駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 大変長らくお待たせしました。



第14話 初めての秘書艦 午前

「ねえエディちゃんとリッチちゃん、ちょっといいかな?」

 ある日、訓練が終わって駆逐艦寮に戻ろうとしたエディ達に、夕張が話しかけた。

「なんですか?夕張さん」

「二人はまだ提督の秘書艦はやってなかったよね?」

「はい、そうですが」

 リッチが答える。日本海軍の慣習として、提督指揮下の第一艦隊(戦力的には戦隊なのだが、艦隊という扱いなのも慣習である)は提督の秘書役として事務的な補佐もする。

「実は明日、私ちょっと即ば・・・もとい特殊任務で休暇を取ってるの。木曽も遠征でいないし、折角だからこの機会に秘書艦やってみない?提督のことをもっと知れるいい機会だと思うんだけど」

「え、でも・・・」

「エディも僕も秘書艦の仕事はわからないですよ」

 確かに山岸少佐とエディ達はあまり接点がない。聞くところによれば山岸は防衛大を首席入学したエリートで、幹部候補として卒業後海軍省(役所としての)に勤めていたが、兵学校時代にすでに才能を見出していた佐々木司令によって引き抜かれ、佐々木の後釜となるべく日々精進しているらしい。艦隊持ちの一人前になったものの、レイテ島陥落の混乱のせいもあってか大変忙しいようで、部隊に直接顔を出すことはほとんどなかった。

「大丈夫。山岸さんは基本何でもできるし、お茶くみとか、言われたことやってればいいから」

 そういうと夕張は返事も聞かずに立ち去った。

「やれやれ、やるしかないみたいだね」

「うん、頑張ろう。リッチ」

 エディ達はとりあえず寮に戻った。

 

 

 翌朝、早めに起きたエディ達は制服に着替えると、司令室のある赤煉瓦の建物(事務棟というらしい)に入った。ここに入るのも、着任初日以来だ。入ると、また初日のように大淀が出てきて、エディ達に秘書艦バッジを渡した。とはいってもバッジは一つしかないので、相談のうえでエディが付けることにする。司令室に入ると、山岸と佐々木がすでに入っていた。佐々木の秘書艦は長門ではなく大鳳だった。

「本日の秘書艦を担当させていただく、ヘイウッド・A・エドワーズです」

「同じくリチャード・P・リアリーです」

「おお、今日は二人が秘書艦か。どれ、儂も今度高雄姉妹を秘書にしてみようかのう」

 佐々木がそんなことを言った。どうやらこの男は秘書艦をとっかえひっかえしてるらしい。一方山岸は表情を変えず、いつものクールな顔で言った。

「無理に言葉使いに気を付けなくていい。二人とも、今日はよろしく頼む」

「あの、仕事は何をしたらいいんでしょうか?」

「秘書艦は触られるためにある者じゃ。提督に寄り添い、適度のおさわりを受け・・・うご!大鳳ちゃん、装甲甲板で殴るのやめて!貧乳かわいいから許して!」

「あなたさっき高雄さんたち秘書艦にしたいって言っといてなんですか!人の秘書艦いじってる暇があったら仕事してください!」

「セクハラしてる分儂はちゃんと仕事してるもん!秘書艦の仕事は少なめだもん!」

「司令の仕事が少ないのは山岸少佐にやってもらってるからでしょ!山岸さんも艦隊持ったんだから少しは自分で仕事してください!」

 佐々木に大鳳がさらに怒る。エディは怯えて山岸に聞いた。

「・・・あの?」

「セクハラは業務には含まれない。今日は初春たちにこの内容で訓練するよう伝えてくれ。私は午前中は海軍省に行っているので、帰ってくるまでに事務室でこの資料の入力を頼む。それと武器庫に行って弾薬の出納表に間違いがないかチェックしてくれ。事務についてわからないことがあれば大淀に聞くといい。あとできれば、暇な艦を使って構わないから掃除も頼む。できるか?」

 山岸が問う。仕事量はそんなに多くないので、掃除も含めて昼までに終わりそうだ。

「はい」

「了解しました」

「それでは頼む」

 山岸少佐が出て行く。

「それじゃあ山岸君もいなくなったし、代わりに儂が・・・」

「司令は仕事して!」

 大鳳が佐々木を椅子に縛り付けた。佐々木は残念がりながらも、書類に手を付ける。

「さて、私達はどこから片付けようか」

「分担するのがいいと思うけど・・・」

「じゃあ、私が事務をするから、エディは初春たちに訓練をつけてあげて。在庫確認は後で二人でやろう」

「掃除は?」

「事務室か司令室にシフト票があるから、佐々木司令に聞いて暇な駆逐艦を見つけて頼んでおくよ」

「二人いれば早く終わるね!」

「うん、エディと私ならあっという間さ」

 こうして二人は仕事に取り掛かった。

 

 

 

 エディは訓練場に着くと、初春たちに今日の訓練の内容を伝えた。とはいっても、今日は嚮導する軽巡洋艦がいないので、筋トレと射撃演習ぐらいだ。

 エディは訓練の様子を見て考え込んでいると、背後から声がした。

「お、やってるわね」

「エディちゃん。おはよう!」

「あ、おはようございます。陽炎さん、舞風さん」

 見ると横鎮の外征組の陽炎と舞風だった。島風との演習が好評だったこともあってか、精鋭がそろう外征組の駆逐艦もエディ達に一目置いていた。

「エディが教えてくれた曲DLしたけど、あれでまた新しい踊りが創れそう」

 舞風はダンスが趣味らしく、アイドル気取りの那珂と広報行事に出ることも珍しくない。洋楽にも興味があるので、エディにアメリカのPOPsなどを教えてもらっていた。

「那珂さんが今度広報に出ないかって言ってたけど、広報には興味ある?」

「うん、やってみたい」

「それは良かった」

 舞風はにひひと笑う。

「それより、ここの暮らしには慣れた?」

 陽炎が問う。

「うん。でも、ちょっと思ってたより平和だな~って」

 エディは日本の暮らしには満足していたが、平和すぎて少し退屈していた。

「ふ~ん。まあ、確かにここは退屈かもね。ちょっと外に出たくらいじゃ深海棲艦が襲ってこないし。第一ここに敵が来ること自体異常だし」

 横須賀は首都を守る最後の盾であり、その警護も厳重だ。地上レーダーと早期警戒機の哨戒網が張られ、たいていの場合横鎮の哨戒海域に入る前に他の鎮守府や迎撃機が敵を処理してくれる。

「でも、前線では多くの艦娘が戦ってるし。私の姉妹も戦ってるのに、自分だけ平和なのもちょっと・・・」

 自分だけお客様で安全なところにいるのは、少し後ろめたいものがある。エディがそう言おうとすると、舞風が呟いた。

「でも、沈むのは怖いでしょ?」

「えっ?」

「安全を捨ててまで得るものはないよ。沈んだら何もかもおしまい。自分から幸運を後ろめたく思う必要なんてないよ・・・」

 いつもと違う舞風の態度に、エディは少し驚く。

「舞風ちゃんは・・・怖いの?」

「怖いよ。だから戦ってる。怖いものがなくなる世界のために・・・って、なーんちゃって、今が平和なら何でもいいよ。深いこと考えちゃダメダメ!」

 舞風が明るい表情を取り戻すと、エディも安心した。

「島風もあんたを隊に入れたいって言ってたし、雪も初ももう帰ってこないだろうから、時間が経てば自然とお呼びがかかるんじゃない?少なくとも私よりは適任でしょ・・・」

 陽炎が自嘲気味に言う。陽炎が外征組に入れたのは性能が有利な陽炎型だからであって、正直なところ、島風や雪風に付いて水雷戦隊をやるよりは、空母のトンボ釣りをやってる方が性に合っている。舞風もその口だ。

「でも、私もどちらかと言えば護衛向きな設計だし。魚雷もしょぼいし」

 砲戦では錬度と火器管制装置で力を見せるエディも、口径が小さいうえに速度も遅いアメリカ製魚雷のせいで水雷戦は苦手だ。

「ま、こっちに抜かれる前に山岸少佐の方が転属するかもしれないから、そうなれば部隊ごと最前線に行けるかもしれないわ。最近の混乱じゃその可能性の方が高いかもね。お互い、せいぜいがんばりましょう。じゃあね」

 そういって陽炎たちは立ち去った。ちょうど時間もいいころなので、エディも訓練所を出た。

 

 

 

 武器庫へ向かうと、リッチはすでに作業に取り掛かっていた。

「あ、エディ。来てたんだ」

 リッチはエディが入ってきたのに気づくと、出納表のデータが入っていると思われるタブレット(エディもリッチもメモはタブレット端末に取る。この頃のアメリカの学校では皆そうしているのだ)をしまって出てきた。

「どこまで終わった?」

「とりあえず砲弾と魚雷のチェックは終わったよ」

 リッチは倉庫の真ん中にある魚雷庫を指して言った。

「そんなに魚雷が気になったの?」

「駆逐艦の本能だよ。日本のや砲弾は質がいいから、つい」

「酸素魚雷とかあった?」

「あれは別管理みたい。事務室で入力したデータに、妖精の手作業で作られるから、製造法もわからず、数もそろわないって書いてあった」

「ふ―ん。いつか手に入れたいな」

「普通の魚雷も十分質がいいから、まず61㎝魚雷に積み替えてもらおうよ。武器も日本の規格にそろえた方がいいし。いずれそうせざるを得なくなるだろうからね」

 一応エディ達を貸与するにあたってアメリカから専用の装備品が送られてきたが、本格的に運用するとなると日本規格の品を使った方がいい。

「陽炎さんの連装砲に積み替えたらサムナー型風になってもいいかも」

「アメリカに帰るころには、まったく姿が変わってるかもね」

 そう思ったエディだが、すぐに自分はもうアメリカの艦じゃないことを思い出して寂しくなる。

「ねぇリッチ、わたし達また大姉ちゃんたちに会えるのかな?」

「さあ。でも、私はエディとずっと一緒にいるよ。いつまでも、ね」

 リッチは作業の手を止めて振り返ると、そう答えてみせる。しかしその表情もどこか寂しげだ。

「私がおねえちゃんだから、リッチは無理しなくていいんだよ」

 エディはそういってリッチの頭を撫でた。リッチは少しだけ元気になったようだ。二人は再び作業に戻った。

 

 

 

 倉庫整理が終わって鎮守府に戻ると、部屋の掃除がなぜか終わっていた。佐々木司令が潮にセクハラをしようとして怒った曙と喧嘩になり、両成敗で二人で掃除したそうだ。(おもに曙が)可哀そうだったので、他の第7駆逐隊も加わってかなり細かく掃除を行い、これ以上ないほど綺麗になっていた。

「わーい、掃除してくれたの?ありがとう」

 エディは曙たちにお礼を言った。

「もともとエディ達がする場所だったんなら、悪くないわね・・・く、クソ提督にも感謝してあげなさい。ほら」

 曙は掃除で痛めたのか腰をさすっている佐々木を指さして言った。

「ありがとうございます。司令官!」

「・・・ああ、よろこんでくれて儂も満足じゃ・・・いてて」

「あ、司令官。掃除終わったんですか、仕事がたまっているので早く来てください」

 大鳳が部屋に入ってきて佐々木を引きずっていった。佐々木は悲鳴を上げるが、誰も助けない。

「行っちゃったね・・・」

「言われてた仕事は終わったけど、どうしようか」

 時計は11時30分を指している。山岸はまだ帰ってこない。しばらく考えていると、漣がこう提案してきた。

「そうだ!提督にお昼作るってのはどう?きっと喜んでもらえるよ!」

「なるほど。ありがとう、漣ちゃん」

 エディたちは厨房へ向かった。

 




 後編へ続く
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