漆黒のウマ娘と孤児院のお兄様(トレーナー)   作:ライスのお兄様(自称)

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この話がどこまで進んで、どう終わっていくのかっていうのはなんとなーく思いついていたりはするけど、どうまとめればいいものか悩んでいる作者です。

日常パートを頑張りたい。

感想、募集しています。


一章
一話 トレーニングと課題点 ~金船らぁめんを添えて~


 ライスシャワー改め、ライスと契約を結び、早いものでもう一ヶ月が経過した。契約後にはトレーニングの手法で悩む時期もあったが、今はトレーニングの作り方のノウハウを学んだのである程度マシにはなった。

 だがまだまだ俺は新米。足りないことも多くある。主にウマ娘たちの心境に対する理解やレース展開、スタミナ配分エトセトラ……考えれば考えれるほど問題点が降って湧いてくる。

 

「今更だが、ライスってなかなか良い素質持ってるよな……」

 

 トレーナー室にてふと呟く。彼女の脚だとステイヤーで活躍することができるだろう。

 トレーニング態度も良いし、教師によれば教室内の勉強態度も良いという。しかし、だからこそ彼女の弱気さが際立って見える。それが悪いわけではないのだが、時折過剰的になる時もある。

 

 トレーニング初日にはあり得ない量の荷物を持ってきていたり。トレーニングを休んだ日には体を休めて欲しいのになぜか自主練してたり。ゲーセンに行ってきた時にもなんかいろんな荷物持ってきたり。

 もはや気弱なのではなくて過剰なほどに心配性なだけな気もするのだが。トレーニングにカッパは使わないだろ、後なんでゲーセンに護身用の篭手を持ってくるのか……まぁそれも個性ということか。

 

「素質ならうちのハッピーミークも負けてませんよ!」

「……桐生院さん。いや、別に争ってはいないんですけど」

 

 俺の言葉に反応したのか、同期である桐生院さんが近づいてきた。彼女も彼女で、同期のみんなには気軽に話しかけて欲しそうだが、家柄のせいでなかなか距離が縮まずに苦労しているのだという。

 だからといって俺の方に来なくても良いと思うのだが。しかしトレーナー室が同じな以上、どうしても会話が増えるのは仕方ない。俺としてもトレーナーの知り合いは彼女とユウしかいないので人のことは言えないのだが。

 

「あれ? そうなんですか? てっきり私への宣戦布告かと……」

「流石に宣戦布告はしませんから。桐生院さんのハッピーミークも、今年のトゥインクルには参戦するんですよね。なら、近いうちに対戦することもあるかもですね」

「ですね! 負けませんよ!」

 

 はい、と自信ありげに頷く桐生院さん。彼女がスカウトしたハッピーミークは全距離ダートも走れるという何ともすごい素質を持っており、普通に早い。なにそのチートは。何回かライスと併走させて貰ったのだが中々に早く、うちのライスともいい勝負をする。あれ、そう考えたらうちのライス早くね?

 

 その後は定例の如く、トレーナー間での情報交換をする。内容は当たり前というか、主にウマ娘の話だった。

 

 思春期真っ只中のウマ娘のトレーナーとしては、ある程度流行に知っていなければならない。お互いに他トレーナーの話とか、そういった戦略に関わる話を行わないようにはする。一応敵という扱いにはなるからな。

 

「あっと、チャイムが鳴りましたね」

 

 そうこう話していると、放課後を告げるチャイムが鳴った。ウマ娘にとってはこれから自主練を始める子もいればトレーナーと共にトレーニングを行う子もいる。トレーナーからすればここからが仕事だ。実際に走る担当を見て、今の子にはなにが足りないのか、改善点を考える。

 

「じゃあ、行きましょうか。今日も併走お願いします」

「はい! よろこんで!」

 

 二人揃ってトレーナー室を出る。ここからは担当ウマ娘を探してトレーニングを始めるという作業が入る。が、そこは最新鋭のトレセン学園。各トレーナーとウマ娘には端末が支給されており、連絡を取り合えるようになっている。

 もちろん、ログは全て把握されており、万が一“そういうこと”があっても大丈夫だ。まぁ、そんなことはあまりないと思うが。

 

『ライス、明日は桐生院トレーナーのハッピーミークと併走トレーニングする予定だから、一応心構えはしていてくれ』

『う、うん! ミークちゃんと走るんだね! 負けないように頑張るから、トレーナーさんも見ててね!』

『おう、じゃあ、ゆっくり休めよ〜』

『うん! おやすみなさい!』

 

『トレーナーさん、ターフに着いたから待ってるね!』

 

 と言った昨日のそんな話を最後に書かれているメッセージアプリを見ると新しくそんな一言が乗っていた。いつも到着したらそういう一言が発せられるのでそれを確認し、急いでターフへと向かう。

 

「個人的にはっ、俺の方が先に着いていた方がいいんだけどな!」

 

 いかんせん、俺の方もトレーニングメニューを考えているとどうしても時間がぴったりになってしまう。仕方ないことではあるが、これも新米の欠点ではあるのだろう。走ってトラックへと向かう。

 

 

 

 

 

「あっ、トレーナーさん! こんにちわっ」

「ライスさんのトレーナーさん……こんにちわ」

「二人ともこんにちわ。あれ、桐生院さんはどこへ?」

 

 ターフへと向かうと、既に二人のウマ娘の姿がそこにはあった。一人は外ハネした特徴的な黒髪に、同じく黒いミニシルクハットを被ったライスシャワー。そしてもう一人は、無表情にこちらを見つめているハッピーミーク。白髪に桃色のヘアピンを止めており、その瞳は桃色に光っている。

 

 外見だけ見れば対照的な二人で、性格的にも相性がいいのか懸念していたのだが、トレーナー同士の縁もあって色々話す機会も多いみたいだ。

 

「トレーナーなら……あっ、来ました」

「すいませーん! 少しターフの状況を見てきてました!」

「あぁ、また走ってきたんですね……」

 

 桐生院さんはウマ娘への愛が深い。それに桐生院家としても色々学んできたのか、ウマ娘へのトレーニング場所を決める際には実際に自分も走って危険がないかを確認するのだという。

 俺自身、彼女に付き添う形で森へと向かったのだが、そこでも走っていた。忙しそうなのでリラックスをと思ってやったのだが、むしろ逆効果だったようだ。

 

「大丈夫みたいです。ターフもいい具合に乾いてますよ!」

「ありがとうございます。じゃあ走る前にストレッチとかは……終わってるみたいだな」

 

 桐生院さんから目を離し、ウマ娘たちの方に視線を向けると、既に走る準備満々のようだった。既に顔立ちがレース前の表情へと変わっていたから把握は容易だった。

 

「準備万端、です!」

「……いつでも行けます」

「二人とも大丈夫そうですね!」

 

 ここは公式上のレースでは無いのでゲートといった本番にも使われる物を使うことは出来ないのだが、それでもスタートダッシュのために色々できることはある。ターフ上だったら瞬発力を上げる練習を主にすればいい。

 

 そうこう考えているうちに、既に二人ともスタート位置に着き、スタートの合図を待っていた。先程まで穏やかに会話していた二人とは雰囲気も何もかもが違う。

 初めてこの表情の変化を見た時は、彼女もウマ娘なのかと変な納得を持ったものだ。

 

「位置について、よぉい……始め!」

「「っ!」」

 

 俺の合図とともに、二人は地面を蹴りあげてぐんぐん加速していく。数秒もすればもう100メートルは通過している。

 時速五十キロで走るウマ娘はその小柄な体躯から一体どんな力を出しているのか疑う程には加速力が凄い。今回ライスとハッピーミークが走るのは2000メートル、中距離だ。

 

「今回、ハッピーミークは先行ですか?」

「はい。差しでも良かったんですが、それだと逃げるライスさんを差しきれないと思ったので」

 

 今話しているのはウマ娘のレース展開、言い換えればどの位置にキープしていつ抜け出すかといった作戦についての会話だ。とはいえ、今走っているのは二人なので、実際とは違いのびのびと走れていると思うのだが。

 

 ちなみに、逃げは最初から先頭に立ち、最後まで一着でゴールへと向かう。

 先行は逃げより後ろだが、全体から見れば前の方に陣取り、最終直線前、あるいはカーブの辺りで逃げを抜き去って勝つ作戦。

 差しは後方集団に位置し、ラストにスパートをかける。この際に逃げや先行の子達を追い抜く。

 追い込みも最後に追い抜くが、最後方から一気に大外を抜けて最後に勝ちに来る作戦となっている。

 併走とはいえ、本番さながらの動きはできるので、色んな作戦を考えてライスにはどの脚が合っているのかを決めるために何回かハッピーミークとは走らせてもらった。その結果、ライスには先行と逃げの適性があることがわかった。とはいえ、ライス的には先行の方がいいというし、俺の方も先行の方があっているだろうと考えている。

 

「まぁ、こちらは先行……みたいですね。今回ライスには好きに走るように言ってるんで、どの走りで行くかは分かりませんでしたが」

「えっ、そうなんですか!? 落ち着いた様子で走っているのでてっきり念入りに色々と教えていなのものだと」

 

 まぁ、理論的に勝ちに行くことも大事だとは思う。現にチームリギルのトレーナーである東条さんは理論的にトレーニングを進めているし。

 だが俺としては、ウマ娘には好きなように走ってもらいたい。勝てないかもしれないが、それはどのレースでも同じだし、ウマ娘自身にも改善点を見つけるきっかけにもなる。まぁ、これは持論でしかないのだが、みんなそう言うものだろう。

 

「最後の直線、少しライスが抜け出してるって感じか」

「いえいえ、ここからが、本番ですよ! ミーク! 頑張れー!」

「油断出来ないな、こりゃ……ライス! 逃げろー!」

 

 そんな俺たちの声が聞こえたのか聞こえなかったのかは定かではないが、最後の直線、ライス先頭でハッピーミークが差しにきた。ぐんぐんと距離が縮まっていき、ゴール手前ではほぼ同じ……ライスが少し有利かと言った感じか。

 というか、毎回毎回そうだが、併走中でも俺たちはこうして叫ぶ。応援したいという気持ちが前面に出た結果なのだが、ユウ曰く「珍しいこと」らしい。俺らからすれば応援するトレーナー(お互い)しか見てないので珍しいというよりもそうなのかと納得しているのだが。

 

 若干粘るライスに少しづつスピードを上げていくハッピーミーク。最後の最後までもつれ込んだ状態でゴール。

 ライスがゴールを示す印を横切った時点でタイマーを止め、すぐさまライスの元へと駆け寄る。走りながら同じ理由で走ったのだろう桐生院さんの方のタイムも確認するために話しかける。

 

「2分5秒25……デビュー前にしてはだいぶ速いな。桐生院さんの方はどうでした?」

「2分4秒94でした。やっぱり競い合う相手がいると早くなるってことなんでしょうかね?」

 

 競争心を煽るとウマ娘のスピードは速くなる、とどこかの書籍で読んだような気がする。その効果があるのかないのかは分からないが少なくともいつも走る2000メートルよりは速かった。

 

「お疲れ様、ライス」

「うぅ……ごめんね、トレーナーさん。負けちゃった」

「いやいや、気にするな。ライスもだいぶ早かったし、ハッピーミークとはほぼ誤差だから気にする必要は無いさ」

 

 しゅん、と落ち込んでいる様子のライスの頭を撫で、心配する必要は無いと告げる。ライスの2分5秒もなかなかの早さだ。

 デビュー戦の2000メートルの平均タイムがおよそ2分4秒辺りだ。たった一秒で数十メートルの差がつくウマ娘の世界ではその差は大きいと言えるが、まだデビューまで数ヶ月ある。その間に調整していけばきっと今よりも早くゴールへと駆けることが出来る。

 

「桐生院さん。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございましゅ! ……あうぅ」

 

 どうやら向こうの方も課題点が見つかったようだ。とにかく礼をすると、ライスも次いで礼を……しようとするが噛んでしまったようだ。しかしそこはトレーナー、その様子を微笑ましげに見つめて、礼を返してくる。

 

「はい! こちらこそありがとうございました!」

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 その後は直ぐに解散し、桐生院さんの方は続けてトレーニングを、俺たちの方は俺のトレーナー室へ向かい、ライスにレース展開やアクシデント時の対応について教えたりしていた。ライスは体こそ丈夫だが、それを支えるメンタルがまだ成熟しきっていない。負けることに関して、自分だけだと何も思わないのだろうが、トレーナーがいることで自分だけではなく俺にも迷惑がかかってしまうと思っている節があるようだ。

 

「──だから、先行で仕掛ける時には前の子達の動きや後ろで待機してる子達の様子も見て仕掛けないといけない」

「……ふむふむ」

 

 トレーナー室の机を少し借りて、こうしてワンツーマンでレース展開の話をしていくが、ライスは自頭がいいのか、そういうもしもの時をイメージして動くのが得意で、説明してもすぐに吸収される。その想像力が悪い方向に向かっているのが今の悩みの種ではあるが、無理矢理変える必要もないだろう。

 

「じゃあさ、トレーナーさん。最初からバーッて逃げ続けるって出来るのかな?」

「逃げ続ける、か……まぁ、できなくはないけど、一杯になるのが早くてすぐに後ろから差されると思うな……まぁ、周りに誰もいない状況だからペース配分も難しいだろうし……思いっきり走るのが好きで、逃げ切れるほどのスタミナがあれば、って感じかな」

「じゃあ、ライスには難しいかな……」

「ライスは後ろに待機して、最後に追い抜くのがあってると思うぞ。だから先行にしている節もあるしな」

 

 俺も深い知識を持っているわけではない。精々教習所でいろいろ学んだ程度でしかないので、一人一人性格も脚質も違うこのトレセンではマニュアル通りにいかないことのほうが多い。なので今現在にも色々文献を読み漁り、様々な状況に対応できるようにどうにかこうにかやっていっている。

 

「俺の意見だけどな。ライスは前に誰かが走っている時の方が早い気がするんだよな」

「前に……?」

「そうだ。例えば今日のハッピーミークとのレース。彼女が差しで来ている時と先行でライスの前についている時で、タイムに差がある。しかも毎回そうだし、桐生院さんもそういってたな、そういえば」

「じゃあ、ライスは前の子についてって、それで後ろからグサッと差したらいいんだね!」

「……ま、まぁ。そういうことだな」

 

 可愛げのある笑顔で差すなんて言われたらちょっと怖い。あとその擬音なんだよ、グサッて。差すじゃなくて刺すときの効果音じゃないか……。いや、こんなことで動じてはいけない。一応ひきつってはいただろうが返事は返せたのでいいとしよう。俺も後ろから差されないよな……?

 

「じゃあライスは、差しのほうがいいのかな?」

「それなんだが、多分ライスは先行のままの方がいいと思うんだよな。走り方を急に変えたら色々戸惑うだろうし、ペースのつくりも変えないといけない。ライスは一人をマークして、その一人を徹底的に差す流れに持っていった方がいいと思う」

 

 元々先行でやってきたのを変えるのはリスクが大きい。練習でやっても変な癖が出るとそもそもそれを矯正するのに時間がかかってしまう。興味本位でやるにはリスクが高いと考えた。ライスは俺の話を聞いてうーんとうなっていた。少し難しすぎただろうか。

 

「っと、そろそろ解散した方がいいな。桐生院さんも帰ってくる頃合いだろうし……ライスも少し休んだ方がいいかもな」

「あ、その、そのことなんだけど……一緒に行ってほしいところがあるんだ。……いいかな?」

 

 頃合いだし、そろそろ終わっておこうという時間になったのでいつも通りライスを帰そうとしたのだが、その本人が待ったをかけた。どうやらどこかに行きたそうにしていた。俺としてはいいのだが、いったいどこに向かうつもりなんだろうか……?

 

「まぁ、いいぞ。あんまり遅くならなければ、だけど」

「ありがとう! 前から行こうと思ってたんだけど、何だか恥ずかしくて……行こっ、トレーナーさん!」

 

 頬をかきながら、恥ずかしそうに顔をそむける。俺からすれば、どこに行きたいのか正直分かっていないので、頭の中がはてなで埋まっている。でもまぁ、ライスが自分から俺に頼んでくるのは珍しいので少しうれしく思いながらも、うきうきで歩き出したライスについていくことにした。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

「おっとぉ……ここはまさか。いや、ライスがこれに憧れていたとは、なんか意外だな」

「えへへ……ずっとここが気になってて、でも雰囲気が合わないかなって、少し委縮してたの……でもでも、トレーナーさんとなら、大丈夫!」

 

 ライスに連れられること約数分。トレセン近くの商店街を抜けて、少し歩くと見えてきたのは一つの店。看板には『金船らぁめん』と店名らしきものが書かれている。何だろう、この背筋がぞわっとする感覚は。なんかぴすぴーすする葦毛のウマ娘の顔が一瞬頭をよぎった。知らない記憶なので、そっとじする。

 

「ここの金船盛りラーメンが食べたかったんだ!」

「そ、そうなのか」

 

 いつも以上にテンションが高い様子のライスに少し違和感を覚えながらも、こう年相応の顔もできるのだと感心した俺であった。なんか、ライスを見てるといるはずのない妹を幻視するんだよな……いればこんな感じだったのかもしれない。まぁ、それに近しい子たちと触れ合う機会は孤児院ではよくあったのだが。

 店の中はいたって普通のラーメン屋で、厨房と客席が吹き抜けになっているので、ラーメンが作られる様子が生で見れるようになっている。照明もなんかオレンジ色にまばゆい、theラーメン屋といった雰囲気を醸し出していた。店内には数人のウマ娘しかおらず、その数人も異様な雰囲気で、今か今かとラーメンを待っていた。

 

「お、お邪魔しまーす……」

「へいらっしゃいお客さん! おっ、ウマ娘とトレーナーさんかい? こりゃ珍しい」

「よく分かりましたね……えっと、この子が金船盛り? ラーメンが食べたいと言っているんですけど、ありますかね?」

「……お客さん、まさかこいつの挑戦者ってことかい?」

 

 なんか雰囲気おかしくないか。俺がライスの食べたい金船盛りなるラーメンの名前を出した瞬間人のよさそうな男性の表情が変わったのとともに店内の空気が一変したんだが。というか、あそこでラーメン食ってるウマ娘、トレセンの子だよな、なんで『ふっ、新たな挑戦者か。腕が鳴るな』みたいな顔してんの。オグリキャップってそういうウマ娘だったのか!? いや、疲労感やばいなこの店。

 

「え、えぇ……正確には、こっちのライス……ライスシャワーなんですけど」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「なるほど……いい面構えだ。これなら参加資格はありそうだ……ゴルシの姉御! 出番ですぜ!」

 

 何やら良く分からないが、参加資格があるらしく、店長を呼んでくれることになった。というかなんか聞き覚えのある名前のような気が……? ライスの方を見てみると笑顔を浮かべているので食べれることがうれしいようだが、それとこの話を理解できるのは別問題らしく、笑顔のまま首をかしげて疑問をあらわにしている。なんか面白い様子を見れた。そうこうしているうちに店長が来たらしく、受付というか、厨房に立っていた男性が消えていた。

 

「らっしゃいらっしゃい! ゴルシちゃん印の激うま鮎ラーメンはいかがかね~?」

「それもおいしそう……じゃなくて、金船盛り一丁、ください!」

「なんかテンション壊れてないか……あ、俺は鮎ラーメンください」

 

 鮎ラーメンが何なのか気になってしまった。それよりもライスの様子が気になるのだが、酒でも盛られたんですか? この異様なテンション、初めて見たんですけど。いや、これもまだ俺がライスにとって心を開くほどの人間じゃないということか……まだまだ精進しなくては……。ん、なんかおかしくね?

 

「なんだこの店……」

「はいよ~! 金船盛りと鮎ラーメンいっちょお!」

「野郎ども! 帆を上げろ! 金船のお通りだ!」

 

 物凄い気迫だ……! 流石に人気があるとライスが言っていただけはあり、ラーメン作りには本気なのだろう。確かに、ラーメンといっても千差万別。だしの取り方一個とってもその種類はずばり無限大にも広がる。豚骨代表白湯スープと奥深い清湯スープと、大まかに分けるとこの二つに絞られる。人気ということは、王道の味なのか、ユニークなのか色々考えるが、その考えは一瞬で消え去ることとなる。

 

「よーし行くぞ! 金船参号出航だ!」

 

 そういって店奥から出してきたのは……船だった。黄金に塗装されている船だった。勿論、スケールは小さいが、明らかに食器として使うサイズ感ではない。大の大人が両手で抱えて汗をかいている。いや、でもさすがにそこまで重くはないだろう。そこまで大きいわけではないはずだ。いや確かに刺身とかだと船に盛り付けるものもあるというが、ラーメンでそれを再現するというのか……!

 

「奥深い……のか?」

「わぁ……」

 

 ライスはどこか感激したかのように感嘆している。いや、感嘆するとこなのか。もうなんかわけわかんなくなってきた。スピカのトレーナーを呼んできた方がいいのかもしれない。目の前にいるゴルシの姉御もとい、ゴールドシップはスピカの最古参だしな。なんでラーメン屋を経営しているのかは謎だが。

 

 

 

 

 

 もうなんかそれ以降のことはよく覚えていない。なんか鉄板とか、アルコールとか永福町大勝軒系とか、意味不明な単語が行き交ったような気もするが、覚えていないったら覚えていない。なんというか、いろんな意味でカオスな店だった。途中で謎の寸劇が始まったときとか、失神しそうになったものだ。しかも鮎ラーメンはおいしかったのが癪ではある。別の意味で胃がもたれるような店だった。というか、ライスは結局金船盛りを食べたのだろうか? 途中からゴールドシップのペースに乗せられて自分のことしか集中できなかった。

 

「はふぅ……しあわせぇ……」

「まぁ、別にいいか」

 

 俺の背中で幸せそうに寝息を立てるライスのそんな声を聴く限り、悪いものではなかったのだろう。食べることに全神経を注いでいたのか、俺が会計をしている間、ライスが眠っていたので、こうして負ぶって帰ることにした。時間はまだあるので、後でヒシアマゾンに引き渡して、俺も休むとしよう。

 

「なんだかんだで、面白い店だったな」

 

 もう二度と来たくはないが。とりあえず、トレーナー達が全員入っているメッセージグループに『ウマ娘の経営しているラーメン屋を見つけました。興味のある方は是非』と連絡を回しておいた。もちろん位置情報付きで。

 これでまた(金船ラーメン店が)救われるな。トレーナーたちには犠牲になってもらおう。なんかむしゃくしゃしたし。

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