東方孤傀劇Ⅱ~ナラクのアリス   作:因田司

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今回は、黒幕の四季映姫との対話の続きです。早苗視点で御送りいたします。

原作とは少し異なる点があるとは思いますが、
暖かい目で見て下さると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪


公職を纏い、影を纏う。

SANAE

~アリス邸前

 

 

「……紫……?」

 

 

霊夢さんが消え入りそうな声を発していました。

 

黒幕を自白した閻魔様が召還した賢者の紫さん。其の姿はあまりに痛々しく、まるでアリスさんがいつも従えていた人形を彷彿とさせる風貌でした。ほとんど破れてしまっている服の間から紫色の肌を見せ、体中に同じ色の鎧を着せられ、同じ色のアイバイザーで両目が隠されていました。

 

両手には巨大な西洋の槍、ランスが装着されていましたが、其の右手の槍に誰かが貫かれていました。

 

 

「!天子さん…!?」

 

 

最初に霊夢さん達と戦って以来行方不明となっていた天人の無残な姿が有りました。胸を背後から一突きにされたまま目を開け、瞳を淀ませてぐったりとしています。其の肌の色は紫さん同様、完全に紫色に染まっていました。

 

此で二人とも……衣玖さんも天子さんも、閻魔様に良いように利用された挙句に抹消されたって事ですか…?

 

 

「酷ぇ事しやがる…」

 

 

一番前で魔理沙さんの隣にいた屠自古さんが呟きました。衣玖さんの帽子を持つ手が怒りで震えているのが見えました。

 

 

「犠牲の無い貴方がそんな態度を貫けない様に、幻想郷の賢者である彼女も狙っていたのですよ……」

 

 

閻魔様が物言わぬ紫さんの隣から、嘲笑うかのように言いました。

 

と、突然其の頭を、手に持っている棒で殴り付けました。

 

 

「!!?」

 

 

殴られた衝撃で紫さんはよろけ、口から紫色に変色した血が飛び散りました。

 

 

「私の……言う事を無視した結果が此ですよ。こんな幻想郷を創ったら創ったで、荒廃させたまま野ざらしにした彼女も同罪です…」

 

 

殴られた紫さんは痛いとも言わず、口元の血も拭かずに無言で体勢を戻しました。私は霊夢さんの後ろ姿を見ました。

 

屋根の上の二人ををじっと見上げている霊夢さん。其の胸の内には紫さんに対する憐れみが有るのでしょうか……

もしくは弱い部分は見せたくはないと其の悲哀を捨て、敵に対しての憎悪、侮辱を選び、持ち続けているのでしょうか……

 

 

「地獄は生ける者全てが忌み嫌う場所…誰だって行きたくは無いでしょう」

 

 

閻魔様は棒に付着した紫さんの血を見ながら呟きました。

 

 

「ですが貴方達が選択した以上、こうするしか此の幻想を救う術は無い」

 

 

血の付着した刀の様に其を一振りで払いながら、淡々と述べました。

本来罪を犯した者を戒めて叩く為に使われる、閻魔様の棒…其を彼女は、罪も無い賢者さんに対しても振り上げました。最早今の閻魔様にとっては、私達は罪を犯しているとしか見えないのでしょうか……

 

 

「そして此の…もう一人の方も、貴方には関係が有る筈……霊夢さん」

 

 

今度は懐から小さな何かを取り出して、私達に見せました。

 

 

「!あれは…ボイスレコーダー?」

 

 

親指でボタンを押すと激しくノイズが響く中、其の本当の持ち主の声が再生され始めました。

 

 

『~~…録音を開始します…射命丸 文……丑の二刻…午前一時三十分……』

 

「!!文……!?」

 

 

霊夢さんの声に、間近で録音された声を聞いていた閻魔様はニヤリと笑いました。

 

 

『…マリスの増援が出現……其の奇襲に……妖怪の編隊はほぼ壊滅……私も重傷を負ってしまいました……天魔様の消息も…不明です………』

 

『ですが其の黑い波の中に…私は…目を疑う御方を…見つけてしまいました……』

 

 

傷が相当深いらしく其の声はとても苦しそうで、辛そうでした。ですが其の声には何としてでも情報を残し、伝えようとするブン屋としての意地も含まれていました。

 

 

『…閻魔様……四季映姫・ヤマザナドゥ……あの正義を重んじる御方が…幻想郷を脅かす…マリス達の、統率をしていたのです……!』

 

 

諏訪子様が横で歯ぎしりをするのが聞こえました。妖怪の山をマリス達が襲撃したという、閻魔様の言葉は此で裏付けられてしまったのでした。

 

 

『あの…御…ノ、表情は…穏やかナ……我々、幻想郷ノ…住民を…諭すモノデ…アりま…ん!……』

 

 

すると其の声が変わり始め、ノイズも激しくなって聞こえ辛くなってきました。

 

 

『あノ御方は……アレハ…復讐ノ権化ェ"………』

 

 

最後に震える変質した声と共に激しくノイズが生じ、其処で録音が途切れました。

 

恐らく其処で、隠れている処を閻魔様に気付かれて……

 

 

「……私を『復讐の権化』とは…失礼な……」

 

 

そう言うと其の場で何と素手で、ボイスレコーダーを粉々に握りつぶしました。拳の間から砂粒程になった破片が、サラサラと屋根の上に零れ落ちていった。

 

 

「私が此の異変を実行してから、ようやく幻想郷に住まう者は人妖問わず団結し、解決に乗り出そうとしている……」

 

 

黒幕は腕を真下に乱暴に振り、手の中に残っていた金属の粉末を屋根に撒き散らしました。粉塵は月の光で赤く輝いていました。

 

 

「……実行する前から、こうで在って欲しかったものだ」

 

「貴方が地獄に堕とす事が此の異変の一番の解決策と判った今…住民達も一斉に其の方向に向かう筈よ!!」

 

「其は困りましたね……地獄を堕とすのですか?…大罪を犯し、月より堕ちた貴方が閻魔である、此の私を?」

 

 

輝夜さんの言葉を嘲笑いながら屋根の端へと歩いてきました。

 

 

「やれるものならやってみろ。同じく大罪を犯した人間…妹紅と同じ目に遭わせるぞ」

 

 

またも閻魔様とは思えない言葉を吐きながら辿り着くと其処から首を曲げ、自分が操っていた龍宮の遣いのなれの果てを見下ろしました。

 

私が立っている場所からだと遠くてはっきりとは見えませんでしたが、其の小さく揺れる紫色の液面に、彼女の不健康そうな顔と赤い月が写っているのが見えました。

 

 

「にしても、なんて不甲斐無い…永い間の浸食に、肉体が耐え切れずに溶けてしまいましたか……」

 

 

自分の顔の変貌に嫌気が差したのか、其とも衣玖さんの残骸が気味が悪いと思ったのか、顔を不快そうに歪めながら覗き込むのを止めて冷たく言いました。

 

 

「まだ死ぬには早い…一刻も早く始末しようとしていましたが、もうひと役買って貰いますよ」

 

 

そう言ったかと思うと、さっと隣の紫さんに両手を伸ばしました。今度は何をするつもりでしょうか…と思っていると、彼女ではなく槍で貫いていた天子さんの身体を掴んで乱暴に引き抜きました。

 

 

「!!」

 

 

そして紫色の血に塗れた動かない天人を屋根の上に投げ捨てると、其処から満身の力を込めて此方に蹴り飛ばしてきました。

天子さんの身体は糸の切れた操り人形みたいに空中で何回も回転し、綺麗な放物線を描くと、地面の水溜まりの中に飛沫をあげて落ちました。

 

一度うつ伏せのまま浮かんで来た天子の身体が、其のまま液に沈み始め、見えなくなりました。只の水溜まり程の深さしかない筈のに、衣玖さんの残骸は一瞬で底なし沼になっちゃったのですか……!?

 

と、突然液面が波立ち始め、液面から黒い霧が噴き出てきました。

 

 

「少々天子さんの融解に時間は掛かる様ですが……二人で新たな『私』に

なりなさい…、!そうだ……」

 

 

彼女は何かを思いついたらしく、私達の方に視線を戻すと、

 

 

「せっかくですから其の『私』が出来るまで、直々に相手をしてあげましょう……まぁ、長くてもせいぜい二分といった所でしょうか……」

 

 

手に持った棒で口元を隠しながら、隈の上から血走った両目で此方を見下ろしてきました。私達全員を品定めとするかの様に視線を移動させていきます。

 

 

「彼岸ライフを削ってまで来たのですから、戻らなければなりません。『私』が出来たら退散させて貰います」

 

 

そういえば地獄の閻魔は二人で一つの仕事を交代で行う制度が有るんでしたね。言っているのは其の事に違い有りません。

 

二分…其の時間の間に彼女を倒す事が出来れば……

 

 

「ですが、あまりにも人数に差が有りますので、少々ハンデを……」

 

 

紫さんの方に向き、首を振りながら指図しました。すると一秒も待たずに彼女の左右の空中に別のスキマが開きました。

 

左のスキマから何か二つの影が飛び出し、彼女の前に着地しました。其の際にアリスさんの邸の屋根瓦が数十枚抉れ、此方に向かって降り掛かってきました。

 

 

「!?下がれ!!」

 

 

神奈子様の声で、前にいた魔理沙さん等数人はすぐさま後退しました。降り注いだ瓦は魔理沙さん達がいた地面一帯に突き刺さりました。

 

其の姿はあまりに変わっていましたが、霊夢さんには直ぐに判った様でした。

 

 

「藍!!橙!!」

 

 

其の姿はまさに九尾、猫又の様な身体となった、二匹の紫さんの使い魔でした。何方も黒毛に紫色の目玉模様でしたが、白目がそれぞれ藍色、橙色に変わっている両目でようやく判りました。破れた服の上からでも判る程、其の身体は発達した筋肉を持っていました。マリスの影響に違いありません。

 

 

「まだまだ…用意した『私』はいますよ……!!」

 

 

すると今度は其の右隣のスキマから巨大な二本の手が出現し、邸の屋根を掴みました。今度は毛が無く、皮膚を覆う鱗が黒くて四本指でした。そして上半身をスキマから引き出して其の顔を見せました。

 

 

「チルノ!!」

 

 

顔が紫色になり、鋭い目付きの氷精さんの顔がありました。其の髪は白蓮さんの様に水色から黄色のグラデーションがかかっています。其の頭にはチルノさん特有の氷の羽が、山羊の角の様な形に変異していました。

 

ですが其の顔を上に向けると、其の喉元に別の顔がありました。

 

 

「ルーミア……!!」

 

 

ルーミアさんの顔が本体で、チルノさんの顔が獅子の様に伸びた頭頂部の金髪に埋もれていました。途中から髪が黄色になっていたのはグラデーションではなく、本体の髪と一体化していた為だったのです。二本脚で立ち上がるとルーミアさん、四つん這いになるとチルノさんの顔が前に向く様になっていました。

 

そして子供の背丈しかなかった彼女の身体はマリスによって今は私達と同じ位まで伸びていました。ルーミアさんの黒い服、そして肘や獣足から氷の棘が生えている所から、其の姿は彼女がチルノさんを食べ、其の能力を身体の随所で発現しているかの様に見えます。

 

チルノさんとルーミアさんを組み合わせたキメラ型マリスが、スキマから這い出て屋根の上に着地すると二本足で立ち上がり、黒い涎と噴煙の様なモノを撒き散らしながら獣の吼え声を上げました。

 

 

「此で…ほぼ平等というところですかね…」

 

 

マリスの増援を呼んで不敵に笑う彼女の肌にも変化が起こっている事に気付きました。一部の肌しか染めていなかった薄紫色が全身にまで広がっていきます。

 

 

「……自分の体内にもマリスを入れているのですか…」

 

 

神子さんが剣の柄を握りながら言いました。統率をする為には流石にそうしないと駄目みたいですね……となると、彼女の中のマリスが、全てのマリスの母体……

私は袖の中に隠している瓶をそっと触りました。そうなって来ると此の捕獲しているマリスを使うタイミングは、少し考えないといけない様です。

 

 

「お前等に私を覆す事等出来ない…断じてな……!」

 

 

肌が変色していくにも関わらず声に変化を来さず、自我も失ってません。自分がマリス…アリスさんを騙っていた完全な証拠となっていました。

 

そして持っている棒を私達に向け、病気で化け物となった少女達をけしかけました。

 

 

 

「往ね……幻想郷の為にも!!!!」

 

 

 

五人……いえ、四体が其の指示に従って屋根の上から此方に飛び掛かって来ました。

 

 

 

「地獄に堕ちるのはアンタだ!!!四季映姫ぃいぃい!!!!!」

 

 

 

霊夢さんが叫び、其を合図に私達は一斉に持てる武器を構え、上方の集団に向けました。

 

 

さぁ、堅物閻魔様に此処では常識は通じない事を、教えて差し上げましょう!!

 

 




如何でしたか?

普段とは想像もつかない程黒くなっていく四季映姫……キャラ崩壊が激しいですね。
彼女の説教の様に長かった説明回。次回はようやく戦闘回になりそうです。

それでは、次回もゆっくりしていってね♪
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