トロピカる部『活動日誌』   作:ホンバラ

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chapter.5 トロピカる、あすか

 バタンッ! と、先生は素早く扉を閉める。

「ふう……」

 先生は、おかしな体勢で静止するまなつたちをゆっくりと眺めた。

「……? よかった。みんな無事みたいね」

「あ、あははは……」

 その真ん中には、鮮やかなロングスカートを穿いたローラが立っている。

 それは、さんごが、あの短時間でとっさに機転を利かせた結果だった……

「……えっと。その子は……?」

 先生がローラを見つめながら言う。

「……あの、その……」

 さんごがあわあわと口ごもった。

「ろ……、ローラですっ!」

 まなつが愚直にも紹介する。

「ローラ、って……。え? もしかして、お昼の放送で歌ってくれた、あの……?」

 先生の顔色が突然変わった。

「あ、ええ。まあ……」

 ローラが苦い表情で答えた。

「あの歌、すっごくよかった……。私、とってもいやされたの……!」

 先生は、ローラに近づき、握手を求める。

「あ、ありがと……」

 ローラは、ひくひくと表情をゆがませながら、応じる。

 ほっ、とする一同……

「あら? それは、アザラシ……?」

 先生が、今度は机上のくるるんに気付いた。

「くるる……!」

 がばっ! と、みのりがくるるんの口元をふさいだ。

「……? 今、喋って……」

「ぬいぐるみなんです! 喋るんです!」

 即答するあすか。

「可愛いので、部室に飾っとこうと思って……!」

 必死にさんごが続く。

「へえ、そうなの……。確かに、可愛いデザインね~」

 先生は、みのりが抱えたくるるんを見やると、頬をゆるめた。 

「……でも、先生はどうして?」

 みのりがさりげなく話題を逸らした。

「ああ……。ほら、ひどい天気じゃない? ここ屋上だし、みんなが閉じ込められてないか、心配で見に来たの」

「わざわざすいません……」

 あすかが頭を下げる。

「でも、先生も、もう外には出られないんじゃ……?」

 さんごが、先生を見ながら呟いた。

 先生の手には、ボロボロの壊れた傘が握られている。

「……あ」

 沈黙……

 それから、先生は「やっちゃった」と言う風に……

「……どうしよう?」 

「……」

 雨音が激しく響いた――

「ねえ。この人、本当に先生?」

 ローラが呆れて呟く。

「……こら」

 あすかが、遅れてたしなめた。

「大丈夫です! 先生も一緒に雨宿りしましょう!」

 まなつが明るく勧める。

「いい……? お邪魔じゃないかしら」

 先生が遠慮深そうに尋ねる。

「そんな……。私たちの顧問の先生じゃないですか」

 さんごが優しい笑みを投げかけた。

「うう、ありがとう……」

 先生はうるうるしつつ、今度は黒板に描かれている絵に視線が移った。

「あら……? 今日はイラスト部……? 可愛いわ~」

「これ、さんごが描いたんですっ!」

 まなつがさんごの肩を抱いて言う。

「へえ~!」

 感嘆の声に、さんごは照れ笑いをした。

「今日は、みんなの『トロピカってる』を発表する部活なんです! ……そして、トリは部長のあすか先輩っ!」

「いっ!? ……やっぱり、やるのか?」

 あすかが苦そうに漏らす。

「最初は、スローガンを決める趣旨だったはずが……」

 みのりがぼそっと呟く。

「あら、じゃあ今日はプレゼン部? ディベート部かしら? 面白そう! 先生も聞いていっていいかしら?」

「……えーと」

 あすかが答えあぐねる。

「もちです!」とまなつ。

「うおいっ!!」

「どうぞ」

 みのりが、さりげなく椅子を差しだす。

「ありがとう~」

 遠慮なく座る先生。

 思わず表情がゆがむあすか。

「さあ、あすか! 見せ場がきたわよ! 気張ってこー!」

 ローラの掛け声に、トロピカるな部員たちも……

「あすかせんぱ~い!」

「ぶ、ぶちょ~」

「やんややんや……」

 あすかは、やがて観念したように……

「……わかった。……やる。やってやるよ!!」

 部員たちからは、

「イエーイ!!」

「……」

 それから、あすかは振り向くと、まるで黒板に挑むかのように鋭い目つきをした。

 だが、そのまま、まるで時が止まったかのように、あすかは動かなくなった。

「……?」

 目を合わせる一同。

「あすか先輩、どうかしましたか……?」

 さんごが尋ねる。

「あ、いや……」

 あすかは、まるでごまかすように、

「さんごの絵は、やっぱりかわいいなあ~、って……」

 さんごが顔を赤くする。

「あ、ありがとうございます……」

「えへへ……。もう写真も撮ってあるから、消しちゃっても平気だよ。ね?」

 まなつがさんごに尋ねた。

「うん。平気ですよ? あすか先輩」

 ニコッと笑うさんご。

「う……。ああ、わかった」

 あすかは、黒板消しを取ると、丁寧に絵を消していく……

「……」

 あすかは、再びまっさらな黒板と向き合った。

 一同が注目する……!

 だが、なかなかあすかは動かなかった。

「……あすか、先輩?」

 まなつが心配になる。

「……一時停止……?」

 みのりが呟く。

「動いてるよっ!! ……この、待ってろ」

 あすかが、力を込めて、ようやくチョークを手に取った。

 ようやくか!

 一同の期待は膨らんだ。

 だが、腕を組んだり、額に手を当てたり、チョークを構えたかと思えば、停止したり……

 あすかは一向に動けなかった。

「……」

 待ちぼうけする一同……

 やがて、あすかの表情には微かな苛立ちが浮かんできた。

 まるで、イメージが思い通りに浮かばない、自分自身に苛立っているかのように――

「……あすか?」

 ローラが、怪訝そうに、あすかを見つめて呟いた。

 こんな彼女は、ローラだけじゃなく、全員見たことはなかったのだ。

 

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