ホロライブファンタジー~因縁の騎士対海賊、悲しき戦い~   作:狛柳

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終章:――決着、そして未来へ――

//18話(宝鐘の一味と白銀騎士団の動き)

 

「それでぺこら、一味の皆は無事なんですか? さっきまずい事になってるって言ってましたけど」

「現場に着くまでの間かいつまんで説明するぺこ。フレアとノエルが抑えてくれてるはずだけど、マリンが来ないと絶対収まらない状況ぺこ……」

 野うさぎ絨毯の上で、ぺこらはここまでにあった宝鐘の一味の動きと、白銀騎士団が武装して向かってきた事を説明していく。

「最初、サブちゃんが戻ってこないマリンの様子を見に来た所から始まるぺこ――」

 

 宝鐘の一味でも周りに指示を出す立場にあるサブがエルフの森を訪れ、マリンが戻ってこない事を共有したあの日から二日後。

 周辺にある村々へ向かい聞き込み調査を行っていくにつれて、過去に近隣の村々からも数名、幻生の都へ連れて行かれた経緯がある事も発覚した。

 近隣の村には特に異変も無くマリンを連れ去る理由も無いが、村々が抱く都への不信感も垣間見えて来たことで、一味はこれを聞いてより危機感を強めていく。

 そしてさらに二日後、都周辺に散らばって聞き込み調査をしていた一味が集結し、情報を統合した。結果として幻生の都に連行され、捕らえられている可能性が非常に高いという結論に至る。

 その情報を元にして、サブを始めとした宝鐘の一味幹部数名で会議をすると、満場一致で幻生の都へ出向くという話になった。

「我らが船長を捕まえた奴らがどう出てくるかはわからんが、俺らが本気だという態度は示さねばならん。港にいる奴らも集めろ。行ける奴全員で行くぞ!」

 方針が決まった一味の動きは素早く、港に残っている団員も招集すべく早馬を飛ばした。そして港に残っていた大部分の一味が大挙して、合流地点となったエルフの森へ向けて移動を始めた……。

 

 宝鐘の一味が港から大挙して移動を始めた日、幻生の都にとっても一大事であるこの情報を届ける為、港近くにある駐屯地から早馬が駆け出していた。

「あの数が都になだれ込んだら大惨事になりかねない……早く都へ知らせなければッ!」

 大移動する一味を追い抜き、都へ到着した諜報部の兵士は上官であるゲイルの元へと情報を届けた。

「ふふふ……ついに来たか」

 ほくそ笑むゲイルは、その情報を少々過激に脚色した上で元老院へと報告した。

 この報告により、いよいよ都の驚異となった宝鐘海賊団を迎え撃つことが決定される。そしてその迎撃には、当然のように最大戦力である白銀騎士団に白羽の矢が立つ。

「やっぱり……こうなっちゃうよね……」

 予想した通りの事態となってしまった事を悲しむと共に、少しでも被害を出さない為に自分に出来ることは何かを必死に考えるノエル。

「私の力じゃマリンを解放する申し出は通らなかった……かといって脱獄に加担する訳にもいかない…………。

 でもマリンが戻らないんじゃきっと納得してくれない……。

 もしかしたら私が行っても何も変わらないかもしれない……けど……それでも……!」

 立場上マリンの解放という方法を取れない自分にどこまで出来るのか、何も出来ないのではないかという不安も頭をよぎる。しかし何もしなければ全面衝突による甚大な被害が出るだけだ。白銀騎士団以外が迎撃にあたってもそれは同じ。

 ならせめて、彼らと敵対したくないと願っている自分が出るのは恐らく最善だろうと気持ちを強く持つ。

 そして幻生の都からはノエルを大将とした白銀騎士団が、宝鐘海賊団の目的地であろうエルフの森へと向けて進軍を開始するのだった。

 

「――港の一味が合流して少しした頃に、野うさぎから騎士団が来てる知らせがあったぺこ。

 それで一味は隊列を組んで進むのは得意じゃないから、エルフの森近くの平野で陣を組んで迎え撃つ形をとったぺこ。

 同時にぺこーらは野うさぎ達と一緒にこうしてマリンを探しに来たって訳ぺこな」

「森を戦場にする訳にはいきませんからね。それに地の利が相手にある以上、変に奇策を用いるよりも数で威圧する方が良いかもしれませんね……」

 一味の判断を認めつつ、それでも不安を拭うことは出来ないマリンに、ぺこらは説明を続ける。

「マリンの懸念は多分サブちゃんもわかってたぺこ。だからこそ正面から待ち構える形を取ったとも言えるぺこ」

「そうなんですか」

「うん。相手を威圧することで簡単に手を出させず、まずは睨み合う形を作った。これは話し合いをする為ぺこ。

 マリンを返すなら何もせずに去る事を伝える為だって。陣形を組んで戦う軍勢が現れたなら、たった一人を解放することで被害を無くせるメリットは大きいぺこ。あと……」

 言いよどむぺこらにマリンは嫌な予感を覚えずにはいられない。

「話し合いが決裂しても陣形を組んでれば簡単にやられはしないって……」

「…………早く着かなきゃね……」

(君たち……早まった真似だけはしないでよ……)

 マリンは苦虫を噛み潰したような顔を隠す余裕も無く、その様子を見るぺこらもまた、今まさに戦場になろうとしている方向を見つめるのだった。

 

 

//19話(対峙する二軍)

 

「あの時以来ですね……宝鐘海賊団の人」

「久しぶりですね、白銀ノエルさん。俺の名前はサブ。あの時は自己紹介もせずに失礼しやした」

 白銀騎士団と宝鐘海賊団。両軍睨み合う中、その中央でリーダーとなる二人が対峙する。

 決して穏やかではない状況だが、まずは話し合いをすべくノエルが一人中央へ歩み出たのだ。その際、先制して攻撃を仕掛けないように指示を出すと共に、騎士団の誇る銀盾部隊を前列に配置し、相手が動いた際に被害を抑えられるようにしておく。

 それに呼応するようにサブも中央へ向かう。こちらは騎士団が動いたら容赦しなくて良い旨を一味に伝えている。

 かくして、過去にあった対話とはまるで違う緊張感の中、話し合いが行われるのである……。

 

「まどろっこしいのは苦手なんで早速本題に行かせていただきますよ。……白銀ノエルさん、うちの船長を返して下さい」

 普段見せる事の無い鋭い視線と声音。元の人相が決して良いとは言えないサブは他者を威圧する事の無いように、出来る限り出さないよう気をつけている空気だ。

 それを正面から受けるノエルは、サブの気持ちは受け取るが、かと言って威圧に気圧される事はない。今日に至るまで各所とやり取りを行ってきた経験が生きている。

「言いたい事はわかります。でも、宝鐘マリンを解放することは出来ません」

「それは何故か、納得出来る理由を教えてもらえるんですかい」

「納得するのは難しいかもしれませんが、端的に言えばマリンが都の領内にいたからです」

「……」

 到底納得出来ないといった様子のサブは、先を促すように視線を投げる。

「過去、宝鐘海賊団を鎮圧するよう命令が出たのは覚えていると思います。それは貴方達が領地を出た事によって回避出来ました」

 宝鐘海賊団が海へ出る前、都の元老院によって出た鎮圧命令は『一時保留』となっていただけというのが元老院側の言い分であり、領地を拡大したことによって適用範囲も同時に広がったという認識だった。

「領内にて宝鐘マリンが見つかったとあって、再び命令が出されました。そして結果的にこうして向かい合う形になってしまった……」

「あんたらが船長を拐わなきゃこんな事にはなってなかったさ」

「そう……ですね……。それでも、私にはマリンを解放する権限はありません。そして貴方達をこのまま都へ向かわせる事も出来ない。

 このまま争えばお互い多くの負傷者が出るのは間違いないでしょう。私はそんな事望んでいません……どうか引いてもらえませんか」

「ノエルさん、あんたが優しい人ってのはわかってるつもりだ。だけどな、俺らも船長が戻らなきゃ引けねぇんだよ。それも、昔話したよな」

「時間はかかるかもしれないけど、なんとか解放してもらうよう、私が上に掛け合います。それじゃダメですか」

「それが本当でも、解放されるとは限らないし拷問があるかもしれねぇ。まして死ぬような事があったら俺らは死んでも死にきれねぇ。それこそ弔い合戦にでもなってみな、最後の一人になっても戦うような事になるかもしれねぇくらい、俺らは船長が大事なんだよ」

「…………」

 

 互いが平和的に解決する為の話し合いだったはずだが、マリンの解放という決定的な一打が難しい以上、話が平行線をたどるのは必定だった。

 業を煮やしたサブが直接都へ向けて動く事をノエルに告げようとしたその時、ノエルの後ろから一人の兵が近づいてくる。

 それを見て警戒を強める一味を手で制し、サブはノエルの動きを待つ。報告を受けたノエルの表情は険しくなり、サブも都側で何かあったのだろうと察する。

 そして気持ちを整え、内容を一味の方へも共有するべく口を開く。

「……サブさん、落ち着いて聞いて下さい。マリンが、都の牢から脱獄しました」

「なにぃ……?」

「都の牢から消えているのが発覚してから警備の間で騒ぎになり、捜索を開始すると同時にこちらへ連絡をよこしたそうです。それと、赤い服の女性がうさぎで出来た絨毯に乗って風のように疾走する姿が目撃されていたとか。もしかしたら都を出て、どこか付近の集落で身を隠しているかもしれません」

「……」

「だとすれば私達はこうして睨み合うよりも、マリンを探しに行くほうが良いんじゃないでしょうか」

「それをおいそれと信じる訳にはいかねぇ」

「ど、どうしてですか」

「ノエルさんが確かめた事なら信じる事も出来ましょう。でもね、報告を上げてきた奴まで信じることは出来ねぇんですよ。

 都のお偉方が何を考えているかは知らねぇが、俺らを良く思ってないってことは知ってる」

「それは……」

「そんな奴らが俺らの船長をそう簡単に逃がすとは思えねぇよ。

 船長を餌に俺らを各地へバラけさせ、各個撃破する算段かもしれねぇ。

 仮に報告が本物だったとしても、各個撃破を防ぐ為に集団のまま移動したなら、またあんたらに先を越されるだろう。戦いの準備を整える時間を与えるだけだ。

 俺も一時的にだが船長代理である以上、無駄に一味を危険に晒す訳にはいかねぇからよ。そっちの不手際で右往左往する訳にはいかねぇんだ。

 こっちの要求は変わらず、船長を返してもらうことだ」

 船長を探しに行くという提案を一蹴したサブだが、内心は今すぐにでも探しに行きたい思いでいっぱいだ。しかし、述べたように一味にとっての最善を選ぶように毅然とした考えと態度を貫くという決意があった。

「そちらが引いてくれないのなら、やっぱり私達も引くことは出来ません……今頃都の追手がマリンの追跡をしていたとしてもです」

「その脅しにゃ乗りませんよノエルさん。俺らとしちゃ、その脱走した船長がエルフの森か俺らに合流してくれるのが最高の結果でもあるんだ」

 マリンの行方がわからなくなったという互いにとって大きな情報がもたらされても、膠着状態の打開とまではいかなかった。

 しかし全くの無意味だった訳ではなく、サブには大きな迷いが生じていた。情報がもたらされる前は強行手段に出て都へと侵攻する事も考えていたが、もし本当にマリンがいなければ無駄に仲間を傷つける事になってしまうからだ。

 サブが迷いを生じていると突如――

 

ピィーーーーーー

 

「――ッ!?」

 エルフの森方面から辺り一帯に甲高い音が鳴り響いた。

 音の方へ目を向けると、両軍の間、ノエルとサブの元へ向けて一頭の馬が駆けてくる。

「あれは…………フレア?」

「フレア姉さんがどうしてこんなとこに」

 今この瞬間にも戦場になりかねない場に単騎で来るという行動は常軌を逸しているようにも見えるが、その点は代表である両者ともが知っている人物であり、信頼しているからこその行動だった。

 ためらうこと無く二人の元へ到着したフレアは、無理にでもこの場に来る必要があった理由を説明する。

「二人とも、まだ戦い始めてなくて本当に良かった。もう争う必要は無いよ」

「どういうことなのフレア??!」

「マリンはぺこらが保護したから、しばらくしたらこっちに合流する。だからもう、ノエルもサブちゃんも争わなくても良いよね!」

「本当ですか姉さん! 船長は無事なんですか!?」

「うん。これと言った外傷も無かったみたいだから、安心して良いよ」

「そうすか……良かったっす……。今どの辺りにいるんですかい?」

「何も無ければあと一時間くらいで到着するはずだよ。速駆兎(はやがけうさぎ)の瞬兎(しゅんと)くんが自慢してたから」

 マリン保護の報告によって緊張が緩み、一同和やかなムードに包まれる。一息ついた後、サブは再度真剣な表情で口を開く。

「フレア姉さんを疑う訳じゃないが、俺たちもこれだけの行動を起こした手前、きっちり船長を迎えるまで解散って訳にはいかねぇ。すまないがここで待たせてもらっても良いですかい」

「わかりました。マリンが戻ったら私も少し話したいので、それまでお互いに少し休戦としましょう」

「そうですね。船長が合流するまで休戦とするなら、一味の奴らにこのことを話して安心させてやるのと、こっちから手を出したりしないようにさせるんでしばらく戻ります。フレア姉さんもこっちへどうぞ」

「フレアも?」

「さっきも言った通り、そっちの連中はあんた以外信用出来ないんでね。こっちの方が安全だ」

「私としてはその言い分にも思う所はありますが、今言葉を並べても仕方ないですね……。

 ……無いとは思いますが、どんな理由があってもフレアに危害を加えたら許しませんからね……」

 初めて見せるノエルの敵意に似た気配にサブは一瞬たじろぐが、フレアは動じずに穏やかの口調で声をかける。

「大丈夫だよノエル。一味はみんな素直な子達だから」

「うん。でもやっぱり心配だから……」

「うん、ありがとう。それじゃサブちゃん、案内して」

「はい」

 そうして、双方共に休戦という形で各陣営へ知らせを出し、マリン合流の時を待つことになった。

 マリンが無事に合流して宝鐘の一味が海へと戻る。これでまた平和な日常が訪れると、サブもフレアも、ノエルもそう思っていた。

 

 

//20話(望まぬ一矢、顕われる悪意)

 

 それから約一時間が経ち、日も沈み始め、空の端に夜の色が見えてきた頃。

 エルフの森方面から両軍へ向かって進んでくる一つの影が現れた。

「あの人影は?」

「あれは……ッ! きっとそうだ、間違いねぇ!!」

「せ……せ……船長ォォォオオオーーーー!!!!!!」

 宝鐘の一味側から地響きでも起ころうかという程の大歓声が沸き起こった。

「君たちーーー!!! 君たちの船長が帰って来ましたよーーーー!!!!」

「ウォォォォオオオオオオ!!!!!!」

 歓声に応えるマリンの声に、再びの大歓声。白銀騎士団員もノエルへの好意は負けていないが、ここまでまっすぐな熱気を表すことは普段無い為、面食らっていた。

「あはは……流石の人気だねマリン」

「うちの連中はみんな船長大好きですからね。それにしても、船長の乗ってるあれはいったい……」

「あれはぺこらの友達の野うさぎ達だね。普通のうさぎより力持ちでマリンくらいなら平気で運べるんだよね」

「へぇ~……ははは。やっぱり世界はまだまだ広いな!」

 船長が無事に姿を表し、一味へ向けて元気に声をかけてくれる。その事実にサブの顔にもようやく笑顔が戻った。その時――

 

トスッ――

 

「えっ…………?」

「な……ッ!?」

 姿勢を上げて声をかけていたマリンの胸には、つい一瞬前には存在しなかった物が突き刺さっていた……。

 変わらず走り続けるうさぎの絨毯の上で、ゆっくりと背中から倒れるマリンの姿に声を失う一帯。

「マリン……? マリーーーーン!!!!!!」

 

 つい先程までの熱狂とは打って変わった静けさが支配する中で、ぺこらの叫び声だけが響いた……。

(船長が倒れた。何者かの攻撃を受けたのは間違いない。船長がいなくなるかもしれない? もう笑いかけてもらえない? 船長が、船長が……船長が…………)

 頭の中をぐるぐると良くない想像が巡るその時間はまるで永遠にも感じられる程の絶望で、全ての一味が魂の抜ける感覚を味わった。

 両陣の中間にいたサブもまた例外ではなかったが、霞む思考の中でマリンを攻撃するなんてこと一味がするはずのない事であると共に、倒れ方も含めて騎士団が行ったという事は確実だと判断した。したならば、彼――いや、彼らの取る行動は火を見るよりも明らかだった……。

「ぉぉぉおおおオオオオ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ーーーー!!!!!!」

 サブが鬼の形相で雄叫びを上げたかと思うと、呼応するように宝鐘海賊団全体が先程とは真逆の……悲嘆と狂気に満ちた咆哮を上げた。

 サブは、同じく両陣の中央にいたノエルを強く睨み付けると同時に近づいていく。

 その動きに倣うように宝鐘海賊団全体が白銀騎士団に向かって進軍を開始する。

「ちょっと、皆落ち着いて! 争いなんてマリンは望まないでしょ、止まって、マリンの所に行かなきゃ!!」

 海賊団の中で共にいたフレアによる必死の制止も効果は無く、怒りに囚われ、中には涙を流しながらも進む一味の歩みが止まる気配は無かった。

 彼らの悲しみと怒りを目の当たりにしたフレアはすぐにマリンの元へと向かって走り出した。

「このままじゃダメだ……こんな争い誰も望んでない……。マリン、本当に死んだりしてないよね、こんなお別れ絶対許さないから……!」

 

「白銀ノエルッッ!! これは一体どういう事だァ!! どうして船長が射掛けられた!!?」

「落ち着いてください! 私にも何が何だかわからないんです! 私に争う意思はありません!!」

「これが落ち着いていられると本気で思ってんのかぁ!!!! 船長が、うちの船長がやられたのに、本気で思ってやがんのかぁぁああああ!!!!」

(くっ、話が通じる状態じゃない……これじゃ力づくで止めるしか……)

 決して自分からは手を出さないように後ずさりながら、騎士団にも臨戦態勢を取るように指示を出す。

 信じてもらう為に武器を構えず無抵抗だったとしても、彼らがこの状態ではそのまま蹂躙されてしまう可能性のほうが高いだろう。

(一味のみんなの悲しみもわかるけど……騎士団のみんなを守るのも大切だから、今は覚悟を決めなきゃ)

 

 宝鐘海賊団と衝突するギリギリの所でノエルが覚悟を決め、騎士団に戦闘の指示を出そうとしたその時――

「宝鐘の子らよ、落ち着くのです。マリンは生きているのです、すぐに手当を」

「なっ、今のは……」

 突如、一味全員の頭に直接届くような声によって船長の存命を知らされる。その感覚の異質さと、不思議な説得力のある声で一味は冷静さを取り戻す。

「みんな、良かった。こっちだよ!!」

 殺気立った一味の元からマリンの方へと移動し、ぺこらと共に一味陣営の後方へとゆっくり移動していた所だったフレアが、正気に戻った一味へ声をかける。

 その声に、一味の中でも比較的冷静な衛生班等がいち早く負傷している船長の為の行動を起こす。

「船長!! 今行きます!!」

 そして衛生班以外の者たちは声の主を探そうと辺りを見回すと、夜の空にいるにも関わらず、薄く光るような存在感を放つ少女を見つける。

「あんたは一体……」

「私は潤羽るしあ。死を司る者」

「死を……もしかして、死神……?」

 空に浮かび、頭に直接届く声を発し、黒い装束を纏う姿に死を司る。多くのものが連想したのは神話や物語に出てくる死神だった。

「死神……神と呼ばれる程の力は持ち合わせていないのです。でも死の気配を感じ、死後の魂と共に生きる能力を持っています。その力でマリンの死はまだ感じられないのです」

 再度送られたその言葉に、一味は船長の命を最優先に動くべく野うさぎ達を陣営に取り込む。そして船長の容態を確認する。その頃……。

 

(殺気が止んだ……? 白銀ノエル、あの状況から戦闘を回避したというのですか……となるとあの団長さんのことだ、射掛けた私を探し出すでしょうね。それでは計画に支障が出てしまう。仕方がない、最終手段と行きますか……)

 ツリ目の男は喜ぶべき全面衝突の回避を心良く思っていなかった。それどころか再度衝突させようと思考を定めると、すぐに行動へと移した。

 

ガンガン、ガン……ガンガン、ガン……

 一定のリズムで所持している大盾と剣の柄をぶつけて音を出すと、それに呼応するように複数の地点から同じリズムがこだまする。

「なに……この音は……?」

 何も知らない者からすれば不気味にも聞こえるこの音は、白銀騎士団だけでなく宝鐘海賊団の方まで聞こえる大きさで鳴り響いた。

 少しして音が鳴り止んだと思えば――

「何をする!!」「どうしたんだ! やめろ!!」「うぐあぁぁ!!!」

 今度は騎士団の内側から困惑の声と悲鳴が聞こえ始めた。

「え、何が起こってるの? すぐに報告を!」

 すぐさま状況報告をするよう指示を出し、何が起こっているのかを把握するよう務める。

 その必要性は各部隊長も把握しており、持ち前の連携を以て素早くノエルの元へと情報が集約される。

「団長! 騎士団内にて同士討ちが起こっている模様です! 最近加入した者だけでなく、中には数年在籍している者もいるようで動揺が大きく、混乱は激しい状況です!」

「同士討ちって……どうしてそんな事が……」

 ノエルが思考している間にも事態は動き、同士討ちを始めた裏切りの騎士達は仲間を傷つけながら前線へと進んで行く。

「お前らぁ! 船長を傷つけた奴らを殺(や)りながら合流するぞぉ!」

「お前ら、宝鐘海賊団なのか!! ふざけやがって、黙ってやられると思うなよ!!」

 裏切りの騎士たちが発した言葉と進む方向から、宝鐘海賊団のスパイかと思った兵士が声を上げる。すると裏切った兵士を見て後ずさるのではなく、自ら歩みを海賊団の方へと向けて進む者たちも現れ始めた。

 そしてその流れは少しずつ大きくなっていく。

「皆待って! 戦闘開始なんて私は指示していません! 止まりなさい!!」

(ククク……自らの頭で考えない愚者は大きな声に流されてくれるから楽で良い。愚かな騎士団よ、このまま我らが敵を攻撃するが良い)

 すでに騒乱の渦中にある者たちにノエルの声は届かず、争いが止まる気配は起こらないのだった……。

 

 マリンが戻った事で、自分たちから直接攻撃の意思は無くなっていた宝鐘海賊団も、武器を持って向かってくる相手を前に無抵抗という訳にはいかない。

 こうして、ついに白銀騎士団と宝鐘海賊団の武力による衝突が始まった。

 

 

//21話(開戦。戦いの方針決定)

 

「オラッぁぁ!!」「船長には近づけさせねぇぞぉぁ!」

「うぐあぁぁ!!!」「お前ら卑怯な手使いやがってぇ!!」

 白銀騎士団の兵装をした者たちの同士討ちに加え、勘違いから宝鐘海賊団の方へ攻撃を加える者も現れた戦場は、混沌とした様相を呈している。

「ぅ……ぐっ……始まりましたか……」

「船長!!」

「マリン!!」

「始まったって、この状況の原因が何か知ってるぺこか?!」

 衛生班とフレア達の懸命な治療もあって意識を取り戻したマリンだが、発した第一声はこの混沌とした戦場を予期していたかのようで、心配と同時に説明を求める声も上がる。

「まずは状況の確認、です……。ノエルに、声をかけて下さい。きっと、向こうも混乱、しているはずです」

「わかりました。すぐに確認させます。皆さん、大声が上がりますので少しの間耳に気をつけて下さい」

 言うや否や、一味の中でも声の大きさが自慢の者に直接ノエルへと声をかけさせる。

「皆の者!! 我らが船長は目を覚ました!! 船長は争いを望まない!! 白銀ノエル!! この状況が貴方の意思ではないというのなら、すぐに現状の説明をされたし!!」

 戦場の中にあってなおビリビリと響く大声は、ノエルや両陣営の兵士の耳に響き渡った。

 だというのに、宝鐘マリンを引き合いに出して戦闘行為を始めた者たちは聞こえていないかのように振る舞い、戦闘を止めようとはしなかった。更には宝鐘海賊団へ向かって攻撃を仕掛ける者の一部も止まる気配は見せず、その流れに逆らえずに止む無く突撃をする部隊もあった。

「この戦闘は私の意思ではありません! 何者かが意図的に戦闘させようと動いています! 私の声が聞こえている人は今すぐ攻撃を止めて!」

 攻撃を止めるようにという声も、攻撃態勢になってしまっている部隊には届かず止まる事は無かった。

 ノエルのこの声は直接マリンの元まで聞こえるものでは無かったが、宝鐘の一味がすぐに伝言としてリレーし、マリンへ一言一句違えずに伝えた。

「やっぱりそうですか……」

「ノエルの命令じゃないのに攻撃をし始めたバカタレがいるってことぺこか?!」

「そうなるね……それをマリンが予め知ってたってなると、都でノエルも知らない何かがあったってこと?」

「流石フレア。そういう、事です」

「え、でもそれじゃどうするぺこ? ノエルでも止められないって事ぺこでしょ?」

「多分、ね。でも、ノエルの意思じゃないなら、やれることは、ある」

 傷を負いながらも強い決意を宿した瞳で、フレアを見つめる。

「考えがあるんだね。あたしに出来る事ならなんでもやるよ!」

 フレアもマリンの意思に応える心づもりはとうに出来ていると即答する。

「ぺこーらも協力するぺこよ!」

「勿論俺らもですよ船長!!」

 未だ戦況芳しく無い中ではあるが、皆の意気込みに口元が緩む。そして、皆でノエルを……白銀騎士団を救う為に行動を開始する。

 

 まず動いたのは前線で今まさに交戦中の一味へと方針を伝えるサブ。

 

「都にいる奴らの狙いは白銀騎士団の弱体化です。それを阻止する意味でも、宝鐘海賊団の信条という意味でも、極力白銀騎士団を殺さない事。向かってくる相手はのしちゃって良いですけど、殺さないようにして下さい。難しいかもしれませんが、君たちなら出来ますよね」

「任せて下さい船長!」

 

 一時は死んだかもしれないと思った船長からの指示が来たとあって、その事実だけで士気が上がる一味達。

 重装備な騎士団相手だが、だからこそ膂力で力任せに殴っても死なず、気絶や骨折といった戦闘不能にさせることが出来るのだ。

 

 次に動いていたのは兎田ぺこら。

 

「白銀騎士団の要で、この辺りの平和に最も貢献しているのは間違いなくノエルです。絶対にノエルを殺させちゃダメです。

 それを確実にするためにも、ぺこらにはノエルを保護してこちらがわに連れてきて欲しいんです……。

 一番混乱している場所に行かなきゃダメで、一番危険な役回りなんですけど……お願い出来ますか?」

「あんた、あたしを誰だと思ってるぺこ? 野うさぎたちの長である兎田ぺこーらぺこよ! それくらいおちゃのこさいさいよ」

「ぺこちゃん!? ほんとに危ないんだからね?」

「わかってるに決まってんでしょ。でも、あたしになら出来ると思ったし、他に出来る人もいないと思ったから頼んで来たんでしょ。大船に乗ったつもりで任せときな!」

 いつもの調子で応えるぺこらに吹き出しつつも、その頼もしさに心から感謝する。

「ありがとう! これはぺこちゃんにしか任せられません。お願いします!」

 

 最後にフレア。彼女は他の者にはない高い判断力と身体能力、そして持ち前の弓を使って臨機応変に動いてもらうことにする。

「え? あたしだけなんだか適当じゃない? 思いつかなかったとかないよね」

「え、そ、そんな訳無いじゃないですかぁ……。ん、んん。フレアの事を信じてるからこそ、自由に動いてもらった方が船長の見えない所もカバーしていい結果になるんじゃないかと思ってるだけですよ」

「う~ん。わかった。今回はマリンにのせられてあげるよ」

「流石フレア! いい女!」

「ほんと、調子良いんだから」

 

 各々に指示を済ませた後、マリンは傷に触らない程度にではあるが、衛生班について負傷者の治療に当たるのだった。

 

 

//22話(転機:ノエルの大胆な作戦)

 

 ぺこらの目的であるノエルの保護。その為に、跳躍力を活かして上空から戦況を俯瞰すると、思いの外すぐに見つける事が出来た。というのも、敵味方の識別が難しい状況ではいつ不意打ちを付かれてもおかしくない為、ノエルを守るよう円形に陣が組まれていたからだ。

 見つけたらすぐに目的を遂行する為、その円陣の中心へと跳ぶ。

「ノエル!!」

「ぺこら!? こっちは危ないんだから来ちゃダメだよ!」

「そんな事わかってるぺこ。だから一緒に向こう行くぺこよ。あんたが死んだら敵の思うつぼだからね」

「向こうって海賊団の方? 私だけ行くなんてそんなのダメだよ!」

「そんな事言ってないで来るの! 敵の狙いは騎士団そのものとノエルなんだからね」

「騎士団と私が狙い……? 無理やり海賊団を殲滅させる為とかじゃなくて?」

「それもあるかもしれないぺこだけど、都で騎士団が邪魔みたいなことを聞いたってマリンが言ってたぺこ」

「都で……。でも、それでも私がここを離れるわけにはいかないよ。私は団長だから。団員さん達の被害を少しでも減らす為に出来ることをしないと」

 混乱の中心。最も危険な立場に晒されているとわかっても、仲間を最優先に考えるノエルの言葉に迷いは無い。ぺこらはその力強さにおされながらも説得を試みる。

「被害を減らすって事なら、マリンが一味に騎士団員を殺したりしないように指示を出したから安心するぺこ。騎士団員は混乱してるだけで、本当の敵は別にいる。だから殺さないようにしろって」

「フレアが言ってた通りの良い人なんだね……」

 それなら最前線で衝突している団員たちの被害も大きく減るだろうと、安堵の息を漏らすノエル。そしてすぐに気持ちを引き締める。

「ありがとう、少し安心した。マリンは協力してくれるんだよね。だったら伝えて欲しい事があるの」

「どうしても、一緒には来ないぺこ……?」

「うん。ここまで来てくれたのにごめんね」

「はぁ……ノエルも意外と頑固だね。仕方ないからメッセンジャーになってあげるぺこ。何を伝えれば良いの」

 ノエルの決意が堅いことを知ったぺこらは、その気持ちを汲んでマリンへと作戦を伝達する役目を請け負う。

 ぺこらに伝える内容は同時に騎士団全体の方針とする為、それを伝達する為にも声を張り、作戦の展開を指示する。

「ありがとうぺこら。皆も周囲を警戒しつつ聞いて!」

(敵は団員として溶け込んでるから見た目じゃ判断はつかない。仮に名前や顔がかわかっても、それが敵側に与しているのかを短時間で判断するのはかなり難しい……それならいっそ――)

「私達白銀騎士団は今から武器を捨てます。防具はそのまま装備し、攻撃手段を手放して下さい!

 攻撃手段が無いことを証明しつつ宝鐘海賊団へと合流し、協力して敵勢力を迎撃します!

 これを全団員に伝わるよう伝達していって下さい!」

 円陣を組んでいる周囲の団員も一瞬動揺したが、これまでずっとノエルの指示通りにすることで被害を最小限に抑えてきたのだ。

 ノエルの言葉を信じて次々と団員たちは武器を捨てていく。

「ぺこらはマリンに武装解除した騎士団員を受け入れてくれるように伝えて欲しい」

「かなり大胆な作戦ぺこね……どうなるのかぺこーらにはわからないけど、確実に伝えてくるから、それは安心するぺこ!」

「うん、お願いね! 大丈夫、こう見えても私って結構強いから」

 笑顔で力こぶを作って見せて心配するなと言ったノエルの顔に不安はもう見えなかった。

「わかった。……ノエル、信じてるからね。それじゃまた後で会おうぺこ!」

 話を終え、ぺこらは来たときと同じように大跳躍で海賊団の方へと戻っていった。

「さぁみんな、今からが本番だよ! この瞬間より死ぬ事は許しません。みんなで生き残ってお酒飲むよ!!」

「オオォォォ!!」

 

「という訳で、ノエルは向こうに残るって」

 ぺこらによる報告を受け取ったマリンは静かに頷いた。

「ふむ。ノエルにはこっちに来てほしかった所ですが、作戦は了解しました。

 より犠牲者を減らせる良い策だと思います。

 君たち、すぐにこの話を前線まで伝えて。内側から崩されないように身体検査は徹底的にやって下さい!」

「了解でさぁ!」

 

 

//23話(戦況を決定づける二人の力)

 

 白銀騎士団、宝鐘海賊団の双方が同じ作戦を念頭に置いて動き出した。

 本当の敵を見つけ、無益な争いを終結させる為の作戦。混乱した状態とは違い、両軍共に信じるリーダーから直接下された指示を全力で遂行する。

 白銀騎士団はノエルの作戦行動に従って武器を捨て、盾と防具のみで宝鐘海賊団の方へと向かう。

 宝鐘の一味は投降してくる騎士団員の身体検査を行い、武器を持たないことが確認され次第、陣の内側へと迎え入れる。

 そして、騎士団員も投降してそのまま終わる訳ではなかった。その盾と防御力を活かして一味を守りながら、攻撃を加えてくる騎士団員へ向かって声をかけて説得し、味方の数を増やすのだ。

 その説得にも従わずに攻撃を仕掛けるものには、一味が容赦なく攻撃を加えて気絶させていく。

 

「重傷者の数はだいぶ減ってきたね。二人の作戦がうまく行ってる証拠だ」

「自主的に防衛に協力してくれてるのも大きいぺこ。騎士ってのは伊達じゃないって事ぺこな」

「この分だとここはぺこらと皆に任せても良さそうだし、あたしもあたしの仕事をしないとね」

「危ないことはしないようにするぺこよ。ノエルはキレたら怖そうぺこ……」

「あはは……うん、そうだね。でも大丈夫、ちょっとした作戦もあるから、多分ここのお世話にはならないよ」

 苦笑を浮かべた後、すぐにいつも通りの笑顔で前線の方に視線を飛ばす。

「……うん、ちゃんと聞こえる。ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど、良いかな?」

 少しの間目を閉じて耳を澄ませたかと思うと、近くにいる一味へと声をかけた。

「へ、へいっ! 何でも言って下さい!」

 声をかけられた一味は、フレアにまっすぐ見つめられて一瞬ドギマギするも、すぐに姿勢を正してその意思を汲み取ろうとする。

「ありがとう。前線で守備に当たりきれてない騎士団の人達の盾を足場に出来ないかなって思ってるんだ。あれだけの大きさならあたしには十分だから。

 ただ一人だと流石に飛び乗った時にバランス崩しちゃうと思うのね。だから一味の人と二人一組で頭の上でしっかり構えてて欲しいんだけど、出来そうかな?」

「騎士団の奴らが協力してくれるかどうかって所ではありますが、問題はそこだけですね。

 奴らも兵士だ、俺らと協力すればフレア姉さんが飛び乗るくらい訳ねぇと思います。すぐに声掛けさせます!」

「うん、お願い」

 一味を伝って前線で説得を試みていた団員たちへも話が伝わると、飽和気味だった説得とは別の新しい役割を得たと、協力的に動いてくれた。

 彼らも訳がわからないままに仲間が傷つくのは望んでおらず、この戦いの早期終結をこそ望んでいるのだ。

 大盾を持った白銀騎士団は、一味と共に陣のあちこちで頭上に足場を作っていく。この時、彼らも独自に二組のペアをワンセットとして、より広く足場を展開してフレアへのサポートを充実させた。

 足場が多く展開されてきたことを確認すると、フレアも前線のサポートへと行動を移す。

「二枚セットにしてくれたんだ。みんなありがとう。本当なら部外者なのに、あたしのことも考えてくれる。こんないい子たちを争わせてる連中には……ちゃんと痛い目見てもらわないとね」

 戦場にあって尚、凛とした立ち姿は美しく、敵を見定める瞳の奥には炎が宿っていた。

 両陣の協力を得て作られた大盾による足場。その上にあって耳を澄まし、白銀騎士団の中に潜んで宝鐘海賊団を攻撃するように唆している声を探す。

 複数の箇所から聞こえる敵と思しき声を聞くことは出来た。しかし、それが混乱しているだけなのか、主導しているのかまでの判断がつかない者もいる。しかし――

「……逃さないからね」

 その決意を形にするように精神を集中させると、フレアを中心に周囲の風が集まるように動き、弓に力が集約していく。

「我らが守護者たる森の精よ、我に正しく敵を裁く力を貸し給え。

 我らが友人たる風の精よ、我に定めし敵を討ち貫く加護を与え給え。

 "裁定弓・偽穿(さいていきゅう・ぎせん)"」

 『裁定弓』それは森の守護者として、悪意を持った来訪者や裏切り者が出た時に、精霊の力を借り、正しく害意のある者だけを裁く力だ。

 フレアの持つ力の中で、混乱した戦場の中から目星を付けた相手が本当に敵だと決定付ける、最も確実な方法がこれだった。敵は貫き、そうでない者は打撲程度にしかならない。この力のおかげで、フレアは迷うことなく敵を射抜く事が出来る。

 海賊団側で広く配置された足場の上を持ち前の身体能力で縦横無尽に移動するフレアに対し、敵勢力は狙いを定めることも出来ず、為す術もない。

 更には裁定弓の力により、一方的に混乱へと先導する輩を射抜いていくのだった。

 

「良かった……このまま行けば二人が死んだりすることは無さそう。どっちがいなくなっても、先の戦争は避けられないはずだから……」

 一人いまだ上空にあって行く末を見守っていたルシアがそう呟いた時、周りにはぼんやりと光るモノが多数浮かんでいる。

「どうしたのみんな。未練があるのはわかるけど、ルシアは生き返らせたり成仏させたりする事は出来ないから……」

 それは、この戦場で諜報部の毒牙にかかってしまった死者の魂だった。それが死者の隣人として在るルシアの力を頼りに集まって来たのだ。

――――。

「そうじゃないの?」

――――。

「そう。みんなノエルの力になりたいんだね」

 ルシアの予想に反して、魂たちは自身の為に集まってきた訳ではなく、ノエルの助けになれればという思いが強いようであった。

「わかった。それなら少しの間だけど、動けるようにしてあげるね」

 魂たちの願いを聞き入れ、ルシアはネクロマンサーとしての力で、器である本来の肉体との繋がりを紡ぎ直す。これによって空になっていた身体は再び動き始めるのだ。疲れを知らず、痛みも感じないアンデッドとして。

 再び仮初の生を得た騎士たちは、迷わずに自らを死に追いやった裏切り者を手にかけていく。

 

 騎士と海賊の共同戦線、エルフの狙撃、アンデッドの強襲。

 全てが共通の敵である諜報部を倒そうと行動する。所属や種族は勿論、生死の垣根まで超えた多くの者たちが協力して事をなす……。

 この世界で理想とすべき光景が、そこにはあるのだった。

 

 

//24話(終戦)

 

「死者までも動き出すとは……流石にこれは予測の範囲外ですね……これ以上は無駄死にか」

 戦況が大きく変化し、騎士団が安定を取り戻しつつある状況を冷静に分析するツリ目の男。

 もはや目的である騎士団の弱体化も果たす事が出来そうにないと判断すると、すぐに諜報部に伝わる撤退の合図を出す。

 その合図を確認次第、諜報部の者たちは素早く撤退行動へと移っていった。

「あんたが主犯か? 逃げられると思うなよ」

 合図を出した瞬間、遠方から鬼神に睨まれたかのような気配を感じて冷や汗を流すツリ目の男。次の瞬間――

 

「団長! 一部の団員達が独自に固まって都の方へと向かって行きます! 恐らくは敵勢力が撤退しているものかと思われます!」

「わかりました! 逃げるのなら追わなくても良いから、これ以上被害を出さないように徹底して!」

「はっ!」

 指示を伝えに行く団員と入れ替わるように、別の団員が報告を持ってきた。

「団長、フレアと名乗るエルフがノエル団長を名指しで呼び出しているのですが、いかがしますか」

「フレアが? すぐに向かいます。要件は?」

「は。その者によれば敵の主犯を捕らえたとの事です!」

 

 ノエルが出した指示よりも早く、フレアは撤退指示を出したツリ目の男をリーダー格として補足し、裁定弓によって身動きを取れない状態に追い詰めていた。

「あんたの処遇はノエルに任せるけど、それまで絶対に逃さないからね」

 近くにいた数人も同じように戦闘不能にし、騎士団員に協力してもらって身柄を拘束の上組み伏せている。

「クソ……。その肌の色、お前は混沌を好むダークエルフじゃないのか。なぜ私の邪魔をする」

「私は褐色なだけのハーフエルフ。堕ちた者たちを指す、ともすれば蔑称とも言えるダークエルフって呼ばれるのは好きじゃないの。次は本気で怒るよ」

 一瞥もせずに語るフレアの目は不機嫌な光をたたえていた。

 この世界ではダークエルフという種族は存在せず、心を闇に染めてしまったエルフを総じてダークエルフと呼んでいる。堕ちてしまう際に透き通るような白い肌がくすんでしまうことから、事情に詳しくない者たちには肌の白くないエルフはダークエルフという間違った認識が広がっていた。

 少しすると、伝言を頼んだ団員に連れられてノエルが現れた。

「お待たせフレア。そいつが例の?」

「うん。直接大きな被害を受けてるのが騎士団だから、処遇はノエルに任せようと思って待ってたんだ」

「そっか。ありがとうフレア。でも騎士団だけじゃなくて海賊団の方にも被害は出てるんだから、マリンの意見も聞かなきゃ」

「そう言うと思って、マリンの方にも伝令は出してもらったよ。そろそろ返事くらいはあると思うけど……」

「フレアの姉さん~。船長からの伝言を預かってきました」

「ナイスタイミング。マリンはなんだって?」

「はい。言いたいことはあるけど、都の問題だからノエルに任せる。との事です」

「わかりました。……マリンとも後でちゃんと話さないとね」

 

 伝達してくれた一味に感謝を示しつつ、ツリ目の男に向き直る。

「貴方が今回の騒動の主犯だと聞きましたが、本当ですか」

 ツリ目の男はフレアの方にも目を向けつつ、騎士団にも囲まれた状態に観念したのか、正直に答え始める。

「私が全てを計画した訳ではありませんが、部隊の指揮を任されたという意味では、引き金を引いたのは私ということになりますね」

「貴方より上の立場にいる人は誰ですか」

「流石にそれは勘弁していただきたい。生きて都に戻ったとしても殺されちゃたまりません」

「生きて戻れると?」

「慈愛の騎士として知られるノエル団長殿が、無為な処刑をするとは考えにくいですからね」

 見透かしたように笑うツリ目の男に、周囲の騎士たちも苛立ちを隠せないが、ノエルはそれを制する。

「貴方の上官を聞き出したとしても、都へ戻らずに身を隠す事も出来ると思いますが? その為に両の手足を動かせなくするくらいは私でもやりますよ」

「それは恐ろしい。ですが、それでも私は生きて都に戻る方を選びます。屈辱に塗れて隠れ生きるなど、それこそ死んだほうがマシというもの」

「わかりました。では次の質問です。騎士団と海賊団を衝突させようとした理由はなんですか」

「少し想像を巡らせればわかる話です。どちらも邪魔だからですよ。

 各国の港に我が物顔で出入りし、いつの間にやら一大勢力として驚異的な存在になっているクズ共。

 周辺を統治したにも関わらず、大した税も取れない状態で据え置くしかない状態にした張本人であり、慈愛の騎士などと言われて気をよくしている偽善者。

 この二つの組織をぶつけて、どちらも消耗してくれればこんなに喜ばしいことはない!

 と、そう考えるやんごとなき方々がいるって事ですよ」

 その言い方から、ただ命令されたから行動したというだけでなく、心から賛同しているというのがわかった。

「よくわかりました。貴方に同情の必要が無いという事も含めて……。

 改めて聞きます。上官が誰か話すつもりはありませんか。そして、何か言い残した事はありませんか」

「私からこれ以上話すことは何もありませんよ。慈愛の騎士様」

「わかりました。では最後にこれだけ」

 ノエルは組み伏せられているツリ目の男に顔を近づけ、心から漏れ出る怒りをそのままに宣言する。

「次、私の大事にしているものに手を出したら……今度こそ容赦しないからね」

 それは至近距離で聞いたツリ目の男だけではなく、周囲の騎士団員も恐怖を感じずにはいられない声音だった。

「武器は勿論、鎧など全ての武装を解除した後、両腕を後ろ手に固く結んで開放して下さい」

「よろしいのですか」

「これ以上得られるものも無さそうだからね」

 ノエルの指示を受け、ツリ目の男とその仲間である諜報部の者たちは警戒の中で全ての装備を外され、誰にも危害を加える事が出来ないように両腕を固く縛られた上で開放された。

「やはり貴方は甘すぎる」

 去り際、吐き捨てるように言ったその顔は、悔しさと軽蔑とが入り混じった複雑なものだった。

 

 かくして、エルフの森近隣の命運を決める大規模な軍事衝突は終息したのである。

 

 

//25話(騎士団の今後。皆の決意)

 

 予想だにしない形で始まった争いも、団長と船長の決断と采配によって、終わる頃には騎士団と海賊団は手を取り合って戦う形で終息した。

 フレアとぺこらにルシア、そしてサブを始めとする両陣営が見守る中、それぞれの代表であるノエルとマリンが対面する。

「……」

「……」

 しばしお互いに無言で見つめ合う。そして先に口を開いたのは……。

「あの……本当にごめんなさい!」

 ノエルは謝罪の言葉と共に勢いよく頭を下げる。

「んん?! ノエルさん?? ここはお互いの健闘を称え合って握手とかする流れじゃないの?」

 まったくいつもの調子に戻ったマリンがそう言うと、ノエルはゆっくりと頭を上げた。

「そんな事出来ないよ。宝鐘海賊団の皆には本当に迷惑と心配をかけさせたし、マリンなんて……すん……本当に、無事で良かった……」

「ノエル……私のために泣いてくれてありがとね。初めて会った時からいい子だと思ってた私の目に狂いは無かったって訳だ」

「あはは、ほんとにそう思ってた? 私は……領地から追い出したり、牢屋で会ったり……嫌われてても仕方ないって思ってたから……」

「そんな事無いよ。そっちにも色々事情はあるだろうし、どっちの時も私の事を心配したり気を使ってくれたのは感じてたから。……でも」

 穏やかだったマリンの表情が真剣なものへと変わるのを受けて、ノエルも涙を拭って向き直る。

「今回の騒動、これがノエルの望んだものじゃなかったとしても、都の奴らの画策だとしても……騎士団にもうちにも、少なくない被害が出たのは確かだから。これを無かった事には出来ない」

「うん。わかってる。マリンが望む事は出来る限り受け入れるよ」

「……全員自害しろって言ったら、どうする?」

「私の団員たちは命令を遂行しただけ。部下に直接の罪は無いから、私の命だけで許して欲しい」

 互いに大きな組織を率いるリーダーだ。お互いの要求を述べ、見つめ合う空気は周りの者たちを緊張させる。

「……」

「……」

 しばし緊張をもたらしたチリつく空気が、フッと和らぐ。

「ま、冗談ですけどね!」

「マリンはそんな事言う人じゃないって、信じてたよ」

 マリンは冗談めかした笑みを、ノエルは安堵の表情を浮かべつつ、緊張した空気は霧散した。

 

「ノエルの覚悟は受け取りました。とは言っても、元々白銀騎士団をどうこうしようとは思って無かったんですけどね。

 けじめを付けさせるべきは今回の騒動を画策した都の奴らですから」

「うん……。これまで良いように使われてるのは知ってたけど、騎士団は都の為にあるからって、我慢してた」

 長く続いた緊張から開放されたからか、これまで対等な立場で相談出来る相手がいなかったからか、今まで内に秘めていた気持ちを吐露させていくノエル。

「でも、今回のは我慢できないよ……。同じ国に生きる人を、こんなやり方で殺そうとするなんて酷すぎる。

 しかも相打ちすれば丁度いいなんて理由で宝鐘海賊団の人たちまで巻き込むなんて、卑怯だよ……」

 マリンは黙って、ノエルの心の内側にあるものを受け取る。

「これまで私なりに一生懸命頑張って来たのに……こんな事されるくらい邪魔に思われてるなら……もういっそ辞めちゃった方が……」

「そ、そんな事言わないで下さい団長!」

「そうです、辞めないで下さい団長!」「ノエル団長!」

 ノエルの漏らした一言に、静かに聞いていた団員の一人が声を上げる。するとそれに同意する声がいくつも上がってきた。

「て、みんな言ってるけど? ノエル団長」

「でも……」

「ノエル、こんなに慕ってくれる部下がいるんだから、見捨てるようなこと言っちゃダメだよ」

「そんなつもりじゃ! 私はただ、団長として相応しく無いのかなって……」

 マリンは自信を無くしかけているノエルを見て、仕方ないなといった調子で話し始める。

「実際の所、ちゃんと団長やれてると思うよ。私も船長やってるし、各地を回って色々見てきたからわかる。

 心から慕われて、しっかりと信頼の上で言うことも聞いてくれる部下を持ってる長が、相応しくないなんて事は絶対に無い!」

 キッパリと言い切るマリンの言葉に迷いは無い。それを見て軽く吹き出すフレアだが、同意しつつ別の視点からノエルに声をかける。

「あたしもマリンの意見はその通りだと思うよ。

 それに今回の戦いだって不意打ちから始まって、しかも仲間に紛れて急に敵が湧いたような状態だったのに、これだけの数が生き残ったんだよ」

「そうですよ! 私の作戦だけじゃもっと被害は多くなってました。

 これはノエルの指示が的確だったって事だし、どこに敵が潜んでるかもわからない状況で武器を捨てろなんて命がけの指示をしっかりと実行してくれる団員たちが、ノエルを信頼していないとはとても思えません!

 よって、的確な指示を出せる上に厚い信頼を得ているノエルは団長として相応しい! Q!E!D!」

「都にいる人たちの事は知らないけど、少なくとも団員からはちゃんと団長として見られてるし、続けて欲しいと思われてるんじゃない?」

 二人の話を聞いていた団員たちも、口々にその通りだと声を上げる。

 

「みんな……ありがとう。

 ……でも、都に戻っても今まで通りではいられそうにない……かな」

 苦笑を浮かべるノエルに――

「じゃあ、やめちゃえば?」

「……え?」

 舌の根も乾かぬうちに辞めちゃえばと言うマリンに呆然してしまう一同。しかし、周囲を見て慌てて言葉の真意を語る。

「違うよ!? 辞めちゃえばっていうのは団長をって話じゃなくてさ。団長のまま、都の騎士団ってのを辞めちゃえばって話!」

「それってどういうこと……?」

「団員の皆はノエルの事好きな訳でしょ。ノエルも団長そのものを辞めたい訳じゃないけど、都に戻るのは微妙だし、やり方についていけないかも~と思ってる。

 だったら、都に仕える騎士団じゃなくて、この辺全体を守る中立の騎士団! みたいな感じで、ノエルのやりたいようにやれば良いんじゃない? ってこと。

 弱い人を守る正義の味方なんてノエルにピッタリじゃない?」

「あははは、良いかもしれないね。あたしもノエルにピッタリだと思うよ」

「フレアまで……団長のままで都を離れるって、ちゃんと意味わかってる……?」

 そう疑問を投げかけられるが、フレアは笑顔のままでノエルに向かって一つの提案をする。

「うん、わかってるよ。それなんだけどね、エルフの森に来ない? 長や他の人はあたしが説得するからさ」

「ええ?! それこそわかってる!? エルフの森は普通人間が立ち入れる場所じゃないはずでしょ」

「実は長も白銀騎士団については野蛮な人間にしては見どころのある奴らだって言ってるんだよ。

 住む場所に関しては集落より外側になるかもしれないけど、なんとかなるって」

「それにぃ……エルフの森が拠点になったらいつでもフレアと会えるんじゃないかな~?」

「っ!? もう、マリン!」

「あははは」

「あたしは勿論大歓迎だよ。ぺこらも賛成だよね?」

「まぁノエールは知らない仲じゃないし、騎士団の連中も集落の外なら別にいいぺこよ」

 集落へ入る結界の外であれば不意に襲われる心配は無い。という意味で警戒を解きはしないものの、人見知りのぺこらが森の中で暮らす事に反対しないというのは、彼女なりの信頼の証だ。

 

「ここには反対する人もいないし、フレアも多分大丈夫って言ってくれてる。

 暮らしは多少変わるだろうから慣れるまでは大変かもしれないけど、真剣に考えても良いんじゃない?

 それに、会いたい人が一箇所に集まってるってのも私としては都合が良い!」

「あ、本音はそこか~。まったく、マリンらしいね」

「マリンのこの感じはいっぺん死ぬまで変わらないぺこ」

「ふふ、あははは。毎日がこんな感じなら、きっと楽しいだろうな。

 少し団員さん達とも相談してみるね」

「善は急げ! 後ろにいるんだし、すぐに声かけましょう!」

「わかった、わかったから押さないでマリン」

 文字通りの意味でも背中を押されて、騎士団の面々に向けて声を上げる。

 静かな平野にノエルの声は響き渡り、騎士団の全員に拠点を都から森へと移そうと思うという話を余さず伝える事が出来た。

 静かに聞いていた団員たちは、ノエルの意思を否定する事なく、団長であるノエルの行く所へ付いて行くという声だけが上がった。

「みんな……ありがとう。わがままな団長でごめんね。本当にありがとう」

 

「さてと、フレアとぺこらは元々森にいるし、ノエルの森に行く事になりました。私は勿論これまで通り定期的に顔を出します。

 貴方はどうしますか、ルシア?」

「……え?」

「……え? じゃありませんよ。私としては今回色々助けてくれたルシアとこれからも会いたいなぁ~と思っている訳なんですがっ」

「え、でもルシアはネクロマンサーだから……ダメだよ」

「何がダメなんですか?」

「何がって、ネクロマンサーは死者をどうこうする術士で、世間からは邪悪って言われたり悪くしたら悪魔なんて言われたりもするくらいなんだよ! だからルシアがいたらみんなも悪く言われるかもしれないの、迷惑かけちゃうからダメなの」

「何も知らない周りの連中なんて好きに言わせとけば良いんですよ! 私なんて海賊ですよ海賊!」

「マリンが言うと説得力が違うぺこな」

「そうでしょうとも! ルシアが悪いネクロマンサーじゃないってことはもうわかってるから気にしなくていいの」

「まだ会って間もないし、ルシアの事なんて何も知らないでしょ! 本当は悪いネクロマンサーかもしれないのに、どうして言い切れるの」

「そんなの、後ろにいる団員たちを見ればわかりますよ。ねえみんな?」

 ルシアのすぐ後ろには、ネクロマンスで一時的に動く死体となった団員たちが控えている。

 暴れるでもなく、唸るでもなく、おとなしく佇んでいる彼らに敵意を感じる事は出来ない。それどころか、穏やかさすら感じる面持ちでこの場を見守っているのだ。

 これを見てルシアを糾弾する者は、この場にはいなかった。

「確かに死体が動くとかネクロマンスとか、悪いイメージがある事は認めるよ。見慣れないから驚いたりはするし、完全に受け入れられるかって言われたらすぐには難しいかもしれない。

 でも、ルシアが悪い子じゃないっていうのはわかってるんだから、これから慣れていけば良いって、あたしは思うな」

 フレアの言葉に、多少動揺を見せていた面々も頷きを見せてルシアを受け入れる事に肯定的である意思を見せる。

「ルシアはどうしたい?」

「本当に……一緒にいてもいいの……?」

「勿論! 美少女は大歓迎ですよ!」

「……もう、仕方ないなぁ。そこまで言うなら、いてあげる。これからよろしくお願いします」

「「「「よろしく!!」」」」

 皆で笑い合い、エルフの森への一大居住計画が始動するのだった。

 そんな和やかなムードの中、一晩をかけて行われていた騒動の終わりを告げるように、朝日が昇り始めた。

「朝日が……」

「……終わったんだね」

 辺りが明るくなるにつれ、ルシアの力によって動いていた団員たちの体が光り始める。

「お別れの時間だね。みんなノエルの為に戦ったから、最後に労ってあげて」

「みんな……本当にごめんね。でも、最後まで団長を助けてくれてありがとう。みんなのおかげで私は生きてるから、これからもみんなに恥じない生き方をするって誓う。だから……みんなも…………元気でね!」

 死した後も、生者とは違う概念で先があるかもしれない。天国へ行けるかもしれない。生まれ変わりがあるかもしれない。

 どんな可能性が先にあるとしても、存在が、意識が残るのであれば元気でいて欲しい。

 そんな願いから送られた言葉。

 それを理解してかはわからないが、団員たちは穏やかな顔を浮かべて朝の透き通る光の中に消えていった。

「しっかり生きないといけないぺこな」

「生かしてくれた命に恥じない生き方を、一生懸命に」

「ノエルだけじゃない。ここにいるみんななら大丈夫ですよ! 私はそう信じてます」

「うん。きっとみんな信じてるから、あんなに穏やかな顔で逝けたんだよ」

「うん……うん……。団長として、一人の人間として、これからもみんなが誇れるような生き方をするよ」

 

 

 こうして、結果だけ見れば、規模に対して被害は少なく、様々な者たちが協力するという大きな意義を持った戦いとなった。

 五人の少女はこの戦いを経て、新しく紡がれた絆と大きな決意を胸に、エルフの森を中心としたこの地域に長く名を残す事となる。

 

 未だ都に残る不穏な思惑と、逃した諜報部という明確な火種を残している。

 しかしこの火種がどうなっていくかは、また別の物語。

 今回の物語は、五人の少女が志を同じくするに至る序章でしかないのだから。

 

 

//26話(エピローグ)

 

 ノエルと白銀騎士団が幻生の都から離れた事はすぐに近隣の噂となり、ノエルを信頼して幻生の都の領地となることを受け入れた街や村は、次々と離反していった。

 すぐには離反しなかった地域に対して、盾となっていた白銀ノエルが消えた事で都は税を上げる施策を取る。

 表向きは離反していった街や村から得られるはずだった税の補填だが、各地域に対して守護以外の何も行っていなかった都から他の地域が離反したからと言って、必要な税が変わる正当な理由が無い事は明確だった。

 これを受けて都からの離反は更に拡大し、隆盛を誇った幻生の都の領地は見る影もなく、白銀ノエルの功績がいかに大きかったかを浮き彫りにさせた。

 

 そして、離反した各地域は都による報復を防ぐ意味でも、白銀騎士団が身を寄せたエルフの森と同盟を結ぶ。

 エルフの森は人間の領地を管理する気は無く、対等な条件で中立を示す盟約を交わす。

 その条約の中に、明らかに非の無い状態で侵略行為に晒される場合、出来得る限りエルフの森が有する戦力でそれを退ける為に協力するというものがあった。

 言わずもがな、これは白銀騎士団の事であるが、白銀騎士団にも大きな変化があった。

 これまで人間だけで編成されていた団内には少数だがエルフの協力者が在籍するようになり、偵察にはうさぎを用いる為、誰にも気づかれる事無く各地の情報が細かく得られるようになっていた。

 そして騎士団の理念として、侵略せず、正義へ協力するという決意から、白銀聖騎士団へと改名した。

 白銀聖騎士団は、永久中立を宣言しているエルフの森の守護者として名を馳せていく。

 

 エルフの平等性と白銀聖騎士団による守護を信頼の柱とし、周囲には互いに協力する関係として参画する街や村がどんどん増えていき、次第に共和国としての形を作っていくのであった。

 種族を超えた平等性は話題を呼び、エルフや人間、獣人だけではなく、天使や悪魔といった特異な存在も顔を出すようになり、世界に類を見ない国として注目を浴び、更に発展していくのだった。

 

 

 

終章:

――決着、そして未来へ――

 




いかがだったでしょうか。
始めは1話ずつ毎日投稿という形にしようと思っていたのですが、最低文字数に足りない話もあり、一章ずつドバっと投稿する形にしました。
一気に読み進めるには少し多い量だったかと思いますが、中で話数区切りもしていたので途中で止める事もしやすかったかと思います。

話の内容に関しては出来る限りハッピーエンドを意識して収めました。
仲の良い5人が好きですからね。
今後も応援していきたいと思っています。


続編等は考えていませんが、もし、万が一、希望が多いようなら検討致します。

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