東方孤傀劇Ⅱ~ナラクのアリス   作:因田司

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今回から進行を再開します。
霊夢達が出ていった後の永遠亭でのお話です。戦闘は有りません。
其処で入院していた、咲夜さん視点です。


原作とは少し異なる点があるとは思いますが、
暖かい目で見てくださると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪


メイド・イン・ウィル

SAKUYA

~永遠亭 445号室

 

 

「……そうですか…やはり、紫は……」

 

 

私、十六夜咲夜は向かい側のベッドに腰掛けている少女の話を聞いていました。頭にはっきりと

確認出来る一対の角。かつて異変を起こした鬼、伊吹萃香さんでした。

 

其の体にはマリスが侵入したという傷に包帯が巻かれ、非常に痛々しい外見となっていました。

鬼に此程治りきらない傷を負わせたマリスは、とてつもなく強くなっている。そう実感しました。

 

 

「紫が、私の代わりに……マリスに……」

 

 

彼女は苦々しい表情で言いました。

 

 

「貴方は地底で何をしていたのです?」

 

「いや、勇儀に挨拶をしに行ってただけだよ。同じ鬼の仲だったし」

 

 

鬼は嘘をつかない。私は彼女の話を最後まで信じて聞く様に決めていました。

 

 

「うん…!そうだ…勇儀が私に手伝って欲しい事が有るって言ってたな」

 

 

手伝う…?私は其処に引っ掛かるものを覚えました。

 

 

「其は何です?」

 

「判らない。はっきりとは教えてくれなかった…旧都の妖怪は防衛線って言葉を口に

していたけど」

 

「防衛線……何かを守るのでしょうか……其に、誰から……??」

 

 

私は考えましたが、直ぐに判りました。

 

 

「まさか、アリスさんを……私達から!??」

 

「多分、そうだと思う。何やら地霊殿や旧地獄の代表同士で会議している事も話題になってたよ」

 

 

彼女はベッドの上で少し動き、球体や立体の付いた鎖が音を立てました。

 

 

「で、勇儀と一緒にいたら突然路地裏に引き込まれて……気が付いたら……」

 

 

鬼が一撃で沈む方法……今其で思いつくものとすれば……

 

 

「……不意討ちしたのはアリスさん本人だったんですね?」

 

「一瞬しか見ていなかったから、よく判らなかったけど……」

 

 

そう言いながら、浮かない表情で頭を掻いていましたが、

 

 

「!そうだ、確かに人形遣いだった…話し言葉で判ったし、両目の瞼を引っ張ったのも人形だったから。だけど……」

 

「?だけど?どうしたんです?」

 

 

其の酒で紅潮しつつもしゅんとした表情は、本当に酒を飲んでいる鬼の表情かと、疑ってしまう程でした。

 

 

「失神させられる前に見た顔…そしてあの目…どう考えても人形遣いじゃなかったな…最後に見た

時の、あの面影がまるでなかったよ」

 

「……ふむ…」

 

「悪いけど詳しく聞くのは勘弁してくれ。私の口では言い表しづらい」

 

 

負の感情により一つになった目で、一部を除いてひと睨みで倒す奇病『孤毒』。

其は予想以上の速さでアリスさんを蝕んでいる様でした。其は彼女の原型をとどめない程に

変貌させてしまっている様でした。

 

私は溜息をついて、窓の外を見ました。竹林の上、空の真ん中には御嬢様に好まれそうな真っ赤な

血の色に染まった月が浮かんでいました。

 

 

「姫様…此処です」

 

 

すると其の声と共に入口の扉が開けられました。

 

 

「!」

 

 

其処に立っていたのは、流れる様な黒い長髪の少女。

 

 

「……直々に見舞って下さるのですか?珍しいですね、輝夜さん」

 

 

月の姫、蓬莱山 輝夜さんが其処に立っていました。しかし其の目は今の月の様に真っ赤に

充血しています。其の後ろには、私の身体からマリスを切除して下さった、永琳さんの姿も

ありました。

 

そう後ろから更に私を覗き見る二つの顔。

 

 

「!咲夜さん……!」

 

 

其の一人、緑の髪の巫女、東風谷 早苗さんが私達を見て驚きの声を上げていました。

 

 

「マリスにやられたと聞いたんですが…無事だったんですね!」

 

「早苗さんですか……そして貴方は、宗教合戦の……」

 

「はい、命蓮寺住職の聖 白蓮です」

 

 

扉の陰から出てきたもう一人…長髪の尼さんは、手を合わせて御辞儀をしました。

二人して鬼の姿を見ても驚かない事から、どうやら彼女の事は永琳さんから聞かされた様です。

 

 

「貴方達がいるという事は、霊夢達も近くにいるのでは?一緒に行動していると思うのですが…」

 

 

私は霊夢達に、自身がやられていた時に起こった事を聞き、そして判明したアリスの居場所を

伝えようと思っていました。魔理沙さんがアリスさんの情報を聞けば、どれ程歓喜するの

でしょうか。

 

 

「~あ、あぁ……其の事なんですけど……」

 

 

私の質疑に早苗さんが口ごもってしまうと、代わりに白蓮さんが説明してくれました。

 

 

「先程、永遠亭内でマリスによる変異が発生し、其の者が魔理沙さんを誘拐していったのです。

私達を除く他の方々が其の奪還に向かいました」

 

「!変異……!?此処でですか……!?」

 

 

信じられない思いでした。マリスの被害者を治療する此の場所であってはならない事が、既に

起きてしまっていたのですから。

 

 

「はい…ですが私達や玉兎の方々、そして月の姫様も協力して下さり、パニックから立ち直る事が

出来ました。ですが……」

 

「どうしたのです?」

 

 

其処で今度は輝夜さんが私達の方に一歩進み出て、こう言ったのです。

 

 

「私の処に、此の孤毒異変の黒幕と名乗る者から伝言を預かりました」

 

「!?黒幕……!??」

 

「元凶はアリスさんに『孤毒』を植え付けた、龍宮の遣いではないのですか!?」

 

 

月の姫からの衝撃的な発言に私と萃香さんは驚きを隠せませんでした。しかし、周りは私と違う

反応をしていました。

 

 

「でも、霊夢さんは持ち前の勘で黒幕の存在を指摘していました。まさか、本当にいたなんて……」

 

 

早苗さんの一言で理解出来ました。霊夢さんが、元凶を龍宮の遣いではないと話していたから、

黒幕がいた事にあまり驚かなかったのですね……

 

 

「黒幕は、何と言ってきたんです!?」

 

 

私は思わず訊いていました。

 

 

「『魔理沙を追った霊夢達に、彼女はアリス邸にいる事を伝えろ。私も其処にいる』。そう言ってきたのです」

 

「黒幕が…自分の存在を……!?」

 

 

罠。私の頭に思い浮かんだ一文字が其でした。

 

いや、もしかしたら……?

 

 

「あの、少し話が反れますが…」

 

 

其処で白蓮さんが手を上げ、皆の注目を寄せました。

 

 

「実は…私の処にも先程、命蓮寺から連絡が入りました」

 

「!黒幕からですか!?」

 

「いえ、星からなのですが……」

 

 

そう言いながら白蓮さんは気まずそうにおもむろに項を撫で、

 

 

「マリスの襲撃があったらしく……その…結界の点検に来て下さった紫さんの式神を……紫さん

本人が攫って行ったと……」

 

「!!」

 

 

萃香さんから聞いた話と完全に一致していました。やはり彼女は萃香さんを助けた後、代わりに

アリスさんの傀儡とされてしまっていたのです。

其の意識を奪われ、抜け殻となった身体に負の感情が代わりの意識として根付き、虐行の

限りを尽くしていく。例え相手が自分の式神であっても変わらない。

 

アリスさんに関する情報を残す代償としては、あまりにも大き過ぎました。

 

 

「…未だに信じられませんよ……幻想郷の大妖怪と謳われた、あの御方が……」

 

 

早苗さんがうな垂れ、唇をかみしめました。

 

 

「霊夢さんが此を聞いたら……腐れ縁とは言ってましたが、何かといろいろ助けて貰っていたそうですし……」

 

「畜生、マリスめぇ~……!!!」

 

 

と、突然萃香さんが身体の包帯を引きちぎり始めました。

 

 

「!何をするんですか!?」

 

 

慌てて早苗さんが止めに入り、ベッドの上でもみ合いが始まりました。

 

 

「黒幕の処に行って、ソイツの顔面を砕くに決まってるに決まってる…!!」

 

「待って下さい!!まだ怪我が治りきってないじゃないですか……!」

 

「こんな怪我……酒ひっかけたら治るわ!!」

 

 

確かに傷をアルコールで消毒するのは良いですが…と、そんな事を考えている場合では

ありません。

 

 

「永琳さん、どうしましょう……?」

 

 

いつの間にか萃香さんが早苗さんにキャメルクラッチを決めているのを尻目に、白蓮さんが

永琳さんに訊きました。

 

 

「行かせてあげなさい」

 

「!え……??」

 

 

しかし代わりに応えたのは月の姫様の方でした。其の言葉で、二人は私が時間を止めたかの

様に硬直し、其処から首だけを動かして彼女に目を向けました。

 

 

「私も一緒に行くから」

 

「!え!あ、貴方……月の姫様でしょう!?危ないですよ!?」

 

 

早苗さんが涙目で背中を押さえながらそう言うと、

 

 

「月人は浸食に負けないし、当然浸食を許しもしない。其に……」

 

 

彼女も涙で充血した双眸を私達に向けました。

 

 

「私も、借りがあるのよ…黒幕に。其をきっちり返さないと」

 

 

後ろでは永琳さんが何とも言えない顔をしていました。自発的に何かをやり遂げようとしている

彼女を喜ばしく思っているのか、危険な外に出るにも関わらず彼女を止められない事を悔しく

思っているのか…私には其の両方に見えました。

 

 

「其に先程外を見たわ。今宵の月は赤い…其は凶兆を予言している」

 

 

そう言って視線を上げ、窓の外の赤い月を赤い目で見遣る月の姫。

 

 

「今夜中にも、幻想郷に大きな災いが降り注ぐ。私には判る」

 

「今夜……ならば、急がないといけませんね?」

 

 

私がそう答えると、

 

 

「!ちょっと待って下さい…!」

 

 

突然早苗さんが辺りを見渡し、

 

 

「一緒に来ていた屠自古さんが、見当たりませんよ!?」

 

「!しまった……!!」

 

 

白蓮さんは髪のあるその頭をピシャリと叩き、

 

 

「目を離している隙に……霊夢さん達を追って行ったのかもしれません!!」

 

「私達も行きましょう!!」

 

 

其の早苗さんの声を機に、狭い病室で一斉に準備が始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAKUYA

~永遠亭 445号室~永遠亭 廊下

 

メイド服に着替えた私と永琳さんのみが残されている此の病室。私の手には御守りが

握られていました。

 

暫く残ると言った時、早苗さんが私と萃香さんの二人に回復する為の札を与え、萃香さんと一緒に皆の後を追っていきました。

 

 

私は其の御守りをしまい、壁に立てかけていた紫の傘に視線を向けました。

 

 

『…霊夢達と此の幻想郷を頼んだわよ……そして……己の主を大切にね』

 

 

スキマの中に消える直前に私にかけた、彼女の最期の言葉が想起されました。

 

 

「…もう、主に傘を差さなくて良い時間になっていましたね」

 

 

私の背中に、永琳さんが言葉をかけます。

 

 

「紫は、意地でもアリスさんに関する情報を残したかったのですね」

 

「皮肉にも、其が更なる被害を招いた様ですが……」

 

 

私は左手でスカートの下に隠しているナイフの刃先を撫で、右手を強く握りしめました。

 

 

「黒幕が私達を集めるのには、何か裏が有ると思えるのですが……」

 

「私もそう思いました。ですが、乗るしかありません。貴方の姫様の言う通り、本当に時間も

無さそうですから」

 

 

握っていた右手を開き、傘の柄を握りしめる私。

 

 

「…治療、有難うございます……もう、行くわ」

 

 

そして一言御礼を言って、皆の後を追おうと急いで病室から出ようとした時、

 

 

「主も大切だと思うけど……自分も大事にしなさいよ?」

 

 

後ろからそう声をかけられました。まるで、私が紫の言葉を思い返しているのを悟られている様でした。

 

私は暫く黙った後に頷き、病室を後にしました。

 

 

 

 

 

「あ、あの……先生……!!」

 

 

すると走ってまだ五歩も進まないうちに、突然後ろから声が聞こえました。

私は立ち止まって後ろを見ると、同じく病室を出ようとする永琳さんの前に見覚えのある三人が

いました。

 

黒と白、そして赤の衣装。そして身の回りに浮かぶ三種類の異なる楽器。以前に戦った、騒霊の

三姉妹でした。

彼女達も入院していたのですね…先程は姿が見えなかったところから、どうやら隣の病室から

出てきた様です。444号室……何とも不吉ではありましたが、幽霊が入院というのももっと

不吉だと思いました。

 

 

「私達……手伝っても良いかしら……?」

 

 

其の中で黒い衣装の長女、ルナサ・プリズムリバーがおずおずとそう訊きました。

 

 

「こんな物騒な世の中患者が多いのにも関わらずに私達を……でも、看病して頂いたのに何も

出来ずに……何でも手伝います!!」

 

 

其を聞いた永琳さんは、

 

 

「……大丈夫ですよ。只、演奏は控えめに御願いしますね?」

 

「「「!有難うございます!!」」」

 

 

永琳さんの前で深々とお辞儀をし、一緒に病室を見回りに行く其の姿を見て、思わず微笑み

ました。大人数が霊夢達の後を追う事を許し、圧倒的な人員不足になった時でのあの御願いは、

彼女にとって例え医療に関して未熟だとしても十分な存在だと思ったからです。

 

皆に追いつき、黒幕の正体を確かめないと……そして御嬢様も探し出し、無茶をなさる前に

止めないと……目まぐるしく患者に追われる永遠亭…此以上、

マリスの犠牲者を増やす訳にはいきません。

 

 

複雑に絡みゆく使命、そして決意を胸に、私は傘を持っていない指をかざし、そして

鳴らしました。

 

 

 

 

 




如何でしたか?
黒幕に関する情報が伝わり、一気に大人数となってきました。

…散々引き伸ばして、いい加減黒幕を出せ!…という声が……本当にあともう少しです。
御待ち下さい。


次回は霊夢達、そして魔理沙の動きを御送りする予定です。

それでは、次回もゆっくりしていってね♪
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