ハジケリスト世代だろ! (完結)   作:零課

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 今後もケイジのエピソードはちらほら書きますが、そのほぼ全部の終着点はここだと思ってくだされば幸いです。


 あ、それとですがこの世界のウマ娘、ケイジと関わっているメンバーは大体強化、頑丈になっております。なので戦績もマシマシ。人の分長く走れるしね。


 勝ち負けを考えずにケイジのベストバウトは皆さんは何でしょうか? 私は2013年の宝塚記念です。


 あ、あとケイジと相性のいいこち亀キャラって両さん、夏春都以外だとだれがいいですかね?


ウマ娘エピソード 17 時の河

 「欧州二冠三連覇、ドバイシーマクラシック3連覇、宝塚記念4連覇、1800、2000メートルワールドレコード更新、そのほかにも前代未聞の記録多数。やれやれ・・・皇帝と言われた私だが、これでは形無しだな」

 

 

 「こんな滅茶苦茶な成果、どれか一つでも出せば時代の頂点なのに、これが何名もだものね~本当、世界最強世代は伊達じゃないわ」

 

 

 トレセン学園職員室。そこでは新米のトレセン学園の職員として働いているシンボリルドルフ。前から懇意のトレーナーと結婚をして新婚として幸せを満喫していたマルゼンスキー。

 

 

 彼女たちから生徒会はジェンティルドンナを会長。副会長にはグラスワンダー、ヴィルシーナたちの体制に移行。レースからは早くから一線を退いたジェンティルドンナが学園のために奔走し、時折ルドルフに相談を持ち掛けるのは風物詩となっていた。

 

 

 「しかし、それも最後か・・・彼女たちが来てから本当に毎日が騒がしかった」

 

 

 「苦情に珍騒動。バカ騒ぎもあれば、取材の依頼の殺到。首をかしげるようなものまで多分ここでしかないような物ばかり」

 

 

 「かと思えば突如犯罪者を逮捕して来たり、そのために警察の方々からの感謝状のあれこれで苦心したり、突然協力してくれたりと、ふふ。おかげで多少のアクシデントは問題なくなったよ。今日も顔を合わせて話したりで楽しかった。そう・・・」

 

 

 ただ、その世代。いわゆる世界最強世代と言われたメンバーたち。その筆頭格黄金の不沈艦ゴールドシップ、ターフの傾奇者ケイジ。その両名は有マ記念をもって引退を表明。

 

 

 彼女たちの存在は国内外を問わず学園の門をたたくものが増え、重賞を手にするもの達も増え、日本ではあまり人気のなかったダート人気の到来、長距離レースへの見直しなど多くの影響を与えた。海外への挑戦も積極的となり、その代表格がドリームシアター、メジロライトニングだろう。

 

 

 そう。新時代を作り上げ、いくつも栄冠と史上初を。ワールドレコードを出した怪物たち。その大看板ともいえる二人がいなくなる。これには世間もショックを受け、常日頃騒ぎをくれたメンバーのさることを受け入れづらい人もいる始末。その中にはルドルフもいるのだが。

 

 

 「なんというか・・・実感がわかないんだ。毎日あの声が聞こえて、騒ぎが広がって、あの二人がどたばた走り回るのがあってその周りにいるメンバー。それを眺めたり、あるいはエアグルーヴと一緒にたしなめたり。愉快で、まぶしくて、私を更なるステージに引き上げてくれたりで。これがずっとあるんだっていつの間にかどこか考えていたみたいで」

 

 

 「分かるわ。毎日が楽しかったもの。今日はどんな騒ぎが起きるのか、どんな料理をケイジちゃんは作っているのか、誰とバカ騒ぎしているのかなんとなく考えていたらいつも彼女たちが思い浮かんじゃって」

 

 

 「ウマ娘として彼女たちと同世代でありたかったとも何度思ったか・・・さて・・・ケイジの引退式は・・・東北の各所に同時配信。か。震災の場所で、あの始まりの場所で・・・何を見せてくれる? ケイジ。アスリートとして君は最後に何をしてくれるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゴールドシップさん。ケイジさんと同時引退式を蹴ったというのは本当ですの!?」

 

 

 「おーマックイーン。話が早いなあ。どこで知ったの?」

 

 

 「どうしたもこうしたも! すぐにウマッターで広まってニュースにもなっていますわよ!!?」

 

 

 ケイジさんとゴールドシップさんの破天荒コンビの同時引退式の話が出た直後、ゴールドシップさんが話を蹴り、ケイジさんも震災の被災地でやるわと言って席を立つという前代未聞の会見式で引退式の変更。

 

 

 ジェンティルドンナさん、ヴィルシーナさん、ジャスタウェイさんの三名同時引退式が昨年あったのも相まってこのコンビの引退式は同時でという世間の声を見事にこの二人はぶった切ったのだ。

 

 

 「いいじゃんかよ。わざわざ詰め合わせバリューセットで売り付けねえでもさ。私は、ケイジを友として見送りたいんだ。ライバルじゃなくてな」

 

 

 「・・・友として?」

 

 

 ウマ娘はアイドルであると同時に国の期待を背負い戦うこともあるアスリート。ケイジさん、ゴールドシップさんらの世代は特にそうだ。欧州、アラブ、オーストラリア、アメリカ。各国を沸かし続け、凱旋門賞ウマ娘を何度も下し、各国のダービー所持者を征した彼女たちのその発言の大きさに流石にやり過ぎだというつもりだったのだが、ゴールドシップさんの真面目な顔と瞳にそれが出なくなる。

 

 

 「いつだってケイジは最高だった。友として愉快で、ライバルとしていつも最強でいてくれた。夏を越え、秋にはいつも快挙をひっさげて、春には桜よりもケイジとのレースが新しい季節を想わせてくれた。だからこそ私もいつも最高にレースが好きで、そのためにめんどくせえ練習もやってきた。

 

 

 肩ひじ張り合って、でも笑顔で勝つんだと言い合ってぶつかるレース。それが終われば一緒に騒がしく楽しむ。私もケイジの大ファンになっていたんだろーなー。気が付けば一緒にいない時間が少ないくらいだ。

 

 

 だからこそ、そんなアイツの親友だからこそ一ファンとしてケイジを送り出したい。リップサービスとか礼儀と関係ない。ただ一人のゴールドシップとしてケイジの最後の花道を見送りたいんだ」

 

 

「ご、ゴールドシップさん。・・・悪いものでも食べましたの? メジロ家のかかりつけ医を呼びますのでしばらくお待ちを・・・」

 

 

 「おいおい!? ゴルシちゃんはいつだって元気だぜ!?」

 

 

 いや、これを聞けば間違いなく皆正気を疑う。あのいつでもふざけまくり、訳の分からない奇行を繰り返していたゴールドシップさんがあんなにまじめな目でケイジさんを見送りたいと切に話すなんて。ケイジさんとのやり取りも暴走7割というのに。

 

 

 「で、ですがあんなにまじめに。引退式に乱入してバナナの皮をばらまくくらいはしそうだと・・・」

 

 

 「ゴルシちゃんがそんな真似するかい! ケイジとジャスタ、友達のことはいつだって真面目だぜ!」

 

 

 「あ、一応ふざけているという自覚はありましたのね」

 

 

 「そ、そんなことはないかニャー? ゴルシちゃん分かんなーい」

 

 

 そうだった。なんやかんや友達思いではあるのですのよね・・・暴走が多いだけで。ケイジさんもですが、本当にこの二人はそういう部分が隠れるほどに暴れるから分かりづらいですよ。

 

 

 とりあえず、今間違いなく騒ぎのど真ん中であるゴールドシップさんに来るであろうパパラッチやマスコミをどうするか。せめて引退式の際のパフォーマンスの練習の時間は割かないとやってられないでしょうし・・・

 

 

 「はあ・・・まあいいですわ。ゴールドシップさん。もしマスコミの騒ぎがうるさいときはメジロ家での練習設備を使えるよう融通しますので、遠慮なく頼ってくださいませ」

 

 

 「さっすがマックちゃん。話が分かるぅ♪ ケイジがいない分薄い引退式とは言わせねえ。愉快なものにしてやるための用意が必要だからな。頼らせてもらうぜ!」

 

 

 「んぶわっ! ちょ! 息が出来ないですわ! もがも・・・ぐ」

 

 

 この後、ゴールドシップさんに抱きしめられたままおばあさまに連絡を取れば問題なしとの即答と『ケイジの暴走でこうなるのは予想がつきましたし・・・』と重くため息をつく様子にきっと過去を思い出したのだろうと思いましたわね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅぃー・・・ありがとな松ちゃんに名瀬ちゃん。引退式のためにあれこれしてくれて」

 

 

 「ケイジの最後の舞台だ。しっかりやりたいことをやれるに越したことはないよ」

 

 

 「ええ。あくまでも主役はケイジであり、ファンの皆も振り回されるのを楽しんでいる。最後まで傾奇者らしく振る舞って」

 

 

 いやーアタシとゴルシの同時引退式のキャンセルと即バックレしたが。周りも理解していたというか仕込んでいたからどうにかできてよかった。

 

 

 馬時代に同時引退式はしたし、ゴルシもアタシを個人的に見送りたいと言ってくれたしな。最後まで好きにやらせてもらうさ。

 

 

 「それに、ほら。騒いでいるのはマスコミくらいで、世間の、貴女のファンは面白いわね。もう馴染んでいるわ」

 

 

 「どれどれ・・・? わははははは!」

 

 

 ウマッターやネットの書き込みをみれば『まあケイジだし』『今まで好き放題しつつ楽しませてくれたんだし、いいんじゃない』『無事開催が決まればそれでよし。むしろいつも通りで安心した』という書き込みがほとんど。なんだなんだ。わかってんじゃないの~

 

 

 「今まで散々滅茶苦茶している中ついてきているファンたちだ。それに、引退式の場所もまたケイジたちの始まりの場所だしね。納得するだろうさ」

 

 

 まあ、ライブの選曲を変える。空から登場したりライブのスクリーンを車で破っての登場。これくらいは日常茶飯事だしなあ。これくらいしても問題ないってか? なはは。麻痺してんなあアタシもみんなも。

 

 

 「まあ・・・そもそもケイジの始まりはルドルフ越えを公言しているところから始まって、気が付けば世界最高峰の戦績を残している。これくらいはついてこれないと駄目だと皆も思っているのでしょうね」

 

 

 「ゴールドシップ、ジェンティルドンナ、ヴィルシーナ、ホッコータルマエ、ジャスタウェイ、フェノーメノ、シゲルスミオ・・・多くの怪物たちの世代でこのメンバー皆がGⅠを複数手にしているし前代未聞の記録多数・・・ケイジの強さは僕が知っているけど、よくこの記録が残せたよ」

 

 

 はは。まあ、これ以上は残せないがな。もう最後だ。だからこそ。いいものにしないとなあ。

 

 

 「さ、松風君。一緒に最後の調整にいこう。ケイジの晴れ舞台。整えに行くし、例の元暴走族集団。彼らと顔が利くのは君だろう?」

 

 

 「いや、あれはどちらかと言えばオカマバーと葛飾区の警察の皆さんが・・・おーいケイジ、しっかり寮で休んでおくんだぞー」

 

 

 あいあい。名瀬ちゃんと松ちゃんに手を振って見送りつつ。目の前に来たのはスズカ。

 

 

 「ケイジ。引退式の前から暴れたわねえ」

 

 

 「なはは♪ まあなーま、マスコミさんらの勝手も協会も知ったこっちゃねえや。最後まで好きにさせてもらうぜ」

 

 

 いやー・・・綺麗になったというか、マジで人妻になってから色気が増したなあ。スピカのトレーナーとっ捕まえて幸せになっちゃってまー子供が見れる日も近いかしらん?

 

 

 「っふふ・・・期待しているし、ケイジ。貴女と大逃げの練習をしたり、レースのことについて語り合えるのは楽しかったし、私、まだ満足できないの。引退してからも是非、一緒に走らない?」

 

 

 「欲求不満かー? あんなにトレーナーののろけを聞かされているが好きものだなあ」

 

 

 「あ、あの人とはもちろん問題ないわよ!? ただ・・・スぺちゃんたちや、後輩のキタちゃんサトちゃんの話を聞いていると、私もまだまだ走りたくて・・・」

 

 

 キタちゃんは逃げのスタイルだし、スズカにはなかった規格外のスタミナ持ちだものなあ。ありえたかもな未来を見せられてまだまだやれると火がついたのかもしれん。

 

 

 まあ、この世界引退したウマ娘や非公式でもレースに走りたいウマ娘のためにちょびっとの賞金だけど出られる草野球ならぬ草レースもあるからそこで走りますかねえ。大逃げ対決だからー・・・・2000メートルくらいか? ジャスタウェイも誘うか―

 

 

 「なら、前田家の専属医紹介するからそこでみてもらえよ? 骨の強化と維持もしっかりと。もしやべえ病気でも知り合いのクロオ先生に診てもらうから」

 

 

 「確か・・・マックイーンの脚を治してくれた名医よね? かなり独特の白黒の髪の毛につぎはぎの傷跡が特徴的な」

 

 

 「ああ、いい人だし、今度アタシ特製のラーメン食べる約束しているが会ってみるか?」

 

 

 マックイーンの治療費。アタシから上乗せしてやったなー『代金は復帰レースの賞金とそのグッズの売り上げの利益全て。びた一文負けませんぜ』『ああん!? 安いわ!! 5億アタシが追加で出す!! 必ず手術をやってくれよ先生! この名優の脚と未来にはそれを出しても安いと思わせる価値がある!!』『お、お願いします! まだわたくしはターフの上でのライバルと競いたい! 走りたいのです!!』『その言葉が聞きたかった。そこの傾奇者の代金の分しっかり面倒は見せてもらいましょうか』だっけか。

 

 

 ははは。いやーあの後一緒に楽しくラーメン食ったらそのラーメン代ってことでアタシとマックイーンのだすお代は本来の3割になったっけ。『名優と傾奇者の作る絶品料理を食べつつご一緒で来たのでサービスしておく』とか。カーッ。キザだが似合うこと言いやがって。家も約束の大工と一緒に新築にできたしで。いいことづくめだぜ。ま、無理やりアタシは5億押し付けたが。

 

 

 「ええ。ああ。それとねケイジ。私と一緒に今まで大逃げの練習をして、支えてくれてありがとう。アメリカの遠征の際もビリートレーナーの支えもあって快適だったし」

 

 

 「いやーむしろあっちも大助かりだったそうだぞ? 何せ日本最高峰の大逃げの天才が来たと盛り上がったのなんの」

 

 

 真面目にミドルディスダンスの世界最強格は誰か。で日本のウマ娘の世界の知名度ではサイレンススズカ、ジャスタウェイがまず上がるレベルだもんなー。その一角が来て重賞を勝ちまくって、スピードレースが売りのアメリカの精鋭を振り切って子ども扱いしたんだからそうなるわ。

 

 

 後は―・・・馬時代の関係性を考えればサンデーの牧場にサンデーの子どもが来て暴れたんだからそこの関係もあって殊更に痛快に感じたんだろうなあー。ビリーのおっちゃんアタシと会うたびにスズカの事褒めていたし。

 

 

 「ありがとう。ね。ケイジ。最後まであなたらしく好きにやってきてね。いつもどんなレースでも好き放題で全力のあなたの姿に私も元気を貰えたの。だからこそ、その在り方を応援するわ」

 

 

 「おう! じゃ、アタシもマスコミから逃げつつ仕込みの用意してくるからまったねー♪」

 

 

 さてさて。大逃げ同士で心地よくレースをするためにも。いっちょ奇麗に締めくくりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『さー皆! ケイジちゃんのライブ。どうだったぁ~ん? 楽しかったかーい!!』

 

 

 大歓声で応えるケイジへの返事。いよいよ始まった。始まってしまったケイジの引退式。記者の僕としては当然行くのだが、いい記事が書けるかという心配と、寂しさが胸をしめてしまう。相変わらず見せるダンスも手品もトークも歌も何もかもが一級品。

 

 

 世界で認められる。パフォーマンスのみでの依頼ですら多く、億単位の金を平然と動かす世界のアイドル。GⅠ30勝をしているウィンクガールが唯一勝てなかった最強の傾奇者。その伝説が最後の火を燃やし、終わろうとしている。

 

 

 『アタシのバカ騒ぎに最初から最後までほんと良くついてきてこれたよなー皆。覚えているだろ? ここでルドルフ越えの伝説作るんだーって言ってよ。笑われたもんだぜ』

 

 

 ハスキーボイスの女の声から愉快で七色の男性の声まで出してはやりたい放題。レースも両極端な運びで海外での負けは一つのみ。ダービーウマ娘6人以上を凱旋門の覇者としてまとめてねじ伏せるなど快挙に事欠かない怪物の頂点。

 

 

 そんな彼女の、ケイジの最後のライブは始まりの東北でのもの。レースの賞金はことあるごとに募金をして、芋煮会などのイベントに、多くの祭りに参加してはお金を入れて復興の支えにしては盛り上げ続けた。その活動は世界へと広がり多くの支援があって今や東北の復興もかなり進んできている。本当に、新時代を作り続けたのだ。

 

 

 『だけどよ、気が付けばアタシに負けないライバルで親友らと心底楽しく競い合っていたら世界最強世代と呼ばれて、その通りの強さをみんなで見せて暴れまくった。まったく、分からねえものだよなあ。もう超えることのないと言われたルドルフ、オグリの時代を超えたんだぜ? しかも三冠ウマ娘レベルがたくさん! 笑うしかねえよ』

 

 

 だけどそれももう終わる。彼女というウマ娘が表舞台のターフで走ることはもうない。引退した後に公式のレースには走れない。精々地方や市町村でやっている草レースで走るくらいが関の山。世界に名を刻む記録も戦いももう見れないのだ。

 

 

 (わかっていたはずや・・・)

 

 

 怪我らしい怪我もなくここまで戦い続け、記録を残したことの偉業をたたえるべきであり、記者としてもその発言を全て聞き逃さずに文字を書き起こすべきだ。

 

 

 『ま、そんな時代も。アタシらの時代ももう終わりさね。老兵は去るのみ。アタシとゴルシもこれで最後。ターフの上でみれてもよくて実況解説ぐらいだろうさ』

 

 

 ただ、それ以上に悲しさと行かないでほしいという気持ちが勝る。

 

 

 『みんなもそういわねえでくれ。もうあの時代は完成している。これ以上余計に長く走ろうとしてもそれは蛇足でしかない。みんなやり切ったんだ。アタシもゴルシもジャスタも。みんなみんな戦い抜いてできた時代だ。これ以上の栄冠は求めない』

 

 

 観客も皆悲しく去らないでくれと黄色い声も野太い声も交じる。同時にこれは僕の気持ちの代弁でもある。このスターが去ることを想像できなかった。日本ウマ娘の世界に永劫求め続けた栄冠と、新たな道しるべとなる記録を幾つも打ち立てた。

 

 

 レース中に爆笑して失速することもあればタックル勝負を繰り広げ、変顔勝負をしては目を回してレース前にぶっ倒れ、ファンサービスのために勝負服以外の服を何着も持ってきてはファッションショーをやらかす。海外のレースでもやりたい放題。騒がしく常にテレビで、動画で奔放に過ごすさまは元気を貰えた。

 

 

 『ま、だからよ。ここでファンの皆にはアスリートとして、アイドルとしてはお別れさね。そりゃあ悲しいことではあるぜ? でも同時に、嬉しいことでもある』

 

 

 怪物たちの世代を幾つも煮込んで濃縮したような栄光と地獄のごとき戦いの時代。苛烈も苛烈なその時代の頂点。そのケイジから紡がれる言葉を聞き逃すまいと耳を立てる中、ケイジの発言に観客一同がざわめく。

 

 

 「嬉しいこと・・・? どういうことや」

 

 

 去ることが嬉しいこと。走ることを強く本能で喜んでいる。楽しんでいるウマ娘。そのケイジがターフを去ることを良しと言った。思わず耳を疑った。あれ程にいつも心底楽しく勝ち負けを満喫していたあの子が何を。そう考えていた僕・・・いや、僕たちの思いはケイジがすぐに吹っ飛ばした。

 

 

 『アタシたちの時代が終わる。それはまた新しい時代が、スターが現れるわけだ。アタシ達だけじゃあ飽きちまうだろう? 時代が次に進んでいく。次のアタシ達にはない、あるいは超える才能が表れてくれるかもしれない。ワクワクするじゃあないか。皆も想像しえなかったルドルフ、オグリを越えたスターたちが生まれたあの快感をまた味わえるんだ。

 

 

 想像してみなよ。アタシがかつてシンボリルドルフの記録を超えると言ってスタートした競争人生を。それを今度はアタシたちの記録を越えてやると言って挑みに来る若い才能たちが来るんだ。アタシ達にはない個性と才能を。夢を持ってアタシ達で描けなかった絵を見せてくれる。全く痺れるねえ・・・最強と呼ばれたものを次の時代が超えようとしていく。そいつらに舵を渡せるんだ・・・面白くてたまらない』

 

 

 その発言にハッとさせられる。そうだ。ルドルフ以上のスターは出ないと言われた中現れたオグリキャップら三強。タマモクロス。彼女らが時代を引っ張り、そしてケイジやスペシャルウィークたちの時代がさらに盛り上げていった。

 

 

 時代は変わるが、そこに次のスターがいる。そこに希望を託すことを見据えているケイジの発言に落ち込んでいた空気がガラリと変わりワクワクしたものに変わる。

 

 

 (ホンマ・・・この子は学生かいな・・・シンボリルドルフもそうやったが・・・持っている空気も視点も、学生のものやない)

 

 

 『そしてその才能は既に現れ始めている。菊花賞を逃げ切るスタミナと頑丈さを持つ子がいたか? マイルで欧州、アジア三冠をそれぞれ狙える器がいたか? 大物がすでに出てきているじゃねえか。

 

 

 今日はアタシの引退と同時に新しい時代の門出を祝う日でもある。そんな日に集まってくれたファンの皆に一つ頼みをアタシはしに来てもいる。聞いてくれるか?』

 

 

 彼女の言葉に誰もが『問題ない』『何でも言ってくれ!!』『ケイジちゃんの頼みを断れやしねえよ!!』という声が響き渡る。それを聞いたケイジはにやりと微笑み、語気を強めていく。

 

 

 『よーく言ったぁ!! それでこそアタシのファン・・・いや戦友(ダチ)だな! なら聞きやがれ!! あんたら皆今日をもってレースの上でのターフの傾奇者ケイジへ向けた情熱を、次世代の、アタシのいかした後輩たちに向けてやれ!!

 

 アタシたちの栄冠を支えたその力を、思いを、優しさを次の時代に向けて愛してやってくれ!! そうすればやってくる次の時代は、必ず現れるそのスターたちは・・・・・・

 

 

 

 

 絶対に!! アタシ達の、いくつものあの時代たちを色褪せさせるものにはならねえ!!!』

 

 

 

 (ホンっまにこの子・・・・・何度僕らを魅了させるんや・・・泣いてしまうやろ・・・・!)

 

 

 セントライトの時代が、シンザンの時代が、ルドルフの時代が、いくつもの時代があり、そのどれもが最強を、かつての時代を越えようとして輝いていた。その時代の一つになるのを喜び、なおかつファンを戦友とまで言い、後輩たちを愛してくれとまで言う。

 

 

 この器を取材できたことを誇りに思う。この時代を知れてよかった。愛せてよかったと思う。もっと言うべき、似合う言葉があるはずで、それを書くのが記者の仕事でもあるはずなのに、それ以上が絞り出せない。

 

 

 大歓声が沸く。泣きながらもちろんだと叫ぶ男性がいる。ケイジの分まで見守るという女性がいる。号泣しながら言葉に詰まりながらも何度も頷くオカマもいる。にっこりと満面の笑みで微笑むケイジにコールが飛び、泣き声から笑い声と合唱が響き渡る。

 

 

 『よっしゃ! ならみんなで次の時代を見守ってくれ。そして・・・・・バトンタッチだ! 頼んだぞ。次世代のエース候補!』

 

 

 その中でケイジは自身の・・・さる御方から頂戴したものとは別の黒の羽織。それを自身の耳飾りと一緒に髪をまとめていた紐でまとめて投げ飛ばし。その先には・・・キタサンブラックがいた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 「は、はえ!?」

 

 

 『アタシからの餞別だ!! 持っていきな。これからの時代を背負う一人として応援しているよ!

 

 

 じゃー皆とは名残惜しいが、いい加減次世代にその元気を渡さなきゃあいけねえ。だから皆! 最後にアタシを笑顔で見送ってくれ! それが終わればそこからは後輩たちへ気持ちを向けてくれよ!』

 

 

 ケイジの後ろのスクリーンにはケイジへ贈る言葉をみんなで叫ぼう。という表示と同時に始まるカウントダウン。だんだんと数字が小さくなり、そして1から0になった時。

 

 

 「「「「「さよーならー!!! ケイジー!!!!」」」」」

 

 

 『っ・・・ぁあーりがとーよぉおーーっ!!!』

 

 

 言葉を聞くや背を向けながら高く手をあげて応えるケイジ。その後ろからも分かる顔には笑顔と、一瞬だけ、大きな雫が流れていた気がした。

 

 

 この引退式は世界中でニュースとなり、誰もがその引退を惜しみ、あるいは笑顔で見送った。誰もが認める功績を作り上げた怪物の中の怪物だが、それでも決して勝ち切れる相手はいなかった世代。その最後の輝きはまさしく最後まで世界を揺らし、ケイジの言葉はまた世界中のウマ娘に、ファンたちに新たな火をともした。

 

 

 最後の残り火を見送るはずの引退式は、再び世界中にターフで戦うウマ娘たちの火をつける大炎となって広がったのだ。その一助を担えた僕は、一ファンとしても何もかも支えてもらった僕はこれからもこの業界を支えなければいけない。記者として、男として、ファンとしても。頑張っていこう。どこまでもそう心に刻ませてくれたケイジに感謝を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「かいちょ・・・ではなく、ルドルフさん。書類が完了しました」

 

 

 「ああ、ありがとうエアグルーヴ。君も不慣れなはずなのにこうして支えてくれてありがとう」

 

 

 「いえ、むしろルドルフさんこそせっかくの良縁に恵まれたのにこうして多忙な身。少しでも楽になれば・・・」

 

 

 「それを言えば君こそだろう? あの女帝が良妻となって君の旦那からのろけ話が絶えないよ」

 

 

 「なっ・・・も、申し訳ないですルドルフさん。まったく・・・後で叱ってやらねば・・・」

 

 

 私、エアグルーヴとシンボリルドルフさんは、互いにトレセン学園から卒業・・・いや、生徒会のために卒業を伸ばしていたのである意味では戻ってきたと言えばいいのだろうか。今もトレセン学園で職員の一人として働いている。

 

 

 互いに良縁に恵まれたと言っていいのだろう。私から見てもいい殿方を捕まえ、結婚してもこうしてウマ娘のために職務に励み、次期学園理事長確定と言われているその手腕は学生の頃を越えて磨きがかかっている。既に部署トップの片腕となって動いていることからもそれは一目瞭然だ。

 

 

 「ふふふ・・・ほどほどにしてあげてほしい。それほどに君を愛しているという証だし、君の一面を知れるのは私も嬉しいのでね」

 

 

 「分かりました・・・ルドルフさんこそ、最近が身が入っていない気がするのですが、大丈夫でしょうか?」

 

 

 「そんなことはないよ」

 

 

 「いえ、時折ぼっとすることがありますし・・・不調。若しくは・・・ケイジの引退ですか?」

 

 

 ピクリと片眉が上がり、分かったかと言わんばかりに息を吐くルドルフさん。図星だったようだ。

 

 

 「まあね、あの竜巻のような彼女たちがいないことがこれほどに喪失感を感じるとは思わなかったよ」

 

 

 「まあ・・・気持ちはわかります。あの騒ぎが無いと本当に毎日が平和・・・平和すぎる程ですし」

 

 

 シリウスに残ったメンバーも騒がしいのだが、ラニは抑え込めるメンバーがいるのとやはりあの規格外たちの暴走がないのが今も賑わいを見せるこの学園をどこか寂しいと感じるほどには感じていた。

 

 

 それはあの世代たちが学生としている頃を知っているメンバーは同じようであり、学生でもその差が出ているあたり本当にあの世代はどれほど暴れていたかを再度思い知る。

 

 

 ケイジ達が引退して早数か月。まだあの騒がしさを寂しがるほどにはあの日々は賑やかすぎたのだ。

 

 

 「全く。理事長とたづなさんであの奇行による被害の見積書やまさかの報告書に驚いていたころが懐かしく思えるものだよ」

 

 

 「毎日のようで、海外に遠征していてもゴールドシップがいるわで・・・本当に・・・む? 失礼します・・・・ルドルフさん。これを」

 

 

 毎日怒っていたばかりの日々だが、思い返せばそれもまた懐かしく、同時に刺激になっていたとは思う。意識してしまう故に彼女たちに負けまいと奮起していた日々も。

 

 

 思わず二人で思い返している中、スマホにメールが届き、旦那からのメール。要件はこれを見てみろ。開いてみたその内容と動画に驚きを隠せなかった。

 

 

 『いやっほー♪ みんな元気かーい? ケイジちゃんだぜー。始まりましたネット配信番組ウマ娘どうでしょう♬ ターフでの戦いは終わったけど、今度はこっちで緩ーくやっていくぜ。ま、いろんな企画をやっていくつもりだからよろしくな。

 

 

 じゃ、まず栄えある第一回はキタサンブラックのおじいちゃんを捕まえてきて企画に連行じゃい! いざ鎌倉!』

 

 

 動画にはケイジとゴールドシップが車に乗り、何やら動画企画を持ち上げて楽しげに話す二人。動画投稿者としてやっていくぜと書かれたそれと内容の破天荒ぶりに思わず私とルドルフさんは苦笑してしまう。

 

 

 「変わらないな・・・彼女たちは」

 

 

 「ええ・・・いつだって自由なのにみんなを笑わせています」

 

 

 「よし。なら私たちも私たちなりのやり方で皆を笑顔にしよう。さ。エアグルーヴ。次の案件は何がある?」

 

 

 「はい。それが終われば動画を見ましょうか。では・・・・」

 

 

 いつもの表情に戻ったルドルフさんを見て、私も笑顔で仕事に戻る。後で旦那にはお土産を持っていくことを考えつつ、ケイジへの感謝も。

 

 

 あの傾奇者たちのこれからはどうなるのか。楽しみが増えたことに感謝しかない。




 ケイジなりのバトンタッチ。次世代へとしっかりタスキは渡しました。


 これからケイジはキタちゃんのおじいちゃんや志村ヘンさんを定期的にアメフト部の皆さんで捕まえては海外ロケしたり、急にレース場に現れてはイベント起したりします。あと鍬が似合うアイドルと一緒に色々したり。プロ野球の応援に駆けつけてはアクロバティックなパフォーマンスで応援合戦したり。


 ウマ娘どうでしょう


 企画 ドリジャ 脚本 ジャスタウェイ 音声 ナギコ 小道具 オルフェ メインキャスト ゴルシ、ケイジ、ホッコータルマエ、テイオー


 提供 メジロ家 前田家 中川コンツェルン 超神田寿司
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