歴戦のレシピ 作:ミッター
あまりいい思いはしない。
ヒソヒソと沢を渡り、忍び足で歩哨近くまで。
0100時決行の夜襲。
ほふくで近寄ると思いの外、気付かれないもんで。
ガースキーと目を合わせ同時に背後から口を押さえて、
右のエラ辺りから2発。
ちくしょう血吐きやがった。左手がべったり。
思えば、相手の血を見たのは初めてだった。
負傷した同僚や自分の擦り傷ならまだしも、今、自分が奪ったのは紛れもなく誰かの子で、誰かの友人、誰かの夫や親かも知れない。嫌だなぁ。この先もあるのかと思うと続く気がしない。
ガースキーの手並みは見事なものだった。スパッと一閃。決められた合図として赤いLEDライトを点滅させる。
そこからの動きは本当に早かった。殺す事を念頭に動く人間は、果たして人間なのか。
一瞬で4ヶ所の家で爆発。少し置いてRPGが忌々しい装甲車を吹き飛ばした。異常に気付いた時は既に遅し。
「走れ!あっちの寝床はノータッチなんだ!」
「旦那方が出てきたぞ!撃て撃て!」
「グレネードだ!伏せろ!」
「一斉射後、突入!行け行け!」
歴戦のツワモノは白兵戦紛いの戦いをやってのけ、民兵主体の敵は装甲車を失なった時点で散り散りに逃げてしまった。
薄く明るくなった頃には硝煙と燃料の燃えた臭い、そして、肉の焼けた臭いが辺りに立ち込めていた。
「ミッター、タバコ持ってるか?」
「あるよ。マルボロで良ければ。」
「吸えればいいさ。ありがとう。」
ガースキーは戦闘後よく軽口をきいてくる。今日は無かった。顔に出ていたのかな。いや。さっき異常に手を洗っていたのを見られたんだ。
イヤリク分隊長は肩を叩いてくれた。
『辞めたい』
久し振りに口にした母国の言葉は、否定的かつ後ろ向きだった。
報告が終わって、移動準備。0445時。早いが朝食だ。
申し訳ないけど全部軍用レーションで済ませてしまった。
誰も文句を言わず食べてくれた。俺は食えなかった。
「今日のこと、慣れるなよ。慣れたら帰れなくなるからな。」
そう声を掛けてくれたのはワーレン分隊長だった。別の分隊であまり話すことはなかったけど、小隊でも数少ない“外国人”だ。
「この先もあるんでしょうかね…」
「あるさ。でも、慣れるな。飲み込め。」
そばにいたガースキーが静かに頷いていた。
移動準備したときに気付いた。
前回の交戦でマガジン2本を空にしていた。今回、マガジン半分も使っていなかった。我ながら細い神経だと思う。
中隊の車両に分乗して出発したのが0600時。
大隊と合流したのが0830時。25時間近く遅れてしまった。
ここで聞いた報告は衝撃的だった。
負傷した奴こそ居たものの、一人として欠けなかった俺たちの小隊は運が良かった。
大隊は3割近くが死体袋行きだった。大隊と合流してからと言うもの、負傷兵の手当てに追われる事4時間。落ち着いた頃には昼だった。
「ミッター、飯、作れるか?大隊から豚貰ってきた!」
イヤリク分隊長の爽やかな笑顔よ。分かりやすいスラヴ系の顔が煤けて、妙に青い目が目立った。
実は醤油、持ってるんだよね。
「俺の国の料理で良ければ用意しますよ?」
「よし!野郎共!昼はミッターのふるさとの飯だ!」
「「「うぉぉぉぉぉっ」」」
やっぱ軍人上がりはすげぇ。食えるんだ。タバコの減りが異常な俺、メンタルブレイクまで5秒前。