漆黒のウマ娘と孤児院のお兄様(トレーナー)   作:ライスのお兄様(自称)

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はい。二度目の一章五話投稿でございます。
うっかりミスが多くてうっか凛なんですが、別に作者は遠坂でも凛でもないので悪しからず。

では再び見た方は特に変更点ございませんので、話の内容を忘れてしまった方以外は見なくても構いません。

今回はほんっとうに、すいませんでしたぁぁぁぁぁあ!!


五話 唐突の来訪

「バクシンバクシンバクシンシーン!」

 

 別校舎のとある空き部屋。時間関係なくここに生徒が来ることは殆どなく、そこで俺とライスは皐月賞に向けたスケジュール管理や本人に聞き取りをしていた。そんな中で一人のウマ娘がものすごい勢いで教室の扉を開けて教室内へと入ってきた。

 そのウマ娘の名は、サクラバクシンオー。茶髪にポニーテールのウマ娘で、学級委員長だ。彼女の口癖であるバクシンは、主にバクシンする際に用いられる場合が多い。しかしそれ以外にもバクシンしたいときはやバクシンしなければならない場合にも用いられる。つまり、いつ来るか分からないということだ。

 

「ひゃっ! えっと、バクシンオーさん?」

「あれ? ここにいたんですかライスさん!」

「サクラバクシンオー? ライスに何か用事か?」

 

 あまりの轟音にびっくりしたライスの耳がぴんと立ったまま動かなくなってしまっている。いや、俺も内心かなりビビったけど。いきなり突撃してきたからにはそれなりの理由があるのかもしれないと考え、ひとまずは何があるのかを聞くことにした。

 

「いえ! 特に用事はありません! ただ、ライスさんの様子が気になったので見に来ました!」

「様子……?」

 

 わざわざ見に来たってことはライスの身に何かあったとか……? そう思いライスの方を見るが、こっちに気づいたライスはフルフルと勢いよく首を振って否定している。じゃあ、それこそなんで来たのだろうか。

 

「はい! ライスさんと一緒に長距離を走りたいと思いまして!」

「それが、様子を見に来たってことか?」

「はい!」

 

 勢いだけはすごいのだが、さっきから言っていることが全く分からない。まだ脈絡がつかめる(?)ゴルシの方がまだマシだった。ただ、ライスを心配してのことなのは確かなようだ。ライスもそれを受け取ったのか、小さく笑みを浮かべる。

 

「お兄様、バクシンオーさんと一緒に走っても、良いかな?」

「……まぁ、ライスがそうしたいなら、良いよ」

 

 俺からすれば特に止める理由もないので承認することにした。俺自身もバクシンオーの走りは見てみたいしな。話を聞くところによると、彼女は生粋のスプリンター……つまりは短距離を専門としているらしい。その走りはまさにバクシン。短距離逃げで駆け抜けるサクラバクシンオーは、見る者を圧倒する。……まて、さっきそのバクシンオーはライスとどれぐらいの距離で走るって言ったんだ?

 

「じゃあ、一緒に行こう。お兄様」

「はい! ライスさんのトレーナーさんもバクシンしていきましょう!」

「ちょっ、サクラバクシンオー!? お前ライスと長距離で走るって言ったか!? 君はスプリンターなんだろ?」

「バクシンバクシーン!!」

 

 呼び止めたが、俺の声など一切聞こえていない様子で、走り去っていった。どたどたと廊下を走る音が聞こえるが学級委員長が廊下を走るとか校則的に……あぁ、この学校廊下を走ることを推奨してるんだった。何言ってるか分からんと思うが俺も何言ってんのか分からなくなってきた。とりあえず言えることは、トレセン学園では廊下を走ることが推奨されているってことだけだ。

 

「えっとね、バクシンオーさん、全部の距離を走れるようになりたいんだって。……すごいなぁ、ライスも頑張らないと……!」

「……いや、ライスはライスに出来ることをやっていけばいいよ、うん」

 

 全距離走れるウマ娘なら知り合いに一人いるのだが、彼女……ミークを紹介したらそれはそれは厄介なことになりそうなので俺は何も関与しないことにする。既にもう手遅れなのかもしれないが。

 後ライスは変なところでやる気はいるよね。いや、悪いことじゃないし寧ろやる気を持てるのはいいことなんだけど……もちっとそのベクトルを他の方に向けれないかなぁとは思っているが、うん。

 

 数分でとんでもない満足感を与えて行ったサクラバクシンオーを追うべくライスとともにターフへと向かうことにした。

 

「来ましたね! ライスさん!!」

「やっほー! ライスちゃん!」

「……どうも、ライスさん……トレーナーさんも一緒ですか」

「どうもー、お散歩した時以来ですねー」

 

 ターフに出た俺は、絶句した。そりゃもう盛大に絶句した。盛大に絶句とかいう意味不明な表現が出るくらいには絶句していた。そこにいたのはバクシンオーだけでなくウララ、ハッピーミーク、セイウンスカイの四人が揃っていた。何でこうなった。

 

「こ、これは……何がどうしてこうなった……?」

「はい! ライスさんと一緒に走りたい人を募集したのです! 私の学級委員長パワーのおかげで四人も集まりました! えっへんです!」

「み、みんなライスと走りたいの……?」

 

 その言葉に頷いていく五人。ウララは単純に走りたいのだろうし、スカイは情報を集めたいんだろうってのが何となくわかる。ただ、ミークはどうしてだろうか。単純に走りたいだけ、とは言いずらいし……そもそもバクシンオーの理由は未だにわからん。

 

「……なんだか、うれしい、な」

「ライス……」

 

 ライスがポツリと、近くにいた俺にしか聞こえないほどのボリュームで、そうつぶやいたのを見て、俺の心に熱いものが浮かぶ。こうして、はっきりと自分を認めてくれている機会がなかったのかもしれない。だから、彼女はこうも喜んでいるのではないだろうかと、そう思わせるほどにその表情は嬉しそうだった。

 

「よし! 走るんだろ? だったらタイム計測は任せとけ、全員分まとめて計ってやるよ!」

「お、言ったねー? セイちゃん頑張っちゃうぞー」

「私も精いっぱいバクシンしていきますよー!」

 

 相変わらず共通点をあんまり見られない面々ではあるが、ライスもうれしそうにしているのでまあいいとしよう。走るのは芝の2500m。バクシンオーの要望で長距離がいいということだったが、全員に許可をもらって走ることにした。あまり負担がかからないように、無理だけはしないように全員に言い含めておく。俺のいる前で何か後遺症が残るようなことがあればいけない。万一にもそういうのは止めるのが最低条件だということをきっちり言っておく。

 

「よっし、じゃあ準備はいいか……よーい、スタート!」

 

 そうして駆け出す五人のウマ娘を見て、俺はストップウォッチのボタンを押した。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

「楽しかったね!」

「そうか……ならよかったよ。うん」

 

 走り終わった後にこちらへと駆け寄ってきて笑顔でそう言ったライスを見て俺は頷くことしか出来なかった。いや、最初の方は楽しそうに走れていたとは思うんだけどね。1800超えたあたりからウララとバクシンオーがどんどん垂れて行ったし、残った三人は結構ガチンコ勝負みたいな感じになってたし、思っていたのとだいぶ違かった。ま、まあ何度も言うように彼女らが楽しそうにしているなら何よりだ。

 

 結局、休み休みで色々おしゃべりしながら走ったりしている彼女たちを見て、やはりウマ娘というのは走るのが本能的に好んでいるというデータはあながち間違っていなかったのかもしれない。

 

「はぁ、疲れたなー。でもまぁ、中々いいものを知れてセイちゃん大満足ー」

 

 ググッと伸びをしながらスカイは爽やかな笑みを浮かべる。どうやらこうして走っている間にも情報収集をしていたようだった。ただ、スカイと実際にライスが走ることはあまりないとは思うのだが……

 そう考えた時、俺が思ったのはデータはやはり多い方がいいのかもしれない、ということだった。俺も、ライバルたちのデータだけを集めるのではなく、様々なタイプのウマ娘たちの特徴を分析していき、最終的には各タイプ毎の傾向と対策を知っていくことができれば、様々な対応ができるだろう。

 

「疲れたぁ……でも、ライスちゃんと走れて楽しかった!」

 

 真っ先に垂れたことから、ウララは根本的にスピードが足りなかったのだが、当の本人はそのことについて特に思うこともないのか単純に楽しかったと、そう結論づけているようだった。まぁ、それがウララというウマ娘の本質なのだろう。楽しく走り、周りを笑顔にする。ライスの目標である、()()()()()()()というのを一番達成できているウマ娘なんじゃないかと思った。

 

「バクシーン……」

「……鳴き声かよ」

 

 仰向けで倒れ込んでそう言っているのはもちろんサクラバクシンオーだ。彼女に至ってはそもそも適正距離があっていなかったのでこちらとしてもアレがバクシンオーの本気だとは思っていない。ただ、結局何故ライスを誘ってこんなことをしたのかは最後まで分からなかった。

 意味が分からないランキング上位に入りそうなものだ。ゴルシ? あれはまだ理解できなくもないだろ。バクシンオーはもはや語彙によるコミュニケーションを失っている気がしてならない。心配だ。

 

「お疲れ様でした。ライスさんのトレーナーさん」

「あぁ、お疲れ。ミークはどうしてこの会? に参加しようと思ったんだ?」

「そうですね……ライスさんと走りたかった、ではダメでしょうか?」

「いや、それでいいと思う。ライスも喜んでいたようだし、助かった」

「……そうですか。なら、良かったです」

 

 ミークも、色々走りながら学んでいっており、最終的にはスカイやライスを抑えつつの勝利を迎えることができたり、長距離走におけるノウハウをどんどんと学んでいったようだ。

 走りながら改善していくのはおそらく彼女が全距離を走れることにもつながっているんじゃないかと思う。距離によってスパートのかける場所や加速具合が全く違ってくるのは当然として、ほかのウマ娘とのかけ引きも変わってくる。それを彼女は吸収力という武器を使って自らの物にしてきたのだろう。

 

「それじゃあ、せっかくお会いしたんですし、みんなでご飯食べにいきましょうか?」

「おー! いいですね! みなさんの親交を深める意味でも、是非行きましょう!」

 

 その話を聞いて初めて日が暮れ始めていることに気がついた。確かにもう時間的にもそろそろ晩御飯に行かなければならないというのは本当のことだろうし、確かにそろそろ俺も腹が減ってきた。

 トレーナーである俺が学校の食堂に行くことについては特に規制はされていないが、流石に大勢の女性(ウマ娘)の前でまともに食事を食べる自信がないので、いくとしても女性トレーナーが担当と連れ添って食べたりということはあるらしいが。

 

 ライスたちは連れ添って食堂へ行き、晩御飯を食べるのだろう。俺としては今日のみんなの走りを見て色々学ばなければいけないことも見つかった。さっさと自室に戻って忘れないようにまとめておかないといけない。

 

「ねぇ……お兄様、ちょっと、いいかな?」

 

 そのまま彼女らを見送って解散と言う流れかと思ったのだが、ライスは違ったようでこちらをのぞき込むようにしていた。

 何やら気になったことがあるのか、ライスは言いづらそうにしていた。

 

「ん、どうかしたか?」

「あの、ね。ライス、お兄様と一緒に、ご飯食べたいな……」

 

 数瞬置いて、そう告げたライスの表情は俯いているからか、よく見ることが出来なかった。ただ、俺が食堂に行くというのも何か違和感が凄い気がしてならない。

 その俺の葛藤に気づいたのか気づいていないのか、唐突にセイウンスカイがじゃあさ、と切り出した。

 

「トレーナーに奢ってもらえばいいじゃん? トレーナーさんも一緒には食べたいんでしょー?」

「そりゃまぁ、そうだけどさ……」

 

 俺がこうして言い淀んでいるのには理由がある。と言っても深刻というわけではない。単純に食費が足りるのかという懸念だし……いや、足りる、のか?

 スカイは周りに聞こえないように囁いてくる。スカイは囁き戦術が得意というのは本当だったのか……ウマ娘の聴力を用いてもギリギリ聞こえない程度の音量で話すという高等テクを用いて、スカイは続ける。

 

「ほら、折角ライスちゃんが勇気をだして誘ってくれてるんだから……トレーナーさんとして、ね?」

「怖い怖い。そう言われなくても行くから。それで奢ればいいんだろ」

「さっすがトレーナーさん。頼りになるー」

 

 ひゅーひゅー、と上手いのか下手なのか分からない口笛を吹きながらそんなことを言ってくる。なーんか乗せられた気がしてならないんだが、まぁこれもトレーナーの役割、か?

 

「トレーナーさんがお食事奢ってくれるみたいですよー。一緒に商店街に行きましょー」

『わーい!』

「うわすごい団結力」

 

 スカイがそう告げるとみんな揃って嬉しそうに手を挙げていた。バクシンオー、さっきまで倒れてたよな? 何故にそんな元気になっとるんや……。というかミークはそんなキャラじゃないだろ。

 

 考えるだけ無駄だということは分かってはいたがそう思わずにはいられなかった。ウマ娘の食欲と脚力には気をつけろとスピカのトレーナーも言っていたような気がする。

 

「はぁ、お手柔らかにな」

「うん! ありがとね、お兄様!」

「……まぁ、いいか」

 

 そうして、俺&五人のウマ娘で一緒に食事に行くことにした。もうなんか未来が見える気がするのだが、今はそんなことを考えるのはやめておこう。財布の心配よりも担当の笑顔だろう。と、現実逃避だかなんだか分からないセリフを思いつきながら、俺はウマ娘たちに引っ張られて商店街へと繰り出すことになった。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 そうして到着した商店街は遅い時間にもかかわらず賑わっており、物理的にも人々の往来という意味でも明るい場所だった。トレセン学園付近にあるこの商店街には人だけでなく、ウマ娘も多く訪れている。ただ、この時間帯だとウマ娘のほとんどがトレセン学園や自宅等に帰っており、今の時間帯にいるウマ娘というのはかなり珍しい。

 

「お兄様! 中華店だって」

「わぁ! なんかすごいキラキラしてるー!」

 

 『金船中華』と書かれた看板の前ではしゃぐウララとライス。性格は正反対だが、その性質は似通っているのだろう。ライスもウララといる時は楽しそうにしているし。っていうかそのお店はやめときなさい? 金船って名前にはちょっとトラウマしかないから。

 

 商店街を歩くとどうしても視線がこちらへと寄ってくる。ウマ娘自体は珍しくはないだろうが、こうして大勢が一気に来ると珍しいのだろう。はしゃいでおり俺の前にいるウラライスの二人と俺と同じ速度で歩いていくスカイとミーク。バクシンオーはと言うと……

 

「とっても美味しそうな人参ですね! 学級委員長として、常時学校へと送っておきたいくらいです!」

「お、嬢ちゃんいい目利きだねぇ! この人参はかの伝説の農家である爺さんの……」

 

 謎に八百屋のおっちゃんと意気投合しており、謎に会話が捗っていた。色んな美味しい野菜の話をしているからか、周りには主婦の方々がおり、にこやかに見守っていた。

 

「……気のせいかな?」

「どうかしたか?」

「ううん、なんでもありませんよー……後でじいちゃんに聞いてみないとな……」

 

 スカイはスカイでなにか気になることがあったのか、首を傾げていたが、本人自身も特に気にしていない様子だったので俺も深くは追求しなかったが、最後にそんな言葉が聞こえた。

 

「お兄様! このお店に行こっ」

「ライスちゃんと一緒にご飯〜」

「俺はいいけども、お前らは……いや、まぁ大丈夫そうか」

 

 ウラライス(なんか唐突に思いついた)の二人が盛り上がっている中、他のメンツは相変わらず己が道を進んでいる感じなので多分どの店に入るとかは考えていないんじゃないかと思う。結局払うのは俺だしね!

 

「じゃあこのお店に突撃ー!」

「おー!」

 

 みんなと行ける食事が嬉しいのだろう。あの時の金船らぁめんの時よりもテンションが高い気がする。大分和やかな空気感で、周りの人たちの顔も緩んでいる。そういえば、ウララは別の地区にある商店街で色々やっていたようだし、そういう人の往来が多い場所で輝くのかもしれない。

 二人が入ったのをみてスカイとミークが、バクシンオーはまだ商店街のおっちゃん方と話している。どうしようかと考えていると、店から出てきたミークがバクシンオーに話しかけてそのままこちらへと向かってきた。

 

「すみません! 少し交渉をしておりました!」

「交渉って……うん、まぁいいや」

 

 今日何回目か分からないため息を吐きながら、店の中へと入っていく。何だかんだでライスたちが決めたのは定食屋で、恐らくは看板に書かれていた人参カレーライスに釣られたのだろう。

 店を入り、店員に案内されて店の端の方の席へと案内される。見た限り、かなり繁盛しているようで店内が賑やかだった。

 

「人参カレーっ、人参カレーっ!」

「楽しみですね! いっぱい食べますよー!」

 

 店内でも変わらず賑やかな様子で話しているウマ娘たち。店内にいる客達も気にする様子もなく、普通に食事を各々で楽しんでいるのだから、こういうのに慣れているのかもしれない。まぁ、トレセンに最寄りの商店街なんで、ウマ娘たちが団欒している様子は珍しくないのだろう。

 

 しばらく俺は席に座り、ウマ娘たちの会話に耳を傾けていた。大抵の内容が年頃の女子らしいものからレースなどのウマ娘特有の話題まで、様々だった。そう言った話は俺にはあまり聞き覚えがないものだったのでどこか新鮮味を感じた。

 

「……ここでもお仕事ですか?」

 

 そうして耳を傾けながら、もはや自分の体の一部になりかけているノートPCを取り出して今後のスケジュールの確認をしていると、そんな声が耳に入った。聞き慣れた声で、言葉の意味的に俺に話しかけているということはすぐに気づいたので、PCを見つめたまま、その声の主に返答する。

 

「まぁな。とはいえ、やっていることはそう大したものでもないんだけど」

「……そういうものなんでしょうか。少し、働きすぎな気もしますけど」

 

 私のトレーナーさんも、貴方のことを心配していましたし……、と口下手ながら心配しているのは理解できた。無表情ながらも、こちらを心配しているということは理解できた。なんというか、最近俺は働きすぎだと言われることが多い気がする。睡眠時間こそ短いが、それでも休むときは休むのだが。俺からすれば担当……ライスと関わる時間が何よりの休憩みたいな感じだし。

 

「ま、人それぞれってことじゃないのか? 俺からすれば、特に普通だしな」

「……そういう、ものでしょうか」

 

 そういうものなんだ、と言い終わると俺の目の前に頼んだミートスパゲッティが置かれた。店員に礼を告げて、ミークの方を向くとすでににんじんハンバーグを食べ始めていた。

 どうやら、俺が最後に届いた品らしく、みんなは各々で食事を楽しんでいた。ライスとウララとバクシンオーはにんじんカレーで、ミークはにんじんハンバーグでスカイは……

 

「スカイちゃんなに頼んだのー?」

「んー? これはね、にんじんチャーハンだよー」

 

 にんじんチャーハン、確かによく見ればチャーハンの中ににんじんのオレンジがちらちらと見える。にんじんにチャーハンって、合うのか? まぁ、美味しそうだし合うのか。なんかにんじんにチャーハンという組み合わせはないのではという変な固定観念があった。

 

「美味しいですよー? ライスって美味しいですもんねー」

 

 ぴくっ、と1人のウマ娘の耳が動いた。何かを聞いたのだろう。といっても、目の前で動いていたし、何で動いたのかはなんとなく想像はつくのだが。

 

「ライスちゃんは食べれないよー? ねっ、ライスちゃん!」

「う、うん。でもウララちゃん、そういうことじゃないと思うな……」

「あれ? そうなのー?」

 

 

 先程ライス(お米)という単語に反応したライス(ウマ娘)はウララのそんな純粋すぎる疑問に答えていた。少しテンションが素に戻っているが、多分少し正気に戻ったのではないだろうかと予想を立てた。ライスは食事のことになるとなんかテンションが振り切れるからな……

 

「あれ、そういえばバクシンオーはどこに行ったんだ?」

「ほんとだ。バクシンオーさん、いつの間にかいなくなってる」

 

 何か物足りないというか、静かな感じがしたので先程ガツガツと食べていたバクシンオーの席を見ると、いつの間にかいなくなっていた。というか、店内にもいなくなっていた。なに、また八百屋にでも行ってるの?

 

「あの、バクシンオーさんなら先程学園に帰るとおっしゃってそのまま帰られましたよ?」

「え、マジで?」

 

 ミークがこちらを見ながら俺たちにそういった。めっちゃ自然に消滅するじゃんあの子。またバクシンしにいったのかもしれない。

 

「そ、そうなんだ……よかった。ライスのせいで迷子になってなくて」

「いやいや、流石にこの商店街で迷子はないでしょー」

 

 ライスが安堵の表情を浮かべている横で、スカイは苦笑いしながら告げる。確かに、この商店街はよくある大通りのようになっているのでそういった心配はないと思う。というかこれで迷子になるのは流石にないと思いたい。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 にんじんチャーハンやら、バクシンオーの消失……消滅? など色々あったが、その後は特になにもなく静かに食事を食べ終え、そのまま商店街を後にした。

 

「あの、ごちそうさまでした!」

「トレーナーさん、ありがとねー」

「またみんなと一緒にご飯食べにいきたいなー!」

「……ありがとうございました」

 

 トレセン学園とウマ娘たちの学生寮を分つ道路の前で、俺たちは別れることにした。といっても、学園側に行くのは俺だけなのだが。こちらを向いて手を振ったりお辞儀したりとそれぞれのお礼の仕方で見送られた。

 

「しっかり休んでおけよ。睡眠不足は結構きついからなー」

はーい!(分かりました)

 

 一言親みたいなことを言った後にウマ娘たちとは逆の方向に歩き出した。時間帯は少し遅くなってしまったが、学園の方には俺から連絡を入れてなんとかなった。トレーナー同行ならば多少の無理は通ったのでよかった。

 あたりは暗く、夜のトレセンは陽が出ている時刻とはかなり違った印象を持つ。それはライスを担当にした日から思っていたことだが。

 

「……夏だなぁ」

 

 リンリンと鈴虫の音が聞こえる。夏の夜特有のどこか虚しさを感じるようなそんな雰囲気を肌で感じながら、ゆっくりと左右にある木々を流し見ながら歩いていく。

 トレセン学園内には自然が多くあり、一部は森のように木が生い茂っている地区もある。なんというか、上空写真を見た時は学園というよりは自然公園のように感じられた。

 

 

 夏の自然を感じながら道を歩くこと数分。見慣れた道に入り、トレーナー寮が見え始めた頃、一つの影が見えた。多分トレーナーであろう人物はこちらの方に気づき、振り向いた。

 

「誰だ、こんな時間に」

 

 かなり低い声が辺りに響いた。目の前の男性が俺に話しかけてきたようだ。薄暗く、表情は見えないが、サングラスをかけているのだろうか。目元は暗くあまり視認できなかった。男性がいるのはトレーナー寮の前で、逆光があるせいで余計に見づらい。

 

「……あっと、すいません。少し外へ出ていまして」

「そうか。次からは気をつけておけ。トレーナーというのは彼女らの模範となる存在でもある」

「なるほど……ご教授ありがとうございます」

 

 ここにいる時点で彼はトレーナーで、トレーナーということは俺の先輩であることに間違い無いので敬語で話す。声音もそうだが、見た目もかなり怖い。なにこの人、絶対カタギじゃないって、失礼だけどさ。

 

「……お前は、努力は報われると思うか」

「……?」

 

 唐突の問いかけに、しばらく言葉の意味を探ってしまう。もちろん言葉の意味はわかるが、その裏の意味が分からなかったからだった。なぜそんなことを初対面の俺に言ってきたのか、その真意はなんなのか。ただ、俺は俺が思うことをそのまま言うことにした。

 

「……報われると、そうは言い切れませんよ。当たり前ですけど」

「……」

「ただ、しなくていいって話でも無いと思います。才能がいくらあろうが、血を吐くほどの努力を重ねれば才能を超えることだってあるし、努力をいくらしてもそれが報われないこともあります。でも、やってみなきゃ、分からないと思います。だから俺は努力していくし、したいと思います」

 

 ありきたりかもしれませんけどね。と付け加えて、俺は目の前で黙り込んでいる先輩トレーナーを見やる。そうして重苦しいほどの沈黙が場を襲い、ゆっくりと口を開いた。

 

「……そうか。それが、お前の答えか」

「えぇ。後悔だけは、したくないですから」

 

 もう、二度と。そんな思いはしたくないから。後悔が一番苦しいことは、知っているから。

 

「……ふっ」

 

 笑みを浮かべたのかどうかは分からないが、そう言って目の前の先輩トレーナーはトレーナー寮へと入っていった。

 結局最後まで顔を見ることができなかったが、結構怖い感じの声音だったが、結構優しい先輩なのかもしれないと、俺は確証もないそんな気配のようなものを覚えた。

 

 そのまま立っていても何も無いので、少しした後に俺もトレーナー寮に行くことにした。

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