『ゴールドシップかあ。いい名前してんねえ!』
『そうでしょそうでしょ。かっこいい感じするよねー』
併せ馬をしてのんびり互いに併走。テキたちはどうにも話を聞くと第三コーナーから少しづつ速度を上げて第四コーナーで仕掛けるやり方を覚える。ロングスパートを仕掛けてからの最高速度を第四コーナーで出すようにしているようだ。
というのもまあ。これは俺たちの馬体に関係している。俺もテキ曰く瞬発力。末脚は悪くないらしい。そしてゴルシを知っているのなら皆さんご存じだと思うがマックイーン譲りのスタミナと体格。ステゴ譲りの頑丈さと末脚を両方もらっているまさしく三冠馬を狙える。次代の担い手の一頭だ。
俺の一族は末脚勝負は日本競馬界屈指、ステゴは世界で連勝しゴルシもその足を受け継いでいる。けれど身体が大きく重い分瞬発力を持ってもどうしたって軽量の馬たちの加速力には負ける部分はある。なのでまあ前以て加速をすることでよーいドンのコーナー勝負にさせずに有利な展開を作り続けるようにしているみたい。
「よし。行くぞケイジ」
テキの合図が入って一気に加速を速める。よいしょお! 坂路とプールで鍛えた末脚見せたらあ!!
「うっお・・・! こいつは予想以上・・・だ!?」
体内時計で測ってもいい加速のはずなのに、そこにひょっこり並ぶはゴルシ。ウッソだろお前! 俺より仕掛け遅かったじゃーん!
『おお! 来やがったなゴルシ!』
『速いねえ。でも負けないぞ!』
これがGⅠ6勝、毎年確実に勝ちを取ってきていた名馬。それが真面目に走れば1歳ちょいの時点でもすげえんだなあ! 面白い。やっぱいいやつだわゴルシ!
『そんならぁああ・・・!!』
『いよいしょぉおおお!!』
負けじと二枚腰を使っての加速を仕掛けるけどゴルシもそれについてくる。マジかよそこらへんの2、3歳馬に負けない程だぞこれ。ぬぅう・・・なんのぉお・・・届け俺の身体。でかい体は最後の競り合いにも輝くためでしょうが。頑張れ俺の身体。毛先でいいから先に届けえ!!
「どうどう・・・ふぅ。ケイジがどうにか勝てたか」
「凄まじい加速でしたね。この脚は親譲りでしょうか?」
最終的に先着は俺。まだゴルシはスタミナが出来ていなかったというか、脚使いが幼かった分二枚腰を活かせた俺がなんやかんや馬身差をつけて勝利。でも、この時点でこの強さで、更には滅茶苦茶な動きをしての勝利。うーんこれはいいなあ。俺も頑張る上でいい友達になれそうだわ。
併せを終えて俺も感じられたがなるほど併走して勝利しようと頑張る馬とジョッキー。背後から迫るプレッシャーは今までの練習では分からなかったし身につかなかった経験だ。これを学んで慣らせていかないと怖い子たちはビビって脚が鈍って逆噴射したりしちゃうんだろうなあ。逆に怖いから捕まりたくなくて先へ先へと行ったのがツインターボとカブラヤオー。
『いやーまさか追いつくとはな。俺の方が一歩の大きさもあるのに』
『ケイジ速かったね。オイラも頑張ったのになー』
『坂路とかプール頑張ったしな。プールはいいぞゴルシ。汗かいた後にこれを浴びてからシャワーで流して食べる飯はもう最高なんだぞ』
『あ、わかるわかる。プールいいよね。伊馬波のおっちゃんもオイラが泳いでいると嬉しそうに笑うんだよ~』
ゴルシも素直だなあ。今の時点では。そしてやっぱ泳ぎうまいのかー
『頑張れよゴルシ。俺とお前はライバルになると思うけど、お前さんが元気に過ごして、頑張れば皆喜ぶし、何かあったら正直に伝えるんだぞ』
『おーそれがいいのかあ。ありがとうケイジ。お前はいいやつだなあ』
それがいいよゴルシ。馬や動物は痛みとかを我慢する時がある。野生では弱みを見せたらそこから切り捨てられる。脱落する部分があるゆえにそういう部分があるけど競走馬ではそれを診てくれるお医者さんがいるんだ。だからまあ自分が体調悪いと思えばアピールして、遊びたい時は遊びたいと言えばそのほうがいい。
遊んで身体を動かしたほうが馬の身体の構造的にもいいし。
『いやいや。俺もゴルシはいいやつだと思うし、一緒にレースできれば楽しいだろうからねえ。だから体調管理は気をつけるんだぞ~』
『お~ところでさーケイジはにんじん派? バナナ派? リンゴ派? 最近なんだか色違いのにんじんをテレビで見て気になっているんだけど』
『リンゴ派だなあ。でも、機会があればかぼちゃとかマンゴーとかも食べてみたい。あとかぼちゃの煮つけ』
この後もう二本併走。休憩時間にはゴルシと走り方を意見交換しつつ水ウマウマして帰ることに。帰り際に前足上げてふりふりしてバイバイしていたらゴルシも返してくれた。何でもこの後もうしばらくここで調教をした後に福島の牧場に行ってから函館競馬場でデビューしていく予定だそうな。
流石ドリジャにオルフェと名馬ぞろいのステマ配合で一番の悪魔合体をしたであろうゴルシ。気合入っているなあ。あちらの陣営からしてもおっとり優しい、パワーあふれる優等生だし大事に、しっかりと予定組んでいるんだろうね。
まあ、性格は後にいろいろな意味で裏切られるけどな!
「いい子だったなあゴールドシップは。油断できないぞケイジ」
「ヒィン」
『応とも』
そりゃあそうよ。だからこそ掴む勝利に、手柄に尚更価値があるってもんよ。頼むぜ葛城のおっちゃん。久保のにいちゃんよ。
「お。おいおいくすぐったいよケイジ。シャワーには今から行くしちょっと待ってなさい」
「初併せおめでとうケイジ。祝いにリンゴ用意したから後で食べような」
マジで! いよっしゃー! 祝いじゃー! 初併走の祝いじゃー! 飼い葉も多めで!!
年が過ぎて2011年。俺も無事健康体で2歳になりまだまだ肌寒いが春の足音を感じる季節。
『うわあぁあああ!!? なんだなんだ!? じ、地面が揺れ・・・!』
『怖い怖い怖い・・・! いやだぁああ!! 厩務員さーん! 助けて、誰かきてぇえ!!』
『ああ・・・この日が来たか・・・おやっさんたち大丈夫かな?』
地面が大きくうねる。固いコンクリートがまるで別物みたいに揺れる。その強さに。自然がもたらす脅威に厩舎の馬たちがみんな普段の元気さとかそういうのを捨てて怯えている。地球が揺れる。いや実際にこの星が揺れるほどの強いものだった。
2011年 3月 11日 日本に起きた大きな、とてもとても大きな地震。東日本大震災が起きたのだ。今の時代にも大きく爪痕を残す前代未聞と言っていいほどのもの。日本人のみならず世界にも不安を抱かせて心に影を落として、悲しみを生んだもの。その日が来てしまったのだ。
「ケイジ! 皆いるな・・・よしよし。落ち着け・・・落ち着くんだ。いいな? 俺たちが誘導するし、そこで一時避難させる。わかったか?」
「ヒヒン。・・・・・・ビヒヒィィ!!!」
『落ち着けお前ら! 俺たちのお世話をしてくれる皆が助けてくれる! 今は身体をケガしないように地面に伏せてしばらく待つ。ふせぇい!!』
そんな、ここ東京ですら震度5前後でただいま揺れている中なのに久保さんは来て俺たちのために落ち着くように声をかけている。久保さん自身も今すぐ情報を見たいだろうし、何より興奮している馬たちがいて危ないのに俺たちが興奮してケガしないようにと命を懸けてくれる。なら俺が応えないといけねえ。
思いきり声を張り上げて嘶けばみんなも落ち着いてくれた。よしよし。
『足を畳んで頭を下げる! 立っていたらあちこちに身体をぶつけてしまうしもっと危ないぞ。いいな!』
『け、ケイジさん。はははははハィィイ!!』
『あぁあ”あ”あ”。りょうかい・・・りょうかぢ・・・噛んだ』
「お・・おお。みんな落ち着いて・・・・・ケイジがしてくれたのか?」
「フゥ?」
『久保さんじゃねーの? なんて』
久保さんが来てくれたから俺の言葉にも説得力がついたしな。殊勲者、皆を落ち着かせるために身を投げ出しての行動大儀である! ってね。さてさて。揺れもおさまったか・・・しっかし・・・やっぱ長かったし揺れも凄い・・・本当にこれは規模が違うし、俺の本能でもガンガンやべえぞやべえぞと訴えてきた。人の理性と知性、経験もってこれだ。同じ厩舎の馬たちの怯えようは見た目以上だろうなあ。
ゴルシのやつも福島にいるし・・・大丈夫かなあ。
「よしよし・・・落ち着いてくれたか・・・ありがとなケイジ。俺はテキやほかの皆とどうするか相談しに行くからちょっと待っててくれよ? 待ってくれたらにん・・・お前はリンゴか。それやるから」
そういってすぐさま出ていく久保さん。
・・・俺たちはどうしたって経済動物だし、出てくるレースも賭け事。ギャンブルなのは変わらない。だけどまあ、そうだなあー夢や元気を与えられるような。そんな風に頑張れたらいいな。最強を越えて次の時代を作った祖父のように。何度骨折しようが戦い続けて奇跡を起こした親父のように。
背負うつもりはなかったがあんな風に怯える馬やそれを宥めようと頑張っている久保さんを見て思ったね。馬でも日本に元気を与えられる。その一因となれるように頑張ろう。ゴールドシップに、まだ見ぬジャスタウェイやジェンティルドンナ。そいつらに負けねえくらいに戦って、戦い抜いてやる。
そのために心底レースを楽しんで、日常もやりたいことやって思い切り走りぬいてやらあ。
『・・・だからまあ、ゴルシに皆も、どうか無事でいてくれ』
小さく呟いた声はサイレンとニュース速報の嵐に消され、厩務員さんらの声で上書きされた。
ゴルシって地味に被災馬なんですよねえ。そのせいで今でもサイレンを聞くと落ち着かなくなってそわそわしちゃうとか。地震とサイレン。人の慌てて動くさまを見ていろいろ心に刻まれちゃったんでしょうね。