クラスメイトKがドジっ娘の世界にて大暴れ!? 作:ちびっこ&ひばりの
「おはよ~……」
ボソッと私がそう呟いて教室に入ると、案の定クラス中の視線が集まってきて、居た堪れなくなる。
フラフラな足取りで教室に入ってきた私に、春奈ちゃんが駆け寄ってきた。
「おはよう、まりやちゃん。それで、朝からなんで体中泥だらけなのかしら?」
まるでクラス中の視線を代表するかのように、春奈ちゃんがそう笑顔で尋ねてくるのに羞恥を覚悟で答える。
「……朝、普通に登校していたんだけど、なぜか道にあるマンホールの蓋が開いてて………」
「ああ、落ちたのね」
全てを察したようにそう言った春奈ちゃんの一言に、ただ頷くしかなかった。
「はよー。って何なんだよこの匂いは……… 臭っ」
そこに、私が入ってきたのと同じドアから朝練帰りの新垣君がひょこり顔を出しては、すかさず手で鼻を押さえていた。
「ちょっと、燕太!まりやちゃんになんてデリカシーのないことを言うのよ!」
「………そういうお前は、どこから取り出してきたか知らねえ洗濯バサミで鼻挟んで、花内と距離置こうとしてんのは何なんだよ」
「だって臭いんだもん」
まさかの友人二人から立て続けに臭いと言われて、私の残り少なかったHPが終わりを迎えた。
そんな私を、咄嗟に新垣君が宥めてくれる。
「そう落ち込むなよ、花内。誰だってマンホールに落ちることの一回ぐらいあるだろ」
「…………新垣君は、あるの?」
「あっ」
うん、そんな枯れた声が返ってくると思ったよ。
「いやそのっ、別にドジ踏むのは花内に限ったことじゃねえだろ?俺だってついさっきろくでもねぇドジ踏んできたところだぜ?」
そんなちょっと近くのコンビニでアイス買ってくるわー的なノリで語られても……… それに私のドジに比べたら、新垣君の失態なんてまだまだ青いもんよ。
「ふーん、サッカーボール股間に当たった?」
「堂々と下ネタかよ。んなワケあるか。まぁ些細なことなんだが、今朝は少し急いでて、俺の不注意で女子とぶつかりかけたんだ」
「うわー、事故を装って朝から堂々セクハラですか。まりやちゃん、こいつの半径5m以内に近づいちゃダメよ」
「だから下ネタじゃねーか!しかも範囲が広えよ!お前と違って俺はちゃんと常識人なんだよ!!」
いつも通り二人のいがみ合いが始まった。こんな時にまで私を放置で二人で話を進めないでよ。進んでもいないけど。
とにかくこのままだと面倒なので、マンホールの汚水に落ちて腐臭が満遍なく染み込んだ鞄を彼らに掲げて有無を言わさず二人を黙らせた。それでよろしい。でもぶつかりかけただけじゃ、やっぱりドジなんて言えないよ。
「それで、俺はそいつに謝ったんだが、そいつの隣にいた奴がなんか変な奴で、ネチネチ面倒だったんだよ」
「変な奴?」
その時のことを思い出したのか、苦虫を噛んでいる新垣君の顔色を見て、何の興味が湧いたのか春奈ちゃんが執拗に彼に尋ねている。
彼女に半ば引き気味ながらも、新垣君は頭を掻きながら記憶をたどっていって、私たちにこう語ってくれた。
「例えて言うなら、特撮アクション映画に仮面被って出てきそうな暑苦しい雰囲気醸し出して、口調も変な奴だったし…… ああ、あとその女子にハリセンで脳天ぶっ叩かれてたな。よく分かんねえけど、本当朝から災難だった」
この人はただ顔見知っただけのその人たちに一体何の恨みでもあるのかっていうくらい、その人たちに対して失礼極まりない言葉を吐いている。
「それにしても……… やっぱちょっと臭うな……」
「まりやちゃん、着替えとか持ってきてないの?」
二人がそう口を揃えて聞いてくるけど、今日は体育がないので体操着などの替えは何ひとつ持ち合わせてはいません。
彼らに言えば、二人は揃って一斉に私のもとから後退っていった。……何これ、ちょっと酷くない?言っておきますけど、汚いマンホールに頭から落ちて、現在進行形でそのくっさい臭いを間近で嗅いでいる私の方がずっと辛いんだからね!!
そう言葉にならない心の叫びを上げているところに、すぐ後ろで物音がした。
「…………また君か、ドジっ娘」
教室のみんなの視線を集めたそこにはなんと、我らが並盛中学校の頂点に君臨していらっしゃる最恐風紀委員長の雲雀さんが、朝から不機嫌なオーラを漂わせて私のすぐ後ろに立っていた。つまり、彼の視線の先には私がいて、もちろん獰猛な目をした彼とバッチリ目が合いました。
「な、なんで雲雀さんがここにッ…!?」
ちなみに、"ドジっ娘"とは私のことです。彼の前では度々ドジをして難を逃れていると、彼からはいつしかそう呼ばれるようになりました。別に全然嬉しくないけど。むしろ一番の興味対象物にされて、毎日牙で襲われないかヒヤヒヤしております。しかもこんな時に限って雲雀さんが態々教室までやって来るなんて、今日は初めて会うのにまた何を自覚なしにしでかしたんだ、私ッ!?
「学校の廊下中泥だらけになっていると連絡が入ったから、その泥をたどって来てみればここにたどり着いたワケだよ。それより、これは風紀委員会への申請なる果たし状と受け取っていいんだよね?」
違います違います。完全にあなたの誤解ですから、その懐から黒光りしているトンファーをいますぐお仕舞いください。
「ねぇ、雲雀さんまた来てる………」
「見ろよ、あいつ雲雀さんとあんな慕し気に話してるぞ」
「どうやら雲雀さんのお気に入りらしいぜ」
「えっ、それってあの二人つまり………」
「へぇ…… 不良の頂点に君臨する最恐の風紀委員長に、人類の希少価値である最大級萌え要素のドジっ娘ね。……なかなかお似合いじゃない」
「……………噂って怖ぇー……」
今日は特に外野がうるさいようで、せめて本人たちには聞こえないようにする配慮はしなさいよ!だから全部丸聞こえなんだって!
全く成長のない周りの野次たちに、さらに拡散していく噂にももう耐えかねて、私はいくらかトーンを落とした声で雲雀さんに話しかける。
「雲雀さん、ひとまず場所を移しませんか?」
「嫌だね」
「いや、即答ですか!?なんで!?」
「君が動くと泥が垂れる。だからそこから一ミリたりとも動くんじゃないよ。またその泥で僕の校舎を汚したら、咬み殺すのに容赦はしないよ」
い、今まであなたが加減してきたことが果たしてあるのですか!?毎回毎回、無鉄砲にその牙振り回してくるくせにぃぃぃ!!
「…………ていうか、臭いよ、君。まずその臭いをどうにかしなよ」
動くなと言えば次は無茶振り!?動けないのにどうしろっていうの!?
でも、臭さがこの時は役に立ったようで、雲雀さんは私に手が出せないでいるようだ。自分の牙に臭いが付くのに抵抗があるようで、まさか臭さに身を守られるとは思ってもみなかったけれど、結果オーライだった。
臭い私に手が出せないままでいる雲雀さんは、このままでは埒が明かないと思ったんだろう。今回も諦めたようにトンファーを仕舞って、すると風紀委員たちを呼んで総勢で廊下一面に新聞紙を敷かせていた。これなら確かに歩いて泥が落ちたとしても心配いらないけれど…… ここまで大袈裟にやることかなぁ。こんなことで風紀委員の皆さんにはまた迷惑をかけてしまったようで、すごく申し訳なかった。
女子更衣室にあるシャワーで体中の泥を落として、雲雀さんからは風紀委員会の学ランを借りて着替えると、私は制服が乾くまでの間、応接室にて待機することになりました。
学ランを借りたのはいいのだけど、男物でちょっとぶかぶかなのが気になるところ。それに袖にはなぜか風紀の腕章付きだし。私は別に風紀委員ではないので、雲雀さんに断りを入れて外そうとしたら彼からは「取るな」とこの日一番の殺気を帯びて暗に目で言われた。腕章はこだわりだったのか……。
学ランを借りたことで、そのお礼というか、彼からいつも通り雑用を任されてしまった私は、頼まれたお茶を書類整理に追われている雲雀さんにそっと差し出すと、湯呑みを受け取った雲雀さんはふとこう漏らした。
「ああ、そうそう。ついでとして言っておくけど、君は補習組だから、明日からのゴールデンウィークには学校に来ること」
「はいはい、補習ですか。明日も学校に行けばいいんですね。分かりましたよ、って何ですって!?」
あまりにも会話の中に溶け込んでいたので、ついそのまま流されかけてしまった。
気を取り直して、私は悠然と湯呑みを啜っている雲雀さんに詰め寄っていく。
「なななんでゴールデンウィークに補習なんかがあるんですか!?説明してください!」
「知り合いに頼まれてね。僕としても、長期休暇に浮かれた草食動物たちの群れが並盛をうろつくのは好ましくないからね。そこで、先日のテストで赤点を取った者をゴールデンウィーク期間中補習に来るよう仕向けたのさ。もちろん君もだよ、ドジっ娘」
………なんてことだ。なんでことを仕向けてくれたんですか、こんにゃろおぉぉッ!!
「い、嫌です!ゴールデンウィークには家族で故郷に帰って、地元の友達とも会う約束だってしているのにっ…… 補習になんて行きたくありません!」
涙ながらに懇願する私に、しかし鬼の風紀委員長様は冷たく現実を突き返してきた。
「学生の本分である勉学を怠った君の自業自得だよ。諦めるんだね。
だけど、それでも補習に行きたくないと言うのなら、君の家にまで僕が直々に咬み殺しに行ってあげるよ」
…………逃げ道は絶たれた。こうして、私の補習行きが確定した。