ハジケリスト世代だろ! (完結)   作:零課

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 ある意味では前世というかウマソウルの里帰りが出来たケイジ。前田牧場のある場所はケイジ達の別荘とかがあります。それ以外はケイジ達がお参りしていた神社はそのまま。


ウマ娘エピソード 外伝プロジェクトl'arc ケイジ記念(GⅠ)

 北海道での合宿をこなしていますが、ここでは一つ大事な勝負、私たちの課題が出来てしまいました。

 

 

 「じゃあ、皆さん恨みっこなしですからね」

 

 

 「もちろんでさぁ。キタサンのお嬢」

 

 

 「私も負けませんから」

 

 

 「よーし、それじゃあーみんないいねー?」

 

 

 その勝負は毎日行われていて日々の練習より気合が入ることも。

 

 

 「「「「最初はグー! じゃんけんポン!!」」」」

 

 

 「「「「あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょっ! しょっ、しょっ!!」」」」

 

 

 「いやったー♪ 私の勝ち―!」

 

 

 「今日は幸子の姉御の勝利かあ~」

 

 

 「くぅー残念!」

 

 

 「角煮はまた明日ですねー」

 

 

 「じゃー今日の晩飯は鹿肉のステーキとジャガバターに蒸し野菜、玉ねぎの味噌汁だな。明日はくじ引きで決めるから、晩飯の際にリクエスト書いてけ」

 

 

 幸子さんが仕留めた獣肉を使ったケイジさんのジビエ料理。献立を自由に決められるけどみんなでどれを決めるかでじゃんけんやトランプ、くじ引きにあみだで食べたいものを狙う日々。

 

 

 「イノシシの頭の肉で作った猪肉カレーと、脳みそ焼きとかも考えているからその際は酒も用意するか―白子みたいな味するし」

 

 

 「角煮もお酒が進むから注意よねーご飯の上にのせて食べるのも♪」

 

 

 「私もあの角煮丼がもう病みつきで。野菜たっぷりなのにあのジャンクで美味しい味わいが・・・ワイルドです」

 

 

 「サトちゃんすっかりイノシシ肉の虜だね。私は鹿肉のステーキもいいけど、イノシシのタンがすっごく・・・」

 

 

 「あれとハツは猟師の特権だからね。すぐには用意できないわ。さーさー午後の一走り。私も付き合うから二人ともファイトよ?」

 

 

 「じゃあ野郎たちは整備と掃除でもしてきやすので」

 

 

 東北興進産業から派遣されている雑用の皆さんに、トンデモ身体能力の幸子さんとここ北海道に来てもトレーニングの質は落ちずに楽しく過ごせています。

 

 

 「さてと・・・そろそろキタちゃんはアメリカで戦うことになるからなぁ。体の仕上がりには問題ないが、あっちに合わせたメンバー同士で鍛えたほうがいい。ヒ・・じゃねえ。マエダノキズナが迎えつつぼちぼちアメリカに行くからそっちで総仕上げだな。

 

 

 アメリカでもビリーのおっちゃんとドリームシアターもいるし、うちのホテルの支店に話しを通しているから逃げの練習と感覚を練習してこい」

 

 

 「先行、逃げの高速レース本場アメリカ。そこでのBCレースも取ってくるよう頑張ってきます!」

 

 

 「おお、アメリカのレースはエキシビジョン以外はアタシも取っていないタイトルだ。とれりゃスピカ的にも凄い功績だぜ? で、サトちゃんだが今後は差しを想定した練習ってことで80メートル離れた先のキタちゃんを捕まえるように走る。前に幸子と2分以上併走ね。その後にもキレる脚を残すのが目標」

 

 

 「ハイ!」

 

 

 「一応経験済みとはいえ、昨年のケイジ記念と今回のケイジ記念はきっとサトちゃんには違うものに感じるだろうしな。とことんスタミナと根性で足を残したうえでぶっ放せ。それがアタシやキタちゃんら逃げでレースを作る面々はプレッシャーになる」

 

 

 「もちろん。凱旋門賞を穿つつもりで挑んでいるんです。ケイジ記念で躓くわけにはいきませんから!」

 

 

 「いい心がけ。そんくらいがいい。アタシのGⅠなんぞテスト、ステップレースぐらいでちょうどいいんだ。ただ、200メートルの差を改めて気を付けて」

 

 

 ケイジさんはそういうが、世界中から今年の秋の大レースの前に勢いをつける。あるいは挑むための実績を積むための切符獲得のために実力者たちが集う真夏のワールドチャンピオンレース。そこで凱旋門賞を狙って挑む私にとって2400以上に長い2600。その200メートルの消耗を気にせずに、欧州と同じ芝でどこまでやれるか。

 

 

 何度も分かっていて、確認しているけど日が近づくたびにその距離の違い、国の違いを意識してしまう。

 

 

 

 「じゃ、固い話は置いて、今は軽い身一つで走って練習練習♪ さー腹ごなしのひとっ走り。負けないわよサトちゃん♡ キタちゃんも追い抜いちゃうかもね」

 

 

 「幸子さん、キタちゃんもお願いします。油断していればあっという間にさくっと追い抜いちゃいますから」

 

 

 「私もBCクラシックが控えているしね。負けないよサトちゃん」

 

 

 「ふふふ。熱いわねー二人とも。互いの健闘と勝利のためにゴーゴー!」

 

 

 そういって幸子さんは背中を叩きつつも心配せずに今は走って楽しみましょうと励ましてくれました。今日の練習もとても楽しく美味しいごはん。ジビエ料理と北海道の幸を味わいつつ快適なホテルでの休息とケア。満たされた日々だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ケイジ。今日は近くの神社で祭りをするようよ」

 

 

 「おーそういや今日は夏祭りか。ちょうどいいや。今日はチートデイと休暇にして。アタシがいると嫌でもレースを意識しちまうだろうし、小遣いやるからサトちゃん連れ出しといて」

 

 

 「ケイジはいいの?」

 

 

 「今思い出したけどあの神社の夏祭りってあの祭りじゃねーか。ぶっちゃけ踊って騒いでやりたいが、そうなるとサトちゃん付き合わせるからなあ。この祭りは我慢して本番の祭りではしゃげるようにしておく」

 

 

 「丸くなったわねえケイジも。というよりは、今は後輩のため。か。ケイジが主役じゃないしね。今年挑む場所は。わお小遣いたっぷり。じゃ、あのハジケ令嬢連れ出してくるわー」

 

 

 「頼む―キタちゃんもアメリカに行ったし、ちょっと寂しいかもだし息抜きも兼ねてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「にぎやかですねー」

 

 

 「でしょ? ここは三女神以外のウマ娘の加護をつかさどる神様を奉る神社だからね。北海道だとそこそこ有名な場所なの」

 

 

 「あ、牛串にシーフード焼きそば食べていいですか?」

 

 

 幸子さんに連れ出されてきたのは神社でのお祭り。屋台の食事もジュースもおやつも好きに食べていいということで早速屋台の料理を食べ歩きです。

 

 

 「ふふふ。あー美味し♪ ケイジの料理もおいしいけど、屋台で味わうのもまた別格。あ、おっちゃんビール一杯頂戴」

 

 

 「アイよ幸子ちゃん。ケイジの嬢ちゃんは来ていないのかい?」

 

 

 「ケイジはレースの用意で忙しいみたいよーあっちの祭り、レースで応援してあげて。ほれ、チケット代稼ぐってことでホットドッグも持ち帰り分買うから」

 

 

 「毎度。この祭りで熊殺しをしたコンビが見たかったがそれならそうしようか。ダイヤちゃんにもサービスで1本ね」

 

 

 屋台のおじさんから大量のホットドッグと大きな紙ジョッキに注がれたビールを美味しそうに飲みながら談笑を挟む幸子さん。熊殺し? あ、もしかして。

 

 

 「ありがとうございます。はむ・・・んー♪ ふえ? ここの神社ってもしかしてケイジさんがクラシック期の休暇で暴れたあの場所です?」

 

 

 「そうよ~あの時は胆が冷えたけど、もう笑い話。いやあの騒ぎの最後はそうだったわね」

 

 

 「いやー動画を何べんも見たけど、生のあの迫力はすごかった。蓮君、幸子ちゃん、ケイジちゃんが子供を守るために2メートル越えのヒグマに立ち向かっていった雄姿は」

 

 

 「蓮は子供を守って避難してくれたからいいけど、ケイジはヒグマをパンチでふっ飛ばして、組みあった挙句に力で勝って飛び蹴りで頭部を一部ふっ飛ばすライフルみたいな蹴りを見せた時はもう驚くを通り越して変な笑いが出たわよ」

 

 

 「幸子ちゃんもエアガンとマスタードでヒグマの鼻と目を潰しつつ接近戦をしていた時は怖かったよ」

 

 

 「いやまあ、猟師だしねえ私。あの頃は猟銃免許もまだなかったから槍とかナイフを使って即席投げ槍で罠にかかったイノシシとか熊を仕留めないとだったから」

 

 

 当時全国ニュースになって動画の再生も億を優に超えたあの動画の当事者。蓮さんは今や日本最強格と言われるほどの俊足、安打、堅守のプロ野球選手。幸子さんはホテルにもジビエ肉を卸しているプロの猟師。ケイジさんは言わずもがな世界最強、歴史的記録を手にしたウマ娘。

 

 

 「改めて、皆さん凄いことしていたんですよねえ」

 

 

 「ん? まあー私も昔馴染みで夢を語っていた友達たちが夢をかなえてテレビやニュースでよく見る顔になっているのは驚いているわー、そして、その弟子がこうして頑張っているのもね」

 

 

 「もしかしたらこの祭りの賑わいもケイジさんたちの騒ぎの場所をめぐる意味もあるのかもしれませんね。ケイジ記念の前に、えーと。いわゆる聖地巡礼?」

 

 

 「アニメの舞台をファンの人が巡るあれね。ふふふ。それで村がにぎわう、祭りが楽しくなるのは万々歳。ついでにここの前田ホテルに泊まってくれれば私の方にもジビエの依頼も増えて害獣退治で儲かるから気合も入るってね」

 

 

 犬のようにホットドッグや焼きそばを食べ歩きながら嬉しそうに語る幸子さんと屋台を回り、土産を買い込む中でふと見た顔が。

 

 

 「いやー! この出来はいいな! クマとケイジの戦いを描いた絵巻風のタオルに退治の一部始終と神社の情報をまとめた映像まで。これも買っておこう。おお、これはイノシシの牙で作ったキーホルダーと。普通の屋台では見れないものが目白押しだねえ」

 

 

 「あれ? メイさん?」

 

 

 「サトノダイヤモンド。君も今日はここで羽休めかい? そして隣の女性は・・・幸子さんだね?」

 

 

 「はい。ケイジさんが今日は休みだって」

 

 

 メイさんが買い込んだものをカバンに詰めつつチュロスを食べていた姿が。声をかけてみれば幸子さんにもすぐ気づき笑顔を見せて歩いてきました。

 

 

 「あー確かシンボリ家と縁の深いトレセン職員さんだっけ? ケイジが言っていたわねえ。なんか関わって以降シンボリの親戚筋の見合い写真が増えたからその写真まとめて焼き芋の薪にしたって」

 

 

 「それ、いいんですか?」

 

 

 「い、いきなりご挨拶だなあ・・・それと何をしているんだケイジは」

 

 

 「いやまあ、ケイジ昔っから婚姻で縛り付けようとするの大嫌いだし。なんならシンザンおばあさんもキ・・・ヒサトモ曾祖母さんも金目当て、コネ目当てでケイジに送りつける野郎、女問わず見合い写真は焼き芋の薪にしていたから。下手するとシンボリのおじいさん達に雷を落としに行くんじゃない? シンザンおばあさん」

 

 

 道理でケイジさんほどの実力者、美貌と実績持ちの人に浮いた話、熱愛報道とかの三流ゴシップ記事もないわけです。そもそも一族揃ってまともな考えで来ない輩は断っていると。

 

 

 それに関してはメイさんもひきつった笑顔になりますがシンザンさんが怒ると聞けば顔が青く。最強の戦士。三冠ウマ娘にして前田グループ現会長となれば流石に色々と昔の恩と、関りもあるのでしょうか。

 

 

 ・・・うちのお父様にも一応連絡しておくべきでしょうか? こういうジンクス破りを挑ませて前田家の怒りを買うのは流石に避けたいですし。下手すれば王族、皇族からも何か来そうで。

 

 

 「むぅ・・・今後は気を付けるよう言っておくよ。シンボリ家としても前田家のより強固なつながりは欲しいとはいえ流石に度が過ぎたというべきか」

 

 

 「メジロ家位フランクに関わりつつ仲良しの方がいいし、色恋のあれこれはケイジが決めたいでしょうしね。いくら一族4代クラシックレース制覇。内ダービー制覇3回、三冠2回、無敗の四冠1回とアスリートとしても怪物一族と言えどもねえ。

 

 

 ああ、話は変わりますがメイさんはケイジ記念の前の視察で?」

 

 

 「ああ、その通りだ。まさかここで模擬レース場を作り上げて練習をしているとは度肝を抜かれているよ。今回はチームシリウス、しかもケイジにトレーナーを任せてスピカの方も様子見で指導を抑えてみたが送られてくるデータにUAEダービー制覇と実績も見せた。

 

 

 そのノウハウを直に見るため、次のレースにどう挑むかをぜひ見たくってね。本当に彼女のやり方もだが、ついてこれるサトノダイヤモンド。君もサトノ家の至宝と言わしめるのも納得だ。

 

 

 ケイジ記念も励んでくれ。ここを勝てばまた遠征で疲れるだろうがそこが最大の目標になるはずだ」

 

 

 「ありがとうございます! 私も勿論やり切ってみせますので。でも、今はこの美味しいりんご飴やじゃがばたを味わいたいです~」

 

 

 なるほど。すっかり忘れていましたが私が参加していたプロジェクトは海外遠征のノウハウと実績をつかむためのもので今回は私一人に集中して挑むもの。そのレースも残り二つ。どれもGⅠなので視察に来るのも当然と。

 

 

 けど今はお休みです。この祭りを楽しんで、祭りならではの味に空気を楽しみたいです。

 

 

 幸子さんもうんうんと頷き、メイさんも朗らかに笑います。

 

 

 「いいことだ。弓の弦も常に張り詰めては緩んでいざという時に鋭く強い矢を射かけることはできない。今日は休みをたっぷりと楽しんでレースに挑んでほしい。あ、私も前田ホテルにいるので何かあれば声をかけてくれ。あ、それとさっき見たあの屋台は面白かったぞ。地元のストラップなどだが中々に珍しい物ばかりで」

 

 

 「それ多分私のお父さんの屋台ね。解体したイノシシの牙とか、クマの胆とかケイジ記念応援ってことでこの季節は毎年オリジナルグッズを作っているのよ。ちゃんと許可は取って。

 

 

 私の方はヤマドリのはく製とか羽飾り。秋の祭りの方ではジビエ肉入りの立ち食いソバとかも作るからまた来てね♪」

 

 

 「ヤマドリ?」

 

 

 「山の中に住んでいる鳥なんだけど、ジビエの鶏肉の中でもかなり美味しいのよ。癖も少ないから家畜の鶏肉に負けないから炊き込みご飯に入れて食べても良し、関東風蕎麦に入れて鳩肉と一緒にそれぞれの味を堪能してもいいわ。ふふふ。サトノ家も今度機会があるならおいで。私が多めに仕留めておいてあげるからね」

 

 

 「ほほぉ・・・是非!」

 

 

 メイさんとは互いに屋台巡りで分かれつつ幸子さんには秋の大レースの合間に余裕があればジビエ料理作ってくれるということで話はまとまり、大人になってレースも引退したらキジ肉の刺身にネズミ肉の塩焼きも用意してくれるという約束を取り付けて祭りを満喫して今日の祭りは終わりました。

 

 

 ケイジさんはお土産の量に笑いつつ酒を傾けて嬉しそうに食べてくれたのが何より印象的です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「暑いですねえ。北海道も」

 

 

 「全くだ。早いところレース場に入ろう」

 

 

 「しっかし、早めにホテルに泊まれてよかったよ。なんだいこのこの混みようは」

 

 

 今回のケイジ記念も特別招待枠ということで中川が貰ったチケットと宿泊券でケイジ記念に来たが、東京から遠く北の北海道に来てもこの暑さとは。日本どこもこの暑さは参るってものだ。

 

 

 「ケイジ記念の人気は年々上がり続けているのと、何より欧州二冠三連覇のケイジの名前を冠したレース。そのレースを制したキタサンブラックが凱旋門賞制覇。そして5年連続日本により凱旋門賞制覇記録をかけて挑むのはサトノダイヤモンドですからね。記録もですし、海外に挑む前のステップレースのゲン担ぎとしても凄いんですよ」

 

 

 「おかげで毎年各国のテレビ中継が増え続けているからなあ。見ろ。あっちはオーストラリアであっちはイタリア、フィンランドにアルゼンチンのテレビ局だ。100年を超える世界最高峰の凱旋門賞でも同じ国のウマ娘が、しかも日本が5年連続制覇なるか、日本トレセン学園のプロジェクトの実績を見ようと躍起になっている」

 

 

 「この暑さと混雑は決してこの夏だけじゃないってことか。道理でケイジがいつものふざけた顔じゃなくて侠客の顔を見せているわけだよ。この重圧を自分ならいざ知らず弟子に背負わせているんだし」

 

 

 纏の言う通りだろう。ライスシャワーの時もだったが、誰かのために全力を出すケイジだがこのレースに関しては一切の贔屓もできずにせめて実力をつけて送り出すのみ。自分の名前と実績がダイヤちゃんを守る盾ではなく重圧であり矛になりかねない。

 

 

 その中でどこまでやれるか。ダイヤちゃんの実力と才能、努力ならここまで行けると踏んでいた分今は少し心配をしているのかもしれないな。

 

 

 「ただまあ、それを踏まえてケイジが選んだ道だ。わしらはせめて客席から応援して、見届けてあげようじゃないか。それにこの暑さじゃあ早い所会場の影に入らないと倒れちまうよ」

 

 

 「だね。早く入らないと檸檬たちの土産も売り切れちまう」

 

 

 「僕はジュースを多めに買っておきますね」

 

 

 わしらも早いところ会場に入ろう。特等席以外にも空調やミストで可能な限り暑さ対策をしているとはいえそれでもこの暑さは毒だ。

 

 

 

 

 

 

 「ふーいつ来てもこの特等席は見やすいしサービスがいいな」

 

 

 「昼間から酒をひっかけるなよカンキチ。それと飲みすぎるなよ?」

 

 

 「いいじゃねえ―かせっかくの休みで祭りの舞台だ。ハメくらいはずさせろ」

 

 

 「先輩はいつもじゃないですか」

 

 

 みんなでそれぞれつまみとドリンク、グッズを買い込んで無事にエアコンの効いた特等席について一息つき早速酒を一杯。

 

 

 「うん。相変わらずいい味だ。部長の分も確保したし、グッズもある。後は幸子ちゃんからジビエをクール便で送ってもらえばあっちでも一杯やれるな」

 

 

 「大原部長、忙しくて無念の不参加でしたけどこれで喜んでくれるといいですねえ」

 

 

 「私も皆に頼まれて酒を買ったけど、飲む分と、期間限定で売るようだからねえ。全く。帰りが億劫だ・・・」

 

 

 三人でポテトや唐揚げとドリンクを飲んでいたらここまで響くひときわ大きな歓声、いや怒声と言っていい声と鳴り物が響く。

 

 

 「フレー! フレー! ダーイヤちゃん!!」

 

 

 「必勝必勝!! ダイヤちゃーん!!」

 

 

 「おっせーおせおせダーイーヤー!!!」

 

 

 声の咆哮を見るといかつい男たちが旗を振って太鼓を鳴らし、オカマたちが学ランをつけて応援するという奇妙な光景と、そのメンツを見て合点がいく。

 

 

 「な、なんだいあいつらは」

 

 

 「あー元関東男連合と16号の黒豹のメンバーで作った建築、農業、漁業の会社のメンツと、ケイジの友達のオカマたちだな。本田から話は聞いていたが凄いな。当時震災への復興ボランティアに参加したメンバー全員来ているんじゃないか?」

 

 

 「日本ダービーや有馬記念以上にすごい声があっちだけで聞こえていますよ。旗も横断幕も凄すぎる」

 

 

 ケイジの姿とふるまい、実績に脳みそ焼かれて、さらにライスシャワーちゃんの菊花賞の一件もあって男心に刺さる姉御肌のケイジの弟子の戦いだからなあ。その手伝いにと声をかけられたらそりゃあ応援にも来るか。

 

 

 オカマは・・・まああのオカマバーの連中だし、ケイジ記念には毎年来ているんだろうきっと。

 

 

 「あ、スーザンママもいる。本当にすごい集まりだねえ。絵面的な意味でも威圧感的な意味でも」

 

 

 「元はみ出し者、暴走族を軒並みそのふるまいで更生させてしまったからなあ。周りもその熱にあてられて熱狂でガラスが揺れるのももはやこの時期の札幌レース場は風物詩だ」

 

 

 「あ、そろそろ始まる時間ですよ」

 

 

 ケイジ記念の始まりはまずケイジの軽いセレモニーから始まる。その言葉を聞き逃すまいとあれほど騒がしかった会場がぴたりと静まり返ってケイジを待つ。毎年どこから現れるか、何をするかわからないケイジの登場に皆一番に見つけると、ワクワクしつつ目を皿のようにしていく中

 

 

 レース場の内部の芝、そこに立てられているケイジの銅像と看板。その看板が動いて銅像に当たったと思えばまるで看板が溶けるように色が抜け落ちて銅像に色がつき、それがギギギ・・・と音を立てて動く。

 

 

 会場がどよめく中、銅像が砕け飛び、中からケイジが現れる。

 

 

 「いよぉー! みんな待っていたかーい! このレースを!!」

 

 

 「「「オォオオオーー!!!」」」

 

 

 その登場に会場がわき、銅像もケイジがすり替わっていたはずがいつの間にやら戻っていて、砕けた銅像の破片をまとめて拾えばそれがケイジ記念の勝者に渡されるトロフィーに。

 

 

 「い~い返事だぁ! アタシも待っていたよぉーん。こんなアッツいなか、毎度季節変えろという声もあるけどよぉ」

 

 

 声が男の声に変わりつつ出てくる愚痴にみんな笑い、わしも笑いつつそうだそうだと纏と一緒に言う。

 

 

 「この季節に、この熱さ苦しさを越えて、なお挑んで勝利を、この次の勝利をつかみたいウマ娘たち、その姿こそがこのレースの華ってな! 改めてよーく来てくれた観客の皆! そしてレースに挑む暑いウマ娘たち! ケイジ記念ここに開催だ! あたしからトロフィー頂戴しに来いや!!」

 

 

 

 「「「イヤッホォオオー!!!」」」

 

 

 ケイジの啖呵に会場が揺れるように響いて、それに続くようにアナウンスがレースの開催、ウマ娘たちのパドックに移る。いつ見てもこの瞬間は心が躍る。

 

 

 『ではでは早速今回出走するメンバー紹介をします。1番ーーー』

 

 

 「さーてと、枠順の方は・・・ダイヤちゃんは4番か。確か得意なのは差しだったし悪くはないか」

 

 

 「怖いのはバ郡にのまれるくらいで、熱さに関してもここ数か月北海道で生活しているのと、ケイジ記念は経験者。1番人気になっていますね」

 

 

 

 『3番はフランスから来た新星ヴェニュスパーク。素晴らしい仕上がりとあいさつで我々を歓迎してくれます』

 

 

 「まあ、ケイジが直々に鍛えているってのもあるんだろうけど、でー・・・今年のアメリカトリプルクラウンを分け合ったメンバーの二人と、オーストラリアの長距離走者、香港の最強マイラーが来ているけど、ケイジが一番気にしていたのはヴェニュスパーク。か。カンキチ、中川さん。何か知っている?」

 

 

 あーあの子か。確か・・・

 

 

 「フランスの昨年デビューしてトリプルティアラ路線で走っている子だな。フランス期待の天才少女、ケイジに並ぶ器と言われているらしい」

 

 

 「僕の方でも耳に挟んでいますね。確か無敗のままここまで来て、しかもどれも圧倒的勝利。モンジューを師匠に持つこともあって師弟で日本に来た時は驚きましたよ」

 

 

 「ふーん。それでケイジ記念にはダイヤちゃんとぶつかると。なんというか、弟子同士がぶつかり合いも注目されていそうだね」

 

 

 纏の言う通り。あちこちでパンフレットに書かれているプロフィールとパドックでの仕上がりと可愛さにフランスから来たファンのみならず日本やみんなも素直に称賛と応援をしている。持っている雰囲気も普通じゃないのはこの猛者集まるケイジ記念でも抜けている。とは思う。

 

 

 「ただまあ、その弟子も海外メンバーに負け無しのケイジの弟子。こっちも期待はすごいぞ。そら来た」

 

 

 『続きまして4番サトノダイヤモンド。UAEダービー制覇、ここケイジ記念で師匠と親友に負けずに戦えるか期待の1番人気です』

 

 

 「ウォオォオー!! キターダイヤちゃーん!!」

 

 

 「いいぞ、いいぞー! 今日も輝いているよぉダイヤちゃーん!」

 

 

 「あはぁーん。可愛いわよぉ! そのまま勝ち抜いちゃってェーん!!」

 

 

 「お、来たか。相変わらずすごい袖と豪華な衣装だなあ」

 

 

 「本物のお嬢様は違うねえ。そしていい調子のようじゃないか。頑張れー! ダイヤちゃーん!」

 

 

 「いい感じに期待できそうな仕上がりですね。後は、どこまでやれるか。アメリカから4名、日本は4名、欧州からは6名。オーストラリアから2名、南米からは2名。前に出るレースもゆったりとしたレースどっちの本場からも比率が半分の割合ですよ」

 

 

 「ならまあ、団子にはならんだろうな」

 

 

 うーむ。中川の言う通り。前から後ろにとずらりと分かれた。これはレースも縦に伸びてしまうものになるかあ。ただ、そうなるとダイヤちゃんは差しだし抜け出して前に出やすいか?

 

 

 可能ならアメリカ、オーストラリアメンバーがレースペースを握ってもらって塊を作ってもらわないように願うほかない。そうなるとやはり問題はアメリカにはない2600という長距離とアメリカ、オーストラリアのレース場にはない坂を踏まえて速度を抑えるかどうかになりそうだなあ。

 

 

 三人でワイワイ話しつつ参加メンバーを見ているといよいよファンファーレがなってレース直前。パドックも終わりいよいよターフに立ったウマ娘たち。

 

 

 『さぁ! この札幌レース場に押し掛けた十万を超える皆様。いよいよウマ娘の皆さんがゲートに入ります。勝つのは日本か、世界か! 秋の大レースを見据えた大レースケイジ記念。世界中が注目す一戦!!

 

 

 最後にサトノダイヤモンドが入りました。・・・・・・・・・スタートです!』

 

 

 ゲートに入り、しばらくの静寂を置いてゲートが開いて走り出すウマ娘たち。それと同時にまた割れんばかりの歓声が押し出すようにウマ娘たちも前に出る。

 

 

 『まずは先頭を奪いましたセントジョン。ああっとそこに加わるはタマモロウリュ。日本、アメリカ勢が苛烈な先行争い。その後ろにミッシングウィットネス。オーストラリア勢が様子をうかがう。

 

 

 グイっと外から飛んでポジショニングを取るのはヴェニュスパーク! サトノダイヤモンドは後ろから様子を窺うようにしてスタンド前を通り第一コーナーに行きます』

 

 

 「アメリカ、日本勢のポジショニング争いはやや大人しいな。やっぱり未知の距離でのレースというのもあるか。今回のケイジ記念に挑むアメリカ、オーストラリア勢はこの距離は不慣れな分とりあえず前でペースを握る判断になったか?」

 

 

 「ミシェルマイベイビーのきたジャパンカップとか、サンデーサイレンスの挑んだクラシック三冠とかレース最初から接触衝突当たり前だったしねえ。それに比べれば接近は目立つが大人しいと」

 

 

 「先輩の言う通り長く伸びていきましたね」

 

 

 ホームで挑むレースの分日本は消耗が少なく、アメリカ勢の接触が少ないから気を揉まずに済んだ。ただそれを見つつ外から見るように走っているヴェニュスパーク。外からの先行策を最初からとは強気だなあ。

 

 

 ダイヤちゃんの方は顔色は良し。むしろこのくらいがいいと言ったところか。

 

 

 『さぁ最初のコーナーに最初に入るのはアメリカのデビルレイクバーマ。そこを追うようにシンボリエスプレッソ、タマモロウリュ、ミッシングウィットネス、セントジョンがポジショニング争いをしながら続く。そしてその外からはヴェニュスパークが徐々に追い上げていきます。

 

 

 長く伸びたバ郡はコーナーで大きな変化をせず。後方にサトノダイヤモンド、さらにベルギーのムーンミラージュ、イギリスからクラレントが様子をうかがう。そしてぐるっと回りつつ第二コーナーを曲がり向こう正面に向こう正面に入っていく!』

 

 

 「今のところはヴェニュスパーク以外は皆やや定位置についていけている。となると向こう正面についてからの仕掛け具合が見どころだな」

 

 

 「でもコーナーでの加速は減速しないと危ないんだろう? 第三コーナーで仕掛けていくってのは消耗も危ないんじゃないか?」

 

 

 「ええ。でもカーブがきつい内側ならまだしも外側からならカーブが緩く直線的に切り込めます。距離が長い分カーブを気にせずに走るか、内側を走って消耗を抑えつつ前をキープしていくか。アメリカだと基本前に出て出てとポジションを取りながら常に出続けるのでその優位性を保つのですが。

 

 

 欧州メンバーはその最後の切込みを仕掛けていくとしたら第三コーナーから加速しながら優位な場所をうかがうので先行勢はそれを防ぎつつ進路を取るために広がる可能性がある。だから一度チャンスを逃がす。仕掛けを間違えると加速も仕掛けもできずに沈む可能性があります」

 

 

 「そこからまたルートを再度模索しながら走る。しかもコーナーで外に膨らまないようにしながらとなると頭脳も精神も消耗もきついし、加速が鈍ればその分だけ直線で速度が出てもそのころにはゴールに届かず先に失礼されるか。だ。差し、追い込みはそれがシビアだがどうなるか・・・」

 

 

 ポジション争いも決着してそれぞれに脚をためつつ仕掛けを考えるかどうかというころあい。

 

 

 『向こう正面に出て半ばミッシングウィットネスが前に出た! そしてセントジョンも負けじと先頭を狙い出ていく! あーっと!! ヴェニュスパークが何と仕掛けていった! デビルレイクバーマを追い抜くようにグイグイ加速! シンボリラテ、タマモロウリュがアメリカ勢に続くように仕掛ける! ここで日本、アメリカ、オーストラリア勢に割り込んだヴェニュスパークが先頭を奪いリードしていく!!

 

 

 何ということでしょう! 欧州の新星が日本、アメリカのお株を奪うような先行からの逃げのようなスタイルで爆走! それに負けじと追走するという状態になりました!』

 

 

 会場もどよめきが走る。まさかの欧州の新鋭が、先行、先行よりの差しでのレースメイクをしていたヴェニュスパークが早仕掛け。しかもその速さはすさまじく追走するウマ娘たちも驚きを隠せない。

 

 

 そしてそのペースを握ったヴェニュスパーク自身がとても余裕のある。遊びを楽しむ子供のような無邪気で、自信に満ちた顔なのが一層必死に追いかける面々との差がわかる。

 

 

 『さぁ、第三コーナーに入っていくヴェニュスパーク。おおっと。サトノダイヤモンド仕掛けていった! 彼女もグイグイとごぼう抜き! すごい凄い! この加速! 躍り出て先頭との差は5バ身に縮めました!

 

 

 伸びたバ郡はここに入って一団に固まるようになっていく! そしてペースも急上昇! 最後のコーナーまでもう少しだ!』

 

 

 「イケー!! ダイヤちゃんもう少し! 最後のスパートならいけるぞー!」

 

 

 「いいわよぉーう! そのまま! そのままおい抜いちゃってぇー!! ウォオォオオ!!!」

 

 

 「先輩!」

 

 

 「まずいな・・・まんまとしてやられているぞ」

 

 

 「なんで? だって差しならダイヤちゃんの十八番でしょ?」

 

 

 「その差しを自分でしたんじゃなくて『せざるを得なかった』んだ」

 

 

 纏の疑問も分かる。追い込みでキタちゃんを退けたあのキレをここで仕掛けたのならと思うだろう。ただ、ヴェニュスパークの早仕掛けで回りも思わず仕掛けを速めた分、もう少し後からするはずだった最後の仕掛けの前のポジショニング争いからのスパートによる団子状態をコーナーで起こしてしまう。

 

 

 長く伸びたバ郡が一斉に加速していけばそこで飲まれないために、前に壁を作られないために差しのダイヤちゃんたちも動かざるを得ないが横にずれて長い距離を、不意を突かれたままするというのは大きい消耗だ。

 

 

 「予想外の動きでリズムを崩されて、しかも目標の距離も長い、ヴェニュスパークの方も余裕がある。たとえスタミナを鍛えていても、欧州に近いここの芝質に慣れていてもこの消耗はバカにできん。そして・・・」

 

 

 『最後の直線に入る前にまさかまさかのデッドヒート! デビルレイクバーマ、セントジョン、ミッシングウィットネス、タマモロウリュによるポジショニング争いと加速が熾烈を増す! ヴェニュスパークの後ろが固まりつつ最後の直線を抜けつつあります!

 

 

 その後ろからシンボリラテ、サトノダイヤモンドが並び、ムーンミラージュ、クラレントが広がりつつ直線で加速!

 

 

 コーナーでのせめぎあいからの最後の直線! サトノダイヤモンド伸びていくがやや鈍いか!』

 

 

 「まさかの伸びていた列が固まって再びポジショニング争いを始めたことで前から後ろからとダイヤちゃんを抜こうと、防ぎつつ前に行こうとするから後ろからと下手に動けば妨害とみなされる。

 

 

 間延びしていたレースからのこの急変。シンプルに早く仕掛けないといけないがこの速度で走りつつ心を整えつつ最適解を出せってのは酷だ・・・ヴェニュスパークのレースはもう少し仕掛けが遅く予想外のことをしてきたからこそ起きたこの流れはダイヤちゃんにとっては辛いぞ」

 

 

 「今まで見せなかった走り方で、しかもそのレーススタイルは日本やアメリカのお家芸を、あの世代を思い出すようなやり方。驚くのも当然です。それでもダイヤちゃんはなんとか行けそうですが・・・」

 

 

 『サトノダイヤモンドの伸びは止まらないが、前のポジション争いがきついか苦しそうだ! 最後の直線に入って先頭は以前ヴェニュスパーク! ああっとセントジョン伸びない! タマモロウリュも沈んでムーンミラージュが大外から強引に仕掛けていった! クラレントは最内から枠すれすれで斬り捨てようとして猛追!

 

 

 しかししかし! 依然先頭ヴェニュスパーク! 二番手にサトノダイヤモンド並んできた! 二重底のスタミナでグイグイ迫っていく! さあ、残り200メートルを切りました!』

 

 

 「最初に終わったはずだったアメリカ仕込みの接触やレース構築をここで挟むのは大きな消耗。アメリカ勢はここで沈んでいって欧州勢が伸びていくのを切り捨てるのは予定ないのつもりだったのだろうが、思わぬ早仕掛けとまさかの二度目の激しいポジション争い・・・負けるなー!! ダイヤちゃん! もう少し、もう少しなんだー!!」

 

 

 「そうだ! まだ終わっていないぞ。ファイト―! ダイヤちゃーん!!」

 

 

 「ファイト! ファイト! ダイヤちゃーん!」

 

 

 

 なんとなく感じている不安はある。だけどまだ終わっていない。あの子の努力はわしも知っている。この応援があるんだから負けないでほしい。わしらがあきらめずに応援して背中を押してやるんだと声を張り上げてファンの皆と一緒に最後のスパートをかけるウマ娘たちのなかで先頭争いをしているダイヤちゃんを見つめる。

 

 

 逃げの、距離を最初からとっていく相手を切り捨てるような末脚を、レース運びの経験でなんとかなるはずだと。その末脚に、今までの積み重ねてきた勝利と自信に全部つぎ込めばきっと。

 

 

 『あと100・・・・! 50!! 30!! この二人に絞られた! あと10! 

 

 

 

 ・・・・・・・ッゴォオォオオオオオルッッッ!!! ケイジ記念、勝ったのはフランスのヴェニュスパーク!! なんとなんと! 早くも国際GⅠ三か国目を制覇! フランスの新星は早くもフランス、ドバイ、そしてこの世界中の猛者集うケイジ記念で勝利をもぎ取った!! 2着サトノダイヤモンドとの着差実に1バ身!

 

 

 凱旋門賞ウマ娘キタサンブラックを有馬で退けた日本のエースをも翻弄しての素晴らしい走りを見せてくれましたぁあああ!!』

 

 

 悲鳴も交じるが歓声が飛び交ってヴェニュスパークを祝福する。いやな予感は当たった。そして、同時に強かった。

 

 

 「ダイヤちゃんが・・・負けた。あの子、まだレースデビューして1年と半年あるかどうかでしょ?」

 

 

 「凄まじい。早仕掛けとレースの翻弄はジェンティルドンナさんやヴィルシーナさんたち。あの世代の十八番。欧州でもそれを見せていましたがそれをここでしてしまうとは・・・凄い子が来ましたね」

 

 

 「ああ、そして間違いなく凱旋門賞に挑むうえで今年最大の壁になるだろうな。・・・・・・ダイヤちゃんも大変だろうが・・・まず、皆見事だった」

 

 

 ダイヤちゃんが負けてショックな気持ちもある。ただそれだけじゃない。ここまで熱くなるレースを。まさしく天才、努力、まだ底の見えないレースを見せてくれたヴェニュスパーク。それにくらいついたダイヤちゃんや世界の強豪たち。

 

 

 彼女たちに賞賛と拍手を送らないといけない。勝者は祝福されて、敬意を払わないといけない。ケイジが勝っても負けてもそうであったように大人であるわしらがそれをして若い世代を観客としてファンとしてしないといけないマナーだ。

 

 

 「惜しかったわよダイヤちゃーん! 次、凱旋門賞でリベンジしちゃえー!!」

 

 

 「ダイヤのお嬢が負けた・・・いや、見事だったぞー!! ヴェニュスパーク!! 推しになるけどダイヤちゃんが今度は勝つからなー!!」

 

 

 「また日本に来てねー!! ヴェニュスパークちゃんも凄いけど、熱いレースを見せたデビルレイクバーマにセントジョンのアメリカンレースも好きよぉお!!」

 

 

 「くぁあー・・・! 負けた! こうなったら嫁さん質に入れてフランスに応援いくしかねえぜ!」

 

 

 「ムーンミラージュもかっこよかったぞー! ダイヤちゃんと今度一緒に歌ってくれー!」

 

 

 

 『ヴェニュスパーク観客に向かってガッツポーズと手を振って歓声に応えます! そしてサトノダイヤモンドやレースの皆と握手を交わして健闘をたたえ合います! 今回ケイジ記念で10着まではいったメンバーには秋の重賞レースでの優先権と賞金が与えられます!

 

 

 今ここで走りぬいた彼女たちは再びこの熱い走りを見せて秋でも世界をわかせてくれるでしょう! さあ、そしてその中で今回勝利したヴェニュスパークにケイジさんからの優勝トロフィーの贈呈がされます!!!』

 

 

 

 『おめでとうヴェニュスパーク。ったくまさかのレース半ばからの、1300メートルスパートかけ続けての早仕掛けとかかっこいいなーんもー』

 

 

 『ありがとうございます! でもまだまだです。もっと勝って私はフランスに、故郷に希望と元気を与えていきたいです!! ケイジさん。貴女のように』

 

 

 『ったく。アタシが後輩だったらほれちゃうかもね。ははははは!! 次のレースでも頑張ってきてな。フランスの可愛い希望ちゃん』

 

 

 優勝トロフィーを手渡され、その上で固い握手を交わす二人にシャッターと割れんばかりの歓声が鳴り響いて勝者を祝福する。

 

 

 「1バ身。これを2か月ちょいで埋めるかどうか・・・か。ダイヤちゃんも大変だなあ」

 

 

 「でも、きっとやってくれる。そう信じて私らは応援しよう。今度うちの寿司屋に来たらサービスしてやらないと」

 

 

 「ですね。後はグッズの販売第二部と、ウイニングライブですし、早速行きましょう」

 

 

 「おお、そうだな。後ウイニングライブまでの時間にできれば酒を車に入れておきたい」

 

 

 課題が増えたか、むしろ収穫を得たと考えるかはわしらからは見えない。ただ、ケイジもダイヤちゃんもきっとあきらめてはいないはずだ。頑張れ。二人とも。ライブでも応援するからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースも終わり、ウマ娘たちの次の舞台はウイニングライブ。のまえにシャワーで汗と泥を落として化粧直しと休憩。夏場だし、レース後は即座にミスト噴霧とか、強烈な風で冷却して、表彰前に水分補給とかはするんだけどやっぱ消耗はでかいからねえ。

 

 

 「大丈夫か? ダイヤちゃん」

 

 

 で、まあそれと同時にウマ娘たちにとっては心を整理する時間だ。泣き顔悔し顔のままライブをしちゃあいけないからね。それぞれの控室でシャワーを終わり勝負服や予備が無ければレース場で提供している衣装を貸してしばしの休息。

 

 

 「ケイジさん・・・・・」

 

 

 ダイヤちゃんもその休憩の合間だが、うん。そりゃあそうなるか。

 

 

 「負けちまったなあ。まさかアタシらがよくしていた早仕掛けを。しかもそのまま欧州仕込みのスタミナで暴れるから大荒れになるとは」

 

 

 「レースのペースを完全に握られちゃいました。私、驚いて、つられて仕掛けちゃって。あんなに・・・あんなに応援してもらって、頑張って、皆さんからの期待もあったのに・・・!」

 

 

 悔し涙を流してこぶしを握り締めるダイヤちゃん。ドバイでの勝利、ケイジ記念の経験があるという自負。それを持って挑んだのにまさかの翻弄されての負け。しかもまあ、アタシらを思い出すような早仕掛けでのペース変更はよく見ているはずだったのに。

 

 

 そりゃあ・・・悔しいよなあ・・・

 

 

 「でも、勝てませんでした! 私・・・わたし・・・」

 

 

 「負けは負けだ。でも、これで終わりじゃねえだろ。このレースはあくまで本命前のオードブル、食前酒みたいなものだ。そうだろ。ダイヤちゃん」

 

 

 でも、ここで全部出し切ってしまうんじゃない。ここがゴールじゃないんだ。それを忘れちゃいけない。このケイジ記念が人気があろうが何だろうがあくまでも立ち位置はステップレースみたいなもの。

 

 

 「はい・・・本番は・・・凱旋門賞、です・・・ひぐっ・・・」

 

 

 「ああ。その上でヴェニュスパーク以外には先着しての2着。ならまだいける。ここで負けていい。本番は凱旋門賞だ! だから、気負い過ぎるな。その頑張りも、心も私はずっと見ていたし、次は勝てるはずだ。ダイヤちゃんの脚なら、勝利の未来を開けるぜ・・・」

 

 

 覚えているようならそれでよし。アタシ的にはむしろ収穫を手にしている。手ぶらじゃない分むしろよく頑張ったよこの子は。本当にすげえ実力だ。優しく抱きしめて頭をなでてやるとダイヤもボロボロと大粒の涙があふれ出てしまう。

 

 

 「ぅ・・・ありがとう、ございますケイジさん・・・ちょっとだけ、そのまま胸を貸してください・・・う”ぐ・・・ぅ」

 

 

 「ああ、泣け泣け。明日までは思いっきり泣いて、悔しがれ。ただ、ライブでは切り替えて思いっきり歌え、踊れ。応援してくれたファンたちのために、掲示板に入れなかったライバルたちの分。そして、何より次のために頑張れるんだっていう姿を自分自身に見せるために。な?

 

 それが終わればいくらでもアタシの胸も貸すし好きな飯も作ってやるし、なんでもしてやる。アタシはあんたの師匠で、大事な教え子だ」

 

 

 「はい・・・頑張ります。ライブも・・・次の凱旋門賞で・・・必ず、次は・・次は勝ちます。ヴェニュスパークさんに、世界に・・・! もう一度、世界に勝って見せます・・・から・・!!」

 

 

 ダイヤモンドは砕けない。ってか。負けてなお輝きは鈍らずに増しているよ。アタシは弟子に恵まれたねえ・・・ダイヤちゃんは問題ないとしてそれいがいでありそうな問題はマスコミかなあ・・・




 ケイジ記念終了。ダイヤちゃんは惜しくも2着。色々な意味で大番狂わせの結果となりましたとさ。ケイジもダイヤが負けて悔しいけどそれはそれとして勝者のヴェニュスパークの勝利と強さに敬意を払っているのも事実。まあここらへんは馬時代からそんなノリなので。


 次回はいざおフランス。

ケイジと一緒に描かれる子は誰がいいですかね

  • キタサンブラック
  • サトノダイヤモンド
  • ヴェニュスパーク
  • ナギコ
  • マエダノキズナ(ヒサトモ)
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