『なんとなんとォー!!こいつは一体誰が予想できただろうか!!雄英史上初!体育祭第一種目、一位通過は、なんとっ!
雄英高校史上初、サポート科がヒーロー科を超えた瞬間であった。
「一着……か。良いデータが取れたよ」
彼女の名は純滝音。別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走ったウマ娘が、異なる世界に転生した人間である。
前世の名はアグネスタキオン。超光速の粒子の異名を持つ、非常に強力なウマ娘だった。
この物語は、転生したアグネスタキオンが、研究の為に雄英高校に入学し、実験三昧な生活を送るはずの物語である。
私はこの人生において、二度、生を受けた。一度目は母のお腹から生まれた時、二度目は個性が発現した時だ。正確に言うと発現ではなく成長だが。
四歳の春、科学者である母が持ってきた試験管を目にした途端、私は高熱を出して寝込んだそうだ。
三日間意識が戻らないほどだったそうだが、四日目の朝に意識を取り戻した。だが、取り戻したのは意識だけではなかった。
私と同じ顔をした、この世界に存在しないウマ娘の記憶。アグネスタキオンの記憶だった。
結果、当時形成途中だった純滝音の人格に、アグネスタキオンの記憶が混ざり合い、今のどちらでもない私が生まれた。
個性も、生まれつき馬耳と尻尾が生えていだけなのが、五感がさらに鋭く成長した。1番変わったことといえば、視野がかなり広くなったことだと思う。それこそ馬のように。
この世界にはどうやらウマ娘はおらず、代わりに馬という生き物がいるらしい。前世の記憶を持っている私からすると、違和感が多少ある。
前世の私は、ウマ娘の速度の限界突破について研究していたが、この世界はウマ娘がいない。そもそも、前世のうちに研究は成功していたのだ。今世までそれを引き継ぐつもりは無い。
しかも、前世の私と今の私はほぼ別人だと捉えている。だから私の興味の矛先は速度ではなく、今世最大の謎、個性に向いている。
昔、中国で光る赤子が発見されたのを皮切りに、今なお増え続ける超常能力を持った人間。彼らの中には物理法則を無視しているものも少なくない。これを解き明かしてみたいと思うのは何ら不思議なことではないだろう。
私は今中学三年生。進路に悩むべき時期だろうが、私の道は既に決まっている。
個性使用の代表たるヒーロー。その最大の育成校である雄英高校に入学することだ。
と言っても、別にヒーロー科を受ける訳では無い。落ちるとは考えていないが、倍率は驚きの300倍。万が一ということもある。その賭けに乗るより、十全に才を発揮出来るサポート科に入った方が確実だと考えた。ヒーロー科でなくとも、個性の観察は出来るし、何より実験をしていても、サポートアイテムの開発だといえばなんの問題もない。中学では何度も退学させられそうになったからね。そこの所は前世と変わらないようだ。
ちなみに雄英を受けることはまだ誰にも話していない。恐らく両親には反対されるだろうが、まあ構いはしない。家を出ることになっても、押し切らせてもらうだけさ。
「雄英?うん、いいんじゃないかしら」
母、純
「おや、意外だね。もっと反対すると思っていたんだが」
「タキちゃんは賢いからね。もう合格する見通しは立っているんでしょう?それに本当に望んでるのなら、それを反対する親はいないでしょう。ねぇ、あなた」
「ああ、そうだね。豊花の言う通りだとも。雄英でやりたいことがあるんだろう?僕達はそれを邪魔するつもりなんかない。思う存分学んでくるといいよ」
母の言葉に父、
「それにしても、あのタキちゃんがヒーローになりたいとはねぇ。幼い頃から、個性の研究をしたいって言ってたけど、まさかヒーローに憧れていたとは思わなかったわ」
ん?
「ああ、ヒーロー科に入りたいんだろう?」
んん?
「何を勘違いしてるのかは知らないけど、私が受験するのは、ヒーロー科ではなくサポート科だよ」
おや、空気が固まったようだ。確かに、雄英と言ったらヒーロー科だけど、それ程驚くことでもないだろうに。
「な、なな、なんで?」
「なんでって、サポート科でも目的は果たせるからさ。わざわざ落ちるリスクを負ってまで、ヒーロー科に拘る必要も無いだろう」
「そ、その目的って?」
「もちろん個性の研究だよ。私有地以外での個性の使用は禁止されているんだ。だが、雄英ならばその限りではない。観察にはもってこいじゃないか!」
ちょっと雲行きが怪しいか……?
「…………まぁいっか!多少驚いたけど、反対しないって言っちゃったし」
「僕も同意見だ。別に止める理由もないし、応援することには、変わりないからね」
……まさかの理由で反対されかけたけど、どうやら何とかなりそうだ。
この二人が親で本当に良かったよ。
来たる雄英高校入学試験二日目の今日。私は実技試験会場に来ていた。
昨日行われたサポート科の筆記試験は、自己採点によると危なげなく突破している。
そして本来、ヒーロー科以外は実技試験を受ける必要は無い。その代わりに面接と小論文がある。
しかし、私は小論文はともかく、面接は絶対にやめといた方がいいと、両親には反対されてしまった。正直、自覚はしている。
幸い、面接は選択制で、ヒーロー科と共に実技試験を受けることが可能だった。通常ならば、そのような愚策は採らないが、入試説明のパンフレットで読んだ次の一文で気が変わった。
『実技試験は道具の持ち込みが可能』
実技試験の内容は明かされていないが、予想ぐらいは立てられた。対人戦闘か実践救助か推薦と同じくマラソンか、或いは対ロボット戦闘だろう。
マラソンは、個性でなんとかなるとして、それ以外の試験の対策を全て持っていけばいいという結論に至った。
そして今、持参したリュックの中には、今日の為に作った道具、薬品がぎっしり詰まっている。その上白衣の内ポケにも色々と仕込んでいる。
『今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』
おっと、説明会が始まってしまったようだ。ん、説明しているのはプレゼントマイクか。個性は確か『ヴォイス』。大音量の声で攻撃する発動型だったかな。
イマイチ滑り気味だったが、実技試験の説明を進めていくプレゼントマイク。どうやら予想は当たっていたようだ。試験はポイントが違う3種類の仮想敵ロボットを無効化していき、その合計点で競い合うというものだ。
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!』
ん、もうシメか。5分もなかったが、さすが雄英、効率的だ。
『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者、と。Plus ultra!!それでは皆良い受難を!』
Plus ultra……『さらに向こうへ』……か。スペインの標語だと記憶しているが、ウマ娘の速度の向こう側を目指していた前世の私と近いところがあるな。
おっと、そろそろ会場に移動しなければ。私はD会場か。え、バス移動?トレセン学園の何倍の敷地があるんだ?
多分続かない。