クラスメイトKがドジっ娘の世界にて大暴れ!?   作:ちびっこ&ひばりの

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本日、2話目の更新です。


5月6日 pm.3:00

 最初は正直、びっくりしたし困惑したし、いきなりで何考えてるのか解らなくて怖かった。

 

 先輩っていうこともあって、私は昨日の一件を思い出して、内心で冷や汗がダラダラとしていた。また何かされるんじゃないかって、犬の唾液だらけになった顔をギュッと固く結んでいた。

 

「大丈夫か?」

 

 ずっと怖い人と思っていたから、その心配そうな声にはすごく驚いた。

 

 その人に連れられてやって来た並盛商店街のラ・ナミモリーヌで、偶然にもまた彼に出会った。

 

「あっ、電柱の時の……」

 

 昨日、考え事をしていて目の前の電柱に気づかず、ぶつかりそうだった私を親切にも助けてくれた人だ。

 

 話を聞けばどうやら彼女のお兄さんのようで、ここラ・ナミモリーヌで働いているらしい。

 

 キラキラと眩しく輝く彼の笑顔に半ば気圧されて、こんなベトベトな格好で店内に入ってシャワーを借りることになってしまう。そんなに気を遣わなくても、家も近いし自分家でシャワー浴びられるのに……。

 

 ふと、着替えをどうしようと心配が頭を過る。でも、用意周到な彼女のお兄さんが彼女の服を快く貸してくれた。チラッと隣を見てみれば、至極不満そうな顔をしていたので、最初は謝って帰ろうかなとも思った。

 

「……気にするな。使えばいい」

 

 彼女は私からの視線に気づいて、私の内心を悟ったようで、無難ながらも優しい瞳で言ってくれた。そんな彼女に甘えて、私もついついお世話になってしまった。

 

 シャワーから上がればケーキまで食べていいと言われて、遠慮もままならず旬のフルーツが沢山盛られたタルトケーキが私の前のテーブルに置かれる。おっ、美味しそう……。つい涎が垂れてしまいそうだった。

 

 隣に座る彼女からの勧めと、甘い誘惑に勝つことができずに結局ケーキをいただくことになった。

 

 想像以上の甘美なケーキの味わいに、思わずだらしない笑みが零れる。そんな私を、彼女もケーキを咀嚼しながら穏やかな目で見つめてくれた。

 

 彼女が一旦席を立てば、店の外からはポチの元気な吠えが聞こえてくる。少し躾がなっていないところがあるので、通りかかる人に無闇矢鱈に吠えていないか心配である。

 

 少し様子を見に行こうかな、と腰を浮かせた時、豪快に店の扉を開けて弟の蒼哉が入店してきた。

 

 ちょうど私が体力的にも精神的にもフラフラな状態でいた昨日の夕方頃に帰ってきた蒼哉は、何ひとつ変わらない態度で私を捉えて告げる。

 

「ねーちゃん!ポチの散歩に行ったハズなのに、どうしてこんなところでケーキ食ってんだよ!ずりぃぞ!!」

 

 私に悪態をいろいろ吐くも、本心は語尾の最後に必ずつけられる「ねーちゃん、ずりぃ!」の言葉で、こいつも単にケーキが食べたいんだなと内心で察した。

 

 でも、そう呑気に考えている場合じゃない。店内でこんなにうるさく騒いでいたら他のお客に迷惑がかかっちゃう。戻ってきてこの口論を聞いていた彼女に勢いよく頭を下げながら、礼儀を弁えない奴の口の本気で潰さんばかりに掴んだ。

 

 もうこいつを追い出すと共に、この場から消えようと口を開こうとする前に、彼女がお兄さんを呼んできて丸く収めてくれた。というのも、ケーキが上にドーンッと乗ったパフェなんかを蒼哉の前に出して、そのまま彼に食べていいよなんて勧めている。って、違うッ!!

 

 さらに彼らに迷惑をかけてしまった。蒼哉も、もう少し遠慮というものを覚えようね。そんな餌にかぶりつく犬みたいにパフェ食べなくたって……… 姉として私がどれだけ羞恥に耐えているか察しろよ。

 

 頭をヘコヘコ下げ続ける私を見下すことはしないで、彼女の方はむしろこれが当たり前というようにクッキーを口に再び席を勧めてくる。まるで、せめて昨日のことの償いみたいに…… そう思うと少し気が楽になって、お言葉に甘えて彼女とのお茶を楽しむことにした。

 

 

 **********

 

 

 ラ・ナミモリーヌを後にして、私と彼女は家路をトボトボと歩いている。

 

 周りがやけに静かなのは、蒼哉とお兄さんにポチの散歩を任せたから、今は彼女と二人きりでこうしているワケだ。

 

 それに「送るから」と言われて、少々戸惑ったけれど、服のこともあるし彼女がなぜか頑なに譲ろうとしないので、私が折れて彼女に従うしかなかった。先輩だしね。

 

 さっきまではずっと怖い人だなって思っていたのに、話してみたらすごく控えめな親切を持った優しい人だという印象に変わっていた。たぶん、表に感情を出して表現するのが少し苦手な人なんだろう。なんだか、素直になれないところが雲雀さんに似ていて、親近感が募った。

 

 つい小さな笑みが零れてしまったことには、彼女には内緒にしておこう。

 

 そういえば、彼女は雲雀さんとはどんな関係なんだろう。雲雀さん自身でさえ忘れていた彼の誕生日を知っているなんて、ただの知り合いではないハズ……… どうしてこんなにも雲雀さんのことを気にしているのよ、私。あれだよ、話題にもちょうどいいからだよ。きっと。

 

 静かな空気を切り裂くように、私のかけ声ではなく、驚いたような奇怪な絶叫が響いた。

 

 見上げれば、彼女が「大丈夫か?」とちょっと引き気味な様子でこちらを窺っている。

 

 靴底のバランスを崩して前方にすっ転んだ私は、それを発車にか次々と彼女の前でドジを踏んでは、彼女に上から情けをかけるような何とも言えない視線をいただいた。うー…… 普通にめっちゃ恥ずかしいよー。

 

 もう何度目かになる転倒をした後、どこからか声が聞こえてきた。同時に胸に詰まったような圧迫感を感じて、うるさい心臓を抑えるように拳を当てた。

 

「何してるの?」

 

 そう言って、休日にも拘らず制服を着込んだ雲雀さんは、腕を組んでなぜかじっと私を見据えた。

 

 黒い双眼の瞳に見られた途端に、保健室での一端がフッと頭を過ぎり、私は我慢ならずにまた変な奇声を発しながら彼と距離を置くため後退った。けど、後ろに控えていたらしい某民家の石塀に勢いよく頭をぶつけてしまった。

 

 ゴンッと綺麗な打撃音を立てて、私はズルズルと塀に沿って腰を下ろしていった。い、イタすぎる…… いろいろ………。

 

 ポソッと、私の惨劇を見ていた彼女が何かを呟いたような気がしたけど、後頭部の痛みとふたつの視線のイタみに何も言葉が出ない。私を余所にされている会話にも、聞く耳なんて持てない。

 

 悶々と自分の混乱する思考に浸っていると、微かに雲雀さんの声がして、私の意識を剥奪する。終いには、なぜか雲雀さんに送ってもらうことになり、もう最高に憂鬱だ。

 

 気がつけば彼女の姿はそこにはなくて、先に行ってしまったんだと内心で悟る。なんだか、少し虚無感が残る。道の彼方を見据えて、彼女にはもう会えない。そんなことを、なぜかこの時思ってしまった。

 

「あの、雲雀さん。あの人の名前、なんて言うんですか?」

「ワォ、名前も知らない相手とずっと群れてたの。馬鹿だね」

 

 少し前を歩く雲雀さんから、そんな風に鼻で笑われる。言い返したいんだけど、転ばないようにって彼から繋がれている手を意識したらもう先が続かない。

 

「神崎サクラ、それが彼女の名前だよ」

 

 神崎サクラさん…… そう名前を胸の内で復唱して、彼女の服をキュッと空いている手で掴む。

 

 さよならもありがとうも言いそびれちゃったけど、また会いたいな――……。

 

 切に願いを込めつつ、歩みを彼に沿って進めていると、プツンと何かの糸が絶ったように、途端に視界が色彩を帯びて歪んでいく。

 

 な…… 何?なんだか、視界がグラグラする………。

 

「大丈夫かい?」

 

 目眩に苛まれ、倒れそうになる私の体を、ギリギリで雲雀さんが庇ってくれる。雲雀さんの繊細で力強い手が、私の肩を支えてくれて、近い彼との距離に少しドキッとしてしまった。こんな時に、私は何を意識しちゃっているんだろう。

 

「はい、大丈夫です……。なんだか急に目眩がして……」

「そう…… 僕もだよ」

 

 雲雀さんも異変を感じたようで、そのまま私の肩を抱き寄せて、辺りを見渡している。

 

 すっぽりと彼の胸に収まった私は、さらに心臓の高鳴りを自覚しながら、思考の淵でふと湧いた感情に戸惑った。

 

「あの、雲雀さん……」

「何?」

 

 チラリと、雲雀さんがこちらを覗いてくる。

 

「……私、何かとても大切なことを忘れてしまったような……… よく思い出せないけど、また会って、何かを伝えなきゃって……」

 

 自分でもよく分からないことを言っているけれど、胸にぽっかりと穴が空いたような寂しさが拭えない。思い出せなくて、さらに悔しさが込み上げ、表情が悲しく歪む。

 

 すると、後頭部に優しい力が加わり、私の顔が雲雀さんのベストの生地に静かに沈んでいく。

 

「また…… その時が来れば、思い出してあげればいいよ」

 

 優しくて心地いい雲雀さんの声。

 

 また、か――…… そうだね。いつか、きっとまた―――

 

 雲雀さんの言葉を信じて、少しの間は彼の温もりに、身を委ねることにした。

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