東方孤傀劇Ⅱ~ナラクのアリス   作:因田司

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今回から新章です。
魔理沙が連れて来られたアリス邸で、新たな動きがあった様です。

今回はかなり変態的な発言、表現がございます。御覧になって気持ち悪い、
苦手だと思った方は早めのブラウザバックを御勧めします。

原作とは少し異なる点があるとは思いますが、
暖かい目で見て下さると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪



Antagonist
魔女ノ邸◎


MARISA

~アリス邸

 

私はアリス邸の廊下に立っている。

 

あの敵の気配がする寝室からは先程脱出した。

鍵は掛けられてなかった扉を少しだけ引き、其の隙間から素早く身体を滑り込ませる。泥棒の

常習犯である私にとっては慣れた動作だ。

 

だが其処で止まってしまった。其処には階段ではなく有る筈の無い廊下があったからだ。

 

しかも此の廊下……私は目の前の風景に眉を顰めた。紅魔館のと同じ位長い。窓がある分違いこそはあるが絶対にアリスの邸に収まる長さじゃない。

 

私は紅い光が床にまで差す其の窓から外を見てみたが、其処からはいつもの見慣れた人形の森の木々が見えた。二階からの景色と何ら変わりはない。

 

でも何かがおかしい……再び廊下に視線を戻した私は訝しむ。此処はアリス邸じゃねぇ処

じゃねぇか……?

 

其の時私の目に、其の中程の処に何かが落ちているのが目に入った。

 

 

「何だゼ、あれは……?」

 

 

私は其に早歩きで近寄る。木の床をブーツの裏で踏みしめる度にギシギシと危なっかしい音が

響く。

 

近付くにつれ、其が何かが判った。

 

 

「!此は……まさか……!」

 

 

其処に落ちていたのは帽子だった。視線を落とし、屈んで其をよく見る。

 

見覚えのある、紅い触角の様なリボンの黒い帽子。

間違いない、衣玖の帽子だ。黒幕に操られた、一番の犠牲者の帽子だ。

 

帽子を拾い上げ、一応つばの部分の埃を払い落とした。

 

 

「でも…何でこんな物がこんな処に……?」

 

 

そう呟きながら顔を上げた私は、驚いた。

 

 

「!!?な!……あ……!??」

 

 

慌てて立ち上がって周りを見渡した。

 

壁、天井、そして床も、全て黒い肉の壁に変わっていて生きている様に波打ち、所々から蒸気が噴き出ている。さっきまであった窓も全て消えている。

 

すると足元の床が小刻みに震え始めた。慌てて後ろに下がる。間一髪、私が立っていた処から

紫色の蒸気が噴き出て来た。

 

まるで蛇に飲み込まれた蛙の様な気分だった。

何が起こった……帽子を拾う間に、いったい…何が……!?アリス邸じゃなかったら……

何なんだよ、此処は……!??

 

 

 

其の途端、私が入ってきた入口付近の床から、轟音と共に巨大な何かが飛び出した。

 

 

「!?今度は何だ……!!??」

 

 

だが、其は身体を回転させながら再び床の中に潜っていった。

 

 

「?……?、??………」

 

 

唖然としていると、今度は私に少しだけ近い壁の中から螺旋状に回転しながら飛び出してきた。

 

ソイツの下半身は龍の様に長く、灰色や他色のない、完全な黒色だった。

其のあちこちから無数に生える、鋭い爪をもった四本指の手が身体に折り畳まれている。

特に上半身から生えている二本の腕は太く、爪も更に鋭そうだ。

 

対照的に背中や上半身は純白の剛毛に覆われ、頭部にあたる部分に毛が集中して花の

蕾の様に見える。其の鋭利な頭部や身体のひねりを利用してドリルの要領で肉の壁を掘削し、長い身体を中に潜り込ませていた。

 

龍と疫病神とも言われる妖怪『毛羽毛現(けうけげん)』を組み合わせたみたいな風貌だ。

 

 

マリスか……!!私は直ぐにそう判断し、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 

だが……

 

 

「……!?八卦炉が無ぇ…!!」

 

 

帽子の中やスカートの中…何処を探しても見つからなかった。

 

 

「~こんな時に……何処に行ったんだゼ……!??」

 

 

其の間にも、巨大なマリスは壁や天井に穴を開けながらどんどん近付いて来る。

 

 

「チッ!!……」

 

 

私は諦めて踵を返し、走り始めた。八卦炉と箒が無い今、私には逃げるしか術が無い。

 

途中、床の粘りに何度も足を取られそうになりながら遁走していると、廊下の反対側の壁が見えて来た。

 

一瞬にして変わり果てた廊下だが、出口らしきドアだけは残っていた。

私は其のドアにぶつかりながらドアノブを握った。

 

だが何という事だろう。出口が開かない…其以前にドアノブが回らない。

幾ら力を込めて手首を動かそうとしても動かない。

 

 

「!畜生……何で開かねえんだよ……!!」

 

 

今度は体当たりでドアを押したが、其でもびくともしない。

 

扉の前で時間を喰っていると、いきなり扉の横の壁から、敵が飛び出して来た。

 

 

「!?くそ……!!」

 

 

よく見ると、尻尾だ。上半身同様、白毛が密集しているが量が多くない。

私に巻き付きはしなかったが、自身の長い下半身を縦横無尽に、バリケードテープさながらに張り

巡らして私の退路を断った。

 

其の上から天井を突き破って、敵の上半身が出て来た。

私はドアに張り付いて敵から距離を取ろうとした。

 

 

「魔理沙ァア、オ帰リィ……」

 

 

突然言葉と共に、頭部の先端の毛がほつれて花の様に開いた。

 

 

「!?う"……!??」

 

 

私は思いっきり顔をしかめた。開いたと同時に強烈な腐敗臭が漂ってきたからだ。

 

だが、其の中に隠されていたものを見た私は、そんな臭いも受付なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

衣玖の顔だった。

 

角度は180度反転…完全に逆さまで、人としてはあり得ない角度になっていた。

顔面は完全に紫色に染まり、血の気もない。衣玖本人の瞳は淀み、頬には新たな一対の蒼眼が発現している。

顔を覆う花弁の様な毛は外側は白いが、顔と接する内側は衣玖の髪の毛と同じ濃い紫色だった。

 

さっきの部屋から視ていた敵の正体だった。私を永遠亭から連れ去った時から更に

おぞましい変貌を遂げていた其の顔は衣玖の顔ではなく、人間ではない、何か別の生き物の顔に

見えた。

 

そうだよな……持っていた衣玖の帽子を持つ手に力が入る。あんな風になってしまった奴が、

被れる訳が無い。

 

 

「ヨウヤク、二人キリニナレタワネ…」

 

 

上半身が天井の伸びて来て私の方に降りて来た。衣玖の顔が近くなり、臭いが更にきつくなる。

顔は衣玖のものだったが、衣玖以外に聞こえる声があった。

 

 

「……アリスか……!?」

 

 

すると龍の様に伸びた下半身に、折りたたんでいた大量の足が展開されて肉の壁や床に一斉に爪を立てた。

 

其の長い姿はかつて私が小鈴と共に復活の瞬間を目撃した、『百鬼夜行絵巻』の邪龍に似ている。だが見た目からでも判る醜さや危険度は、復活を手伝った褒美に龍の爪をくれた邪龍が

可愛く見える程だった。

 

彼方は元が蛇からなのに対して、此方は元の姿が少女だから更に気味が悪い。

 

 

「此ノ幻想郷ハ、死ニカケテイル…私モ抑エラレナイ……モウ…止メラレソウニナイノ……」

 

 

其の言葉には、龍宮の遣いが地震に対して発する警告を彷彿とさせる。

 

 

「デモ貴方ダケナラ……私ガ…貴方ダケナラ…滅亡カラ唯一、生カシテアゲラレルカモシレナイ……」

 

 

無論、私は信用せずに扉に更に背中を押し付けた。

 

 

「貴方ト私ハ結バレル運命ダ……」

 

 

衣玖の面影が残っていない、黒く節くれ立った四本指の右手を差し出してきた。

其の前腕には二つの青い瞳が開き、此方を見ている。

 

私は気付いた。衣玖本来の腕が、左右で同じ場所から生えていない。左手が明らかに左肩より後ろ

で不自然な生え方をしていた。

 

 

「私ハ信ジテイタ……」

 

 

私に言葉をかける其の口から黒い液体が滴り始め、頬の眼、衣玖の目、眉を伝って顔に

何本もの筋を作っていった。

 

 

「……私ヲ救ッテクレル……唯一ノ…『救世主』……」

 

 

発言が支離滅裂になっている。もう私を次の『孤毒』の温床にしようとしか

考えていない。ゲロ以下どころの臭いじゃねぇゼ、此は……!

 

 

「魔理沙、オイデ……此カラハ永遠ニ……一緒ダヨ……」

 

 

大量の汗が額から流れ始めた。

 

此のまま断ったら、絶対無事では済まされない。そして受け入れても、絶対無事では

済まされない。

 

武器も無く、追い詰められている。まさしく絶体絶命だ。

 

何とかしねぇと……何とかしねぇと……!!!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

其の時、スカートの中で私の脚に何かが当たった。悟られない様にスカートの上から指で触って

確かめた。

 

 

(!此は……!!)

 

 

……コイツを使えば……何とか切り抜けられるか?

 

 

 

 

 

 

 

MARISA

VS〈荒々しき龍の衣〉イク・スィオソーラス・ピュトン

~アリス邸内

 

 

「……お前なんかに…捕まってたまるか!!」

 

 

私は素早くスカートの下に隠していたものを取り出し、高々と振りかざした。

 

 

「魔廃『ディープエコロジカルボム』!!!」

 

 

私は魔法の瓶を奴の足元に叩き付ける様に投げた。

 

通常は起爆に時間がかかるが叩き付けられた衝撃で、すぐに爆発した。

 

 

「ウワァアァアァァアーーーーー!!!!!」

 

 

私は爆風を正面から浴び、ドアの蝶番を吹き飛ばされ、部屋の外に投げ出された。

 

吹き飛ばされた衝撃で顔が自然と上を向いた。

 

 

(此処は…アリスの家の天井……!)

 

 

天井を見えた瞬間、私はそう思った。

 

回転しながら吹き飛ぶドアや手すりの一部と思われる木片。爆発による粉塵。

 

空中に投げ出されたまま、全てがスローモーションの様にゆっくりと動いている。

 

近くに咲夜でもいるんじゃねえか…?そうとも思ったが、すぐに落ちる速度は速くなり、

私の身体は二階から数メートル下に落ち、一階のリビングに設置していた机を破壊しながら床に

墜落した。

 

 

「!~~お"ぉ……!!」

 

 

私は、机とドアの残骸の中で思わず声を上げた。

爆風を浴び、高いところから背中を打ち付けた痛みは半端じゃない。幾つか身体の下に敷いたが、そんなのはクッションとも呼べないものばかりで、勿論痛みも和らげてはくれなかった。

 

歯を食いしばりながら上半身を起こし、周りを見渡す。

 

アリス邸の一階だ。私が破壊した机やドア、そして階段の手すりの一部以外は前に来た時と

変わってない。肉の壁にも覆われていなかった。

 

じゃあ、さっきの気持ち悪ぃ廊下はいったい……

 

 

 

だが、そんな事を考えている余裕は無かった。

 

 

「何故ダ!?如何シテ判ッテクレナイ……!??」

 

 

直ぐに、元衣玖の化け物が二階から入って来て上半身を乗り出し、階段の上から此方を

見下ろした。

 

 

「私ヲ拒ムトイウノカ……魔理沙?私ヲ……??アリス・マーガトロイドヲ……???」

 

 

開閉を繰り返す毛の中から見えた衣玖だった顔に怒りは無く、困惑に満ちている。

其処から天井、そして壁を這いながら此方に向かって降りて来た。

 

 

「お前は……アリスじゃねぇ!!!」

 

「何時マデモ一緒ニイテアゲルノニ……貴方ガ望ム通リニ……!」

 

 

もはや言葉も全く通じない。聞く耳を持ってすらいない。

 

 

「ダカラァ…オイデェエ、魔理沙ァアァアァァ……!!」

 

 

其の時私は、残骸の中であるものが落ちているのを見つけた。

 

 

「!私の八卦炉……!!」

 

 

直ぐに拾い上げ、衣玖に向けたまま、代わりに持っていた衣玖の帽子をスカートの中にしまった。

 

 

「魔理沙ヲ生カシテアゲルノハ私ダ……私ニ逆ラウナ……!!」

 

 

其の声は、もうアリスのものとも衣玖のものとも区別がつかない。

 

 

「逆ラッテモ無駄ダァ…!!此ノ幻想郷デハァア…最早ァ…『私』無シデハ生キラレナィイィイ……!!♡♡」

 

 

不協和音で気味悪く笑いながら衣玖が壁を這いながら降りて来ていた。

 

 

「大丈夫ゥゥ……優シクシテアゲルゥウゥウゥ……♡♡♡」

 

 

一歩ずつ、壁にひびを入れながら近付いて来る。

 

 

「ダカラオイデェ…魔理沙ァァアァ……オイデェエェェェエェェエェ!!!!!」

 

 

そして私が立つ床にたどり着いた瞬間、此方に向かって猛スピードで突進してきた。

 

八卦炉を握り直し、狙いを定める。

 

 

「『グリーンスプレッド』!!!」

 

 

八卦炉から緑色の光の束が飛び出し、顕わになっていた衣玖の顔面あたりで収束して炸裂した。

炸裂と同時に周囲に緑色の星が飛び散る。

 

 

「!?グォアァ……!!!!」

 

 

敵は突進を止め、軽く仰け反った。蕾の様に毛を閉じて顔を隠しているが、大して痛がっている

様子が無い。

 

 

「~~~魔理沙ァアァアァァアァ……イヒィヒィ…」

 

 

其どころか、次に顔を見せた時にはスイッチが入ったのか嗤い始めた。

 

 

「イヒヒヒヒィイィ……魔理沙ァアァァァアァア…ハハァアハァア………モット見ロオォ…私ヲォオ……!!」

 

 

気持ち悪いヤンデレか、それともMか……!?

常軌を逸しているにも程があるぞ……!?こんな異形に迫られても、全年齢の男が猛ダッシュで

逃げちまいそうだ。

 

 

「グハァハハハァアアァアア……ギヒヒヒヒィイィ……アァアァ魔理沙ァアァアアァァ♡♡……」

 

 

私は周りを目で確かめた。此処だと敵が場所の大半を占めてしまい、戦うには狭くて分が

悪過ぎる。邸の外に脱出しねえと……!!

 

 

「棘符『雷雲棘魚』!!!!」

 

 

突然敵が体中を黒い雷を纏い、其の状態から突進してきた。

私は其の動きに合わせ、入口に向かって走り出した。

 

扉が近付いて来る。タックルで開けるしかない。此で破れなかったら私は一巻の終わりだ……!

衝撃に備えて顔の前に両手を交差させ、足に満身の力を込めて床を蹴った。

 

 

「ウォラァアァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 

叫び声と共に内側から扉の蝶番を破壊し、外に飛び出した。

前回入った時は外側からだったが、今回は勢いがあったのか箒無しでも突破出来た。

 

勢いで叢の上を何度も転がったがすぐに立ち直り、中腰のまま素早く後ろを向いた。

 

 

 

「魔ァァアアァァアァァァアァ理ィイィイィィイィイィィイ沙ァアァアアァアァアァァァァアァ!!!!!!!♡♡♡♡♡」

 

 

 

元衣玖の化け物が私の後を追って入口から出て来ようとしていた。

図体がデカい為か上半身から後ろが詰まり、雷を纏った大量の足の爪で入口の枠を

ボロボロに掻き壊して拡げている。

 

 

「帽子ノ天辺カラブーツノ先マデェエェェ……貴方ハアァア…私ノモノォオ……!!!!♡♡♡」

 

 

口から黒い液を飛び散らせ、息を荒げながらもがく其の姿を見た私は、さっき永遠亭の地下で沈黙していた衣玖の姿を思い浮かべていた。

 

只、一人の我が儘天人を一生懸命補佐しようとしていた腹心を……こんな目に合わせやがって……

 

激しい怒りを覚えた。人生で初めて衣玖に同情したかもしれない。

 

 

「…変に他人を演じるのも大概にしろよ…クソ黒幕め……!!」

 

 

私は八卦炉を、心の怒りと共に衣玖の顔に向けた。

 




如何でしたか?

相手が魔理沙一人だけだと此処までの豹変っぷり。
念には念を押させて頂きます。此はアリスや衣玖さんではなく、黒幕の言葉です。

魔理沙が衣玖と戦闘する前に、次回からは幻想郷で活動している各々の状況を数話に分けて
御送りしていく予定です。

それでは、次回もゆっくりしていってね♪

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