日本国召喚 異世界の異邦人   作:アニキ イン ザ スペース

7 / 11
第七話 クラーケン

(日本国転移から)36日後……日本国東京都千代田区霞が関 中央合同庁舎第2号館

 

中央合同庁舎第2号館……霞が関の中央官庁地区にて巨大なアンテナ塔がそびえ立つこの官庁庁舎の一室に陸上幕僚監部運用支援・情報部別班、山内哲也と警察庁・外事情報部の佐藤浩太郎、そして数人の職員達が集まり、昨日確認できた竹島の異変について会合を行っていた。

 

警察庁・外事情報部より、一昨日から昨日までの独島警備隊―韓国大使館との無線交信記録が提出される……今まで秘通話通信で行われて解らなかった通信内容が暗号コードの解読により無線傍受が出来る様になったのである。

それにより3日前、竹島の接岸場にて物資搬入用ロープウェイの事故で隊長を含む6人の隊員が死亡し、ロープウェイも破損した為、物資の搬入に支障を来している状況が判明した。

 

「ふうん……隊長も死亡……ねえ?」

 

渡された通信内容のコピーをペラペラとめくりながら山内は呟く……この通信内容は果たして本当の事を話しているのか? 山内には何か引っかかるモノがあった。

 

「やっと無線が傍受できたと思ったら、また想定外の事が起こるとは……それに部隊の後任であるチェ副隊長のプロファイリングも作成しないといけないんだが、いかんせん交信記録ぐらいしか資料がなくてね……。」

 

佐藤は苦笑いしながら答える。

 

「そいつはご苦労様だな、あ~そうそう! この前貰ったハゲオヤジの報告書だけど!」

 

以前、山内が佐藤に依頼していた補給船パガンドのオーナーである、高野賢ことコ・ヒョンの詳細な情報――彼が経営している商社は一件普通の企業に見えるが、実は在日韓国人の会長が務める指定暴力団・特亜会のフロント企業であり、彼が所有していた船のパランドも、元々は北朝鮮の覚醒剤を国内に密輸する為に購入したものであった。

そして、最近のコ・ヒョンの動向については……彼は転移前に事業の失敗により多額の損害を出した事とパランドを失った事でボスである特亜会会長より叱責を受けており、現在は必死に損害の補填の為の金集めに奔走している。

今回の韓国大使館への船の貸し出しも金集めの一環だったが、船を失った後の賠償を含む用船の費用の支払いを大使館側があれこれ理由を付けて支払いを拒んでいる事にかなりの不信感を抱いているらしい。

山内はこの情報を見て、これはイケるかもと考え込んだ。

 

「このハゲは使えそうだ! だから、まず大使館側に仕込みを入れようかと思っている、仕込みのネタを揃えて向こうが動き出したら、公安にもこちらの手伝いを依頼したい。」

 

「また、山内さんの悪だくみに付き合うんですかぁ!? もう、決まっているじゃないですか! 喜んで付き合わせてもらいますよ!!」

 

会合に出席している警察庁の職員がそう答えると、会議室に笑い声が広がる……その後も会合は続き、竹島問題の解決について様々な話し合いが行なわれた。

 

 

同時刻――竹島から南南西、約20kmの海域・深度160m……日本国海上自衛隊第1潜水隊群・第3潜水隊所属・けんりゅう

 

光すら届かぬ漆黒の深海を全長100mを超える巨大な生物が回遊している……そしてその後方約8km先には、ほぼ同じ深度を一隻の潜水艦がその巨大な生物の追跡を行っていた。

海上自衛隊第1潜水隊群・第3潜水隊に所属する潜水艦けんりゅうは有害鳥獣指定された海魔クラーケンを駆除すべく6日前に母港で在る呉を出港し、4日前に目標であるクラーケンを隠岐諸島の西北西約100kmの海域で捕捉し、発見の報告と雷撃にて駆除を行うべく事前に無線連絡を行った所、司令部より攻撃を待つよう指示を受けたのである。

 

司令部によるとこの海魔ことクラーケンはこの世界でも極地にしか生息していない為、文部科学省から捕獲は無理としても死骸だけでも回収し調査を行いたいとの意見が出ており、それに環境省を始め一部の官庁がそれに同調して、駆除後に死骸を回収出来る様に回収手段を確保してから攻撃を行う様、指示が来たのである。

しかし、最初に準備しようとした国内に唯一残った捕鯨母船を使っても胴体だけでも50m近いクラーケンを回収する事は不可能な為、代わりに150mクラスの船舶を入渠できる浮きドックが現場の近くである隠岐諸島方面へと向けて2隻の海洋曳船に牽引され佐世保港を出港したのは昨日の話である。

 

少なくとも、後2日間はクラーケンをこちらから手を出さずに追跡する必要がある……クラーケンは漏斗と呼ばれる個所から吸い込んだ海水を吐き出しながら海中を泳いでおり、その噴出音を頼りに追跡を行っている。

この様な生物の追跡は前代未聞な訳であるが、海流と無音潜航を巧みに使いこちらの失探(ロスト)を狙うロシアの潜水艦や猛スピードで航行しこちらの追跡を振り切ろうとする中国の原潜に比べればはるかに簡単な追跡であった。

 

「艦長、宜しいでしょうか?」

 

発令室の右側にて聴音を行っているソナーマンが、けんりゅう艦長・小久保淳司二佐に声を掛ける。

 

「クラーケンが進路を東北東から北へと変えました……速度も6ノットから約13ノットへ増速、少しづつですが浮上している様です!」

 

「進路を変えただと? クラーケンの進路上に船舶が航行しているのか!?」

 

「いえ、聴音した限りでは、付近に船舶は確認されていません。」

 

現在、この海域では一般船舶の航行が禁止されているが、万が一船が存在するなら今すぐに雷撃を行わなければならない! だが、進路上に船が居ない事に艦長は安堵する。

 

「艦長、クラーケンがこのまま北に進みますと、今の速度で約1時間程で竹島に到達します!」

 

発令室の奥で海図を見ながらクラーケンの進路を割り出した航海士が艦長に報告する。

 

「竹島だと? イカの化け物が島なんかに向かってどうするんだ!?」

 

小久保艦長は何かやな予感を感じつつも、現時点では雷撃の許可が出てない為、竹島へと接近しつつあるクラーケンを監視するしかなかった。

そしてクラーケンは暗い深海の中を竹島へと向かって進んでいった。

 

 

一時間後――竹島(韓国名・独島) 女島(韓国名・ドンド)の接岸場

 

今日も無数の海鳥達が曇り空を舞う中、独島警備隊は事故により中断していた、男島(韓国名・ソド)の避難施設から備蓄物資の回収作業を再開していた。

男島の接岸場に小型艇を停泊し、7人の隊員が物資の搬入を行う中、ジェンソとドハは他の6人の隊員達と共に女島の接岸場にて食料確保の魚釣りを行っていた。

6人の命が失われる惨劇から2日が経過するも、今だ宿舎内に居る隊員達の間に漂う憂鬱な空気から逃れる事が出来る外での業務はジェンソ達にとって心安らぐ数少ない時間となっていた。

 

「畜生、今日も小物しか釣れていないぞ……!」

 

「困ったな……少しは大物を釣らないと隊長からまた嫌味を言われるぞ!」

 

ドハがそう嘆くと隣で竿を振っていた灯台職員のムン・ハギョルがため息を付きながら嘆いた。

 

普段は竹島に建設された灯台の維持・管理を行う灯台職員であるが、島にシン書記官がやって来た翌日に燃料の節約を理由に灯台の運用が停止されており、その事を新たに隊長となったチェ・ヒョヌ警監が事あるごとに「仕事が空いているのだから、その分大物を捕まえろ!」と小言を言われているらしい。

 

ジェンソとドハはそんなハギョルの愚痴を聞いていると、ドハの足元において有ったトランシーバーからコール音がしたので、ドハは釣竿片手にトランシーバーを手に取った。

 

「南監視所より各局! 接岸場南側の海に黒い巨大な影が!! 繰り返す! 接岸場に……おい、アレは!!!!」

 

突然の無線にジェンソ達が聞き入っていると、ドハの横に居たハギョルが悲鳴を上げた! 2人が悲鳴の方向を見上げるとそこには巨大な触手な様なモノに掴まれ持ち上げられたハギョルが海の中に引きずり込まれる光景だった……。

 

「怪物が来るぞ! お前達何している! 早く逃げろ!!」

 

トランシーバーの音声で我に返ったジェンソとドハは釣竿とトランシーバーを投げ捨て島へ上がる階段へと一目散に逃げ出した!

 

ジェンソ達と少し離れた場所で同僚達と一緒に釣りをしていた通信担当のホン・アンソンは突然の悲鳴に振り返ると、ジェンソやドハの隊員達が走って来る姿と、接岸場をよじ登ろうとする巨大な生物の姿が見えた……その生物の巨大さに驚愕したアンソンは恐怖の余り立ちすくんでしまった。

 

「アンソン! 走れ! 逃げるんだ!!」

 

ジェンソの声に気が付いたアンソンは走り出そうとすると横に居た隊員にクラーケンの触腕が巻き付き引き寄せられて行く、捕まった隊員は悲鳴を上げながらクラーケンの口元に寄せられて行く……アンソンはそのおぞましい光景を目視する事は出来ず、そのまま階段へと駆け出した。

 

ジェンソは必死に階段を駆け上がり上へ上へと登って行った……その間にも下側から他の隊員達の悲鳴が聞こえ、南監視所からは自動小銃を撃ち続ける音が聞こえていたが振り返る事はせず、ひたすら階段を駆け足で上り続けた。

 

「ハア……ハア……助かったのか……。」

 

何とか階段を上がりきり警備隊宿舎の近くまでやって来たジュンソが後ろを振り向くと後ろにいるのは、息を切らしながらへたり込むドハと恐怖で泣き出したアンソンの2人だけだった……。

 

「ドハ、アンソン、他の奴らは……。」

 

「逃げ切れなかった……あの化け物に捕まって、喰われちまった!」

 

ジェンソの問いにドハはうな垂れながら答えた、接岸場の8人の内、無事だったのは自分達3人だけだったとは……。

だがジェンソ達が感傷に浸るのを打ち破るかの様に今度はヘリポートから連続した銃声が聞こえて来た。

 

ジェンソ達がヘリポートへ向かうと、7人の隊員達が西の方角に銃を下に向けて発砲している。

下を見るとクラーケンが男島の接岸場に上がろうとしている姿が見えた。

 

「畜生! まったく効いていないぞ!!」

 

ヘリポートの上からオ一警の班隊がK2自動小銃を連射するも全く効果が無く、その内弾切れや弾詰まりを起こす銃が出て来てついには射撃が出来なくなっていた。

 

「そうだ……K6機関銃だ! 早くヘリポートに持って来い!!」

 

銃の弾詰まりを直すのに悪戦苦闘しているオ一警の横で、ベテランのアン上警が島に配備されているK6機関銃(韓国で生産されているブローニングM2重機関銃の改良型)を持ってくる様、トランシーバーで指示を出していた。

こうしている間にもクラーケンは男島の接岸場に登ろうとする際に停泊していた小型艇の上に乗っかり小型艇を大破させてしまった。

 

「ああっ! 船が……。」

 

島に残っていた唯一、外洋航行が可能な小型艇を破壊したクラーケンは隊員達が男島で作業していた隊員達が逃げ込んだ避難施設へと向かっていった。

 

「貴様ら、何をしている! 発砲の許可は出してはいないぞ!!」

 

後ろから大声が聞こえた為、振り向くと今頃になってこの状況を理解していないと思われるチェ隊長がヘリポートにやって来た。

そんなチェ隊長に対しアン上警は強張った表情で何も言わずにクラーケンがいる方向を指差した。

 

「その方向に何か有ると言うのか……!? な……な……何だ……アレは!!!!」

 

アン上警が指差した場所を見下ろしたチェ隊長の眼下にはそれまで頑なに信じようとしなかった怪物の姿が……そしてその怪物は目の前の建物の窓に触腕を入れ込み、逃げ込んだ隊員を中から引きずり出して自らの口に押し込み捕食し始めた。

 

「ひっ……あ……あの化け物は……ひ……人を喰うのか……。」

 

チェ隊長は人が怪物に……しかも自分の部下が喰われている光景を見て悲鳴に似た声を上げた、その場に居た全員が立ちすくむ中、ようやくK6機関銃が運ばれクラーケンを撃つべくヘリポートの端に設置された。

 

ドンドンドンドンドン!! ドンドンドンドンドン!!!

 

銃座に着いたアン上警がK6機関銃の引き金を引きクラーケンに向けて12.7x99mm弾を撃ち込む、先に放たれたK2自動小銃の5.56x45mm弾よりも強力な弾丸がクラーケンの分厚い皮膚に深く食い込むが、決定的なダメージを与えるまでは至っていない様だ!

 

「何だと! 機関銃の弾が効いていないのか!!」

 

「アン上警、目です! あの怪物の目を狙って下さい!!」

 

人間を吹き飛ばす程の威力を持つ機関銃弾を喰らってもビクともしない相手に驚くアン上警にジェンソがアドバイスをする、アン上警はクラーケンの左目に照準器の狙いを定め再度引き金を引いた。

 

ドンドンドン!! ドンドンドンドンドン!!!

 

「プギィアアァァァァァァァァァァ!!!!」

 

撃ち放った機関銃弾の数発が左目に命中しクラーケンは悲鳴の様な鳴き声を上げ避難施設に激しく衝突し建物を押し潰した後に海へと逃走を開始した。

アン上警が再びK6機関銃の引き金を引くも途中で給弾不良により弾が発射できなくなってしまい、クラーケンに追い撃ちを掛ける事に失敗し、海へと逃げるクラーケンを見過ごす事になった。

 

 

クラーケンは去って行き、ようやく島に静寂が戻ってきた……女島の接岸場には上陸したクラーケンに捕食され喰いちぎられた隊員の身体の一部が散乱し、男島ではクラーケンに押し潰された小型艇と避難施設の残骸が無残な姿を晒していた。

 

余りにも大きな被害に独島警備隊の生き残った隊員達の全員が呆然と立ちすくむ中、ジェンソは一人、何故この様な事が起こったのか冷静に考えていた……そして思いついたのは、水葬……恐らくあの怪物は海に葬った仲間の遺体の臭いを嗅ぎつけこの島へとやって来たのだろう。

 

この様な冷静な考えが出来ても、亡くなった仲間に対して何もできず、自分だけが助かった事に無力さと罪悪感が込み上げ、ジェンソはその場で泣き崩れてしまった。

 

続く




独島警備隊に更なる不幸が……そして山内達、情報部別班の暗躍が本格化してきました! 色々と調べていると独島警備隊には重機関銃が配備されている事を知りまして、今回、本作では数少ない戦闘シーンで使うことにしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。