、ままならないね」

 七つの海を踏破した海賊は灰色で冷たい牢の壁を見つめ、察するに余りあるその心情を思ってつぶやく。

 

 ノエルが立ち去り、マリンもこれからどうするかを思案していた。

 都にいる上層部の狙いがなんなのかは今ひとつ掴みきれないが、すぐにマリン自身をどうこうするつもりは無さそうだと考察する。

 救いなのはマリン自身が傷つけられていないこと。捕らわれたままの状態で拷問でも始まろうものなら、一味を完全に止めるのは少し難しくなる。

「ノエルの前ではおどけてみせたけど、このままってのは結構まずいですよねぇ。みんないい子だしサブちゃんもいるから、しばらくは大丈夫だろうけど……」

 拷問が無かったとしても長期間合流出来なければ、どうにかして解放しようと行動を起こすだろう。

 その前に居場所を探り当てる為、虱潰しに聞き込みをする中で部外者を怖がらせる事があるかもしれない。

「みんな船長の事大好きですからね。だからこそ船長が嫌がる事はしないと信じてもいる訳ですけど……」

「でも、我慢の限界が来たらどうなるかわからない」

「そうなんですよね~……って誰?!」

「……」

 突如マリンの目の前に現れた少女は、横目にマリンを見ると、牢のドアに目を戻す。

「もしここから出れたら、マリンはどうするの」

(ぉぉ……華麗にスルーですね)

「出れたらもちろん一味と合流しますけど……」

「それだけじゃ済まないとしたら、どうする?」

「え? ……それってどういうことですか」

 マリンの脳裏に嫌な予感が走る。ただ合流出来るだけじゃないとするなら、それは何か一味に関わる問題があるという事に他ならないからだ。

「何か知ってるなら教えてください!」

「……これから、人が死ぬの。マリン、貴方がここを出る事で誰かが死ぬと知っても……それでも出たいと思う?」

「なっ……」

 自分が牢から出て一味と合流することで、誰かが死ぬと突きつけられ絶句する。

 しかし呆けている場合ではないと、すぐさま少女の言葉の意味を確かめようと質問を飛ばす。

「それってどういう事ですか?! それに、どうしてそんな事がわかるんですかっ」

「私はね、ネクロマンサーのルシア。だから人よりも死の気配に敏感なの」

「ネクロマンサー……? 美少女なのに……?」

「っ……」

 ポロッと出た本音にルシアも一瞬戸惑うが、すぐに調子を戻して続きを話していく。

「マリンとノエルを中心にした死の気配が数年前からあったの。それが今ピークに来ようとしてる……」

「数年前……つまり幼女の頃から見られてた……? ダメですよ! そんな小さい頃から船長みたいな大人の女を見てたら教育に悪いじゃあありませんか」

「もう! 真面目な話をしてるの! ちゃんと聞いて! それにルシアはネクロマンサーで1600歳だからなんの問題も無いから!」

「せんろっぴゃくさぃぃい?!! シワひとつ無い美少女なのに?! 船長もネクロマンサーになりたい!!」

「だぁかぁらぁ!! ちゃんと聞いてってばっ!!!」

「はいぃ! ごめんなさい! シリアスが長くてちょっと耐えられなくなりました!!」

「せっかくかっこよくお話したかったのに……マリンのせいで台無しだよまったく」

「ごめんなさい。呼吸も出来たので、改めて教えて下さい。私が一味と合流する事で人が死ぬって、本当なんですか?」

「そうだよ。さっきも言ったけど、私は死の気配に敏感なの。ノエルとマリンが交わる時に大きな戦いが起こるのは間違いない。そして、その時は近い」

「それを回避する方法は?」

「詳しくはわからないけど、マリンとノエルがお互いの仲間を連れて会わなければ大丈夫なはず」

「確実って訳じゃないんですね。それなら今度は、確実に人が死ぬんですか? だとしたらどれくらい?」

「死の気配が強いから誰かが寿命以外で死ぬのは確実だけど、人数まではわからないかな。ただ断片的に見えた光景に、マリンとノエル、それと宝鐘海賊団と白銀騎士団がいたのは確かだよ」

「自然死以外の気配を感じ取れて、おまけに断片的な未来視まで出来るなんて……ルシアちゃん凄すぎない……?」

「ネクロマンサーだし、こう見えて1600歳だし。だからちゃんはやめて」

「ちなみに、人数って一人以上って事以外は全然わかんない感じですか?」

「うん。死の気配って死ぬ人だけじゃなくて、普通の人にもあるんだ。死に近い人ほど気配が強くなるから、大きな争いになると気配が入り乱れてわからなくなるの……」

「そんな中でも、一人は確信出来るのは?」

「う~ん……説明するのは難しいんだけど、最大値はわかる……みたいな感じ。その土地に死の色がした太陽がある……みたいな?」

「例えが怖い……! でもなんとなくわかりました。死者一人以上、負傷者多数っていう所までが確実って事ですね」

「そうだね」

「……そんな大惨事が……私が一味と合流したら起こるんですね」

「そう。それでも、合流する?」

「…………」

 即答は出来ず、深く悩むマリン。それを黙って見守るルシア。

 彼女の脳裏に、これまで共に旅をしてきた仲間たちとの思い出が駆け巡る。その中でマリンにとって、宝鐘海賊団にとって、最も大切な事、捨ててはいけないものが何なのかがはっきりとしていく。

 そして再び顔を上げる時にはもう、曲がらぬ信念を持った目をしていた。

「決めたんだね」

「ええ、決めました。最初は、沢山の人が死んじゃうっていうならこのまま動かない方が良いのかなとも思いました。

 でもルシアの話をしっかり聞いていくうちに、必ずしもそういう訳じゃないなら、逆に死者を減らせるようにも出来るんじゃないですか?」

 否定も肯定もせず、ルシアはマリンの話をまっすぐ受け止めている。

「勿論、最低でも一人の死人が出てしまうことは簡単に割り切れる事じゃない……。

 ですが、船長が船長じゃなくなってしまったら、宝鐘海賊団は全員が不幸になってしまう。

 自惚れてるって言われるかもしれませんが、私の事が好きだったり、宝鐘の旗の下を自分の居場所だと思ってくれる人が集まってくれたのが私の船です!

 私には、船長としての責任があります!!」

 力強く言い放つマリンに、ルシアも微笑みを浮かべて頷く。

「勿論、犠牲になった人への償いは可能な限りするつもりです。それに、自慢じゃないですけど結構社会貢献もしてますし!? 宝鐘海賊団は有益です! 多分! おそらく! きっと!」

「クスっ。最後まで自信持ってよマリン。せっかく格好良かったのに」

 犠牲者が出る事を許容した自分へ、多少なりともマイナスの感情が向けられる事を覚悟していたマリンだが、吹き出したルシアの笑顔にそんなものは無いように見えた。

「あの、ルシア……」

「うん? どうしたのマリン」

「これでも結構覚悟のいる宣言だったんですけど……?」

「ああ、うん。そうだと思う。でもね、マリンはこんな所でぼんやりしてるべきじゃないと最初から思ってたんだ」

「そうなんですか?」

「うん。ただ、覚悟はちゃんとしておいて欲しかったの。マリンが今の輝きを失う事になったら、それは合流しなかった時と何も変わらない結末になっちゃうかもしれない。そんな、誰も幸せになれない結果は見たくないから……」

「誰も幸せにならない結末なんて絶対嫌です。それは多分、私が戻らなくても同じなんですよね」

「マリンがいてこその宝鐘海賊団だからね」

「わかりました! なら私は船長として、出来ることを全力でやってやりますよ!」

「うん。それでこそマリンだよ」

 ルシアは嬉しそうにはにかむと、まるで壁など存在しないように難なく牢をすり抜けていく。

 あっけに取られるマリンを横目に外から鍵を開いて通路の先を指す。

「疑ってた訳じゃないんですけど……ネクロマンサーって凄いんですね……」

「ルシアは特別だからね」

 胸を張るその姿はえっへんと聞こえてきそうなくらい可愛らしかったが、見回りがいつ来るかわからない状況では騒いだりのんびりとはしていられない。マリンは抱きつきたい程の興奮をぐっと堪えて、先に続く言葉に耳を傾ける。

「それで、ここをまっすぐ進むと階段があるから、それを登って地上に出たら――」

 ここまで連れてこられた時の記憶とルシアの説明を擦り合わせながら、脳内に脱出経路を描いていく。

「う~ん、初めての街ですから完璧とまではいきませんが、なんとかなると思います」

「それじゃマリン、見てるからね」

「えっ――」

 ルシアも一緒にと言おうとした矢先、牢から出た時と同じように……まるで始めからそこには誰もいなかったかのようにふわりと消えてしまった。

「ここからは一人で行けって事ですね……」

 冷や汗をかきながら覚悟を決める。そして敵の本拠地である都の中を一人進んでいくのだった。

 

 

//17話(ぺこらとの合流、都脱出)

 

(よしよし、まだ誰にも見つかってませんね……へへへ、だてに海賊団の船長やってませんからね……これくらい余裕ですよ……)

 ルシアに教えてもらった通りの道を慎重に進んでいき、順調に捕らわれていた建物の外へと向かう。

 その道中、不穏な会話を耳にする――

「白銀騎士団は出陣したか」

「ええ、これまでほぼ犠牲者を出す事無く勢力の拡大を続けてきたようだが、今回ばかりはそう上手くいくまいて」

「ふふふ。奴らの勢力さえ減退させれば軍部の掌握も容易だ。これでやっと各地からの税収を上げる事が出来るというもの」

(んんん? 各地の税収を上げる……? それを白銀騎士団……ノエルが食い止めていた?

 一味を使って騎士団を疲弊させてノエルの立場を弱らせようって事……?!)

 都内部での勢力争いに利用されたのだと知ったマリンは、怒りに身を任せて殴りかかりたい衝動をぐっと抑える。

(ここで暴れてもまた捕まって終わっちゃう。まずは皆と合流しなくちゃ)

「……」

(……ん?)

 一味との合流を目指して再度出発しようとしたマリンの目の前に、うさぎが一匹座っていた。

「……」

「まさか……ぺこらの野うさぎ?」

 マリンがそう声をかけると、踵を返してぴょんぴょんと進んでいく。その方向が建物の外へと向かう道と同じだった事もあり、マリンは黙って進む野うさぎの後を追う事にした。

……

…………

……………………

「あ、マリーン!!」

「!!? ぺこらーーー!!!」

 建物から出ても迷わず進んでいく野うさぎの後を追いかけて街中をしばらく進むと、路地裏にいたぺこらと合流する事が出来た。

 喜びをあらわに、勢いのまま抱きつこうとするも華麗にスルーして野うさぎを撫でてやるぺこら。

「あんたよくやったね。えらいえらーい」

「もう、ぺこらったら照れ屋さんなんだから……」

「まあ無事で良かったぺこ。こんなとこさっさと出て森に帰るぺこよ」

 再会の挨拶もそこそこに、ぺこらはポケットから笛を取り出して勢いよく吹く。

ピィーー――

 人の耳にはかろうじて聞こえるかどうかという甲高い音が辺りに響くと、足元の野うさぎの耳がピクリと動く。

 するとまたたく間に野うさぎ達が目の前に集まってきた。

「来たねあんた達。今から森へ帰るからいつもの絨毯フォーム頼むぺこ!

 それとあんたは先に戻って、フレアにマリンと合流出来た事を伝えて。急がないと間に合わなくなっちゃうぺこ……」

 ぺこらが号令をかけると野うさぎ達は綺麗な正方形の陣形を組んだ。そして一匹だけ急いで先に戻るように指示を出す。

 その横顔の真剣さに、マリンも事態が動いた事を察して状況を再確認しようとぺこらに声をかける。

「ぺこら……今どういう状況になってるんですか」

「結構まずい感じぺこね。でもマリンが戻ればきっと解決するはずぺこ。詳しい話は戻りながらするから、とりあえず乗るぺこ」

「わかりました」

(何度か荷物を運んでいくのは見たことあるけど、まさか自分が乗る事になるとは思いませんでしたね……)

 負担を少なくするように低い姿勢を取って、恐る恐る野うさぎ絨毯の上を真ん中の方まで進んでいく。

(思ったよりしっかりしてるし、ふわふわで温かくて…………良いですね)

「心配しなくても野うさぎは見た目より力あるから、安心して乗っかって良いぺこよ。それじゃあんた達、ぺこーら達を出来るだけ早く、それでいて安全にフレアの所まで運びな! 行くぺこーー!!!」

 ぺこらの号令がかかるやいなや、二人を乗せた野うさぎ達は街中を猛スピードで跳ねていく。

 都の街路を風のように駆け抜けていくその姿は、メルヘンチックでありつつも鮮烈で、住民の記憶に強く残るのだった。

 

「急いでね、マリン……」

 都の上空でマリンとぺこらが駆け抜ける後ろ姿を見届けるルシア。

 その目には二人だけでなく、今まさに衝突しかねない二組の軍勢の姿が映されているのだった……。

 

 

第三章:

――新人団員の暴走。海賊団と騎士団の対立――

 

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