東方孤傀劇Ⅱ~ナラクのアリス   作:因田司

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今回は、場面が変わり、久しぶりに地霊殿の様子を紹介します。
主役も登場しますが……

原作とは少し異なる点があるとは思いますが、
暖かい目で見て下さると、幸いです。

それでは、ゆっくりしていってね♪



a Moment of Birth

SATORI

~地霊殿 さとりの書斎

 

私は、自分の書斎で資料の整理をしていた。

忙しいわ……休憩を何度か挟んでいても、此処までのものとはね……

 

でも……

私は手に取った資料を見た。最奥部も含んだ、新しい地霊殿の見取り図だ。

 

今回は前と違って準備ができている……其に、此はアリスさん達を地上の魔の手から

救うための戦い………

 

 

(絶対に負けられないわ…やるべき事をやらなきゃ…)

 

 

そう考えると、作業するペースが速まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ……」

 

 

ファイルを閉じた。此で…一応全部片付いたわね……

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します、さとり様……」

 

 

入口の方から声が聞こえて、私は其方を見た。

 

書斎にしては少し大きすぎる扉。

其を開いて半分顔を出していたのは火車の火焔猫燐だった。

 

 

「?どうしました、お燐?」

 

「あの、今……忙しいですか?」

 

 

お燐が不安そうに尋ねる。

 

 

「いえ、資料の整理が終わったところよ?其が何か?」

 

 

資料が入ったファイルを机の上に置きながら言った。

 

 

「先程廊下に、不可解なものを見つけました……一緒に来て頂けますか?」

 

 

?……不可解なもの?

 

 

「他に誰かが見つけているの?」

 

「!あ、はい、旧地獄の勇儀さん達が其の現場にいます。

私があの方達を、さとり様の処に案内する途中で見つけましたから」

 

 

私は、座っていた黒いソファから立ち上がった。

 

 

「行くわ。其処に案内して?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SATORI

~地霊殿 廊下

 

私がお燐と歩いていると、前方に人だかりが出来ていた。

 

何かを見ているようだ。

 

 

「!よう、さとり」

 

 

其の中の一人、旧地獄の鬼の星熊勇儀さんが私達の足音に気付いて声をかけた。

釣瓶落としのキスメさん、土蜘蛛の黒谷ヤマメさん、橋姫の水橋パルスィさんも此方を見る。

 

私達は勇儀さんの目の前まで歩いてきた。勇儀さんが私を見下ろしている。

 

 

「皆さん揃って……どうしたんです?お燐から旧地獄の警備に関しての報告は

聞いていますか?」

 

 

私は問いかけた。もちろん、心は読んでいない。

同じ仲間として私は心を読まない、そう約束をしていた。

 

 

「嗚呼、旧地獄の入口では此といった変化がなかったが、少し防衛担当の鬼達を休憩させてるんだ。ソイツを一応報告しようかと思って来たんだが……」

 

 

そして、二人ずつ横に別れて道を開けた。私は其の間を進み、皆が囲んで見ていたものを見た。

 

後ろから勇儀さんが言う。

 

 

「此、何だと思う?」

 

 

 

地霊殿の廊下に、紫色の粘液が付着していた。

まるで高いところから落ちて来た様な形状だった。

天井を見上げたが、足元の粘液のもとらしいものは見当たらなかった。

 

私はかがんで其を見た。が、あまり顔を近付けないようにした。 

 

 

「…何かの……動物の体液でしょうか?血液ではなさそうですが……

色があまりに不気味ね……」

 

 

そして顔をあげてお燐の方を見る。

 

 

「お燐、最近地霊殿内での動物が何か怪我をしたというのは?」

 

「!いえ…私が見る限り皆元気そうでしたし、さっきも何の問題もなく

ご飯を食べていましたよ?」

 

「そうですか……」

 

 

私は視線を謎の粘液のほうに戻した。

 

すると、

 

 

 

 

「もしかしたらぁ、お化けのかもよぉ!??」

 

 

後ろからの声に私以外は皆、驚いて振り向いた。

 

 

「……他人をからかうのは止めてとあれほど言った筈ですが?」

 

 

そう言いながらゆっくりと私も振り向いた。

 

 

妹のこいしと面霊気の秦こころさんが此方に歩いて来ていた。

 

こいしが諸手をあげて舌を出している。さっきの声はこいしのものに違いない。

私の口から溜息が洩れる。脅かされるのはいつもの事だったから慣れていた。

 

 

「こいし……其はあり得ないわ。お化けは血を流さないのよ?」

 

 

こころさんが冷静ツッコミを入れてくれた。

 

 

「でもぉ、此処地獄だし、怨霊いっぱいいるし。そうとしか言えないんじゃない?」

 

 

こいしが楽しそうに反論する。

 

 

「其はそうと………皆さん揃って何をなされてる?」

 

 

こころさんが歩きながら私と同じ事を訊ねた。

 

 

「廊下に謎の液体を発見したんです。其がいったい何なのかを考えてるんですよ」

 

 

私は振り向いて其に答え、問題の付着物を指差した。

 

 

「こころさん、此は何だか判りますか?」

 

「拝見しよう」

 

 

私はこころさんに場所を譲って立ち上がり、お燐の傍に戻った。

今度はこころさんが私がいた場所にしゃがみ、紫色の液体を見ていた。

 

全員が見守る。しばらくの沈黙……

 

 

 

 

 

 

「んにゃ。さぁっぱ、訳判んねえだ」

 

 

こころさんが頭を掻きながら立った。

 

すると、キスメさんが、廊下の奥の方を見て言った。

 

 

「ねぇ……向こうにもいっぱいあるわよ?」

 

 

確かに先に続く廊下にも、同じ様な粘液の飛沫が点々と続いていた。

 

まるで、道しるべの様に……

 

 

「気持ち悪いわね……」

 

 

パルスィさんが呻いた。

 

 

「辿って行けば、判るかもしれないわよ!?」

 

 

こいしが興味津々で言った。

確かに……今は其が一番の様ね……?

 

 

「そうね……辿ってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

私達は粘液の後を暫く辿っていると、ある一つの部屋の手前で

其が途絶えていた。

 

其処は……

 

 

 

 

 

「……アリスさんの部屋?」

 

 

私は戸惑いの声をあげた。

 

其処は最初に地霊殿にアリスさん、そしてこころさんが訪れた時、

私が二人のために用意した部屋の一つだった。

 

其の扉の奥の壁にはこころさんの部屋へ続く扉がある。

 

 

「あの粘液の主は、此のアリスの部屋に入って行った様だね……」

 

 

勇儀がアリスさんの部屋のドアを睨んでいる。

 

 

 

「……アリスさん?」

 

 

私は彼女を呼んでみる。

 

だが、返事が無い。

 

 

!もしかしたら、入っていった者に……!?

 

 

私は急いでドアを開けた。

 

 

「!アリスさん!?」

 

 

入口から一番近い部屋の隅……入ってきた私達の左横の角に、アリスさんが壁に

寄り掛かっていた。

 

以前から見られた、まるで全身を内出血しているかのような黒い肌で

ところどころに黒いシミがこびり付いていたが、其等が更に悪化した様な気がした。

 

何よりも、顔の真ん中にある大きな一つの目玉も閉じられて、息が苦しそうだった。

 

 

「アリス!!!」

 

 

其の口からよだれが大量に、まるで吐血しているかの様にこぼれ、服に垂れていた。

 

 

「!!!」

 

 

廊下で見た紫色だった。

 

まさか、あの廊下の粘液は…アリスさんの……?

 

でも、あんなに大量に……身体の中から一度に出る筈が無い……

いったい何が……?

 

いや、今は其どころじゃないわ!!

 

私は後ろでびっくりしていたヤマメさんに叫んだ。

……ヤマメさんは確か病気、主に感染症の類を扱うことに長けていた筈……

 

 

「ヤマメさん!!急いでアリスさんを!!」

 

「!?う、うん!病気なら、御任せあれ!!」

 

 

ヤマメさんがアリスさんに近寄り、診始めた。

 

 

其の時だ。

 

 

 

 

 

「ヴオォォオオォォォオーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

アリスさんの身体から突然黒い雲が飛び出した。大きな一つの目玉が付いている。

 

地霊殿の各所で頻繁に見かけていた、心の読めない不気味な黒い雲。

其がまさに、目の前に現れた。

 

 

「!わぁああ…!!!」

 

 

アリスさんの上に屈み込んでいたヤマメさんは其に慌てて後ろに下がったが、

もんどりうって床に転がった。

 

其の上を黒い雲が通り過ぎ、開けていた入口から部屋を出て行った。

 

 

「!!アイツが原因か……?パルスィ、追うぞ!!」

 

「逃げるなんて……妬ましい…許せないわ……!!」

 

「待ちやがれぇ!!!」

 

「まぁ~~てぇえ~~~!」

 

 

勇儀さんとパルスィさん、こころさん、其にこいしが黒い雲を追いかけて行った。

 

残ったのは、私とお燐、転んだヤマメさんとキスメさん、

そして壁にもたれて倒れているアリスさんだけだった。

 

 

「~~いったたたぁ……!!」

 

「ヤマメ、大丈夫?」

 

 

頭をさするヤマメさんをキスメさんが心配そうに声をかけている。

 

 

「大丈夫ですか、ヤマメさん?」

 

「な、何か……アリスさんから何か出たよ……!!」

 

 

ヤマメさんが完全に怯えながらアリスさんを指差した。

アリスさんは目を閉じていたが、息は苦しそうではなくなっていた。

 

 

「…信じられません……近々よく見かける黒雲が……まさかアリスさんから

出ていたなんて……」

 

「しかしさとり様……今のアレはいったい何だったんですかね?」

 

 

すると……

 

 

 

グバァァ!!!!!!

 

 

 

アリスさんの目玉が思いっきり開かれた。

 

 

「!!?」

 

「!ひ、ひぃ……!!」

 

 

ヤマメさんが思わずキスメさんの桶にしがみついた。

 

瞼の下から出てきた、よく見る大きな青い瞳がひっきりなしに動いていた。

私達をまともに見ていない。部屋のあちこちをギョロギョロと見ている。

 

 

「さ、さと…り……サン……」

 

「!どうしました、アリスさん!?」

 

 

アリスさんが息も絶え絶えに声を出し、私は其に答えた。

其の間にも彼女の目は常に一点を見ていなかった。

 

 

「私……魚ガ……駄目ミタイ…デスネ………」

 

 

口の端に笑みを浮かべながら呟いていた。

 

……魚?

 

今度はお燐に背中を向けたまま訊いた。

 

 

「お燐、今日の昼食べたのって……」

 

「アリスさんが作って下さったマカロンやケーキではありませんでしたか?

あと、ハーブのお茶を淹れて下さったのも………

!!私はこっそり食べさせてはいませんよ!??」

 

 

最後に弁解を付け加え、慌てて首を振るお燐。

 

疑う余地はないわ……彼女には昼食のすぐ後に、旧地獄の様子を見に行って貰った事を

覚えていたもの。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

すると其へ、こころさん達が帰ってきた。

 

 

「大丈夫ですか、そんなに息を切らせて……!?」

 

「駄目だった……地底の薔薇園まで追いかけたんだけど……

すばしっこくて……天井の穴から地上に逃げられたよ……クソ!!」

 

 

こころさんが部屋の壁を殴った。

 

其の衝撃にアリスさんがビクッとして、目も上を向いた瞬間に止まった。

 

 

「!アリスさん……?」

 

 

そして其の目が、ゆっくりと此方を向いた。

 

 

「……こころさン……勇儀サン達…も……」

 

 

アリスさんが瞬きもしないまま言った。

 

 

「!アリス……大丈夫か?」

 

 

こころさんがアリスさんに近付き、傍で片膝を地面につけた。

私達も彼女の後ろで其を見守った。

 

アリスさんは其のまま再び目を閉じ、眠り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝てしまいましたね」

 

 

こころさんがアリスさんのベッドから離れた。

ベッドの上にはさっき彼女が運んだアリスさんが寝ていた。

 

勿論着替えさせ、口元も拭き、汚れていた服と同じ様な配色の

パジャマを着せていた。アリスさんのお気に入りだった。

 

 

「疲れが溜まっていたのでしょう……そっとしてあげましょう……」

 

 

私達は部屋から退出することにした。

 

 

しかし……

部屋の外に出る前に、私は考え込んでいた。

 

あの色……どう見ても床に滴り落ちていた粘液と同じだった。

そして私に対しての謎の言動……

 

アリスさん……貴方は、いったい……?

 

 

 

!駄目よ……!首を激しく振ってその考えを追い払った。

彼女達を歓迎しなければならない立場なのに……私は……!

 

私は足早に部屋の外に出た。

 

すると、

 

 

 

 

 

 

コキキィ………

 

 

 

 

 

嫌な音が聞こえた。思わず振り返った。

 

しかし其処には静かに寝ているアリスさんしかいなかった。

私は息をつき、部屋の扉をそっと閉めた。

 

 

 

きっと、疲れているせいね……私。

 

 




如何でしたか?

地霊殿での突然のアリスの容体の急変……
少しヤバそうな雰囲気も漂って来ました。

ですが次回は、再び戻って永遠亭の様子を紹介する予定です。

それでは、次回もゆっくりしていってね♪
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