トロピカる部『活動日誌』   作:ホンバラ

4 / 9
chapter.3 トロピカる、みのり

「……みのりん先輩? どうかしたんですか?」

 さんごがふと気付いて、尋ねてみる。

「……いや」

 一同がみのりに注目する。

 みのりは、間を置いてから、口を開いた。

「私の思う『トロピカってる』とは、だいぶイメージが違ったから……」

 直後、まなつが、ピラニアのように食いついた。

「そうなのっ!?」

 肉迫するまなつに、みのりは思わずたじろいだ。

「じゃあ、見てみたい! 気になっちゃう! みのりん先輩の『トロピカってる』!」

 興味津々に、まなつはチョークを手渡した。

「え……、私、絵はあんまり……」

「お願いします、みのりん先輩~」

「ちょ、まなつ……」

 まなつは、みのりの背中を押して、黒板へと歩いていく。

「おい……。無理矢理は感心しないな」

 あすかの指摘に「うぅ……」と残念そうにまなつが唸る。

 あすかの軽い説教が続いて……

「……」

 それをよそに、みのりは黒板に視線を移した。

 黒板では、まなつの怪作が、まるでみのりのことを優しく見つめるように描かれている――

「……わかった」

「……え? ……いいのか?」

 あすかが意外そうに尋ねた。

「……うん。……ちょっと、やってみたい」

「……みのりんせんぱ~い」

 まなつがうるうると声を漏らした。

 みのりは、チョークを握りしめると、再び黒板に向き直った。

「……この、まなつの絵はどうする?」

「あ、消しちゃってくださいっ!」

 みのりは、黒板消しにまっすぐと手を伸ばした。

「ねえ。それ、シャボンピクチャーで撮っときなさいよ。せっかくの、まなつ画伯の傑作じゃない」

 ポットの中で、ローラがプププと笑った。

「くるるんー」

 くるるんがポットのシャッターを押した。

 カシャッ。

 音とともに、まなつの傑作が、泡の中にぷかぷかと浮かび上がる。

「その手があったかー」

 まなつのアート?は、泡の中で揺らめいて、元よりもさらにいびつに見える……。

「……じゃあ」

 みのりは、黒板消しを細かく上下させると、まっさらな黒板に、自分の『トロピカってる』のイメージを描き始めた。

 その過程で、一瞬、みのりはためらいの表情を浮かべた。

 だが、みのりはそのまま休むことなく手を動かし続けた。

 そして……

「私は、こう」

 みのりが体を避けると、一同は、その絵にまるで吸い込まれるように見入っていた――

 

 ×   ×   ×

 

 一人の少女が、波打ち際の浜辺で水平線を見据えている。

 そこからは太陽が顔をのぞかせ、漏れだす光が、少女の姿を明るく照らしている――

 

 ×   ×   ×

 

「まなつのイメージと違って一人なんですね」

 見入っているさんごが呟いた。

「うん……」

 みのりは毅然と、だが少し恥ずかしそうに口を開いた。

「今までは、あまりに広大に感じて……、計れなくて……、恐ろしささえ感じていたあの大海原に……、一歩、勇気をもって踏み出せたときの、なにか、あたたかな気持ち」

 言い終えて、みのりは優しく微笑む。

「これが、私の『トロピカってる』……」

 一同は、静かに聞き惚れていた。

「すごい……、すごいよ、みのりん先輩……!」

「うん……。直す気も起きない、良いイメージだ」

 さんごは、心奪われたように、ぼーっと絵に見惚れている。

 ポット内のローラは、変わらず「ふーん」とすましているが、やがてニッとはにかんで、

「やるわね、みのり」

 みのりが恥ずかしそうに頬を染める。

「くるるーん!」

 飛び上がったくるるんがポットのシャッターを押した。

 カシャッ。

 音がして、みのりの絵が、ふわふわと泡の中に浮かび上がった――

「なるほどな~……。一歩踏み出せたときの勇気……。目から黒子だよ~」

「……目から『鱗』、って言いたいの……?」

 あすかのツッコミに、まなつがいたずらに笑う。

 それから、まなつはわざとらしい口調でこう続けた。

「ところで、あすか先輩とさんごは?」

 あすかが、苦い表情で、

「……くると思った」

「ここまできたら、気になっちゃうよ〜」

「こういうの、私は得意じゃないな……」

「あの、じゃあ私が。……いいですか?」

 絵に見惚れていたさんごが、口を開いた。

「え……? ああ、もちろん」

 あすかが意外なように答えた。

「よし、いっちゃえ、さんごー!」

 さんごはみのりからチョークを受け取った。

 そして、ゆっくりと黒板の前へと歩いていく。

「……失礼します」

 さんごは、そう言うと、黒板消しで丁寧にみのりの絵を消していく。

 やがて、まっさらな黒板と、さんごは毅然と向き合った――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。