実技試験のD会場に着いた私だが、まずはその規模に圧倒された。普通に都会の街並みが広がっていたからだ。アスファルトで舗装された道路に、15メートル程もあるビル群。それがこの会場の他に、いくつもあるというんだから、国の力の入れ具合がとんでもないことが伺える。
今までヒーローという職業が、ウマ娘のような、国を挙げて推す事業なのは知っていたが、まさかこれ程とは……。確かにヴィランの発生という実害は出ているものの、これ程金をつぎ込んでいるのは異常だ。
ここまで来ると近いうちに戦争でも起こるんじゃないか。
そんな事を考えながら歩いていたら、街の中央にあるスタートラインに着いた。既に何人か集まっていた。
案の定視線が集まる。まあ無理もない。なんせ荷物が多すぎるからね。リュックにウエストポーチ、ジュラルミンケースを2つ、私は持っている。実はこれでもロッカーにいくつか置いてきたのだが。
オマケに私は今、制服を着ている。他の人はジャージ等の動きやすい格好に着替えたが、実は私はジャージを家に忘れてしまったのだ。試験に使う道具ばかりに注意していたからね。失念したよ。
幸いな事に、靴は最初から蹄鉄シューズを履いていたので、走ることは問題なさそうだ。
『ハイ、スタート』
ん、始まったみたいだ。取り敢えず手短なロボで、持ってきた道具が効くか試してみようか。
と思ったら私以外に動いている人はいなかった。スタートの合図が軽過ぎて動けなかったようだ。
『どうしたァ!もう賽は投げられてんぞ!』
ともかくスタートダッシュに成功した私は、近くのロボットに緑の液体が入った試験管を投げつける。
『ブッコロス!ブッコロス!ブッコ……ロ……───』
試験管が割れて液体が掛かると、予想通りシューと音を立てて外装が融け、やがて機能停止した。
実はこの液体は予め用意しておいた、強力な酸の一種だ。少量でも絶大な効果を発揮するが、有機物には全く無害になるよう調整してある。いやぁ、荷物検査通すのに苦労したよ。
残りの試験管はあと36個。1点と2点のロボットは一撃で倒せそうだが……3点のロボットは少し威力不足か。蹴りも追加しておこう。
さて、残り5分、試験菅も尽きた。獲得点は65。これで充分合格ラインに届くとは思うが、念には念だ。時間も余ったし人助けでもしておくか。どうせロボット以外にも点は用意されているんだろうし。
おや、ちょうどいい所に脚に裂傷を負った人が……。
「やあ、調子はどうだい?」
「……なんですか?」
無愛想に、というより警戒しながら返事をしたのは、脚を押さえて座り込む黒髪ショートの女生徒。近くには3点ロボットの残骸がある。大方ロボットを破壊した時の破片が刺さったのだろう。
「なに、困っている様だから助けてあげようかと思ってね。さあ傷を見せてくれ」
「イヤです」
頑なに傷を見せてくれない被検体、もとい少女。試験妨害されるとでも思ったのかな。
「私だって面倒さ。でもポイント稼ぎのためだ、諦めてくれ」
抵抗する少女に、私特製の軟膏を塗り付けたガーゼを押し当て、テーピングを施す。勿論、消毒は忘れずにね。
最初はジタバタしていた彼女だったが、次第にされるがままになっていった。
「よし、できた。もし後日何かあったら(体が光りだしたとか)ここに連絡するといい」
「……ありがとうございます」
副作用があったらマズイから一応スマホの番号を渡しておく。前世からやっているから、もう習慣化していそうだ。
「はっはっは!礼はいらないとも、実験の一環だからね!」
「え、実験って……」
「さらば!」
時間もそう無い。次の被検体を探しに行こう。
余計なことツッコまれる前に退散する私だった。
多分続かない