駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 ペースが落ちてる。まずい


第12話 迷路と悪夢と悪い知らせ

「はーい、おまたせ。もう知ってると思うけど、今日からあなた達を監督する兵装実験軽巡夕張です。ここの工廠主任と武器庫管理人もやってるので、兵装について何か知りたいことがあったら聞いてくださいね」

 夕張が挨拶すると、エディは他の駆逐艦とともに拍手する。演習の翌日、山岸少佐の直轄艦隊の艦娘達はブリーフィングルームに集まった。山岸少佐が挨拶をする予定だったが、何か緊急の用事が入ったらしく、秘書艦の夕張がミーティングを仕切ることとなった。木曽も演習の監督でいない。

「まあ、挨拶はそこそこにして。提督はみなさんの実力が知りたいそうなので、(私の)お楽しみの実力テストと行きたいと思います!」

 夕張は妙なハイテンションでそう言うと、駆逐艦娘達を引き連れて演習場の個人用ピットに入った。ここは指定されたコースを走りながら途中現れる目標を撃破していくもので、某FPSをやっていた夕張が提案し、山岸と設計して横須賀ではじめて建設された施設だ。ただ、艦娘は艦隊行動が重視されるため、他の鎮守府の艦娘が遊び半分で利用することはあっても、他の泊地で導入される動きはない。

「うわー、懐かしい」

「レンジャー訓練を思い出すね」

 エディとリッチは訓練学校でレンジャー訓練の試験にピットを利用したことがあったので、この施設に懐かしさを感じた。

「エディちゃんとリッチちゃんはやったことあるみたいね」

「陸戦用だけですが・・・」

「勝手が解ればいいわ、じゃあ、早速エディちゃんから入って。後は初春ちゃん、子日ちゃん、若葉ちゃん、初霜ちゃん、リッチちゃんの順で入ってね」

 夕張はそういうと、観測室に入った。エディは艤装の調子を確かめる。手持ちの3番砲塔、煙突型のバックパックから延びる4本のアームに取り付けられた1、2、4、5番砲塔、脚に巻きつけられた魚雷発射管と腰に手榴弾のように取り付けた爆雷、その他対空機銃やレーダー、ソナーなど、駆逐艦娘の装備は意外と多いが、慣れ親しんだ自分の体の一部であるので、調子の良し悪しは一瞬でわかる。

「準備はいいわね。それじゃあ、訓練開始!」

 夕張の合図とともにピットの扉が開く。まずは直線。一気に前進する。すると突然水中からイ級を模したベニヤ製の4枚の標的が出てきた。

「敵発見!やっちゃって!」

 夕張の指示が入る。エディは1、3、4番砲塔で次々砲撃して目標を倒した。

「クリア!」

「そのまま進んで!」

 正面の扉が開いてエディはそこに駆け込む。途中で緩いカーブがあり速度を落とさず曲がった。そこに目標が現れるが、輸送船の絵が描かれた的もある。

「味方を撃たずに攻撃せよ!」

 エディは手持ちの砲塔で輸送船を避けつつ、一つ一つ目標を倒していった。

「いいわ、進みなさい!」

 扉が開き、前進する。今度は横幅が広い部屋に着いた。

「潜水艦接近!音探で探して撃破せよ!」

 エディはソナーのスイッチを入れる。すぐに見つけて爆雷を投下した。

「よし、早いわ!」

 次の通路を進むと狭い円形に縄が張られていて、真ん中には旗が立っている部屋に着いた。ふと背後で看板が立つ音がした。

「背後に敵!回頭して魚雷で撃破せよ!」

 エディは速力を下げて旋回し魚雷を発射、5発のうち2発が命中した。

「いいわね、右の出口に入って!」

 通路が開き、今度は頭上にワイヤーが何本も通っている場所に着く。

「敵機接近!撃ち落としなさい」

 ワイヤーに吊るされた標的が飛んでくる(ドーントレスやデバステーターの形をしていた)。エディは主砲の砲弾を高射砲弾(VT信管)に切り替え、機銃も使って迎撃した。

「よし!進んで」

 扉が開いて次の部屋に入る。すると全方向に標的が現れ、上空にワイヤーも張り巡らされた部屋に出た。

「スコアアタックよ!可能な限り敵を倒して!」

 エディはレーダーで背面の敵を確認して、混ざっている輸送船を避けつつアームを器用に操作して次々目標を沈め、ついでに潜水艦も沈める。

「よし!時間が無いわ!急いで!」

 扉が開き、エディはゴールまで一気に駆け抜けた。

「総時間4分25秒、潜水艦撃破時間4秒、航空機撃破率74%、スコアアタックの敵艦6隻、潜水艦4隻。潜水艦に手を出したのはあなたと五十鈴くらいね。誤射は無し。総命中率68%。なかなかね。次!初春ちゃん入って!」

 こうして次々とピットに入っていった。初春型は、急速回頭で転覆した初春が6分12秒なのを除いて4分前半から5分前半程度、潜水艦に5~10秒で、航空機撃破率33~66%、スコアアタックは初霜が健闘して12隻で他は7~10隻、内訳がすべて通常艦であった。誤射はなく、命中率も70%以上であった。

 

「じゃあ、最後はリッチちゃんね」

 ついにリッチの番がやってきた。リッチは珍しく張り切った様子だ。

「あの、夕張さん」

「なに?」

「酸素魚雷は優秀な艦にのみ与えられると聞きましたが」

「ええ、駆逐艦なら、成績4位以上で支給してもらえるわ」

「ここで優秀な成績を出せば?」

「もちろん。提督に報告して検討してもらえるかも」

「・・・頑張ります」

 リッチの表情も引き締まる。それに感心したのか、初春たちも応援しだした。

「帥の活躍、妾は期待しているぞ」

「いい日になるといいね」

「・・・がんばれ・・・」

「がんばってね」

「ありがとうみんな」

 リッチは初春型に礼を言うと、エディに向きなおった。エディは特別嬉しそうな笑顔でリッチに言った。

「リッチがこんなに一生懸命になるなんて、とっても嬉しい。いってらっしゃい」

「行ってきますエディ」

 リッチはエディにハグすると、ピットに入った。

 

 

(ちょっと行って帰ってくるだけなのにそんな深刻にならなくても・・・姉妹ってそんなものなのかな。私にはわからないけど・・・)

 観測室の夕張はそうつぶやくと、マイクに向かった。

「準備はいい?始め!」

 ピットのドアを開けると、リッチは勢いよく通路に突入した。夕張は標的を展開させて、指示を出す。

「敵発見!やっちゃって!」

 リッチは目標を確認するや砲塔を各個操作してマルチ射撃で標的を沈める。わずか2秒。

(やるじゃない)

 夕張は開閉ボタンを押した。

「進んで!」

 リッチは輸送船エリアでもマルチ射撃を実行して通過、潜水艦エリアも6秒で突破した。

「背後に敵!回頭して魚雷で仕留めて!」

 ここでリッチは速度を緩めずに体をひねり力ずくで回頭する。転覆寸前になるが、何とか持ち直してそのまま魚雷を撃った。

(すごい、細身なのにやるわね)

 夕張は開閉ボタンを押す。

「敵機接近!迎撃して!」

 リッチは標的を見るや深い憎悪の念を込めて落としていった。

(撃ち漏らさなかった!?このままじゃ・・・)

 夕張はピット利用者のデータを思い出す。速度による加点要素が大きいピットのルール上、島風が現在トップで、次に神通、雪風、時雨、綾波、北上などスコアアタックで稼ぐ武勲艦と高火力の雷巡が占め、その次は性能的に有利な陽炎型や軽巡洋艦達が占めている。リッチは島風ほどの速度ではないが、マルチ射撃を使って時間を短縮し、何よりも点数の高い航空機を逃さなかった。

(これは本気でいかなきゃね・・・)

「スコアアタック!できるだけ敵を倒しなさい」

 夕張はスコアアタックの標的の出し入れを手動に切り替え、かなり意地悪な角度から標的を出し入れした。リッチはマルチ射撃に魚雷も使って航空機にもフルパワーで迎撃した。

(これはすごい怪物ね・・・って、あれ?)

 リッチは最初は規則的な射撃で輸送船撃つことはなかったが、次第に見境なく射撃するようになり、誤射減点が増えていく。そうこうしている内に時間が来る。

「ラストスパートよ!走って!」

 夕張が扉を開けるが、リッチは動かない。

「そのまま行って!早く!」

 夕張は再度言うと、リッチははっとしたような仕草をして慌てて前進しようとするが、ボン!と音が鳴って機関部から煙が出始め、倒れこんでしまった。

「まずいわ!すぐに救助を!」

 夕張は椅子から立ち上がってピットに入る。リッチに駆け寄り、抱えようとするが、熱を感じて思わず手をひっこめた。

 リッチは白い肌を真っ赤にしてかなり体温が高くなっていた。頭から湯気が出ている。どうやらリッチは張り切り過ぎて、艤装の性能以上の無茶な操作をしていたようだ。

(・・・鍛え甲斐はありそうだけど、しっかり監督しないと危ないわ・・・先が思いやられる)

 夕張はやれやれとため息をつくと、リッチを慎重に抱えて医務室へと向かった。

 

 

「姉さん・・・姉さん・・・」

 疲労に沈んだ意識の中で、リッチは夢を見ていた。真っ暗闇の中、油まみれの自分は階段の下にいて、階段の上で光差す扉の横にいるエディを見上げていた。

「リッチ、こっちにおいで」

 エディは優しい表情で手招きする。リッチは階段を上がろうとするが、油まみれの姿が恥ずかしくて躊躇う。

「姉さん、僕は姉さんに触れるにはあまりに汚い。そこには行けないよ」

 リッチがそういうとエディは少し考えて階段を下りだした。

「姉さん、だめだよ」

「大丈夫だよ。わたしは汚れても平気だから」

「だめだよ、僕の姉さんが」

「大丈夫だから」

「でも」

 リッチの制止を聞かず、エディはついにリッチに触れて、リッチの黒い油をぬぐい、自分を汚して見せた。

「姉さん・・・」

「ね、これで大丈夫、だから一緒に・・・」

 エディが突然苦しみだした。見るとエディがリッチからぬぐった黒い油が、無機質な黒いロープとなってエディの首を締め付け、全身にも巻きついていた。

「ッ!・・・リッチ・・・苦しい!・・・助けて・・・」

 苦しみ悶えながら助けを求めるエディ。リッチは黒いロープを破ろうとするが、いくら力を入れてもロープは切れない。リッチは必死過ぎて気づかなかった。自分から滴る油によってエディがさらに汚れていること、そして、油は階段の下、暗い奈落へと向かって滴り落ちていたことに。

「このっ、やった!ロープが切れた」

「ありがとうリッチ、早く上にあがろ・・・きゃあ!」

 エディは言い終わる前に、今度は階段の下へと引きずり込まれる。リッチが伸ばした手は空しく空を切り、エディは暗闇へと消えていった。

「姉さん、嫌だ!僕も一緒に!」

 リッチは階段を駆け下りようとしたがすぐにつまずいて倒れた。足を見るといつの間にか枷がついていて、リッチはそれ以上降りることができない。

「そんな・・・僕のせいで、姉さん・・・」

 背後で扉が閉まる音がした。真っ暗闇の中、前も後ろもわからない、上ることも下ることもできないなかで、たった一人宙ぶらりんになる恐怖がリッチの心を埋めていく。

「いやだ・・・・・・姉さん・・・誰か・・・助けて・・・ここから出して・・・誰か!」

 

 リッチが目を覚ますと、医務室のベッドの上にいた。ベッドの隣には、心配そうに見つめるエディと初春、そして漣と曙もいた。

「リッチ、うなされてたけど大丈夫?」

 エディが心配そうに尋ねる。リッチはエディを安心させるため作り笑顔で答えた。

「大丈夫、私は大丈夫・・・ごめん、心配かけて」

「私はいい。だから・・・」

 エディはいつもするようにリッチに抱きしめようとした。するとあの悪夢の光景が浮かび、リッチは咄嗟にエディの腕を振り払う。エディは突然のことに動揺した。

「ど、どうしたの!?」

「い、いや・・・なんでもないよ。それより私の試験の結果はどうだったの?」

「そ、そのことだけど。部隊内5位、総合52位だって」

「え、そんな」

 リッチは信じられないという表情だ。エディは理由を説明する。

「完走しなかったことと、誤射がたくさんあったからって、夕張さんが言ってた」

「・・・そう、残念だ・・・」

「で、でも、タイムスコアと撃破率は良かったから伸びしろはあるって夕張さんが・・・」

 エディはリッチが落ち込んでいると思いフォローしようとするが、リッチは首を横に振ってそれを止めた。

「もういいよ、エディ。今回は仕方ないことだから」

「そう、ね。それより疲れはとれた?晩御飯食べに行こう」

「うん。でも、もう少しだけ休ませて。後でいくから」

「わかった。漣ちゃん、初春ちゃん、行こう」

 エディ達は部屋から出て行ったが、曙だけ部屋に残る。

「君もいかないのかい?」

 リッチが尋ねるが、曙はやれやれと言った雰囲気で言った。

「あんた、ほんとに大丈夫なの?」

「私は大丈夫・・・」

「あんたそれしか言えないの?エディに何か引け目があるのか知らないけど、無理して何も言わないのも問題よ」

「君に言われる筋合いはないよ」

 リッチは不快そうに返した。

「まあ、身内ほどかえって言いにくいこともあるだろうから、あの子に話しずらいなら私なり司令なりに相談しなさい。あいつはクソだけど信用できるわ」

 そういうと曙は病室を出て行った。夕日が差し込む病室にいるのは、リッチだけだ。

「誰かに縋るにも勇気がいる。それすらない者は、ただ沈むだけだ・・・エディをそこには連れてけない」

 リッチはそうつぶやくと、ベッドから出て、食堂へ向かった。

 

 

 

 夕張は今日の報告書をまとめると、司令室の山岸少佐の机へと向かった。司令室に入ると、佐々木司令と山岸、高雄、神通、大鳳が何か話していた。

「あ、提督。戻ってましたか。今日の報告なんですが・・・」

 夕張は少し嬉しそうには山岸に話しかけた。実際夕張は山岸が好きなのだ。だが、山岸は神妙な表情で夕張に言う。

「夕張、とりあえず戸を閉めて座ってくれ」

 何かあったのだろうか?夕張はとりあえず扉に鍵をかけて山岸の隣に座った。

「あの、何かあったんですか」

「ああ、昼に司令部に緊急入電があってな」

 

「レイテ島が陥落した」

 




注釈1:フレッチャー型の艤装について。
 フレッチャー型の艤装は陽炎型に近いレイアウトである。艦橋型のバックパックから、4本の2節アームが伸びて、主砲を任意の方向に向けることが可能。5インチ単装両用砲にはVT信管を使った高射砲弾が装填可能で、火器管制と組み合わされて強力な対空能力を持つ。
 能力値的には陽炎型と似たり寄ったりだが、ダメコン能力的な意味でHPが少し高く、雷装は少し低くて、対空が高い。ゲーム的には使いにくいかもしれない。

  2:深海棲艦発生後のアメリカのアジア戦略
 深海棲艦の登場、中国内戦の発生、日本の艦娘の建造が成功すると、日米間の軍事的な結びつきは希薄になり、2022年には米軍は日本からの全面退去を完了し、その中心をフィリピンに移す。41年の深海棲艦の大攻勢によって第7艦隊は大きな被害を受け、さらにはハワイ陥落により本国との補給が断たれる。アジアの米軍はフィリピンに集結・籠城し、第7艦隊残存兵力とアメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアの4か国の艦娘からなるABDA艦隊は、日本軍と協力して、フィリピン、シンガポール、オーストラリア間の航路確保とゲリラ戦を展開、3年間持ちこたえていた。

  3:良い小説に注釈はいらない
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