真剣な目で、ひたむきに、さんごは様々な色のチョークを手に取っていく。
いつになく積極的なさんごを、一同は静かに見守っていた。
やがて、さんごがチョークを置いた。
「できた……」
ゆっくり振り向くと、さんごは呟いた。
「私、みのりん先輩の絵を見ていて感じたの……」
そして、柔らかな笑顔で、真っ直ぐに言った。
「私の、私だけの、『トロピカってる』があっても、全然いいんだ、って!」
さんごが、体を避けた。
その瞬間、さんごの絵が、一同の前に露わになった――
× × ×
ディフォルメされたまなつ、さんご、みのり、あすか、ローラ、くるるん、その可愛げな表情が、黒板いっぱいに描かれている――
× × ×
「これ……、私たち?」
みのりが、見つめながら尋ねた。
「はい……」
「かわいいー!」
「これは、私には描けないな……」
「くるるーん!」
「さんごも、やるじゃない」
ポットの中で、なぜかローラが自慢げに言う。
「ありがとう……」
さんごは、恥ずかしそうに礼を言うと、続ける。
「私ね。みんなといて……、いろんなところに行って、いろんなことができるのが、とっても楽しくって。だからこれが……、みんなが! 私の『トロピカってる』!」
さんごの言葉が、絵の中の全員の笑顔に重なった。
「まさに、トロピカる部、ここにあり! だねっ!」
嬉しさを全身で噛み締めながら、まなつが言った。
「確かに。すごい、『トロピカってる』」
みのりも思わず微笑んだ。
さんごが、照れくさそうに、つられて笑った。
「くるる~ん!」
くるるんが飛び上がり、ポットのシャッターを押した。
カシャッ。
さんごの絵が、泡の中でふわふわと空中に浮かび上がる――
だが、勢いあまって、コテン、と机上に転がってしまったくるるん。
「くるる~ん……」
「……くっ」
あすかが、思わず吹きだす。
すると、
「あはははは……!」
まなつたちもつられて笑いだす。
さんごの絵が、まなつたちの笑い声に反応するように、ゆらゆらと泡の中で揺らめいている――
「何よっ! みんなだけ、楽しそうにしちゃってぇ!」
ローラが、突然ポットから飛び出してくる。
「わぁっ!?」
驚く一同。
「いや、勝手に引っ込んだのはお前だろ……!」
「うるさい! ねえ、私にも描かせなさいよぉ」
ローラが勢いよくさんごに迫る。
だが、途中でバランスを崩して、前のめりに倒れそうになる……
「わぁっ……!?」
「きゃあっ……!?」
とっさにさんごが支えるが、そのまま二人は転倒してしまう……
「だ、大丈夫っ!?」
まなつたちが駆けつけて、目を回している二人の様子をうかがった。
そんな時だった――
コンコン。
ノックの音……。そして……、
『みんなー! いるー?』
女性の声がする。
……この声は……
「……まさか」
苦い表情であすかが呟く。
「……桜川先生の声だあっ!?」
まなつが仰天した。
瞬間、一同はひどく慌てだした。
理由は、目前で横たわっている、誰がどう見ても100%、人魚のためである……
「ア、アクアポットは……!?」
目を回しつつも、ローラはとっさに机上のポットを見た。
ローラの場所から、机上までは、短時間では埋められそうにない距離があった。
ポットの隣では、くるるんが、一同の気も知らずに、のんびりと寝転がっている。
――どうする――
ローラは、まるで時が止まったかのように固まった。
その間に、様々な選択肢がローラの脳裏に浮かんでは消えた。
――どうする――!?
ガラガラッ!
外の荒れた天候を背に、桜川先生が、ボロボロになった傘を閉じながら入ってきた。