日本国召喚 異世界の異邦人   作:アニキ イン ザ スペース

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第十一話 異世界の異邦人

中央歴1640年(西暦2016年) 1月28日 日本国東京都新宿区四谷 韓国文化院 

 

元独島警備隊、カン・ジュンソが仲間達と共に日本国転移に巻き込まれてから1年が経過していた。

在日韓国大使館にて独島警備隊の解散式を行った後、新たな生活を開始した元独島警備隊の隊員達だが、この日本での生活は苦難の連続であった。

多くの在日韓国人は悲劇的な運命を辿った独島警備隊に同情こそはしているが、彼らを「独島を見捨てて逃げ出した臆病者!」と言う心無い事を言う人々も多く存在するが故に、日本語が喋れず必然的に在日韓国人のコミュニティーに依存せざるを得ない彼らは肩身の狭い存在となっていた。

多くの元隊員達が名前を変え、自分が独島警備隊の隊員で在った事を伏せての生活を余儀なくされる……そしてこの様な状況化に耐え切れずにこれまで3人の元隊員達が自ら命を絶ってしまった。

 

自殺した元隊員の中の1人に、ジェンソとも仲が良く、独島警備隊では通信を担当していたチョン・イドゥンがいた。

警察から見せてもらった彼の遺書には「祖国に戻る術も無く家族と二度と会う事が出来ず顔見知りすらいない日本での孤独な生活……さらに職場で元独島警備隊員で在る事がバレてしまい居場所を失ってしまった事……そして後輩であったホン・アンソンを助ける事が出来ず、自分だけのうのうと生きている事に耐えがたい苦痛を感じる様になり、生きて行く理由を失ってしまった……自分だけでも独島に残ってそのまま朽ち果てれば良かった!」と書かれていた……。

ジェンソは今、新宿区四谷に有る韓国文化院で在日韓国人向けの韓国語ネットニュースの編集者として働いている、ここで務めている人々は編集長を始め皆がジェンソを元独島警備隊員で在る事を知りつつも彼を快く迎えてくれた……そして、そんな自分がとても幸運で有った事をイドゥンの死により知る事となった。

 

異世界に転移したとはいえ、1月の東京は地球にいた時と変わらない寒さが続く中、編集部で業務をしていたジェンソは他のスタッフ達と共にこれからテレビで放送される日本政府の会見が始まるのを待っていた、何でもこの放送は通常のデジタル放送の他に魔導通信と言う異世界由来の技術を使って世界に同時放送されるらしい。

そして放送が始まり、内閣官房長官の挨拶の後、映し出された録画映像には異国の軍装を着た騎士団と共に民族衣装を着た黒髪の美しい女性……この世界の列強国であるパーパルディア皇国の侵略で滅亡したと言われているアルタラス王国のルミエス王女が映し出され、彼女はその容姿とも釣り合う美しくも力強い声で演説を始めた。

 

だが、ここに居るジェンソを始め韓国人スタッフ達にはルミエス王女が話す異国の言葉が分からない、テレビに表示される字幕放送を読む事で韓国人スタッフ達はその内容を理解していたが、日本に来て一年も満たないジェンソは日本語の会話を少し覚えた程度で文字に関しては半分も読めないので、隣に居るスタッフの女性に通訳して貰っていた。

 

そしてルミエス王女の演説が終わると再び内閣官房長官が映し出され、日本国はルミエス王女を君主とした臨時政府を正統政府として承認し、さらにフェン王国に侵攻していたパーパルディア皇国の陸海軍を自衛隊がフェン王国軍と共同で壊滅させ、占領されていたニシノミヤコを解放した事を発表した。

 

「おい! 日本の部隊が出発したのって昨日だろ……早すぎないか!!」

 

「それにアルタラス王国は日本に臨時政府を置くって事か!? まるで日帝占領時代の大韓臨時政府の様な話だな……。」

 

「だけど、このまま戦争が続いたら、日本に居る私たちまで巻き込まれるかもしれないわ?」

 

「でも、あのお姫様、凄い美人だから……俺、応援しちゃうな!」

 

突然の発表に騒然となり、編集部に居る韓国人スタッフがそれぞれ思い思いの事を話している中、ジェンソも自分が思った事を皆に話してみた。

 

「そう言えば、異世界人の言葉って初めて聞いたけど、本当にチンプンカンプンですよね……日本の外交官達ってどうやって会話しているんだろ?」

 

その言葉を聞いた編集部のスタッフ達は最初は怪訝そうに顔を見合わせたが、ある事に気づいてジェンソに話しかけた。

 

「そっか……ジェンソは転移してから最初の2ヶ月は独島に居たんだから、あの事は知らないよね!」

 

「あの事って……俺が日本に居ない時に何かあったんですか!?」

 

ジェンソの横にいた女性スタッフが“あの事”について話してくれた……それは去年、日本国が異世界の国々と国交を開く中、どの様にして日本政府はこの短期間で異世界国家との交渉を可能にしたのか? と言う謎を韓国を含む各国の大使館が調べていたのだが、日本は異世界の言葉を短期間で解析した訳では無く、何らかの作用で日本人にだけ異世界人との会話が自動的に翻訳されているらしい。

実際、日本にクワ・トイネ大使館が開設された時の記念パーティに招かれた各国の外交官がクワ・トイネ人と会話を試みるも、誰一人として日本人の様に直接クワ・トイネ人と会話をする事が出来なかったのだ……。

 

「そんな事があったんですか……しかし、どうして日本人にだけそんな事が?」

 

「それが当の日本人達にも解らないらしいのよ……だから私たちはこの事を“神様のえこひいき”って呼んでいるわ!」

 

ジェンソは彼女の“神様のえこひいき”と言う言葉に思い付く事があった……それは日本が異世界に転移した時に、独島や自分達を含めロシアの北方4島と言った島々まで転移されてしまい、まるでこれらの島々を日本の領土だと認める存在が居るのでは!? と思った事があるからだ。

そして日本人だけが、この異世界の住民と何も障害も無く意思の疎通ができると言う信じがたい事実……ここまで理解を超えた出来事が起こると、何やら日本を贔屓している“超越した意思”……神の様な存在が介入しているのではないかと思い始めた。

だが、その神の様な存在はどうしてこの国をこの異世界へと転移させたのか……天罰? いや、罰する目的で異世界へ転移させたのなら異世界人と会話できたり、独島まで転移させるなんて事はしないだろう、ならば何の為に……。

 

そして、この日よりジェンソは日本と自分達が何故この異世界に転移したのか、その理由を探し求める事を密かに決意するのであった。

 

 

中央歴1640年(西暦2016年) 8月28日 日本国東京都千代田区永田町 首相官邸

 

この異世界に転移してからの二度目の夏も前世界の時と同様、うだる様な蒸し暑さと蝉の鳴き声が騒がしく聞こえる例年通りの夏日となった。

ここ首相官邸2階の南会議室では内閣府参事官の中田を進行役として各官庁の幹部が集まり恒例の会合を行っていた。

 

この8月でパーパルディア皇国に対し大規模な攻勢が行われた為、ほぼ連日の如く首相官邸での会合が続いているが、今回の議題はパーパルディア皇国では無く、ロシア大使館職員が起こした事件に関しての報告であった、中田の手元には先週の新聞の切り抜き記事が置かれていた。

 

夕月新聞・8月25日 朝刊――海上保安庁 ロシア貨物船を拿捕、船内には大量の武器と弾薬

 

第一管区海上保安本部によると8月24日昼頃、北海道稚内市沖約150kmの海域にて新世界技術流出防止法違反の容疑の為、リーム王国へと航行していると思われるロシア船籍の貨物船マルスコーイ号に第一管区所属の巡視船「つがる」と「もとうら」が接舷を行いこれを拿捕、稚内港に回航したとの発表があった。

本件において海上保安庁・特殊警備隊(SST)が投入されヘリコプターによる降下作戦後、船内に突入した特殊警備隊によりロシア国籍の船員7名及びロシア軍将校と兵士3名、さらに通訳の日本人1名を関税法及び新世界技術流出防止法違反の容疑にて逮捕した。

海上保安庁により拿捕されたマルスコーイ号は稚内港に回航後、船内を調査した所、ロシア製AK-74M自動小銃が300丁以上、7.62mm弾薬が推定1万5千発以上が見つかり、その他にもRPK-74M軽機関銃やRPG-29対戦車擲弾発射器が数十丁発見され、いずれも押収済みとの事である。

また、国内に滞在して密輸の手引きをしていた4名のリーム王国使節団員とロシア側でリーム王国への武器密輸を主導したと思われるロシア大使館職員イゴール・ガブレブスキー駐日一等書記官を拘束するも外交官への不逮捕特権にて釈放、これを受けて外務省は4名のリーム王国使節団員とガブレブスキー駐日一等書記官に対し48時間以内の国外退去処分を通告した。

ガブレブスキー駐日一等書記官は48時間以内に身元の受入国が見つからない場合、外交官資格を剥奪され同容疑にて逮捕される模様である。

 

「どうやらこれでロシアとの問題はケリが付きそうだな、それに異世界国家への武器密輸を阻止出来て何よりだ!」

 

海上保安庁の幹部から報告を聞いていた、中田参事官は笑みを浮かべつつ頷きながら語った。

 

日本と共に異世界へ転移して来た、択捉、国後、色丹、歯舞群島の4島には3500人程の極東ロシア軍の兵士と1万4千人を超えるロシア人の民間人が在留しており、転移当時の日本政府はロシア大使館が北方領土を拠点として異世界で独自に外交活動を行う事を最も恐れ、問題視していた。

しかし、前世界の2014年にウクライナで勃発したクリミア半島危機の影響でロシア共和国は極東方面への軍事物資の補給が滞り気味だった為か、転移時の北方4島は火力発電所の燃料を始め各種物資が不足している窮状をロシア大使館側に訴えていた事が自衛隊の無線傍受により発覚しており、さらに国後島に近い根室市や標津町には様々な理由でロシア人が頻繁に訪れる様になっていた為、日本政府はロシア側が独自に異世界国家との交渉を行える状況では無い事を把握するに至った。

 

この状況を踏まえ、日本政府はロシア大使館に対して異世界国家との交渉を行わない事を条件に北方領土のロシア人に対して食料や燃料等の支援を行いつつ、北方領土問題を話し合いで解決する方針を取っていた。

対するロシア側は、竹島の独島警備隊が辿った悲劇を見ている上に、これまで供給を依存して来た本国との繋がりが途絶え、北方4島の1万7千人を超える人々が島で自活生活を行う事は不可能なので日本への投降やむなしと考えるグループと、少数派ながら意地でも北方4島を自国領土として堅持しようとするグループに分かれ紛糾していた。

 

その様な中、日本への投降を支持していたグループのメンバーであるイゴール・ガブレブスキー書記官がリーム王国から来た使節団員の特使と日本人通訳を経由して接触を行っている事が警視庁外事課の調査により判明した。リーム王国使節団はガブレブスキー書記官に魔法通信装置を渡して密かに交信を行っていたが、警察庁で新たに発足した“魔法通信情報解析班”により魔法通信を傍受され、ガブレブスキーと一部の将校達が日本への投降前に、不要となる武器を異世界国家に密売し不正な利益を得ようとしている事と、リーム王国への武器の引き渡し日とその方法が日本側の知る所となった。

 

「ガブレブスキー書記官の逮捕を受けて、ロシア大使館の職員に聞き取りを行った所、事前の調査通り書記官個人が数人のロシア軍将校を巻き込んで行った犯行で在る事は間違いない様です。」

 

警視庁の幹部はガブレブスキー書記官を昨夜逮捕した事と、これまで得た情報について淡々と報告を進める。

 

一度は外交官特権により警察からの逮捕を免れたガブレブスキー書記官であるが、外務省は書記官に対し外交官への国外退去処分「ペルソナ・ノン・グラータ」を通告、これに伴い日本国に大使館を開設していた異世界国家の各大使はガブレブスキー書記官の入国拒否を宣言、さらに彼と取引をしていたリーム王国ですら日本との関係悪化を恐れ書記官の受け入れを拒んだ為、27日に外交官資格を喪失し、関税法及び新世界技術流出防止法違反の容疑で警察に逮捕されていた。

その後、警察は事前に調査した情報の裏取りを得るべくロシア大使館の職員から聞き取りを行ったが、本国との繋がりを失っているロシア大使館の職員は前世界の時の様な傲岸不遜な態度を取る事も出来ず、ただ日本の警察の聞き取りに応じるしかなかった。

 

「ロシア大使館の職員がこうも簡単にこちらの聞き取りに応じるとは……連中も相当弱っているって事だな。」

 

中田参事官がそう呟く中、次の順番が回ってきた外務省幹部が進捗報告を行う。

 

「これまで北方4島のロシア兵に行ってきた離反工作も予想以上に上手くいっています、後はロシア軍指揮官が島に残された武器の引き渡しに応じてくれれば北方領土問題は解決したも同然となります!」

 

外務省は北方領土に在留するロシア人への物資支援を行うさなか、ロシア軍の兵士や島に住んでいた住民に対し、日本本土へ移転すれば住居と就職先の支援の上、一時金の支払いを行う事を提示し、島を出ようとする人々に対する支援活動を行っていた。

現に北方4島内に駐屯するロシア軍を始め島民達の生活環境が悪化しており軍民共に士気が低下している事と、ロウリア戦争後の日本が好景気になった事も有って島を離れる人々は日を追うごとに増えていき、これに対しロシア側はその動きを止める術が無かった為、8月までに兵士や住民達の4割近くが北方4島を離れ北海道を始め日本本土側へと移り住む様になっていた。

 

「とりわけ今回の書記官逮捕の件は、次のロシア大使との交渉で北方領土問題を解決する重要な一手となる! 皆、よくやってくれた!!」

 

中田参事官は満足した表情で、ここに集まった各省庁の幹部達に謝辞を述べ、ロシア書記官逮捕と北方領土問題に関する会合は予定の時間よりも早く終了した。

 

その後、日本政府はロシア大使館と極東ロシア軍との数度に及ぶ話し合いの後、条件付きながらも北方4島の日本国への帰属とロシア軍の武器引き渡しの承認をロシア側から得る事が出来た。

ロシア側から提示された条件とは「再び前世界へと戻った場合、北方領土の帰属問題の交渉を再度、ロシア本国と行う事。」と「ロシア軍側で指定した武器弾薬は日本政府が“買い取る”形で引き渡し、それ以外の武器はロシア軍側で“破砕”しスクラップにした後に引き渡しを行う事。」であった。

いずれも万が一、日本領土が前世界に戻った時にロシア本国への「言い訳」が必要なロシア側からの条件で有ったが、日本側はこれを了承し戦後から長きにわたる北方領土問題にひとまず終止符を打つ事となった。

 

 

中央歴1640年(西暦2016年) 10月14日 日本国北海道根室復興区 国後島 国後郡 

 

今年も数えるほどであろう秋晴れの青空の下、国後島に日章旗を掲げた一隻の貨客船がユジノ・クルリスクこと古釜布港へと入港して来た。

以前の様な国境警備局の追跡や税関の執拗な取り調べも既に過去のモノとなり、港には多数の日本の漁船が停泊して釣り上げた魚の水揚げをロシア人達と一緒に行っている姿が見えた。

領土問題解決後、正式に復興区となった北方4島には多くの日本資本が流れ込む様になり、新たな魚貝類の加工所や缶詰工場の建設が始まり、日本語とロシア語の看板が併設された街にはソ連時代に建てられた記念碑の前で記念撮影を行う日本人観光客の姿が在った。

この北方領土には以前から原油や天然ガスが埋蔵されている事が知られていたが、資源エネルギー庁が算出した所、現時点ではクイラ王国から輸入した方が安く済む事が判った為、原油採掘計画は取り止めとなったが、代わりにクイラ王国でも見つかっていない貴重なレアメタルであるレニウムが産出される為、政府はこのレアメタルの採掘を行うべく大規模な採掘施設を択捉島に建設する事となった。

これにより一度、本土へと渡った一部のロシア人達が北方4島へ戻って来る様になり、かつて国境の寒村であったこの北方領土は道内で最も活気の有る地区へと変貌した。

 

 

同日――― 日本国北海道根室復興区 択捉島 紗那郡 イトゥルップ空港

 

国後島から北東に有る北方領土最大の島、択捉島も10月の夜ともなれば風が吹かなくとも気温は10度以下となり、これから長く寒い冬が訪れる事を肌で感じさせる。

ここ択捉島には転移前、ロシア政府により改修工事を行われたイトゥルップ空港が有り、複数の航空機が駐機している駐機場には2人の男達の姿が在った。

初老のロシア人の男と彼よりも背が高く体格の良い日本人の男の2人はテーブルを挟み雲一つない夜空を見つめている。

ロシア人の男はウオッカの入ったグラスに口を付け深く息を付いた後、隣に居る体格の良い日本人の男に話し掛けた。

 

「初めてこのイトゥルップ島に来た時は、よくこの星空を眺めたものだ……どんなに離れていてもこの空は故郷まで続いていて、6000km以上離れたカザンに居る子供や孫達も同じ星空を見ていると思えば寂しさなど感じなかったものだ……。」

 

ロシア人の男はグラスの中のウオッカに再び口を付ける、男は厚手の上着の下にロシア軍将校の服を着ており、彼がロシア軍の―――それも高位の将官で有る事が見て取れる。

 

「だが、今は違う……この空は故郷にも……ロシアの空とも繋がっていない! あの2つ有る月を見るたびに何時も考えてしまう、なぜ自分達はこの様な世界に来てしまったのか……そしてヤマウチ、君たちイーポニア(日本)はこれからこの異世界でどうするつもりなんだ?」

 

喋り終えたロシア人の男はグラスをテーブルに置き、夜空に輝く2つの月を睨むように眺める……テーブルを挟んで横にいた情報部別班の山内は彼と同じ様に2つの月を見上げながら答えた。

 

「私達、日本人はこの異世界でも平和主義を貫く事を国是……理想としていました。 しかし、2年もしない内に2度にも渡り避ける事が出来ない争いが起こり、ロウリアでは4万人、パーパルディアでは50万人以上の人間を殺して来たのです。 そしてこれからも、望まない争いが起きるのならば、自衛隊はこの国を守る事を名目に今まで以上にこの世界の人々を殺し続けるでしょう……。」

 

彼もロシア軍将官と同じ様に手に持っていたグラスのウオッカに口を付けたが、そのアルコール度数の高さに思わず咽そうになりながらも軽く咳をした後に自分の思いを口にする。

 

「私は祖父の遺言に従い、前世界に居た時からこの日本……この国に住んでいる人々の為に戦ってきました。 これからも、この異世界で同胞達を守る為に戦い続けます……そして守るべき同胞の中にはこの島に住んでいる人々も含まれています。」

 

山内の言葉にロシア軍将官は満足そうに頷いた。

 

「ヤマウチ、本国の加護が無い我々ロシア人は今や君達日本人に身を寄せなければ生きていけない程、弱くなってしまった……今は君が言った『この島に住んでいる人々も守る』と言う言葉を信じよう。 私も先立つものは貰ったし、約束通り後ろの機体を君たちに譲る事にしよう。」

 

グラスが置かれていたテーブルにはウオッカの瓶の他に蓋が開き中に日本円の札束がぎっしりと入った大きなトランクが置かれており、酒を酌み交わす彼らの後ろには1機のロシア空軍の戦闘機Su-27SMの姿が有った。

既存のSu-27を近代化改修したこの機体は転移前、オホーツク海上空での演習中に不具合を起こし、ここイトゥルップ空港に緊急着陸した後、転移に巻き込まれてからずっとこの空港に駐機したままだったらしい。

 

ロウリア戦後、日本に戻った山内はロシア軍が島内に残ったロシア製の最新兵器を破壊する前にそれを手に入れるべく密かに交渉を行っており、その中でもこの戦闘機はもっとも入手すべき兵器として上げられていた。

 

(これで何とかノルマは達成できたとして……しかし、この爺様には悪いけどガブレブスキーの奴をそそのかしてリーム王国の連中に引き合わせたのって、この俺なんだよね~。)

 

山内はそう思いつつも再びウオッカの入ったグラスを口に付け軽く咽つつも、笑顔を見せていた。

 

後日、このスホーイ戦闘機は破壊の名の元に整備分解され調査の為に日本本土へと送られた後、飛行可能なまでに整備され、以後の自衛隊機の機体改修の資料として役立てる事となった。

 

 

中央歴1643年(西暦2019年) 8月15日 日本国東京都港区六本木 在日本アメリカ合衆国大使館 (旧赤坂プレスセンター)

 

日本国が異世界に転移してから5度目の夏、そして74度目の終戦記念日となる8月15日の東京は昨日の雨も有ってか、いつもより蒸し暑い天気の中、市ヶ谷の靖国神社には例年より多くの参拝者が詰めかけており、神社に祀られている英霊の鎮魂を祈る中、去年の4月に勃発したグラ・バルカス帝国との戦争を案じ、多くの人々はムーに派遣された自衛隊員の無事を願っていた。

 

そして2年前に赤坂の一等地から六本木の赤坂プレスセンターへと移転して来たアメリカ大使館の一室では2人の男達が大きな机を挟み意見を対立させていた。

1人目の背広を着た男性は在日アメリカ合衆国大使であるトーマス・ラッセン大使、そしてもう1人の軍服を着た男性は在日米軍司令とアメリカ空軍第5空軍司令官を兼任するキャスパー・ディーン中将であった。

 

「大使、貴方は何も分かっていない! グラ・バルカス帝国は今までの帆走船に乗っていた連中とは違うんだ! それに被害が出てしまったら傍観していた我々は役立たずの汚名を着せられるのだぞ!!」

 

「ディーン司令! たとえ同盟国からの要請が有っても、軍の出動には最低でも大統領権限が必要なのは君も分かっているだろう、大使の権限では軍を動かす事は出来ないと……そもそも日米安全保障条約は自動的に発動する条約で無い事を日本側も理解している。」

 

2人は先日、防衛省から在日米軍へ送付された『グラ・バルカス帝国海軍による日本本土進攻の可能性』についての会合を行っていた。

その内容とは現在、日本と交戦状態にあるグラ・バルカス帝国が、負傷し捕虜として日本に搬送されたグラ・カバル皇太子の身柄引き渡しについての交渉が決裂した後、帝国本土にて非常に大規模な艦艇の集結が確認され、これらは日本に対して報復攻撃を行う艦隊であると防衛省は推測しており、日本までの航路を最短距離で航行すればおよそ2ヶ月以内に日本本土に到達する事が書かれていた。

 

大使との会合は平行線に終わった為、ディーン中将は部下と共に足早に大使館を抜け、車にて第5空軍司令部の在る横田基地へと戻って行く。

そしていつもながらの渋滞に嵌った車の窓から東京の街並みを眺めつつディーン中将はため息と共に呟く。

 

「やれやれ……昔はヘリを使ってあっという間に帰れたと言うのに、今は渋滞に嵌って帰るのは何時になるやら……。」

 

「司令……そうボヤかないで下さい。 そう言えば今回のグラ・バルカス帝国の件、日本は相当焦っていると見て良いのでしょうか?」

 

今回の会合でディーン中将に同行し、彼の隣の席に座っていた部下のコール少佐が質問して来た。

 

「半分はそうだ……しかし、極秘であるこの文書を何故送って来たのかを考えろ! これは日本の金を使って5年間何もせずに居候を続けて来た我々アメリカ軍への催促状だと見るのが正解だろう。」

 

「3年前のパーパルディア戦争の時、我々は静観を決めた為、日本のマスメディアから大きく非難を受けた……そして今回、同じ様な態度を取れば日本政府に在日米軍駐留経費を大きく削減させる口実を与える事になる。」

 

ディーン中将は今回の文書が在日米軍だけで無く、異世界に転移してきたアメリカ合衆国そのものに対する通告である事をわざわざ大使館まで出向いてラッセン大使に再三説明して来たが、彼は理解しようとしてくれなかった。

そもそもラッセン大使は前世界でのアメリカ政府が日本の政権が長期化する事を見込んで大使として送り込んで来た人物であり、ビジネス界出身のタフ・ネゴシエーターとして知られていた彼は、交渉など出題された課題は満点に近い結果をもたらす事が出来ても、今回の様な現実離れした異常事態には全くと言っていい程、対処出来ない無能な男で在った。

それでも、この異世界への転移から5年たった今でも前世界の国家で唯一、日本と外交を行う大使館として機能している事や、異世界国家の日本大使館にアメリカ人職員をオブザーバーとして送る事が出来た功績を思えばそこまで出来の悪い奴でもないだろう……。

 

やがて渋滞を抜けた車は八王子インターを抜け、在日米軍横田基地へと到着する。

司令部の執務室へと戻ったディーン中将は窓から滑走路の向こう側に有る駐機場へと目を向ける、そこには布の様な物に巻かれた多数の航空機が所狭しと駐機している姿が有った。

 

横田基地の駐機場に有る布の様な物に巻かれた無数の機体……それはアメリカ合衆国海軍第7艦隊所属の航空母艦ジョージ・ワシントンに搭載されていたFA-18Eスーパーホーネットを始め、MH-60RやE-2Cと言った艦載機達のモスボール保管された姿だった。

他にもC-17と言った大型機やアメリカ本国からの部品の供給が無いと整備が出来ない最新鋭機のMV-22オスプレイの姿も有り、それはさながら「飛行機の墓場」と呼ばれていたアメリカのデビスモンサン空軍基地を髣髴とさせる光景で有った。

 

「まったく、海軍には貧乏くじを引かせてしまったな……。」

 

その様に呟き、執務室の椅子に深く腰掛けたディーン中将はこれまでの事を回想していた……。

 

5年前に日本の異世界転移に巻き込まれた在日米軍は本国との連絡が取れなくなり混乱の最中であった。

そして今を思い起こせばあの時こそが、第2のアメリカを作り出す最大のチャンスだったかも知れない……。

ところが交渉事以外に能力の無かったラッセン大使同様、司令官で有ったこの私も在日米軍を維持する事ばかりに目を向けていた為、新天地とも言えるこの異世界へと踏み込む機会を失ってしまったのだ。

代わりに自らの生存の為に、この異世界へと恐れずに向かって行った日本はこの世界で新たな秩序をもたらす列強国へと変貌した。

その事に気づいた時、我々の手元に有った最強の軍艦と戦闘機は既に錆び付き動かなくなっていた。

我々アメリカ人が掲げていたフロンティアスピリッツとはいったい何だったのか……悔やむに悔やみきれない。

 

その後、日本政府は自国民から非難を受けつつも在日米軍への駐留経費を提供し続けてくれるが、それでも我々在日米軍は縮小を余儀なくされ日本各地に有った米軍基地はその規模を縮小、又は閉鎖するに至り、以前から返還が予定されていた普天間基地も2017年に返還され、代替基地として建設されていた辺野古基地は普天間基地に所属していた部隊の縮小、併合と本土への移転に伴い建設が中止された。

 

そして日本各地に展開していた各部隊の航空機や艦船、これらも異世界に転移してから年を追う事に運用が困難になってしまった。

空母ジョージ・ワシントンは2017年にアメリカ本国で予定されていた燃料棒交換が出来ないまま原子炉を停止した状態で5年間、横須賀港に停泊したままで、佐世保に入港中、転移に巻き込まれた原子力潜水艦オリンピアも同様に佐世保港に停泊したままの状態である。

現在、アメリカ海軍の艦艇は第7艦隊司令官であるハワード中将の指示によりその殆どがモスボール化されており、横須賀港や佐世保港に停泊しているアメリカ海軍の艦船は稼働可能な一部を除き、装備を外され防錆処理をされた状態で停泊している。

(この時、取り外されたイージスシステムがハワード中将の独断により日本側に引き渡されていた事が判明し問題となった。)

航空機に関しては最新鋭機でもない限り、日本の企業に委託しての重整備も可能で有ったが、異世界に来て3度に渡る戦争により自衛隊機への部品の供給と整備が優先された為、アメリカ軍航空機の稼働率は低下の一途を辿り、各航空隊の所有する機体の定数割れ、それに伴うパイロットの訓練不足に因る練度の低下が深刻な状態となっていた。

特に空母が稼働しなくなった艦載機の航空隊は悲惨の一言で、ここ横田でも稼働できるFA-18Eは数える程しか無いのが現状である。

 

現在、在日米軍で戦力と言える物は、沖縄の海兵隊師団と2隻のイージス艦(いずれも練習艦扱い)それに三沢のF-16を保有する第35戦闘航空団と嘉手納のF-15を主力とする第18航空団(それでも共に定数割れして飛ばせる機数は半分も満たない)で有るが、アメリカ本国から兵器と弾薬、そして兵士が来なくなった今となっては、これらの残った部隊もやがて衰退し消滅するのは火を見るよりも明らかである。

 

私はこれまで在日米軍のトップとしてこの組織を維持すべくここまで奔走して来た。

だがそう遠くない将来、決断を迫られる時が来るであろう……その時はアメリカ軍と言う組織の為では無く、部下である5万5千人の兵士達の為に、そして転移に巻き込まれ、この国に滞在する15万人のアメリカ人の為に決断しなければならない。

 

もう、間違える事は許されないのだ……。

 

 

同日―――日本国東京都新宿区大久保 韓国料理店 ミナム

 

この異世界でも夏日の日没は遅く、18時を過ぎてもまだ太陽は西の空に浮かび、やわらかくなった日差しで東京のビル街を照す中、同じく西日を浴びながらカン・ジュンソを乗せ、滑る様に走っていた電車はJR新大久保駅で停車した。

電車を降りて駅を出たジュンソは舗装路からくるムッとした暑さの中、大久保通りを東へと歩いて行く。

 

「また新しい店が増えたな……どこの国の店なんだろう?」 

 

夕闇が迫り始めた街を見渡すと、真新しい一軒の店舗が有る事に気が付く、書かれている文字からして東欧系の料理店の様だ……そしてその隣はベトナム料理店で、さらにその隣はレバノン料理店……通りを歩く人々も様々な人種の人達とすれ違って行く。

かつて韓流ブームの中心地だったこの街も、転移後は前世界のさまざまな国の人々がこの一角で飲食店を開く様になり、現在は『多国籍街』と呼ばれる様になっていた。

 

ジュンソは大通りから小道へと曲がったすぐ近くに有る韓国料理店へと入っていった。

 

「いらっしゃ……おう、ジェンソ来たか!」

 

「カン先生のお出ましか! こっちは待てなくて先に飲んでたぞ!!」

 

店に入ると韓国人ばかり数人程、席に座っているが、その中にかつての独島警備隊の隊員で同僚のキム・ドハと上官だったアン・ユンジェの姿があった。

ジェンソは久しぶりに会う隊員達を見て笑みをこぼしつつ、ドハの隣の席へと座った。

 

「今日は我が祖国の光復節だと言うのに集まったのはオマエとドハだけとは全くもって情けない話だな! せっかくの記念日を何だと思っているんだ!!」

 

ジェンソが来る前からビールを飲んでいたアンはジョッキ片手に愚痴り始める。

 

「そりゃあ、今日は光復節と言っても日本だと終戦記念日で平日だから他の連中は真面目に働いていますし……それに奥さんほっといてこんな所に来るのはアン上警だけですよ!」

 

「ドハ!てめぇ……俺は明日は遅番だし、あいつにだって今日は遅くなる事ぐらい許可をとっている……。」

 

この中で唯一の既婚者で現在、横須賀の造船所で働いているアン・ユンジェだが、一緒に住んでいる奥さんには頭が上がらない為、今回の飲み会も泣きついてようやく許可を貰えた事はさすがに口には出来なかった。

 

「それよりドハ、お前はこの店の店長なのに俺達とくっちゃべっていて大丈夫なのか!?」

 

「客の接待をするのも店長の仕事ですよ、おーい! こっちにも生ビール追加で!!」

 

「ハハ……見ろよジェンソ! アレでこの店の店長だぞ!!」

 

客と全く区別がつかないドハを見て、ジェンソとアンは笑いだす……ジェンソの同僚だったキム・ドハは日本本土に移住後、ここ大久保に有る韓国料理店で働く様になり、ついには店長としてこの店を任されるまでになったのである。

3人にジョッキが渡った所でアンが乾杯の音頭を取る。

 

「では3人揃ったので! 我が祖国と独島警備隊に……乾杯(カンベィ)!!」

 

「乾杯(カンベィ)!!」

 

「ところでジェンソ先生は最近どうなんだ? 週刊誌で連載の仕事をやっているから大変だと思うんだが……。」

 

「ええ……確かに隔週とは言え、ネットニュースの仕事をしていた時よりも大変ですよ……毎回、締め切りに追われていますし。」

 

ジェンソは自らが編集者を務めているネットニュースに編集長の要望で『独島警備隊の悲劇』と言うタイトルで独島警備隊としての自らの体験談を執筆し連載していたが、韓国語での掲載にも拘わらず日本の大手出版社から声が掛かる様になり、これを機会に以後ルポライターとして働く様になっていた。

現在は日本の週刊誌にて前世界の外国人達の暮らしを調査し紹介するルポルタージュを『異世界の異邦人』と言う題名で連載しており、時には地方まで取材に出かける等、多忙な日々を送る様になっていた。

 

それから3人で飲み食いをしつつ様々な事を語り合っていた……その中でジェンソは年を追う事に、皆が話し合う会話の中に故郷の話や独島に居た時の事がだんだん話され無くなっている事に気が付いていた。

 

そしてアン・ユンジェが奥さん怖さに早々と店を出た後もジェンソとドハは店の席で語り合っていた……そして店が閉店となり、店員が帰り、2人が気が付いた時には終電の時間はとっくに過ぎており、仕方がないと言いながらドハは冷蔵庫に有った韓国焼酎を持ってきてグラスに注ぎ始め、一杯をジェンソに渡して自分も飲み始める……そしてグラスの焼酎を飲み干すとジェンソに向かって話しかけた。

 

「なあジェンソ……お前が昔、日本やこの俺達がどうしてこの異世界に転移したのか、その理由を探すって言っていたよな……。」

 

「ああ……俺はルポライターになってから、何故この異世界に転移したのか、どうして日本人にだけ異世界人と難なく会話が出来るのか、その理由を知りたくて今も俺なりに探し続けてるんだ。」

 

ジェンソはドハと同じ様にグラスの中の焼酎に口を付け、深く息を付いた。

 

「でも、俺一人で調べるのには限度が有るし、いまだに日本人がどうして異世界人と話せるのかは分からないままだが、それでも少しだけ分かった事が有った……それは、この異世界の神話で『太陽神の使者』と呼ばれている存在の事を日本政府が大真面目に調べているって事だ!」

 

「日本政府が異世界の神話を調査? どうしてそんな事を!?」

 

ジェンソのグラスに焼酎を注いでいたドハが首を傾げる。

 

「なんでも異世界の神話で『太陽神の使者』とはこの世界の神に召喚されて異世界にやって来た存在らしい……そして日本の調査団がクワ・トイネ公国でその『太陽神の使者』の遺構とやらを発見したらしいが、何故かそれ以降これらの情報が全く発信されなくなったんだ……。」

 

「ん……よく分からんが、日本は自国民にまで秘密にしなきゃいけないモノを見つけたって事か?」

 

ドハは自分で注いでいた焼酎がグラスからこぼれるのも忘れる程の問いかけにジェンソは答える。

 

「色々と調べてみたけど、分からず仕舞いだよ……それにその遺構が有った場所ってのが、クワ・トイネでも聖地と呼ばれている場所で普通に行ける場所じゃないんだ……。」

 

「そうか、ここは前世界と違って金が有れば何処にでも行けるって訳じゃ無いしな……それに今は戦争中だし。」

 

この日本が異世界に転移してから5年が経過するが、一般人が海外に旅行として出かけられるのは日本と国交を樹立した第三文明圏の一部の国のみで有り、ムーの様な国交の有る第二文明圏や第一文明圏では政府から許可を受けた企業の社員や従業員で無いと渡航が出来ない。

さらに現在、日本国はグラ・バルカス帝国と戦争状態の為、第一、第二文明圏への渡航中止勧告が発せられている状況で有る。

 

「だから今度、グラ・バルカスとの戦争が終わったら、俺はムー国に行けないか出版社を経由して頼もうかと思っているんだ!聞けばムーと言う国はその大昔に前世界から日本と同じ様に転移して来たって話だから、調べたら何か分かるかもしれない。」

 

「ムー国か、ガキの頃はムー伝説なんて作り話かと思っていたが……しかし、どうしてそこまで、この事に拘り続けるんだ!?」

 

ドハの問いに対しジェンソは険しくも悲しげな表情をしながら答える。

 

「俺達は祖国へ戻る方法も無く、この日本に居続けている……そして、日本人じゃ無い俺達はこの世界から見れば『異世界の異邦人』と言う存在だと言う事を……それに独島で亡くなった仲間達は、真実も何も分からないまま死んでいったんだぞ!! だからこそ知りたいんだ! 俺達を巻き沿いにしてこの国がこの世界に転移した理由を……。」

 

ジェンソは酒も入った勢いか、自らの思いを大声で叫んだ……しばしの沈黙の後、ドハが笑顔で答える。

 

「分かったよ、ジェンソ……オレはこの店を任されている以上、一緒には行けないが、だからこそお前がやりたい様にやればいい……。」

 

「この事で、お前や奥さんがいるアン上警を巻き込むつもりは無いよ……でも、ありがとうドハ。」

 

「ジェンソ、始発までまだ時間があるから、もう一本開けるとするか……ちょっと待ってろ!」

 

そう言うとドハは店内の冷蔵庫から新しい韓国焼酎を持ってきて、ジェンソのグラスに注ぎ始めた。

 

それから2人は電車の始発時間近くまで飲み明かし、ジェンソが店を出た時には東の空が日の入り前の白く薄い輝きを放ち始めていた。

ドハは店で仮眠を取ると言い、店の入り口の鍵を閉め店内の事務室へと向かう姿を見守るとジェンソは店を後にした。

 

新大久保駅のホームに着くころには白かった東の空は段々と赤みがかった色へと変わりビル街にも光が差し始めた。

やがて始発の電車が到着し駅へと降りる僅かな人々と入れ替えにジェンソは電車に乗り込み空いている席へと座る。

そして走る電車の中へと朝日の陽光がジェンソに眩しく差し込む。

 

「新しい朝が来た……か、そう言えばこの時間にラジオを聞くとそんな曲が流れていたな……。」

 

今日も東から日が昇り日本国の、この異世界の新しい一日が始まる……そして昇り始めた太陽はこの異世界に住まう日本人にも異世界の異邦人たる日本国内300万の在日外国人にも等しくその光を放ち続けるのであった。

 

 

日本国召喚 異世界の異邦人 完




「本を書くと言う事はかなりの冒険です。
初めのうちは玩具や娯楽の様に他愛の無い事なのですが、やがて恋人となり、さらに主人となり、暴君と化するのです。
そして『なぜこんなにまで奴隷の境遇に呻吟(シンギン)しなければならないのか』と、ギリギリまで追い詰められた所で最後の勇気を振り絞ってその怪物を殺し、死体を読者に投げつける、と言う次第です。」

                    ―― サー ウィンストン チャーチル ――

今回の物語はまさにコレ……小説といい絵といい、創作活動とは何故か毎回、かのチャーチル卿が言う様になります。

楽しいはずの創作活動は毎回、文章の表現や使い方に対し、作者が無知で無学な上に才能すら無いが故に、毎度の如く悶絶し、のたうち回りながら稚拙な文章を書きこんでいきます。

今作は日本国召喚を読んで、まず本篇では語られる事は無い個所を自分なりに補間する事を目的で執筆を行い何とかそれらしく完結させる事ができました。
しかし物語は当初のプロットとは異なり、独島警備隊が竹島を去ると言う大筋こそは変わりませんが、書き進める内に話は肥大化しエンディングすら初期に考えていたモノと大きく変わりました。

当初のエンディングではジェンソは日本の片隅で失意の中、生きる事を余儀なくされる内容でしたが、当初、自殺する予定だったドハが陽気なキャラクターになってしまい自殺させずらくなった事や、この事が原因で自分の意思で行動する事でこの異世界で生き抜こうとする内容へと変更した為、現在の様なエンディングとなりました。

そして日本側の主人公で有る山内の登場によりプロットがさらに大きく変わる事になりました、彼は参謀肌でアクティブな行動が出来ない三津木の代わりに4話で初登場した、初期のプロットには影も形も無かったキャラクターですが、彼の登場によりクラーケンとクワ・トイネ使節団が登場する様になり、この物語をより“日本国召喚”らしくさせる事が出来ました。
(ちなみにこの物語では、後に建造されるイージス艦「まや」と「はぐろ」はアメリカのイージス艦から引き抜いたイージスシステムを搭載しています。)

かくして、初期の構想から大きく変わり肥大化したこの『怪物』を完結と言う名で打ち倒し、殺したばかりなのに新鮮さをまったく感じさせないその死体を無事、読者の皆様の前に放り出す事が出来ました。

「オラの殺した怪物を見てチョ~!!!!」

恥を知らないとは全くお気楽なモノです……。

次回作もある程度は構想が出来上がっており、今度も日本国召喚の二次創作物で行く予定ですが、今作では出来なかった主人公の固定やヒロインを登場(エルフの少女や獣人娘とか出したいのう♡)させて挿絵とかにも挑戦して、真っ当なライトノベルにしたいところです。

「俺達の戦いはまだ始まったばかりだ!」

ご愛読ありがとうございました
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