漆黒のウマ娘と孤児院のお兄様(トレーナー) 作:ライスのお兄様(自称)
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ライスとのトレーニングは主に放課後と週末に行われる。学業をしながらという関係上、どうしてもその時間しか取れず、ライスには学生らしいことをあまりしていないのではないかと心配になっていた時期もあったが、ハルウララという陽気で明るい友達もいるらしい。そのハルウララとの思い出はとても楽しそうに話していたので、余計な心配だったと思ったものだ。ウマ娘である前に、一人の思春期の少女なので、青春は謳歌してもらいたいと思っているのは俺だけだろうか。
「よし! 徐々にだけど、よくなっているぞ。この調子だと、来週にはいい感じに調整していけそうだな」
「やったっ。トレーナーさん、ありがとね」
つい先ほどまで2500m走っていたとは思えないほど穏やかな表情で笑みを浮かべるライス。調整は万全、作戦も決まった。あとは来月に迫るメイクデビューに備えるだけだ。
懸念があるとすれば、模擬レースでのことだが……今それを話してライスに変に気負ってほしくはないので、今は黙っておく。
このペースを保っていけば、ひと先ずはデビューで好成績を獲れるだろう。あとは同じく有力候補にぶつかることがないかを懸念するが、それについては今考えたところでどうしようもない。
「今日はここまでにしておいた方がいいかもな」
「……? ライス、まだまだいけるよ?」
こちらを見てまだまだいけるという旨のことを言うが、俺としては少し休ませた方がいいと考えた。この先は最終調整段階に入り、一番大切であるメイクデビューへ向けた作戦などを立てていかなければならない。それをするのは俺の仕事なので、単純に俺の睡眠時間が減るだけで済む。だいぶきついが、ここが俺にとってもライスにとっても正念場だろう。
「まぁ、念には念をだ。俺の担当になってからもう三か月と少し、そろそろメイクデビューも始まるし、体は思ってる以上に疲れてるもんだぞ」
ライスはここ数ヶ月。それこそ、俺に出会ってからずっとトレーニングを頑張ってくれた。ライスが大丈夫と言うので甘えてきたのだが、流石に疲労も見られるので休ませた方がいいとは判断した。
先ほどから言っているメイクデビューとは、トゥインクルシリーズに参加するウマ娘にとって、文字通りのデビュー戦となる。ここで一着をとらないと重賞……上のグレードのレースに出ることが出来ず、未勝利戦で一着をとらないといけなくなる。
つまるところ、九人中一人しか上に行けない仕組みはここでかなり振るいに落とされる子が多いということだ。言い換えればここでギブアップしてトレセンを去る生徒も少なくない。トゥインクルシリーズの裏にはウマ娘たちの壮絶なストーリーがあるのだ。勝ったのなら、その人たちの分まで頑張らないといけない。そういう世界なのだ、ここは。
「なら、もう一周だけ、走ってもいいかな? 距離は短くてもいいから」
「……まぁ、良いか。本番を考えるなら2000だけど……1800で行こう。一応タイムは計るけど、本気で走らなくても」
「うぅん。その距離だったら、本気で走るよ。私がどれぐらい早くなったのか、知っておかないと、だから」
今はまだ決まっていないが、ライスはステイヤー、長距離が専門の走りをしている。初めて目にした時の彼女のスタミナもそうだったが、驚くべきはその根性。二時間もぶっ通しで走り続けるなんて、並みのウマ娘ではできないだろう。彼女の脚も、徐々にスピードが上がるスロースターター的な特性も持っているし、出るのは中・長距離がメインだろう。
しかし、メイクデビューでは長距離のレースは存在しない。長距離のレースは大抵の場合重賞……G3辺りから出てくることが多い距離なのだ。だからメイクデビューでは先のスタミナのことも大事だったが、スピードを優先してトレーニングを積んできた。
「そうか。無理はせずに、だからな」
「うんっ!」
念を押しておく。ライスはその見た目に合わず中々無茶をするので、神経質にもなる。一応警告だけしておいて、後は放置している俺も俺なのだが、彼女が頑張りたいというのなら助けたくなるというのもあながち間違っていないと思いたい。
俺はターフの外側、ライスは内側に向かって歩き出した。俺は先んじてゴール地点につく。ここから声を張り上げてスタートを知らせる。かなりの距離が離れているが、この時間帯のこのトラックには人がいないので、声は通りやすいはずだ。
「よぉい!」
手にしたストップウォッチごと右手を掲げ、ライスに見えるようにする。そうすればライスは体を低くしてスタートを待つ。
「──スタートッ!」
「……っ!」
手を振り下ろした瞬間、地面を蹴り上げる音と同時にライスは駆け出した。何度見てもこの急速な加速具合は見てて驚くものだ。意識の範囲外から急にこのスピードでこられたらそりゃ驚く。
「……やっぱり、早いな。こりゃ」
手にしたストップウォッチを見ると、前半三ハロン(600m)で36秒31。デビューを終えたウマ娘の平均がおよそ37秒なので十分早いと言える。しかしまだ前半三ハロン。ここでペースを上げすぎても最終的には落ち着くだろう。しかし、ライスのスピードは落ちる気配がない。
「カーブは……どうだ」
このトラックのカーブはスパイラルのように特殊なカーブではなく、カーブが一定続くようになっている。つまるところ半円を描くようにカーブが作られているのでどうしても小柄でスピードの早いウマ娘は遠心力に引っ張られ、危険が多い。だから大抵はスピードを落として通るのが安定。
「ふぅ……」
だが、ライスはスピードを一切緩めず、カーブに侵入した。そうした場合、外に大きく膨らむのだが、ライスは小さな体躯を傾け、内側に倒れ込むようにして走る。
これはライスが対カーブでの扱いで見つけたもので、初めて見た時は危険すぎると思ったのだが、彼女の知識とそれを可能にする身体能力がそれを身につけていた。曲がりきれたことに少なくない安心感を抱きながらも、ストップウォッチとライスの位置を確認する。
そのおかげで、ライスにとってカーブは得意分野に入るようになった。カーブを曲がり、さらに加速していく。ライスの顔が気迫に満ちているのが遠目からでもはっきりと分かる。俺はその表情から目を離さずに、真っ直ぐ見すえる。
「上がり三ハロン……33秒62……」
早すぎる。一応中距離とマイルの境目ぐらいの距離だが、どちらかというとマイルよりの距離。長距離適性のあるライスが走るには少し難しいのではないかと思ったのだが、そうでもなかった。
参考データとして渡された資料によれば、1800m上がり三ハロンのデビュー当時のタイムの平均は34秒ほどだ。レース場で実際にこのタイムを出せばかなりいい具合に入るのだろうが、それは駆け引きなしで、相手の妨害も何もない状況での話だ。だが、まぁでも何もない状況でもこれぐらいのスピードを維持できているということはいいことではあるのか……?
「……っと、今は考えてる場合じゃないか」
今は自分の知識の無さを悔やんでいる場合などではない。今は目の前で懸命に走っているウマ娘を見届けることだけだ。そんなどうでもいいことを考えていたのか、すでにライスは最後の直線へと入っていた。今回のターフの最終直線は400m程、中京レース場と同じくらいの長さ。
先行や逃げのウマ娘は、差しや追い込みのウマ娘に比べれば最後の末脚は発揮しずらい。が、それでも早いことに変わりはなく、少しスタミナに余力を残したままゴールである俺の真ん前を通り抜けた。
「1分50秒1か……まぁ、まだスタミナに余力はあるだろうし、距離がもっと長ければ早く抜けれたかもな」
距離が延びるということはタイムも伸びるのだが、そのタイムの伸びの差が短くなるのは明らかだろう。
「ライス、お疲れ! 50.1だ。大分早くなってるぞ!」
「そ、そうかな……えへへ」
ライスの頭をぽふぽふと撫でながらそう告げると、ライスは嬉しそうにはにかんだ。彼女からしてもいいリフレッシュになったのだろう。走る前と比べて表情も和らいでいた。
「じゃあ後は解散とするけど、部屋の中でも柔軟とかしてケアを忘れないようにしておいてくれ」
「う、うん! お疲れ様ですっ、トレーナーさん!」
ライスが走り終えた後、俺はやらなければならない用事もあったので、後ろ髪引かれる思いで自室へと帰っていった。チラリと後ろを見た時にライスはこちらに向けて手を振っていたので一瞬止まってから大きく手を振り返すと遠目で彼女が笑った気がするのでよしとしよう。
辺りはすっかり暗くなっていて、こんな時間に一人で帰すのはどうなのかとも思うだろうが、寮とここは近いのでそんな心配はないだろう。
そうして自室……つまりはトレーナー用の寮へ戻るためにはターフへと向かう道の逆方向へと進まなければならないので、本校舎前の大広間は通らなければならない。
本校舎から見て右には俺が先ほどまでいたターフや広間などがあり、左に行けば名物である大樹のウロや職員室やトレーナー寮など、主に職員用の設備が多くある。チームの部室のような部屋もこっち側に点在している。大樹のウロには深夜にもそこでストレス発散というか、レースでの悔しさを吐き出しに来るウマ娘もいるのだという。
そんないろいろな場所へとつながっている十字路のような本校舎前の広間で、俺は珍しいウマ娘を発見した。知名度であればここだけでなく日本でも深く名が知れ渡っているウマ娘。道は自ら切り拓き、生徒会長にして無敗の七冠バであるまさに皇帝。
「お、シンボリルドルフ。こんばんわ」
「おや、神木トレーナー。こんな時間までご苦労だね」
「……その言葉、そっくりそのまま返すよ。毎日この時間に帰っているのかい?」
シンボリルドルフ。この学園の生徒会長であり、走りにおいても圧倒的で「レースに絶対はないが、このウマ娘には絶対がある」とまで言わせるほどだ。そんな彼女の生徒会長としての仕事は常軌を逸しており、俺たちトレーナーよりも働いているのではないかとまで言われる程の仕事量だ。その証拠に、今もこの時間に制服で帰る間際、といった具合だろう。
「いや、エアグルーヴたちに流石に働きすぎたと灸を据えられてね。私としては孤軍奮闘できるのだが……流石にあそこまで言われては仕方ないと、帰ることにしたのだよ」
「孤軍奮闘って……お言葉だけど、エアグルーヴたちにも頼ってあげた方がいいと思うけどね。俺としては、体も休めておかないと明日に響くし、何より体に悪い。ウマ娘は選手寿命が短いんだから体はより大事に……って、これもおせっかいか。すまん、忘れてくれ」
流石にいきなりそんなことを話されても困るだけだろうと感じ、撤回して謝罪した。ほぼ初対面のトレーナーにいきなり生活習慣を見直せなんて言われても変に思うだけかと、少し考えていると、くすっと笑い声が聞こえた。驚いてシンボリルドルフの方を見ると、笑みを浮かべていた。すぐさま笑みはなくなり、いつものシンボリルドルフに戻ったのだが。
「いや失礼。先ほどエアグルーヴにも同じことを言われてね」
どうやら、先ほども副会長に同じことを言われたらしく、それがデジャヴュったのだという。っというか、やっぱり体を休めておけとか言われていたのかよ。やっぱり働きすぎじゃないか、この子。
「……エアグルーヴも大変そうだ。生徒会長殿は思ったよりも頑固そうだしな……っと、俺は先に失礼するわ。これからも仕事があるんでね、では!」
「ふっ、働きすぎなのは君の方じゃないのか? 君はもうずっと……」
気が付けば話していて、時間を忘れていた。少しでも無駄にしたくないので急いでその場を後にする。その間際、そんな言葉が聞こえたような気もしたが、気のせいだろうと割り切り急いでトレーナー寮へと走り出した。
ウマ娘に比べると俺の走る速度なんて遅いんだろうけど、それでも俺にとっては全速力で走る。
「えっと、まずはメイクデビューでのライバル確認だろ。次にそのライバルの脚質と対策……あぁ、次のライスのトレーニングも考えないと……それやるならあれだ、ライスに足りないものとかを補うためのトレーニングを……」
走りながら色々考えていく。正直いって今日はオールになりそうな気もする。今までは三時辺りには眠れたのだが、俺の要領も悪いし効率良く処理が出来ていないので一個一個にかなりの時間がかかってしまうのだ。
なら出来るまで時間をかけるしかない。一応ウマ娘たち学業に専念している時も働けるっちゃ働けるんだが、それよりは他に動いているトレーナーと連携を取って併走とか情報交換みたいなことをした方がいい。だからどうしても深夜に時間を取るしかなく、俺の睡眠時間が減るというわけだ。
「よし、着いた」
そうこうしているうちにトレーナー寮へ到着した。ウマ娘たちの過ごす美浦寮や栗東寮とは違い、若干小さいが、そもそものトレーナーの母数を考えれば仕方ないことだ。
っと、考えてる暇も勿体ないか、とにかく自室でまた作業を始めなくては。
「まずは出走予定の子から……」
その後はライバル確認から始まりレース展開の予測やトレーニング内容、未勝利戦でのスケジュールと重賞戦でのスケジュールの両方をまとめていた。もちろん、トレーナーに義務付けられている日報の作成も欠かさずに行う。
「……まだ二時か、まだ他のことも出来そうだな」
思ったよりも捗ったので、少し調子に乗りつつも別の作業も両立して行っていく。主に今世代主力メンバーの確認をするだけでも次の仕事でかなり楽になるだろうし。
「トウカイテイオーにメジロマックイーンか……中距離長距離と隙がないな、スピカのとこは」
トウカイテイオーは主に中距離を走り、その加速力や末脚にも目を見張るものがある。踏み込みで加速するということは膝が柔らかいということ。既にクラシックは終えているのでクラシック三冠には出走は出来ないが、それでもそれ以外の階級のないレースでは当たることも多くなるかもしれない。
メジロマックイーンは主に長距離で、ライスとレースが被ることが多くなりそうな一人だ。名門メジロ家出身というだけあり、気品に満ちた仕草と負けず嫌いな性格から、レースに対しては非常にストイックにこなす。祖母からの悲願である天皇賞連覇を目指す。
他にもメジロパーマーやマチカネタンホイザ、イクノディクタスにミホノブルボンと、正直いえばかなりきつい世代になるだろう。だが、今年のクラシックに出るのはミホノブルボンとマチカネタンホイザだけ。だけとは言っても他にも多くの有力バが出るので油断も何も無いのだが。
「やっば、こういうの見るのだけでもかなり楽しいな」
ライスがクラシック三冠に出ると決めた訳では無い。今やってる事はこれからライバルになるであろうウマ娘たちのデータを頭に叩き込んでいるだけの作業。
ただミホノブルボンはどちらかと言うとスプリンター、短い距離が得意だという印象を受けた。今は黒沼トレーナーの元でスタミナ増強を行っているのだという。それは彼女のクラシック三冠を勝ち取りたいという意思の元にある。
「ここら辺も、ライスの意向を聞かないとどうしようもないな」
それ以前に、メイクデビューで勝利を上げてさらに重賞レースを一回一着取るぐらいじゃないとクラシックには間に合わないしな。まずは先ではなくて目前のことから片付けていかなくては。
「よし、もう少しだけ頑張るか!」
眠気を覚ますために頬を叩き、再びPC画面へと集中する。そうしていると徐々に眠気がピークになってきており、気がつけば眠っているというケースが多い。多分今日もそうなるんだろうなと直感しながら、作業を進めていった。
──────────
「……んっ」
鈴虫か何かは分からないがジージーとやけに耳障りな音が耳に届き、意識が突然現れたのを感じた。
「うぇ、また寝落ちしてるし」
ぼやけた頭で周囲を確認すると、電源は落としていたのか、ノートPCは折りたたまれており、そこを枕にして眠っていたようだ。小型テレビの上にかけられている掛け時計を見ると時刻は6時半になろうかというところ。
「もうこんな時間か、さっさと行かないとな、今日は……あそこか」
端末を開き、ライスとのメッセージを確認すると、ここからほど近い公園周辺の土手で自主トレをしているのだという。あとから聞いた話だが、俺と初めて会った時もこの自主トレの最中で、運の悪いことに信号に全て引っかかるというミラクルを起こした結果だという。
運が悪いというか、逆に運がいいのではなかろうか。そう思ってしまうのは俺だけかもしれないが。
「さくっと行ってきますかー」
ぱっぱと準備を整え、向かうのは自主トレをしているライスの元……ではない。何度か行ったことはあるが見られるのが恥ずかしいという何とも思春期らしい? 理由だったのでなんか微笑ましげにしつつもその場を後にし他の月位この間の話。
とまぁそういう理由なので今は単純に朝食を作るための材料を買いに行くことにする。
「よぉ」
「あれ、沖野さん? どうしましたか?」
自室を出ると、そこに居たのは髪を後ろにまとめているハンサムな青年だった。いつ見てもラフな格好で学園内を歩いているのである意味目立つトレーナーでもあるのだが。
「いやなに、少しお前さんに用事があってな」
「用事、ですか?」
何なのだろうか? かのスピカのトレーナー直々に用事があると言われても、特に思い当たる節が無いのだが。
「あぁいや、別に嫌なら嫌で結構だがな……少し聞きたいことがあるんだ」
「は、はぁ……」
なんだろう、この嫌な予感は。なんか金船ラーメンの一件が頭をよぎったのだが……多分違うよな? 沖野さんの後ろにちょっと白い髪が見えるけど、それゴールドシップじゃないよな?
「金船ラーメンって、っておい逃げるな!」
「俺は何も知りませんよ! ですので逃げます!」
「お前が来ないと俺も困るんだって! 仕方ない、最終兵器だ! お前らいけぃ!」
「「「「いえっさー」」」」
その単語が聞こえた瞬間に俺は走り出した。もしかしたら条件反射というものだったのかもしれない。ふと、ライスにもこの経験が活かされるのではないかと考えたが、そもそも今俺が生き残れるのかが分からないので却下だ。
「待て待てぇい!」
「ごふっ」
後ろから衝撃が届き、すぐさま麻袋のようなものに詰め込まれた。え、何が起こったの? 一瞬すぎて気づいたら麻袋の中にいたんだけど、何このマジック。
「トレーナー、ゲットだぜ!(ぴっぴかちゅー)」
「……え、何これ」
「何これ、じゃないですよ! 貴方が差し向けたんでしょうが! さっさと解放してください!」
「お、おう。お前ら、もう帰っていいぞ」
「……報酬は、例の口座に入れて置いてくれ」
訳の分からないセリフとともに、拘束(麻袋)が解かれ、視界に光が差した。こうしてみると、改めて自然の偉大さを感じる……
「と、いきなりすまねぇな。いやなに、単純に感想が聞きたかっただけだよ。あの店のラーメンが」
「……はぁ、美味しかったですよ。スープのコクも効いてたし、ライスも美味しそうに食べてましたし」
最後のは実際に食べたのを見た訳では無いが、帰りには楽しそうにしていたので多分美味しかったのだろう。鮎ラーメン、機会があればまた食べたいと思う。出来ればあの店のクレイジーさを除けたあとで。
「っていうか、場所も連絡網に入れましたし、行きたければ行けばいいじゃないですか 」
「いやぁ、それもそうなんだがな。俺もよくわからん」
「えぇ……」
まぁ、なんか芦毛の怪物に言われたんだろう。彼も彼で大変なのかもしれないと思った瞬間であった。
「お詫びになんか奢ってくださいね」
「え……今金が無くてな、すまね」
「えぇ……貴方大規模チームのトレーナーでしょうに」
「大規模だからこそ、色々金使うんだよ……主に食費」
「あぁ……スペシャルウィークでしたっけ、よく食べますよね。あの店でも見ました」
「あいつあの店の常連なのかよ……」
先程よりも一層頭を抱えている沖野さんをみて、同じ人間なのだなと、謎の共感を得たのだった。出来ればいつか飲みに行きたいものだ。