『いよいよ始まります凱旋門賞! 欧州きっての国際レース! 長い歴史と実績は今も栄光を放ち、優勝を狙い今年も世界中から名うてのウマ娘たちがそろいました!』
ここに来たことは何度もある。だけどそれはキタちゃんやケイジさんたちのレースを応援に来たり、昔サトノ家で見に来ただけ。ここのターフに自分の脚で立って、挑みに勝負服を通して戦えるのは初めて。
『その中でも特に注目を浴びているのはこの二人! 一人は我が国フランスの若き天才ヴェニュスパーク! ドバイミーティングでも大勝利をおさめ、さらに前人未踏、KGⅥ&QESと凱旋門賞の欧州三連覇を成し遂げたたった一人の記録もちのケイジの名を冠したケイジ記念を手にしてココにも絶好調!今日も美しい勝負服と美貌で私達を魅了します!』
「ボンジュール! 観客の皆さん。今日も応援お願いしまーす!」
でも、ようやく来たという嬉しさとある意味安心がある。ここに来れる実力はつけているということ。そして、後先考えずに全部全部出し切って挑めるということが。
『そしてもう一人は日本からやってきた美しき宝石サトノダイヤモンド! 凱旋門賞ウマ娘の一人キタサンブラックの幼馴染であり、あのケイジの弟子の一人! しかも今回はケイジをトレーナーとしてここに挑むという盤石の態勢! 騎士を思わせる新たな勝負服でいざ出陣!』
「応援よろしくお願いしまーす!」
歓声を受けながら手を振ってこたえる。世界中から多くの有名な人たちが来ている。誰もかれもが美しく、そして強い。私とヴェニュスパークさんが注目されていますが誰もが優勝する可能性を秘めているチャンピオンカーニバルと言うにふさわしいほど。
「この前のお土産や紅茶のお土産ありがとうねダイヤちゃん」
「ヴェニュスパークさん。こちらこそ。だけど、今はそのことは置いておいて、決着をつけますよ」
それでも彼女に、ヴェニュスパークさんの実力はその中でも飛びぬけているように感じるし、この前のケイジ記念でのリベンジも含めて意識してしまう。
ヴェニュスパークさんと会釈をかわして微笑むも、私もヴェニュスパークさんも目に熱いものが宿っているのを感じる。ケイジ記念の時よりも熱い炎を燃えさせている。
「もちろん、私もダイヤちゃんも、ここにいるみんながそのために来ている。欧州一の大レース凱旋門賞。日本にはもう渡さないよ」
「いいえ、私はそれを手にするために来ました。ここで君が代を5回目流しますからね」
負けられない。そう伝えながらそれぞれパドックでウォームアップをしながらゲートに移動していく。
ゲートは10番 今回の戦術ではそこまで気にしないで良さそう。それに作戦を使うにも問題ない。気持ちを落ち着かせていく。仕掛けは早くも最初からではない。でも、身体はほぐしていかないと駄目。
私の脚質からも、そして何よりケイジさんから学んでいたことを踏まえてもこれをするほかない。同時に、そのための鍛錬も積んできた。行ける。いや、いく。それで勝つ!
『さあ、ウマ娘がどんどんゲートに入っていきます。ただいまサトノダイヤモンド、ヴェニュスパークが入りまして最後にルディールが入りました。
・・・・・・・スタートです!』
ゲートが開いていよいよ勝負が始まった。でもまずはいつも通りに後ろ目につけて身体をあっためつつエンジンをつけていく。
『さあ、最初のコーナーに向けての長い直線。ここで先頭を取るのはシムカミユ。続けてセブンスタン。オルファントムが続き、前目に着けますはヴェニュスパーク。内側から先頭集団を伺いますアウトバーン。
そこに続いてミスターオルレアンが中団の先頭に。サトノダイヤモンドは中団の後方から様子をうかがう形に』
やっぱりというか、欧州の面々が多めの凱旋門賞はケイジ記念、UAEダービーと比べても流れがゆったりだ。長い直線で加速しすぎたら最初のコーナー、坂の勾配と加速で膨らみと減速、さらにはクラッシュも考えれば下手に加速しすぎないまま行くのはあっている。
それに・・・やっぱりというか、ケイジさんの言うとおりになりつつある。
『バ群を形成したまま最初のコーナーを目指しますウマ娘たち。様子見を続けつつの牽制か。セブンスタン、シムカミユはそのまま先頭。外からハーフ―ムールが抜けだしてよりバ群が広がっていく形へ。ヴェニュスパークは以前3番手をキープ。アメリカ代表ドリームクリームが前につけようとしますが仕掛けどころをうかがったまま』
(アメリカ、日本とは違って、欧州の場合は今も個人の勝利と時にはそれ以上に母国に勝利を持ち帰ることを優先する傾向が今もある)
(え? 今もですか?)
(ああ、っというのも日本だとあんまりなじみがないかもしれないがあっちは大陸の中にいくつもの国があって、しかもそれは昔っからレースでもいろんな面でも関わり合い、競い合ってきた。だから前の時代からいわゆるチーム戦の文化と経験がはぐくまれていてな。チーム全体でレースメイクをしてみんなで順位をあげつつ最終的には誰かが勝てばいいとか、いわゆる潰れ役をやる行動や動きが抜群にうまい)
(う、うーん・・・確かにオリンピックとかだと個人の勝利と同じように国にメダルが来たことを喜びますが、ウマ娘のレースだとみんなライバルですし、そうなるんです?)
(そりゃ建前はみんなしのぎを削っての勝利の上でのものだが、チーム戦で挑むことも多いからな。凱旋門賞ほどのレースだと尚更。個人で戦うんじゃなくてまずはチームでレースメイクをしつつチームメイトのペースメイカーをしてから後半に仕掛けていく。
これが欧州ウマ娘レースではちょこちょこある。そして、ヴェニュスパークやアメリカなどのメンバーは気にしないだろうがそれ以外の国は仕掛けてくるだろうよ。だから、レースの流れはケイジ記念やほかの国際レースと比べても団子状態になりつつゆったりになるとアタシは読む。ダイヤちゃんの脚質も相まって団子のままレースを進めりゃ仕掛けどころを見失うかもしれないし)
(そうなると・・・仕掛けどころは)
(ああ、最初のコーナー。ここでダイヤちゃんがスピカにいるゆえの強みと、今までの鍛錬、そして実績が活きてくる)
『最初のコーナー、そして坂に入ると・・おおっと! サトノダイヤモンド仕掛けた! 一気に大外からの加速でごぼう抜き! バ群の中団、先頭集団へとくらいつきます!』
ゆったりとしたペースで挑むことになる凱旋門賞。コーナーで団子状態が伸びることを期待して待つということは下策になるし、かといって前目につけて挑めば団子の中にのまれて動けないままレースメイクを握られて仕掛けどころを間違えてケイジ記念の二の舞になりかねない。
じゃあどうするか。私とケイジさんで考えた作戦は作戦というには滅茶苦茶なごり押し。だけど、それでいいと思えた。
「はぁああああああ!!」
『何ということだ、サトノダイヤモンド大外から一気に先頭に! そして内側に入らずにそのまま爆走! 坂を下ってそのままフォルスストレートも大外のまま入っていく! 最内に入らずにこのロスを選んだまま走り続けるというのだろうか!!? この選択に会場もどよめいています!』
(まず、最初のコーナーさえ抜けてしまえば後は下り坂と緩ーいカーブ、フォルスストレートだ。とはいえ、ここも内ラチにつけて加速していくのは大変。日本でもそうなのに欧州の深い芝はアタシらの脚と地面の間に挟まる芝がクッション兼滑る材料になってしまってやすやすと仕掛けを許してくれねえ。
なら、あえて大外からそのままずっと走り続ける)
(ええ!? そ、それは大分きついのでは!?)
(ところが、だ。大外から仕掛けて走ったって実は距離とかはケイジ記念と同じかちょいあるかくらい。しかも残りの距離は第一コーナーの時点で1100メートル前後は走っているから残り1300、大外から仕掛け続けたって多少水増ししても1400メートル。有マ記念と同じくらいの距離。そこでキタちゃんに勝利をして、ケイジ記念でも炎天下の中2600を走り切れたダイヤちゃんならいけると思う。
そして、なにより大外から仕掛け続けることってのは、カーブを気にせず好き放題アクセル踏んで加速も容易ければ目の前の団子状態になっているやつらを気にせずに走ってペースを乱してしまえばいい。後方からの仕掛けだが、ダイヤちゃんの脚の切れと、キタちゃん相手に長距離でも戦える持続力なら)
(ロンシャンレース場の大きな緩いカーブの形状はむしろダイヤちゃんの強みを活かす最高のホームグラウンドに早変わりだ!)
『ああっと何ということだ! サトノダイヤモンド先頭! そのままフォルスストレートに入る! さらにグイグイ差を開いて伸びる伸びる! これに負けじとバ群のウマ娘たちも足を延ばしますが坂の下りとコーナーなのが相まって二の足を踏む、少し躊躇を感じます!
タブーなど気にするものか、常識など知ったことかとサトノダイヤモンドそのままターフを切り裂いていく!』
軽い。深い芝だというのにまるで問題がない。自然に近い状態と言っても基本的に整備の少ない河川敷の雑草まみれの急勾配の坂と比べれば天地の差。加速し続けても地面を蹄鉄が、ヒールがしっかりとつかんで前に駆け出すための力を伝えている。
コーナリングもいつものものと違って大変緩い分加速をしても何ら問題がない。こんなに早い段階で私の前に誰もいない先頭の景色を味わうこと。それもロンシャンレース場でそれが出来るとは予想もしていなかった。想像以上のはまり具合だ。
(ただ、ここのコーナーでは仕掛けは気持ち7割、8割にしておいて、残った力のへそくりは本命の最後の直線まで取っておけ。最後の直線は実に600メートル。ここの距離は基本短い直線に慣れているアタシらにとっては想像以上に長く感じるし、フォルスストレートを前に走っていることもあって精神負担も少しある。
長距離での仕掛けとロングスパートの経験、コーナーでの息の入れ方はスズカやゴルシ、マックちゃんらとの経験、ノウハウを活かして立ち回ること。中盤に主導権を握られようとここからまくり返してくるのが欧州ウマ娘レースであり、懸念点。優位を保ちつつもここで全部振り落とそうとするな。相手はそれを狙う)
(ふむ・・・でも、そうなるとやっぱり早仕掛けは難しいのでしょうか?)
(いや、それでもやるべきだ。むしろ相手に付き合ってしまって末脚を相手が多く残せばそれで負けるのはケイジ記念で味わっただろう? 多少早くとも自分のやり方で息を入れる、仕掛けを用意しておくように。それに。大外からのブン回しでズバッと斬り捨てての破竹の勢い。まさしく騎士らしい、ジンクスも常識も砕けるいいチャンスだ。
アタシらに負けない衝撃を与えてこい!)
「よし・・・ふ・・・っ! いける! そのまま・・・!」
「仕掛けてくるとは思っていたけど、流石にぶっ飛んでいるね!」
「!!?」
『先頭に出ましたサトノダイヤモンド3バ身の差をつけてフォルスストレートを抜けはじめ最終コーナーに入りました! 大外のまま距離のロスさえも何のそのと大進撃! これはきま、っとお!! ヴェニュスパークここでバ群を抜けての大加速でサトノダイヤモンドの背中についてくる! 2バ身! 1バ身とじりじりと距離をつめていくぞぉお!』
のこりもう少しでコーナーを抜ける。という所でヴェニュスパークさんが仕掛けてきた。前のケイジ記念でも先行策からの仕掛けをしていましたが、リカバリーが早い! でも、今は我慢! 追いつかれてもいい。脚を残したまま加速を鈍らせずに最終コーナーに行かないと。ここでの加速はむしろ減速になる・・・!
『セブンスタン、シムカミユも追いかけますが最早二人だけの世界、二人だけの勝負! 今年の凱旋門賞はこの二人の一騎打ちとなりました!
さあ、最終コーナーを抜けていざ直線勝負! ここでサトノダイヤモンドまだ加速! いったいどこまで加速するのか、日本のウマ娘のスタミナは底なしか!? いや、ヴェニュスパークも負けじと加速だ! 苛烈なたたき合いとなっての勝負にスタンドも大盛り上がりです!
頑張れサトノダイヤモンド! 負けるなヴェニュスパーク! 逆転あるかとほかのウマ娘たちにも熱い声援が轟いてロンシャンレース場を揺らしております!』
歓声が近づいてくる。あともう少し、後ろから近づいてくる足音が、気炎を上げて猛追してくるウマ娘の皆さんの声が聞こえてくる。先頭の景色を味わえる対価と言わんばかりに背中に刺さる負けるものかという視線。でも、同時にそういう殺気立った人たちの前を切って先頭に立って名誉を求めて、勝利を求めて走れること。それは本当にこの勝負服のモデル。騎士の様で逆に気合が入って足に力が再度みなぎっていく。
負けない。仕掛けは・・・コーナーを越えた少しの、ここ!
『ヴェニュスパークとサトノダイヤモンドほぼほぼ一緒に最後の仕掛け、切れ味勝負にでたぞ! この直線で勝のは誰だ! フランスの超新星ヴェニュスパークか! 日本から来たナイトサトノダイヤモンドか! もう残り400メートル!!』
「ここまで、ここまで来たのです! ケイジさんたちの見てきた舞台、その景色を、今度は私自身も! あぁああああああ!!!!!」
「もう凱旋門賞を何年も取れていないフランスの皆が落ち込む顔を見たくない・・・! 私が勝ってそれをひっくり返す! うぁあああああっっ!!」
体の中の気力も元気も、残っている場所があればそれを全部ありったけ脚に叩き込んでいきながらの加速。肺が苦しかろうが腕が重くなりそうなのも全部気のせいだ、今はそれよりも早く足を動かして前に出ろと体に鞭打つ。
一時の苦しさなんて無視してゴールに向けて突っ走る。でないと隣に並びつつあるヴェニュスパークさんに追い越される。そんなのは嫌だ! 私は負けたくない! 私は、ケイジさんの弟子で、キタちゃんの幼馴染で! サトノ家の至宝とお父様が言ってくれた、サトノダイヤモンド!!
ヴェニュスパークさんの背負っているものも重いはずですが、こっちだって色々背負ってきたんです! だから、その先頭は・・・・・・・譲らない!!
「っ・・・! ・・・ぁ!! ・・・・~~~~~!!!!」
「っ・・・ふ・・・うぐっ・・・ぅぅうう!!!」
『サトノダイヤモンドさらに伸びた! ヴェニュスパーク必死に追いすがるも差は伸びていく! 大外から走り続けてなおこの加速! そのスタミナは一体どこから湧いてくるのか! 残り200メートルで決着はついたか!? 残り100!・・・50! ・・・10・・・・・
っっゴォオオオオルッッ!!!! サトノダイヤモンドが見事一着!!』
その声は遅れて届いた気がした。しばらく走り続けていたけどようやく足が止まって、いや、電池が切れつつあるオモチャのように足に疲労が戻ってきてどっと動きが鈍る。間違いじゃないのか。この実況はあっているのかと。
『サトノダイヤモンドが日本ウマ娘で史上3人目の凱旋門賞制覇ウマ娘に! そして、5年連続で凱旋門賞の勝利の栄光を日本に持ち帰ることに見事成功! 1番槍と大手柄を見事頂戴仕った極東のナイト!! 青き騎士は見事勝利の栄光を日本に持ち帰る幸せの青い鳥でもあったのです!!
2着はヴェニュスパーク! 今年クラシックデビューをして早くもこの実力! フランスの超新星は文字通りの新星、怪物です! サトノダイヤモンドとの着差は1バ身! ここからのさらなる成長では歴史に名を残すウマ娘になる器でしょう!』
「は・・あっ・・は・・・アハッ・・・・や、やっ、たぁあああ~~~!!」
実況を聞いて掲示板を見て、ようやく状況を正確に理解、酸素不足で少し朦朧とした中に聞こえる私の名前を呼ぶコールでようやく実感がわく。ああ、勝ったんだって。私は、この大目標凱旋門賞を制覇した。
あの大外でずっと中盤から仕掛けるというぶっ飛んだ戦術で、日本からは3人目の凱旋門賞ウマ娘になった。そう。ケイジさん、キタちゃんたちと同じ称号を・・・!! 自分の勝利を理解して、そのせいか力が抜けてべちゃりと地面にへたり込んでしまいそうになるのを声援が身体にしみわたって力をくれたか何とか持ちこたえる。
「はっははははは!! もうへとへとかあダイヤちゃん。全く。凄いねえ。アタシのレコードに迫るほどのタイムをたたき出すとは」
「ケイジさん・・・私、やりましたよ・・・!」
「ああ、ダイヤちゃんのつかんだ勝利だ。なら、騎士らしく勝ち鬨をあげてみんなに応えな。倒れそうなら支えてやるぞ?」
いつの間にやらターフに下りていたケイジさんがにっこりと笑いつつ私を支えてくれる。ああ、この人の指導のおかげで、鍛え続けてくれたからこそ私はここまでこれたんだ・・・本当に、この場所でこのレベル以上の戦いを3度も制覇した偉大な師匠。
凱旋門賞を知り尽くした傾奇者だからこそ・・・私を。嬉しいし、本当に感謝、敬意、いろんな気持ちがあふれてくる。でも、ケイジさんの言うとおりにファンに応えないといけない。このレースを見に来てくれたみんなに。
『おっとサトノダイヤモンド抜剣! 勝利した騎士が刃を掲げての勝ち鬨! えいえいおう! えいえいおう!! と歓声が響き、ダイヤコールが再びロンシャンレース場を揺らす! 師匠のケイジのケイジダンス、コールとはまた違うダイヤコール。師弟でまたもや栄光を勝ち取りました!!』
ああ、疲れが抜けていく。もう全部やり切って、その結果は満足いくものだったんだと・・・本当に・・・ここまで来れて・・・よかった!!!
「惜しかったな。ヴェニュスパーク」
「師匠・・・・」
レースが終わり、我が弟子の様子を見に来たがその様子はまあ、憔悴したものだった。レースの疲労と今まで経験したことのなかった初の敗北。それが大目標としていた凱旋門賞で味わったのだ。今まで積み重ねたものがボッキリと折れて砕けて崩れるような感覚に、きっと空虚さもひとしおだ。
「私、油断していませんでした。ダイヤちゃんだけじゃなくて、今回レースに出てくる子たちの情報をしっかり調べて、仕掛けも・・・」
「ああ、完ぺきだったよ。ただ、サトノダイヤモンドはレースメイクに付き合わずに自分のペースで戦って振り回し切る。圧倒的スペックでごり押しつづけたことでこちらの予想を崩した。・・・ケイジ記念でやられたことをやり返した。
しかもその方法も大外で中盤からひたすら加速し続けていく。あの地面をつかんで蹴り上げる力、無尽蔵に思えるスタミナはまさしくケイジ仕込みのものだ」
ヴェニュスパークは100点のレースメイクと仕掛けをした。それは私の目で見ても確かだった。ただ、ダイヤモンドはそのレースメイクに付き合わない理不尽すぎる大外で走り続けるという走る距離が延びるというリスクを加速と走り続けられるスタミナ、そして長く続く加速の切れ味で振り切った。
スタミナに関しては欧州の方が長距離レースが多い故に土俵だと思っていたがケイジの弟子だ。あんな戦法を取ってくること自体は考えておくべきだったのだろうか。
「勝てませんでした・・・! 私、フランスの皆の希望になるんだって走ったのに、届かなかったです・・・!! 最後も、もう足をどれだけ前に出しても距離が、ち、ちぢひゃらなヴで・・・!」
大粒の涙を流して泣きじゃくる愛弟子の顔に私も胸が痛くなる。ああ、彼女も味わってしまった。敗北の苦汁。しかも、この大一番、ホームグラウンドでの敗北・・・心中は察して有り余る。
「う”・・・うぅおっ・・おうっ・・ぅっぉ! えぐ・・・わ、わひゃ・・こ、お・・こん、な・・はぅうぐ・・・も、もぉ・・・は・・・」
「いいや、今もお前はフランスの希望だ。ヴェニュスパーク」
「ふ・・んふっ・・・ふ・・・ふ・・・」
感情があふれてしまった愛弟子を抱きしめてそっと背中と頭を撫でる。ああ、何時も元気で自信満々。元気な顔しか見なかったお前には、今何もかもくらく見えているのかもしれない。でも、1度の敗北で終わるものじゃない。これはクラシックレースじゃない。一生で一度のレースじゃないのだ。
「ここ数年、日本メンバーの出ているレースはすべて日本が勝利。国内外問わずな。そのなかで欧州が挑んでこなかったドバイミーティングでの勝利、そしてケイジ記念での勝利。今回の2着も次回につながるものだった。
すべて、私たちでは当時出来なかったことばかりだった。立派なフランスの期待のウマ娘だ。ヴェニュスパーク。・・・・・私は、お前を弟子に持ってて幸せだよ」
「ししょ・・う・・う”う”う”う”~~~~~!!! うぐ・・・うぐふぅうううう・・・・!!」
ああ、泣け、今は思いきり泣け。そして立ち上がればいい。お前はこんな一度の敗北で終わっていい逸材じゃない。今度こそ栄光を手にしていけ。その上で、今度こそ日本どころか世界の強豪をまた倒して頂点に立て。
いつもより小さく、幼く見える愛弟子を撫でつつ、気が付いていたら寝ていた愛弟子を叩き起こしてシャワー室にぶち込んだ。全く。ウイニングライブを忘れたら大騒ぎだぞ・・・
「ヴェニュスパークさん」
「? わっ! どうしたの? ダイヤちゃん」
「レース。ありがとうございました」
シャワーを浴びて休憩をし、そしてウイニングライブの少し前。私はヴェニュスパークさんに頭を下げた。
「私は油断していたつもりもなかったです。ただ、行けるんだと思っていた自信は貴女に一度砕かれました。そして改めて世界の壁を知ってもう一度徹底的に欧州に合わせた調整をし続けて、レースメイクもケイジさんが眠そうになるほどになるほど打ち合わせをしたりと、とにかくやれるだけのことをしました」
ドバイで勝利して、その後もいけるはずだとどこか天狗になっていた自分の鼻っ柱を砕いて、その上で文字通り何もかもをぶつけていけたのは文字通りヴェニュスパークさんたちのおかげ。きっと、ケイジ記念で私が勝っていたら不相応の自身でここで負けていたかもしれない。
ケイジさんが認めていた、キタちゃんに勝っていた。それがどこか慢心になっていた自分を叩き直してくれたのは彼女。
「それでも、最後は分からない勝負になるほどで、本当に強くて、ウマ娘レースの本場欧州のレベルを、その強さと歴史を叩き込まれた気分でした。貴女に私は心からの尊敬を」
「う、うーん・・・先輩のはずのダイヤちゃんにそういわれると少しこそばゆいけど、こっちこそ。今まで無敗でここまで来れたから、私もいけるはずだってどこか慢心していたかもしれないし、舞い上がっていたのかもしれないから。
互いにこの凱旋門賞で手にしたものは多かったと。今はそう思いたいな」
強い。やっぱり彼女は天才ですが、同時に心の強さ、鍛え上げ続けた日々がバックボーンとなって支えているのでしょう。今のヴェニュスパークさんの瞳はすごく澄んでいて、もう一度挑めば負けているかもしれないと思うほどに。
「もちろん。この勝利だけでは終わりません。この後も私は挑みますよ。日本ではまだまだレースがありますしね」
「ああ、確かジャパンカップだよね? それなら私も挑もうかなって思うの」
「ほうほう? それはまたすばら・・・・ええ!?」
まさかの出走予定に驚きを隠せずにびっくりしてしまう。確かにジャパンカップは海外メンバーも多く来ますが、最近だと実力者もあんまり来なかった。ケイジさんやオルフェさんの世代に来たくらいなのに。思わず尻尾も滝登りですよ。
「負けっぱなしは性に合わないからね。それに勝ち逃げは許さないからもう一度日本で勝利を奪いに来るからね?」
「・・・・・・・うふふふ! ええ、でも私は負けないですからね。それに日本にもまだまだすごい人たちはいますから私たちは待っていますよ。今度はまた日本で!」
「でもその前にまずはウイニングライブで。だね。さあ、麗しのナイト様。ちゃんとエスコートしてよ? なんてね♪」
ああ、この子は本当にすごい。私、キタちゃんやケイジさん推しだったんですがこの子も推しになっちゃいますよ。そんな子と一緒にライブをできることも幸せに思いつつ、きっと初めてGⅠを勝利した時と同じくらいの幸せに包まれながら楽しく踊り切れました。
『「まずはこの舞台に挑めること、そして認めてくれたフランスの皆様に感謝を。そして、栄光のレースを作ってくれたフランスに感謝を」サトノダイヤモンド見事凱旋門賞制覇! 勝利者インタビューでも我々を魅了』
『「アタシよりもダイヤちゃんだろ。ただ才能をくすませないように支えていただけだよ。それよか応援してくれたファンの皆と、受け入れてくれたフランスに感謝だよ」ケイジ、トレーナーとしてさっそくサトノダイヤモンドを凱旋門賞で勝者に導く。傾奇者の珍道中は止まらない!』
「ってわけだ。これで今回の契約、仕事の方は終了な。報酬はそっちの方でアタシの仕事に見合った料金払ってくれればいい」
連日流れ続けるテレビニュースを切って最後の報告資料を理事長やルナねえたちにどさりと投げつけて茶をすする。ダイヤちゃんにほぼ付きっ切りでの1年くらい駆け抜けてのGⅠ2勝、GⅠ2着1回。それ以外でも沖ちゃんとか、松ちゃんらで実績を取らせているしもういいだろ。
「うむ! 快挙! まさしく前人未到の記録よ。トレーナー資格を取ってすぐに1年目でUAEダービー、凱旋門賞を取ってくる。その合間にもケイジ記念の方も素晴らしい。いやはや、流石としか言えない」
「やー本当に、名選手は名監督となるかは別だけど、ケイジの場合はとんでもないねえ。私もシンボリ家、メジロも名家も日本中が驚いているよ」
「ふふふ・・・全くだ。そしてデータの方も分かり易い。助かるよ」
おかげでダイヤと一緒に陛下から授与式。ダイヤの方は国民栄誉賞。アタシは既に貰っているから何個目かの勲章をもらうことになったしなあ。真面目に休ませてくれよ。
「じゃーもうやることやったし、私は帰るぞーふわぁ・・・ようやく気楽に飯を食える・・・ラーメンでもぉっ!!?」
ルナねえの方でも資料を見てもらったしやることやったからと部屋を出ようとするとルナねえに腕をがっちりとつかまれて引き戻される。ぬぉう!?
「それとなんだがなケイジ? 今回の大実績と練習の構築。トレーナー資格をもってすぐにこれを成し遂げた君はもはや学園でもそうそう手放せない存在となった。そこで、だ。ぜひトレセン学園のトレーナーとして働いてほしい」
「はぁ!? ふざけんな! 何が悲しくてもう時代を作り終わったアスリートが今度はコーチせにゃならねえんだ!! 新しい時代にアタシが出てきてもだろうが!」
「否! むしろケイジの人気はより根強く、そして高まるばかり。何より学園生徒からも是非という声が殺到していてな。ああ、それと海外の王族からも自分の娘を是非という声が多数。我らトレセン学園は愚か世界の目も光っているぞ」
「それと、縁談の話も増えていてね。私の方で抑えているけどこの数だ、早いところ好みの子を見つけつつここにいてくれないと私も抑えきれないかもよ?」
くそがぁ! やっぱそうなるよなあ! だから逃げたかったんだよぉ! キタちゃんの方も親父さんとじいちゃんから是非貰ってくれっていう話が出ていてうれ・・・じゃねえ! 変なことになりそうだってのに。これ以上縁談にあれこれとせっかく気儘な引退後の動画配信と料理開発で働く時間を潰されるのはごめんだよぉ!
「なんで大人の戦いに巻き込まれて、あまつさえ賞品にならにゃいけねえんだよぉ! そういうのは勘弁だ! BCシリーズ制覇したマエダノキズナとかキタちゃんとかの方を祝う方にいけ!」
「あ、ケイジが逃げたぞ!」
「捕縛! ウマ娘警備隊出動! 目標は傾奇者ケイジだ! 捕まえたものにはボーナスを出すぞ!」
「昔を思い出すね。さあ、ケイジ。鈍ったとはいえど皇帝と呼ばれた脚、磨き直しているから捕まえてみせるぞ?」
ぬぁー! まさか学園を卒業してからもこうして追いかけっこになるとは思わねえぞ! あーもう!! トレーナーなんてこりごりだぁ~~!!!
これにて外伝終了! にしても、これからの12世代がどれほど出てくるか楽しみですね。これからも皆様ウマ娘を応援、特に12世代を応援よろしくお願いします!
ほんと、蛇足もいいところなこれを走り切れたのは皆様のおかげです。イラストの方は首を長くしながら待ってくだされば幸いです。その際は活動報告にあげますので。ケイジ、キタちゃん、マエダノキズナのイラストをこうご期待してくだされば。
ではでは~皆様さようなら、さようなら。