クラスメイトKがドジっ娘の世界にて大暴れ!? 作:ちびっこ&ひばりの
ゴールデンウィークに登校してくるのは、きっと誰の目から見ても如何わしい姿なんでしょうね。
事情を知らない者から見れば、休日にも構わず学校の指定制服を身に纏った私の姿はまさに奇怪、風変わりなことでしょう。下手をすれば"愛校家"なんて誤解されかねないわ。
だけど、そうと理解していているにも拘らず、私はいつもの通学路を経て、普段より人気の薄まった並盛中学校へと赴いていた。
自己紹介が遅れたわ。私の名は東山春奈、ここ並盛中学校に在籍する生徒の一人よ。
ゴールデンウィークも差し詰め、風紀委員会の意向で半強制的に補習者が集うここ並中に、どうして私がやって来たのか。
先に断っておくと、私は今回の補習へ参加する義理はもとよりないわよ。
この補習には、テストで赤点を取った生徒が参加せざるを得ない。つまり、テストでオール三桁を得ている私には無縁の話なのよ。
じゃあどうしてここにいるのかって冒頭の呈示に戻るのだけど、その理由は大きくふたつ。
私は、私の最も尊敬する人物から、とある重要任務を託されたの。
その人の名は、幼い頃から何度もお父様の口から聞かされていた。
解くことは絶対に不可能だとされていた難問を、その幼い頭脳を以て全て解き明かし、学界に大きな波紋を呼んだ幻の天才数学者の赤ん坊――彼の名はボリーン博士。
ゴールデンウィークも半ば、自室に籠って愛読している昆虫学の図鑑に目を通していると、暗い部屋に突如としてスポットライトが当てられ、写真で唯一見たことがある彼の姿がそこにはあった。
私が唖然とスポットライトに照らされ光り輝く彼の姿を眺めていると、彼はゆっくりと私へ語りかけるように、おもむろにその小さな口を開いて告げた。
――東山春奈。お前のその聡明な頭脳を活かし、沢田綱吉を立派な社会の大人へと成長させるための手助けをしてあげなさい。
まさに感慨無量の計り知れない思いを、この時身を以て感じたわ。
お父様の影響とはいえ、私が唯一敬うようになった偉大なるお方。そんな彼からの賛美の言葉には、さすがの私も畏れ多いと思った。それはもう、床に居住まいを正して深々と腰を折りそうなほど。
そんな人物からの直々の頼み事を、私が断るハズがないわ。結局居住まいを正して、彼に丁重に承諾の旨を伝えた。
私の返事に一度深く頷いてくれた彼は、私へと一冊の黒いノートを手渡し、気がつけば暗い部屋に忽然といなくなっていた。
私は一度自身を落ち着かせるため深い息を吐き出して、あの方から託された一冊の黒いノートを手がかりに、任務の内容――沢田綱吉の育成計画を立案するため机に向かっていった。
校内に入ると、私は目的のクラスへ直行する足を一旦は返して、自分の教室へと向かう。
私のクラスは一年A組、そこには残念ながら赤点を取って補習へと強制参加させられている私の
中学に上がって出来た友達、花内まりやちゃん。彼女、実は重度のドジ体質なのよね。彼女も自身の体質には散々振り回されていて、度々そのことに悪態を吐いている始末。
しかし、私はそうは思わない。むしろ、こんなに典型的でパーフェクトなまでのドジ体質は、二次元における萌え要素には欠かせないものなの。
別にオタクというワケではないんだけど、ここまで華麗で見事なドジっぷりを魅せてくれる彼女に、私は気づけばハマり込んでしまっていた。
私が
だけど、私が朝に顔を出しに来た時にはまだ彼女の姿はなく、代わりにどうでもいいあいつの寝顔が机の上に転がってあったから、ついでに写メって教室を後にしていった。
ついにたどり着いた二年A組の教室は、特に何の変哲もなく、固く閉ざされた扉が視界に映る。
特に躊躇うこともなく、私は豪快にそのドアを開けて第一声を上げた。
「全員ちゃんといるかしら?じゃあ席に着いてー」
私が来る前はあちこちで騒がしくしていた声が、ピタリと止んで視線を一線へと集める。そこにはもちろん、扉の前で佇む私の姿があった。
補習生たちは私の登場に困惑気味でいたけれど、徐々に状況を理解してくれたのか各々の席に着いてくれた。それを合図に、私も教壇へと立ち、ひとまず確認のため出席を取る。
今回キーマンとなる沢田綱吉は、周りと同然にオロオロした様子で席に着いていた。ちゃんと出席してくれていたので、内心で密かにホッと息を吐く。
室内にチラチラと窺える混乱を抑えるために、私はキリリッと普段は掛けない縁なし眼鏡を掛け直し、全体に響く声で高らかに自己紹介をさせてもらった。
「今日は特別監督生として、君たちの補習の授業を担当させてもらうことになった、東山春奈です。今日だけは先輩後輩関係なく、君らの担当講師としてビシバシやらせてもらうから、甘く見ないように」
「って、なんでオレを指して言ったのー!?」
眼鏡と一緒にこの日のために用意しておいた指示棒を、肩慣らしついでに沢田綱吉へと向けて使ってみたら、思いの外新鮮なツッコミを返されたわ。いつもはサッカー馬鹿くらいしかツッコミがいないからかしら。
「フフッ、そんな元気があるのも今のうちよ。私は今回、ある方からの命を受けて、特別レッスンを君たちに受けてもらうことになっているの。普通の教科書なんかで満足しないように、心の準備を整えておきなさい!」
「いや…… だから、なんでオレをガン見して言うんだよー!?」
フフフ、なかなか面白いわね。ダメツナこと沢田綱吉。どこかの馬鹿よりツッコミの線があるかもしれないわ。
―――と、話がだいぶ逸れてきたから、ここで戻すことにしましょう。
あの方からいただいた大事なノートを教卓の上に広げて、始業のチャイムと共に授業を始める。
「手始めに、世間の大人とはどんなものと認識しているのかしら。獄寺隼人」
「はぁ?」
堂々と机に足をかけているのがクラスの中でも目立つ彼に、回答権を与えてみる。
「当てられたら答えなさい」
「………打倒、根絶やしにしてえ奴ら」
「この人、世間に喧嘩売ってるー!?」
案外素直に答えてくれたわね。もっとつっかかってくるかと予想していたんだけど、手っ取り早いからまぁいいわ。それにあともう一人くらい当てておきましょうか。
「では、次は山本武。あなたは大人になるにはどうすればいいと思う?」
「ん?オレ?」
当てられた後はしばらく唸り、そして思いついたように拳の手を叩いた。
「みんなで牛乳飲めばいいんじゃね?」
「ただ身長が伸びればいいってもんじゃないからッ!山本!!」
山本武、データ通りの天然ぶりね。いや、もしかしたらそれ以上…… 自然なボケがこんなにも恐ろしいものとは知らなかったわ。
でも、どちらも私が求めている答えとは違った。
「二人共、なかなかのセンスある回答だったわ。だけど、今の劣等化が進む日本社会に生き残るためには、普通の常識なんかで戦ってはダメ。一回りも二回りも先を見通すことが成功への鍵なのよ」
バンッと思いっきり後ろの黒板を叩き、その拳にありったけの熱意を込めて全体に言い放つ。
「そう!今の時代は下剋上!上の者に下が力づくで勝ち取る時代!日本が何千年もの歴史の中で最も栄えた江戸の時代に習い、己の武力を高めることが成功への絶対条件なのよ!!」
「絶ッ対、ウソクセェーー!!」
フフフッ……… 沢田綱吉、私の手であなたを必ずやトップクラスの有力者に育て上げてやるわ。だってそれが、あの方の本望なのだから。
「それにはまず、基礎知識から順々に覚えていく必要があるわ。何事にも備えあれば憂いなしというもの。というワケで、今から黒板に書いてある相手を踏み躙るのに適する武器の粗方を紹介していくわ」
「この人なんか超おっかねえぇぇッ!!ていうか、そんなものいつの間に書いたのーッ!?」
ツッコミを入れ続ける沢田綱吉を余所に、私は有言実行そのままに粗方を紹介していく。時折様子を見て、授業を聞いていない粗末な輩には注意を促していたのだけれど、まさかこいつが乗り込んでくるとは計算外だった。
「春奈あああぁぁぁぁ!!」
チッ。思わず内心で舌打ちしてしまったじゃない。
突如授業に乱入してきた腐れ縁の燕太をつい反射で一睨み、その後は笑顔で彼に対応していく。
「つーか、なんなんだよコレッ!?どういう当てつけだ!」
そう叫んで私の眼前に掲げたのは、今朝撮ってきたばかりの燕太の寝顔画像だった。ちなみに加工済みの、プリクラのようにプリチーな仕上がりになっているもの。
「あら、自分の顔も見て分からないの?なかなかよく撮れていると思うわよ」
「あのな、もうお前が散々俺にしてきたことは分かっているからもう口は噤んでやるからな、今すぐ出てけ。こんのクソ変人伊達眼鏡野郎」
そうドアを指差しては、私の退場を促してくる。
ああ、もうめんどいな。こんなことになるなら画像なんて送るんじゃなかったわ。ちょっとした出来心で、補習をサボるあいつに喝をひとつ入れようと思ったのだけど、これじゃ逆効果のようね。
そんな私たちが、お互い全く引かずに言い合い続けていると、そこにまた別の声が降ってきた。
「君たち、何してるの」
その一声に、誰もが息を止めたように室内は途端に静寂へと化す。一瞬の息苦しさの後、私はおもむろに顔を上げ、この状況を作り出したやり手の人物へと視線を向けた。
開かれた扉の前に佇み、いつもの学ランではなく並中指定のベストを着込んで、こちらを蔑むような鋭い瞳で睨む人物――――雲雀恭弥。ここ並盛中学風紀委員長にして、最恐の不良生徒。その実力や顔は並盛全体で公認のほどで、下手に関われば彼の持つ牙で滅多打ちは免れない。
今の私は私情ではなく、あの方の計らいでここにいてこうしている。あの方の指示なしで、安易に彼に近づくことは許されないでしょう。
いくら目の前に魅力的な果実があっても、無闇に食べたりなんてしたら毒で呆気なく逝ってしまいかねない。ここは惜しいけど、グッと堪えるしかないわ。
「いいえ、補習授業を行っていただけです」
「君は…… 補習生ではないね。どこのクラスか知らないけど、僕の許可なしで学校をうろつくのはやめてくれない。咬み殺すよ」
うほぉぉ!キタキタッ、咬み殺すよキター!生で雲雀恭弥の脅し文句があぁぁ!!あぁああ、でもせめて録音しておけばよかったあぁぁ!!
「ッ――……… 私は、ある方から依頼を受けて来ました。赤ん坊、と言えば分かるかしら?」
「赤ん坊の…? ………ふうん、風紀は乱さないでよね」
咬み殺されないってことは、無事に許可は降りたようね。
密かに安堵する中、雲雀恭弥がふと私の隣を睨み据える。
「けど、君はここのクラスではないハズだよ。新垣燕太……… 補習をサボる輩には、容赦なく制裁を加えさせてもらうよ」
すると、今度は燕太に向かって、雲雀恭弥が牙を突き立てている。チラリと盗み見てみては、燕太はにわかに青い顔をして口元を引くつかせている。
ハァ…… こいつを助けるのは癪だけど、私が写メを送ったからこいつが来てしまったんだし、こいつが咬み殺された原因に砂一粒でも含まれるなんてたまったものじゃないわ。
「燕太、そういえばまりやちゃんとは一緒じゃないの?」
「花内か?」
私がいきなりここにはいない彼女の名を挙げたので、燕太は半ば素っ頓狂な顔でこちらを覗いてくる。
「あんた、写メを見て後先考えずに教室飛び出して来たんでしょ。まりやちゃん、あんたのことを気にして、きっと今頃校内中を探し回っているんじゃないかしら?」
私はそう燕太にではなく、雲雀恭弥に目を向けてポツンと呟いてみせる。
すると、雲雀恭弥に変化が見られた。
「――……君、今日は特別に見逃しておいてあげる。じゃあね」
燕太に向かって早口にそう告げると、すぐに踵を返して雲雀恭弥は去って行った。
雲雀恭弥が去って行く姿を、燕太は呆然としながらも、九死に一生を得た表情で見ている。対に私は、上手く彼を誘導できたことに、満足気ににんまりと微笑んでいた。