歴戦のレシピ 作:ミッター
公園にベースキャンプを設営して一日。負傷者、殉職者の後送が済んで2日。その間、隊長クラスの会議は連日続いていた。
想定兵力を大幅に下回る人数であることと、正規軍がちゃっかり出てきた事が状況を大きく変えた。
正規軍を投入せず分離派を支援して領土を切り取ろうとしてるって感じだったのに、露骨に侵攻してきた訳だ。
そして、我らは…トレーニング、武器弾薬のお手入れ、トレーニング、タバコ、トレーニング…要するに暇だった。先の戦闘から4日もダラダラしている。休暇でも無いのに連休はなかなかない。大隊公庫の酒瓶は減り、灰皿代わりのアモ缶は溢れかえって久しい。
「ミッター、暇だ。暇にも程がある。」
「ガースキー、考え方を変えよう。俺らが暇ってのはいいことだ。暇なら死人が出ないからな。」
「イワコフ、なんか歌え。ミッター、思うにこれは暇で死人が出るぞ。」
「了解です!」
イワコフは最年少だからよく無茶な振りを受ける。だがこの振りは上等なモノで、イワコフの返しもまた上等だった。最近まで軍隊にいたイワコフはとっさに、ロシア軍歌を歌った。“ロシアへの軍務”というタイトルらしいがいかにもロシアらしい強気な歌だった。
これをきっかけに順に自分たちの国の軍歌を歌って解説する流れになっていった。
カチューシャやらラ・マルセイエーズ、パンツァーリート、ブリティッシュグレナディアーズ、果てはリリーマルレーンやらやら色んな国の軍歌を聞くことになり、なおかつみんなの出身国を知った。
特にパンツァーリートは盛り上がった。分隊みんなでバルジ大作戦の真似をしながら、足を踏み鳴らして合唱した。大の男10人以上が歌うパンツァーリートは迫力がある。
自分の番になって歌ったのは“歩兵の本領”だった。ま、我々は歩兵だし。
欧州の軍歌はメロディは一緒でも歌詞が全く違って面白い。それに気づいて“抜刀隊”を歌ってみたら思いの外、食い付かれた。
「いいですね。最初の“敵の大将たる者は古今無双の英雄で”とか“鬼神に恥じぬ勇あるも”とか敵を讃えるあたりがサムライの国って感じしますね。」
「俺は“死すべき時は今なるぞ”ってのにサムライの覚悟を感じた。と言うかイワコフ、ミッターの国はカミカゼの国だぞ?800年も内戦やって、外国と戦う時は常に自分たちより大きな国と戦った国だ。」
「アメリカに第二次大戦で負けるまで一度も負けたことのない戦士の国なんだ。しかも、あのアメリカにたった一国で戦ったあの国だぞ。」
「ちょっと待て。ゴードンは間違っている。情報は正確にせねばならん。二回目だ。アメリカに負けて二回目の負けだ。」
ゴードンの間違いを軽く訂正しつつ、ガースキーが意外と博識だった…というか士官学校でてるんだった。戦史研究でもしてたか?
「カミカゼって自爆テロですよね?日本の。」
場が静まり返る。イワコフお前もか…と内心、1人カエサルごっこに興じていた。海外でよく出会う“カミカゼ・自爆テロ同一論”だ。
実はよくあることではあったので慣れてはいるが…いい気しない。
そこで突然、怒鳴ったヤツが居た。イギリス出身と発覚したストーンだ。
「貴様、取り消せ。カミカゼは国や大切な人のため戦闘行為として行くんだ。テロは非戦闘員まで盛大に巻き込む卑劣な行為だ。テロと一緒にするな。敬意を払え。そして、今すぐその発言を取り消せ!」
「待て。突然どうした。何でミッターじゃなくストーンがキレてる。」
ガースキーが仲裁に入ってくれた。当のかばわれた俺は呆気にとられポカーンとアホ面を下げていただろう。
後から聞いたがストーンのジイサンは東南アジアで帝国軍と戦ったそうだ。そして、そのジイサンは帝国軍と戦ったことを誇りに思っていたと聞かせてくれていたそうだ。
「いつか俺の国に来てくれ。カミカゼで行った先人たちの手紙が見れる博物館がある。ゼロも飾ってあるんだ。兵隊やってくなら一度来てくれよ。」
彼らが特攻隊員の手紙を読んで“行間”に気付いてくれるかは解らないが、いつか本当に来てほしいと思った。そして、それは実現した。が、それはまた別の機会に。
「さて諸君、楽しそうに歌っていた様だが仕事だ。我が分隊は、これからトルコで一週間ほど休暇が与えられる。その後、諸君らには砂漠へ行って貰うこととなった。都会的な生活は終わりだ。」
「「「ふぁ~い」」」
きたメイ●リック大佐…ちがう。イヤリク分隊長。元は母国の特殊部隊にいたと聞いた。ちなみにガースキーはその部下だった。やる気のない返事と共に、資材部に返却するものと私物を分ける。会社なので使った弾数や、破損したものの報告、私物の場合は相当額と物品指定を申告すれば給料に乗せて貰えたり、もう一度買ったときにその分が払われる。
“会社”だが、弾薬の扱いや小銃の管理支給は母国と変わらない。他の国はどうなんだろう?
少し当分隊の話をしよう。
分隊長が特殊部隊出身故に、我々は分隊単位…15人前後で行動する事が多かった。少数精鋭と言えば聞こえはいいが、少数でハードワークという状態だ。入社して一年ほどしか経っていない自分や、イワコフはまだ無いが結構ウェットな事、固茹でな事もするらしい。
先にいたストーンはSWAT出身、ゴードン(こいつはラ・マルセイエーズを歌っていた。)にいたっては母国の将校なのに外人部隊にいた結構な脳筋野郎だったりする。イワコフも最年少と言いつつも実は、特殊部隊出身だ。あ、俺?ただのレンジャー。空挺にもいたけど。
入社の面談で要らんこと言ったせいで、この分隊に配置された。人事部吹き飛べ。
「砂漠かぁ…あれか?あの国紛いの奴等が相手なのかね。」
「それこそ自爆テロですよ。本物の。」
ガースキーは口数多いんだ。ちゃんと返すイワコフは偉い。
「人質にされても会社は身代金は払わんからな。覚えとけよ!」
「分隊長、面白くありません。」
「ゴードンはミッターからハラキリでも教わりな!」
アチョーとか言う謎の掛け声を発するストーンは笑えた。ツッコミたいが黙っておこう。兵隊は今の和気あいあいが楽しい。
砂漠、人生初の砂漠だ。その前に休暇だ!
飯、レーション祭りとか勘弁だなぁ…
そんな勤務上がりだった。もちろん砂漠じゃこの半島より地獄を見た。