日本国召喚 異世界の異邦人   作:アニキ イン ザ スペース

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第六話 暴走する使命

(日本国転移から)28日後……竹島(韓国名・独島) 独島警備隊宿舎

 

一昨日、パランド遭難の一報を受けた独島警備隊員達は補給が来ない事を知り皆、意気消沈してしまった……。

それも巨大な怪物……海魔の襲撃と言う荒唐無稽な内容だった為、実はパランドは日本により撃沈されて怪物の襲撃は日本がでっち上げたデマだと言う者が出てきて、ついには日本への報復を言い出す者まで現れる始末である。

その様な状況の中、イ隊長とチェ副隊長は在日韓国大使館のシン書記官と秘話無線通信を行っていた。

 

「補給は当面出来そうに無いってどういう事だ! こっちはもう一月以上、補給が無い状態が続いているんだぞ!!」

 

無線機の前でチェ副隊長は声を荒げ、怒りを露わにする。

 

「資金と物資については今、在日同胞達に頼んで集めて来ている、ただ船が……あの怪物の騒ぎで何処も船を貸してくれそうに無い!」

 

シン書記官は現状をありのままに伝えるしかなかった……だが、チェ副隊長はまくし立てる様に追及を続ける。

 

「怪物とか、あんなチョッパリ(韓国における日本人の蔑称)共のデマを信じているのか! 海がダメなら空から……ヘリコプターで輸送出来るだろ!!」

 

「ヘリコプターのチャーターはどの会社も日本政府に睨まれるのを恐れて貸してくれない! それにもし借りれても独島への飛行計画は許可が下りない……だから無理だ!!」

 

「無理だとは何だ! 我々が飢えて戦えなくなったら倭寇共が我が領土を! 独島を踏みにじる事になるのだぞ! 貴様らはそれでもいいのか!!」

 

副隊長と書記官、お互いムキになっての無線でのやり取りにイ隊長はうんざりしてついに怒鳴りだした!

 

「チェ警監! いい加減にしろ!! 問題を解決する気が無いならここから出ていけ!!」

 

「……あっ……はい……………。」

 

イ隊長はチェ副隊長を一喝して黙らせた後、シン書記官との無線を再開する。

 

「しかし、そんな怪物が本当に実在するのか? そんな物がこの海域にいたら船が寄港する事すら出来ないぞ! 危険すぎて小型艇も出す事も出来ない!!」

 

「怪物……どうやらクラーケンと呼ばれている様ですが、少なくとも日本の報道だけでは無く、国会でも取り上げられて写真も公開されています……それに異世界国家であるクワ・トイネ使節団からもこの怪物の特徴を聞き出したとの答弁がありました。」

 

いくら異世界に転移している事を理解しているとは言え、船を襲う巨大な怪物がいると言う非常識な事態を現状では疑わざるえない……だが、今はそれも踏まえて判断を下さなければならない。

 

「うむ……今、我々に出来る事はその怪物が退治されるか何処かに行ってくれるまで、物資を節約して耐え忍ぶしか無いのか……。」

 

「日本政府は怪物の駆除命令を出していますが……我々、外交部は親韓議員に怪物駆除を日本の国会に早める様に催促する事と、その間に資金を集めて、船と物資を早く確保する様にします。」

 

「苦労を掛けるが、今は大使館だけが頼りだ……是非、宜しく頼む!」

 

交信を終えた後、イ隊長は深くため息をつく……この様な状況で果たして部下達が付いて来てくれるだろうか? そう思いながらもまだ不貞腐れた表情をしているチェ副隊長と共に無線室を後にした。

 

 

ジュンソとドハは次の立哨の準備をすべく宿舎内の廊下を歩いていると隣の隊員室で何か騒いでいるのに気付き部屋を覗いてみた。

 

「駄目です! 返してください!!」

 

「何言ってやがる、菓子をこんなにいっぱい箱に貯めこんで! 俺達で仲良く食うんだから、黙って寄こしやがれ!!」

 

部屋の中では古参の隊員のオ・ジンウ一警とその部下達4人が、転移の5日前に島に配属された新入りの通信担当ホン・アンソン二警の私物である箱を取り上げようとしていた。

 

「なんだジェンソ? お前達も欲しいのか!? 余ったら分けてやるよ!!」

 

ジェンソ達が自分達を見ているのに気が付いたジンウがそう言うと彼の取り巻きとも言える部下達が笑い始めた。

 

「何かと思って見に来たら、独島で北韓(韓国における北朝鮮の呼び方)兵士のカツアゲかよ!」

 

ジェンソは止めようとするドハを無視して階級が上であるジンウに侮蔑とも言える言葉で返した。

 

「何だとテメェ! 上官の俺に向かって何て口を聞きやがる!!」

 

その言葉に激怒したジンウは持っていた箱を放り出し、廊下にいたジェンソに飛び掛かりその胸倉を掴んだ。

 

「言った通りさ、カツアゲなんて北韓兵士のやる事だって!」

 

「貴様!!」

 

ジンウがジェンソを殴ろうと拳を振り上げた瞬間、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「やめんか! お前達!!!!」

 

ジンウとドハが振り向くとそこにはイ隊長とチェ副隊長の姿があった。

ジェンソはジンウの腕を振り払い、挙手の敬礼を行うとジンウとドハを始めそこに居た全員が慌てて敬礼を行う。

 

「オ一警! 階級が上だからと言って、二警の私物を取り上げて良い訳ではないぞ!! チェ警監! コイツはお前の子飼いの部下だったな! ならば責任もって面倒を見てやれ!!!」

 

「分かりました……オ班隊! お前達に独島警備隊魂を叩き込んでやる!! 全員、俺に付いて来い!!!」

 

イ隊長は何事も無かったかの様に隊長室へと戻って行き、ジンウとその部下達はトボトボとチェ副隊長の後を付いて行く……ドハはジェンソの行動に呆れながらも、胸をなで下ろしていた。

 

「ジェンソ、流石にお前でも無茶が過ぎるぞ!」

 

「隊長がココを通るのを判っていての行動だよ、そこまで俺も馬鹿じゃない!」

 

二人がそう話す中、アンソンは私物の箱を拾い上げ箱の中をゴソゴソと何かを探していた。

 

「あ……ありがとうございます、カン二警! この箱……菓子以外に大事な物が入っていたので。」

 

「ジェンソでいいよ、それより大事な物って?」

 

ジェンソがそう言うと、アンソンは箱の中からアクリル板に挟まった写真を取り出し2人に見せた、写真には戦闘警察の制服を着たアンソンに母親らしき女性と学生服を着た少女の3人の姿が写っていた。

 

「家族の写真です……母は僕が独島警備隊に配属された事を喜んでいましたが、こんな事になるなんて……。」

 

「家族って……3人だけだが親父さんは? まさか母子家庭なのに徴兵されたのか!!」

 

ドハの質問にアンソンは目を伏せながら答える。

 

「両親は……離婚したんです、長男の兄は大学の学費が必要で父について行ったんですが、僕は母さ……母を裏切った父が許せなくて妹と一緒に母についていったんです……でも、離婚した時期が悪くて僕には徴兵の免除が下りなかったんです。」

 

「そうか……悪い事、聞いてしまったな。」

 

「いいんです! それより、これはお礼です!」

 

アンソンは箱の中からチョコレートスナック菓子を出してジェンソとドハに渡し、改めて2人に礼を言うと通信室へと駆け出していった。

 

 

同日――竹島(韓国名・独島) 女島(韓国名・ドンド)の東側監視所内

 

今日も晴れの空を相変わらず無数の海鳥達が飛び交っている……ジュンソとドハは日課でも有る東の監視所にて立哨を行っていた。

ドハはアンソンから貰った菓子を摘まみながらジュンソに話かける。

 

「なあジュンソ、この世界に来てから一か月近く経って補給も来ない状況が続いてる……俺達、一体どうなるんだろうな!?」

 

「どうなるにしろ、今は隊長を信じて付いて行くしかないよ……少なくとも俺はイ隊長を信用している!」

 

ジェンソは波一つ立たない穏やかな海を見ながらそう答えた。

親分肌で怒ると怖い事で恐れられているイ隊長だが、シゴキの様な無駄な訓練は行わず、部隊内でのいじめを容認しない上に隊員達への面倒見が良い事で、慕われてる存在でもある。

 

「それは俺も同じだよ、でも問題なのはイ隊長とチェ副隊長とはウマが合わないと言うか、よく対立するのがな……。」

 

状況を見据えて慎重な行動を取るイ隊長に対して、早急な行動を取りたがり、自分に媚びを売る連中を贔屓にするチェ副隊長はしばしイ隊長と対立している所を隊員達は何度も目撃している。

 

「このまま補給が来るまで何も起こらなければいいんだが……。」

 

ジェンソにはチェ副隊長に対する心配事がまだ一つあった、それは日本に対する敵愾心が有り過ぎる事、何かと日本に対して敵視する言動が多い為、もしかしたらこの事が何らかの災いになるのでは無いかと……。

やがて日が西の空に沈み、竹島にも何時もの平穏な夜が訪れる……ジェンソは今日一日が無事に終わった平穏とこの世界から孤立している焦りからでる複雑な感情に悩まされながらも一日を終えるのであった。

 

 

(日本国転移から)34日後……竹島(韓国名・独島) 女島(韓国名・ドンド)の接岸場

 

ジェンソ達は他の班隊と共にチェ副隊長の指示の元、男島(韓国名・ソド)に建設された今は無人になっている漁民用の避難施設から備蓄用の食料と燃料を独島警備隊宿舎の有る女島へと移送する作業を行っていた。

小型艇にて男島から女島の接岸場まで移送した後、ロープウェイを使って警備隊宿舎まで持っていく手筈となっている。

 

「オラッ! モタモタしてると荷物を全部上げる前に日が暮れてしまうぞ!!」

 

チェ副隊長の激が飛ぶ中、隊員達は大急ぎでロープウェイのゴンドラに荷物を載せて上げ始めた。

 

「ドハ、ちょっと荷物入れ過ぎていないか……?」

 

「あぁ……でも、今日は風が吹いていないから大丈夫だろ?」

 

少し離れた場所から作業を見守っていた二人がそう言っていると、何か妙な音がしたと思った瞬間、釣り上げているロープウェイが止まった! 過積載により支索ワイヤーの一部に重量が偏りゴンドラが停止し、更にワイヤーを回しているモーターが停止しなかった為、内部で腐食が進んでいた曳索側ワイヤーの接続金具に破壊的な負荷が掛かってしまった……次の瞬間、バチン! と言う音と共にジェンソとドハのすぐ横を切れたワイヤーがムチの様にしなりながら、もの凄いスピードで横切っていった!!

 

「!!!!」

 

2人が声を上げる間も無く、切れたワイヤーは接岸場の滑車付近に居た隊員達を次々と吹き飛ばしていき、積み荷待ちの荷物に巻き付いてようやく動きを止めた。

 

「冗談だろ……何てことだ!」

 

「ドハ、急げ! 怪我人が出ているぞ!!」

 

2人が駆け付けた接岸場はワイヤーに飛ばされた物品が散乱し、地面に倒れうめき声を上げる隊員、血を流し動かなくなった隊員達の姿があり、そこには地獄としか言えない光景が広がっていた。

このワイヤーの破断事故により5人の隊員が巻き込まれ、3人が即死、1人はワイヤーを胸に受け意識不明の重体、もう一人は意識は有るもワイヤーにより左足を切断される大惨事となった。

 

息の有った2人は大急ぎで警備隊宿舎へと搬送されるも、島には医師が常駐していない上に医療施設も無い為、わずか数時間の応急処置の研修を受けた隊員が手を血まみれにしながら応急処置を行っていた。

麻酔も無しに止血処置をされる隊員の苦痛の声が響く中、ここまで他の隊員と共に負傷した隊員を運んできたチェ副隊長は、血まみれの手を見て何かブツブツと独り言を呟いていた。

 

「とにかく、ここでは手の施し様がありません! 早く2人を治療が出来る施設に行かせないと死んでしまいます!!」

 

応急処置を行っている隊員がイ隊長に向かって叫ぶ! 普段、重傷者が出た場合はヘリコプターにて鬱陵島(うつりょうとう)にある病院に搬送するのだが、鬱陵島はおろか韓半島すら存在しないこの異世界で2人を治療できる場所……もう日本の病院しかなかった。

 

「日本の海上保安庁に連絡してヘリコプターを手配させる、とにかく2人の命が最優先だ!」

 

日本への連絡を決断した事に周囲の隊員達は安堵する、しかしイ隊長が無線室へ向かおうとすると、チェ副隊長が目の前に立ちはだかった。

 

「隊長……駄目ですよ、日本の連中を独島に呼び寄せるのは……。」

 

血で汚れた両手を狂気じみた目で見つめながら、チェ副隊長は訴え続ける。

 

「あいつら……死んだんですよ、死んでも独島を守るのが俺達の使命でしょう……なのにアンタは奴らを独島に入れようとしてる……そんな事したら死んだ連中が……独島を死守したアイツ等が……。」

 

「チェ副隊長! 今はこの2人を助けるのが先決だ! キサマの話なんぞに付き合ってられん!!」

 

パン! パン!

 

イ隊長はチェ副隊長を押しのけ部屋を出ようとすると、後ろから2発の銃声が聞こえ、イ隊長はそのまま前のめりに倒れた。

胸に2発の弾を受けたイ隊長は身をよじる様にして後ろを向くと、そこにはK5自動拳銃を右手に構えたチェ副隊長の姿が在った。

 

「チェ……貴様!!」

 

イ隊長は立ち上がろうとするが手に力が入らず再び床に倒れこみ、肺に溜まった自らの血を吐き出して動かなくなった。

 

「隊長!!!!」

 

近くにいたジェンソが隊長に駆け寄ろうとするとチェ副隊長は拳銃を一発、天井に向けて発砲し大声で叫んだ!

 

「そいつはもうお前達の隊長では無い! 独島にチョッパリ共を連れ込もうとした土着倭寇(韓国における売国奴の別名)だ!!」

 

部屋にいる皆が沈黙すると、机で横になっている重傷の隊員達の苦痛のうめき声だけが部屋に響く……チェ副隊長は重傷の2人に近づき、一言呟いた。

 

「助けられなくて……すまん」

 

パン! パン! と乾いた銃声が鳴り響く……チェ副隊長は重傷で動けない2人の頭を拳銃で撃ち抜き、その行動に驚愕している隊員達に向かってこう言い放った。

 

「いいか! キム・ユアンとパク・ハヌル二警の2人は独島を守る為に名誉ある死を遂げた! 解ったか!!」

 

部屋に居た隊員達全員がチェ副隊長の狂気に囚われつつも使命を成そうとするその姿に恐れおののく……。

 

「今から独島警備隊はこの俺が指揮を取る! 亡くなった5人の葬儀は明日行う、オ一警! お前達はその土着倭寇を崖まで持って行って海に捨てて来い! 他の者は接岸場の荷物の搬入と片付けだ! 早く行け!!」

 

こうしてチェ・ヒョヌ警監が自ら独島警備隊の新たな隊長の名乗りを上げ、他の隊員達はその狂信的な理想と狂気としか言えない使命への執着に恐れるが余り、彼を隊長として受け入れるしかなかった。

 

その後、亡くなった5人の埋葬方法について各班長が集まり話し合いが行われたが、岩山しか無い島には5人を埋葬する土地が無く、火葬をするにしても十分な薪の量が無い上に、チェ隊長よりいつ補給が来るか分からない船舶・発電機用の燃料を火葬には使わない様に指示が有った為、亡くなった5人は島から離れた海に水葬する事に決定した。

 

5人の水葬が決定する中、イ・ロウン警正の遺体はオ・ジンウ一警達に島の端の崖まで運びこまれ、満潮の暗い海に投棄された……後でジャンケンに負けたジンウの部下が様子を見に入ったが、既に海流に流されたらしく遺体は見当たらなかった。

 

翌日、毛布と重りで包まれた5人の遺体は小型艇にて島の沖へと運ばれ、一度、国旗で有る太極旗に被せた遺体は太極旗を外されるとそのまま海へと葬られた……。

ジェンソ達は接岸場に整列し、挙手の敬礼にて仲間との別れを告げる中、3回の弔銃が竹島に鳴り響いた。

 

続く




この回にて、ついに必須タグに“残酷な描写”が表示される様になりました。
今回、六話のサブタイトルは最初、「 土着倭寇 」にする予定でしたが差別用語っぽいので別のタイトルにしました。

この作品を書く際に“独島警備隊”について韓国語のサイトを含めて色々と調べては見ましたが、今回チェ副隊長が使ったK5自動拳銃(韓国の軍官で使われている標準的な拳銃)は実際、独島警備隊で使用されているのかすら分からなかったりするんですけど、細かい事は気にスンナ!
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