トロピカる部『活動日誌』   作:ホンバラ

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chapter.2 イラスト部、始動?

「まったく、みんなダメダメね……。じゃあ、私からいい?」

 コホン、と咳き込むローラが沈黙を破った。

「はい! ローラさんっ!」

 一斉にローラに視線が集まる。

「……私の考える、部のスローガン」

 神妙に、ローラは続けた。

「それは、一刻も早くグランオーシャンの危機を救うこと。……そして、みんなは押しも押されもしない立派なプリキュアに……、そして、私は立派な次期女王に……!」

 ローラは、さらに気持ちよく続けた。

「そうなった暁には、みんなにはグランオーシャンの銘菓1年分をプレゼント。さらには、私の王室秘書として特別に契約も……!」

「待て。スローガンはどうした?」

「なんか、選挙のお願いになってる……」

「マニフェスト……」

「くるるん……」

「……え~?」

 ローラは、不満げに頬を膨らませる。

「それに、プリキュアのことはスローガンには書けないよ」

 まなつの言葉に、ローラはまるで子供のように拗ねた表情に変わった。

「まなつまで。何よっ!」

 勢いよく飛び上がると、ローラは机上のポットへと吸い込まれるように入っていく。

「あ、ローラ!」

 すかさず、まなつがポットの中を覗く。

 画面の中では、ローラが、ふて寝しながらぷかぷかと浮遊していた。

「りゃ、ご機嫌ななめ……」

 まなつは、雰囲気を立て直すように、明るい調子で続けた。

「……じゃあ、他! なにか、ご意見ちょうだい!」

 といっても、一同からは急に出てくるはずもなかった。

「……ちょうだいませっ」

「……」

 一同の唸り声が続く。雨音も、鳴り止むことはない。

「……ませませっ」

 まなつが、くるるんに顔を近づけた。

「くるるん……」

「いや、くるるんには無理だろ……」

 あすかが呆れたように言った。

「これ、改めて考えてみると難しいかも……」

 さんごが知恵熱を出したように顔を赤くする。

「ああ……。そもそもスローガンってどういう意味だっけ? 何だか、わからなくなってきた……」

 あすかまでが、額を抑えて唸り声を上げる。

 素早くみのりが辞書を取り出すと、パラパラとページをめくりだした。

「『スローガン』……。組織の行動理念を、わかりやすく文章で表したもの……」

「……こうどーりねん??」

「要するに、何のために活動するのか、ってこと」

「……何のために」

「……結局、そこなのか」

 さんごとあすかが口を閉ざし、再び空気が沈みかけた。

「……ねえ」

 沈黙を破ったのは、みのりだった。

 その目は、まなつを見つめている。

「どうしてまなつは『大事なことをやる』にこだわるの?」

 まなつは、動じることもなく、応えるように「え?」と呟いた。

「……そうだなあ」

 少し考える素振りで、天井をちらりと覗く。

「……私は、まだ、島にいた頃にね。お父さんによく言われたの」

 考えをまとめるように、まなつは喋り始めた。

「『たった一度きりの人生だ。思ったことは、思いっきりやってみろ!』」

 お父さんの声真似をしながら、まなつの声が響く。

「でもね……。それから、お母さんがあおぞら市で、水族館で働くってなって……、いつの間にか、『大事なことをやろう』って、そんな風に変わっていったんだ」

 まなつは、まるで思い返すように机上を見つめだした。

「島での、私とお父さんの合言葉。それが、『今、一番大事だと思うことをやれ』」

 雨音が、再び聞こえだす。

「……そうだったんだ」

 さんごが呟く。

「親父さんの影響だったのか」

 あすかの言葉に、まなつが「うん」と頷いた。

「でも、結局、それは何のためなの……?」

 みのりが漏らす。

 まなつは、明るく弾けた調子で答えた。

「もちろん、それは、みんなで思いっきりトロピカるためだよ!」

 みのりは、何となくわかったような、わからないような……

「……なる、ほど」

「出たな……、『トロピカる』」

 あすかが思わず笑ったように言う。

「あのさ……。その『トロピカる』って、結局なんなわけ? 未だによくわからないんですけど……」

 ポットの画面から、ローラが困ったように訴えた。

「あれ? 前に説明しなかったっけ?」

 まなつが全員に問いかける。

「……確か、お日さまみたいな、キラキラとしたあったかい気持ちが……」

 さんごが、思い出すように口を開いた。

「……ぶわーー、っと」

 続けて、みのりが、控えめなジェスチャーを交えて呟いた。

「そう!」

 まなつが「ご名答」という風に指をさす。

 だが、あまりピンとこない一同の表情はさえなかった。

「……!」

 まなつは、なにかを思いついたように、部屋の奥にある黒板の前へと歩いていく。

「いい機会だし……、じゃあ、絵を描いて説明するね!」

 まなつは、白いチョークを手に取ると、まっさらな黒板を見据えて身構えた。

「いざ!」

 一心不乱に、まなつは黒板へと何かを描きつけていく。

 呆然と見つめている一同……

 やがて、まなつが自信ありげに振り向いた。

「これ! 『トロピカってる』!」

 一同は、黒板に描かれたまなつのイメージに思わず目を剥いた――

 

 ×   ×   ×

 砂浜のようなところ、その奥には海が広がっていて……

 浜辺には、ニコニコと笑う人間たち……

 『のようなもの』が、手を繋いで大きな輪を描いている。

 その輪の中心には、大きな渦のような、ぐるぐるとした『何か』が、人間たちや浜辺をまるごと飲み込むかのように、ぐちゃぐちゃに描かれている――

 

 ×   ×   ×

 

「……何かの、儀式か?」

 あすかが目を細めた。 

「うずまきに、人が飲まれてる……?」

 困惑するみのり。

「しかも、笑ってるじゃない……」

 ローラが軽く引く。

「ちょっと、怖い……」

 さんごの声が引きつる。

「くるるん……」

 くるるんも、声のトーンが低い。

「違うよ! これはうずまきじゃなくて、『真夏の太陽』!」

 まなつは、おかまいなしに目を輝かせた。

「すっごいキラキラしてて……、照らしたみんなの奥底から、あったかくて、なんかこう、幸せな気持ちが、ぐわーっ! と湧き上がって……、それがこうして、みんなが繋がっていくような……、そんな感じ!」

 ……しばし沈黙……

「……なる、ほど?」

 みのりが苦い目をして呟く。

「……ちょっと、待ってろ」

 あすかがたまらずバッグからスケッチブックを取り出してくる。

 ササササッ、と、あすかは黒板を見ながら手慣れたようにイメージを描き写していく。

「……こうか?」

 スケッチブックを見せる。

 そこには、まなつの理想とするイメージが描かれていた。

「これこれっ! すごいよ、あすか先輩~!」

 まなつの目が再び輝いた。

「なるほど……」

 みのりがふむふむと頷いた。

「なんか、サンドアート大会を思い出すね……」

 さんごが、浜辺でにこやかに笑う人々の絵を見ながら呟いた。

「そうだねぇ~。あの時も、こんな感じでトロピカってたっけぇ~」

 画面の中から、ローラが「ふ~ん」とあすかの絵を見つめている。

「これが、まなつの言う『トロピカってる』ねえ……」

「ですです!」

 絵に見惚れる一同の隅で、みのりは、口元に手を当ててじっと絵を眺めていた――

 




筆者注)まなつの過去は筆者の想像(2021.7時点)によるオリジナルです
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