(日本国転移から)11日後……
それから日数が過ぎ、ようやく落ち着きを取り戻した独島警備隊だが、未だに本国はおろか何処とも連絡が取れない状況が続いていた。
あれからずっと晴天が続いているのに、鬱陵島からの連絡船の寄港はおろか沖を航行する船一隻すら発見できない。
電波に限っては、日本本土から発信されている放送局の電波と、日本の自衛隊、海上保安庁の船舶や航空機から発信された電波を傍受したのみであった。
そんな中、チェ副隊長はイ隊長に対して、島に残っている小型艇を鬱陵島に派遣することを進言したが、イ隊長は晴天時に島から鬱陵島が見えなかった事を理由にこれを却下していた。
今日も晴れ渡る竹島の空を海鳥達が舞う中、ジュンソとドハは女島の東に有る監視所で雑談をしつつ立哨を行っていた。
「なぁジェンソ……今朝、灯台職員の連中が言ってた話なんだが。」
普段は休憩となるとネットに夢中になっていたドハだが、地震後ネットが繋がらない状態が続いている為か、いつも以上におしゃべりになっている。
「何でも地震後に見た夜空の星の並びがデタラメで北極星はおろか、この時期に見える星座も確認すら出来なかったって?」
「なんだそりゃ!? 俺達は違う世界にでも来たって言うのか! でも夜警を担当していた連中は人工衛星が飛んでいるのを見たって言っていたぜ!!」
「ホントかそれ!? おかしいよな……衛星があるなら何らかの信号をキャッチできる筈だぜ!?」
夜警の隊員が夜空で見つけた人工衛星……それは(彼らが転移した)この世界で古の魔法帝国と呼ばれた超文明国家がこの世界に戻る為のビーコンとして衛星軌道に打ち上げた“僕の星”と呼ばれる物で有る事をジェンソ達は知る由がなかった。
「あの地震以来、変な事ばかりだ……そう言えば、地震の前に空が昼間みたいに明るくなったよな? アレって地震と関係あるのかな!?」
ドハとそんな話を続けていると、近くの壁にかけていたトランシーバーからアラームと共に声が聞こえ始めた。
「指揮所より各局! 指揮所より各局へ! 先ほど水上レーダーにて南南東方向・距離37海里にて北上する船舶を確認した!! 繰り返す……。」
ジェンソは慌てて壁に掛けて有ったトランシーバーに手を取り応答する。
「こちら東監視所! これより該当の船舶を目視できるか確認を行う……ドハ、双眼鏡で南南東方向だ! 何か見えるか!?」
2人はそれぞれの双眼鏡で海の水平線を見渡す、しばらくすると船のマストが見えてきて船体も見えてきた……近づいてくる白い船には斜めに入った青い3本のライン、そして船尾に掲げられた白地に赤い丸の旗を確認した瞬間、ジェンソ達に緊張が走った………あれは日本の船だ!!
「東監視所より指揮所へ、船舶は日本の海上保安庁の艦艇と確認! 繰り返す! 船舶は日本の海上保安庁の艦艇!!」
「おい、ジェンソ! 久しぶりの倭寇の襲来だぜ!!」
ジェンソは緊張する中、こんな状況化でも冗談を言えるドハに呆れながらも、本土との交信が途絶え援軍も全く期待できない状況に不安がよぎる、しかし……もしかしたら島の外で何が起こっているのかが分かるのかもとの期待も抱き始めていた。
一方、独島警備隊の指揮所である警備隊宿舎では接近してくる海上保安庁の艦艇に対して国際VHF無線にて呼びかけを行っていた。
「接近中の日本船に告ぐ、接近中の日本船に告ぐ! こちらは慶尚北道警察庁・独島警備隊……貴船は大韓民国の領海内に侵入しようとしている! 領海内への侵入は許されない、即刻退去せよ!……繰り返す、即刻退去せよ!!!」
「………韓国警察庁の警備隊へ、こちらは日本国・海上保安庁第八管区所属、PLH-10だいせん……現在、本船には大韓民国大使館の書記官が乗船している。」
想定外の通信に指揮所で無線を聞いていたイ隊長とチェ副隊長は顔を見合わせ困惑した……さらに「だいせん」からの無線が続く。
「乗船しているシン書記官は警備隊長と直接連絡を取りたいとの要望の為、現地までヘリコプターでの移送を行う、ヘリポートへの着陸許可を要請する!」
チェ副隊長は、その無線を聞くやいなや、大声で怒り出した!
「倭奴(ウェノム・韓国における日本人の蔑称)のヘリがこっちに来るだと! 書記官を乗せているからと言ってふざけやがって!!!」
日本人を島へ入れない事を一番の目的にしている独島警備隊にとって日本人のパイロットが操縦する日本のヘリを島のヘリポートに着陸させる事など容認する事が出来ない。
警備隊宿舎にいる隊員達、皆がそう思っているとイ隊長が無線機のマイクを手に取り日本の巡視船に話しかけた。
「こちらは独島警備隊隊長・イ・ロウン警正だ、残念だが貴船の要請は受け入れられない……代わりにこちらから船を派遣して書記官を送迎する、貴船は現在の位置にて待機されたし……どうぞ!」
「…………だいせんよりイ警正へ、そちらの要件を確認、了承した……これよりそちらの送迎船の受け入れ準備を開始する……以上!」
こちらの要望がすんなりと通ったことに警備隊宿舎にいる全員が沈黙し拍子抜けしてしまった……イ隊長はチェ副隊長に送迎の小型艇の準備を急ぐように指示をだした。
チェ副隊長は未だに不穏な表情を隠しきれない様子でイ隊長に話しかけた。
「連中がこんなあっさりとこちらの言うことを聞くとは思いませんでした……。」
イ隊長は島の接岸場より書記官を迎えるべく出港準備を行う小型艇を見つめながら答える。
「向こう側にも何か事情が在るのか、それとも裏が在るのか……? まぁ、今は良い方向へと進んでいると思いたい……。」
そうして、沖合に停船している「だいせん」から、書記官を乗せた小型艇が島の接岸場に戻ってきた。
停泊した小型艇より船員に案内され一人の中年男性が降りてきた、接岸場に整列した独島警備隊員達は一斉に敬礼を行い彼を迎え入れた。
「我が韓民族の領土、独島へようこそ! 私が独島警備隊隊長イ・ロウンです、こちらは副隊長のチェ・ヒョヌ警監です。」
「イ隊長、それに独島警備隊の皆さん、船での送迎と出向いに感謝します……私は在日大韓民国大使館勤務・二等書記官、シン・ウンチャンです。」
イ隊長とシン書記官の二人は固く握手を交わした後、シン書記官は日本で確認できた今まで起きた事を話し始めた……それは孤立し必死に外部と連絡を取ろうとしていた独島警備隊にとっては信じがたい内容だった……。
同時刻――海上保安庁巡視船・だいせん
「船長……本当に良かったんですか? 奴らの大使館と連中を引き合わせて!?」
「これも上からの指示だ、まぁ……武装している連中をほっとく訳にはいかんし、それに島の備蓄が切れて本土に乗り込んでくる様な事があったら大変だからな……。」
だいせん船長、岩崎淳吾は航海長の疑問に対しこの様に回答した……彼自身も今のやり方に納得してはいないが、突然の異世界への転移からまだ国内の混乱が治まっていない中、今はこれ以上問題を増やしたくない政府が出した妥協案である事を彼は理解していた。
続く
今回、警備隊員が夜空に人工衛星(僕の星)を確認している表記がありますが、本編の僕の星がどの様な軌道で異世界を周回しているのか、記述が無かったので(静止軌道だと地上からは止まって見えるので、肉眼での発見は恐らく不可能?)本作では周回軌道に存在する事にしました。
1万年以上周回軌道を周っている魔帝の人工衛星スゴスギィ!!