数日前――日本国東京都千代田区永田町、首相官邸にて
日本国が異世界に転移して遭遇した異世界国家と国交を開く前に、政府は事前に収集した周辺国の情報にて異世界国家の技術水準が前世界の中世から近世代の物である事が判明した為、取り分け兵器関連の技術流出を防止するべく、内閣にて「新世界技術流出防止法」の施行を急いでいた。
しかし、日本国が技術の流失を防止しても日本国と共に転移してしまった外国の大使館・企業等が日本の意にそぐわない行動を行う恐れが在る。
日本に在住する外国組織による技術流出、あるいは軍事による異世界国家への侵略……いずれも日本国にとって害としか言い得ない行為である。
内閣調査室にて早急に問題を起こすと思われる日本国内の外国の組織・企業等を調べ上げたが、ほとんどの組織・企業は本国・本社とのつながりが切れた時点で自分達の維持すらままならず、弱体化……または消滅するで有ろうとの予測がなされた。
今、日本で最も多い滞在者を誇る中国ですら北京との連絡が途絶えた中国大使館では国内にいる中国人を纏めて行動を起こすことは無理だろうと判断されたのだ。
それでも問題を起こすと思われる組織は存在する……一つは日本国内に空母機動部隊・海兵隊・航空団を保有するアメリカ合衆国、もう一つが3500名もの兵士を北方四島に居座らせ、一緒に転移して来たロシア共和国……双方共に国内の領地に大規模な軍事組織が駐屯している。
いずれの国も本国との連絡も補給も取れない状況の為、弱体化は避けられないが、それでも日本国が望まない行動を起こす可能性が在る。
政府はすでにアメリカとは思いやり予算こと在日米軍駐留経費をダシにして駐日アメリカ大使館と在日米軍に独自に外交を行わないよう交渉を始めている。
現在、在日米軍の総額経費7割以上を日本が負担している以上、これを切られるとさすがの米軍も自分たちを維持できなくなってしまう。
もう一つの問題であるロシアは公安の調査にてロシア大使館が北方領土に駐屯する部隊と連絡を取り合っている事が確認されており、こちらも早期に交渉を行う必要が出てきているが、当面はロシア大使館と北方領土のロシア軍を監視するとして現在、北方領土近海に「ずいりゅう」「せとしお」の二隻の潜水艦が、領空には航空自衛隊のYS-11EB電子測定機による無線傍受活動を行っているが、今のところ目立った行動は確認されていない……。
さらにもう一つ問題を起こす可能性が在る国が出てきた……少数ながら日本の領土で有る竹島に武装組織を常駐させている大韓民国である。
公安の調査にて現在までに韓国大使館と島の警備隊双方は連絡を取り合っていない事が確認されており、アメリカ・ロシアに比べれば脅威度は低いと推測されているが、韓国が異世界国家と接触するよりも、島の警備隊が海賊化する事による周辺への被害が懸念されていた……。
この様な韓国――取り分け竹島を占拠している警備隊に対してどの様に対応するか、政府は各省庁の幹部を集め会議を行っていた。
「事を起こす前に島を包囲して投降を呼びかけるのはどうでしょうか? それでも駄目なら島に強行突入して取り押さえるとか?」
「簡単に言ってくれますが、彼らはあの島の占領を国是としているんですよ! 船で包囲したぐらいで白旗を上げるとは思えません! それに40人程度の人数とはいえ、自動小銃と機関銃で武装して大砲まで島に備え付けているんです! 徹底抗戦されたら被害が大きいのは我々の方です! それに強硬策に出れば国民や在日外国人から非難の声が上がって最悪、内閣の進退問題にもなりかねません!!」
法務省幹部の安直とも言える意見に海上保安庁の幹部が食いつく、海上保安庁は過去に竹島を巡って韓国と何度も一触即発の状況になりかけた事がある為か、発言にも怒りがにじみ出ている。
「そういえば、島にいる彼らはどうして日本に有る韓国大使館と連絡を取らないのでしょうか……?」
外務省幹部が上げた質問に対し警察庁の幹部が手を上げて回答する……。
「実は警備隊側からは何度か韓国大使館と在日韓国民団に対して無線連絡を送っているのが確認されています……が、交信は共に確認されていません、 恐らくは連絡体制が自国の所属している警察庁中心になっていて、他部署……この場合は外交部(日本の外務省に相当)への連絡の仕方が確立されていないのではないかと思われます……。」
彼は警察庁で諸外国の情報の収集を担当する外事情報部所属の担当であるが、独島警備隊と日本の韓国大使館がこの様な事態にも係わらず何故、互いに連絡を取り合わないのか不思議に思っており、彼なりの推測を答えざるえなかった。
「やれやれ……竹島に居る警備隊の気質からして簡単に投降するとは思えず、だからといって放置して兵糧攻め状態にすれば武器を持って本土に来る可能性が在るとは、困りましたね……さて、他に意見はありますか?。」
会議の進行役である、内閣府参事官の中田は他の幹部に意見を求めた……。
「あの~よろしいでしょうか?」
これまで他者の意見を静観していた、眠たそうな顔つきの男が手を上げた……周りにいた幹部達は「えっ、こんな奴いた!?」と言う顔つきで彼のいる席の方に振り向いた。
「君はたしか……防衛省の三津木君だね、どうぞ!」
「はい、ぶっちゃけ……忌憚なく言わせて頂きますと、問題の島のなんちゃら警備隊と韓国大使館を我々の手引きで引合わせたらよろしいのではないでしょうか?」
気の抜けた言葉で意見する三津木に対し、異議を唱えようと外務省の幹部が身を乗り出そうとするが、三津木はまだ話は終わっていないと右手を差し出して静止するジェスチャーを行い、発言しようとした幹部の口を止めた。
「ええ……あの国の外交と武器を持った連中を併せたらロクでもない事しか起こさないという事は理解しています……そして我々が調べた――この世界の周辺の国々は中世程度の技術しか持っていない為、自動小銃を持った連中に蹂躙されようモノなら……一方的殺戮、まさに少数のスペイン兵に滅亡させられたインカ帝国の悲劇が再現されかねません……しかし、これは長期的に見た場合の問題で在って――現在、憂慮しなければならないのは飢えた連中が近隣の街々を武器を持って略奪しに来ることです! だったら連中には本業である島の警備とやらに専念してもらうべく、その面倒を韓国大使館に見てもらうのですよ!」
ここまでの話を聞いて幹部たちは様々な表情を浮かべていた、呆れた表情をする者、渋い顔をする者……しかし、内閣府参事官の中田は彼の話を真面目に聞いていた……三津木の話は続く。
「韓国大使館は島にいる同朋たちの支援をやらざる得ないでしょう……そうしなければ日本に40万近くいる在日韓国人の結束を維持するのが困難になるからです、しかし本国との繋がりが途絶えている現状では彼らにとってこれは大きな負担になり、うまくいけば資金難で島の占拠を諦める可能性も出てきます……まぁ、そこまで簡単に事が運ぶとは思っていませんが……。」
ここで会議を纏めるべく、内閣府参事官の中田が手を上げた……。
「とにかく今は短期的に起こりえるトラブルを防止するのが先決だ! 私は三津木君の案に賛成したい、長期的な問題……とりわけ韓国が身勝手な外交を周辺国と行う可能性についての対策は次回迄の宿題としよう……三津木君! 次回も良い案を考えて来る様、頼んだぞ!!」
「中田参事官……手段を問わなければ幾らでも良い案を出しますよ!」
相変わらず眠たそうな顔をしている三津木は、中田に対してこの様に答えた……。
こうして政府は(表向きは)人道的理由により韓国大使館に竹島の現状を伝え、韓国大使館側からはシン・ウンチャン二等書記官が海上保安庁の巡視船に乗船して竹島に向かう事となった。
続く
3話にして、ようやく本編からの人物……防衛省幹部の三津木が登場しました。
本作でも本編に出てきた登場人物は何人か出演させる予定です。