今回は前半に比べ、文字数がかなり多くなっています。
バックがありますが、魔理沙と霊夢のタッグでイク戦です。
霊夢視点で御送りいたします。
そして、遂に………
REIMU
VS〈荒々しき龍の衣〉イク・スィオソーラス・ピュトン
~アリス邸前
不吉な予感を感じさせる赤い夜空の下、私の目の前には龍神の様な醜い化け物がいた。
其の元の姿が少女から出来ているとはとても思えなかった。
その時、私の頬に微かな冷たさを感じた。
何かしら…?思わず頬に手を当てると、やがて其は体全体で感じるようになっていた。
雨。此の場所に降りていた、赤い雲が及ぼしたものと判る。
しかし、顔を上げても雨を降らせるとは思えない程の雲量で、渦巻く中心には赤い月も顔を出している。
「霊夢!此の天候は『天気雨』だ!!」
魔理沙が叫ぶ。
天気雨……かつて天子が起こした異変で確認された異常気象の一つ。
『防御が怪しくなる程度の天気』とも呼ばれていた。防御を意識する方向を間違えると、
其のガードは砕かれ、無防備に陥る天気。なら、私が得意なカウンター戦法が非常に有効になる。
でも私は発言した此の天気である妖怪を思い出していた。
紫……あれから姿を見ない……何処に行ったんだろう…?何処かで此の異変解決の為に
頑張ってるのかしら……??
!!いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃないわ…!
「!来るぞ!!」
魔理沙の声に前を向くと敵が此方に素早く這いずりながら、蕾の様な毛を開いて噛み付こうと
していた。
丁度良いわ……私は待った。私を包み込むように毛が閉じ、飲み込もうとする瞬間を。
「!!何をしてんだ、霊夢!!?」
そして直線的な動きの末に、其の毛が私を包み込もうとした瞬間、
「『亜空穴』!!」
瞬間移動をし、其の攻撃から逃れた。私を噛み損ねた毛が鋭い音を立てて閉じられ、衣玖の顔を
覆い隠した。そして私は再び現れた。
其処は敵の顎の真下だった。瞬間移動した地点から僅かにしか移動していない。敵の白く、
でも堅い毛が頭に触れるのを感じた。
「『昇・天・脚』!!!」
地面と顎の狭い空間でしゃがんだ状態から身体を捻り、私はサマーソルトで下から思いっきり
蹴り上げた。
やはり正面からのガードだけしか意識していなかったらしい。天候の影響により髪の毛による
ガードを破り、更に私の蹴りの衝撃で衣玖は仰け反った。数歩後ろに下がると上半身をもたげた
まま地面に倒れた。
直ぐ飛翔をして顔に近付き、半開きになっていた毛を両手で一束ずつ持ってこじ開け、弱点の
顔面を曝け出した。逆さまになった衣玖の変わり果てた顔。カウンターを喰らった反動か疲弊
している。
「魔理沙、今よ!!後ろからかましてやって!!」
「!お、おう!!」
コンマ一秒の出来事に唖然としていたのか、呼びかけに慌てて魔理沙が応えたかと思うと、
突然背中が重たくなった。今は飛ぶ為の箒が無い今、私の背中に飛び乗ったのだ。そして肩の
後ろから片方の腕を前方に真っ直ぐ突きつけた。其の手には八卦炉を握られている。
「喰らいやがれ!!恋符『マスタースパーク』!!!」
八卦炉から正面に捉えた顔に向かって、虹色の太い光線が放たれた。
光線は直撃した衣玖を押し付けるようにして飛び、アリス邸の壁に命中した。衣玖の
長い体もアリス邸に叩き付けられ、壁に大きなひびを入れた。
「今のは効いたわ……頂点のアンタ達も追撃よ!!」
魔理沙を負ぶったまま着地する私の声を合図に、後方から一斉に弾幕が飛び、壁にめり込んでいた
衣玖に殺到した。
邸の瓦礫と共に下半身の足が数本、そして花弁みたいな毛の一部がちぎれ飛び、水気を含んだような音を立てて地面に落ちた。
「エ"ェエ"ェェエェ"エェ!!!!!!!」
其でも弾幕を耐え切った衣玖が、紫色の電気を帯びた真っ黒な唾液や啖を巻き散らしながら、
けたたましく吼え始めた。相当な高周波だったらしく其の咆哮でアリス邸の窓ガラスが全て粉々に
砕け散っていった。
今ので完全にブチ切れた様だった。衣玖の怒り狂った四つの瞳が全部同じ方向を見ずに
ギョロギョロと動かしている。怒り狂う点は、かつて衣玖が異変の最中に創った新種のマリス、
「イクシード・マリス」の特徴によく似ていた。
すると衣玖が滝の様に涎が流れる其の口から黒い雷の束を、放射状に纏めて吐き出して来た。
「避けるのよ!!」
私と魔理沙がそれぞれ別の方向に横転して回避した。
衣玖は其の隙を利用して頭を地面に突き刺し、身体を回転させながら地面に潜っていった。
「!気を付けろ霊夢!地面から来るぞ!!」
魔理沙の声と同時に、私の脚元の地面が盛り上り始めた。
私は後方に倒立回転をして其の場から離れる。直後に盛り上がった地面が割れ、衣玖の長い身体が
真上に飛び出して来た。
攻撃を外した敵は身体を捻り、再度私の方に向かって突進してきた。私ももう一度倒立回転で後退する。衣玖は花弁を閉じずに自分の汚い牙で噛み付いてくる。
すると私と衣玖の間に魔理沙が割り込み、向かってきた衣玖の顔に八卦炉を向けた。
「私が狙いなんだろ!?星符『オカルテイション』!!!」
八卦炉から黒い星型の弾幕を直線状に発射され、次々と敵の顔面に直撃した。敵は悲鳴を
上げながらまたしても怯んで仰け反る。
だけど毛で顔を隠さずに腕で顔を覆って呻いている。どうやらちぎれて完全に隠せなくなったから
無意味だと判断したみたいね。
「御柱『メテオリックオンバシラ』!!」
怯みによる隙を狙った神奈子が御柱を真上から数十本落とした。材木に釘を打ち込む様に
下半身側の足の甲に一本ずつ突き刺さり、地面に磔にして動きを止めた。
「おっと、暴れない様に首輪もしないとね~~…!」
其処へ諏訪子が空中から直接衣玖の首筋に着地し、
「神具『洩矢の鉄の輪』!!」
其の手に鉄の輪を召喚し、毛の間から衣玖の首に掛けて締め上げ始めた。動きを封じられていた
衣玖は、其の場で諏訪子を振り落とそうと首を振り回しもがいた。
衣玖の動きに合わせてか、更に雷も激しく鳴り響く。
「!?此の!…大人しくしろよ此のぉお……!!!」
諏訪子も落とされまいと必死になってしがみ付いている。片手で鉄の輪を、もう片手で
衣玖の背中の毛を掴んでいる。
「!!?ほ、ほらぁ……~~あぁ暴れるから…抜けちゃったじゃないかぁあ……!!」
其のあまりの激しさに掴んだ毛の束を数回むしり取ったらしく、諏訪子は急いで掴み直している。
そんな彼女の頭上を上半身側の腕達が幾度となく通過し、掴み損ねる。
「霊夢さん!!此を!!」
ふと声がし、振り向くとベルトごと外された神子の宝剣が回転しながら私に向かって飛んで
きていた。
彼女が投げて寄越したんだと判った。緊急とはいえ、自分の魂を宿らせた物を粗雑に扱ってる。
私は両手で大事に受け取める。
「…また、此の剣を振るう時が来るなんてね……」
私はベルトを装着して鞘を持ち、柄を握った。
そして柄を引き抜き、光り輝く其の刀身を顕わにした。
其の瞬間、剣の光によって周りが一気に明るくなった。
「!!!クッ……!??」
魔理沙が其の眩しさで両手を顔で覆った。
剣を真っ直ぐ真上に構えた。すると雨が止み、雲が退き、赤い月に照らされた空が顔を出した。
頭のリボンが神子の髪の毛の様に逆立ち、盛んに風になびき始めるのが判った。
剣先に意識を集中させる。剣先に光が集まりだし、更に其の輝きを増した。
「!!此が……一度衣玖に止めを刺した……!!」
眩しさに慣れ手を丸くしているのが視界の端で見えた。
私の目の前で二柱が必死になって敵を押さえつけている。
雨上がりでぬかるむ地面で御柱を維持し続ける神奈子の額に汗は流れ、諏訪子は衣玖に振り回され
ながらも私から注意を反らしてくれている。
今しかない!私は剣を構えた。
だけど其の時、衣玖が首をあげ、月に向かって潰れた声を上げた。
「!!!」
其を聞いた私はハッと動きを止めた。走ろうと踏み出した其の足を止めた。
私は其の声の中にかつて衣玖だった時の声を聞いた気がした。助けを求める彼女の声を聞いた気がしたのだ。
黒幕により『孤毒』によるの暴力的な身体の支配を受け続けてきた衣玖。私が異変を解決し始める
前から……いえ、もしかしたら私や魔理沙が生まれるずっと前からかもしれない。
人間である私達からしたら耐え難い苦痛を、誰にも伝えられずに延々と味わってきていた。そんな
彼女に、無情な攻撃を与え続けても良いのかしら…其は彼女に対して情けをかけているのだ。
妖怪は全て退治の対象としている普段の私からだと考えられない思考だ。
そしてある言葉が、私の脳裏を過ぎった。
『善人よりも、悪人の方が救う必要がある』
其は此の異変の最中、私が神子から聞いた言葉。以前にも生贄を求める嵐の猛威から衣玖を
救い出すきっかけにもなった言葉だ。
例え相手が妖怪だとしても不遇な扱いを受けていれば……悪人とされてきた善人ならば、尚更だ。
「!お?…おぉ……??」
「大人しく…なった??」
暴れるのを止めて大人しくなった事に二柱も気付いた様だ。
「神奈子、諏訪子!!」
其処で私は二柱の名前を叫んだ。二人が其の声に反応して此方を向いたのを確認し、そして静かに言った。
「……拘束を解いて頂戴」
「「!え…!?」」
二柱が唖然とする中、私は神子の剣を鞘に納めた。周りを照らした光が消え、月明かりだけが頼りな夜の闇が戻る。
「コイツ、まだ動けるのよ!!」
「大人しくなったのはマリスの罠かもしれないのよ……?」
「良いから解いて!!!」
今度は叫んだ。
私に気圧された二柱の神は渋々拘束を解き、抵抗が薄まった衣玖から離れた。只其の中で、空中で
様子を窺っていた神子だけが私に微笑と共に少しだけ頷いてくれた。
拘束を解かれるも衣玖は少しも動かず叫び終えた首を垂れ、残っていた全ての膝を地面に付けた。
其の姿は、役目を終えて花弁が散り始めた百合にも、そして龍となり高く舞い上がる事を諦めた
蟒蛇の様にも見えた。
「!?どうしたんだよ……!??」
衣玖への一撃を断念した私の隣で、魔理沙が言った。
「衣玖は私が想像している以上に酷い目に遭っているのよ。此以上は流石に痛い目に遭わせ
られないわ」
私らしくない内心を悟られない様にぶっきらぼうにそう言って神子の傍に行き、ベルトを外して
剣を返した。柄の先端で模られている太陽が月の光に反射して赤く光る。
私は其処から踵を返して衣玖の傍へと歩いて行った。
「霊夢……!!」
後ろから私を呼ぶ魔理沙の声が急に小さくなった。神子に止められたのかもしれない。私は
うな垂れている衣玖の前まで歩き、其の顔を見上げた。
視線を落としている其の目からは怒りは消え、其の口からは紫色の帯電した涎が滝の様に流れ
落ちて地面に溜まっていた。
「……衣玖」
私が呼ぶと、
「~~レ……霊夢…サン……」
返事が返って来た。言葉を発した瞬間口から出ていた涎が僅かに飛び散り、下で小さく跳ねて飛沫
となった。やっぱり自我は戻って来ていた。長い間浸食されていると、其なりに耐性も付いて
来ていた様ね……
「衣玖!!」
その時後ろから声が聞こえ、振り向くと森の上から誰かが此方に降りて来ていた。
其の姿に神子が驚きの声を上げた。
「!屠自古、貴方……来るなと言っていたのに……!」
「申し訳ございません、太子様!!ですが……ですが……!!」
其の後ろからも大勢来た。永遠亭で手伝いをしていた筈の早苗と白蓮、そして咲夜に萃香、輝夜も来ていた。
「!?衣玖さん……!?」
着地するや否や、咲夜が其の変わり果てた巨躯を見て絶句する。そう言えば、あの嵐の中で一緒に
戦ったけど、衣玖の変異した姿を見るのは此が初めてだったわね。
「!咲夜!!無事だったか!マリスにやられたと聞いてたが……」
「今は手術して何とか大丈夫ですけど…心配かけたわね」
魔理沙に返事をした咲夜は、もう一度衣玖を見上げる。
「あの龍宮の遣い…あれが変異した姿ね。魔理沙、何ともない?」
「気絶した時、何かされたかもしれない……でも、今は何も変化はねぇ」
其処で魔理沙は萃香の方も見る。
「…どうして萃香もいる?地底に行ったと聞いてたけど…永遠亭にいたのか?」
「私も入院してたんだ。マリスにやられたしまったのよ……」
そう言う萃香の目は私に何度か向けていた。挙動不審だ、私は訝しむ。
私に対して、何か秘密を持っているの……?
其処で私は咲夜が持っているものを見て言葉を無くした。
其は傘だった。咲夜が主のレミリアに差してあげる物だと思った。だけど其はいつもの傘とは
違っていた。
忘れようのない、傘とは思えない湾曲した骨の形。そして露先をつなぐ赤いリボン……
八雲 紫の傘に違いなかった。
「!!~~咲夜……其の傘は……!??」
そう訊いても、咲夜は表情を曇らせるばかりで何も答えてくれなかった。
彼女の表情を見た私の中にある考えが生まれた。頭痛がし、額を片手で押さえる。
其の考えは私自身が決して信じたくない考えだった。
まさか……まさか、紫は……
紫は……!!
「衣玖!お前……!!」
その時、屠自古が私の前に来て衣玖を一番傍で見上げた。
「なんつぅザマなんだよ…!もう…顔しか面影無ぇじゃねぇかぁ……!!」
「……屠自古サ……ン……」
すっかり涙声になっていた屠自己の言葉に衣玖がそう返事をすると、突然呻き声を上げ始めた。
「!??」
同時に今までもたげていた上半身がゆっくりと前に傾き始める。
私達は押しつぶされない様に後ろに下がった。やがて完全に倒れ、衣玖の全身が地面に
横たわった。
「大丈夫か!?……おい!!」
屠自古が再び衣玖の顔の傍に近寄った。
其の後ろにいた私の周りに全員も来ていた。
「……私ハ…油断…シマシタ……」
「もう良い……!無理に喋るな……!!」
屠自古が優しく言った。
「~~皆サン……」
衣玖は気に留めず、視線を私達に視線を上げた。頬の眼は動かず、自分の両目だけで私達を
見上げていた。
「…黒幕ガ……来マス……」
「!?何だと……此処にか!??」
其の言葉に屠自古が驚きの声を上げる。私も耳を疑う。
「!そうでした……私達も、其を伝えに来たんです!」
早苗が言った。
でも今の言葉で、確信した。
其は永遠亭の地下で衣玖が持っていた、紫色に変色させられたメモの内容が黒幕の名前だという事。やっぱり黒幕が口封じの為に衣玖の意識を奪い、もう一度変異させ、
操り人形にしたのだ。
「衣玖……」
すると魔理沙が衣玖に近寄り、屠自古の隣で片膝を付いて声をかけた。
「此……忘れ物だ」
取り出したのは衣玖の帽子だった。何処かで落ちていたのを拾って保管していたらしい。
魔理沙は手を伸ばし、顔を隠す毛を掻き分けて衣玖の額にかかるように帽子を被せた。黒幕が来るというのにいやに冷静な反応ね…私は不審に思った。
其の時、奇妙な音を聞こえ始めた。
「!?……」
私は周りを見渡して音の根源を探した。魔理沙も立ち上がり、同じ様に行動する。
其の時私は横たわる衣玖の体の遥か後ろ、地面に付けていた尻尾の先の毛が抜け落ち、まるで氷が解けたかの様に尻尾自体も溶けていったのが見えた。
「!!衣玖……!!!」
よく見ると、長い体のあちこちに変化が起きていた。白い毛が抜け落ち、黒い表皮が泡立ちながら溶け始めている。
「~~ト…屠自古サン……私ハ…モウ…駄目デス………」
衣玖の声が荒くなっていた。屠自古が輝夜に振り向いて叫んだ。
「月の姫!お前…医者が傍にいるだろ!?何か…何とかならねぇのか!!?」
輝夜は亡霊から視線を反らし、唇をかみしめる。其の目は少しばかりだけど赤く充血していた。
「頼む!!……どうにか出来ねぇのかよ……!??」
だけど輝夜はいくら懇願されようと、只悲しそうに首を振るばかりだった。
「医療技術は永琳の方が長けている。私では……其に、こうなってしまうと、永琳でも手の
付けようが無いと言うわ」
「やってみなきゃ判らねえだろが!!!!」
「屠自古!!穢れを嫌う月の者になんという事を…!!」
完全に冷静さを欠いて怒鳴った従者に、神子が声を荒げた。
「……良インデスヨ………」
今にも消え入りそうな声に、屠自古はもう一度衣玖の方を見た。其の身体はもう大半が溶けて
しまっていた。
「~~余リニ永ク…病気ニ…身ヲ浸ケ過ギテイタ……今更……手遅レデス……」
屠自古は目の前で起きている事を真っ向から否定するかの様に、小さく首を振った。
「~~曽我…屠自古サン……」
すると衣玖が歪になった片腕を、屠自古に伸ばして来た。其の震える掌には魔理沙が被せた
自分の帽子を乗せていた。
「……総領……娘…様ヲ………」
そう呟いた顔も徐々に容を崩し始めていた。
「総領……娘様ヲ……ア……アノ…御方ノ…………未…来…………ヲ………」
そう言い残すと力なく首を地面に付け、全身が溶けていった。腕も溶け、帽子が木の葉の様に
舞いながら屠自古の前に落ちた。
病気により龍となった、龍宮の遣いが横たわっていた処には巨大な紫色の水溜まりが残るばかりとなった。
彼女は解放された。だけど、其の方法も残酷極まりなかった。
「~~~………」
屠自古が其の場で両手を付いた。其の目には驚愕の色とそして涙が満ちている。
「……骨まで……溶けちまいやがったのかよ……!!」
片手で帽子を拾い、もう片方を其の液の中に入れ、すくい上げる。だが、当然手の上に留まれずに
指の間からゆっくりと零れ落ちた。清々とではなく、やや粘着性のある落ち方だった。
「こんな最期が有るかぁぁ!!!!畜生ぉおぉおおぉお!!!!!!!」
屠自古は悲しみに吠え、地面に突っ伏し大声で泣き始めた。異変を通じて宿敵に、そして
友好関係も築いてきた者の最期は彼女にとって過酷だった。
神子も其の横につくも、其のあまりにも凄惨な最期を目撃したのか悲しみのあまり彼女を慰める
言葉が見つからない様だった。
早苗は涙を流し、諏訪子が其を慰めようとしていた。他の皆も押し黙ったままだった。
私は無意識に作っていた握り拳に力を込めていた。
「~~~黒幕だ……」
暫くして涙が収まった屠自古が呟いた。
「此も全部……其のろくでなしがやらかした事なんだ……!」
そういうと何も持っていない手を思いっ切り地面を叩いた。静かな声とは裏腹に其の一言一言に
はっきりと怒りが籠っている。
「衣玖さんが言った様に黒幕が此処に来てるんですよ…輝夜さんが其を伝言で受け取って…!」
早苗がしゃくり上げながら言った。
「ソイツを知っている」
其の時、魔理沙が呟いた。私を含む全員の目が彼女に向く。
「ソイツの名前を知っている」
「え……?」
一番近くにいた屠自古が小さく声を上げた。
「でも、どうやって……??」
「アリスが、邸に残していた此に…魔力を吹き込んでいたんだ」
そう言うと魔理沙はスカートの下ではなく、前掛けのポケットからある物を取り出した。
其は綿をフェルトで包んで縫合した、デフォルメされたデザインの魔理沙とアリスの人形だった。
どちらも赤いフェルトで出来た口で笑い、手を離れない様にしっかりと縫い付けられている。以前
私達がアリス邸に来た時、先に来ていた魔理沙がアリスとの記憶を探っていた時に見つけたものだった。
「私と夢の中で話せる様に……さっき其の夢の中で、本者のアリスが残った魔力を振り絞って…
教えてくれたんだ……」
そう言う魔理沙の人形を握る両手に力が籠っていく。衣玖の言葉を聞いた時の感情が、今やっと
彼女の中で湧き上がってきている様だ。
「じゃ、じゃあ…誰なんですか!?……こんなに幻想郷をメチャクチャにした不埒な、不届き物は!??」
早苗は血走った目を向けながら俯いている魔理沙に迫った。萃香に咲夜、輝夜、そして私も
其の傍で詰め寄る。頂点の皆は彼女に近付かなかったものの、其の視線は向けていた。
魔理沙は人形から視線を上げ、言った。
「嗚呼……黒幕は……」
「私がどうしたって?」
其の時、声が聞こえた。此処に立っている誰の声でもない。
「此は此は…意外に沢山集まってくれたわね……月の姫様に感謝しないとね」
上からだ。私達は全員声の主を探す為に、空を仰いだ。
見付けた。アリス邸の屋根の上に一人。赤い月を後ろに立っている。
最初は逆光で其の詳細までは判らず、目を細めていたが次第に目が慣れ、其の姿をはっきりと認識出来た。
「!!!」
其が誰なのかを確認した私は目を丸くした。
「……やっぱりお前だったのか、クソ黒幕……!!」
魔理沙が殺意の籠った声で言った。
黒幕。魔理沙がそう言った。じゃあ、あの人物は……
遂に現れたのね、私は確信した。アリスの心の闇を利用し、天界の者達を苦しめ、幻想郷を混沌
へと陥れた張本人が。幻想郷の全ての住民が、怒りを向けるべき本当の元凶が。
だけど其の姿は私にとって意外だった。あまりにも。
周りの少女達も皆、息を呑んでいる。言葉を失っている。其の正体を誰もが驚いている様だった。
私と魔理沙が同時に、其の忌むべき名を発した。
声色は違えど其の怒りと憎しみで、一人の少女が声を発しているように聞こえた。
「四季映姫・ヤマザナドゥ……!!!」