駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 お待たせしました。そして長くなって申し訳ありません。


第十一話 演習

《それでは訓練を開始する。相手チームをすべて大破させたチームが勝ちだ。始め!》 

 山岸少佐の合図を皮切りに、演習が始まった。両チームは距離100から接近し、距離70で朧率いる日本チームが右回頭して、アメリカチームも続く形で旋回して同航戦となった。

「うわっ?」

 漣の撃った12.7㎜砲がエディのすぐ近くに落ちる。

「漣、わかってるみたいね」

 曙は漣が自分かエディに妙な気を利かせて手を抜くのではないかと心配していたが、漣はむしろノリノリで攻撃してきた。

「それに比べて・・・潮!」

「ひぃ!」

 曙は動きの遅い潮にまず一発当てて、中破させた。一方エディもレーダーを使って漣に狙いを定めた。

「漣ちゃん、痛かったらごめんね」

「うー、何もいえねぇ」

 エディは5基の主砲を斉射し、うち3発が漣に命中。即刻大破判定を出して漣は脱落した。

「舐められたものね・・・潮、距離を詰めて!水雷戦用意!」

「・・・させないよ」

「!?」

 距離を詰めようと突出した朧をリッチが砲撃。命中弾を与え、曙がさらに砲撃して撃破した。

「え?私だけ?」

 一人追いつめられた潮は、とりあえずエディに砲撃した。エディに命中して小破させる。

「よくもやったわね。でもここまで」

 エディは十分距離を詰めてから、主砲斉射で潮を仕留めた。

《そこまで!アメリカチームの勝利!》

 こうしてあっけなく演習が終わった。

 

 

 演習場指揮室

「意外とあっさり終りましたね」

 山岸は潮の大破判定を出し、演習終了の指示をしてから呟いた。観戦していた軽巡たちも同じ心境だ。

「しかも魚雷を一発も使ってなかった」

「錬度もうちとは比べ物にならないわ。さっきまで喧嘩してたのが嘘みたいな連携だった・・・」

 夕張と五十鈴も驚嘆していた。

「チッ、賭けは俺の負けか」

 天龍は財布から金を取り出し、五十鈴と夕張も同じく取り出した。佐々木司令と軽巡たちはどちらが勝つかで賭けをしていたのだ。佐々木と那珂はエディ達が勝つ方に賭け、それ以外は朧達に賭けた。

「司令、配備についてはどうしますか?」

 山岸が問う。

「まだ決めかねるところだが、曙の昇格次第だ。皆はどう思う?」

「俺は賛成だ。別に問題ないだろ」

「あたしも。そろそろ私たちの手を離れてもいいと思うわ」

 天龍と五十鈴は反対しなかった。一方で夕張は懸念を示す。

「けど、今回のことがあったとはいえ、あの子がここまで安定してるのも佐々木司令と姉妹艦たちの手元に置いておいたところが大きいし、外征の多い一軍入りはまだきついんじゃないかしら?」

「うむ、夕張は反対か。那珂はどうしたい」

「那珂ちゃんはみんなのアイドルだから、ここは安価で決めてもらえばいいんじゃないかな~?」

「何言ってんだお前?」

 那珂の意味不明な発言に一同困惑していると、指揮室の扉が開いて二人の少女が入ってきた。

「艦隊が帰投しました」

「もどったぜ」

「あ、お姉ちゃん、木曽さんお疲れ様」

「おお、出張お疲れ。ブインはどうだったか?」

「姉さんたちは相変わらずだ。向こうは暑くて大変だとか、弱音はいてたよ」

「ただ、逼迫こそしていませんが、戦力・経験不足は否めません。5航戦の増派が決定されたらしいです。雪風たちも向こうに置いてきました」

「うむ、いい判断だ。近々うちからもさらに戦力を捻出せねばならんかもしれん。先手は打っておくべきだ」

 ブインは最近開設されたばかりの泊地で、前線ながら脅威レベルが低いので新任提督が多く派遣されていた。しかし、深海棲艦の攻勢が強まりつつあり、先月には敵の強硬偵察艦隊に泊地1kmまで迫られたばかりであった。

 山岸が神通から報告を聞いていると、部屋にまた誰かが走りこんできた。

「提督!」

「島風か。ブインに残らなかったのか?」

「提督は島風を一番うまく扱えるから、戻ってきちゃった。それより、何やってたの?」

「今日着任したアメリカ艦との演習だ」

 山岸は演習の映像を見せながら答えた。島風は少しだけ見て、すぐに佐々木に向き直っていった。

「ねぇ、わたし、こいつらと戦っていい?」

「ああ、構わんが、一人で大丈夫か?」

「大丈夫よ!わたしには連想砲ちゃんがいるから。それに、誰も私には追いつけないもの!」

 そう言うと島風は指揮室から出て行った。

 

 

「やるじゃない。戦果は私が上だけど」

「アメリカの駆逐艦で曙に勝てるのは大姉さんぐらいじゃないかな」

「それより、これで昇進決まるといいね」

「あのクソ提督も、賞罰はきっちりするからね」

 演習に勝利したエディ達は戦いを経てすっかり打ち解けていた。よく考えればただの嫉妬であり、エディに悪意がないと解ると曙も怒るのが馬鹿らしくなったのである。

「これでもっと外の海域に行って、名前を上げて司令官に自慢してやるんだから!」

「さっきから思うんだが、曙は司令官が好きなのかい?」

「だ、誰があんなジジイなんか!確かにあいつには大事にしてもらってるけど・・・そんなんじゃないわ!」

 顔を真っ赤にして弁解する曙に、エディは大笑いした。だが、ソナーに流れた音に、一瞬で真剣な表情になる。

「12時から魚雷!右旋回!」

「えっ?」

 エディが叫んでリッチはすぐに反応したが、気が抜けていた曙は回避が遅れて被弾した。

「速い!しかも雷跡がなかった!いったいどこから?」

 リッチは撃ってきた敵を探すが、遠いのか位置がわからない。曙は大破しながらも立ち上がって言った。

「酸素魚雷よ!でもあれは高価だから、うちの駆逐艦でも上位4人までしか支給されてないの。その中でこんな攻撃をやらかすのは・・・」

《避けるのはっやーい!》

「だ、誰?」

 エディは突然の無線からの声に動揺する。一方で曙は、

「やっぱり島風ね」

 横須賀鎮守府の駆逐艦の序列は、島風、雪風、初風、舞風が上位で、他の艦は微妙な差で拮抗している。中でも島風は文句なしにトップの性能と実力、そして傲慢さを持っていることで有名であった。

《曙は油断しすぎ~。それよりもアメリカの子たちはどうやって避けたのかな?まるで私が魚雷を撃つ瞬間から気配を察してたみたいな避け方だったけど》

「ソナーが聞こえたの」

《えぇ!?アメリカのソナーってそんなに高性能なの?》

「エディの耳がいいだけさ。それより、切り札が封じられてるって解ってるならさっさと出てきなよ。臆病者」

 リッチは島風を挑発しようとするが、本音と建前は真逆だ。いくらエディの耳があっても、あの速さの魚雷はそうそう避けられるものではない。距離を詰めなければ勝ち目がないのだ。

《ふぅ~ん。言うじゃない。いいわ、どうせ私の勝ちだから》

 そういうと島風は全速力でエディ達に近づく。40ktもの高速であっという間にエディ達の目の前に現れた。

「なにあれ・・・すごい」

「まるでアメリカ人みたいだ」

 エディとリッチは島風の独特の容姿と服装に驚きを感じる。島風は両手を腰に当てて威張った態度で言った。

「初めましてアメリカ人。わたしが世界で一番早くて一番強い駆逐艦、島風よ!あなた達は私ほどじゃないけど、強そうだから勝負してあげるわ!」

「相変わらず嫌味な言い方ね・・・」

 曙が皮肉るが島風は無視した。エディ達は断ることもできなければ、断る理由もないため、武装を展開して臨戦態勢を取った。島風はエディ達に戦意があるのを認めると、砲塔のような形をした物体を展開した。それは顔が描かれ、自立してひょこひょこ歩く。エディの目がそれに行った。

「す、すごい!そしてかわいい!」

「私の自慢の連想砲ちゃんよ!ちゃんと意志を持ってるの」

 島風は自慢げに連装砲を撫でる。

「自立歩行型砲塔とは、ずいぶんな玩具だね・・・」

「あら?ちゃんと戦闘だってできるのよ。今から見せてあげるわ。さあ、連想砲ちゃん!お仕事よ!」

 島風が指示すると同時に2つの連装砲がエディ達の左右に展開する。

(まずい!囲まれる)

 リッチは即座にそう判断し、背面の武装を使って真後ろに狙わず2発撃ちこんだ。後ろに回り込もうとした連装砲の動きが止まり、エディ達はその隙に後退する。

「へぇ、やるじゃない・・・なら!」

 島風は再び連装砲を展開させるが、今度は容赦なく砲撃させて、自身も魚雷を撃ってエディ達を分断しようとした。

「リッチ、どうするの?」

「大丈夫、敵が3隻いるだけ。まずは連装砲をなんとかしないと」

「私が島風に攻撃すれば、連装砲は私に気が向くから、その隙にリッチは連装砲を仕留めて」

「やってみる。演習じゃ死なないから安心だよ」

「まったくね。やるだけやってみよう」

 エディは島風にまっすぐに突っ込む。島風は迎撃しようと2発魚雷を撃ちこむがエディは軽く回避する。

「そんな攻撃当たらない!」

「かかったわね、今よ連装砲ちゃん!」

 連装砲がエディの背後から砲撃を浴びせかける。エディは背中のユニットが壊れて中破状態になった。だが

 ドゴン!ガン!

「残念だったね、お間抜けさん」

「そんな・・・連装砲ちゃん!?」

 リッチが連装砲の一体を砲撃で沈め、もう一体を砲塔で殴ってへし折った。

「これでおわり!」

「まだまだッ!」

 エディが突っ込んでくるのを島風は咄嗟に魚雷発射管で殴って大破判定にした。

「やるわね、わたしと連装砲ちゃん並みの連携だったわ。でも、わたしとサシでやりあって勝てるかしら?」

 島風は手持ちの連装砲を取り出した。砲戦を自立式連装砲に任せる島風が、連装砲を自分で操作することはめったにない。

「じゃあ、いくよ!」

 島風は単体でも十分に強かった。リッチは奮闘するが次第に押されていく。2分半の一騎打ちの後、ついに

「おっそーい!」

「あぁ!?」

 ついに島風に撃破された。

 

 

「あ―!負けちゃった!」

 那珂は観戦画面を見て叫ぶ。軽巡たちの間で島風とエディ達とどちらかが勝つかということで再び賭けをしていて、那珂はエディ達に賭けて負けたのだ。

「これでさっきの賭けと合わせて±ゼロだな。さ、返してもらうぜ」

「あぁ~、新しいマイクスタンドが~!」

 那珂はしぶしぶ天龍達に金を渡す。

「お前はゼロだが俺は赤字なんだぞ・・・はい」

 途中から賭けに加わった木曽もエディに賭けて負けており、他のメンバーに金を渡した。

「島風が勝つのが普通に当たり前だと思うけど、あんたらなんでそっちに賭けたの?」

 五十鈴は疑問に思ったことを聞く。那珂も木曽も賭けでは妙なところで変なものを選ぶ傾向にある。那珂と木曽は口をそろえて言った。

「「その方が面白そうだから」」

「呆れた」

「そんなことよりも提督の意志は決まったか?」

 木曽が問う。山岸も佐々木もまだ迷っている様子だった。

「演習で彼女たちは十分な実力を持つことが分かった。雪風と舞風の空きの枠に入れ込みたいところだが、神通はどう思う?」

「はい、彼女達なら水雷戦隊でも十分に第一線を張れるはずです。ただ、うちは外征が多いので、他の基地の子達の感情をあまり逆撫ですべきではないと思います。空きには陽炎を入れる予定です」

 アメリカ艦受入れの取り決めはあくまで横須賀鎮守府内部でのことであり、すべての鎮守府と艦娘が賛成していることではない。アメリカ艦受入れを反対して横鎮を去った艦娘もいる。

「となると第一艦隊(お飾り部隊)の中に入れるか?それもありだが、米艦との混合は国民感情に響きそうだ。スポンサーは大事にせねばならん。そうなると護衛・哨戒群に入ってもらうが、誰かとくに入ってもらいたい奴はいるか?」

「なら、私が貰いたいです。アメリカの装備品とか見たいので」

 夕張が真っ先に手を上げた。装備品マニアの血が騒ぐのだろう。ちなみに基地の武器庫を預かっているのも夕張である。

「やはり君か。山岸君は秘書艦の意見をどう思う?」

「私も賛成です。使えるものなら何でも使います」

「うむ、決まりだな。儂も、山岸君はもう自前の艦隊を持っていいと思っていたところだ。夕張と初春型、アメリカ艦を山岸君の直属にしよう。ついでに木曽も入ってもらう。曙の編入については保留にする。異論はあるかね?」

「ありません」

 山岸が答えた。

「他の者は?」

「司令の判断に誤り無しってのは、俺たちが一番よく知ってることだぜ」

 鎮守府最古参の天龍が答えた。他の者も賛成した。

「では明日に正式な辞令を下すので、とりあえずは解散。今日の英雄たちに賛辞を贈りに行こうではないか」

 佐々木は立ち上り、発進場に出て行った。

 

 

「久々に負けそうになったわ。またやりましょう!」

 島風はそう言って立ち去った。演習場に戻ると、エディ達は観戦していた駆逐艦たちに詰め寄られ、喝采の嵐に見舞われた。

「すごいよエディ、リッチ!あの島風を追い詰めたなんて!」

 漣も他の姉妹とともにエディ達の奮闘をたたえた。

「えへへ、ありがとう漣ちゃん」

「私の姉妹を紹介するわ。朧に潮ちゃん。他にもたくさん姉妹はいるけど、曙ちゃんと私達で第7駆逐隊を編成してた頃があって、今もその編成で艦隊を組ませてもらってるの」

「そうなんだ。よろしくね、朧ちゃんに潮ちゃん」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 エディに対して朧は礼儀正しく、潮は人見知りしながらも握手をした。

 談笑を続けていると佐々木と山岸がやってきた。

「やあ君たち。よくやった。特に島風の急な参戦にも対処できたエドワーズとリチャードには、大きな賛辞を送りたい」

「ありがとうございます、司令官!」

「恐縮です」

 佐々木の講評にエディとリッチは喜ぶ。山岸は咳ばらいをした後、人事の発表を始めた。

「明日正式に辞令を出しますが、ヘイウッド・L・エドワーズとリチャード・P・リアリーは明日より私の艦隊に入ってもらいます。夕張か木曽が指揮を執る予定です」

「あなた達の水雷戦隊を率いる予定の夕張よ。改めてよろしくね、二人とも」

「俺が木曽だ。着任式には来れなかったが、よろしく頼むぜ」

「はい!」

「了解しました」

 エディとリッチは夕張達と挨拶を交わした。一方曙は昇進が気になって仕方なく、佐々木に詰め寄っていった。

「ねえクソ提督、あれだけ頑張ったのだから私の昇進も当然よね」

「ああ。残念だが、今回の昇進は無しということで決まった」

「えぇ!?どういうことよ!」

「勝ちに浮かれて反応が鈍ったそうじゃないか、最前線を張るにはまだまだ甘いぞ」

「うぅ・・・」

「しかし、島風によればエドワーズは魚雷を発射した瞬間にそれを探知したそうじゃないか」

「ええ、確かに常人離れした聴覚ね」

「爺臭い言い方じゃが、山岸君も含めて、これからが楽しみじゃな。儂の隠居も近いかな・・・」

 そういうと佐々木は司令部へと戻っていった。漣達は曙を慰めようとするが、言葉が見つからず、そうこうしているとエディ達が話しかけてきた。

「ねえ曙ちゃん、昇進はどうなったの?」

 エディは事情を知らずに問いかけた。

「駄目だったわよ・・・」

 曙はどんよりとした表情で答えた。エディは自分の過ちに気付くと、すぐに謝った。

「ゴメン!わたしが負けたばっかりに!」

「いいのよ、浮かれて回避できなかった私の責任だし。それより今夜は飲むわよ、付き合いなさい!」

 そういうと曙はエディの腕を乱暴に掴む。だが、曙の表情に憎しみはない。エディの答えは決まっていた。

「うん、一緒に行こう」

 今夜は遅くなりそうだ。リッチはそう思いながら、エディの後に続いた。

 

 

《目標を確認・・・効果は本物のようです。はい、情報収集を続けます・・・必ず成功させます》

 




ネタバレ:ここの那珂ちゃんは第四の壁を認識してる。
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