ケイジって学園じゃあ先輩としての評価は極端になっていそう。絡みも暴走も訳わからないとき多数で問題児。やりたい放題。だけど面倒見はいいし見捨てない。しっかり支えるし戦績は言わずもがな。
ケイジの一口メモ 爆竜大佐に引きずり回されたせいで英語は日常会話、取材を受けるくらいなら問題なし。ただし読み書きはまったく出来ない。アメリカに友達多数。
『男松風騎手覚醒か! キタサンブラックとともに日本ダービー制覇!!』
『ナギコ見事ドバイWCを制覇。5馬身の差を持っての圧勝。黄金の姫無敗のまま引退へ』
『ハイペースでのGⅠゲット。傾奇者の相棒二度目のダービージョッキーへ』
『梅沢騎手キジノヒメミコと共に欧州牝馬マイル無敗の三冠奪取。黒き国鳥と欧州を飛び回る』
「うんうん。松風君もさすが成長しているねえ。そして梅沢君。帰るとき飛行機でインタビューのメモを作っておくよう伝えておくかね」
『欧州ですげえパニくっていたもんな梅沢君。そんで英語分からないですー! を言いまくっていたのを通訳されて爆笑の嵐だったっけ。すでに動画の素材にされているし』
早くも6月。のんびり葛城厩舎で宝塚記念へ向けての調整。をしつつ今は休憩中。皆で新聞を広げてゆったりしている。とはいえ蒸し蒸し暑い季節だからみんなスポドリに水を常備して木陰での時間だがな。
しっかし、松ちゃんもブラックも成長したなあ。後続に2馬身つけての勝利は文句なしの実力を見せつけての勝利の証。俺以外との馬たちと重賞、OPの勝利はちらほらあったが、GⅠ、しかもダービーを二度目の優勝。しかもまだ20代半ばの若手ジョッキーがそれを成した。
以前俺とタケちゃんが欧州二冠を制覇した際に松ちゃんは必ず強くなるという感じの事をタケちゃんが言ってくれたが、まさしくそれを見せつけたこともあってイケメンでありながら柔らかな笑顔が似合う、マイクや楽器より鍬と釣り竿握っているほうが似合うアイドルのリーダーみたいな顔立ちもあってますます人気爆増。それにつられて競馬ブームもさらに過熱。
子供たちのあこがれる選手で野球やサッカー選手に混じって騎手の比率が増えてトップ3に混じるんだからすげえよな。
「しかし、的矢さんの所もこの件で素質馬の入厩依頼が増えたみたいですね。嬉しい悲鳴だと苦笑して、ヒメのグッズを神棚に飾ったり、ヒメにご褒美を増やしたとかなんとか・・・?」
「私のような若造が言うのははばかられるが・・・的矢さんは馬に優しすぎたからね。ただヒメ、ケイジのような練習好き、自らスパルタを課しつつも休むときは休む名馬を見て練習と甘やかす切り替えをつけたと思う。加えてあの的矢さんだ。現役時代の仕事人ぶりをここでも見せれば名門厩舎になるぞ」
「あのヒットマンの技術と経験が今度は馬の調教で、ですし・・・う、うん。とんでもないマーク戦法や調整で暴れてきそうですね・・・」
『そういう意味ではその覚醒を手伝ったのは梅沢君とヒメ。若き素質とこれまた時代に埋もれつつあった血統がなしえたかあ。ほんとドラマに富んでんねえ! しかもアメリカと日本の三冠馬、三冠候補の怪物が祖父母世代にいる子が欧州のマイルを。ねえ。わはは。ビリー牧場長ぜってえ腹抱えて笑っているだろうな』
的矢厩舎の方もヒメの暴れっぷりがやばすぎてこちらも人気爆増。しかも父父ミスターシービー、母父イージーゴアの血統が。だからね。ロマンあふれる血統でこの戦績、馬産から見てもこれはまたバリ受け広々な血統でサンデーも俺も基本つけ放題。
マイルをぶっちぎれるスピードをふざけたスタミナで押し切るので産駒のスタミナも期待大。すでにその話も上がっているし、梅沢君も俺と一戦だけどデビュー戦で大差を叩き出して、そして今度はこれ。顔立ちも松ちゃんには負けるが悪くないので人気ももりもり。
本人口からゲボどころか内臓吐きそうなほどプレッシャーでやばかったそうだけども、もう少し頑張れば慣れる・・・かもしれないからファイトよん。松ちゃんに相談したらいいよ。あいつも俺と組んで、今もちょこちょこ悩んでいるがなんやかんやベストな騎乗をしてくれるし。
「よし、ケイジ。プールトレーニングに行こうか。西日が強くなる前に練習を終わらせて夕方はゆっくりご飯を食べて休むぞ。水を飲みすぎて夏バテしないようにな?」
『へーい。まあ、風邪も夏バテも縁がないけどな。うっしょ・・・ほぉん。さー眠気覚ましにいっちょいきますかあ』
「真由美ちゃんはいつも通りケイジの寝藁の用意と、タオルやご飯の用意をお願いするよ。今日は日差しが強いし、軽めで上がるから」
「は、はい。テキ、ケイジも気を付けて」
『はいはーい。身体冷やしすぎないように頑張るぜー』
「こうしてプールトレーニングをするとこの季節が来たなあと思うよ。お前ほどの巨体でおぼれる心配がない馬は本当に珍しい。安心してみられるよ」
『馬の水泳大会があればメダルでオセロできるくらいには集めてやろうか? スタミナも折り紙付きだぜー? ホーレ潜水ー~』
やっぱりムシムシした暑い季節にはプールに限るよな。身体もクールダウンできれば筋肉もほぐしつつ鍛えられる。俺の場合は心臓が普通よりずっとでかいせいで血液の循環が早い分冷えるのも早いし、温度はちょい高めで泳ぐがやっぱりいいもんだ。
「・・・・・改めて、この時代は何もかもがおかしいものだった。ルドルフレベルが少なくともお前を含めれば4頭近くがいる。それに及ばずとも近しいレベルでいえばそれ以上。史上初を幾つもこなす日本馬たちがほぼ同世代という。
思い返せば思い返すほどにとんでもない時代の最前線で僕はケイジと一緒に歩めている。それが嬉しい」
なんでえ、急に改まって。潜水しているが耳はばっちり水面より上に出しているから聞いているのを分かっているうえで言ってんなテキのおやっさん。
「だからこそ、最後のシーズンは昔のように全勝を持たせてやりたかったが・・・春天は勝てず、お前に一番くらいつき、勝利をもぎ取ってきたあのゴールドシップが相手。しかも得意なレース場で、これまた史上初を果たした宝塚記念で相手する。
正直、ベストな調教をしているつもりだが不安が尽きない・・・あの葦毛の怪物。オグリキャップにタマモクロスを相手せざるを得なかった当時のホースマンはみなこんな感じだったのかな・・・とな」
こればかりはしゃーないよ。あいつの才能は間違いなく三冠馬レベル。頑丈さで言えば間違いなく日本最強格だ。あの破天荒ぶりと今の時代に逆行するような追い込みで戦う怪物だからなあ。俺もふざけはするが全力でやるし、その上であれなんだからほんとおかしいよ。
「世間じゃ三連敗のケイジより、宝塚記念三連覇を成し遂げるゴールドシップへの声も大きいが、だからこそ連覇を阻んでやりたい。いつもライバルたちと阻んで阻まれての戦いを最後の年でもやりつつ、お前に最高の勲章を与えてやりたい。
史上初の宝塚連覇馬ですらケイジ相手に三連覇をひっくり返された。とな」
いうじゃんテキのおやっさん。そうでなくちゃあねえ。アメリカンなノリだけど、こういうバチバチに熱い戦いは大好きだぜ俺。潜水を終わって息継ぎしながらゆったり呼吸整えて―
まあ、実際になあ。あのレース場、俺もいい位置取りしているつもりなんだけどゴルシのやつが一番馴染んでいるのと、ファンの歓声大好きだからやる気マシマシになるんだろうね。三連覇した日にはウオッカのように帰るのごねだすんじゃない?
『やるならしっかりやろうやおやっさん。万全の状態で万全のゴルシに勝つ。そうして今度こそ有馬記念同様に取れなかった宝塚をゲットして中長距離の春古馬を制覇ってな』
そうすれば葛城厩舎にも牧場にも松ちゃんにも箔がつくし、愉快になりそうだからな。どんどん盛り上げてやるぜー?
『ところで腹減ったし、飯食べようぜーそれにテキのおやっさんも汗だらだらジャネーノ』
「む? 上がるか。いい時間だし、そうだな。今日もプールトレーニングの予約は多いし早めに上がって今日は終わりだな。ああ。そうだそうだ。明日には松風君も来るようだぞ」
マジで? わーい。ダービージョッキーへ突撃インタビューしてやるぜ。さてさて、プールを上がって。あー風が気持ちい・・・いや、べっとりしてんね。ほんと、梅雨から夏になるあたりは風もムシムシして嫌だわ。
「あ、テキ。ケイジ君。はい。用意できていますし、水も程よく冷えていますよ。ケイジ君は今日は飼料多めだよ? 汗で体力を消耗しているだろうし」
おおー真由美ちゃんありがとう。んーんまい。今日も動いた分飯がうまいわ。食欲は落ちていないし、身体も万全。うん。いい感じいい感じ。
「うんうん。ケイジ君ほんと食欲落ちないね。かといって運動力も鈍りはないし、ほんと凄い・・・テキ。そういえば蓮君の全中に向けての調整。どんな感じです? ケイジ君は今年で引退・・・・・・で、蓮君も今年が中学最後の年ですよね?」
「真面目に、ここまで衰えを感じさせずに戦い続けるのはステゴを思い出すねえ。ん? ああ、蓮ね。とりあえず、周りからするとすごく面倒な相手扱いされているな。塁に出せば盗塁で場をかき回し、かといって抑えようとしたら先に出塁しているランナーが得点圏に行かされる。2アウトの状況で出すようにしないと駄目だと言われているとか」
『ひでえ話だ。敬遠したら盗塁で暴れ、相手すればバントかバスターでかき回して確実に1点を取れる布石を打つ。これ相手バッテリーからすれば胃が痛い案件だよなあ』
蓮君もまたやばい選手となって行くなあ。確か前に久保さんに聞いたときにはすでにスポーツ強豪校からも推薦の声が来ているんだっけ? あ、この牧草いつもよりみずみずしい。
キタサンブラックも来て、松ちゃんに梅沢君も活躍著しい。世代の交代をひしひしと感じるなあ・・・・俺の場合は馬の分それを一層感じるよ。ヒメにも会いたいねえ。海外でどんな風に過ごしたか。
「わ、私は野球はあまり分からないのですが、あれです? イチロー選手みたいな」
「そういわれているねえ。ただ、僕も不安になるほどにバントでチームを回す。仕事人になり切ろうとしているからねえ。一度聞いてみたけど『お父さんや馬たちを支える厩務員のようにチームを支えて、先輩・・・じゃなくて、同級生や後輩を好きに動かせてあげたい』と言われてはなあ・・・あげくにはこうして確実に点を取れればこちらのバッテリーの気も楽になるだろうし頑張る。という始末だ」
「来年は高校生とはいえ、本当に支える役を好むんですね・・・・・本当に、ふふ。凄いものです」
『だな。自ら進んで縁の下のなんとやらを狙うとは。ただしその支え役がめちゃくちゃ目立っている件について』
くっそーますます負けていられねえじゃんかよ。俺が勝って全国大会への励みにしないといけねえ。テキのおやっさんにも蓮君にも気合を入れるためにも。
水に飼い葉を浸して・・・・・あーなるほど。馬でいうところの茶漬けというか、そんな感じ? しゃきしゃきの水気と味が広がりやすいしこれはゴルシも気に入るわけだ。うんうん。染みるぜ。
そういえば全中のスタートってぼちぼちだっけ? もう始まるんだっけ?
「全国大会を優勝すればボクの貯金の中でほしいものを何でも買ってあげると言ったからなあ。ますます気合を入れているだろう。そのうちの欲しいものはケイジの勝利とも言われてな・・・ふふ。たくさん食べて沢山休むんだぞケイジ。宝塚記念はゴールドシップと万全の状態でぶつかってその上で強いんだと見せつけて来よう」
「で、ですね。頑張ろうケイジ君。私も支えるよ」
『ありがとナス。その前に真由美ちゃんは今日はしっかり休んで明日のために化粧の用意もな? 松ちゃん来るんだし』
『おぉー・・・あー? あれ? 女声・・・マジかあ。神様。流石に夢の中でいよいよ俺もウマ娘ですかい?』
『流石慣れているねえ。ふふふ。似合っているし、ほれぼれする美人だよケイジ』
『そいつぁ至極恐悦。そしてありがとうございますささ、とりあえず茶でもしばきましょうや』
夢の中でぼんやりしていたらまたもや桃源郷でとうとうウマ娘の姿になっていた俺。神様も来たので夢のなかというのを利用してとりあえず座布団とちゃぶ台、茶を用意して腰かける。
手鏡で自分の顔や容姿を見ると・・・あれ? これ久保さんと真由美ちゃんがデザインした中の俺を擬人化? 獣娘化した際にいいかもと言っていた草案の一つじゃ・・・ま、いいか。しっかし、胸がこうもでかいと確かに重いなあ。
『これはどうも・・・・うん。美味しい。長く馬として過ごしているのにいいイメージをしているね』
『神様やルドルフ爺様にシンザンひい爺様、テイオーの親父にミホシンザンの爺様らと茶をしばき合っていれば忘れねえってもんよ。皆ウマ娘になっているから舌の方は人間よりだし。でー・・・今日はどうしたんで?』
『いやいや。本当に君たちの時代、その中心に合ったケイジ達の大盛り上がりは天界でも本当に最高の娯楽だった。馬たちも、神様もかつての偉人らも大盛り上がり。そして、その周りのメンバーで大きく日本の競馬界も変わろうとする予兆がある。君というイレギュラーがまさしく波紋を生んだ』
『神様の選別眼と、ギフトあってこそですよ。あたしゃあ今や厩務員さんや周りの助けがないと明日もしれない一頭の馬だからねえ。走るのが仕事の馬なのに手足のない人間のようなものでございやすってな』
茶をすすり、羊羹をほおばりながら一息つく。夢の世界。神様もいる時は明確に記憶や五感も持ち込めるから人のころの娯楽もこうして味わえるのが本当にうれしい。ある意味俺の精神安定にも一役買っているぜ。
『ありがとう。で、その新時代もいよいよ次の時代へと変わろうとしている。君もまた現役を引退する年だ。何か渡せるものやほしいものは改めてないかなとね。本当に私の想像を超えた活躍を見せて、愉快に、楽しく時代を切り開いた傑物だからこそ、私もその行為に報いたい』
『いやあ、なら。毎度その分を他の皆に与えてくれれば。そうすれば俺に回り回って戻ってきます。最後の最後まで、既にギフトをもらっているからこそ頑丈さを持ってゴルシたちと戦える。それがすでにご褒美ってもんだから周りの人にご褒美をくれれば』
『まったく。君は本当に侍のような子だね。まあ、それなら引退後にでも何か願い事をかなえるとかしてあげるし、君の最後の競走馬としての戦いを見させてもらう。凄いよ? マックイーン、ルドルフ、テイオー、サンデー、シンザン、ミホシンザンみんなで今日はこっちが勝つんだと大盛り上がりさ』
しかもウマ娘の姿でな! あの美少女集団が競馬新聞とマグロ串とかカップ酒、飯を持ちながら激論かわす絵面とか面白すぎるわ。そこにしかも歴史の偉人とか武将らがあの馬に乗ってみたいなーとか言っているんだろ? 真面目にそれ横で眺めていたいんだけど。
『あ、なら今度その様子でも夢の中で見せてもらっていい? いや、何というか絵面がもう面白そうだなあと常々思っていたんで』
『それくらいなら何の問題もないし、ご褒美のうちにも入れないよ。ささ、そろそろ夢から覚めるね。宝塚記念。応援しているよ』
『いっちょやってきますわ。そんじゃ、神様もお達者で』
多分つぎは宝塚記念終わった後かなーと思いながら目を覚ませば空が白んでくる頃合い。そばでは久保さんが道具のチェックをしているし、朝かあ。ほわ・・・・・・・
さ、今日も頑張っていきますかね。その前に、まずは充実した日々をくれた神様と、周りの皆に感謝を。足しかないから頭を下げて祈るほかないけど。
「お、どうしたケイジ、まだ眠いのか?」
『少しねー久保さん水ちょーだい』
眠気覚ましの一杯を貰いつつ、さて、今日は何をするのかなあ。あ、それと松ちゃん。いつ来るんじゃろ。
ケイジ達の時代は終わりを歩み始め、同時に新時代、新世代は人馬共に始まります。
次回は宝塚記念。あの事件はどうなるか?