日本国召喚 異世界の異邦人   作:アニキ イン ザ スペース

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第九話 終焉

(日本国転移から)39日後……竹島(韓国名・独島) 独島警備隊宿舎

 

今日も独島警備隊と在日韓国大使館との無線通信が紛糾している光景を通信担当であるチョン・イドゥンとホン・アンソンの2人はうんざりとした顔つきで見ていた。

何かと自分が優位に立たないと気が済まないチェ隊長は大使館との交信においても事ある毎に大声でまくし立て、問題を全て大使館側に責任転嫁しようとする姿は部下の自分達でも(決して口にはしないが)非常に見苦しさを感じる。

 

ようやく通信が終わりチェ隊長は無線機のマイクを机に叩き付け、独り言を言いながら無線室を後にする。

部屋に残ったイドゥンとアンソンは顔を見合わせる、チェ隊長は何も言わなかったが、本日は久々に進展する出来事があった。

一つは島を襲ったクラーケンが日本により退治された事、そしてもう一つは新たな補給船の確保に向け話が進んでいるとの事である、2人は久し振りに良いニュースが出てきた事に喜んだ。

 

「チョン一警、久々の朗報ですね!」

 

「あぁ、後で皆に伝えよう! 補給船が来る様になれば、状況が改善される!」

 

2人は久し振りに笑顔で無線室を後にするもアンソンはふと立ち止まる、今までも事体が好転すると思っていた後に必ず不幸な事が起こっていた、まさか今回も……アンソンはそんな不安を感じるも、イドゥンに呼ばれて気を取り直し再び歩き始めた。

 

 

(日本国転移から)43日後……竹島(韓国名・独島) 女島(韓国名・ドンド)の接岸場

 

「ドハ、どうだった!?」

 

「駄目だ……小魚一匹も釣れない。」

 

クラーケンが退治された事を知り、ゴムボートで竹島の沖合に出て釣りをしていたドハが接岸場で待っていたジェンソに力無く答えた……。

接岸場で全く魚が釣れなくなった為、ゴムボートを使って沖での釣りを試してみたが結果は同じで全く釣れなかった。

失意のままジェンソはドハや他の仲間達と共に釣り具の片付けやゴムボートの収容を行っている時にふと空を見つめ、有る事に気が付いた。

 

「そう言えば……海鳥達がいない!? ドハ、空を見ろ! 海鳥が一匹もいないぞ!!」

 

「そう言われれば……全く気が付かなかった! どういう事だ!?」

 

ジェンソの声にそこに居た全員が空を見上げた……クラーケンが島に襲撃してから魚が居なくなり、鳥達までも何処かに行ってしまった。

これはクラーケンが島に来た事で魚や鳥達が驚いて逃げたしたのか? それとも何かの凶兆なのか……。

 

 

(日本国転移から)50日後……竹島(韓国名・独島) 独島警備隊宿舎

 

竹島が日本本土と共に異世界に転移して50日が経過した、その間に日本では閉鎖されていた旧オーストリア大使館に新たにクワ・トイネ公国・在日大使館が開設され、初の異世界国家との外交活動がスタートした。

再来週にはクイラ王国の在日大使館も開設され、それぞれの国との交流が本格化する。

 

日本本土では目まぐるしく状況が変化する中、独島警備隊宿舎の無線室ではイドゥンとアンソンが、在日韓国大使館と無線交信を行うべく無線機を操作していた。

ここ8日程、大使館との交信が途絶えており「明日、新しい補給船を確保する為の交渉を行う」との内容を最後に大使館側との通信が行われていない。

チェ隊長には無線機の故障かつ、転移の影響で部品の交換に手間取っているのでは? と報告しているが、実際はどうなんだろう……通信が出来ない事にチェ隊長は不信感を募らせており何時爆発するか、気が気でならない状況だった。

 

「…………チョン一警! 通信、来ました! 大使館からです!!」

 

8日ぶりに通信できた事にアンソンは喜びの声を上げる、最後の無線の内容通りだったら、今日は補給船確保の報告と補給の日程について話し合われるだろう。

イドゥンは内線でチェ隊長を呼び出そうとした時、大使館側の担当であるシン二等書記官とは違う声が無線機から聞こえて来た。

 

「……独島警備隊……聞こえますか…………こちらは在日大韓民国大使館……私はソン・ミンウ三等理事官……。」

 

「独島警備隊よりソン理事官、よく聞こえます! これからチェ隊長をお呼びしますので……ところで今日はシン書記官はお休みですか?」

 

「実は……その事について何だが……君たちには話し難い事なんだが……。」

 

今までの通信では必ずシン2等書記官が大使館側の代表として出ていたのだが、今回は初めて聞く名前の職員が無線で話しかけて来た。

しかし、話し難い事ってなんだ? イドゥンは首を傾げる、そしてソン理事官はチェ隊長の到着を待たないまま話を始めた……。

 

「シン・ウンチャン二等書記官が8日前から行方不明になった……。」

 

「えっ……!?」

 

突然の事にイドゥンとアンソンは驚きの声を上げる中、ソン理事官はこれまでの経緯について話し始めた……約2週間前、とある業者から「350トンクラスの遠洋マグロ漁船を傭船として仲介できる」との連絡があり、シン書記官が話を聞いてみると、日本の遠洋マグロ漁船の船主が転移の影響で遠洋への漁に出られない上に、さらに金に困っているとの事で、金さえ支払えば直ぐにでも船を出せると言う話らしい。

内訳は4年の傭船契約で費用は1億4千万円、ただし現金で先払いする事が絶対条件で有ると言われるが、他に船舶を確保できる当てが無く早急に補給船を確保する必要が有った為、シン書記官はこの条件を呑む事にした。

これまで在日同胞から集めて来た資金を現金に換え、8日前に職員1人を同行させて仲介人が指定したホテルへ公用車で向かったのだが、その後の連絡も無く、シン書記官と職員1人の行方が分からなくなってしまった。

大使館は日本の警察に捜索を依頼したが、シン書記官が該当のホテルへ立ち入った形跡及び、公用車がホテルや付近の駐車場を使用した形跡が無かった事とNシステムにて該当の公用車が東名高速を名古屋方面へ走行しているのを確認したとの報告があり、シン書記官はこれまで集めて来た資金を持ち出して失踪したと大使館側では推測し、今も行方を追っているとの事だ。

 

その後、大使館側は大慌てで仲介人に連絡を取ったが、この件はもう終わった話だと言われて取り合って貰えず、更に資金を持ち逃げされた事が何故か出資者や在日韓国民団に知られてしまった為に大使館は在日同胞達の信頼を大きく失墜させる事態となってしまった。

この様な状況の為、ソン理事官は現時点で独島警備隊への支援は困難で有ると伝え、次回の通信は事態が好転したら此方から連絡を行うと言い残し一方的に無線を切ってしまった。

 

「ちょっと待ってください! ソン理事官、応答せよ!!」

 

イドゥンは慌てて通信を送るも無線を切られた為、韓国大使館側からの応答は無かった……あまりの事にイドゥンとアンソンは呆然となるも、遅れて通信室にやって来たチェ隊長にはありのままを話すしか無く、録音していた通信内容を聞かせるとチェ隊長は烈火の如く怒り出した。

 

「あの野郎! 金を持って逃げ出すとは、何て奴だ!!!」

 

激高しわめき散らしながら通信室の扉を蹴り壊してチェ隊長は出て行った……イドゥンとアンソンはチェ隊長に壊された扉を修繕しつつ、この異世界に転移してから今まで起こった出来事を思い返していた。

ロープウェイの事故、クラーケンの襲来、そして今回はシン書記官の失踪により大使館からの支援が当てにならなくなった事……次々と起こる災難にやり場の無い怒りと無常さを感じつつも、次は何が起こるのか、そして自分達はこれからいったいどうなるのか……もう何をすればいいのか分からぬまま希望の無い明日を彼らは迎える事になった。

 

(日本国転移から)57日後……竹島(韓国名・独島) 女島(韓国名・ドンド)の東監視所

 

この異世界の転移から2ヶ月近くが経過するも、ジェンソとドハは相変わらず日課である監視所での立哨を行っていた。

監視所から海を見下ろすと沖合に釣りに出ていたゴムボートが戻って来る姿が見える、だが今日も魚が一匹も取れていない様だ……夕闇が迫る海鳥が居なくなった空を見上げジェンソが呟く。

 

「俺達、明日もココに居るんだよな……何処かに飛んで行った鳥達がうらやましいぜ。」

 

「ジェンソ……お前らしくないな、それに今の言葉、隊長に聞かれたら大変な事になるぜ!」

 

ジェンソの呟きに対してドハが返事をする、大使館からの連絡が途切れてからチェ隊長が以前にも増して粗暴な態度を取るようになり、不満を口にした部下に対して拳銃を突きつけて脅迫すると言った常軌を逸する行動を取る様になっていた。

多くの隊員達はこの様な状況から逃げ出したいと内心思っているが、島にあった唯一、外洋を航行出来た小型艇がクラーケンに破壊された為、島から脱出する事も叶わなくなり(船外機付きのゴムボートが残っているけど、外洋に出るのは危険すぎる上に航続距離が短かくて一番近い島にも行けない。)常に独島死守を言い張り続けるチェ隊長の前で本心を語る事すら出来ない……今やこの島に生き残っている24人の隊員達は大使館からの通信が途切れ、さらに倉庫室に備蓄してる食料と燃料の残りがどう持たせても後5日持つかどうかと言う事態にまで追い込まれている。

ドハはさすがに食料の備蓄が無くなれば隊長も考えも変えるだろうと口にするが、果たしてチェ隊長が考えを改めてくれるのか? ため息を付きジェンソは日没の空を見上げる……そこにはここが異世界で在る事の証である2つの月が青く輝き海を照らしていた。

 

 

(日本国転移から)59日後……竹島(韓国名・独島) 独島警備隊宿舎前

 

海鳥達の姿が見られなくなって久しい竹島の空の下、監視所での立哨を別班と交代したジェンソとドハは警備隊宿舎へと島の狭い道を歩いている、だがその足取りは何処と無く重い……今や独島警備隊は食料やあらゆる物資が枯渇し始めている上に日本に居る在日同胞達から見捨てられた状況化で有るにも関わらず、今日も朝礼でチェ隊長は拳銃を手にしながら独島死守を声高に訴えていた。

 

「なんか宿舎に戻るのも億劫だな……。」

 

「まったくだ! 中にいると何処も殺伐としていて、居心地が悪くてさ……。」

 

ジェンソとドハはそう話しあいながらも警備隊宿舎前に着くと突然、宿舎内から連続した銃声が鳴り響いた!

 

「ジェンソ! 今のはピストルの音じゃ無い!! 自動小銃の音だ!!!」

 

「いったい何が……ドハ、急ごう!!!」

 

2人は肩に担いでいたK2自動小銃を手に持ち替え、駆け足で宿舎内へと入って行った。

 

 

ジェンソ達が宿舎に戻る3分前……独島警備隊宿舎内・隊員室

 

「なんだよ、この前まで菓子がパンパンに入っていたのにもう空っぽかよ!」

 

オ・ジンウ一警がホン・アンソン二警の私物入れである箱を持ち上げ、つまらなそうに呟く……その横では顔に青痣ができ出血しているアンソンが

ジンウの取り巻きである4人の隊員に両腕を押さえ付けられていた。

 

島の食糧が減っていく中、腹を空かせていたジンウ達は以前、ホン・アンソンの私物の箱に大量の菓子が有った事を思い出し部屋の中を物色していたが、偶然アンソンが部屋に入って来た為、騒がれる前に5人でアンソンを袋叩きにして押さえ付けたのであった。

 

「菓子なんて、とっくの昔に無くなりましたよ……。」

 

アンソンはジンウを睨みつけ吐き捨てる様に言った……以前、箱の中に入っていた菓子は通信室で何かと荒れるチェ隊長をなだめる為に、使い切ってしまった。

 

「新兵のクセにてめぇ! 生意気言ってんじゃねえっ!!!」

 

その言葉と態度に腹を立てたジンウはアンソンの腹を蹴り、手に持っていた箱を床に投げつけた、すると僅かな私物と共に入っていたアクリルケースが壊れて中から一枚の写真が出て来た、ジンウは何かとおもむろに写真を拾い上げて見てみる。

 

「なんだコレ……オイ、見ろよ! コイツの家族の写真だぜ!!」

 

ジンウは写真を取り巻き達に見せつけると彼らは下品な笑い声を立てながらアンソンをからかい始めた。

 

「アンソン! お前の妹、可愛いじゃねえか! 俺がハメてやるから今度紹介しろよ!!」

 

「俺はお前の母ちゃんでもいいぜ! いいだろ、お前の兄妹が出来るまで頑張るからよ~!」

 

「ハハッ、聞いたかアンソン! こいつらお前の家族とヤリてーだってよ!! まぁ、今頃は他の男共を家に呼びこんでヤリあってんじゃねーか!!」

 

家族を侮辱されたアンソンはジンウに唸り声を上げながら睨み付け彼に飛び掛かろうとするが、取り巻き達がさらに強く押さえ付け動きを封じた。

 

「何をバカみたいに唸っているんだ! だいたいこんな物持っていたって、もう二度と会えないんだからよ……だったらこの俺が諦めがつく様にしてやるぜ!!」

 

そう言うとジンウはアンソンの前で家族の写真を破り始める、そして床に破り捨てた写真を笑いながらブーツで踏みにじった。

 

するとアンソンの左腕を抑えていた取り巻きの一人が悲鳴を上げた、アンソンが彼の腕に激しく噛み付き左腕を振りほどくと今度は右腕を抑えている取り巻きの頭に頭突きをして怯ませると隣の部屋に走って逃げ出した。

 

「イテェ!! この野郎!!!」

 

「テメェ! 待ちやがれ!!」

 

2人の取り巻きがアンソンを追いかけて隣部屋に入るが次の瞬間、取り巻き達の悲鳴と一緒に銃声が鳴り響いた!

 

パンッ!パンッ! パンッ!パンッ!!

 

追いかけていた一人が隣部屋から慌てて逃げ出して来たが銃声と共に頭を撃ち抜かれジンウ達の前で倒れてしまった、ジンウが隣部屋の扉を見るとそこにはK2自動小銃を手にしたアンソンが居た! 転移依頼、何時でも日本の奇襲に対応出来る様にと常に実弾の入ったマガジンを装填して部屋内に置いていたのをアンソンは手に取り、その銃口をジンウ達に向けた。

 

「や、ヤバいぞ! 逃げろ!!」

 

パンッ!パンッ!パンッ!! パンッ!パンッ!!

 

そう言いだして逃げ出した残りの取り巻き達に対しアンソンは発砲した! たちまち床に倒れ血を流している2人を見て一人残ったジンウはその場で腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 

「や、やめろよ……アンソン、さっきまでのは冗談……冗談なんだから……なあ!!」

 

「アレが……アレが冗談だと!! ならばこっちは本気だぁ!!!!」

 

「アンソン! やめるんだ!!」

 

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!!

 

1階入口から駆け上がってきたジェンソがアンソンを止めようとするが、ジンウの言葉に激高していたアンソンは聞き入れる事無く引き金を引きジンウに弾丸を浴びせた! ジンウは数発の弾を喰らうが全て急所を外していた為、うめき声を上げ床をのたうち回った。

 

「アンソン……何て事を。」

 

ジェンソの姿を見て我に返ったアンソンは、床に倒れた死体とうめき声を上げ続けるジンウの姿を見て自分が何をやったのかを理解しワナワナと震え出した、そして自分の顔に銃口を向け呟いた……。

 

「母さん……ごめん。」

 

パンッ!! と言う音と共にアンソンは自らの頭を撃ち抜きその場に倒れた……あまりの事にジェンソ達は呆然と立ち尽くしてしまう。

 

「そんな……ウソだろ!」

 

「アンソン、どうして……どうしてこんな事に!」

 

ジェンソとドハ、そして遅れてやって来たイドゥンが倒れたアンソンの前に駆け寄る、既にこと切れたアンソンを見てイドゥンは崩れ落ちる様に膝を付き涙を流した……その横ではイドゥンと一緒にやって来たアン上警が負傷したジンウに応急処置を施しているが、既に手の施し様の無い状態であった。

これほどの騒ぎが起きているにも係わらず、ようやくチェ隊長が部屋へとやって来た。

 

「な、何だコレは……ジェンソ! これはどういう事だ!!」

 

「……報告します、ホン・アンソン二警がオ・ジンウ一警と他4人を射殺後、持っていた銃で自殺しました! 原因は……不明です。」

 

床一面、血だらけとなり5人の遺体が倒れている現場をみて顔を引きつらせながら青くなっているチェ隊長にジェンソは淡々と答える。

 

「そ、そうか……だったら早くコイツ等の死体を片付けろ……片付けたらさっさと持ち場に戻れ!!」

 

そう言いながら部屋を出ようとしたチェ隊長の前にジェンソが立ち塞がった。

 

「な、何だ……ジェンソ? そこを退け!!」

 

「チェ隊長……まだ続けるんですか!!」

 

「!?……何だと貴様!!」

 

「まだ続けるんですか! と聞いているんです!!」

 

「き、貴様……我々は独島警備隊だぞ!! この独島は我ら韓民族の自尊心で、この世界唯一の韓国領土だぞ!! 貴様はそれを捨てて逃げるつもりかぁ~!!!」

 

チェ隊長は立ち塞がるジェンソに対し手に持っていた拳銃を向けようとするが、急に彼の足を誰かが引っ張り始める……驚いてその方向を見ると息も絶え絶えなジンウがチェ隊長の右足にしがみ付き助けを求めていた。

 

「た、隊長……助けて……チェ隊……長……。」

 

「ひいっ!!!」

 

驚いたチェ隊長はしがみつくジンウに対し拳銃を発砲する! しかしジンウは中々離れようとせず、何発も発砲する事でこと切れたジンウをようやく振りほどき急いで部屋を出ようとすると、今度はジェンソだけではなく他の隊員達も部屋の出口に立ち塞がっていた。

 

「隊長……島の食糧は後3日もしたら枯渇します、ご決断下さい!」

 

ジェンソの横にいたアン上警が今の状況をチェ隊長に伝える……今まで何度、進言しても独島に留まる事に固執したチェ隊長は聞き入れる事が無かったが、ここで今一度、今の独島警備隊の最悪な状況を声に出して伝えるのであった。

 

「怪我をすれば誰も救える事は出来ず、食糧すら補給のアテが無い! もう、これ以上持たない事はアンタも分かっている筈だ!!」

 

「き、貴様ら! それでも独島警備隊かぁー!!!」

 

激怒したチェ隊長は手にしていた拳銃をアン上警に向け引き金を引くも弾が出ない……さっきジンウを振りほどく為に連発した事で弾を使い切ってしまったのだ。

 

「な、なんだよ……お前達は……く、食い物だろ……医者だろ! 持ってくればいいんだろ!! だ、だったら……俺が、俺が持ってきてやる!!!」

 

チェ隊長はそう言うとジェンソ達を押しのけて警備隊宿舎を飛び出した後、接岸場に係留したゴムボートの一隻に乗り込み、海へと向かっていった。

ジェンソ達は接岸場までチェ隊長を追いかけていったが、そこで沖合へと消えていくチェ隊長のゴムボートを見送るしかなかった。

チェ隊長は鬱陵島(うつりょうとう)へと向かって行ったんだろうか? だがこの転移した世界には鬱陵島は存在せず、もし在ったとしても外洋を航行しなければならない為、ゴムボートで辿り着くのは無理な話であった。

 

あれから数時間、チェ隊長が戻って来るのを待っていたが、既に日は落ちており、もう戻ってこない事を悟った残りの隊員達は警備隊宿舎に集まって最後の決断をすべく話し合いを始めた……。

 

そして通信室に全員が集まり、通信担当のイドゥンが無線機に電源を入れるのを皆で見守っていた……無線機の電源を入れたイドゥンは周波数が合っているのを確認した後、無線通信を開始した。

 

「……こちらは慶尚北道警察庁・独島警備隊……日本国海上保安庁……応答を願います……。」

 

 

(日本国転移から)60日後……竹島(韓国名・独島) 独島ヘリポート

 

次の日の朝、18人の独島警備隊隊員達は僅かな手荷物のみを抱え、毛布に包まれた5人の遺体と共にヘリポート前に集合した。

打ちひしがれ疲弊した彼らの顔には表情は無く、ただ南側の空と海を虚ろな目で見つめている……。

この島を守る使命を帯びながらそれを成すことが出来なかった悔いや負い目が心に重く伸し掛かってくる……しかし、まだこの島に残ろうなどと思う者はいない……たとえこの島に居残ってもこの次に起きるであろう更なる惨劇にもう耐え切れないと皆がそう思っていたからだ。

 

ジェンソとドハ、そしてイドゥンの3人は待ちくたびれたかの様にその場に座りこむ、イドゥンの横には毛布で包まれたアンソンの遺体があり、彼の亡骸を見続けていたイドゥンは何かを語ろうとしたが、途中で感情を抑える事が出来なくなりその場で泣き崩れてしまった……。

 

やがて大きな音と共に南の空より2機の陸上自衛隊の大型ヘリコプターCH-47JAが飛来し、その内の1機がヘリポートへと着陸して来た。

着陸したヘリの後部ランプドアが開くと4人の陸上自衛隊員が降りて来て、その内の1人が韓国語でアン上警と話し合った後、アン上警は

皆に向かって大声で話しかけた。

 

「今朝言った通り、手荷物以外は持ち込む事ができない! 検査を終えて収容次第、日本へ出発する!!」

 

ジェンソ達はボディチェックと手荷物検査を終えた後、陸上自衛隊員にヘリコプターのキャビンへと案内され乗り込んだ、最後にアンソン達5人の遺体を乗せた機体は後部ランプドアを閉め、離陸を開始した。

 

2機のCH-47JAは編隊を組み高度を上げて行き巡行速度へと速度を上げていく、ヘリに収容された隊員の一人が近くの丸窓を見つめると皆に伝えるかの様に叫んだ!

 

「おい! 独島がみえるぞ!!」

 

その一声で独島警備隊員の皆が「片方に集まるな!」と言う自衛官の声を無視して、左の窓側に集まり窓を除き始めた、ジェンソとドハは駆け寄った丸窓に顔を寄せると小さな2つの島……独島が2人の目に入った。

 

「独島が……もうあんなに遠く、小さくなってしまって……なぁ、ドハ!?」

 

ジェンソがドハの方を向くと目に涙を浮かべるドハの姿が有った。

 

「ジェンソ、空から独島を見て分かったよ……あそこに置き去りにしてしまったんだ! 俺達の誇りも、何もかも、全て……。」

 

ドハはこれまで誰にも見せなかった表情で泣き叫び、窓に寄りかかる様に崩れ落ちた。

 

「分かっている……でも、今はこうするしかないんだ! そうしないと、次は皆やお前まで……全てを失ってしまう、だからあの島には戻れないんだ……。」

 

ジェンソは泣き崩れるドハに対してそう答えた……小さな丸窓の周囲には同じ様に独島を見つめ涙する独島警備隊員の姿が在った、ジェンソとドハは再び丸窓に顔を寄せ今まで自分達が過ごして来た小さな島が見えなくなるまでずっと見続けていた……。

 

 

続く




やっと投稿ができました……何と言うかこの回が一番陰惨な話になる事と、言葉の回し方に難儀した為、先に第十話の方を書いていました。

次回で生き残ったジェンソ達、独島警備隊と日本サイドで活躍した山内達のその後……そして在日米軍と北方領土のロシア軍がどの様になったかを2回に分けて書いてきます。

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