バタンッ! と、先生は素早く扉を閉める。
「ふう……」
先生は、おかしな体勢で静止するまなつたちをゆっくりと眺めた。
「……? よかった。みんな無事みたいね」
「あ、あははは……」
その真ん中には、鮮やかなロングスカートを穿いたローラが立っている。
それは、さんごが、あの短時間でとっさに機転を利かせた結果だった……
「……えっと。その子は……?」
先生がローラを見つめながら言う。
「……あの、その……」
さんごがあわあわと口ごもった。
「ろ……、ローラですっ!」
まなつが愚直にも紹介する。
「ローラ、って……。え? もしかして、お昼の放送で歌ってくれた、あの……?」
先生の顔色が突然変わった。
「あ、ええ。まあ……」
ローラが苦い表情で答えた。
「あの歌、すっごくよかった……。私、とってもいやされたの……!」
先生は、ローラに近づき、握手を求める。
「あ、ありがと……」
ローラは、ひくひくと表情をゆがませながら、応じる。
ほっ、とする一同……
「あら? それは、アザラシ……?」
先生が、今度は机上のくるるんに気付いた。
「くるる……!」
がばっ! と、みのりがくるるんの口元をふさいだ。
「……? 今、喋って……」
「ぬいぐるみなんです! 喋るんです!」
即答するあすか。
「可愛いので、部室に飾っとこうと思って……!」
必死にさんごが続く。
「へえ、そうなの……。確かに、可愛いデザインね~」
先生は、みのりが抱えたくるるんを見やると、頬をゆるめた。
「……でも、先生はどうして?」
みのりがさりげなく話題を逸らした。
「ああ……。ほら、ひどい天気じゃない? ここ屋上だし、みんなが閉じ込められてないか、心配で見に来たの」
「わざわざすいません……」
あすかが頭を下げる。
「でも、先生も、もう外には出られないんじゃ……?」
さんごが、先生を見ながら呟いた。
先生の手には、ボロボロの壊れた傘が握られている。
「……あ」
沈黙……
それから、先生は「やっちゃった」と言う風に……
「……どうしよう?」
「……」
雨音が激しく響いた――
「ねえ。この人、本当に先生?」
ローラが呆れて呟く。
「……こら」
あすかが、遅れてたしなめた。
「大丈夫です! 先生も一緒に雨宿りしましょう!」
まなつが明るく勧める。
「いい……? お邪魔じゃないかしら」
先生が遠慮深そうに尋ねる。
「そんな……。私たちの顧問の先生じゃないですか」
さんごが優しい笑みを投げかけた。
「うう、ありがとう……」
先生はうるうるしつつ、今度は黒板に描かれている絵に視線が移った。
「あら……? 今日はイラスト部……? 可愛いわ~」
「これ、さんごが描いたんですっ!」
まなつがさんごの肩を抱いて言う。
「へえ~!」
感嘆の声に、さんごは照れ笑いをした。
「今日は、みんなの『トロピカってる』を発表する部活なんです! ……そして、トリは部長のあすか先輩っ!」
「いっ!? ……やっぱり、やるのか?」
あすかが苦そうに漏らす。
「最初は、スローガンを決める趣旨だったはずが……」
みのりがぼそっと呟く。
「あら、じゃあ今日はプレゼン部? ディベート部かしら? 面白そう! 先生も聞いていっていいかしら?」
「……えーと」
あすかが答えあぐねる。
「もちです!」とまなつ。
「うおいっ!!」
「どうぞ」
みのりが、さりげなく椅子を差しだす。
「ありがとう~」
遠慮なく座る先生。
思わず表情がゆがむあすか。
「さあ、あすか! 見せ場がきたわよ! 気張ってこー!」
ローラの掛け声に、トロピカるな部員たちも……
「あすかせんぱ~い!」
「ぶ、ぶちょ~」
「やんややんや……」
あすかは、やがて観念したように……
「……わかった。……やる。やってやるよ!!」
部員たちからは、
「イエーイ!!」
「……」
それから、あすかは振り向くと、まるで黒板に挑むかのように鋭い目つきをした。
だが、そのまま、まるで時が止まったかのように、あすかは動かなくなった。
「……?」
目を合わせる一同。
「あすか先輩、どうかしましたか……?」
さんごが尋ねる。
「あ、いや……」
あすかは、まるでごまかすように、
「さんごの絵は、やっぱりかわいいなあ~、って……」
さんごが顔を赤くする。
「あ、ありがとうございます……」
「えへへ……。もう写真も撮ってあるから、消しちゃっても平気だよ。ね?」
まなつがさんごに尋ねた。
「うん。平気ですよ? あすか先輩」
ニコッと笑うさんご。
「う……。ああ、わかった」
あすかは、黒板消しを取ると、丁寧に絵を消していく……
「……」
あすかは、再びまっさらな黒板と向き合った。
一同が注目する……!
だが、なかなかあすかは動かなかった。
「……あすか、先輩?」
まなつが心配になる。
「……一時停止……?」
みのりが呟く。
「動いてるよっ!! ……この、待ってろ」
あすかが、力を込めて、ようやくチョークを手に取った。
ようやくか!
一同の期待は膨らんだ。
だが、腕を組んだり、額に手を当てたり、チョークを構えたかと思えば、停止したり……
あすかは一向に動けなかった。
「……」
待ちぼうけする一同……
やがて、あすかの表情には微かな苛立ちが浮かんできた。
まるで、イメージが思い通りに浮かばない、自分自身に苛立っているかのように――
「……あすか?」
ローラが、怪訝そうに、あすかを見つめて呟いた。
こんな彼女は、ローラだけじゃなく、全員見たことはなかったのだ。