2、3話の予定です。
私が彼女と出会ったのは、本当に偶然の事だった。
「遅い……」
数週間前に発注した担当ウマ娘用の勝負服。未だにサンプルすらも届かない。
会長のシンボリルドルフ曰くこの学園で随一の腕を持った服飾士だと言ってくれたものだから、意気揚々と発注したのだがまさかここまで長引かせられるとは思わなかった。
別に苛立ちこそはいしていないが、少々不安になって来る。
服飾士が作業する部屋とはトレセン学園敷地内の端っこにあり、普段は関係者以外入室できないという事になっている。
しかし、どうしても気になった私は会長に折り入って状況確認を申し出に行った。彼女は呆れたような表情をしつつも『わかった』と了承してくれた。
彼女曰くサンプルすら届かないといった事態はその服飾士にはよくある事みたいだった。それは仕事をやっていく上でどうなのかと思ったが、今となってはそれも仕方のない事だと思う。
目的の作業部屋へたどり着き、木製の風情ある扉をノックする。――反応はない。
普段その服飾士は買い物以外の事でこの部屋から出てくる事はないという。几帳面な人物だということで、灯りを消さずに外へ出るという事も無い。
中には絶対にいる筈なのだ。それなのにも応答がないという事で、私は一層に不安を掻き立てる。
「……入るぞ、リーフグーデン」
「リーフ……?」
会長が発したその名は、いかにも珍しいものだった。外国人……にしてもそんな奇抜な名前の人はいないだろう。
鍵を開けて、扉をゆっくりと開ける。不安が爆発しそうになり、私は今にも飛び出しそうになったが、ここは大人の女性として息を押し殺す。
そう急かしたって何かが変わるわけがないのだ。
「リーフグーデン、例の依頼の件、どうなって……っ!?」
「えっ……何、これ」
扉を開いた先に広がっていたのは正に何かの呪いかと言わんばかりの光景だった。
途中まで作っていたと思われる布きれの何かが無数に地面に投げつけられ、壁には勝負服を発注した私の担当ウマ娘の写真に、テレビにはその娘のレース映像が何度もループされていた。
そしてその床には――一人のウマ娘が倒れ伏していた。
「リーフグーデン!?」
会長は駆け寄って倒れていた彼女の頭を自身の膝に置く。ふぅふぅという苦しそうな息遣いを見て、会長は咄嗟に額へと手を置く。
そして何よりも私が驚いたのは、その倒れていた子は、紛れもなくウマ娘の一人だったという事。どこかで見たような気がしなくもないが……今は思い出せない。
察したのだろう。会長は彼女を急いで保健室へと連れて行った、ここまで来た以上私も同行しない訳にはいかない。それにしても……一体この光景は、何だというのだろうか?
保健室へと運び、担当医から過労による熱だと診断される。時期に目を覚ますとのことだ。
会長は彼女を見て、先ほど以上の呆れ溜息をつく。
「……彼女はいつもこうでな」
「いつも?」
「勝負服が発注されると、決まってこのように熱を出してしまうのさ。一睡もせずに服と格闘するんだ、当然だろう」
「一睡も!?」
驚いた、それじゃあ彼女はずっと一人であの暗い作業部屋の中で格闘していたというのか。私には到底考えられない。
一体何が彼女をそこまで動かすのだろうか。その答えは、本人から直接聞くしかないだろう。
「GⅠレースは一世一代の晴れ舞台みたいなものだ。それに使用する服が届かないとなれば、一大問題だろう。……そうだとしても、休まずにやってればこうやって倒れて時間がかかるというのに」
「……凄い、熱意ですね」
私は眠りこけるリーフグーデンというウマ娘服飾士の顔を見る。
辛そうな表情はしつつも、どこか幸せそうな面影すら感じられる。倒れる直前までに何かいいことでもあったのだろうか?
「私は生徒会があるから先に戻るが……君はどうする?」
「……一応残ります。今日のトレーニングも終わりましたし」
「そうか」
うんと頷き、会長は保健室を去っていく。
残ったのには勿論理由がある。彼女が心配だったのもあるが、最も大きな理由は、彼女がどうしてそこまで依頼の服に集中できるのかというのが、単純に気になったのだ。
目覚めたら、質問してみる事にしよう。
……これが、私と伝説の服飾士の出会いであった。