(日本国転移から)37日後……竹島(韓国名・独島) 男島(韓国名・ソド)の接岸場
昨日のクラーケン襲撃から一夜が明け、独島警備隊は厳戒態勢の中、男島の崩壊した避難施設の捜索を行っていた。
女島(韓国名・ドンド)の各監視所には予備弾薬を持たせた隊員と島の中央にある砲台にも砲手となる隊員を待機させ、再度襲撃して来るかもしれないクラーケンへの警戒を行っていた。
そしてジェンソは男島で瓦礫となった避難施設で行方不明者と残った物資の捜索を他の隊員達と共に行っていた。
クラーケンに小型艇まで破壊された為、男島に移動するには残った2隻のゴムボートに乗って移動し手作業で他の隊員と共同で瓦礫を一つずつ取り除いていく……途中、回収しきれなかった食料等の備蓄物資がいくつも瓦礫の中から出てきたが、袋が破れていたり潰れて中身が漏れ出していたりしていずれも使い物にならなかった。
昼を過ぎた頃、瓦礫の中から圧死した一人の隊員の遺体が見つかり、その後も瓦礫を掻き分け捜索したが遺体は発見されなかった。
今回のクラーケンの襲撃で10人の独島警備隊員と2人の灯台管理員、合計12人が死亡し、圧死した一人を除けば全員がクラーケンに捕食された事になる。
今日一日の捜索を終え、ジェンソ達は僅かに回収できた物資を手に警備隊宿舎へと引き返していく。
そして疲弊したジェンソはドハやアンソンに声を掛けられても返事する事すらできず、そのまま寝室へと向かい泥の様に眠りについた。
そして翌日、亡くなった隊員達12人の葬儀が行われた。
ただ一人、識別出来る形で遺体が発見されたカク・スンヒョン二警の遺体は女島で集められた誰の者か判らない肉片と共に火葬され、女島の灯台そばに有る僅かな土地に建てられた5つの殉職者の墓標の横に埋葬された。
この異世界の転移に巻き込まれて既に18人もの死者が出ており、ジェンソは事態が好転する希望があるのか、それともこの独島が自分達の墓になるではないかと考えていると、空から唸る様な音が聞こえ始めた……見上げると上空に日本の飛行機が島を旋回して監視しているのが見えた。
「あぁ……あれは俺達が死ぬのを待っているハゲタカだな……。」
ジェンソは上空を飛行する海上自衛隊のP-3Cを見つめ、そう皮肉交じりな言葉を呟いた。
それから2日後――隠岐諸島から北北西、約40kmの海域……日本国海上自衛隊第1潜水隊群・第3潜水隊所属・けんりゅう
ここまでクラーケンの追跡を継続していた潜水艦けんりゅうは無線通信の為、潜望鏡深度へと浮上を開始した。
何処までも広がる紺碧の大海に一つの黒い影が浮かび上がる……やがてその黒い影から突起物にしか見えない通信用アンテナが海上へと上げられ通信を開始する、そして一分もしない内に通信用アンテナは下げられ海中の黒い影も海の底へと消えていった……。
「艦長、こちらが司令部からの通信です!」
小久保艦長は通信士より渡された通信内容が印字された用紙に目を通し……横に居た先任士官の工藤一尉に紙を手渡す。
「本番ですか!?」
「あぁ、やっと雷撃許可が出た……しかし、自国民では無いとは言えココまで人的被害が大きくなるとは……。」
小久保艦長は工藤先任の問いに答える、まさか一匹の生物が船や島に居る人間を襲ってここまで被害がでるとは……こんな化け物を万が一、仕留め損なって無防備な沿岸部に押し寄せてきたら大変な事になる! 小久保艦長は深く息を付き、ここでクラーケンを退治する決意をした。
「ソナーマン、クラーケンの現在の位置は!」
「はっ! クラーケンの現在の位置、方位010・距離約6km・深度約195m、進路方向は350・速度約6ノットです!」
クラーケンは竹島を襲撃後、竹島近海をまる一日かけて周回し、10時間ほど前から隠岐諸島方向へと進路を変えそのまま南下を続けている、退治したクラーケンを回収する浮きドックも既に隠岐の島近くに待機している。
司令部も機は熟したと判断したのだろう……小久保艦長は工藤先任と目を合わせた後、互いに頷いた。
「これより雷撃戦を行う、総員戦闘態勢! 目標、方位010方向のクラーケン!!」
待機中だった隊員達を含め、全ての隊員がそれぞれの持ち場へ駆け出していく! 海上自衛隊の潜水艦が演習以外で雷撃を行うのは1974年の第十雄洋丸事件以来である、しかも相手は海魔と呼ばれる未知の怪物であり、けんりゅうに搭載されている89式魚雷が生物でもあるクラーケンに有効なのかも実は不明な状況なのである。
水雷長の話では、目標の誘導に関してはクラーケンの推進音ともいえる、漏斗から出る音で魚雷のパッシブ誘導は可能であるが、鉄でできた船とは違い、クラーケンは生物なので磁気信管が作動しない事を想定し魚雷をクラーケンに直撃させる必要があり、それでも接触信管がちゃんと機能するかは五分五分とのことらしい。
「後、魚雷のアクティブ追跡モードなんですが、音波を発する事であの化け物がどう動くか全く想像できません!」
水雷長いわく、アメリカの原潜程では無いが、89式魚雷がアクティブ追跡時に発する音波もある種の海洋生物にとっては轟音である為、下手に刺激するとパニックになったクラーケンがこっちに向かって来て最悪の場合、艦に激突して被害を受ける可能性も在り得るとの事だが、それでも相手が驚いて動きが鈍ったり、強烈な音波で麻痺する可能性が在れば、アクティブモードも十分使い道が在るとの意見があった。
「進路このまま……1番魚雷発射管、雷撃よーい!」
「一番魚雷、諸元入力よし、1番魚雷発射管、注水開始……注水完了! 1番魚雷発射管、開きます!」
けんりゅうの右上にある発射口がゆっくりと開く……発令室に居た隊員全員が艦長のいる方向に振り向く。
「1番魚雷! 撃てーっ!!」
艦長の号令と共に、シュゴォーッ!と言う音を立て89式魚雷が水中へと放たれる! 89式魚雷は誘導ワイヤーを引きながらパッシプ追跡モードにて時速55ノットの速度で真っ直ぐと目標であるクラーケンへと向って行く。
「1番魚雷、航走確認! 目標到達まで約4分!」
このまま魚雷の問題が無ければ命中間違い無しと思ったその時。
「クラーケンが増速、転舵した模様……ん? これは……クラーケンのいる方向にもう一つ音の塊が……まさかデコイか!?」
海中から発する音を表示するソナー画面に新たな音源が増えた事にソナーマンは驚きの声を上げる。
クラーケンは自らの後方から高速でやって来る異音に危険を察知し、体に吸い込んだ海水を漏斗から最大の力で噴出し一気に時速20ノット以上の速度を出し、更に漏斗から細かい空気の泡を大量に吹き出して自らの囮を作り出し魚雷を回避しようとしたのである。
「生物がデコイだと!……いや! コイツは外見もイカに似ているから、あり得るのか!!」
「なるほど、イカの墨みたいなものか!?」
工藤先任と小久保艦長のそれぞれがクラーケンの取った行動に驚きと感心を示している間にパッシブモードの89式魚雷は巨大な細かい泡の塊から出る音がクラーケンの漏斗から出る音と似ていた為に、泡の塊に突っ込み、そのまま通過して目標を見失ってしまった。
「魚雷、目標を失探! クラーケンは左方向に逃走……魚雷、左旋回を開始します。」
有線ワイヤーを牽引した89式魚雷は、けんりゅうからの指令により左側に弧を描きながら旋回し再びクラーケンを捉えた、しかしクラーケンは直径8mを超える巨大な右目で深度200mに近い光の無い深海にも係わらず魚雷の動きを「 目視 」し、タイミングよく漏斗から海水を噴き出し高速推進する事で魚雷を回避してしまった。
「なんて奴だ! 魚雷を回避したのか、次は右旋回!!」
小久保艦長の指示により89式魚雷は右旋回を始める、三度目の魚雷の接近を察知したクラーケンだが、左側の目は3日前に独島警備隊から受けたK6機関銃の弾により視力が大きく下がっていた為、接近してくる魚雷を見つける事が出来無かった。
「アクティブモード開始!!」
タイミングを計ったかの様な艦長の指示により89式魚雷から有線ワイヤーが切り離されると同時に魚雷から強烈な探信音が発せられる! 突然の大音響に驚愕し動けなくなったクラーケンの左の胴体に時速55ノットで航走する魚雷が突き刺さる! そしてその衝撃により接触信管が起動した。
炸裂した267kgもの高性能炸薬はクラーケンを屠るのには十分な量で有った、魚雷の爆発によって左胴体を大きくえぐられたクラーケンはその一撃で絶命し、その轟音と衝撃は秒速1.5kmの速度で6km先のけんりゅうにも伝わった。
「魚雷命中!!」
「やったか……?」「間違いない!!」「うおおぉぉぉっ! 怪物を仕留めたぞっ!!」「やったぞーっ!!!」
魚雷命中に艦内の乗員達は歓喜の声を上げる。
「静かにせぃ!!!!」
「…………」
歓声を上げる乗員達を水雷長が一喝して黙らせた。
海中のノイズが消えるのを待ち、ソナーマンがソナー画面を見つめ状況の確認を行う、クラーケンが発していた活動音は何処にも聞こえず小さなパチパチと言う気泡の音だけがクラーケンの居た方向から聞こえてくる。
「艦長、目標の活動音は停止を確認、どうやら浮上している様です!」
「よくやった! これより目標の死亡を確認する、浮上せよ!」
「了解! ベント閉鎖、浮き上が~れ!」
けんりゅうはゆっくりと浮上し、巨大な葉巻型の姿を海面に現した。
小久保艦長と工藤先任は艦橋へ上がり双眼鏡でクラーケンの捜索を開始した、程なくして11時方向に赤黒い小島の様なモノが海面を漂っているのを発見する。
「あれがクラーケンか!」
「でかい……浮いている部分だけで、シロナガスクジラよりもはるかに大きいですよ!」
2人は自らが倒したクラーケンのその巨大さに圧倒される……その後、けんりゅうはクラーケンから2キロ程離れた位置で停船し通信用アンテナを上げてクラーケン討伐成功の報告を司令部に送信する。
そして浮上したまま定期的に現在の位置を示す為に信号を発信し続ける……本来なら潜水艦にはあるまじき行為であるが、異世界に転移後GPSが使えなくなり、さらに異世界が地球より巨大な惑星の為に経度緯度の概念まで使えなくなった為、位置を知らせる術が限定されているのである。
それから約3時間後に2隻の海洋曳船に牽引され、多くの学者達を一緒に乗せて来た巨大な浮きドックが到着し、クラーケンの回収作業が始まった。
2隻の曳船は手際よく浮きドッグの中にクラーケンの死骸を入れた後、浮きドッグがゆっくりと浮上を開始する……浮きドックが徐々に浮き上がるにつれて海魔クラーケンの全容が明らかになってくる。
「でけぇ……コイツは足まで入れたら100m以上あるぞ!」
「あそこに魚雷が命中したのか! 胴体の半分以上がえぐれている……。」
「この生物、イカに似ているのに触腕が4つもありますよ!」
「おい見ろ、怪物の胴体……破れた部分に何かいっぱい動いている!? 凄いぞ! 見たことの無い生物が喰いついている!!!」
浮きドッグの艦橋からクラーケンの死骸を観察していた学者達から驚きの声が上がる、地球の生物では想像できない大きさの生物を目の当たりにし、彼らは興奮を隠せないでいた。
さらに魚雷で引き裂かれたクラーケンの胴体部分には分厚くて固い皮では無く、柔らかい内臓を喰らいつくそうとした無数の異世界の生物、海魔が一緒に捕獲できたのである。
その後、クラーケンの死骸と無数の生物達を収容した浮きドッグは本土に回航され、捕獲した異世界生物の本格的な調査が開始された。
学者達はクラーケンの死骸から出る強烈なアンモニア臭に似た悪臭に悩まされながらも解剖調査を行った結果、この世界で海魔と呼ばれる生物は今までの生物学の見地から見ると生物としては存在しえない構造となっており、後にクワ・トイネ公国より招いた学者・魔術師の意見を参考にした結果、彼らが「 魔素 」と呼ぶこの異世界由来の未知の物質(そもそも検知する手段がない為、物質で有るかも分からない。)を何らかの形で体内を取り込み、通常なら破綻してる筈の身体を維持する為のエネルギーに変換しているのでは? と言う仮説に行き着いたが、魔法と言う科学とは全く異なる存在を理解していない状態で、生物にも魔法由来の要素が含まれている事に日本の学者達はどの様にすればこれらを解明できるのか、思案にくれるのだった。
クラーケン討伐から翌日――日本国海上自衛隊第1潜水隊群・第3潜水隊所属・けんりゅう
司令部より、昨日討伐し浮きドッグに収容されたクラーケンの写真と映像が送信され、艦内のTVモニターに映しだされた、クラーケン討伐成功の興奮が醒め止まぬ艦内に再びどよめきの声が起こった。
「デカいデカいと言っていたが、こうやって人と比べる映像が有ると本当にデカい事が分かるなぁ!」
「しかしこのデカさで2度も魚雷を回避したんだぜ……驚きだよ!!」
「でもコイツを魚雷で倒すことが出来るのが解ったんだ、それだけでも殊勲ものだ!」
「そうだ、それにまたやって来る様な事があっても、この艦なら負ける事は無い!」
思い思いの事を語り合うけんりゅうの隊員達、未知の怪物に初めて勝利した事に彼らは潜水艦乗りとしての自信を高め、この異世界の脅威に立ち向かう決意を新たにした。
そして、クラーケン討伐と言う潜水艦けんりゅうの功績は大きく報道され、多くの人々の称賛を得る事となった。
続く
八話にてついに自衛隊と海魔との交戦が繰り広げられ、やっと日本国召喚っぽくなったぽい!
とりあえずタイトルやら話の合間に潜水艦名作の何かをコッソリといれておけば、ナウなヤングにもバカウケだからイケイケドンドンと言いつつ執筆が遅れまくりました……。
現代の潜水艦って分からん部分が多すぎるので、潜水艦の戦闘シーンはPCゲームのDangerous WatersやCold Watersをプレイしてそれっぽく書いてみました。