向かう道に手を差し伸べるのは間違っているだろうか 作:夏夕日空
なるべく早く次を投稿できるように頑張りますのでよろしくおねがいします(。>﹏<。)
ガヤガヤと騒がしい通りをテムは一人歩いていた。
カチッ、カチッと 音を立てさせながら遅い歩みで人通りを進むテムは視界に"豊穣の女主人"と大きく書かれた看板が目に入り自然と口元を薄っすらと曲げ微笑んだ。
「結構早く着いたな…… 通る人達がみんな気を使って 道を開けてくれたおかげかな」
一人で呟いたその言葉は周りの雑音のせいか、周りに届かずテムの耳にだけ微かに響いた。
「……やっぱり目立つよねこの格好」
松葉杖をつきながら歩く姿はまるで老人の様に見え、人の視線を嫌でも集める事をテムは良く思っていないのか先程の微笑みが嘘のように暗く沈んでいた。
「テムさんおはようございます!!」
沈んでいたテムの耳に、子供が笑う様な優しい鈴の音が混じったようなそんな声が店の奥から響いた。
「あ、シルさんおはようございます! 相変わらず元気ですね」
「もちろんですよ! ここで働いているんですから」
「……そうですね、このお店はいつ来ても笑顔が絶えませんからね」
開店前の為かお店にはお客は一人も居らず、テーブルの上に椅子が置かれているだけの店内を見渡すテムは手際よく床を掃く従業員達を見渡した。
「それがここの一番の魅力ですから!」
「えぇ、本当に素晴らしいところですよ此処は、またここにウェスタさんと一緒に食べに来ますね」
「えぇ、お待ちしてますね!」
互いに華が咲いた様に微笑み合っていると厨房の奥からギィと言う音がなり女性にしては少しばかり低い声がテム達の耳に響いた。
「何だい、聞いたことのある声がしたと思ったらアンタかいテム」
その声に自然と顔が向き、そこには周りの女性従業員達と比べると頭ひとつ分ぐらい身長が高く男にも負けないと思わせるような体格をし、樹木を思わせる様な薄茶色の毛色をした女性がニッコリと笑っていた。
「ミアさん、おはようございます」
「朝から元気だねアンタは」
「えぇ、おかげさまでシルさんのおかげでこの通り元気ですよ」
全るで無い力こぶを見せ付けるように振る舞うテムにミアは呆れたような微笑ましい表情を浮かべテムにその大きくそして硬そうな手を向けた。
「貸しなその荷物、あそこまで持っていってやるからさ」
「ありがとうごさいます、ではお言葉に甘えて」
テムはそう言うと袋をミアに手渡した。
「案外軽いんだね、袋が大きいから重いかと思ったよ」
「中身は空の弁当箱とミアさんが注文してくれた道具ですから軽いのは当たり前ですよ、それにそんな重い物ウェスタさんは絶対に一人で持たせてくれませんから」
苦笑いしながらテムは肩を竦めるとミアの目を見つめながら頭を下げた。
「ミアさん昨日はお弁当ありがとうございました、とても美味しかったです」
「良いんだよ、コッチはちゃんと弁当分の代金は貰ってるんだ、店としては当たり前だよ」
ミアはそう言うと袋の中から弁当箱を取り出し蓋を開けた。
「 えらいじゃないか苦手な人参もちゃんと食べて成長したね」
「ホントですか!! 僕ちゃんと成長してますか!!」
「あぁ、してるよちゃんと、心も身体もね」
「そうですかぁ〜成長してますかぁ〜……やっぱり野菜は好き嫌いしないで食べた方が良いですね!!」
「当たり前だよ、アタシだって好き嫌いせずに食べたからここまででかくなったんだからね」
「やっぱり! じゃあ僕も好き嫌いしないで食べ続けたらミアさんみたいに大きくなれますね」
目元を大きく開き、キラキラと目を輝かせるテムは大きくなった自分の姿を妄想するかの様に頭を上げ一点を見つめ続けた。
「……人参食べただけでそこまで成長はしないと思いますけど」
「──シル」
「はい? ……ひ!! な、何でも無いです!」
「そうかい……ならとっとと仕事に戻んな!!」
「は、はいぃぃ」
シルはうさぎの子が逃げる様に大慌てでテム達の前からいなくなっていった。
「アンタもいつまで天井を見てるつもりだい、とっとと現実に帰ってきな」
「は! す、すいませんつい……」
少しばかり顔を赤面させたテムは照れ隠しに頭を掻いた。
「そろそろ立ち話はこれくらいにして本題に入るよ、アンタんとこの主神に頼んでおいたアレの買い取りしたいからちょっとこっちに来な」
「あ、はい分かりました」
そう言うとテム達はギシギシと鳴る少し狭く薄暗い廊下を進み個室へと向かった。
「それで? このムキトールは幾らぐらいで売ってくれるんだい、試しに使って見てくれって言われて使ってみた所なかなか便利だし、アンタはうちを贔屓にしてくれる客だしそれなりの代金は出せるよ」
窓から差す光だけが薄暗い部屋を照らす中、ミアはその巨体を椅子に預けるように座りニヤリと微笑んだ。
「そうですね、最初にお試しで貸した物と今回の物合わせて九千ヴァリスでどうでしょう?」
「そんなんで良いのかい? 取ろうと思えばもっと取れるだろこの道具、正直アタシ達飲食店で働く者にとっちゃ皮むきをすぐ終わらせてくれるこの道具は下処理に掛かる時間を浮かせてくれる便利道具だよ、何せ野菜を放り込めばあっという間に皮むきが終わってんだからね」
「いいんです、正直言ってこの道具の制作費はそんなに掛かりませんし何よりお世話になってるミアさん達に喜んでほしいから作っただけですしね」
そう言うテムの笑みは陽の光に照らされとても柔らかな顔をしていた。
「……律儀だねアンタ、ウチとしては有り難いけど商売人としては失格にも程があるよアンタ」
「いいんです、元々商売がしたくてしてるわけじゃあ無いですし毎日を生きれるだけのお金を稼ぐ為だけにやってる事ですから」
「アンタ……まだ冒険者になりたいと思ってんのかい? 悪いけど冒険者ってのはアンタが思ってるよりも綺麗なものじゃあ無いよ」
ミアは先程までの笑顔が嘘のように鳴りを潜め、獲物を見つめる獣の様な鋭い目に変わりテムを睨みつけた。
「……分かってます、冒険者が全員あの人のような良い人ばかりじゃあないってことは」
「だったら何でそんなに冒険者に成りたいんだい? こう言っちゃあ何だがアタシも元は冒険者だ、だからこそ分かるのさ冒険者ってのはカッコつけるだけ無駄な職業さ、生き残る為には仲間だって時には見捨てる事だってある、そんな冒険者に何でアンタになりたいんだい」
問い詰めるような試す様なそんな目をテムに向けるミアにテムはその目から逃げる事も背けることもせずにただ、その目を見つめ返しテムの胸にこみ上げる思いを告げた。
「冒険者は夢の職業です、富、名声、力、人によって夢は違いますがどんな冒険者も自分だけの夢の為に日々頑張って生きています、ミアさんの言うとおり綺麗なものばかりじゃあ無いでしょう、醜く度し難いそんな部分もあるでしょう、でもそれでも、僕はそんな冒険者に救われた!!」
机を叩き椅子を押す行きよいで立ち上がったテムは未だに鋭くにらみつけるミアの目に力強く見つめた。
「モンスターになすすべなく母を、父を殺されて、足をこんな松葉杖をつかなきゃ満足に歩く事さえも出来なくされた僕を救ってくれた、僕にとって冒険者は夢です、憧れです、あんなにも強大な魔物を恐ろしい怪物を怖気づく事もせず戦い抜いた冒険者に、僕は初めて憧れを持った!! 夢を抱いた!! だから僕は冒険者に成りたい!! 今度は僕が泣いている人達を、あの人みたいに手を差し伸べるんだ!」
荒く呼吸をするテムは椅子に倒れ込む様に座り込み俯いた。
「──ただでさえ足が悪いんだ、こんな所で無理をすんじゃないよバカタレ」
「……すみません……でもコレだけは諦められないんです」
顔に脂汗を流しながら言うテムにミアの顔は先程までの鋭さは無く代わりに呆れたような表情をしながら肘を付き顔を支え、テムに囁くように呟いた。
「アンタの成りたい理由は分かった、思いも情熱も夢も分かった、その上でテム、あんたに言うよ……アンタは冒険者には成れない」
ギュッと自然に手に力が入るテムはミアの次の言葉を待つ。
「アンタがどれだけの思いと覚悟を持っててもその足じゃあどうにもならない、その足で何が出来る? まともに歩く事も出来ない、今だってただ立ち上がるだけでそんなにも脂汗をかくほどキツイんだろ? さっきまで冒険者を悪く言ってたアタシが言うのも何だけど冒険者ってのは長い道のりの中、冒険をして初めて冒険者と呼ばれるんだよ」
そう言われ手の皮に爪が食い込み皮が切れそうな程強く握りしめられテムの口元はキツく縫い付けられていた。
「──アンタの道にはその冒険があるのかい?」
諦めろと取り返しのつかなくなる前にその夢を諦めろと諭す様に呟かれたその一言にテムは大きくひと呼吸をし、俯いていたその顔をあげた。
「……今の僕の道には……冒険は無いかもしれません、彼らの様に泣いている人を助けられるだけの力もありません……けど!! 僕の作った道具が、僕の分身が皆の助けになる事ができる!! 僕は彼らと共に苦楽を分かち合い、泣いて困っている人達の向かおうとしている道に手をさしのべる事はできる、だから僕は道具を"創る"んだ!!
そしていつの日か必ずこの足を治して僕は冒険をするんだ!!」
熱の籠もった瞳が声が、思いが狭い空間に積もり、どれだけの時間が経ったかは分からないが一秒一秒の時間が流れミアが口を開いた。
「──全く、強情だね普通こんなにキツく言われたら大抵のやつは諦めるさ」
「コレだけは、父も母も失って、自由を失って何も残ってなかった僕に残った唯一の夢ですから」
ため息を吐き席を立っちミアはテムの横に移動し呆れたような顔を大きく笑顔に変えた。
「よく言った!! アンタは骨がある、こんだけ強く言っても威圧してもアンタは諦めなかった、アンタの夢は"本物"だよこのミア・グランドが保証する」
「……ミアさん」
テムの背中を力強く叩き自身の胸に手を当てながら言うミアを見上げながらテムは胸から込み上げてくるものを抑えきれずに溢した。
「何泣いてんだい、せっかくの可愛い顔が台無しだよ、ほらアタシにここまで言わせたんだ、その夢、叶えなかったら承知しないよ」
「──はい!!」
薄暗かった部屋が今はとても明るくテムには輝いて見えた。