東方孤傀劇Ⅱ~ナラクのアリス   作:因田司

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今回は再び場所は変わり、久々に登場するあの人物の視点で御送り致します。

原作とは少し異なる点があるとは思いますが、
暖かい目で見てくださると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪


月と太陽の狭間で

RINNOSUKE

VS〈爬虫の閉塞心〉マリス・リザードロイド×2

~太陽の畑

 

 

僕、森近 霖之助は『太陽の畑』の真ん中に開く、抉られた土の広場で武器を構えていた。

 

そして、二匹の黒いヤモリに似た黒いマリスが僕の周りをゆっくりと這っている。どちらも顔の真ん中にある一つの蒼い瞳で僕を睨み付けている。

 

僕はぎりぎり二匹が視界に入る様に体を横向きにしながら、呟いた。

 

 

「…君達には、してやられたね………」

 

 

『太陽の畑』は、あちこちの向日葵が無残にも喰い散らかされ、其処から土ごと紫色、または黒く変色していた。

 

 

僕は、魔理沙達から紫と同じ長寿の妖怪、風見幽香が異変解決に尽力する間、彼女が所有する畑の管理の代役をしてほしいと言われ、其を引き受けた。

 

勝手に決められたに違いないが店の管理ばかりしていた僕からすれば

初めての事ではあり、幽香は何より花を愛で、そして恐ろしい妖怪だと聞き、引き受けた。

 

あれはもう……断れる雰囲気でもなかった事も理由になるだろう。

彼女からの威圧も凄まじかったのだ。

 

彼女からは畑に咲く向日葵の生命を維持する方法、そしてある少女が

此処を訪れた時は連絡するようにと言われた。

確か……名前はメディスン・メランコリーで、人形の様な外見の少女だと言うが……

 

そして近くを通る野良妖精達の噂話にも寄ると、近頃マリス達の活動も活発化している

と聞き、来るかと身構えてはいたが……

 

油断した……まさか、地中から喰いに来るとは……

 

早々に気が付いて、二匹まで減らせたものの此処までやられては……おまけに

畑の中央は開けるまでにしてくれて……

 

更に喰われなかった向日葵もマリスの浸食が懸念された。

食い止められるかな……ワクチンが無いからな……

 

ワクチンは無事完成し、各施設、各住民に支給されるとは聞いたが、僕の分は、

今頃誰もいない僕の店に届けられているだろう。

 

 

すると僕は其の一匹、僕の左側を回っていた一匹の眼球がグルリと一回転したのが目の端で見えた。

 

 

(!……来るか!)

 

 

予想通りに眼を回した個体が、大口を開けて此方に飛びかかって来た。

 

手に持っていた武器で、其の顔の側面を打ち据えた。

 

マリスは吹き飛び、仰向けになって土の上に転がった。

 

 

「ギェビヤァアアァアーーーーーー!!!!!!!」

 

 

反対側で喚き声が聞こえたので、素早く其の場で屈んだ。

 

案の定、飛びかかって来たもう一匹が其のまま僕を捕え損ね、僕の上を飛んでいった。

僕はマリスが着地した処に素早く走り寄り、振り返られる前に其のお尻に思いっきり足を振った。

 

蹴り飛ばされたマリスは先程倒した一匹の上に衝突し、重なる様に倒れて其のまま動かなくなった。

 

悪いね……スペルは持っていなくても店の重い品物を運んだりしてるからある程度は

動けるんだよ。霊夢や魔理沙程じゃないけど。

 

 

「でも……まさか、とっさに持ちだした此が役に立つとはね……」

 

 

重なって伸びているマリスを一瞥しながら討伐にしようした武器……

『草薙の剣』の峰を撫でた。

 

魔理沙から貰った、世界を変える程の非売品……僕が其の力を使いこなせているか

どうかは知らないけど一応、一般の剣としての効果はあったみたいだ。

 

 

「僕が油断したのもアレだけど……君達を返す訳にはいかないよ」

 

 

今度は其の切っ先をマリス達に向け、僕は身構えた。

 

 

 

 

すると黒ヤモリ達の其の身体が溶けだし、波打ち、其の場で渦を巻き始めた。

 

 

「!?」

 

 

僕は慌てて、後ろに下がる。

 

 

「フフ……フフフフ………」

 

 

液体状のマリスはやがて隆起していき、僕の身長にまで垂直に伸び上った。

其の黒い表面が泡立ち始め、ある形を取り始めた。

 

 

「!!……」

 

 

其の姿は、今の僕にとっては信じがたいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!ゆ、幽香……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RINNOSUKE

VS〈陰影のフラワーマスター〉風見幽香

~太陽の畑

 

どう見ても間違いない。僕に管理を依頼した、花の妖怪にそっくりだ。

其の手には畳んだ白い傘も握られている。只其の目だけは、透き通る様な青色だった。

 

 

「幽香が…マリスに喰われた…!?」

 

 

だが、答えてはくれない。其はそうだ、目の前にいるのは幽香に擬態した、襲った側なのだから。

 

 

「なんて事を……!」

 

 

だが素早く懐に接近した彼女は、白い傘を素早く水平に振った。

妖怪の動きに僕が追い付ける訳も無く、やがて左の脇腹に激痛を感じた。

 

 

「!?ヴ……!!」

 

 

痛みに耐えきれず、『草薙の剣』を取り落した。

更に怯んだ僕の其の腹に正面から強烈な蹴りを喰らわされた。

 

 

「!?~~~………」

 

 

僕は宙を浮いた。

 

 

(あれ……?)

 

 

其はよくある、スローモーションの様な感じだった……が、その速度は徐々に速くなり、

やがて浅く鋭い角度から土の中に墜落した。

 

土の上を凄い勢いで身体が転がり、仰向けのまま地面を擦り、減速して止まった。

さっき、ヤモリの様なマリスにした事を、今度は僕がされていた。

 

 

「~~!痛……!!」

 

 

僕は不意に襲ってきた腹部の激痛に耐えていた。口の中で血の味もする。

視線を上側には、反対に見える黄色い向日葵が首を、紅い月を見下ろす様にかしげているのが見えた。

 

足音がして、慌てて視線を下に向けると、幽香に擬態したマリスが此方に歩いて来る。

地面の『草薙の剣』は其のまま取り残されている。どうやら今は僕の方に関心があるみたいだ。

 

やがてマリスが僕の前まで来た。

 

僕を冷たく見下ろす蒼い一対の瞳には、怨みの念が宿している様にも見える。

いや、実際に青色の怨念でも詰まっているのではないだろうか?

 

先程僕を殴った白い傘が振り上げられる。其の先端部分が黒く変色している。

 

 

(今度は何だ……?)

 

 

其の時、其の黒い部分から鋭い音と共に、黒い鎌の刃が生成された。

 

 

「!?」

 

 

傘から…鎌に……?此がマリスの…変異能力か……

 

そして鎌に変わった傘は、まっすぐ僕に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

……あれ?腹の痛みが………消えない……!?

 

 

「?………!!」

 

 

今……僕は……い、生きてる……!?

 

 

僕は堅く瞑っていた目を開けた。

 

顔のすぐ右横……向日葵が根ごと喰い取られ、剥き出しになった土の上に、黒い鎌の切っ先が突き刺さっていた。

刃の根元にある黄色い花弁をあしらった蒼い目が此方を見ている。

 

 

「……『なんて事』?」

 

 

突然、奇怪な声が静かな畑に響いた。

 

 

「魔理沙ト仲良ク『私』ヲ打チ倒シテテ、ヨクソンナ戯言ヲ……」

 

 

二回目に聞いた時、其等はマリスが発したものだと気付く。

 

 

「デモ魔理沙ガイナイト、トコトン弱イワネ……情ケナイ」

 

 

幽香の声に以前聞いた、巨大マリスも発していた奇怪な声が混じっている。

 

あまりの奇怪さからすぐには判らなかったが、其の声はある少女の声が二重になって聞こえてる様でもあった。

 

其の声の主は……

 

 

「アリス…か……」

 

 

痛みで声が擦れていた。

此の異変を巻き起こしている元凶は何処かで、此のマリスを通じて僕を見ているのだ。

 

 

「強イ魔理沙ハ許シテアゲル、デモ……」

 

 

刺さっていた鎌の切っ先が土を抉り、僕の頭の方に向けられた。

逃げようにも呼吸が荒く、速く動けない。

 

 

「……ヒ弱ナ『カトンボ』ハ例外ヨ」

 

 

そして腕に力を込め、鎌を思いっきり引こうとした。

 

 

其の刹那、突然何処からか轟音と共に太い光線が飛んで来て、僕の目の前を通過していった。マリスはすんでの処で傘を引き抜いて避けていた。

 

だが急襲されたにも関わらず、僕から距離を置く其の顔には笑みがこぼれている。

 

何故笑っていられるんだ?……だが、答えはすぐに判った。

 

 

 

 

 

 

「マリスウウゥゥゥゥゥーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

「!幽香!!」

 

 

僕とマリスの間にもう一人の幽香が轟音と共に着地した。

着地した衝撃で周りの土が大量に飛び、辺り一帯に、身動きが出来ない僕にも降り注いだ。

 

 

「遅カッタジャナイ……流石、伊達ニ鈍イト呼バレテイナイダケハアルワネ」

 

「私の畑を此処まで……よくも……!!」

 

 

僕は最強クラスの妖怪の沸点の上を見た気がした。

 

後ろ姿から最大出力の殺気が、地を這って僕に伝わってくる。花を愛でる

妖怪が最も愛する場所の惨状を目の当たりにしたらどうなるか……まさに目の前の状態だ。

 

 

「ダッテ、本命ハ貴方デスモノ……風見…幽香」

 

 

マリスが幽香の顔で、本物が見せる事のない様な意地の悪い笑みを浮かべて言った。

 

とんでもない事を聞かされた。マリスは僕を眼中にすら入れてなかった。

幽香を誘き寄せる為に畑を荒らしたのが本命で、僕を殺そうとしたのは、あくまで『ついで』だったらしい。

 

 

「!?ゲホ……」

 

 

思わず咳き込む口に手を当て、掌を見る。

 

完璧だ…血が付いていた。骨も……数本は確実に折れてるな……

 

 

「!大丈夫……!?」

 

 

気が付くと幽香が僕の傍で屈んでいた。

其でもわざわざマリスが視線から外れない位置に移動している。

 

 

「~~すまない……此処を…守り通せなかった……」

 

「今は其どころではないわ……此を使って」

 

 

幽香は御札を取り出した。描かれている字を読む。

 

 

「…『病気』…『平癒守』……?」

 

「守矢の神様から貰った札よ。傷を癒せるわ」

 

 

僕は其の札を痛い処…腹に当てられる。

 

すると僕の身体の中で傷ついた場所に、御札から何だか冷たい何かが流れていくのが判る。癒されていくのが判る。

 

本当に何だろうか……言葉では言い表せない。

幻想郷にはだまだこんな、僕の知らない神秘の道具が溢れているのか。

 

 

「浸食ハシテナイワ……殺ソウトハシタケド」

 

 

幽香がマリスの言葉を聞いた途端に表情を変えた。

目付鋭くマリスのいる方を睨むと、其の場を立ち上がって顔を向けた。

 

手負いの僕は此から始まるであろう戦いの邪魔になると判断し、更に離れようと

腹を押えていない方の手と両足で後ろ向きに這い、向日葵の中に近付こうとした。

 

 

「フフフ…果タシテ、貴方ハ何時マデ怒レルノカシラ?」

 

「!……どういう事なの?」

 

 

不可解な質問に、幽香が逆に聞くと、

 

 

「……此ヨ」

 

 

すると幽香マリスの胸の部分が黒く変色し始め、再び泡立ち始めた。

 

 

「!?……」

 

 

黒くなった部分から何かが隆起し始めた。

 

表面のマリスが落ち、露わになったのは……

 

 

「!!」

 

 

なんと少女の頭と両腕だっだ。

 

金髪に赤いリボンをあしらった其の顔は濃い紫色に変色している。

目も淀み、何も見ていない。脇腹辺りから出ている腕はときどき痙攣し、微かに其の指も動かしている。

 

一見すると、身体の中に無理矢理に埋められている様にも見える。

 

 

すると幽香の態度が明らかに変わった。

 

 

「!!……」

 

 

殺意が和らいだ。たじろいでいる。

 

嫌な予感がした。彼女がこの様な反応をする程の人物は……

 

 

「幽香……まさか……」

 

 

幽香が其の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

「メディスン……!!」

 

 

メディスン…やはり、幽香が言っていた少女が……

 

 

「近クニイタ所ヲタマタマ捕マエタノヨ……」

 

「やっぱり…『孤毒』にやられてしまったのね、メディスン……!」

 

 

幽香はメディスンが体内にいると判った途端、手が出せ無くなっている様だ。

 

 

「言ッテオクワ……彼女ハ本物ヨ」

 

「!!……」

 

 

其の幽香の反応にマリスは楽しんでいる様でもあった。

 

本物…じゃあ、あのメディスンは擬態では無い本物の彼女か……!

だが、すぐに疑問が浮かんだ。何処かで捕まえたメディスンを

何故わざわざ幽香の処へ…?最強の妖怪の弱みは、其のまま握っておく方が賢明なのではないか?僕ならそうするだろう。

 

其とも、また御得意の嘘で欺こうという算段か?

なら、擬態したマリスを連れて来ている事も考慮しないといけない。

 

 

「感動ノ再会ダケド、ソウ簡単ニハ返セナイワ……」

 

 

そう言ったマリス顔の右部分がまるで黒い炎な形状になって溶け始めた。

右目を閉じる。そして次の瞬間、

 

 

「!!!……」

 

 

目は開かれたが其の眼窩は縦に長く割れ、頬と眉に一個ずつ、新たな青い眼球が発現していた。

そうやら本物の出現で、完全に擬態する必要は無いと判断した様だ。

 

 

「チャンスヨ。頑張レバ助カル……判ル?貴方ノ時ト同ジ条件ヨ」

 

 

どうやら過去にもマリスは、戦う際に今と同じ様な条件を付けたらしく内容から、其の時は幽香が浸食された時に違いない。

其の時の相手は誰かは判らないが……

 

 

「デモ失敗スレバ、メディスンハ再ビ私ノ身体ニ埋マリ、『私』ノ身体ノ核ニナル……ソウナレバ『私』ヲ倒サナイ限リ、二度ト戻ッテ来ナイワ……」

 

 

核……其の言葉を聞いた僕は、あのマリスがメディスンの身体を基礎にして生成されているのを理解する。

そしてもう一つの事が判明した。核になった時に倒さない限り……つまり其は、

あのマリスの生命活動が停止した時を示している。

 

つまり其の瞬間、メディスンも……

 

 

「幽香!……」

 

「判っているわ」

 

「!?」

 

 

思った以上に冷静な返答に驚いた。

 

親友を人質を取られ、畑まで無茶苦茶にされた。なのに……

其に、先程まで発していた殺気の感じも変わった……激しくはなく落ち着いた、静かな殺気だ……どういう事なのか……

 

 

「ようやく出会えた…メディスン、絶対に逃すわけにはいかない…!」

 

 

其の、何処か自身も併せ持った言い方に僕は感付いた。

 

……何か此の状況を、打開できる策があるというのか?其はいったい何だ?

 

 

「!グ……!!」

 

 

痛みに片手で腹を押さえる。回復しつつはあるものの、やはり痛い。

 

其の時、僕の足下に土に何かが刺さった。

 

 

「!『草薙の剣』……!」

 

 

頑張って身体を起こし、剣を引き抜いて前を見る。

 

僕に背中を向けて立つ花の妖怪。其の目が一瞬僕の方に向けられ、

すぐにマリスの方に視線を向けた。

 

 

 

「サァ……本当ノ決着ヨ……」

 

 

二人が向き合った。

 

僕は何とか向日葵の茎の間に入り込み、傷を癒しながら其の様子を見た。

 

 

 

 

 

「今度コソ、貴方の身体ハ貰ウ……!!」

 

「メディスンは、返して貰う……!!」

 

 

 

 

二人は互いに、傘の先を相手に向けた。

 

其の上で紅い雲の隙間から紅い月も、其を見守るかの様に怪しく光っていた。

 

 




如何でしたか?

香霖の久々の登場回でした。彼の性格上、状況整理のために文字数が
多くなってしまったのは御了承下さい。

次回は、幽香と幽香マリスの一騎打ちです。

それでは、次回もゆっくりしていってね♪
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