「くるるん〜」
タオルに包まれたくるるんが気持ち良さそうに声を上げた。
散らかってしまった部屋は、まなつたちの復旧作業もありすっかり元通りになっていた。
「よしよし……」
ローラが、くるるんの小さな身体を優しく拭いてあげている。
机上では、ジャージに着替えたまなつの、力の抜けた声が上がった。
「トロピカれない……。もどかしい」
雨音は依然、ザンザンと室内に響いている。
「……ドント トロピカる(Don't tropical)」
不可解な英語が漏れた。
「一応だけど、文法的にそれはペケ」
「えっ」
みのりの、いきなりの指摘だ。
「tropicalは本来、形容詞。Don'tは普通、動詞につくものだから……」
「どーし? けいよーし……?」
「それに、『〜できない』だったら、Don'tじゃなくて、Can'tかな」
「きゃんと……」
固まるまなつ。
あすかたちが、こちらをじっと見ている。
「……おぅ、あい、きゃ~んと!」
「次のテストが思いやられるな」
おどけるまなつに、あすかが冷ややかな視線を送る。
「あはは……」
さんごは苦笑するだけだ。
「で、どうするの? このまま雨が止むまでお喋り?」
ローラが皮肉混じりに尋ねた。
「それもいいねー!」
まなつが明るく答える。
「でも、日誌にはなんて書こう?」
さんごが心配そうに尋ねた。
「日誌??」
「生徒会に提出する活動日誌だろ」とあすかが続ける。
「私たちは正式な部として認められちゃいるが、毎週、活動内容を書いた日誌を提出する決まりになっただろ」
あすかが、拳を震わせながら表情を歪ませる。
「全く、どこまでも嫌がらせとしか思えない……」
「どうどう」
みのりが抑える。
「いいじゃない。テキトーに嘘とか書いちゃえば」
ローラが突っぱねるように言った。
「それはさすがに……」とさんご。
「ダメだよ」
まなつが、まるで子供を諭すように口を開いた。
「私たちトロピカる部は正々堂々。じゃなきゃ、Don'tだし、Can'tだよ」
「……」
何となく意味を味わう一同。
「わかってる……。ジョークじゃない」
そう言って、ローラはそっぽを向いてしまう。
真っ直ぐにこちらを見つめてくるまなつに、少し恥ずかしくなったのかもしれない。
「でも……、結局何をするんだ?」
あすかが口を開く。
んー、とまなつは腕を組む。
「そうだ! じゃあスローガンを決めない?」
「……スローガン?」
「私たち、トロピカる部のスローガン!」
え……?
みんなの脳裏に、ひとつの疑問が重なった。
「……スローガン、って」
まずあすかが口火を切った。
「……もう、決まってたんじゃ?」とみのりが続く。
「へ?」
「まなつがいつも言ってる……」と、呆れたようにローラが続いて、
「『今、一番大事なことをやる』……でしょ?」
さんごが、間をおいて尋ねた。
すると……
「……そうなの?」
一斉に全員がずっこけた。
まなつは、ぽかーんとその様子を眺めている。
「……そうなの? って」
さんごが、頭を押さえながら起き上がった。
「あ、うん! 私はそうだよ」と、まなつ。
「……でも、みんなは?」
「え……?」
「みんなのことも、聞いときたいなーって」
「私たちの、か……?」
あすかが戸惑いの声を上げた。
「そういうことなら、確かに、考えたことないかも……」
みのりが口元に手を当てて、考え始める。
「みんなで考えたことをスローガンにしようよ。その方が部活っぽくない?」
一斉に、全員の唸り声が上がった。
響いてくるのは、建物を打ちつける激しい雨音。
いつもより、時間がゆっくりと流れていった――