「……?」
先生が、ふと後ろを振り向いた。
「……!?」
まなつたちは、先生の視線の先に、一転、表情を硬くした。
今まさに、先生と、くるるんの視線が合っている――
だらだらと汗を流す一同。
「ねえ? あれ……」
先生が、机上を指さして呟いた。
くるるんが、何もわかっていないように首を傾げる。
「!!」
まなつたちは、一瞬、一切の覚悟を決めた――
「……晴れた?」
まなつたち、唖然と、
「へ?」
先生の視線の先を、ゆっくりと追ってみる。
机上のくるるんの先、タイルの床面に、窓から射した一筋の光がうっすらとかかっている――
「そういえば、いつの間にか、雨の音も……」
そう言って、さんごが窓の外を眺める。
依然、曇天が立ち込めているが、外の雨風はすでに止んでいた。
「ちょっと、外に出てみない?」
先生は、立ち上がると、くるるんを華麗にスルーして扉の方へと向かっていった。
「……」
まなつたちは、ほっと胸をなでおろすと、先生の後を追い始める。
「……なあ!」
あすかの突然の呼びかけに、まなつたちは立ち止まった。
「……いつか、発表するよ。……発表したいんだ。私だけの『トロピカってる』!」
まなつたちは、次第に満面の笑みになって、
「はいっ!!」
笑顔のまま、扉へと駆けていった――
※
部室から出てきたまなつたちは、ゆっくりと空を見上げた。
雲の切れ間から、あたたかな夕日が、学校全体に降り注いでいる――
「わあ……」
さんごが見惚れている。
「天使のはしご……。見るのは初めて」
みのりが呟いた。
「私もだ……。すごいな……」
あすかが眩しそうに額に手を当てた。
「一生の思い出かもねえ……。私、なんだか召されてしまいそう……」
先生は、たぶん自分に酔っていた。
「召されないでください……」
「部活ができなくなります」
「冗談よ、冗談」
「そういう問題か……?」
ローラは、くるるんを抱えて、光が射し込む空を呆然と見上げている。
「……」
すると、
「みんなっ!」
屋上の端から、まなつの声が聞こえる。
「来てっ!」
まなつは、街の方角を指さして、まるで弾けんばかりに高揚していた。
一同は、駆け足で屋上の端へと向かっていく。
やがて、彼女たちの目には、まるで絵画のような光景が広がった――
× × ×
曇天の隙間から、徐々に空が露わになって、街全体に紅い夕日が降り注いでいる。
空には、巨大な虹が、街全体を彩るかのように、色鮮やかに輝いている――
× × ×
一同は、呆然と立ち尽くしていた。
「……」
ローラが、恐らく初めて見るであろう光景に、目を輝かせながら黙っていた。
「今夜はきっと、星がよく見えるわね……」
先生が呟いた。
一同の表情が、夕焼けに照らされて、明るく、そしてあたたかな笑顔になっていく。
「ローラ……」
ローラが振り向くと、まなつがこちらを見つめていた。
「少しは、わかった? 『トロピカってる』ってどんな感じか」
ローラは、改めてまなつたちを見た。
夕焼けに照らされたみんなは、前を見据えながら、屈託のない笑みを浮かべている。
そしてその中に、私もいる。
一緒に、同じ景色を見ている……
ローラは、迷いなく振り向くと、答えた。
「うん!」
まなつは、それに応じるように、どこまでも眩しい笑顔を浮かべた。
まなつたちの、かけがえのない大切な時間が、いま目の前に広がる景色とともに、どこまでも静かに流れていく――
※
誰もいなくなった『トロピカる部』の部室――
机上のアクアポットの前には、シャボンピクチャーの泡がふわふわと浮遊している。
その中には、黒板の前で笑い合うまなつたち、5人の『トロピカる部』の姿が、今にも動き出しそうに、色鮮やかに浮かび上がっていた――
いんたーみっしょん(幕間)
すっかり下校時間になって――
すでに陰っている夕日の中、まなつたちは廊下を歩いていた。
未だに興奮が冷めやらない様子で……
「いや~、いいもの見れたね、みんなで!」
まなつが投げかける。
「うん。あんな大きな虹、初めて……」
さんごは未だにうっとりしている。
みのりは、珍しく興奮し、眼鏡を光らせコクコクと頷いている。
「案外、雨宿りも悪くなかったかもな」
あすかが、まんざらでもなさそうに笑みを浮かべた。
「だね!」
気分上々のメンバーたちに、前を歩く先生が笑って続ける。
「これで、今日はいい日誌が書けそうねえ」
とたんに、一同は立ち止まった。
「……え?」
先生が、不思議そうに振り返る。
「……日誌」
さんごが、呆然と声を上げた。
「……なに、書こう」
まなつの独り言に、誰も答えられる者はいなかった。
「くるる~ん!」
くるるんがバッグの中のアクアポットで陽気に声を上げた。
その隣では、肩をすくめたローラが、自分には関係ない、とでも言う風に……
「さて。どうなることやら」
呆然と立ち尽くすまなつたちに、薄暗い影が射しこんだ――